2006年11月(宮崎県林業活性化委員会にて)
・1 より自然な方法への切替
現状を考えると、人工乾燥材の供給も時代の流れかと思います、しかし、長期的な立場で考えた時、自然に行える乾燥方法がある以上、これを利用することは、地球温暖化をはじめとする環境問題を考えると、当然考慮していかなければならないことだと思われます。
乾燥に対しての補助(人工乾燥機)の使い方を考える時、より山側に近いところへ補助が行えることが望ましいのではと考えます。現在、県が行っている自然乾燥材に対する補助金も、山側ではなく、川下側で処理されているのが現状だと言う話があります。より、自然の流れに則した取組みへと切替える必要があるのではと考えます。
・2 自然乾燥木材の普及
2001年「木の家に住むことを勉強する本」の出版と時を同じくして、自然素材としての木、そして木を育てた山とかかわりながら「我が家」を作るユーザーが増えてきています。
私の事務所では、平成10年に諸塚村の産直材を使いはじめてから今年(平成18年)までに、22棟が完成し、来春には5棟完成予定です。ほとんどのユーザーが山で木材を確認しその特性を理解し、また木を育てた人、そしてその文化に触れています。
使用する木材は「葉付き自然乾燥材」、一冬、葉を付けたままで山で寝かせた木材です。そして倒してから1年後に大工さんの手許に届きます。その木肌はきれいなピンク色をしています。
・3 宮崎杉(自然乾燥材)のブランドの可能性
諸塚村での自然乾燥材の出荷割合が今年5%をこえました。諸塚村は森林認証で世界的な評価を得ることができました。先人達の、山で生活するための知恵、そして新たな挑戦がその評価の要因になりました。その一躍を担っているのが自然乾燥材を前提とした「諸塚村産直住宅」のシステムです。山の風景を「我が家」に取り込むことのできるものです。
ユーザーが木材に求めていることのひとつに、自然なものという考えがあります。また柱、梁、桁等の構造材を使う場合に、木目の細かさというより材としての大きさに興味を持たれる方が多いようです。幸いに、宮崎の杉はその温暖な気候により、他の生産地より早く大きな木材となります。 15年後、宮崎の山は60年生の杉で被われます。その時には、柱は5寸、桁は尺以上の木材を使った家づくりが一般化してくるのでしょうか。
ブランド化を考える時、材質そのものを前提とすれば限界があります。しかし、木を育てた山の文化、そして生産方法等を考慮し、大径木の適正価格による供給を行えば、グッチ、エルメス、プラダまでは無理だとして、せめて「ユニクロ」には近づけるのではと考えます。
・4 宮崎杉ブランドの挑戦
宮崎県の杉材出荷量の5%を目標に「自然乾燥材」の供給をめざしていきましょう。先達としての諸塚村を中心に耳川流域の山をその供給地にするのも1つの案です。またオビ杉発祥の地、南那珂郡と、その出荷基地であった堀川運河の再利用(水中養生)を組み合わせた取組案も考えられます。
また、宮崎杉を使った家づくりを行っている一人として、興味を持たれているユーザーに対して、「より良い住まい」をいつでも見ていただけるように勤めます。そのためには能力のある設計者の育成が必要であり、また現場サイドでは木材の特性を考慮しその良さを引き出せる大工技術の継承がなにより必要となります。
一般ユーザーには、木の特性(割れ・反り等)について、そしてその特性をカバーする大工技術を伝えていきましょう。何より自然のものを自然に受けとめられるユーザー教育も大切な挑戦となります。
5%の「自然乾燥材」供給過程での様々な取組みを考えると、それをサポートする多くの人との関わりが必要となることでしょう。川上と川下とのより積極的な交流がなければ実現しないことです。しかし現実的にはすでに取組みが行われており、それを評価するユーザーが存在する事実があります。急激なユーザー確保は望めませんが、今後15年というスパンで考えると、確実にユーザーは増えていくことでしょう。なによりも時代の変化にその都度対応しなければならない政策だけではなく、先人が培ったより自然に、できるだけ化石エネルギーを必要としない取組みを考えてみることは大切なことだと思います。5%の「自然乾燥材」が宮崎の杉に対するイメージを、そして宮崎県自体をより良いものとすることでしょう。