組織のマネジメント(その2)
組織運営(リーダーシップ、経営理念、組織文化)について
組織運営(リーダーシップ、経営理念、組織文化)について
「企業は環境の中で生きている生き物」としての環境のマネジメントを説明しました。環境のマネジメントは、企業の対外的なマネジメントでした。今回は、前回に続き組織のマネジメントについて説明したいと思います。少しでもご参考になれば幸いです。
環境のマネジメント
どの市場で戦うか?
市場の選択(商品・サービス、バリューチェーン、地域、国など)
複数の事業(多角化、事業の組み合わせ、余剰資源の活用)
資源配分(人モノ金の配分、適正配置)
競争戦略
競合他社(市場と顧客とライバル)
ビジネスシステム(事業の仕組み)
差別化と優位性(見える資産、見えない資産)
組織のマネジメント
組織構造
組織の形(機能別、事業部、マトリクス、フラット)
組織の連携(本社、支社、販社、子会社、部、課、係)
組織の配分(人モノ金)
組織運営
リーダーシップ
経営理念と組織文化
ビジョン、目的、目標
人事管理
給料とボーナス(インセンティブ)
人事評価制度(インセンティブ・システム)
人材教育
今回は、組織のマネジメント(その2)です。その1では、分業をどのように行うのか(組織構造)についてお伝えしました。今回は、その組織をどのように運営するのか(組織運営)についてまとめます。組織で働く人が自立してイキイキと働きながら、なおかつ企業として結果を出すためにの組織運営について考えてみます。
社長というリーダーが集団内でリーダーシップを発揮して組織をまとめ、固有の組織文化を形成する。その過程でリーダーは働く人を前向きに、同じ方向へ導くために、ビジョンや目的、目標を設定していきます。この「組織運営」では、この順にまとめたいと思います。
リーダーシップとは、組織全体あるいは組織の中の様々な部門や集団のリーダーが発揮する機能、果たす役割です。ここではリーダーの資質ではなく、行動面に着目していきたいと思います。
リーダーシップを発揮するという事は、その集団に対して
①基本的な任務、役割、目標を設定すること
②価値観、行動規範、ルールを設定すること
③仕事の仕方、目標達成の方法を指示すること
④働く人の動機づけ、やる気を起こすこと
⑤集団と個々の仕事に対する評価し対応すること
⑥集団を代表すること
が挙げられます。
⑥の集団を代表することは、組織や集団の代表として、会議に参加したり、責任者としての責任や行動を取るといった機能です。社長ならば株主や社会に対して会社代表として行動することです。
リーダーシップの機能で述べた行動には、二律背反のジレンマが避けられません。皆さんも経験があると思いますが、どこでバランスを取るのか熟考する必要があります。簡単にジレンマについてまとめます。
目標設定にかんするジレンマ(例)
*目標を具体的にするほど、働く人は行動しやすい。しかし、創造性を失うリスクを伴う。
*多数ある目的の中からどれを選ぶか。重要な一つに絞れば行動しやすいが、他は放置されてしまう、という問題。
*目標の挑戦性と実現可能性のジレンマ。高すぎる目標はやる気を損なうが、低すぎる目標は何も生まない。
*リーダーが決めるか、参加者が決めるか。参加者が決めれば目標達成の意欲が湧くが、目標が低くなる可能性がある。また現場目線だけでは、トップから見た経営課題から外れる可能性もある。
*継続性と柔軟性のジレンマ:目標が達成できないと分かったら、直ぐに修正するのか?維持するのか?柔軟性と継続性のジレンマ。
以上、目標設定に関するジレンマですが、価値観と行動規範の設定の際にも、ほぼ同様のジレンマが生じます。
目標設定以外では、働く人の動機づけでは、誰を動機づけるか?という難しい課題があります。落ちこぼれを救うのか、良い成績を出している人にさらにやる気になってもらうべきなのか?どうすることが組織全体のパフォーマンスを上げるのか、非常に難しい課題です。このジレンマは、働く個人を評価する際も同様です。
また、集団を代表するのもリーダーの重要な役割ですが、この際にはその集団と外部のどちらを優先するか、というジレンマが発生します。外部との良好な関係は築くために内部を犠牲にすることがあるかも知れません。例えば、製造部門のリーダーが、営業部門と折り合うために無理な生産計画を引き受けてしまう、などです。
多種多様なジレンマの解消こそが、まさにリーダーシップを発揮する場となり、リーダーとしての真価を問われる場です。しかし残念ながら経営学では、ジレンマの解消はどうすれば良いという明確な回答はありません。様々な状況の違い、複雑に絡み合う要因があるからです。
私がアドバイスできる現実的な対処としては、先ず「何と何が対立しているのか?」を把握することです。そして、長期的な戦略も頭の片隅に置きつつ、今この状況では何を優先するか、と冷静に考えるしかないと思います。そして、みんなのモチベーションを上げることが出来るかどうかでしょう。
最初は一人で会社を興したとしても、徐々に人を雇うようになり、会社が大きくなると、リーダーの日々の言動によってその会社の「色」がついてきます。
経営学では、制度やルールなどでシステム的にマネジメントするハードな面と、組織にいる生身の人間を意識した文化や理念によるソフトな組織のマネジメントに分けて考えます。ソフトな面では、経営理念と組織文化を重要視しています。組織目的を作るのが経営理念、組織目的と組織のくせを体現し象徴しているのが組織文化とされています。この組織文化がまさに、経営者によるその会社につけた色と言えます。
経営理念が提供するものは、企業は何のために存在するのかという組織の理念的目的と、経営のやり方と人々の行動についての基本的な考え方と規範です。つまり、組織の価値観です。なぜ組織の価値観が重要であるか。
①働く人々が理念的なインセンティブを欲するから
②人々の行動や判断の際の指針を与えてくれるから
③価値観がコミュニケーションのベースを提供するから
人は、人生の大部分の時間を費やす仕事に意味や価値を見出したいという本能があります。そして組織の価値観が土台となれば、いちいち社長に聞きに行かなくても、「うちの会社はこういう考え方なんです」という具合に働く人が判断できるようになります。
経営理念の確立にどのような意味を持ったのか、松下幸之助氏いわく「一言にいえば、経営に魂が入ったと言ってもいいような状態になったわけである。そして、それからは、我ながら驚くほど事業は急速に発展したのである」
社長室に額に入った経営理念が飾られることが多いが、社員は一向に気にしない、ということも多い。その価値観が本当に組織文化の一部になったときに、経営理念が根付くと言われています。
組織文化とは、企業文化、組織風土や社風と言われるものです。組織のメンバーが共有する、ものの考え方、見方、感じ方のことです。別の言葉では、価値観、世界観、行動規範が混ぜ合わさったものが組織文化です。日本人が日本の文化として共有しているものがありますが、この企業版が組織文化です。
組織文化を共有することで、働く人のモチベーションが上がり、判断の基準を持つことができ、同じ価値観でコミュニケーションが取れ、何を学ぶべきか明確になり学習活動を促すなど多くのメリットがあります。
ただし、組織文化の悪い面もあります。
例えば、企業が変わらなければならない時に、組織文化が足かせとなることがあります。組織文化によって、働く人の考え方が皆同じようだと、斬新なアイディアが潰されてしまいます。新規事業の芽を摘むかもしれません。また「組織を守ろう」という意識が強くなり過ぎて、時代に合わせた変化が出来なくなる場合もあります。このような組織文化の逆機能には、経営者は気を付ける必要があります。
経営者やリーダーが、経営理念を掲げ、日々の行動により組織文化を作り上げていきますが、それだけでは足りません。働く人の日々の行動目標がないと、人はだらだらと気ままに行動することになってしまうからです。企業としての具体的な目的と目標が必要になってきます。
経営理念は、企業の存在価値を示すものでしたが、その上でリーダーが変革の道を指し示すのがビジョンです。長期的な目的や目標になります。経営理念は、ほとんど変えることはないと思いますが、ビジョンはリーダーが変わったり、時代の流れが変わった時には作りかえる必要があります。
リーダーが将来に関する夢のある大きな絵(ビジョン)を、人々に示して行動を促すことが、リーダーシップを発揮する、ということです。