人間の欲求を段階的に分けて、分かりやすくまとめたのがマズローの欲求説です。その最高ランクとも言う最上位の欲求が「自己実現」欲求です。ご存じの方も多いのではないでしょうか。
自己実現した人を見たことがありますか?
アブラハム・マズローは研究対象の自己実現者として60名ほどを選びました。アインシュタイン、シュバイツァー、リンカーン、トマス・モア、トマス・ジェファーソン、エリノア・ルーズベルト、ジェーン・アダムズ、スピノザ、シュンペンター、ベンジャミン・フランクリン、ジョージ・ワシントンなどなど。日本人では禅を広めた鈴木大拙が選ばれています。
一度自己実現した人にお目にかかりたいですが、ここに挙がっている皆さんは故人です。会いたくても会えません。
自己実現と言われても、何となくピンとこないのは私だけでしょうか?この何となく分かったような、でも分からないような「自己実現」について、気になったので調べてみました。
「自己実現」という言葉自体は、心理学者で脳科学者であったクルト・ゴールドシュタインが初めて作った言葉でした。そして、アブラハム・マズローによると、自己実現とは
「人が潜在的に持っているものを開花させて、自分がなりうるすべてのものとなること」
と定義しました。他の4つの欲求を満たしていたとしても、自分に適していることをしていない限り、新しい不満が生じてくるものだ、とマズローは考えました。また著書『人間性の心理学』の中では次のように述べています。
「自分自身、最高に平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、詩人は詩を書いてなければならない。
ひとは、自分がなりうるものにならなければならない。
人は、自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を、自己実現の欲求と呼ぶことが出来るあろう。」
つまり、自分の才能を最大限に発揮すること、道を究めることが、自己実現のようです。ただ普通の会社員だとどうするのか?芸術家ではない会社の社長はどうするのか?まだ、ちょっとピンとこないので、さらに調べてみました。
マズローは『人間性の心理学』で、60名ほどの自己実現者を選び、研究した結果、彼らに共通する15の特徴をまとめました。アインシュタイン、シュバイツァー、リンカーン、トマス・モアなど、日本人では禅を広めた鈴木大拙が選ばれています。自己実現者は、これら全てを備えていなくても良いそうですが、いくつかは共通して持っている特徴とのことです。
最も重視する特徴が「無邪気な目」を持った人です。他人を正しく判断する能力で、不正などを即座に見抜く能力です。
どんな人もあるがままに自然体で受け容れることができます。
自然に、自らが動くことが出来ます。
何をすべきかという課題に集中します。ドラッカーの言う「自身のミッション」を理解し、それに従って生きる人です。
孤独を好む人が多いようです。それ故、時として誤解を生むこともあるようです。
周囲の環境の影響を受けにくい人。自分の内面の成長を重視しています。
一般の人々以上に、新鮮さ、驚きを感じられる心を持っています。
自己実現者は、「至高経験」Peak Experienceを多くの場合経験している。至高経験とは、宗教とは無関係で、例えば最も幸福な瞬間、恍惚、歓喜、至福や最高の喜びの経験を総括したものです。
心理学者アルフレッド・アドラーが指摘した「共同社会感情(共同体感覚)」を強く持つ。全体の一部であり、全体とともに生きている実感を持ちます。
少数ですが、深い人間関係を築きます。
階級、教育、政治信念、人種にかかわらず、誰とでも親しくできる。
正邪、善悪を区別する倫理観を持ち、手段と目的を区別して目的を重視します。
よくある優越感や権威に対するユーモアではなく、諺や寓話のような蘊蓄のあるユーモアのセンスを持ちます。
マズローが重視したのが創造性です。自己実現者は例外なく特殊な創造性、独創性を持つとのこと。子供の時に創造性を持っていても、社会化される中で失われるのが普通です。これを持ち続けるのか、もしくはその能力を回復させるのが自己実現者。回復して獲得した場合には「第二の純真さ」と呼びました。マズローは、創造性と自己実現はほぼ同じ意味と考えていたようです。
自己実現者は、社会の法則ではなく、自身の法則に支配されている点で超越的です。
このようにマズローは、現象学的手法の学者のため、特徴を列記しました。そのため体系化とは無縁と言われており、全体としてはまとまりがないようにも思えますが、何となく自己実現者がどのような人物であるか、姿が見えてきたでしょうか?
私には、山の中に住む仙人、それも人が来ると楽しく歓迎してくれるようなユーモアのある亀仙人??
自己実現者の共通的に見られる15の特徴を列記しましたが、ここでは自己実現者が追求するという「B価値」を説明します。
B価値とは、Being(存在)価値(略してB価値)
のことです。自己実現者の特徴に、手段ではなく目的を重視する点がありました。つまり彼らが追求する本質的な価値を「B価値」としてまとめたのです。
真、善、美、全、生気、独自性、完全、完結、正義、簡素、豊かさ、無努力、遊戯性、自足性
以上の14がB価値としています。
これらは互いに説明しあうことが出来ます。例えば「真は善であり美である」のようにです。つまり、B価値とは、これらの言葉の総体で表される何かしらの価値や価値観のことで、一言でズバッといえない概念と私は理解しています。そして、自己実現者は、このB価値の追求者であるとも言えます。
B価値の追求は、彼らのミッションとなり、そのための手段が仕事となります。著書『人間性の最高価値』 では次のように述べています。
『仕事は、究極的価値の運搬者、道具、もしくは化身になっているようである。
彼らにとっては、たとえば法律の仕事は、正義と言う目的のための手段であって、目的そのものではない。』
言葉を変えると、違う仕事であっても、その目指す価値(この例では正義)の実現を行うことが本質的に重要なのですから、例えば警察官という職業による手段でも構わない、という理解になると思います。
このB価値を考えていて、ホリエモン、メンタリストDaigo、斎藤一人という人たちの顔が浮かんできました。皆さんは、自己実現のイメージがつかめてきましたか?
どのような自己実現を目指すかは、もちろん人それぞれです。
マズローは、残念ながら自己実現は実際にはほとんど起こらず、大人の人口の1%くらいではないか述べています。その大きな原因が「ヨナ・コンプレックス」と考えました。
ヨナとは、旧約聖書に登場するユダヤの預言者です。ヨナは、神からある使命を受けますが、命令を拒否して自分の宿命から逃げます。しかし結局は逃げきれず、神による使命に従事せざるを得なくなります。
ヨナは、自分の能力を最大限に活かす努力もせずに、本来伸ばすべき潜在能力を伸ばすこともせず、使命=ミッションから逃げようとしました。マズローの言う「ヨナ・コンプレックス」とは、運命からの逃避、自己の最善の能力からの逃避、そして自己の偉大さを恐れる傾向があることです。マズローの言葉で次のようなものがあります。
『もし、あなたが故意に、自分の能力以下のものになろうとしているなら、私はあなたに警告する。
生涯、底知れぬ不幸を背負うことになる、と。
あなたは、自分自身の能力と可能性をつぶしてしまうことになるだろう。』
自己実現を邪魔するものは、このヨナ・コンプレックスが大きいのです。だから、自分自身の能力を信じて、毎日一歩ずつ成長を積み重ねることが、自己実現につながるのです。著書『人間性の最高価値』では、自己実現に至るための方法論を述べています。
「『働きぬくこと』が、ここでもまた私の考える解答であろう。
私の知る限り、これが、われわれの最高の力を認める最善の道であり、
また、いかほど、偉大さ、善なるもの、英知、才能の要因を隠したり、回避したりしてきたとしても、
これを受け容れる最高の道である。」
自己実現したら良いな、と思いますが、私たちは、最悪のものと同じように最上のものに対しても恐れを抱く傾向があるようです。「あんなことは、私には無理!」みたいな感覚です。これが、ヨナ・コンプレックスです。
マズローを学んで思うことは、自分の能力を信じて、やりたいことに懸命にチャレンジすべき!ということです。
自分の潜在能力なんて、誰にも分かりません。だから、自分がどこまでできるか分からなくても、とにかく自分の道を突き進む、これしかないのではないかと思うのです。
参考)中野明「マズロー心理学 人間性心理学の源流を求めて」アルテ社
経営学の中で、モチベーション理論で必ず学ぶマズロー。企業研修などでも、欲求階層説はよく出てくると思います。
「完全なる経営」という著書もあり、経営学と親しみのある心理学ですので、一度学ばれてはいかがでしょうか。
「自己実現」という言葉は、多くの方がご存知だと思います。
では、一体「自己実現」とは何でしょうか?
あなたは、自己実現した人を見たことがあるでしょうか?
この謎だらけの自己実現を、『スラムダンク』を使って分かりやすく解説する講座です。
直ぐに使える気持ちの持ち方、考え方などもありますので、是非ご覧ください。
ちょっとやる気のない時に、ぴったりの内容です!
一般的に言われる、人の欲求を5段階に分けた有名な説です。下位の欲求を満たすと上位の欲求を求める、と段階的に説明したもので、科学的に立証されているものではありませんが、直感的にわかりやすい理論です。
生理的欲求=>安全欲求=>愛情欲求=>尊厳欲求=>自己実現欲求
生理的欲求の一つである飢えが満たされると、次は安全なところに住みたい(安全欲求)。そして誰かに愛されたい、愛したい。さらにその上には「尊厳」欲求があります。自分の重要性のような尊厳の内発的なものと、社会からの認知のような外発的な尊厳を満たしたいという欲求です。そして自分は何が出来るのか、というような「自己実現」へと続いていき、欲求は死ぬまで尽きることはありません。
ちなみに、一般的に言われている「マズローの欲求五段階説」は、実はマズローが5つにまとめたのではないのです。
彼の死後、有名な三角形の図(これも彼が作ったのではありません)とともに、分かりやすい形となって一般に広がったようです。