Keith Jarrett(キース・ジャレット)というピアニストをご存じの方は多いに違いない。
私のもっとも好きなジャズピアニストだ。おそらく現在、世界一のジャズピアニストだと
いっても過言ではあるまい。
それなのに、なぜもっと早く紹介しなかったかというと、その理由は彼の音楽にある。
彼の素晴らしい音楽は、きれいなピアノの音の響きの中にあるのに、そのきれいな響きを
YouTubeでようやく再現できるようになってきたからである。まだ、中にはそれほど美し
くない音のものもあるが、ひところに比べれば音質は格段に良くなってきたと思う。よう
やくKeithを紹介できる環境が整ってきたといえるだろう。
彼の活動には二つの流れがある。一つはケルン・コンサートに代表されるソロ・ピアノ
活動だ。そしてもう一つがGary Peacock(ゲーリー・ピーコック:Bass)と Jack
DeJohnette(ジャック・デジョネット:Drums)と組んで続けているピアノ・トリオでの
活動だ。ここではトリオでの活動でYouTubeにUPされているものを紹介する。トリオでは
主にジャズのスタンダードナンバーを斬新でエレガントに演奏してくれる。私はいつも、
宝石箱を覗き込むような気持ちで彼らの演奏を聴く。いや、余韻を聞くといった方がふさ
わしいかもしれない。余韻にこそ美しさが詰まっている、そんな感じの音楽なのだ。
気になる方は、どうしても気になる(?)かもしれないのが、あのアドリブの途中でKeith
の発する声だが、私の場合、Keithの素晴らしく美しいアドリブのメロディラインを耳で
追ううちに、気にならなくなった。補って余りあるとはこのようなことをいうのだろう。
Keithのアドリブについて特筆しておきたいことは、アドリブのメロディラインが長い
ことだ。なにもKeithに限ったことではないが、優れたアドリブはその長いメロディライ
ンで聴くものにスリルを味わわせてくれる。えーっ、どうやって原曲のメロディに戻る
んだろう、と思わせて、見事に数コーラスを歌いまくり、ピタッと決めるところで決め
る。アクロバティックな芸当を見せてくれるのである。それとアドリブのメロディライ
ンに「意味」があることだ。決してブロックコードの連打などに逃げ込まない。優れた
ジャズメンは「かっこいい=意味のある」メロディラインを紡ぎだすことができる。決
して「手癖」や「音階練習」のような「無意味な」ラインを聴かせることはしない。
「ピアノを弾く姿勢の悪さではKeith JarrettとClassicのGlenn Gould(グレン・グールド)
は双璧をなす。それだけで彼らが正統派でないことだけははっきりわかるが、この姿勢の
悪い二人のピアニストが、それぞれの分野で最高のピアノ弾きであるというのも皮肉で面
白い。」-岩浪洋三:CD「サンシャイン・ソング(Nude Ants)」のライナーノーツより
実は姿勢だけではない。二人ともピアノを弾きながらいわゆる「奇声」を発するのだ。
弾きながらメロディーを歌っている。ピアノとハミングしているというべきだろうか。
この点も他のピアノ弾きにはあまり見られない特異な点であろう。Glenn Gouldのゴルト
ベルク変奏曲の1981年版は始終歌いっぱなしである。ちなみに1955年版もボリュームを
上げて聞いてみると、やはりところどころでハミングが聞こえる。
優れた芸術に接したときに思うことだが、Michael Breckerの訃報の時もそうだった。
Keithについても、聴けば聴くほどに思うことだが、なぜ彼に命が一つしか許されないの
か。なにを馬鹿なことをと思われるかもしれないが、一般的に言ってジャズメンは常人
の及びもつかないほどの練習と修行を積んだ、しかも天賦の才に恵まれた人たちである。
そして崇高な芸術と美の世界に後先を顧みずわが身を捧げた人たちであり求道者である。
菩薩のような人と言っても良いのかもしれない。しかし、その命は有限である。有限で
あればこそ、その行いは尊いのかもしれないが、それだけに芸術と芸術家は、みな健気
で可憐である。その健気さと可憐さに免じて、せめてもう一つの命を与えてもらいたい
とさえ思う。などと言ってもかなうわけがないのだから、せめて良い録画や録音を後世
の者たちに残す機会の多からんことを祈ろう。
Keithの音楽をよく知らない人には、「Koeln Concert」、「Still Live」、「Whisper
Not」あたりのCDから聴かれることをお薦めする。
Keith Jarrett Standards Trio
https://www.youtube.com/watch?v=lBnwDTAoAC8
Keith Jarrett Trio - Autumn leaves
http://www.youtube.com/watch?v=io1o1Hwpo8Y
Keith Jarrett - 1985 - Standards Live - Prism
http://www.youtube.com/watch?v=FY1_fF7KS8s
Keith Jarrett Trio - On Green Dolphin Street
http://www.youtube.com/watch?v=bCSQbxzJyoU
Keith Jarrett Trio - When You Wish Upon a Star
http://www.youtube.com/watch?v=gyntl24zkZs
Keith Jarrett Trio - All of You
http://www.youtube.com/watch?v=2G3udxpjoeQ
Keith Jarrett Trio - You Don't Know What Love Is
http://www.youtube.com/watch?v=rXDYrNaa3ac
Keith Jarrett Trio - You and the Night and the Music
http://www.youtube.com/watch?v=QIEEOZDM-eM
Keith Jarrett Trio - Woody'n You
http://www.youtube.com/watch?v=Rcz4XLuafJg
Keith Jarrett Trio - When I Fall in Love
http://www.youtube.com/watch?v=tqKNcksw1u8
Keith Jarrett Trio - I Fall In love Too Easily
http://www.youtube.com/watch?v=0zJOoxYKjAU
Keith Jarrett Trio - Young and Foolish
http://www.youtube.com/watch?v=vkjyEVoAIO4
Keith Jarrett Trio - I Wish I Knew
http://www.youtube.com/watch?v=aTfLwOeJsiA
Keith Jarrett Trio - All The Things You Are
http://www.youtube.com/watch?v=SY9cTgXp74M
Keith Jarrett Trio - Smoke Gets In Your Eyes
http://www.youtube.com/watch?v=HOBmu1DNyzc
Keith Jarrett - Round About Midnight(ソロ)
https://www.youtube.com/watch?v=xPJhT7F6mXI
Keith Jarrett Trio - Whisper Not
https://www.youtube.com/watch?v=GLWsNlx39Hc
YouTube - My Funny Valentine Song Keith Jarrett Trio
https://www.youtube.com/watch?v=l-phggJG2sM
Keith Jarrett Trio - Little Girl Blue
https://www.youtube.com/watch?v=DufEeNaIlKo
Keith Jarrett - There Is No Greater Love (ソロ)
https://www.youtube.com/watch?v=uxlPOqTm9tc
Someday My Prince Will Come - Keith Jarrett
https://www.youtube.com/watch?v=Z-gKAkp5MSo
YouTube - My Funny Valentine Song Keith Jarrett Trio