まきのき(有料老人ホーム)

概  要

高鍋城跡から宮田川に至る県道44号線沿いに、小規模多機能型居宅事業所「なぎのき」が開設したは2016年(平成28年)の秋でした。

 

 この施設は、お年寄りが故郷で自宅と施設を併用することで、より安心して暮らし続けることを目標として、高鍋町の支援を受けて作られました。ほぼ5年が過ぎ町内のお年寄り達に利用されています。当時、将来の増築を考慮し敷地の北東側にそのスペースを確保していました。

 

 2021年初春にオーナーより連絡をいただき「この場所に有料老人ホームはできませんか」と相談を受けました。小規模多機能型居宅事業所の時もそうでしたが、高齢者施設には様々な制限があり宮崎県も独自の「有料老人ホーム設置運営指導指針」を整備しています。

 

 利用者へ提供する介護内容で、必要な部屋や設備、居室の広さ、廊下幅員等の要件が大きく違ってきますので、限られた敷地スペースを前提として可能な施内容について検討し、今初夏に槇(まきのき)の建物が完成しました。


■ 平面計画について


 施設へのアプローチは、北側の町道より階段とスロープにより玄関ポーチに上がり、玄関そして玄関ホールへと繋がります。玄関ホールには三方向に出入り口があり、正面の大きな引戸を開けると各室に繋がる廊下2へ、玄関ホール右側の引戸は台所へ、左側の開戸は事務室への出入口となります。玄関には利用者とスタッ用のための下足入を設置しています。


 玄関ホール正面から廊下2に入ると中廊下となり、採光確保のため天井を高くし南東方向に設置した高窓から、特に午前中の自然光が入ります。廊下2を右側に進むと左に利用者さんの居室4・3があり、その反対側は対面式のオップンキッチンとなっており、利用者さんと一緒に食事の準備や後片付けができるようになっています。


 廊下2をそのまま進むと、食堂スペースとなり9名が利用できるテーブルを設置しています。廊下2と同じように高い天井には高窓があり開放的な空間となっています。南西方向の廊下3を通して庭の樹木が何気に目に入るようにしています。


 食堂の県道側には談話室があり、落着いた雰囲気とするために天井を低くし、県道側には目線の高さに障子を設置し、外の風景ではなく和紙を通して入る柔らかな光を演出しています。また障子下の部分を透明なガラス窓として、県道境界とのわずかな空間ですが、すでにフェンスに絡んでいるモッコウバラと合せ低木の植栽を行い、床レベルでの間近な植栽と開放感を考慮しています。また部屋の角に薪ストーブを設置し、晩秋から初春までの季節には火を入れて暖かさと、その雰囲気を楽しんでいただくことになります。


 食堂北側には洗面と便所を設置しています。計画打合の時に担当者から「食事の近くに入歯を洗える所があると良い」との提案があり、視覚的に考慮し北側壁の反対側に洗面器を設置しました。また洗面の奥には便所を設け、食堂・談話室の利用時と居室1・2・9の入居者への対応としています。


 食堂テーブル奥の柱間をテレビ置場とし、その反対側には1間半の掃出窓があり、ここから「なぎのき」のベランダと庭へと繋がります。食堂奥には廊下3となり、ここから居室1・2へとアプローチします。居室1には専用ベランダを設け、限定的ですが日中を「まきのき」で過ごす利用者への対応とします。

  

 玄関ホールから廊下2に入り、左側に進むと廊下1となます。廊下1と廊下2との間には壁内に引込建具があり、これは施設内の空調管理によるものです。天井の低い廊下1を進むと右側(県道側)に居室5・6・7・8が並び、廊下正面の窓を通して町道脇に自生しているセンダンノキが目に入ります。


 廊下1の左側で、まず現れるのはベンチのあるアルコーブです。この場所は担当者からの要望に対応したスペースで、利用者の中には、時には居室以外で一人で過ごせる場所を好む方がいるようです。


 そのまま進むと三角形をしたスペースとなっており、便所と洗面へのアプローチとなります。洗面には二つの洗面台、そして洗濯機スペースがあり、専用の出入口から外部の洗濯物干場に繋がっています。干場はトップライトのある外部とし、多目的に使えるシンクを設置し、その横には2台目の洗濯機が設置できる場所と設備を確保しています。


 洗面2奥の引戸を開けると脱衣室です。利用者の入浴用具置場、そして入浴前の排泄に考慮し便器を設置しています。脱衣室内の便器設置については打合時に様々な意見がありましたが、現在の便器の衛生面、そして利用者の排便失敗時への対応を考慮し、これまでの私自身の住宅設計の経験をお話したところ提案を受入れていただきました。浴室は一般家庭用のユニットバスで広めの1.25坪タイプとし、手摺の設置場所、洗い場カウンター等、既製品の範囲内の中で配慮しました。


 利用者の方達が、施設スタッフの元で快適に過ごせる事を願っています。