競争戦略論Ⅰ
『移動障壁』による競争力の創出
『移動障壁』による競争力の創出
ここでは、競争戦略を移動障壁による競争力の創出という視点でまとめてみました。この考え方が、お仕事の中で少しでもお役に立てれば幸いです。
競争戦略は、ある市場の中で競争相手との戦いを導く基本方針のことです。そして、競争戦略の本質は、非競争的な状態を目指すことです。
パラドックスのようで分かりにくいかも知れませんが、考えてみてください。競争相手が多い場合と少ない場合、極端には競争相手が居ない場合、どちらが競争は楽でしょうか?競争相手は少ない方ですよね。
経済学のいう「完全競争」になれば、結果的には、全ての事業者が特別な利潤を上げることは出来ないレベルまで価格が下がります。企業としては意味がない状態です。その状態から遠ざかるにつれて、つまり「独占」状態へ向うにつれ、特別な利潤を上げることができるようになります。つまり
競争戦略の本質は、非競争的な状態を目指すこと
なのです。
ただし、気を付ける点は競争する市場の定義です。どこで誰と戦っているのか?を考え直す必要があるかも知れません。
多くの場合、はっきりとした「市場」があるように思っていますが、実は明確な境界はありません。人々の欲望に対応していった結果のまとまりが「市場」と認知されているだけだからです。
例えば、「早く移動したい」という欲望に対して、鉄道、車、航空、自転車、バイク、、、などと色々な市場が発展して、人間の欲望を満たしてきました。人間の欲望を満たすための同様な商品群によって「市場」を形成していますが、実は欲望を満たせるものならば全く違うもので良いのです。逆に言えば、競争相手とは思っていない会社に、突然市場を奪われるという可能性もあるのです。
自分が強みを活かして戦う市場はどこか?を広い視野で考えること
も忘れないようにしてください。
戦うべき「商品市場」が明確になりましたら、競争戦略を練るうえで、次の2点はおさえるようにしてください。
a) 競争者の対抗策に十分配慮しながら、メリハリの利いた統一の取れた行動を取ること(持続的な差別優位の確保)
b) 市場環境の変化に対応して戦略を切り替えること(商品のライフサイクルに対応する)
a)では、競争相手を減らすよう新しく土俵に入ってくる者を拒むという考え方です。他社に対して優位な状況を作り出すために、ここでは「移動障壁」という考え方を用います。
b)は、商品のライフサイクルに応じて戦略を切り替えて、適切な対応をするという考え方になります。詳細は「競争戦略論Ⅱ」で説明したいと思います。
移動障壁とは、戦略グループ間に存在する参入障壁のこと
戦略グループとは、同じ商品を販売している市場の中でも、いくつかの戦略のタイプで分けたグループのことを言います。
Tシャツで考えてみましょう。PBのTシャツを企画生産販売しているグループと、Tシャツをブランドから仕入れて販売しているグループがありますが、二つのグループでは企業の戦略が全く異なります。同じTシャツという商品市場ですが、企業の戦略、戦い方のレベルが全く異なりますので、戦略でグループを作るという考え方です。
そして、参入障壁とは、業界の既存の競争者がその業界への新規参入者に対して持つ優位性の事です。
ビジネスの現場で考えるべきことは、「Tシャツという商品市場」で考えていた時には見えなかった移動障壁が隠れていたことに気づけることです。商品だけで市場を捉えて、異なる戦略グループのある会社を競争相手と考えて行動を起こすと、見えていなかった問題にぶつかり痛い目に遭う可能性があります。
次に、典型的な移動障壁について説明します。
製品ラインの幅によって移動障壁が作られます。幅広い製品ラインを持つ企業のメリットとして
市場の幅広い顧客を獲得できる
顧客のニーズの変化に対応できる(アップグレードなど)
流通、広告、サービス等で規模の利益を得られる
部品共通化などによる生産コストが下げられる
などがあります。
垂直統合とは、商品企画、研究開発、生産、流通、販売といった一連の垂直的な関連した機能の、統合を進めることです。この垂直統合の程度が大きければ、程度の小さな企業に対して障壁を作ることが出来ます。垂直統合の程度が大きい企業のメリットとして3点あります。
a) 原料調達、生産、物流、卸、小売りなどの機能を同期化することによるコスト削減
例えば、販売計画と生産計画がぴったりと同期されていれば、余分な在庫の滞留、無駄な時間の消費を減らせるため、キャッシュフローが改善するなどの効果があります。
b)「価格圧搾」の機会が生まれる
「価格圧搾」 とは, 支配的地位を占める事業者が価格差別を行使する ことによって最終製品市場の競争状態に影響を与え, 市場構造に一定の 影響を及ぼすような価格操作をいう。 (参考:神戸学院法学第38巻1号 http://www.law-kobegakuin.jp/~jura/law/files/38-1-04.pdf )
つまり、垂直統合している企業は、コスト競争で有利なため、商品価格の決定権を握ることが出来ます。これによって障壁を作れるという考えです。
c) 技術を習得する利点がある
川上から川下まで統合しているので技術を習得しやすくなります。例えば、営業マンにとっては、企業内に原料や設計部門があり、それらについて学ぶ機会があれば、単に製品を売るだけの営業マンとの知識の違いは大きいです。また人事異動を部門間で行っていれば技術やノウハウが企業内に広がり、他社との差別化要因になります。
他の戦略グループへ参入を試みる際に、自社の持っている組織や戦略自体が壁となってしまうケースです。
例えば、短期的な利益を志向する企業が、長期的な視点で研究開発を行う企業と競争を行っても、商品レベルでは勝ち目はないでしょう。また、小売り企業がPBで成功したからと言って、老舗ブランドへ真っ向勝負をしかけても、うまくいかないでしょう。両社はマーケティング活動などが根本的に違うところで成功を収めてきたからです。
せっかくここまで読んでいただきましたので、今回の競争戦略の学びを、ビジネスで活かして頂きたいと思います。競争戦略を考える上で、私の考えるお勧めポイント
①「商品」市場を広く考えること。人の欲望レベルを満たすという目線で考えてみると新しい気づきはないでしょうか?
②今まで勝てないと思っていた競争相手は、同じ「戦略グループ」にいますか?もし違う土俵であれば競争相手として相応しくないかも知れません。
③戦略グループを「製品ラインの幅」横軸と「垂直統合の程度」縦軸として、あなたの会社とライバル会社を図にしてください。何か見えてくることがないでしょうか?
以上、3点を考えてみてはいかがでしょうか?戦略を練る上できっと役に立つはずです。
(参考)
『経営戦略論<新版>』石井淳蔵・奥村昭博・加護野忠男・野中郁次郎 有斐閣
『ゼミナール経営学入門』加護野忠男・伊丹敬之 日本経済新聞社
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