「マーケティング」という学問は、幅広く多様で、ますます細分化されている分野です。最新のマーケティングを学び、ビジネスに活かすべきですが、マーケティングの基礎を頭の片隅に置いておくと、さらに応用が利くと思います。ここでは、メーカー視点のマーケティングの基礎の基礎についてまとめていきます。
ビジネスで使うための私なりの視点を入れて説明したいと思います。マーケティングをこれから学ぶ方には良いスタートラインだと思いますし、すでに詳しい方にとっては、マーケティングの土台を再確認するきっかけとなれば幸いです。
マーケティングの定義は色々と言われていますが、定まっているようで定まっておらず、一言で説明するのは意外に難しい概念かも知れません。
「Market」の単語の意味は、名詞で市場、動詞では市場で売りさばく、市場に出す、という意味です。これに動名詞のingを付けてMarketingとし、20世紀初頭にアメリカで誕生した言葉です。この新しい言葉が誕生した背景として、企業が市場を新しい見方で捉え、新しい関係を作り出すためのコンセプトが必要になったためです。メーカーが作れば売れる場所の「市場」から、簡単には売れなくなった「市場」の変化から、市場に対する新しいコンセプトが必要になったのでしょう。
フィリップ・コトラーは「マーケティングとは、価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて、個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的、経営的過程である。」としています。市場における人間活動であり、人のニーズとウォンツを満たすために、潜在的な交換を現実的なものとすることと考えています。
ピーター・ドラッカーは「マーケティングの究極目的はセリングを不要とすることだ」とマーケティングとセリングを対比して、マーケティングの本質を語りました。ここでのセリングとは、販売活動の事であり、売込みというアクション中心の考えであり、「今日」の活動のことです。それに対して、ここでのマーケティングとは、成長の仕組みづくりであり、創造と分析が中心の考えで、「明日(将来)」のため活動です。つまり、マーケティングが明日のために種まきを行い、セリングで収穫を行うという考え方です。マーケティングが完璧に機能すればセリングが不要というドラッカーの名言です。
両大家の言葉からも分かる通り、マーケティングを一言で表すと「企業の市場創造活動」です。また、マーケティングは製品開発から最終顧客への販売に至るまでの全ての過程に関係していることも大切なポイントです。
多様なマーケティング活動の基本枠組みを整理します。マーケティングの基本戦略を構成するのは、次の3つの要素です。
相手:誰と取引するか
対象:何を取引するか
様式:どのように取引するか
これらが、マーケティングの基本戦略を考える際の3つの次元となります。これらを意識して3つの基本戦略を説明します。
取引相手に関する基本戦略は、最終顧客(消費者)志向です。最終的なお客様のことを考えて製品を企画して作る考え方です。メーカーの販売先ではなく、最終のお客様志向です。
例えば、マーケティングを一切考えないメーカーがあったとします。このメーカーは卸業者に製品を納品し代金を回収すれば、商売は完了です。その後、製品が誰に売られ、どのように使われて、どのように思われているかなど一切気にしません。
また、消費者志向で充足しようとする欲求は、消費者自身も明確に表現できない欲求を、製品として具体化する作業も含まれます。電話が外で話せるだけで充分と思っていた人々にiPhoneを提案したAppleは、見事に新しい市場を創造したと言えるでしょう。
ブランド化とは、製品に特別な名称を付けて、その特異性を強調することです。ブランド化に成功すると価格決定権を握ることが出来ます。さらに消費者のブランド忠誠心が高まれば、メーカー側が小売側に対して強い要求を行えるようにもなります。ブランド化の方法は二つあります。
製品差別化:消費者から見て競合品との差異を作ること
市場細分化:異なる消費者欲求に市場を細分化すること
製品差別化の例として、特別な機能、他社にはない機能を加える、品質での差異、デザインやスタイル、イメージ付け、取扱店の雰囲気や特別感、などがあります。(例、ルイヴィトン、iPhone、SONY、伊勢丹、Patagonia、ナイキ、ディズニーなど)
市場細分化については、二つに切り口があります。一つはどのように市場を切るか、そしてもう一つは細分化した市場のどこにフォーカス(絞り込む)するかです。細分化する方法は、年齢、地理、性別、年収など一般的な切り口もありますし、企業独自の切り口でも良いでしょう。(例、大間のマグロ、神戸牛、メルセデスベンツ、レクサス、ビズリーチなど)
製品の差別化と市場細分化を突きつめると、一人ひとりのオーダー商品になります。企業としてどの程度の市場規模が必要なのかを検討することも、企業のマーケティング(マーケター)としては必要です。
マーケティング思考のメーカーは、消費者の動向が気になるため、できるだけ流通もコントロールしたいと思います。しかしながら、メーカーが自社で全ての流通を自前で揃え、消費者まで届けるのは非常に効率が悪くなり、その分商品開発などに投資した方がメーカーとしては良いでしょう。そのため、流通に対する戦略が重要となります。
メーカーによる卸売業者の設立、買収もありますし、自ら投資して直営店でブランドの魅力を発信しながら直接販売する手法もあります。流通業者を使う場合でも、契約条件によってコントロールすることもあります。専売、独占販売権、テリトリー制、委託販売制など様々な取引条件の活用です。
また、強力な小売業者とは、共同商品の開発、店頭売場作り、ブランドコーナー設置、販売促進キャンペーン、長期売買契約、EDIによる自動発注体制などを利用して、流通側との長期的な関係をコントロールしようとします。
マーケティングを一言でいえば「企業の市場創造活動」です。そして、必ず考えなければならないのは「誰と、何を、どのように取引するか?」ということを念頭に置いて、消費者志向、ブランド化、流通組織化についてプランニングすることです。
マーケティングは幅広い意味での「取引」を創造し組み立てることですので、企業の現場で忘れてならないのは、取引の最前線にいる営業の役割と情報です。「取引」に関する情報を豊富に持っている営業とマーケターが如何にうまく連携できるかが、ビジネス成功の鍵を握っています。
マーケターが営業を重視すると同時に、営業は販売する卸業者や小売店だけではなく、その先の消費者の動向に細心の注意を払い、マーケターとタイムリーに連携を心がけることが重要です。両者が協力して、初めてマーケティング活動が成功し、その先にブランド、新製品の成功があります。
参考)
「マーケティングの知識」田村正紀 日経文庫
「現代マーケティング(新版)」嶋口充輝・石井淳蔵 有斐閣Sシリーズ
「コトラー マーケティングマネジメント<第7版>」フィリップ・コトラー プレジデント社