□ 神門神社の「西の正倉院」
神社は本殿を中心に、垣を幾重にも巡らしてあり、その空間は内から外へ向かって段階づけられている。このような空間の秩序づけは、そのアブローチを何段階かに区切り、その区切られた空間に本殿に奉仕する一定の機能を与えることに よって形成されている。
「西の正倉院」は神門神社の宝物であ る銅鏡・須恵器等の収蔵・展示を目的とした建物であり、あくまでも神門神社の「正倉院」であるという考えで計画を進 める。
垣計画においても、神社本殿との間の仕様とその他の仕様は敷地内のそれぞれの空間の設定により変えていかなければ ならない。神社という場が本来もってい る、段階的な領域の構成という基本的な 考え方で計画する。
神社本殿との間の内囲いは、地元産の桧による透堺とし、その他の塀は築地塀の形態とする。
参道整備にあたっては、以前の神門神社境内にみられた、男坂・女坂それぞれによるアプローチの形態とし、男坂は従来のものをそのまま用いる。女坂は、南側の石垣に沿った形で計画し、石積みの高さの緩和、及び百済の館・百済小路 (将来整備予定)等との取り合いを考慮 し、修景整備と兼合わせたものとする。
□ 敷地高さ(レベル)設定について
敷地のレベル設定にあたっては、本体周辺の水はけを十分考慮することを前提に、西の正倉院の姿をより良く見せるためにはどのようにすれば良いのかについて考える。
奈良正倉院は、勅使門参道より1mほど高い地盤の上に建っている。正倉院へアブローチする時に、建物の柱脚及び床下の天井が見えることで、正倉院全体をより大きなものとして、また建物自体が 浮かんでいるという印象を受ける。
以上のこと参考にして、西の正倉院も境内敷地レベルより高くする。正門からの距離を考慮し、境内レベルより50cm上 げたところを本体の地盤の高さとする。
2・外構計画
□ 前庭について
本体の配置にあたっては、奈良正倉院の前庭の本体からの「引き」を参照する。 春秋の正倉院外観公開に柵越しに眺める場所は、建物全容を把握できる位置であり、これより近すぎると全体が見えにくくなる。距離にすると建物の柱部分より 25mほどとなる。
西の正倉院の前庭計画にあたっても、 柱より25m位置から4 m幅のアプローチを設け、南側築地稱までの距離を35Mとする。普通のカメラで、西の正倉院をバ ックに記念撮影ができるギリギリの距離 となる。
□ 植栽計画について
植栽計画にあたっては、築地堺際のグランドカバ一を主とし、際立った樹木はなるべく少なくし、築地塀越しに見える 周辺の緑を取り入れることを基本とする。ただし正門からアブローチしたときに正面に見える建物をなるべく隠すため視線上に植栽をする。本体の前庭部分は、当初、奈良正倉院を参考に芝生をすることを検討していたが天平の時代には芝生はまだ入ってきていなかったという事実にもとずき、植栽ではなく、伊勢砂利を用いた舗装とする。
□ 敷地造成について
敷地造成にあたっては、国道388号線の米上工区の切土(軟岩)を用い、石積みの石材は南郷村の中渡川平谷林道工事で掘削された物を用いる。また短期間の内に造成を行い、石積みによる擁壁を行い、その上に築地塀を設置しなければならないため、一部に土壌改良材を使用する。
3・附属施設計画
本来は倉庫である「正倉」を博物館としての機能をもたせるためには、本体を支える諸施設が必要になる。
計画当初においては、「正倉」本体を展示物として捉え、導入部門・展示部門・教育普及部門・収蔵部門・調査研究部門・管理その他部門等についてそれぞれに検討を進める。
導入計画にあたっては、「正倉」本体内部への外部環境の影響を、いかにすれば最小限に押えられるのか検討し、また展示部門については、銅鏡の文化財指定に対してどの様に対処し、また国宝級展示物の企画展示が現実のものとなった時は、どの様に対処するのか等検討を進めて行った。
他部門に関しても当時の状況を考慮し検討を進めた。検討の結果は、奈良正倉院の形態を変えず、本来倉庫であった部分を展示室として使用し、附厲施設については、現時点での必要最小なものを整 備することとなる。
全体の施設配置にあたっては、正倉本体のみを透塀及び築地塀で囲われた部分に配置し、他の施設については塀の外を基本とし、各種導入・サービス・施設機能等により配置を決める。
□ 受付棟計画
受付棟は、「西の正倉院」の導入部門 と、神門神社のお札所との機能を持っている。導入部門としては、チケット売り場・案内スペース及び売店等がある。
この建物は神社境内に上がってきた時 にまず目にする建物となり、全高13mの西の正倉院の屋根と、受付楝の屋根が重なって見えることになる。計画にあたっては、本体のスケールを一層引き立てる 役割と受付・お札所としての役割が参拝者に明確にわかるように計画する。
本体の木材は、木曽の天然の桧が使わ れたが、受付棟では、南郷村民が大切に 育ててきた桧を使用する。小屋組は束立小屋を基本とし、化粧垂木により切妻屋 根の形を作る。
□ 機械室(収蔵庫)楝
機械室棟は、本体の消防(スプリンク ラー)設備のためのポンプ,自家発電機等の憷蜮室と、収蔵庫・倉庫等で構成されている。
計画にあたっては、本体以外の施設を塀で囲われた「西の正倉院」内に設けないという前提にもとづき、また収蔵庫を使った企画展示の実施に対応できること、また敷地内での各種イべント時に控えの場所として対応できる等の様々な状況を考慮し、敷地内からの直接のアブロ 一チができるようにも計画する。
〔参照事項〕
男坂は、神社の参詣路の形式の一つ、丘の上にある社殿に接近するため麓から社殿まで一直線 に延びた坂。
女坂は、神社の参詣路の形式の一つ、丘の上にある社殿に接近するため麓から右または左に大きく湾曲しているゆるやかな坂道。