前回の「マーケティング基本戦略」は、本当に大きな意味で「マーケティングとは何か?」という基礎の基礎の話でした。今回はもう少し深堀して、企業のマーケティングの実践に近づいた具体的な内容です。マーケティング戦略を練るきっかけになれば幸いです。
マーケティングの基本戦略を構成するのは、<相手:誰と取引するか><対象:何を取引するか><様式:どのように取引するか>の3つの次元です。そして、3つの基本戦略があります。
最終顧客志向(消費者志向):メーカーの販売先ではなく、最終的に製品を使用するお客様を考えること
ブランド化:製品に特別な名称を付けて、その特異性を強調すること。製品差別化、市場細分化。
流通組織化:流通との協力体制構築やコントロールすること
ここまでが前回の振り返りです。詳しくは「マーケティングの基礎の基礎」をご参照ください。
マーケティングの基本戦略の枠組みに従って、マーケティング戦略を作成していきます。企業での意思決定に至るまでの主な過程は、次の通りになります。
*市場機会の分析
*標的市場の設定
*市場目的・目標の設定
*マーケティング・ミックスの検討(Product, Price, Promotion, Place)
*マーケティング費用の分析(4Pにかかる費用)
*マーケティング戦略の決定
このプロセスは、投資とリターンのバランスが企業として最適と思われるまで、試算、検討を何回か繰り返します。そして決定されるものです。
どんなにシミュレーションしても、プロモーション効果が期待通り得られるか分からないことがあると思います。その際には、関係者が目標達成に対してやるぞ!とコミットするかが重要です。また、できるだけ数字で効果を測定できるようにして、その結果を振り返れるようにすることです。最悪なのは、「マーケティングが勝手に決めたことは、営業は知らないよ」という状態です。こうなるとたいていの場合は失敗します。
マーケティング・ミックスとは、標的市場でマーケティング目標を達成するために、企業が使用するマーケティング手段です。その主要なものが4つあり、4Pとも呼ばれます。
製品(プロダクト)
価格(プライス)
販売促進(プロモーション)
販路(プレース)
これらの基本的な方向性は、マーケティングの基本戦略に従います。マーケティング費用を使ってマーケティング・ミックスを実施して、売上を上げることが目的です。これら4つを個別に見ていきます。あなたのビジネスに当てはめてイメージすれば、何かしらの新しい発見があると思います。
マーケティングで言う「製品」とは、人間の欲求を満たすために作られたモノ、コトです。サービス、体験、消費、取得なども含む市場に提供する全てです。旅行、コンサルタントのアイディア、何かを使用する権利などもそうです。
企業は、次の3つの領域について決めなければなりません。製品属性、系列属性、系列の変化についてです。また、どのようなブランドを確立しているのか、確立させたいのかという点とも整合性を取りつつ、以下の事柄を決定する必要があります。
①製品属性
有形属性(ハード):品質水準、特徴、スタイル、ブランド名、包装など
無形属性(ソフト):ステイタス、シンボル性、ファッション性、個性表現など
②製品系列属性
広さ:提供する異種製品の数
深さ:各製品クラスの平均品目数
③製品系列の変化
新製品開発の頻度と内容
製品改良の頻度と内容
製品廃棄の頻度と内容
③はモデルチェンジのタイミングと内容です。新製品を何年おきに出すのか、マイナーチェンジのモデルをその間に投入するのか、そして廃番をするのかしないのか、という内容です。
製品を廃番するのは実際の企業には非常に重要なことです。マーケターとしては新しく作ることばかりに目が行きがちです。しかし企業が利益を出すためには、廃番品を決めて、部品や製品在庫を減らしたり、アフターサービスを軽減したり、カタログや資料を整理したりという作業は必要不可欠です。
価格については、企業は以下の3つの領域について検討する必要があります。
①製品価格:基本価格(希望小売価格、もしくはオープンプライス)と実売価格(店頭価格)
②製品系列価格構造:高級品、標準品など製品系列の品質水準別価格構成
③垂直的価格構造:流通段階別の価格、販売条件による卸価格設定
価格は企業が置かれた流通の仕組みを考慮して決定することが必要です。消費者に示す基本価格に対して、卸業者にはどのような価格設定(掛け率)、支払い条件で卸すのか、卸と小売店の双方と直接取引がある場合には、下代の設定を変えるべきか、など様々な価格の決定が関係します。
マーケターにとっては、市場価格を調査して希望上代の設定は出来ても、小売側が「製品を売りたい」と思う卸価格の設定は難しい課題です。営業部門との連携が必要です。
販売促進は、顧客への説得的な情報伝達です。5Gの時代になれば、ネットによる情報伝達量が増えるので、大きく様変わりする可能性がありますが、基本としては大きく分けて4つあります。
①広告・PR・イベント:不特定多数の顧客へ向けて一斉に情報を伝達する方法。メディアの選択とメッセージが重要。
②人的接触:セールスマン、売場担当者、販売員による顧客への説明やアピール活動
③インセンティブ:消費者向け、または業者向けの販売促進活動
④雰囲気:店舗のデザインや装飾、接客担当者の制服、態度など
人的接触は、消費者と双方向の伝達が可能です。また、対応も顧客に応じて変えられる強みがあります。これが顧客を説得するという観点では最強ですが、今後の技術革新によって、人から何かに置き換えられるのかも知れません。
プロモーションでは、色々な新しい媒体、手法がとても魅力的なので惑わされがちです。大切なことは、ターゲットとする顧客は誰か?どこにいるのか?何から情報をとるのか?という基本的なことに立ち返って考えることです。冷静になると、業者が言ってくるほどの仕掛けが不要だったり、大切な顧客にリーチするかどうか分からない仕組みだったり、大切なことが見えてくるでしょう。
どこでどのように売るか、という問題が販路の決定です。製品がターゲットとする顧客に、どのように届けるべきか、という問題です。企業にとっては、利益が稼げて売れる販路を開拓したいところです。
①広さ:取扱い小売店の業態、立地、店舗数、店舗内部の陳列スペース
②長さ:消費者に至るまでの流通の経路の長さ。卸業者が何重にも入る、直接販売など。
③統制度:小売業者、卸業者等への統制する度合い。流通系列化(例、自動車販売店はメーカーが車の種類、価格、販売方法を決めている)
④取引条件:掛け率、支払い条件。買取、委託、消化仕入れ。梱包、値札、下げ札などの物流関連など。
これ以外に、完全に自社で販売するダイレクト・マーケティングの形もあります。
貴社のマーケティング戦略を、上述の4Pのそれぞれの①~③または④に当てはめて、表にしてみると、すっきりと分かりやすくなると思います。
このようなマーケティング戦略は、企画した本人だけが理解していても効果が出ません。表に整理して、社長やマーケターはもちろん、製品企画や営業マンも含めた全員で理解の上、実際の販売に進めれば、みんなの気持ちが一つになって、成功する可能性は非常に高いと思います。
参考)「マーケティングの知識」田村正紀 日経文庫