組織のマネジメント(その1)
組織構造(組織の形、連携、配分)について
組織構造(組織の形、連携、配分)について
「企業は環境の中で生きている生き物」としての環境のマネジメントに続いて、組織のマネジメント、つまり企業内部のマネジメントについて説明をしたいと思います。少しでもご参考になれば幸いです。
環境のマネジメント
どの市場で戦うか?
市場の選択(商品・サービス、バリューチェーン、地域、国など)
複数の事業(多角化、事業の組み合わせ、余剰資源の活用)
資源配分(人モノ金の配分、適正配置)
競争戦略
競合他社(市場と顧客とライバル)
ビジネスシステム(事業の仕組み)
差別化と優位性(見える資産、見えない資産)
組織のマネジメント
組織構造
組織の形(機能別、事業部、マトリクス、フラット)
組織の連携(本社、支社、販社、子会社、部、課、係)
組織の配分(人モノ金)
組織運営
リーダーシップ
経営理念と組織文化
ビジョン、目的、目標
人事管理
給料とボーナス(インセンティブ)
人事評価制度(インセンティブ・システム)
人材教育
個人事業の状態から人を雇うようになれば、その人と分業することで、より大きなビジネスができます。反面、一人の時にはない課題が発生します。人は誰しも自分の分身ではありませんから、自分と同じようには動けません。分業を成功させるためには、従業員に仕事の段取りを教えたり、報告のルールを決めたり、気持ちよく働いてもらうために雇用条件を整えたりと、人にかかわる事柄が色々と増えてきます。一人から組織に変わり、組織をやりくりする、マネジメントが必要になってきます。
さらに最近重視される点として、トップに立つ人は組織として結果を出すために、部下を縛り付ける、という発想から、自立してイキイキと働いてもらう、という考え方です。
このように考えていくと、組織のマネジメントの本質的な問題は、人モノ金の「人」にあると言えそうです。
分業をどのように行うのか(組織構造)、その組織をどのように運営するのか(組織運営)、そして組織の本質的な問題である「人」の人事管理に分けて整理したいと思います。
分業の形によって組織の構造(組織の形)が決まってきます。その際に考える視点として
①仕事の種類、役割分担:どのような仕事をまとめるか?
②情報の内容と統合方法:経営トップまでどのように情報をまとめて吸い上げる形が良いか?
③集団の規模と性格:一つの組織の大きさやメンバー構成をどうするか?
を最低チェックすると良いと思います。
①仕事の種類や同じ役割の人たちで一つのチームを作れば良いですが、一つのチームが大きくなり過ぎると、チーム内での相互作用がなくなってしまいます。チームが大きくなり過ぎて「隣の人が何をしているか分からなくなった。まあ、でも関係ないや」という状態です。理想的には、全員の人となりが分かる規模で、チームに愛着を抱き、メンバーが個人の思いを話し合ったり、ノウハウを共有したりして、刺激し合ってレベルアップする状態です。
チームがたくさんあり過ぎても、上の人は情報をまとめきれなくなってしまいます。かと言って、少しのチームを束ねて、また上の階層を作り、また階層を作り、と組織の階層を作り過ぎても、トップに情報が届くまで遠くなり、スピードと新鮮さ、そして正確さが損なわれる危険があります。このような情報の内容とまとめ方の視点が②になります。また、情報の取りまとめと権限との関係も含まれます。情報をあるレベルまで取りまとめた人の集まりとして、例えば課長以上の会議、部長会、役員会議などがあると思います。
③集団の規模と性格は、適正な人数と構成員を考えることです。一人で指導したり管理したりできる人数は限りがあります。そしてどのような人たちを集めると効率良く仕事ができるのか、という視点です。隣にすると喧嘩するような人たちを集めると大変ですよね。
以前と比較すれば、情報技術が進み、フラット型の組織を作りやすくなっていますが、それでも社長一人で何十人、何百人と管理して、すべての案件を決裁して、全員を個別に指導をしていくことは、物理的に不可能でしょう。そのためにも組織構造を考える必要があります。
職能別組織とは、製造、経理、営業部門など職能別に分かれた組織のことです。事業部制は、製造から営業まで作ってから売るまでを商品グループや事業別に縦にまとめた組織です。
メリットとデメリット
*専門性(スキル、ノウハウなど)を高めやすいのは、職能別組織
*商品や事業ごとの損益を管理しやすいのは、事業部制
*部門間で衝突が起きやすいのは、職能性組織(カリスマ経営者なら解決可能)
*組織が大きく非効率になりやすいのは、事業部制(会社の規模で解決可能)
となります。3番目の衝突の例ですが、製造部門が品質優先で納期を遅らせる、と言った場合、営業部門が納期優先を主張すると、なかなか話がまとまらないでしょう。これが職能別組織の衝突例です。
私の経験では、ある程度の規模がある会社ならば、経営目標を設置して組織を同じ方向を向かせる場合、事業部制の方がやりやすいと思っています。目標が明確で部門間の争いがあっても、事業部としての売上利益を示すことで協力体制が作れるからです。
職能別と事業部制以外にも、マトリックス型やフラット型組織があります。
職能を横、事業部を縦とした時に、縦横の権限関係の二元的な管理をするのがマトリックス組織です。B事業部で営業部(B事業部長と営業部長へレポート)という形があります。また外資系企業では、ブランド本社とジャパン社の双方から指示が来て、双方へレポートするというマトリックスもあります。(本社と支社の関係でもあると思います)
フラット型は、トップ以下のメンバーは横並びにして階層構造を作らない形です。日本の企業もITの進歩により、かつての班、係、課、部、事業部の多数の階層構造から、階層を減らしてチーム、部、事業部だけに減らすなどフラット化へ進んでいると思います。
職能別、事業部制という組織の形以外にも、地理が大きく影響を与えます。離れた場所に組織が分散すると、1か所に集まる組織と比べて、組織の連携方法に気を配る必要があります。
会社の規模が大きくなると、もしくは大きくするために、現在の場所から離れた場所に出店する戦略は当然あるでしょう。最近問題になるのは、経費削減のために、地方の支店から撤退して本社に集約する動きです。その際に検討しなければならないのは
A)本社からの出張経費と販社・支社設置の運営コスト
B)顧客サービスの質とスピード、そしてコスト
Aは、例えば東京に本社を置いて出張で日本全国を営業が回るのか、それとも主要都市に支社や販社を設置する方が効率的か、という課題です。社内的なコストの問題です。Bは、地方にいる顧客へのサービスの質とスピードについての検討です。事務所を何か所も設置すればコストはかかり、人も多く必要です。機能的に考えれば一か所にまとめた方がレベルは上がります。しかし、お客さんのもとへすぐ行けるか、出張のコストと効率はどうか、など総合的に検討して欲しい課題です。
さらに全く異なる視点としては、働く人にポジションを与えるための子会社、支店を持つ、ということもあります。本社で出世する人数に限りがあれば、「せめて子会社の社長にしてあげたい。。」という社長の気持ちもあるかも知れません。
いずれにせよ、組織を分散化し、階層を増やせば、情報の鮮度が落ちていきます。そして、組織の動きが遅くなります。
地理的に分散した組織を、現場の責任者がまとめる場合に、本社のどの部署の誰と連携するのか、明確に決めないといけません。逆に、出先の現場単位で管理しない場合には、本社から誰がどのように管理するのか、という課題です。
組織間の連携を考える際に重要な視点は、いかにして正確な情報を迅速にトップまで流すか、また逆にトップの情報を現場まで落とし込むかです。これが経営の鍵ですので、情報の流れという観点で組織の連携を作り上げてください。
組織の形、組織の連携方法、そして残るは経営資源の配分です。経営資源とは、簡単にまとめると「人モノ金」と言えます。どの組織にどれくらいの経営資源を投入するかは、まさに経営判断で難しい課題です。一つの視点として、
現在の経営資源の配分で、組織の実力を十分に発揮できるか?そして、市場競争に勝てるのか?
です。練り上げた戦略で、組織を組立てても、組織の力を発揮できる経営資源がなければ実力を発揮できません。(人が足らない、設備が足らない、費用が足らない等)
見落としがちなのは、形に見えない、働く人のモチベーションが上がるような仕組みです。これがないと、器が立派でも、競争には勝てないでしょう。
組織の中で最も難しいのは人の配置です。人の集団として組織には次の3つの問題にかかわります。
適材適所:人と仕事のマッチング、意思決定の質への影響=>情報の相互作用の場
人材形成:配置された場所で知識や技術を蓄積し人材形成=>学習の場
インフォーマルグループ:職場での人間関係により絆が生まれる=>感情のからみあいの場
適材適所は、人事が最も悩む課題でしょう。理由は、人の能力は定量的な判断が難しいこと、適切な要件を備えている人材は多くないこと、人の能力や性格は仕事によって変化する場合があることなどです。今はその仕事が出来なくても本人が希望していてやる気ならば、任せることによって成功することがあります。二つ目の人材形成にもつながります。
三つ目のインフォーマルグループは、悪い意味での派閥の形成、良い意味での人の感情的なつながりが生まれて、職場が変わってもそのコネクションが活用されて仕事がスムーズに進むなどの人間関係のことです。日本の会社では大切な面だと思います。
上の3つの問題はからみあい、しかも何をやっても定量的に数字で測ることは出来ませんので、最後は経営者の判断(勘)でエイヤー、と決めて見守る必要があると思います。
最後に、組織のマネジメントで悩ましい二律背反(トレードオフ)の関係を紹介します。
4つのトレードオフ
①機能と管理
②分化と統合
③調和とコンフリクト
④戦略と効率
この4つのトレードオフとは「こちらを取ると、あちらが立たない」という状態で、どれくらいのバランスに落ち着けるかという問題です。
①「機能と管理」は、職能別組織を採るのか、損益が把握しやすい事業部制を採るのか?部門の機能、スキル、知識を向上させるなら職能別組織、数字で管理するなら事業部制が有利だと考えます。
②分化と統合は、組織の塊の大きさをどれくらいにするかです。大きい場合、小さい場合のメリット、デメリットがあります。
③「調和とコンフリクト」ですが、コンフリクトとは部門間の衝突のことです。仲良しグループも良いですが、レベルアップのためには切磋琢磨できるような多少の対立関係も必要です。
④「戦略と効率」は、長期的な目的を含む戦略と、目先の効率が、時として背反することがあります。
以上の4項目に絶対的な正解はありません。企業の状況を踏まえてバランスを取るしかありません。また、変革を起こすためには、組織に刺激を与えるために、やや過剰に変化させるのも時には必要でしょう。そこで起きる混乱から、新しい革新が生まれる可能性があるからです。
組織の悪い面、デメリットについて解説します!