「完全なる経営」
A.H.マズロー著、金井壽宏監訳、大川修二訳、日本経済新聞社
A.H.マズロー著、金井壽宏監訳、大川修二訳、日本経済新聞社
マズローが唯一経営についてまとめた著書「完全なる経営」(MASLOW ON MANAGEMENT)ですが、500ページ以上の難解な書です。この本の監訳者である金井壽宏先生が解説として分かりやすくまとめています。ここでは、さらにその中のエッセンスをご紹介します。
マズローは1954年47歳の時『人間性の心理学』を著し(1970年第二版上梓)、1965年57歳の時に『完全なる経営』を出版した。(マズローは62歳で亡くなっている)
完全なる人間、完全なる社会を探求してきたマズローは、1962年に会社という世界にふれ、完全なる経営(ユーサイキアン・マネジメント)という考えにたどり着く。ユーサイキアンとは、彼の造語で、自己実現人を生み出し、自己実現人が創り出していく文明、あるいは実現しうる理想郷を表す言葉。また、精神的・心理的に健全な方向への前進、あるいは健全なマネジメントという意味の言葉である。
このマズローの『完全なる経営』によって、日本の会社が健全な経営を取り戻し、働く一人ひとりが元気や充実感を取り戻す一助になればと考える。
マズローの欲求階層説と言えば、有名なピラミッド(三角形)の図であるが、実はマズロー自身が書いたものではない(と思われる)。しかし、真意が伝わらないとは言え、説明には便利であるので使用することもあるが、やはり注意が必要である。
マズローの欲求階層説は、以下の仮説群から成り立っている。
【仮説1】欲求は満たされると欲求ではなくなる。(満たされない欲求によって動機づけられる)
【仮説2】低次(基本的)な欲求が満たされて、はじめてより高次の欲求が出現してくる。
【仮説3】承認と自尊心の欲求までは、欠乏欲求(D欲求)であるのに対し、自己実現は一人ひとりの人間のかけがいのない存在(being)そのものにかかわる欲求(B欲求)である。
【仮説4】D欲求は、生物的基礎が濃厚で、強い本能がそこに働いている。他方、自己実現へのB欲求にも生物学的な本能がないわけではないが「弱い本能」に基づいているに過ぎない。B欲求の充足にかかわるB価値やB経験に接するためには、いい社会やユーサイキアン・マネジメントが必要となる。
経営管理論のテキストでは、マズローがモチベーション(動機づけ)のところで登場するものの、通常仮説1と2しか紹介されない。
例えば、ピラミッドの絵だけを見ていると、「腹をすかして飯も食わずに絵を描いて、人生に満足している画家はどうなのか?」「階層は5つは多すぎる、いや少なすぎる」などの批判が出る。しかし、マズローは階層の順を固定的に考えていなかったし、階層がいくつということにこだわりない。マズローは全体論的に考えており、欲求を分析して何個の要素に還元するか、という考えがないからである。人とそれをとりまく社会を含めたホーリスティックな理解が必要である。
さらに批判として「低次の欲求は具体的に定義されるが、自己実現に至ると定義が困難になっている」というようなものがある。
生理的欲求や安全欲求は具体的に場面が思い浮かぶが、自己実現については具体的な場面が思い浮かばないからであろう。自己実現とは、生涯をかけてじっくりと探求すべき発達課題の一つであり、自己実現というアイディアそのものが、ホーリスティックな概念だと言える。
自己実現は、ひとの存在そのものに関わり、「腹が減った」という欠乏状態を充足させるような明瞭な説明がつかない。食事は30分もあれば空腹を満たせるが、自己実現は生涯をかけての課題である。しかも、一人ひとり同じ形ではない。だからこそ、マズローは多数の論考において、コンパクトに定義するよりも、その特徴を多面的に箇条書きで記述し続けたのであろう。
【注意1】マズローにとって適応は否定的な概念である。
【注意2】モチベーション(動機づけ)とは、承認の欲求までの欠乏を満たす努力であるが、自己実現は欠乏を満たすという動機ではない。あえて言えば「発達しつつある」状態と言える。
マズローの考える自己実現は、自分の独自の存在を十分に活かすことであり、環境適応するという発想はない。「自己実現」という言葉を使いながら社会適応を論じる視点はたびたび見られるが、マズローの考え方とは異なる。
「マズローの自己実現とは何か?」と聞かれて、簡潔にこれだ、という正解はない。
ピラミッドの絵を描いて、マズローが分かった気になるのはやめよう。安直な概念で安っぽい答えを求めるよりも、とらえがたいけれども、重みと奥行きのある概念を深堀りしよう。
「自己実現」という言葉は、多くの方がご存知だと思います。
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