「SM - H」は、昭和27年に完成した住宅、床面積が72坪ほどの平屋で、当時の趣きをそのまま残している建物である。小屋裏には棟札があり、棟梁である弓削清氏の名前が確認できる。建築主の奥さん(80代)のお話しでは、当時評判の大工さんだったとのこと。
昨年(2015年5月)に計画がスタートし、建築主との打合せ、現場調査を重ね、10月に着工し、今年8月にようやく建物と外構が完成する。当初4月に建物・外構が完成する予定で梅雨前には植栽工事も終了する予定であったが、工事途中での仕様見直し、外構の追加工事等があり、建物・外構のみ8月完成となり、植栽工事は夏場を避け、涼しくなる10月に再開する予定である。
基本計画にあたり、建築主から先代が作った建物を引き継ぎたい、そのためには建物の老朽化への対応、耐震性の向上、そしてこれからの生活の利便性・快適性の向上を望まれた。
築後65年建っているが、目視できる所での建物の痛みはほんのわずかである。ただし、ほぼ当時のままで使われているので、水回りの設備、建具の動き、断熱性、すきま風、等改善カ所が多々考えられた。合わせて建築主(90代)が自家用車を必要とされなかったため、敷地内に駐車スペースが無く、また、道路から1.1mほど高くなっている敷地へのアプローチ等の考慮により、建物本体だけではなく、敷地全体を含めた改装となった。
旧・和室のつづき間+縁側を居間・食堂・台所・書斎スペースに
以前は8畳の床の間と6畳とのつづき間、そして東・南に縁側があった部屋を一つの部屋とし、北側から対面式の台所、食堂、居間、そして南側にご主人の書斎コーナーを設ける。
玄関ホール及び廊下との出入り口は、以前の内法高さとしているが、台所の下がり壁、及び東、南側は建具無しで内法高さを2mとし、開放感を持たせた。
天井は以前の棹縁天井をそのまま使用し、既存天井廻り縁の下に新たに廻り縁を設け小壁部分を大壁仕様に変更した。大壁に変更したのは、小壁部分での耐力壁確保、及び、塗り壁の下地処理と二つの目的がある。
(柴睦巳)
茶の間は建築主の日常生活の場、なるべく以前の姿のままに
90代のご主人と、80代の奥様が日常的に使われていた茶の間は以前の状態に近い改装とした。写真のガラス戸は以前外部に面して使用されていたが、改装では外部にアルミサッシを設置し、ガラス戸は下部透明ガラスを不透明とし、内障子として使用している。またこの写真では写っていないが、折り上げ式天井はそのまま残した。
仏間はそのままに
改装した8畳の床の間と6畳とのつづき間以外に、8畳の仏間と3畳とのつづき間があり、この部屋は以前の雰囲気をそのまま残す事とし、一部床の間横上部にあった神棚スペースを手が届く高さに変えた。
旧台所を寝室に
ご両親の寝室は、以前から旧台所横の茶の間で過ごされる事が多かったこと、そして浴室・便所等への利便性を考慮し、旧台所を転用する事にした。
旧台所の配置は、写真左側にカマドがあり、右側には流しとなっており、それぞれに出窓があった。北西角には勝手口があり、浴槽の焚き口跡があった。天井はサオ縁で、流し上が外部に下り勾配がついており、部屋全体は排気のため、北側への上がり勾配となっており、以前は今回エアコンを設置した場所に換気用の窓があった。今回の改装にあたり、床・壁等は変わったが、天井はそのまま残している。
旧和室(子供部屋)を寝室2に
旧6畳和室は昭和27年当初から子供部屋として使われてきた部屋、壁は以前は真壁(柱・長押が見える作り方)であったが、改装にあたっては壁の地震時の耐力確保と塗り壁の将来のひび割れ防止を兼ねた下地処理を行った。床も畳から杉の厚板張り(下地断熱材のサンドイッチ貼り)としている。
台所と食堂の対面カウンターの収納
収納中央の4枚建具は、床の間横の書院に使われていた建具を転用する。
書斎
書斎内のマントルピースを撤去し、オーディオ機器、CD等の棚を設置、一部に床の間で使用されていた違い棚、飾り障子を転用する。
(柴睦巳)
和室続き間をパブリックスペースへ
建物南東に位置する8畳床の間と6畳つづき間及び縁側を、居間・食堂・台所・書斎スペース・勝手口に改修する。
和室続き間をパブリックスペースへ
8畳床の間より続きの6畳和室、南東のL型の縁側を見る。南東角にある柱にかかる荷重を分担するために、L字型に補助柱を設置し、合わせて筋違いにて耐震補強を行う。
和室続き間をパブリックスペースへ
8畳床の間より中廊下側に耐力壁を設置する、廊下への出入建具は開放感・利便性を考慮し二カ所とも引込建具とする。南側縁側の西面には、旧床柱をアレンジし書斎カウンターを設置する。
両サイドの建具は壁内に引込み
和室続き間をパブリックスペースへ
旧8畳和室の、床・違い棚・付け書院部分は撤去し、台所とする、台所での開放感等を考慮し居間側への対面式キッチンとする。また和室と縁側間の小壁部分は内法高さを1760から2000とし外部への開放感を考慮する。天井は以前の棹縁天井を残し、中央の小壁は撤去し、開放的に部屋とする。
対面カウンター収納建具は付書院障子を再利用
縁側をパブリックスペースへ
縁側のガラス戸、天井はできるだけ以前の物を使うこととする。ただ断熱性、気密性向上のため、天井裏には断熱材、ガラス戸手前には内障子をたてることとする。また床はすべての部屋に置いて断熱性を高めるために断熱材をサンドイッチ状とする。
縁側をパブリックスペースへ
伝統的な日本家屋の特徴の一つとして、外部に面して開放的なつくりがある。この建物は、南・東の縁側がL字型につながり、より開放感を与えている。
この開放感を改修後も残すこととした。ただし以前はカーテンが使用されていたが、改修にあたっては、既存ガラス戸の再利用を前提としたため、気密性の向上、及び障子紙による光の拡散等を考慮し障子を立てることとする。ただし庭への眺め確保するために、すべての障子が壁内に収納できる作りとした。
照明 再利用
障子の再利用
旧8畳和室付け書院の飾り障子は、上部を応接室収納棚に、そして下部の4枚引き違いを台所と食堂間の対面カウンター収納の建具として再利用をする。
職人の腕
縁側南東の天井は扇垂木となっており、この建物魅力の一つとなっている、今回、一つの部屋とすることで目につく機会が多くなり、この部屋の魅力を一層引き立てている。
茶の間は茶の間
改修前に、ご家族が日常的に過ごされていた「茶の間」はできるだけ以前のイメージを残すことにした。特に中庭に面したガラスの格子戸、そして天井のつくり。
改修を機に共に生活される若夫婦との共通の居間・食堂・台所は別に設けられるが、改修後も気兼ねなく日常生活が送れる場所として「茶の間」を使われることになる。
中庭に面する木製硝子戸の外にサッシ
寝室は水廻り近くに
旧台所を寝室に
寝室から直接洗面脱衣へ
既存建物・外構調査 (一部) 野帳より