審議員として独自に提言・等
都城市教育委員会
教育長 児玉 晴男 様
都城市文化財保護審議会
会長 樋口 信義 様
都城市民会館は2007年1月に休館するまで、都城市の文化活動拠点として重要な役割を担ってきました。また、2005年12月に都城市より「すみやかな解体」と結論づけられると、2006年1月に市民有志による「都城市民会館を考える会」が発足、翌月には「都城市民会館を守る会」と発展し、2009年3月に都城市と南九州大学が20年間の賃貸契約を結ぶまで、保存を求めるための多くの取組が行なわれました。建物が生きていた時、そしてその役割を終えた後にも、この建物に多くの人たちが関わってきました。
公共施設がその役割を終えた後の取扱いについて、管理者が建物の維持管理を判断材料として方向性が示されるのはある意味当然のことです。しかし前述したように、この建物に多くの市民が関わった歴史は拭い去ることはできません。
2018年3月に都城市の担当者が、建築界の学術的最高機関である日本建築学会を訪れ、同年5月に日本建築学会が都城市民会館の再生活用報告書を提出しています。報告書には、都城市民会館の文化的価値の高さが記載されています。
また2018年12月と2019年1月に実施されたシンポジウムにおいて日本イコモス理事である山名善之氏により、都城市民会館はメタボリズム建築の代表的建物としてパリのポンピドー・センターで建物模型が展示され、世界的にも高い評価を得ていると紹介されました。
都城市役所としては、すでに明確な方向性を持っているようですが、竣工後50年を経過しており、国の登録有形文化財の条件を満たし文化財登録の可能性があるとの見解を考慮すると、都城市文化財保護審議会の一人として、現時点で保存の判断基準となっている活用という視点ではなく、純粋にこの建物の文化的価値について審議することは、後世に禍根を残さないためにも必要であると考えますので、審議会の議題としてぜひ取り上げていただきますよう提言させていただきます。
2019年1月17日
都城市文化財保護審議会委員
柴 睦 巳
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その後の展開として
2月5日、都城市長の定例会見で、昨年(2018年)7月に、市民4千人を対象に行われたアンケートにより、回答した1377人のうち83.5パーセントが解体を支持したという事実、そして保存活用案を募ったが期限の今年(2019年)1月末までに提案はなかったということで「改修保存に市が多額の費用をかけることは多くの市民の意思に沿うものでないと考える」と述べられ解体を発表されました。
同日に2月4日付で、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議イコモスより「危機遺産勧告(ICOMOS)」の都城市民会館取り壊しの危機に対する警告が出されました。
このことは、宮崎日日新聞、朝日新聞が取り上げ、そしてNHKのニュース「イブニング宮崎」でも報道されました。警告文について各紙は下記のように紹介していいます。
宮崎日日新聞は、「(同会館)は稀少性が高いメタボリズム建築の歴史的な作品の一つ」「現在の保存状態は全体的に良く、取り壊しは受け入れることはできない」と紹介しています。
朝日新聞は、「他に類を見ない印象深い造形と力強い存在感を持つこの建築は都城のシンボル」そして「取り壊しは日本の建築的遺産の損失となるだけではなく、世界的な文化遺産の損失ともなる」と紹介しています。
また、市民グループである「南九州の文化と建築を考える会」より2月はじめに提出された「旧都城市民会館に関する公開質問状」での「旧市民会館についての建築物の価値がかわったことへの説明がかけているのではないか」という質問に対して、「建築物の所有者である市としては、当初から、自ら保存活用する意思のないことを表明しております」と回答(平成31年2月18日)されています。
私は、設計事務所を営みながら私が作る建築物が、所有者、利用者にどのすれば愛着を持っていただけるのか、そして将来の登録有形文化財になり得る価値を見出せるのかをテーマの一つとして取り組んでいます。市民に愛されない公共建築は解体されてしまう。それはある意味当然のことなのかもしれません。
この建物の価値については私なりの評価はありますが、ここで私が考慮している点は、世界遺産委員会のイコモスが価値を認め警告を出しているという事実です。「世界遺産条約」を日本も平成4年に国会承認、受託しており、締約国となっており日本はその義務を負うことになります。
世界遺産をめざす取り組みが世界各地、日本でも、宮崎県内でもありますが、世界遺産にもなっていないのに逆に取り壊しに関する警告を出された所がどれだけあるのでしょうか。
数十年後に、都城市、宮崎県、南九州で、世界遺産への登録申請が行われる可能性が0ではないということです。もし、その時アンケートが実施されるのであれば、その対象者は、現在の子供達になるのです。教育委員会の大きな役割は、子供達の現在、将来に素晴らしい環境を提供することだと思います。
すでに解体が発表された後ですので、この場でみなさんに何がお話しできるのか悩むところです。この会は、都城市文化財保護審議会という名称となっており、「保存および活用」の文字が条文の中にありますが、会の名称は「保護」となっています。大辞林を引用すると保護とは「危険・破壊・困難などが及ばないようにかばい守ること」とあります。
今回の経験をこれからの糧とすることは大切です。価値ある文化的所産(作り出されたもの・生み出されたもの)の将来を多数決で判断するのではなく、この会に諮問していただき議論する。今回の件で言えば一定の価値が認められた建築物が完成し50年過ぎればその文化的価値について検討する。
そして、世界的に認められた都城市民会館の、残された短い期間に何ができるのか、市長は記念事業についても言及されています。また市民の中からは「おくり人」に習い「おくり館」の取組案も出ているようです。素晴らしい思い出として市民に残していくために関係機関が最大限に努力することを願います。
昨日の朝日新聞に「旧市民会館の解体 都城市「変更なし」」という記事が掲載されており、その中で、「市は現在、国や県に対してイコモスの文章について照会中」あり、一片の期待を持ちつつ、どのようになろうと、将来、2019年2月20日の都城市文化財保護審議会で真剣に議論したのだということはしっかりと記録として残さなければいけないと思っています。
2019年2月20日
都城市文化財保護審議会委員
柴 睦巳
2018年度から都城市文化財保護審議会の委員をしている。毎年教育委員会の諮問に応じ2回審議会が開催されている。市指定だが新たに文化財を指定する場に立会える喜びを感じている。
昨年(2020年)7月に担当課より都城市の指定文化財建造物となっている都城島津家の2階建外壁が一部剥離し、その補修について意見を求められた。7月15日に現地を確認すると、離れと呼ばれている2階建部分の南西角の1階部分が、幅800㎜、高さ1300㎜の範囲で剥離している。
剥離カ所の取り合い部分を確認すると竹小舞に荒壁が見えており、一部は竹小舞も無くなり内部仕上げの板壁裏面が見えており、貫や横胴縁の上に一部荒土が残っている。また地面には剥離した壁の残材があり、よく見ると仕上漆喰(1.5㎜)がモルタル(15㎜)と思われる下地に付着した状態で多数落ちている。
剥離カ所以外にも、外壁の汚れが目立ち、特に南西角にあるタテ樋上部の集水器より末広がりに汚れている。また階段室の上下の窓下がひどく汚れ数カ所漆喰の割れが確認できる。
漏水の影響は内部にも及んでおり、階段室の南側壁には一部カビが発生しており、2階建物の外壁崩落カ所に面する押入内部の板壁には水がしみこんでいる。
原因と対応については、外部漆喰にひび割れがあり壁内部に長期間にわたり水がしみ込み、竹小舞を腐食させ、本来の土壁下地が機能しなくなり崩落したと考えられる。今後も崩落は広がっていく可能性が十分にあり、早急な対応が必要と思われる。
本格的な補修については、建物は市指定文化財であるため、十分な調査を行い補修にふさわしい工法をとる必要がある。ただし台風シーズンをむかえるにあたり、当面の対応として、崩落カ所、及び下地がすでに痛んでいると思われるカ所に、雨風があたらない工夫が必要である。一時的な補修方法について、外装板を使い、該当する外壁面を覆うこととし、取合い部分には止水のためのコーキング処理を行い、既存下地内に水が進入しないようにする。
補修については、文化財建造物の主任技術者(上級)のもとで現状調査を行い、指定文化財建造物としてふさわしい工法をとり、報告書としてまとめることが必要であると文化財課へ提言し、宮崎県ヘリテージマネージャー要請講習会やひむかヘリテージ機構の講習会で講師をを務めていただいた菅澤茂氏を紹介する。
2021年1月23日と2月15日の両日、菅澤氏による調査に立会う。1回目の調査では現地に足場を設置し佐官と板金の職人さんにも参加していただきより細かく調査を行い、今回の外壁崩落の大きな原因について2点確認する。まずは雨水を適正に配水できなかったこと、おそらく火山灰と落葉が呼び樋に詰まり、その対応がきちんと行われなかった。二つめは以前の補修の時に伝統工法が継承されず、荒壁が長年の外壁下地への雨水の進入により竹小舞を腐食させその重さに耐えられなく崩落した。
2月15日の調査の時に、平成21年に行われた補修工事の現場写真を確認することができ、その中で今回の破損部位に関して気になる点を見つける。平成21年8月から全面的な補修工事行われ、同工事で補修された外壁の一部が、翌年7月に撮られた写真によると、補修後一年もたたないうちに、その外壁の一部が荒壁(下地)から剥落している。その場所は今回の剥離場所と同じである。
剥落の原因と思われる点が、平成21年補修工事の施工状況写真から読み取ることができる。本来竹小舞に荒壁を塗る場合は、表から塗込み反対側にはみ出た土を鏝でなでること(裏なで)が前提となるが、その写真を見る限り、反対側には押入の内部板壁が見えており、裏なでが行われていない。そのため荒壁を外から押し付けただけで本来の荒壁(下地)の役割をなしていない。平成22年7月に崩落した壁はその後補修が行われたが、その同じ場所が令和2年の夏に大きく崩落し、現在に至っている。
2021年2月末には菅澤氏による報告書が提出されるが、補修にあたっては表面的な工法による施工では、同じ過ちを繰り返すことになる。文化財主任技術者のもとで作成された設計書と監理のもとできちんとした補修が行われるように発注者側も細心の配慮が必要である。
上記内容を2012年2月15日に行われた審議会で報告する。
2012年2月15日に行われた審議会での意見具申
課長様へ
昨日は審議会お疲れ様でした。都城市に新たに市指定文化財が生まれること、そして、その誕生に関われることを、たいへん嬉しく思います。
今回のメール内容は、審議会でお話した内容の補足です。規定では防火対策は必要ないとのことですが、せっかくの市の文化財、もし可能であれば、せめて屋外に消火栓を設置してはと考えます。
通常、屋外消火栓は65㎜ですが、これは消防に携わる人が使用するもので、一般の方の使用は無理です。文化財が保管される建物が、不審火を起こした時に、近所の方がすぐに対応(初期消火)できる対策があれば、被災を最小限にできるのではと思います。
50㎜、40㎜の消火栓もあり、40㎜であれば高齢者でも対応できると聞いています。もちろん、事前の予行練習は必要です。
以上、メールで恐縮ですが補足させていただきます。