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▼ 宮崎市 TA - H ▼
□ 改築前の敷地
TA邸の敷地は宮崎市内を大きく蛇行しながら流れる大淀川の西側に位置する。昭和50年に丘陵地を開発した住宅団地内のほぼ中央にある。
敷地は道路に面して16m奥行きが15mで面積が240㎡(72.6坪)となっている。東西方向の隣地との段差がそれぞれ1mほどある。
前面道路となる南側市道は幅員6mあり、団地内生活道路としては十分な広さが確保されているが、東方面へ下る坂道となっている。道路に面する駐車スペースが1台あり、玄関へのアプローチには60cmの段差がある。昭和50年当時、一家に1台の車が一般的であった頃の標準仕様と思われる。
□ 改築後の敷地
既存住宅団地内の建替えの場合、駐車場計画は全体に大きな影響を与える。TA邸では夫妻用そして来客用スペースが前提となる。また前面道路が坂道となっているため、接道部分の擁壁、玄関アプローチ、駐車スペース等に配慮が必要となる。
建物は第1種住居専用地域内の厳しい建坪率(40%)から建物は2階建とし北側隣地境界に建築基準法ぎりぎりに寄せる。道路に面しほぼ中央に一台分の掘込み駐車スペースを確保し、敷地との道路との段差の少ない西側に玄関へのアプローチ(斜路)を兼ねて、他駐車スペースを確保する。
玄関へのアプローチはそのままピロティーにつながり、ピロティー西側に屋外物置・給湯器スペースを、東側に玄関ポーチを設け玄関に入る。ピロティー北側には北側隣地手前に植栽によるアイストップを設け、玄関手前東側には庭へとつながる木戸口を設置し、軒下を利用した駐輪場を設ける。
□ 日常生活スペースを2階に設置
建物は1階に玄関、玄関物置、クローゼット、便所、和室、趣味の部屋ともなる納戸を設け、2階に居間、食堂、台所、洗面脱衣、浴室、子供室、洗濯室、そして南側全面にバルコニーを設ける。
1階に日常スペースを配置することは可能ではあるが、駐車スペース3台分確保を前提とすると庭のスペースが極端に狭くなる。
2階からだと南東方向に大淀川両岸の風景が望め、夏恒例の大淀川花火大会の打上げ花火が見えること、1階は駐車スペース及び玄関アプローチ等の関係で日常生活が落着のないものとしてしまう可能性があることなどから、上階に居間・食堂等の日常生活スペースがあった方が落着いて生活できるとの要望がある。
2階に日常生活スペースを持ってきた住宅は今までに数件作っている。それぞれの敷地条件と生活スタイルを考慮した結果である。今回も階段の作り方、2階レベルでの外部に対して開放性を考慮する事で対応する。
(柴睦巳)
□ 柴邸(二世帯住宅)
現在柴設計の事務所として使っている建物は、1987年(昭和62年)に二世帯住宅として建てた。結婚当初より子供と祖父・祖母とのつながりを大切にしたいという気持ち、合わせて私達夫婦とも働くという前提があり、結婚後早い時期に私の実家建替えを検討する。ただし狭い敷地(177㎡・54坪)に常時3台、来客用1~2台の駐車スペースを必要とするため、3階建の計画となる。当時、木とRCとの混構造が難しく、結果RC造で予算の関係もあり打放し仕上とする。各階コノ字型プランとなっており、1階は西側(道路側)に母親の仕事場、東側に両親の居間・食堂・台所・物置、中央に玄関、玄関ホール、階段、便所を設け、玄関横は駐輪場を兼ねた半屋外スペースとする。2階は東側に両親の寝室、西側に私達家族の居間、食堂,台所、中央に階段、洗面脱衣便所、浴室、そして中央南側には5m×4.0mの屋根付きベランダを設ける。3階は東側に私達家族の寝室、西側には吹抜け(将来は部屋)と書斎を設け、中央に階段と納戸を設ける。中央南側は2階のベランダを見下ろす吹抜けとなっており、その上屋上レベルに吹抜けを覆う屋根をかけている。狭い町中での外部空間の確保は難しい、RC造とすることで2階に広い(20㎡)ベランダが確保でき、子供達の遊び場、洗濯物、布団干場、家庭菜園、そして時には親戚を招いてのバーベキューの場所として使われる。
□ 柴邸(自宅)
敷地選定にあたり、双石山、白浜へ短時間でアクセスでき、日常生活(通学、買物、通勤)のアクセスが良い場所ということで、学園木花台の現在地を選んだ、場所は高台の中で一番西側に位置し歩行者専用道路を挟んで西側に宮崎大学のグランドがあり、2階の高さから南西方向に北壁が真横から見える姿の双石山が望める。
敷地面積は110坪、北側前面道路、東側は空地、南側隣地は当時150坪の畑となっていた。計画にあたって周辺に学生アパートがたくさん建てられており、南側隣地に3階建アパート建設の可能性を考慮し、部屋からの眺望,陽当たり等を考慮し、日常生活スペースを2階とする。2階には居間、食堂、台所、洗面脱衣便所、浴室、子供室、洗濯干場を設け、2階での外部との関係性を高めるために、十分な広さのベランダ、そして庭へのアプローチできる屋外階段を設置する。また2階からの眺望を前提とした植栽を行い、結果近隣建物からの視線に対応した計画としている。また居間西側には大学グランドの生垣越しに双石山が望めるように開口部を設ける。
□ ST邸
施主との出会いがある度に、どのような建物を建てるのか楽しみであるが、建物内容以前の大切なこととして、どのような敷地に建てるのかということがある。敷地及び隣接する周辺状況を考慮しながら設計を行うことになり、周辺環境を前提によりよい住環境の提案はできるが、敷地周辺の立地環境は設計者にどうすることもできない。道路、公園、公共施設、医療福祉施設、商業施設、そして緑・水等の自然環境、日常の生活は屋内だけではなく、徒歩・自転車・車・等の圏域も十分検討しなければいけない。ST氏は敷地選定にあたり、土地は狭くても周辺環境の良いところを前提とされ、徒歩5分圏内に宮崎県立美術館がある宮崎県文化の森、公立大学、そして素敵なレストラン等がある、宮崎市内で最も人気のある住宅地内の土地を購入された。敷地面積は164.9㎡(49.9坪)購入時には古い平家が建っていた。一台の駐車スペースを前提に、陽当たり・眺望等を望まなければ平家での立替えも可能であったが、友人を招いての勉強会を頻繁に行うことを考慮すると、3~4台の駐車スペースは必要となる。また南側に建っている古い住宅の今後の建替等を考慮し2階での日常生活を前提に計画することになる。1階には玄関、物置、ゲストルームを兼ねた友人達との勉強会ができる部屋、便所を設け、他日常生活に必要となる部屋は2階とする。南側に屋根付きベランダを設け、面して和室・食堂・台所・書斎スペースを配置し、南西角を室内干しのできる部屋とし天窓による採光及び南・西両面に通風のためのルーバー窓を設ける。
□ 北高鍋の家
高鍋町内の小丸川近くの住宅地、敷地西側に広い県道,北側に行き止まりとなる幅員4mに満たない町道に面した角地が敷地となる。県道側の設置長さ、及び歩道の段差等を考慮し、北側町道側に駐車スペースを設置する。南側,東側の隣家が境界に接しており、また2階高さからご主人の勤め先である大学校舎の一部が望めるため、採光・通風・眺望・防犯等を考慮し、2階にほとんどのスペース、居間、食堂、台所、洗面脱衣,浴室,便所、寝室、子供部屋、そして居間専用ベランダ、寝室専用ベランダ、洗濯干し用ベランダを設ける。1階には玄関、物置、納戸、和室、書斎、便所を設ける。2階の居間・寝室専用ベランダは手摺の外側で雨戸が閉められるようにし、台風以外でも、冬場の断熱、そして近隣からの目線等への対応ができるようにしている。建物の北側壁は道路境界に平行とし、南側は東西方向に平行とし、午前・午後両方の陽当たりを確保する、そのため2階ベランダは平行ではなく、3カ所の三角形となったベランダの組合せとなり、建物にリズミカルな表情を付けることになった。
□ 浜町の家
延岡市の国道10号線近く、道路との間に大型ストアーを挟んで敷地がある。北側に市道があり、南北に長い敷地となっており、南側にはご主人の親世帯の別棟住宅が先に作られていた。建築主夫婦共に務めており、子供の世話をご両親にお願いすることになっている。計画にあたってご両親の家北側にある玄関先を共通の中庭として整備し、その中庭より玄関へアプローチする。またご主人の趣味であるバイクのためのスペースも整備を中庭一部を使い、ガレージは建物内として計画する。ご両親世帯との日常的な接点を玄関の外を前提とし、日常スペースとなる居間、食堂、台所、洗面脱衣、浴室、便所,子供部屋を2階とし、2階南側全面にベランダを1階には玄関、バイクガレージ、和室、寝室、クローゼット、便所を設ける。隣接する敷地に親世帯と子世帯をそれぞれの住宅を作る場合に、共通となる場所をどのようにするのか、そしてお互いの動線、そして視線が気になる。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 SM - H 改装 ▼
「SM - H」は、昭和27年に完成した住宅、床面積が72坪ほどの平屋で、当時の趣きをそのまま残している建物である。小屋裏には棟札があり、棟梁である弓削清氏の名前が確認できる。建築主の奥さん(80代)のお話しでは、当時評判の大工さんだったとのこと。
昨年(2015年5月)に計画がスタートし、建築主との打合せ、現場調査を重ね、10月に着工し、今年8月にようやく建物と外構が完成する。当初4月に建物・外構が完成する予定で梅雨前には植栽工事も終了する予定であったが、工事途中での仕様見直し、外構の追加工事等があり、建物・外構のみ8月完成となり、植栽工事は夏場を避け、涼しくなる10月に再開する予定である。
基本計画にあたり、建築主から先代が作った建物を引き継ぎたい、そのためには建物の老朽化への対応、耐震性の向上、そしてこれからの生活の利便性・快適性の向上を望まれた。
築後65年建っているが、目視できる所での建物の痛みはほんのわずかである。ただし、ほぼ当時のままで使われているので、水回りの設備、建具の動き、断熱性、すきま風、等改善カ所が多々考えられた。合わせて建築主(90代)が自家用車を必要とされなかったため、敷地内に駐車スペースが無く、また、道路から1.1mほど高くなっている敷地へのアプローチ等の考慮により、建物本体だけではなく、敷地全体を含めた改装となった。
旧・和室のつづき間+縁側を居間・食堂・台所・書斎スペースに
以前は8畳の床の間と6畳とのつづき間、そして東・南に縁側があった部屋を一つの部屋とし、北側から対面式の台所、食堂、居間、そして南側にご主人の書斎コーナーを設ける。
玄関ホール及び廊下との出入り口は、以前の内法高さとしているが、台所の下がり壁、及び東、南側は建具無しで内法高さを2mとし、開放感を持たせた。
天井は以前の棹縁天井をそのまま使用し、既存天井廻り縁の下に新たに廻り縁を設け小壁部分を大壁仕様に変更した。大壁に変更したのは、小壁部分での耐力壁確保、及び、塗り壁の下地処理と二つの目的がある。
(柴睦巳)
茶の間は建築主の日常生活の場、なるべく以前の姿のままに
90代のご主人と、80代の奥様が日常的に使われていた茶の間は以前の状態に近い改装とした。写真のガラス戸は以前外部に面して使用されていたが、改装では外部にアルミサッシを設置し、ガラス戸は下部透明ガラスを不透明とし、内障子として使用している。またこの写真では写っていないが、折り上げ式天井はそのまま残した。
仏間はそのままに
改装した8畳の床の間と6畳とのつづき間以外に、8畳の仏間と3畳とのつづき間があり、この部屋は以前の雰囲気をそのまま残す事とし、一部床の間横上部にあった神棚スペースを手が届く高さに変えた。
旧台所を寝室に
ご両親の寝室は、以前から旧台所横の茶の間で過ごされる事が多かったこと、そして浴室・便所等への利便性を考慮し、旧台所を転用する事にした。
旧台所の配置は、写真左側にカマドがあり、右側には流しとなっており、それぞれに出窓があった。北西角には勝手口があり、浴槽の焚き口跡があった。天井はサオ縁で、流し上が外部に下り勾配がついており、部屋全体は排気のため、北側への上がり勾配となっており、以前は今回エアコンを設置した場所に換気用の窓があった。今回の改装にあたり、床・壁等は変わったが、天井はそのまま残している。
旧和室(子供部屋)を寝室2に
旧6畳和室は昭和27年当初から子供部屋として使われてきた部屋、壁は以前は真壁(柱・長押が見える作り方)であったが、改装にあたっては壁の地震時の耐力確保と塗り壁の将来のひび割れ防止を兼ねた下地処理を行った。床も畳から杉の厚板張り(下地断熱材のサンドイッチ貼り)としている。
台所と食堂の対面カウンターの収納
収納中央の4枚建具は、床の間横の書院に使われていた建具を転用する。
書斎
書斎内のマントルピースを撤去し、オーディオ機器、CD等の棚を設置、一部に床の間で使用されていた違い棚、飾り障子を転用する。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 木原の家 ▼
平面について
昨年9月に完成した「木原の家」をたずねてきました。宮崎市内の農村集落,農家住宅が建っていた土地を買取り、そこに平家を建てました。市道から進入路に入り、駐車スペースに車を止め、玄関へアプローチ、ポーチまでには3段ほど上がることになります。玄関ポーチは5畳の広さがあり、ここには近所の方達との語らいの場所としての濡縁があり、建物南東角にあるので冬場晴れた日には一日中陽当たりが良く、また夏場は深い軒先のため日影の場所となります。
ポーチ西側にある両面格子の玄関引戸は鴨居に折戸用金具を設置しているため動きが軽い、玄関に入ると正面には下足入れ、右側が玄関ホールとなりますが、反対南側には玄関から直接使える物置となっています。中を見るとご主人のサーフボードが置いてあり、ここに設置した棚には郵便ポストから入れられた郵便物がありました。玄関物置と玄関ホール奥の流し前の天井にはトップライトがあり、物置・玄関・ホール・そして流し前の通路を明るくしています。
玄関ホール西側の引戸を開けると居間となります。広さは12畳あり南側に1間半の引違い建具,その横には1間のフィックス窓,その下には通風用のルーバー窓を設置しています。居間北側手前には食事用の作り付けテーブル(長さ1.8m×巾0.9m)があります。テーブルをL型で囲むように壁際にカウンターを設置しパソコン等が使える場所としています。食堂テーブルの奥西側には連続して台所流しがあり、流しとテーブルが一直線場となっており、この形式はこれまで多くの住宅で採用し、建築主からは好評をいただいています。
台所流しは居間側を向いて使うことになり、調理中、何気に目線をあげると居間そして南側の庭が自然に目に入ります。住宅の設計をはじめた頃、ある建築主の奥さんに言われたことがあります「壁を向いて流しに立つと、後近くに家族が座っているテーブルがあっても、目線が合わないから家族の会話に入っていけない、そのためいつの間にか流し前にラジオを置くようになりました」。
居間の天井は屋根勾配に合わせ、小屋組の梁・束等が化粧で見えています、ただ野地板は化粧とせずにその下に仕上をおこない壁と同じ色調としています。
居間奥の南側には4.5畳の板間があり、1間巾全開口の引込み戸としています、この部屋は将来の子供部屋となります。奥右側は通路となり、ここの左側は1間半のクローゼットとしています。
この通路を奥に進むと寝室となる6畳の和室があり、和室奥には1間の押入と半間の洋服用の収納があり、この収納下部は東西方向の風を通すためのルーバー窓になっています。和室へは居間に隣接する4.5畳板間からも行き来ができ、また和室南側は一段下がった部屋とし、ここに洗濯機を置き、そして洗濯物干場としています。
和室手前の通路奥の右側の引込み建具を開けると洗面脱衣室なっており、ここは食堂・台所からも一直線でつながっています。洗面脱衣室の南側(内部側)には洗面カウンターを設置し、反対の壁側には1間巾の収納、そして右側奥の浴室前には便器を置いています。
洗面脱衣室の奥(西側)は浴室となっており、浴室の西側・北側にはルーバー窓を設置し室内に湿気がこもらないようにし、また浴室から洗面脱衣・台所・食堂・書斎スペースまでの東西の風の流れも確保しています。
通風に関しては居間西側通路の上部に越屋根を設置しており、家全体の夏の熱気を自然排気できるようにしています。全体のプランは東西方向に長い形状となっており、冬場の陽射しを受けやすくしています。
完成後1年がたちましたが、各所に設置したカウンターや収納棚を見ると、必要最小限の物を置かれた生活を心がけられており、すっきりとした生活を感じました。
(柴睦巳)
■ 寝室について
ご主人からの要望で、眠る時には外部の明かりを入れたくない、真っ暗な部屋にして欲しい。外部に面した部屋だと、窓の外に雨戸でも立てない限り暗闇を確保することは難しい。そこで、望まれていた洗濯室(洗濯機+干場)を縁側代わりに設け、その間に建具を設けることで寝室の暗闇を確保する。ただし地域柄の東西の通風については確保する。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 OK - H ▼
OK邸は宮崎市中央を大きく蛇行する大淀川の西側丘陵地にある生目台団地内にある。国道10号線近辺の大淀川堤防より対岸を通して西から南に目をやると、小高い丘が連なる。
私が子供の頃に見たその風景は、まさに「緑の帯」となっており、私にふるさと宮崎の境界を意識させてくれた。その後、県都として人口増の中、この「緑の帯」の中に建物が見え隠れするようになる。アイストップとしての「緑の帯」は宮崎の景観として残さなければいけない物の一つだと思う。
その緑の奥に生目台団地はある。平家建の中古住宅を数年前に購入され、お子さんの成長とともに建替えを検討されてきた。私との出会いは宮崎市北部の平和が丘団地内で設計監理をしたH邸の建築主の紹介による。
敷地は、北側道路で団地内の標準的広さの80~90坪、建設当時の社会情勢なのか、車一台分の駐車場を確保した住宅が比較的多い、今回要望事項の一つとして夫婦それぞれの駐車スペースと来客用として1台分のスペース、計3台分の駐車スペースがでてくる。他にも外部スペースとして、家族人数分の自転車置場、庭等で使用する物の収納スペース、子供達が遊べる庭、眺める庭等も打合せのなかで確認する。
他、住まいへの要望として、通風、陽射し、換気、仕上材等を考慮し、エアコンに頼らないつくりとする。隣近所が接して建つなか、隣接住宅の窓の位置等を考慮しながら、唯一南方向に見える山なみへの眺望を確保すること。子供の居場所について、子供部屋というとらえ方だけではなく、居心地の良い場所が子供達によって各所に見出せるような空間とする。既存平家の生活経験から室内の回遊性についても要望がある、住宅内部での生活動線が一方向の行き来ではなく、ぐるりと廻れる計画とする。これらは常日頃、計画時に大切にしていることである。他にも日常生活の中でより快適に過ごすための要件について一つ一つ確認し、整理しながら打合せを進めていった。
北側道路よりの視線を考慮し、道路から直に見えにくいアプローチとし、少々の雨でも対応できる玄関ポーチ、玄関横には物置を設置し、玄関と玄関ホールとの間には引込み建具を設け冬場の室温度対応とする。玄関ホールからは居間・台所・洗面脱衣室に出入りができ、それぞれの部屋が他の部屋とつながっている。居間・食堂・台所は一つ大きなの空間となっているが、L型にすることで、それぞれの独立性も緩やかに保たれている。居間は吹抜けとなっており、二階の子供部屋と台所とが何気につながったつくりとなっている。
建物が完成し、生活が始まり、間もなく一年をむかえようとしている。玄関アプローチ部分の多くはない植栽も枝を伸ばし、また道路に対してセットバックした作りとしていることも影響しているのか、街並にすっかりと溶け込んだ風景を作り出している。OKさん家族にとって、ふるさとの風景のひとつになればと願っている。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 古城の家 ▼
2004年10月に朝日新聞宮崎支局で「私のふるさと」について語り合う機会があった。その内容は朝日新聞に10月11日付け「私のふるさと・かかわる自然と人と」というタイトルで大きく紹介された。
出席者は佐藤マリ子さん(農業)、北川善男氏(南九州大学教授),芥川仁氏(写真家)、日高茂信氏(ヤッチミロカイ酒谷会長)、そして柴睦巳、司会は宮崎総局長の岩下範之氏が務めた。「ふるさととは」との問いに、私は「小さい頃に父母に連れられて大淀川の堤防から見た緑の山並みと、将来を方向づけてくれた人として、県内で橋やトンネルを造っていた祖父が、私にとっての大きなふるさと」と答えた。
KOさんご夫妻との打合せで、ご主人が「ふるさと」について話しをされた。それは奥さんの生い立ちによるものであり「妻の家族は転勤族で、西日本を中心に点々とし、ふるさとと呼べる場所を感じられない」という。そんな奥さんにご主人は、宮崎を心のふるさとにして欲しい、そのためには毎日を過ごす我家をどのように作るのかが大切であり、その「ふるさと」を一緒に作ってくれるパートナーとして私を選んだと言われた。
私は30代に旧南郷村で百済の里づくりにかかわり「心の過疎」解消に取組まれた田原正人村長をはじめとする村人の想いに触れ、40代では「諸塚村産直住宅」に取組み、住まいの環境を地球規模の環境としてとらえる過程で、山の文化を建築主と共有することの大切さを感じた。そんな私にとってKOさんからの指名は大変にありがたいものでした。
南郷村の取組みについては「南郷村物語」として、諸塚村での取組みは「諸塚村讃歌」というタイトルで、建築雑誌「建築ジャーナル」にそれぞれ連載の機会をいただき、私にとって新たな「心のふるさと」をより明確にすることができた。
KO邸計画にあたっては、奥さん、お子さん,ご主人、そしてご両親にとって、日常の何気ない生活が、心地よいものになるように配慮した。祖父の家、実家、そしてこれから作るKB邸で、囲まれる外部空間を、ご家族が世代を超えて、ふるさとの風景として記憶に残る場所となるように提案した。
実施設計がほぼ終了し着工へのプロセスの中、KO氏は「柴設計の住まいづくり考」というレポートをまとめられた。教職と言う立場で、戦後地域社会の中での人と人とのつながりの変化について言及され、また、ふるさととしての住まい、これを「心の原風景」として意識できることの大切さをご自分の経験と合わせて語られている。そして家づくりのプロセスの中で、山とかかわることで見えてくる、日本の現状について触れ、今後の進むべき道の一つについてご自分の方向性を示された。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 ST - H ▼
土地を新たに求めて家を建てる場合、どのような場所を選択するのか、大切なことです。選んだ敷地内でのプランの考え方は幾通りもあります。敷地内のどこに建物を建て、玄関までのアプローチ、駐車場、駐輪場、植栽スペース、家庭菜園をどのように計画するのかは、考えれば考える程に案は出てきます。しかし、一端土地を選んでしまうと、前面道路の巾、接道長さ、隣地の建物の位置・形状、植栽、近隣周辺の自然環境、買い物・文化・医療施設、公共交通機関などは、おのずと決まっています。土地選びは、新築後の生活に大きな影響となります、当然といえば当然なことです。
SE邸の建築主は、土地を宮崎市内でも、最も人気のある場所を選ばれました。近くの広々とした公園内には、劇場・図書館・美術館があり、買い物、医療施設、素敵なレストランといった日常生活に欠かせない施設にも恵まれ、なおかつ前面道路は、巾6mの住宅地内の生活道路という恵まれた環境です。
人気の場所だけに、広い土地の入手は難しく、敷地面積は50坪弱です。北側に前面道路、南側は2階建の住宅が敷地境界線近くまで迫っており.東側は南隣の進入路、西側も2階建住宅が境界ぎりぎりに建っています。
基本計画にあたり、今後の生活をどのように考えるのかと打合せを進めました。建築主は学校の教員をされており、お休みの時には、仲間との勉強会、テニス等で汗を流される生活とのこと。現在は、体調も万全であり、体の不自由はもちろんない、しかし、誰しも年を重ねることになり体力は徐々に落ちていくものです。
計画当初は、1階部分での日常生活を前提に検討しましたが、来客時の駐車スペース、若干ですが、家庭菜園等の確保、そして何より、南側隣地の2階建住宅による日陰の影響を考慮すると、日常生活を2階で行うことの方が望ましいということになりました。現在、一生を自宅で過ごすのではなく、介護が必要になった時には、専門の方と設備の整った施設にお世話になる時代になっています、これからますます、福祉と医療を合わせた充実した施設が整備されるとの判断により、日常生活を1階ではなく、全て2階で行うこととし、合わせて南からの太陽の光、そして季節おりおりの風の導入等も考慮した計画としました。
計画内容は、1階の一部をピロティーとし、駐車、そして玄関へのアプローチとする。そのことにより、雨の日でも濡れることなく、車と室内との行き来ができる。またピロティーから利用できる外部物置を設け、外で使用する諸々の収納と兼用することにしました。
玄関には隣接して玄関物置が設けてあり、スポーツ用品、雨具等の収納スペースとなっています。玄関から玄関ホールに一段(20cm)上がることになりますが、この上がりかまち部分には引き込み建具が設置してあります。ホールは階段を通じて2階と一体となっているため、この建具の利用は冬場大変有効となります。ホール東側には週末の友人との語らいの場であり、兄弟友人たちのお泊まりの場所となる部屋があります。
2階にあがると、そこは、食堂、台所、書斎が一体となった場所です。中央に対面式の流し台、隣接して食事用のテーブルが作り付けてあります。流し背面には、カウンター収納と吊戸収納、流し南側の窓際には、書斎カウンターがあり、両サイドには本棚収納があります。
流し上部には、自然光を取り入れるためのトップライト、そして夏場の熱気対策としての換気のための越屋根が設置してあります。
2階東側は畳が敷き詰められており、寝室として使われます。台所西側には洗面・クローゼット・脱衣室・浴室、そして南西角には洗濯干場を室内として設置しています。洗濯干場には、西・南・東側に通風窓(ルーバー窓)を設け、トップライトと合わせ、太陽光と風を取り入れています。
計画にあたって、常々、選ばれた敷地内にて、いかに日常生活をデザインできるかを考え、生活の利便性と、インテリアとしての快適さを追求しています。そして町並みにいかにとけ込んだ建物となれるのか考えています。
▼ 高鍋町 KO - H ▼
2011年12月KO邸(高鍋の町屋)は建物部分が完成しました。正面そして実家に面する南側庭部分の植栽は年明けの3月に完成予定です。
現在、道路側の客土が露出している部分は、軒内(未施工)以外は、コグマ笹によるグランドカバーとなり、場所によっては生垣そして低木が一緒に植えられる予定です。特に舗装と建物との取合い部分は、線状に植栽され、固い物同士の間をやわらかい緑でつなぐことになります。
建物の南側には奥行きのある実家の庭があり、ここも居間からのアクセスそして眺めを前提に手を入れていただく予定となっています。また隣接して公園、神社の杜がありますので、居間からは緑の風景が、庭先から空にとけ込むまでつながることになります。
はじめて敷地に立ったのは2010年10月11日、最初の打合せの時でした。快晴の中、敷地内にはたくさんのマリーゴールドが黄金色の花をつけていました。道路に面して4台分の駐車スペースがあり、お花畑との間には藤の木が生垣を作っており、藤の葉の間に花が見え隠れしており、まち中に一つの風景を作っていました。
道路に面して3台分の駐車スペースが前提条件でしたので、ちょうど藤の生垣があった所から建物が建つことになりました。当時、藤と季節ごとに花開く草花による生垣の変わりとなる、建物の表情について想いを凝らしたことが思い出されます。(柴睦巳)
KOさんとの出会いは2010年3月中旬に諸塚村で行われた「森の感謝祭」です。毎年この月に行われており、私も第一回目から産直住宅の取組をパネル・模型等で紹介しています。私のコーナーに来ていただき、熱心にバネルを見ていただきました。村内の産直住宅の担当者からもお話を聞かれ、8月下旬に事務所にお見えになりました。その後、宮崎市内のUEK邸、HIG邸を見学していただき、10月から計画をスタートする事になりました。
敷地は高鍋町内、ご主人の実家に隣接した場所です。町内は現在道路の拡幅工事,それに伴う建物の建替え等が行われています。本来は県内でも歴史ある城下町の一つであり、高鍋城跡、家老屋敷黒木家住宅等整備されている場所はありますが、町中の建物はその姿を変えつつあります。時代とともに変化するのは、ある意味仕方のない事なのかもしれません。ただその地域の記憶や特性を抜きにした経済性優先の整備のやり方にはおおいに疑問を感じてしまいます。
KO邸の計画にあたって、敷地形状と要求される諸室内容により建物は総2階建とし、前面道路に面する北側に駐車スペースと駐輪場を設置し、外観としては屋根形状を平入とし、1階部分にも下屋を設置し、道路側壁面に町屋をイメージさせる面格子を町並みの記憶要素として1・2階共に設置する事にしました。
過去の様式を参考にする事には賛否両論あるかとは思いますが、建物が記憶の風景の一部としてとけ込んでくれる事と願っています。新たな時代に向かう時に、現状と前を見て進むのも一つの方法ですが、現状から以前の事柄を確認しながら前に進む事も大切だと思っています。
(柴睦巳)
□北東面
前面道路より東面も見えるため1階の開口部には北面と同じ縦の木格子を設置しています。2階は採光を優先して開口部には格子を設置していません。当初は均等長さの格子で考えていたのですが、最終的には親子格子に変更しました。シンプルな外観にリズムがでて良い立面になりました。
□ 動線計画
台所から洗面脱衣、浴室、干場と水廻りを1箇所にまとめています。家事は毎日の事ですので、できるだけ能率良く使いやすくなるようにしています。
また、買い物からの帰宅時に居間を通らずに台所に直接出入りできるように部屋の配置をしており、融通性のある動線を計画段階から考えています。
□ 子供室
将来、家族構成の変化に対応出来るように子供部屋を3つ確保できる状況を。と要望がありました。その為、子供室2を2つに間仕切れるように出入り口を2つ設けています。また、子供達の独立時には子供室1と子供室2を1つの部屋として使えるように続き間で子供室を配置しています。
□ 北面(写真 上3枚)
左から上棟時、真ん中が屋根に瓦が乗ったところ、右が下屋部分に瓦が乗り外壁断熱材を敷込み後、防水シートを張ったところです。屋根はわずかですが、ムクリをつけています。
□ 3D(北面)
全面道路からみたところです。手前の小屋が駐輪場で、駐輪場の向い側が住宅への玄関となります。住宅の北側一面に縦の木格子を設置しているのに対して駐輪場は横の木格子をつけています。道路から見た時に住宅と駐輪場の対比が上手くバランス良く見えるのではないでしょうか。屋根には住宅と同じ瓦を乗せています。
□ 原寸模型(写真 右)
ムクリを検討するために棟梁が原寸図を書いていました。少しでも軒先が低くなるようにムクリの曲がり方を打合せして決めて行きました。
□ 屋根工事(写真 右下)
屋根の野地板を張っているところです。ムクリが正確にでるように板を乱に張っていきます。
□ 金丸棟梁(写真 右下)
今回の現場で担当していただくのが3件目になります。金丸棟梁はじめ大工達は仕事の効率が良く、現場の進み具合が遅れることなく、良い仕事をしてくれます。
□ 建築計画
高鍋町は今だに多くはないですが、城下町の面影を感じる町家の街並が残っており、今回の計画敷地はその一角に近接しています。敷地周辺を歩くと道路面に対して木造の門を設けた家があったり、道路に近接する開口部には木格子を設置していたりと、何かなつかしい雰囲気をもった街並がわずかですが、残っています。今回のKO邸ではその古い街並の雰囲気を壊さず上手く、街の風景として溶け込み、この土地だからできる家作りを提案させて頂きました。
□ 3D 食堂・居間
階段、通路、書斎、和室を含めて一つの大空間ができあがりました。また、吹抜けやテラスを含めてさらに開放感のある生活の場になるのではないでしょうか。
(葛迫和人)
▼ 川南町 川南の平屋 ▼
敷地は川南町の田園地帯、北西方向に望める尾鈴山系の裾野まで畑が広がっています。敷地面積は157坪、外部空間を考慮しても十分の広さがあります。建物は大地にしっかりと根をおろした平家となりました。
配置計画にあたっては、道路との関係で北側に進入路を整備し、玄関アプローチ・駐車場・駐輪場を整備しました。南側に広い芝生の庭を確保し、日当たりの良い所に菜園を予定されています。東隣地には2階建住宅がありますので、東側に駐車場、外部物置等を配置し隣家との距離を確保しました。
平面計画にあたっては、生活のメインとなる居間・食堂・台所を一つの空間とし、和室と共に陽当たりの良い南側としました。和室は居間と1間半の巾でつながっており、建具を壁内へ引込むと居間と同じ空間となります、また床を一段高くすることで、畳に腰掛けることのできる場所としました。
食堂には作り付けテーブル(巾=900・長さ=2100)を台所流しと一直線上に設置しました。片側に3人がゆったりと座れる大きさです。テーブル西側にはカウンター収納を食堂から台所まで4間(長さ=7160・巾=450)の大きさで設置し、台所用品だけでなく、オーディオ機器、ファクス電話、家庭常備薬、電話帳、各種ファイル等が収納できます。台所部分には各種用品と合わせてゴミ収納の専用スペースを準備しました。
台所の北側出入口からは、玄関ホール、寝室、そして水廻りへと行き来ができます。寝室との間の通路は、両側にクローゼットを5カ所(1カ所の長さ=900・奥行き=550・高さ=2000)設置しました。西側には洗面脱衣を設置し、北側に浴室、南側に勝手口を兼ねた洗濯物干場を設置しています。土ボコリの混じった季節風、地域特有の香り、そして何より天気を気にせずに干せる場所は日常生活にゆとりを与えてくれます。防犯性を考慮した開放窓、直射日光の調整ができるトップライトも設置しています。
NAさんとは5年前の住宅見学会の時にはじめてお会いし、その後機会あるごとに私の関わった住宅を見ていただきました。住まい方に関する考え方、自然な木材・材料の使い方等、十分に理解していただき計画をスタートできたと思っています。計画から設計、施工とそれぞれの段階でもご家族の日常生活を確認しながら、住まいづくりを進めることができました。2011年のクリスマス前に引越をされました、2012年から新居での日常生活が豊かな日々であることを願っています。
(柴睦巳)
NAさんとの出会いは2006年11月に行った、宮崎市内のOT邸・HI邸の住宅見学会の時です、その後2007年9月の高鍋町内K邸の見学会にも参加していただきました。参加のきっかけは、ホームページ内の案内を見られての応募だったと思います。
見学の時には、お父さん、ご友人も参加されており、みなさんで色々とお話しされていたのを記憶しております。当時まだ敷地は決まっておらず、川南町内のご主人の実家近くで探しておられるようでした。
2010年8月に候補となる土地が見つかったとの連絡をいただき、月末に事務所にお見えになり、そして9月中旬に現地確認を行いました。町内の国道10号線近く、畑がどこまでも続く広々とした一角にその土地はありました。南側道路との間には桜並木があり、広さは150坪、建物は平屋、そして外部には2台分の駐車スペース、子供達が走り回れる庭、家庭菜園とのご希望を満足してくれる広さがあり、実家まで歩いても5分程度と理想的な敷地でした。
ただし、もともとが畑であり、宅地とするためには農地から宅地への転用手続き、そして水道,排水,電気、接道とクリアーしなければならない事がありました。一つ一つを地主さん、役場の担当課との協議を重ね、ようやく2011年4月に着工の運びとなりました。すでに開発された住宅用地の選択だけではなく、ご家族の希望される生活を前提とした敷地選びの大切さを感じました。
(柴睦巳)
□ 模型(西面)
天窓がある部屋は洗濯物干場になっており、西面の開口部は上下に分かれ、上が引込み建具、下がルーバー窓となっており、天候に対応できる使い方ができます。左側の板張りの塀は坪庭を計画しており、浴室と寝室から眺めることができるようにしています。2つの部屋から視線が重ならないように開口部の高さを変えています。
□ 模型(南面)
今回は初めて既製品の人間模型を設置して撮影しました。人のスケールが入ることでより建物のボリュームが分かりやすくなっています。
□ 配置・平面計画(上 配置図)
計画敷地は十分な広さがあり建物を北側に寄せ、できるだけ南側を庭として有効に使えるように配置計画をしました。建物への進入路は北東側からとなり、建物の形状も進入路に合わせて雁行配置のような形になりました。建物南面にはデッキに面した食堂・居間、濡縁を設けた和室、駐車場より行き来出来る通り土間を配置しています。通り土間の土間床はデッキ部分まで回しており、居間、和室前の犬走りはテラスとしての機能を持ち合わせることができ、庭と絡めた生活の繋がりが広がって行きそうです。
□南立面
南側下屋の屋根を片流れの大屋根にコーナー部分で入母屋として繋げています。片流れ屋根の一番高い所には居間が配置され、妻面にはFIXガラスをはめ込み建物内部まで自然光が行き渡るようになっています。書斎、玄関、物置、駐輪場の天井裏は小屋裏収納として使えるように床を張っています。また、玄関小屋裏の東・西両面には室内に溜った熱を外に出す為にルーバー窓を設けています。切妻と片流れの2つの屋根をうまく絡め、平屋らしい表情のバランスがとれた立面になっているのではないでしょうか。
□ 起工式(上 写真)上棟式(左 写真)
4月15日に起工式を行いました。NAさんご家族、柴所長、現場監督、施工業者社長が集まり、神事後には敷地四隅に米と塩をお供えしました。7月24日には上棟を迎え、台風の影響で1週間延びましたが、その分、良い天候に恵まれ気持ちの良い上棟式となりました。
□ 木材確認(下 写真)
佐坂棟梁の作業場にて構造体となる木材の確認、打合せを行いました。1本1本、棟梁の墨付け後、大工により刻みを行います。大変手間のかかる作業ですが、建物の善し悪しを決める大事な工程です。家作りに対する想いの交流になればと考え、建主さんにも確認して頂いています。
□ 3D(南面)
部材1つ1つに奥行きを与え、3Dを作りました。1つ1つの材を拾って行くので部材寸法を確認するのに役立つ作業です。
□ 3D(食堂・居間)
レンガ表現しているところは薪ストーブを設置します。薪ストーブの反対側が書斎になっておりその隣には子供室があります。登り梁は方杖を補強材として入れて、120×240@910を2間とばして架けています。
□ 3D(居間・食堂)
居間と食堂の空間分けをするために、居間は屋根の野地板を天井としており、食堂は天井板を張っています。
□ 3D(居間)
居間から続き間となるように和室を設けています。和室は床高さが35㎝高くなっています。居間から腰掛けるには程よい高さになっています。
□ 感想
NA邸は用途地域の指定がなく、制限にしばられる事なく自由に計画ができたのではないでしょうか。そのため、計画から良い住宅が提案できるようにいくつもの模型を作り検討を行いました。年末には完成予定なので、この地の新しい風景となることが楽しみです。
(葛迫 和人)
▼ 宮崎市 中西の家 ▼
NIさん夫妻との出会いは、旧住宅の雨漏りへの対応、そして住みづらくなった内部改装のお話があった2004年5月です。また奥さんとの出会いは私が10才の時までさかのぼってしまいます。最初は、屋根の全面葺き替え、そして内部も構造体だけを残しての全面的な改装を行うという事で話が進み、それに基づき図面を作成し、施工業者数社に見積をお願いしました。結果的には旧住宅を解体し、新たな家族構成を前提に建替えることとなりました。
当初3人家族であったのが、時間の経過の中で5人家族となり、また旧住宅を生かした改装を望まれていたご主人の気持ちに変化があったようで、孫が生まれ、将来の子供世帯との同居の可能性を考慮され、新たに建替える決心をされたようてす。家を作られるのは今回で数件目になるご主人、さぞや家づくりに関するこだわりが各所に出てくるのではと思いましたが、意外にほとんどのことを私にゆだねられました。ただし旧住宅の床柱(黒檀)、玄関ポーチの独立柱(榧の木)の再利用、そして木戸口の「むかえ松」を残すようにとのお話がありました。
2010年8月4日に施工者との工事請負契約を行い、旧住宅の解体後の8月26日に起工式を行いました。翌日の27日には諸塚村へ使用する木材の確認のため、NIさん夫妻と、現場監督、大工棟梁と一緒に出かけました。諸塚村では役場の担当者、木材加工場の工場長に対応していただき、倉庫に積まれた梁・桁・柱材を直に見ていただきました。その後工事も順調に進み、11月3日には上棟を行い、翌年4月末に予定より少し遅れての完成となりました。施工者よりの引渡が終了し、5月の連休明けより久富氏による作庭作業が本格的に始まり、梅雨明けの6月末に終了しました。
昨年(2010年)の3月5日に設計監理委託契約をお願いし、1年と3ヶ月後に植栽工事を含めてすべてが終了しました。旧住宅では室内と庭の直接的なつながりがありませんでした、今回広いウッドデッキを介して居間・台所と庭がつながっています。本日の午前中、所用で新居へお邪魔していたのですが、台所の広いテーブルに座りながらご家族との談笑のなか、何気に目線が庭の樹々に移ります。室内とデッキそして庭へと奥行きの深さを味わいながら気持ちの良い時間を過ごさせていただきました。
(柴睦巳)
□ 外観
前面道路よりみたところです。緑が入り住宅が落ち着いてきました。
□ 駐車場
駐車場の松の木と岩は以前住まわれていた住宅の一部をそのまま残しています。格子塀前の植栽がもう少し時が経ち、成長した時が更に良い表情になるのではないでしょうか。
□ 玄関ポーチ
駐車場より6段の手摺付き階段を上がると玄関へアプローチできます。玄関への出入りが外から覗かれないように駐車場と住宅の間には横格子の塀を設けています。
□ 玄関アプローチ
駐車場よりのアプローチ部分です。床は豆砂利の洗い出し仕上げに目地切りをいれています。門灯には表札シールを貼る予定です。正面の長方形のステンレスは郵便受けになっており、外壁に埋込む事で、投入後自動的に室内に届けられる様になっています。室内側には、受け場所として棚を設置して、郵便受け口から室内が覗かれないように一工夫しています。
□ 作庭
今回もお庭は久富作庭事務所にお願いしてもらいました。NIさんがいくつか所有していた石臼を庭の至る所に水鉢として再利用してもらいました。切石の平積みは見事な物ができていました。
□ 駐輪場
道路境界にそって駐輪場を設置しております。外壁と屋根も作り自転車4台分は十分に止められる広さを確保しています。家を作るときに自転車を止める場所を考えずに、結果、軒下等に無理矢理、駐輪しがちですがしっかりと計画段階から駐輪場所の打合せをして、スペースを確保しておくのが設計事務所と家を作る利点の1つなのかもしれません。
□庭
デッキからこの風景を見ることができます。中高木から灌木、下草とそれぞれの目線高さにあった植物を植えることにより、隙のない自然な庭が出来ています。
□2階ベランダ
ベランダには天窓を設けており、天窓からFIXガラスを介して居間に光が差込むようにしています。ベランダ下は1階デッキになるため、床材は目透かしで張っています。
□ 庭
デッキ前にある、石臼を利用した水鉢です。水の落し方も既存の石を使い上手く組み合わせて作っています。また、水の排水口を見せない様に砕石で隠したりと至る所で庭の世界の奥深さが見られます。
□ 干 場
台所から出入りできる洗濯物干場には屋根をかけて天窓を設けています。半屋外的な造りをしているので干したまま雨が降ってきても濡れることはありません。干場には多目的用流しと洗剤や柔軟剤をおける棚、洗濯物を干す時、取り込む時に一時的に洗濯物を置けるカウンターを造り付けています。室内の脱衣室に洗濯機を置く場所は確保しておりますが、干場にも設置できるようにコンセントと水栓をとっております。
□ 濡 縁
干場の奥には和室前の濡縁に繋がっております。濡縁は主に布団干し場の役目を持っており、天気の良い日には和室から濡縁にでて手摺に布団を干せるように手摺高さの設定をしています。半間ごとに手摺振れ止めの為に間柱を立てています。
□ デッキ・干場
デッキと干場の出入りは横格子の一部を扉としており、簡単に開け閉めができ、出入りが自由にできるようにしています。また、デッキと干場は室内と同じ床高さとなっており、より一層動きやすいように床高さの設定をしています。洗濯物干場の横格子は干してある洗濯物がお客さんなどから見えないようにの工夫でもあり、意匠的な意味合いも兼ねて設置しています。
通常完成編で内外共一緒にまとめるのですが、NI邸は住居部分で80坪近い面積がありますので、内外それぞれでまとめることにしました。外部編は植栽等の作庭工事が終了した時に改めてまとめます。
この住宅には工事件名に社屋という名称が入っています。住宅だけではなく、事務所機能を一部取入れてあり、そのことも面積が大きくなっている要因です。玄関を入ると、南北に長い玄関とホールがあり、正面には明かり取りを兼ねた飾り棚、そして右側には下足・傘等の収納スペースが玄関からホールまでと続きます。
その間にある引き戸を開けると事務室があります。内部には南側に事務用カウンター、北側にはカウンター収納がぁり、中央には旧住宅の応接室にあった、重量感あふれる木製応接セット、たくさんのガラス玉からなるシャンデリアがあります。以前の応接室とは違いますが、この椅子に座ると旧住宅で、色々と打合せを重ねた日々が思い出されます。NI家の住まいの歴史が引き継がれているようです。
玄関ホールの反対側が住まいとなります。ホールに面して居間、通路へのそれぞれの引き戸があり、各室につながっています。住居部分の計画にあたっては、日常生活を優先とするプランになっています。回遊性のある動線、南面する居間・台所からウッドデッキを通して庭へのアプローチ、台所から直接アプローチする雨の日にも干せる洗濯物干場スペース、そして寝室の南側に設けられたお布団干場、趣味の部屋の奥に設けた広い収納スペース等、日々の生活をデザインしました。
(柴睦巳)
□ 食堂・居間
台所からみると食堂、居間が一望できます。また、目線を南側に向けると庭が眺めることができます。従来、日本の家の台所は日の当たらない、奥まった場所にありがちでしたが、見せたくないところを見せないように工夫することで人が集まる場所に配置することができ、日々の生活が格段と楽しくなるように思います。
□ 廊下
台所から便所、脱衣室につながる廊下です。建物北側に位置するため、天井には天窓を設けています。天窓にはスライド障子を入れ光の差込みを調整できるようになっています。
□ 手摺
和室(寝室)から通路を通り便所への動線には手摺を設けております。
歳を重ねるごとに睡眠中の排尿が頻繁になり、寝起きの体調でも行きやすいように便所はできるだけ寝室に近い位置に設置しています。
□ 和室
床柱は既存住宅で使用していた床柱を磨いて再使用しています。和室のアクセントとして上手く馴染んでいるのではないでしょうか。
□ 応接間
事務作業スペースとしての使い方をする部屋となります。玄関から入って一番近い位置に配置しています。シャンデリアは既存住宅にあった物を綺麗に磨き使用しました。思っていたよりも違和感がないものですね。
□ 洗面・通路
洗面室は2階へ上がる階段に近い位置に設けました。2階で就寝をするご夫婦とお子さんの生活を考えると、寝起き後に階段から降りてきて、この場所で洗面をすることになるかと思います。その時に玄関附近や居間、食堂といったパブリックな場所を通らずして洗面ができるといったプライベートな場所になるように動線分けをしました。洗面器を2つ設置していますが、親子並んで鏡を覗き込む朝の風景が目に浮かんできそうです。
□ 居 間
玄関ホールから居間建具を引込むと、この景色が目に飛び込んできます。食堂と居間を合わせると24.5畳程度の広さをもっており、ゆったりとくつろぐのに十分な広さを確保しております。今回、居間、食堂は大壁で仕上げおります。今までの住宅とは少し違った表情を持つ内部になっております。1階障子は引込み障子になっており、開放するとデッキを介して庭が眺められるようになっています。作庭を庭師の方にお願いしていますので、庭もしっかりと完成する時が非常に楽しみです。
□ 子供室・クローゼット(写真 上)
2階の子供室から見える外の景色は大変良く、この建物で一番眺めの良い場所なのではないでしょうか。子供室にはクローゼットの奥に書斎コーナーも設置しております。化粧筋交と棚を絡めてTV台を造付けています。
□ 食堂テーブル
食堂テーブルは00×00の物を製作してもらいました。このテーブル大きさに合わせて吊り照明を3つ設置しております。
□ 食 堂
食堂と居間が同一空間にあり、空間分けをするために天井の高さをかえています。棚上部にあるガラス障子を開けると台所につながり、食事の準備をしながら、テーブルに腰掛ける家族と会話ができるようになっています。寒い季節に薪ストーブに火が入るとさらに良い雰囲気になるのではないでしょうか。
□ 今回は来年(平成23年)3月に完成予定の住宅模型を紹介します。
最近は、一つの計画に対して2〜3個と模型を作る事が多くなりました。多い時はそれ以上作る時もあります。これだけ、CADや3Dといったコンピュータソフトの進化が向上して完成する住宅とほとんど変わりなく、画面上でプレゼンテーションできる時代になりましたが、やっぱり基本は模型を作る事にあると思っています。なによりも目の前に形としてあり、触れる事ができ容易に見たい部分が確認できる。建主さんにとっても一番わかりやすいものなのではないでしょうか。コツコツと作り上げてきた模型が事務所には多くあります。毎回、収納スペースの確保に困っているぐらいです。是非、ご覧になりたい方はお気軽に事務所に訪ねてみて下さい。
□ 改装計画(写真左3枚)
計画当初は既存住宅の改装を前提に計画を進めておりました。その時の模型写真です。事務所を兼ねた住宅なので収納スペースが占める割合が多く、台所・食堂・居間を一つの部屋に集約して開放的な生活の場を提案しました。また、洗濯物の専用干場を増築し食堂に面したデッキと洗濯物干場を繋げています。その後、改装ではなく新築にしたいとのことで、住宅の建て替えに向けて計画が進んで行きました。
□ 新築計画案A
計画が新築に変更し、下の計画案Bと、この計画案Aの2つの模型を提示しました。この住宅は2世帯が一つ屋根の下で暮らすという事で提案しました。最終的には計画案Aを基本として計画を進めて行きました。
□ 新築計画案B
住宅を2棟、平行配置し玄関で繋げたロの字型のプランを提案しました。左の模型写真から分かるように2棟の間にはパティオを設けています。2世帯の一つの提案として棟を2つに分けた場合として模型提示しました。打合せを重ね、いろんな可能性を探りながらその家族に合った生活の場を提案し、形が決まっていきます。その為には異なる形の提案をすることも必要なことです。
□ 最終決定案
前面道路に面して2台分の駐車場を確保し、自転車専用の駐輪場も計画しています。計画案Aに比べ、食堂の位置、門扉の位置と駐車場から玄関へのアプローチが変更しています。駐車場南東部分にある松の木は以前の住まい時よりその場所にあったものをそのまま残しております。この敷地を最初に訪れたときに住宅の迎え松として、とても印象的な存在でした。
前面道路は幹線道路へとつながる細い抜け道の為、地元の方達の利用が意外に多い道路です。その為、道路に対して十分な引きをとって住宅を配置しました。
□ 南面
南面に居間・食堂・干場・寝室を配置しています。外部との境界にはデッキを設けており、庭とのつながりを考えて計画しています。生活の中心となる場所からデッキやベランダを通して庭が眺められるというのは、家の中に居ながら生活が豊かになります。予算の都合が合えばできるだけ、提案したい部分でもあります。門扉は隣地住宅との行き来が頻繁あるために、設けています。屋根に煙突が付いておりますが、薪ストーブを居間の一角に置く予定です。
□ 感想
柴設計に勤め、社会人1年目に改装計画の話があり、それから6年が経ちました。建主さんの考え抜いた決断で母屋を解体撤去をし建て替えるということで、長年の思いが現在、着々と形になってきています。11月3日には上棟を迎える工程となっています。建主さんの長年の思いを背負い、図面として線を引き、そして、現場の職人さんの技術を駆使して形が出来上がっていきます。どの現場でもなにかしらの問題点や改善しないといけない点が幾つか出てきます。その中で自分にも建主さんにも、誰に見せても自信を持って良いものができたと言える家。そういう、家づくりをこれからも大切にして取り組んで行きたいものです。
(葛迫 和人)
▼ 福岡県 宗像の家 ▼
建築主Bさんとの出会いは、知り合いの設計事務所のN氏からの電話で始まりました、「現在,横浜在住の方で、福岡県に家を建てたいと、相談を受けているが、相談に乗ってやってはくれないか」という大変ありがたいお話をいただきました。そして2010年2月にはBさんから直接メールをいただきました。ご主人の定年退職を機に奥さんの実家の家を建替えたいというものでした。すでに大手メーカーハウス.地元の住宅産業に相談をされていたようですが、懇意にされていたNさんに相談されたところ、私に声をかけてみるとのことだったようです。
敷地は宗像市の古い団地内で奥さんの生家、増築を重ねた2階建の住宅があり、庭には大切に育てられた樹木、いたるところに思い出の詰まった場所です。既存住宅の改装も考慮されたようですが、もともと丘陵地を造成した場所で地盤があまり良くなく、住宅はその影響で少し傾きがあり、地盤を含めての対応となると建替えを前提としなければなりませんでした。希望される家は「子供達はすでに自立しているので、二人の生活を大切にし、そして先代からの仏様を守っていきたい」とのお話でした。
はじめてご実家を訪ねたのが2010年の3月中旬でした。庭の梅の木に花がちらほらと咲き始めていました。居間の掃き出し部分に立ち,庭から道路そして東西の隣地に目をやると、一段上がった東隣にはたくさんの実を付けたみかんの木があり、また一段下がった西側のお宅には、早咲きのサクラに芽吹きが見られました。この時漠然と、日常の生活の中で自然と目に入る光景は、南側の庭と、西隣のお宅の庭にしようと思いました。丘陵地の団地特有の掘込み車庫は新たな擁壁に変え、駐車場は玄関アプローチとの兼ね合いの中で計画をしようと、土地形状より大方の敷地内のゾーンニングを考えました。
歴史ある団地内で際立った建物ではなく、以前からそこに存在していたかのような「住まい」になればとイメージしました。現在建物が完成し、これから植栽工事が始まります。以前あった思い出深い樹々は大切に移植されおり、もとあった場所に帰ることを楽しみにしているようです。家と庭がそろった時に再度訪れようと思っています。
(柴睦巳)
□ 和室(写真 右)
居間からの続き間となる和室です。コーナー窓からの眺めが気持ちが良いです。計画段階よりこの場所からの視線の抜けをいかに住宅内部から見れるかが、プラン決定に大きく影響しました。
□ 食堂・書斎(平面図B)
食堂テーブルと書斎机を一体的に造り付けました。過去、柴設計の住宅を振り返ってもこのタイプの食堂テーブルは初めてです。ほとんどの住宅が台所とのつながりの中でキッチンユニットと造り付ける事が多いのですが、今回はテーブルの自立性を前提とししてみました。
□ 居間・和室(平面図D)
居間から和室をみたところです。和室と対面するように台所を設けています。台所と和室の開口部には引込み建具を設置しており(写真では開けている状態)、和室を客間と使用するときなどは間仕切れるようにしています。
□ 平面配置図
配置計画は住宅ボリュームを北側にできるだけ寄せて、庭と車3台分のスペースを確保するために前面道路に面する南側のスペースが広くなるように配置しています。平面は南側の庭に面した場所に食堂・居間や和室、駐車場からのアプローチとなる玄関といったパブリックな機能を持つ部屋を置き、北側にはプライベートな部屋となる寝室や洗面脱衣、納戸を持ってきています。北側と南側で公私の使い分けをすることにより、知人の来客時に気兼ねなく普段の生活のまま迎え入れることができると思います。また、便所を2箇所設置して、1つは玄関近く、もう1つは寝室の近くへと設け、洗濯物干し用の干場を設けたりと生活していく中で不便な部分にストレスを感じることなく生活できるように提案させて頂いています。
□ 書斎・食堂(平面図G)
書斎から食堂、台所をみたところです。食堂に腰掛けると居間、和室、台所そして外部とすべてが見渡せ、とても気落ちのいい場所であり、ゆっくりと時間を過ごせ、思わず長居したくなるような気持ちになります。
(葛迫和人)
□ 今回は福岡県宗像市で家を建てられたB邸の棟上げまでの家作り過程を紹介します。
現場が遠隔地という事もありましたが、現場が着工してからは月に3回ほどの現場打合せを重ね、不足部分は電話やFAX、メールでのやりとりを行い、大きな問題なく着々と進行して行きました。
写真は1/50模型ですが、1/100模型も今回は作り3方向の隣地住宅を作り隣地からどのように見えるのか、また住宅から外部がどのように見えるのかを検討しました。周辺住宅密度の高い住宅地では周辺状況まで含めて建物を考えないといけないので、模型の果たす役割が大きいと思います。
□ 地鎮祭(右 写真2枚)
既存住宅を解体撤去し、擁壁設置後、敷地を更地にし、9月20日に地鎮祭を行いました。地鎮祭にはBさんご夫妻、ご夫妻の親族、梅野工務店社長、柴所長が参加され、工事の安全を祈願しました。
□ 福岡建築住宅センターにて建築確認申請の事前相談に行った際、既存擁壁について指摘されました。既存住宅の擁壁は1.6m以上のコンクリートブロックを使った擁壁だった為、現在の基準法では容認できないとのことでした。コンクリートブロックも老朽化したりひび割れしている箇所があったので建主さんと相談して、L型擁壁の設置に至りました。下の写真2枚がL型擁壁設置工事途中写真です。
□現場棟梁の梅野氏が青焼き図面を参考に構造材の伏図納まりを再確認しているところです。今までの現場でもっとも年齢の若い棟梁です。「登梁と棟木取合いの所を苦労し、良い経験になりました」と後日言っておりました。
□ 上棟
一気に棟木まで上げて行きます。上棟の日は毎回ですが現場に職人さんも多く、何かいつもとは違う活気があります。この現場では上棟の日には、皆さん赤いタオルが手渡され、腰に下げたり、肩にかけたりしていました。昔から梅野工務店では当たり前のようにしている習慣みたいです。
□ 赤いタオルについて調べたところ
1.どうしても大工仕事では怪我をすることが多い。
2.怪我して出た血で現場を汚すわけにはいかないので、すぐに何かで覆いたい。
3.出血したこと自体が目立たないようにしたいので、最初から赤い手拭いやタオルを用意しておく。
という、説がありました。
□ 感想
今回は県外、福岡県での工事現場でした。現場には完成までに計4回行く機会がありました。現場調査を行い、宗像市役所にて調査済証の発行、確認申請の事前確認、金物検査の現場事前確認、完了検査受付の4回でした。片道4時間のバスで往復8時間、一日の大半が移動しているみたいな感覚でしたが、現場に行くのが毎回非常に楽しみで、それぞれ違った現場状況が見れたのが良かったです。以前は鹿児島県での家作りがありましたが、今の時代、距離間がほとんどなくなっているような気がします。近くにある現場より確認できる回数が少ないのは確かですが、その中で事前にしっかりと準備をして上手く対応していくことが距離に関係なく良い家作りができると感じた現場になりました。
(葛迫和人)
▼ 延岡市 三須の家 ▼
HI邸は近辺に田畑が残る集落内にあり、昔ながらの近所付き合いの残る人情も緑も豊かな場所です。周辺には民家が残り、隣近所同士のお付き合いの場所は縁側であり、また前庭に面した部屋の掃き出し窓の所です。計画打合せ途中にも近所の方が穫れたての野菜を持参されたことが数回ありました。
敷地南側には家庭菜園が隣接しており、退職されたHIさんは毎日のように菜園に出ては野菜の手入れをされています。庭を囲むように住宅、納屋、倉庫、菜園があり、庭の役割は一般住宅のものではなく、農家の作業を行う場という使われ方になります。また車は庭を通り納屋に駐車されています。今回の計画は住宅のみの建替えということで、車庫として使われている納屋と倉庫は以前のまま使用することになりました。
庭に面して、玄関・居間・和室・書斎を並べ、居間と一体となった食堂・台所を北側に並べ、玄関ホールとつながる冷蔵庫置場を東側に、北西側には階段、便所、洗面脱衣、浴室を、そして西側奥に納戸を計画しました。2階には寝室を2部屋南側に並べ、便所、洗面、階段、小屋裏収納スペースを計画しました。
建物内の通風を考慮し、居間及び納戸の吹き抜けに面する寝室、小屋裏収納には床の高さで「無双窓」を設けました。個々の部屋を空調換気設備に頼るのではなく、自然の風の流れをいかに取り入れ、そして室内での流れを作り、そして外部へと導く工夫が自然にできればと考えました。外部に面する窓としてルーバー窓を採用しています。外に面格子を設置する事で、防犯上、台風時への対応は十分に行え、外出や就寝時の通風が安全に確保できることは何よりです。また夏場、室内の暑い空気は吹抜けにより自然に「越屋根」へと導かれます。越屋根には同一方向に対面するルーバー窓を設置し、通り抜ける風が室内の暑くなった空気を外に排出するようにしています。
これら「無双窓」「越屋根」は民家で培われてきた先人の知恵です、民家にはまだまだ学ぶべき事がたくさん残されているようです。ルーバー窓、水廻りの住宅設備機器等の新しい住宅建材との組み合わせにより、より快適な住まいの提案はまだまだ可能性があるようです。
(柴睦巳)
□ 居間・和室(写真 上下)
上下の写真は和室の建具を閉めた状態と開けた状態です。建具は全て壁戸袋の中に納まるようにしています。2階は吹き抜けに面して、寝室、そして小屋裏部屋があります。それぞれの床レベルには通風を考慮し無双窓を設置しました。居間の中央には化粧タイコの大梁をかけ、吹き抜け南側の高窓のある壁を支えています。
□ 居間・食堂(写真 下)
食堂カウンターは造作とし大工工事として造り付けています。柴設計のほとんどの住宅でこのように台所の延長に食堂カウンターがついております。食堂カウンターは家族が唯一、顔を向かい合わせて集まる場であり、大切にしたい時間の一種なのではないでしょうか。そのため、食事を準備する人だけがその場から離れた場所にいるのを防ぐ為にもこのような対面式の食堂カウンターを提案させて頂いています。
□ 食堂・台所・居間(写真 上)
居間は吹き抜けとなっており、化粧のタイコ梁で受ける桁の上に3カ所の高窓を設け、居間・食堂・台所の広い空間への採光を確保しています。台所は対面型となっているので、居間を通して外の風景を眺めながら家事ができます。
□ 2階寝室(写真 左)
居間の吹抜けに面した2階寝室です。写真を見て分かるように開口部の下には通風と熱換気の為の無双窓を設置しています。また、天気の良い日には簡単に布団が干せるように窓の外部に手摺を設置しています。計画段階での建主さんの要望により設置しました。2階建ての住宅の場合、バルコニーなどが確保できない場合はこのような手摺を設置するだけで十分な布団干しを兼ねてくれます。
□ 玄 関(写真 下)
玄関床仕上は豆砂利の洗い出し仕上に目地切りをいれています。下足入れの中には傘掛け用のSUS製パイプも設置しています。また、棚は可動棚にし長靴の高さが高い靴も収納できるようにしてます。
□ 和 室(写真 下)
居間との続き間となる和室です。通常、和室天井にはよしずボードを張る事が多いのですが、今回は化粧合板張りを使用しました。床框には建主さんの支給品を加工して設置しました。
干場を兼ねた勝手口です。敷地北側には擁壁があり、日中は住宅への太陽光の照り返しがあります。その照り返しを利用して洗濯物を乾かす空間を北側に設けました。庇は敷地境界ギリギリまで延ばし、現場での調整をしてもらいました。また、勝手口からは台所に直接入る事ができるので、採れたての野菜を勝手口の流しで土を落し、台所に搬入することができ、とても便利です。
□外構 敷地は田や畑に囲まれた集落内にあります。敷地南側には隣接した菜園があり、それに接して道路があります。道路を歩く近所の方と何気に言葉を交わし、また縁側でお茶をいただく、そんな雰囲気が残っている場所です。縁側の高さを腰掛けるのに程よい400にしています。客土部分は間もなく緑の帯となり、少しは固い舗装の取合い部分のイメージを柔らかくしてくれると思います。ポーチ・濡れ縁部分は1間の下屋とし、夏の陽射し、そして雨への対応も兼ねています。
□感想 計画当初は平屋での生活を望まれていましたが、限られた敷地の中での建て替えという事もあり、2階建てにしないと必要諸室が納まりませんでした。2階建てとしては高さを抑えた良い住宅ができ、この地域の一つの風景として溶け込んでくれることでしょう。
(葛迫和人)
Hさんとの出会いは、2008年3月16日、諸塚村で行われた「森の恵みの感謝祭」です。会場一角に家づくり相談会のコーナーが設置され、九州の諸塚村産直住宅に取組んでいる設計者、施工者が相談に応じました。Hさんには、諸塚村産直住宅の取組内容、そして計画から設計、発注、工事、完成、引き渡しまでの一連の流れなどをお話しました。
当初は、2010年の春に現在の住まいを新しくしたいとのお話で、一度敷地を見に来てくれないかとのご要望でした。同月の22日にご自宅に伺い、様々なお話をお聞きしました。5月16日には私の事務所に来られ、今までの設計事例について説明をさせていただき、打合せの後、宮崎市内のH邸を案内しました。5月20日にはお電話で、年内に設計契約を結び、来年(2009年)秋に工事着工とし、翌年(2010年)に完成させたいとのお話がありました。7月12日には宮崎市内のMI邸を見ていただき、木造の柱・梁の見出し構造、そして仕上げに杉板を使った場合の感触を肌で感じていただきました。8月20日に設計監理の委託契約を結び、その後2週間に一回のペースで打合せを重ねていきました。
打合せにあたり、HIさんからは、今までの住まいを参考とした「間取り」が提出されました。家のイメージがすでに出来上がっており、提示された間取りを形としてまとめる事を望まれているように感じました。すでにイメージを「間取り」として、かためていらっしゃる場合に、どのように対応していけば良いのか、いつも悩む所です。今回は提示された「間取り」を敷地内になるべく忠実に配置することから始めました。配置する事で平面だけではなく、敷地内の他の建物、アプローチ等との取合いがより分かりやすくなります。改善点を打合せをしながら、より良いものに修正をする作業を重ねていきました。
最終的に決まったプランは提示されたものとは、違ったものとなりました。「間取り」を参考に、こちらから提案した動線計画それにもとづく各部屋ごとの関わり等に、興味を持っていただき、そしてそれをこれからの生活スタイルとして受け入れていただきました。多くの場合、こちらから提案する計画案は今までに生活経験のないプランであり、インテリアとなります。図面や模型で提示はするのですが、限度を感じることがあります。有効な方法の一つとして、今までに作った住宅で、計画案に近い空間を体験していただくことです。今回も計画案に近い住宅に足を運んでいただき、お住まいの家主さんから直接色々なお話を聞いていただきました。
今年の1月28日に工事請負契約を結び、まずは既存住宅の解体工事を行い、2月28日に起工式を行いました。3月31日には上棟祭を行い、現在、外壁工事が進行中で、内部では建具枠等の造作工事が進められています。施工は地元のK建設にお願いする事になりました。現場監督のHさん、棟梁のYさん、そしてWさん、Hさんと熱心に取組んでいただける方との出会いがあり、お盆前には、「素敵な木の家」での生活が始まる予定です。
(柴睦巳)
□ 平面配置計画
今回の計画にあたり、以前から住まわれていた土地の既存住宅を解体撤去して新築するという事で計画がスタートしました。既存の車庫、倉庫はそのまま残すことが前提でした。その為、限られた敷地の中で各部屋の住環境を確保し、既存建物との距離を保ちながら計画案を提示させて頂きました。最終的には敷地の形状に合わせた建物平面を意識しながら住宅としてしっかりと納まっているプランという事で左の平面図プランに決定しました。水周りを北側にまとめ、主諸室を南側へ配置しそれらを中廊下により結ぶといったプランです。当初は建主さんより平屋を要望としてあげられていましたが、必要諸室と敷地の大きさより2階建てにしないと納まらないということもあり、ご理解をして頂きました。
□ 感想
既存の住宅でも生活ができるという状況での立替えでした。年齢を重ねる事で変化する環境や家族構成の変化。又、それとは逆に変化せずにずっと変わらない生活、それらを上手く受け入れられる住宅を提案できたのではないでしょうか。
(葛迫 和人)
□ 建主さんより要望書
・平屋作りにする ・現在の基礎より30㎝程高くする
・屋根はできれば日本瓦にしたい ・既存の太陽熱温水器を利用したい
・玄関は南側中央に位置し、少しかっこよくしたい
・座敷は家の顔なので、力をいれたい ・濡縁を東側に作る
玄関
・南向きで強い日差しを受けるので、金属製の玄関ドアにしたい
食堂玄関
・流しは北側窓側にする
・収納部分に米びつ、ダストボックスを設置する
・食器類が多いので収納棚など丈夫な物入が欲しい
・吊戸は日常的に使う食器が楽に取り入れできる高さにする
・流しの下、水滴の落ちるところには水に強い床材を使用する
居間
・南側に縁側を設置する
・テレビ、電話、サイドボードなどを置けるようにする
・南側の縁側ガラス戸には障子と断熱雨戸の組合せとする
別室
・パソコンなどを使用出来るようにする
寝室
・東側の腰窓は障子、網入りガラス、通風雨戸の組合せとする
・テレビ、化粧台が置けるようにする
・北側の戸は掃出し窓とし、外側には物干場を設ける
便所
・便所は2箇所設置し、1箇所は寝室の近くに
納戸
・既存タンス(2棹)が置けるスペース確保
・衣装箱が収納できる棚を設置する
洗面脱衣・浴室
・洗濯機、洗面化粧台を置く ・タオル、下着の収納確保
・腰壁部分には水に強い材料を使用する
・浴室壁、天井は水に強い材料を選択する
・太陽熱温水器の給水口を浴室に別に設置する
干場
・敷地北側の余裕地に考慮
▼ 砂土原町 高台の家 ▼
敷地は、1970年代に開発された住宅団地の一角になります。宮崎市北部高台の南端、南から西にかけて見晴らしが良く、近くにはお子さんが通われる小学校、中学校の校舎が見え、緑豊かな住宅地が広がり、遠くには市内南側に連なる山々が望めます。
敷地計画にあたっては、広さの割に前面道路との接道長さが短く、駐車スペースの確保をどのように考えるのか、それに合わせて建物の向き、諸室の配置をどのようにするのか、いくつもの案を検討した結果、南側敷地をなるべくオープンなスペースとして残し、その一部に駐車スペースを確保するという事でまとまりました。南側に玄関アプローチ、駐車スペース、庭、菜園等を、そして北側は勝手口アプローチ、駐輪場、温水器、簡易物置等の場所としました。
平面計画にあたっては、日常生活で、中心となる場所はどこになるのか、じっくりと打合せを重ねました。そしてその場所を中心に、それぞれの部屋との関わりを、通風、採光、眺望等の要因を含めて考慮しました。
食堂・台所をほぼ中央に、南側に居間・縁側・和室・玄関を、北側に洗面脱衣・浴室・洗濯スペース・便所・収納・勝手口を、東側に子供室を、そして西側に納戸・寝室を計画しました。また納戸・食堂・台所・子供室に東西方向の風の道を、南側、北側に各々にトップライトによる採光を、台所・食堂・居間・和室に眺望を考慮しました。
居間・食堂・台所、そして水廻りに採光を確保するため南側、北側にそれぞれトップライトを設置しました。南側は夏場の直射日光対策として、トップライトの下にスライド式の建具を設置し、熱気を外部へ導くための工夫をしています。
いつも感じる事ですが、どのような敷地を住まいにするのか、この事は建物の計画に、そしてご家族の生活にも大きな影響があります。今回Aさんは高台のたいへん眺めの良い場所を探されました。もちろん高台としてのマイナス要因もあります。しかし意識せずに何気に目に入るこの風景はなんともうらやましいものです。敷地探しは家づくりの大きな一歩ではと思います。(柴睦巳)
□ 食堂・台所
台所を一つの部屋としてつくるのではなく、家の中心部分に、それぞれの部屋への動線・視線を考慮した作りとしています。また、台所に立つ時間の長さを考え、採光や通風にも気をつけるようにしています。
□ 子供室
子供部屋は畳部屋と板間を間仕切建具で仕切っています。
□ 居間・和室
居間と和室の段差は35㎝あり、腰掛けることが可能な高さになっています。和室には計画段階の建主さんの要望により真ん中の畳を一枚外すと掘りこたつが設置出来るようになっています。居間のガラス戸には網戸を取付け、夏場は雨戸を開放し網戸をしめて気持ちの良い風と外の風景が楽しめます。
□ 水廻り
台所より洗面脱衣、浴室、勝手口と水廻りを近くに配置してまとめています。それぞれを一つの部屋という考え方だけではなく、他の部屋との関わり、そして通風を考慮しての計画としています。台所の東西方向の動線に、その北側に平行に配置した水廻り動線の一部としました。中廊下形式になりますので採光のためのトップライトを設置しています。通路左側には洗面化粧台そして各種収納があり、洗面脱衣の右側には洗濯機置場、浴室、便所を配置しています。
□ 勝手口ポーチ(干場)
雨の日でも安心して干せる干場です。多目的に使える流し、そして洗濯機が置ける設備を付け加えています。
□ 感想
瓦屋根の平屋、そして軒先を深くとり軒先には縁側を。日本に昔からあった住宅の概念を持ち合わせて、その地域の自然環境、風土にあった、各諸室の配置、素材の選択を満足したような家になったというのが率直の感想です。外部、内部をみても古さはまったく感じられず、時代の流れに捕らわれる事のない住宅。そんな家作りをこれからも目指して進んで行こうと思いました。
(葛迫和人)
工事発注にあたり、見積をお願いする工務店をどこにするのか、という質問を受ける事があります。設計打合せが進み、実施図面の作成がほぼ終わる頃、建築主との打合せの確認事項の一つでもあります。まずは建築主よりここにお願いしたいというところがあれば推薦していただきます。そして私の方からも、以前に柴設計の住宅を施工していただき、ここはまちがいないと思われる工務店で、事前に連絡し見積をお願いできるところを推薦するようにしています。今までにお世話になった工務店へ協力できる唯一の事だと思っています。
今回敷地が宮崎県のほぼ中央ということもあり、都城市、えびの市、宮崎市、国富町、日向市、門川町の計11社に見積をお願いする事になりました。以前であれば遠いからと見積を断られていた工務店もぜひ今回はと参加されました。工事件数が少なくなってきている状況によるものかと思われます。工事の発注をいつ行うかということも、その見積金額に反映される可能性があります。
また今回発注にあたっては、見積依頼をお願いする施工者の完成した住宅、または工事途中の住宅を建築主と一緒に見て廻る事にしました。建築主推薦の工務店についても、その事務所、作業場、木材置場そして完成住宅を見せていただきました。見積書を提出していただき、施工者を決定する時の判断材料にするためです。もちろん提示される見積金額は決定の大きな要因になりますが、数社から予定の金額に近い提示があった場合には、見せていただいた住宅の仕上り、現場状況がその判断材料になります。
今回の見積業者間の差額が、4,000,000円ほどになりました。通常ですと柴設計による住宅の施工経験のない工務店の見積金額は比較的高いものとなります。ただしこの見積金額もそれぞれの工務店のその時々の工事受注状況が反映されるようです。今回は経験の有る無しには関係のない見積金額となり、まさに時代の反映を実感しました。柴設計で算出した概算金額に近いところが3社あり、総合的に判断した結果藤田建設さんにお願いする事になりました。工事請負契約にあたっては、監督さん、大工棟梁は、MA邸での施工経験の有る藤田氏、金丸棟梁を前提とさせていただきました。(柴睦巳)
□ 2008年9月6日 HI邸見学(写真 上右)
Aさん夫妻とHI邸を見学に行きました。HIさんご家族は相変わらず住まいを楽しまわれており、庭にはひまわりをはじめとして様々なお花が咲いていました。いつお伺いしても違った表情の景色が楽しめるので完成後もHI邸に行くのが楽しみです。Aさん夫妻も気に入ってもらえたみたいです。
□ 2009年1月31日 諸塚村木材産地ツアー(写真 上左)
Aさんご家族とツアーに参加しました。山林の葉枯らし材を見学し、木材加工センターでは山から運ばれた木が製材として加工されていく工程や燻製乾燥された材を見て回りました。毎年1月の最終週末には諸塚村で神楽が舞われます。その時期に合わせて諸塚村の木材産地ツアーに建主さんと一緒に参加しています。自分の家に使われる木材の製材過程や木が育った土地、木を育てた方々の思いを感じながら、家作りを楽しんで頂ければと思いできるだけ木を見に行くようにしています。
□ 模型写真1
敷地南側よりの写真です。東側前面道路より敷地南側への駐車スペースを計画しています。敷地の北側へ住宅を寄せて南面の敷地をできるだけ確保しています。
□ 模型写真2
敷地、南側西側には今後建物が建つ可能性が少なく、小高い丘に敷地があるため視線が抜けとても眺めが良いところです。南面の縁側はサンルームにも用途を変えることができるように雨戸をポリカーボネート製で作り、雨戸を閉めても外部からの光が入るようにしています。西側は庇のある濡縁にしており、西側の眺めを楽しんだり、干場としての使い方ができる場所となっています。
シンプルな屋根の形状で、南面に対して軒を深く取ることができ、なおかつ平屋で敷地に余裕がある住宅は理想的な住まいです。
A邸も住宅が完成してから、外構空間が変化していくことが可能な家なので時間の経過による風景の変化がとても楽しみです。
□ (建方工事)和室より居間への方角をみています。居間の3本平行に張ったタイコ梁とそれらに直行するように長いタイコ梁が乗っています。工事が進むにつれ屋根が架けられるのでこの状況で見れるのはこの時だけです。柱、梁、垂木と構造体が組み上がっていく姿は見事な風景です。
□ 感想
建主のAさんはT邸のご主人と職場の知合いということもあり、以前から柴設計のことをご存知でした。出会いより施工者選定までの間にHI邸、TOM邸、MY邸、I邸、NA邸、MA邸、K邸と多くの住宅見学に足を運んで頂き、自然乾燥材をつかった家づくりの事を十分に理解して頂きました。A邸のシンシンプルな平屋と外観が街並の風景として、馴染むのがとても楽しみです。
(葛迫 和人)
▼ 福岡県 久山の家 ▼
▼ 宮崎市 矢の先の家 ▼
東西方向に45m、南北方向が11mの土地利用をどのようにするのか、という事から計画はスタートしました。東側に一方通行の道路、南・西側には近接して2階建アパート及び住宅があり、北側には進入路をはさんで市内でも有名な喫茶店があります。道路に面する敷地部分を駐車場、アプローチ、菜園等の外構スペースとし、将来の可能性を残した配置計画としました。
住宅は敷地の西側よりに1階分の必要諸室を確保する事を前提としてまとめました。1階に玄関・居間・食堂・家事室・寝室・洗面・脱衣・浴室・便所・クローゼット、そして洗濯物干場を、トップライト・南面の全面開口可能窓等を設けた部屋とし、多目的な利用ができるようにつくりました。2階には、2人の子供部屋、書斎、通路兼用のタンス置場を設けています。
玄関アプローチは、駐車場との関係より東側に、軒の出1間半の下屋を設置し、その中央部分としました。下屋下には家事室とつながるウッドデッキを北側に、そして面格子で区画された駐輪場を南側に設置しています。内部と東側庭との間に深い軒下空間をつくる事で、その利便性の確保、そして正面となる東側立面の姿を整えました。また下屋上部には2階の東側妻面があり、妻側屋根にはわずかですがムクリを付け、やわらかい印象を表現しました。
SU邸は計画の段階で植栽計画を行い、竣工に合わせて工事が行えるように庭師の方にお願いしました。敷地北側には生け垣を、南側には隣家との視線調整のための常緑樹を、そして玄関アプローチには落葉樹を主体とした雑木林をイメージした庭をつくり、駐車場との間には、ご家族で楽しまれる家庭菜園のスペースを残しました。引越前には植栽もすべて終り、入居の日より木漏れ日のアプローチを楽しまれています。(柴睦巳)
□ 灯籠(写真 上)
玄関アプローチの一角に、屋根を杉の皮で葺いた灯籠を設置しました。外灯は船舶用の器具を使っています。住宅への出入りにひとつのアクセントができ、夕暮れ時の庭を楽しめる明かりを与えてくれます。
□ 玄関アプローチ(写真 下)
アプローチは北側進入路からとなり、前面道路からの緩急を持たして、緑のアーチが迎えてくれます。
□ コンクリート洗い出し(写真 上)
玄関、玄関ポーチには洗い出しの化粧目地切り仕上としています。写真はまだ目地棒が入っている状況です。今回はじめてコンクリート骨材として砂利石を使いました。今までの砕石とは一味違った雰囲気となり、柔らかい雰囲気に仕上がりました。また、大きな石はご家族と一緒に諸塚の山に行った際に渓谷で拾ってきた石を並べました。
□下足入
下足入れは壁一面にとり、傘立て用のパイプも取り付けられています。また、玄関ホールには姿見の鏡を設置しています。
□ 押入
押入の地窓は通風を考え、設けました。宮崎の夏の夜は西から東に向かい陸風が吹きます。その風を上手く住宅内部に取り入れて寝苦しい夜でも快適に過ごせます。
□ 2階廊下
2階廊下はタンス置場を兼ねた廊下となっています。廊下を通りそれぞれの子供室へと、つながっています。廊下奥の部屋は2畳半の書斎となっており、ご主人の要望より設けました。
□ 2階子供室
東西に2部屋設けられた子供部屋です。2部屋の仕切りには、はめ込み建具を設置しています。使い方によっては建具を外し、1部屋として使用出来るようにしてます。また、それぞれの部屋には通風を考え無双窓をとっており、住宅内の風や熱を越屋根へと逃がす工夫をしています。
□ 居間・食堂・台所・家事室
4つの機能を持った空間が一つの空間でつながっています。また、干場、寝室の建具を解放すると全ての生活空間が繋がり空間に広がりがうまれます。2つの照明器具の下が食堂のテーブル設置場所となります。食堂スペースに隣接して家事スペースを設けています。家事スペースの外部軒下のウッドデッキがあります。家事室の机は奥さんの書斎となります。ただし、しばらくは小学校低学年のお子さんが使う事になりそうです。
□ 内部干場
洗濯物干場を住宅内部に設置しております。居間と寝室をつなぐように干場が配置されています。居間から外部への視線の限界があるために干場方向への視線の抜けを作り、空間の開放感を確保しています。
□ 居間(写真 下)
天井にはよしずボードを張り、照明は間接照明にし、ワ−ロンシートを使用した障子で光を和らげています。中央のテーブルは、大工さんによる加工で、組み立て式となっており、使わない時には干場の壁に立てかけるように保管設置場所も確保しています。
□ 脱衣室(写真 下)
他目的に利用できる流しを設置しています。少年団に入っている子供達の洗濯物も一度、ここで下洗いできるので便利なモノです。便所、洗面、脱衣、浴室といった水周りをまとめ、寝室の近くに配置しています。
□ 感想
住宅完成後、何度かSU邸の前を通る機会があります。道路沿いから見ると、唐突に緑豊かな風景が現れます。その緑の奥に切妻屋根と低い軒先の屋根が見え、思わず中を覗いてみたくなるような住宅構えをしています。市街地近郊では隣地住宅や前面道路といった外部からの環境に対して、安易にフェンスや石垣、塀を建てている住宅を見る事が多々あります。目にする度に残念な気持ちになります。住宅にこだわって造ったのならば、住宅の周辺環境までこだわって造って頂きたいのが、本音です。住宅をこれから造ろうと考えてる片達の意識と住宅を設計する片達の意識があれば、少しでも良い住宅環境、街並が出来ていくのではないでしょうか。その結果、フェンスや石垣、塀等をたてなくても良い状況、街並、風景になってくるのではと思います。
(葛迫 和人)
Sさんとの出会いは、2008年3月末に電話をいただき、翌4月1日に事務所にお見えになられた時です。その後実際作ったものを見たいとのご要望により、4月12日に宮崎市内の3つの住宅(UE邸・OT邸・HI邸)を案内しました。以前から事務所のホームページはご覧になられており、私どもの家づくりに興味をお持ちでしたので、4月末には設計監理契約となりました。
建築主の半数以上の方は、事前にホームページをチェックされているようで、家づくりに関する疑問に関しても大方確認されており、ある意味、契約を行い打合せをスタートした時点で、ある一定要件に関しては、すでに理解されている方が多いように感じます。ただし家づくりは建築主の家族構成、生活スタイル、住まいに対する想い等のソフト面、そしてハード面では周辺環境を含めた敷地状況がひとつひとつ違いますので、毎回新たな住まいの探求となります。S邸の場合は敷地形状、及び隣地取合い等をどのように考えていくのかという点から打合せがスタートしました。
8月にはご家族と諸塚村での渓谷遊びを兼ねて木材の確認に行きました。8月末には基本計画がほぼ終了し、その後実施設計を行い10月14日にいつもお世話になっている建設会社7社に見積りをお願いしました。10月末に見積書を提出していただき、予定金額に近い3社に地盤改良等を含めて再見積りをお願いしました。結果は今までに4件おつきあいのある桜木組に決まりました。
今回は施工者決定にあたり、大工棟梁をこちらから指定させていただきました。延岡市のUT邸、高鍋のKU-M邸をやっていただいた川南町の佐坂棟梁です。二つの現場で丁寧な仕事をしていただきましたので、機会があれば再度お願いできればと考えていました。
12月22日に起工式、そして年内に地盤改良工事を行い、2月17日に棟上げをむかえました。現在(5月19日)大工工事は内部造作の最終段階で、外壁の左官下塗り工事が進められています。当初工程より半月程の遅れですが、梅雨までには外壁工事は終了し、6月に建具の取付け、外構工事を行い6月末には完成の予定です。
(柴睦巳)
□ 模型7(決定案)
今回建設予定地は市街地近郊という事もあり隣地建物との距離確保に限界があるという状況でした。計画案模型を作る事よりも計画敷地と隣地建物を含めた模型を先に作り、隣地建物との関係を確認しながら計画を進めて行きました。
□ 模型(写真 上下5枚)
今回計画に当たり模型を7個作りました。下の模型1、2のようなボリューム模型を4個つくり、隣地建物との距離や隣人と住人の視線、住宅の規模といった打合せの多くを模型を使い、確認、検討し計画案を煮詰めていきました。最終的に計画プランと敷地配置が決まり、前面道路への住宅の屋根の掛け方について2つの案(模型5、6)を提案しました。建主さんの方より模型6の方が馴染みやすく良いという事もあり、模型6(写真下)に決定しました。模型7(写真上)は模型6の細部を作り、外部の戸袋や格子、水切、天窓、植栽などを入れたものです。
□ 平面配置計画
建物を敷地北西側によせ、南東側の隣地からの離れを確保しています。住宅は干場を囲むようなコの字型プランとなっており、干場の多用途な使い方により、住宅での生活が豊かに快適になるように提案しました。干場は1階床レベルと段差もなく、杉の無垢板を張り居間と寝室からも繋がっているような空間とし、視線の抜けを確保しているので、隣地住宅との距離を感じさせないように工夫をしています。また、干場は外部空間であるような造りをしており、干場南面は全てを開口部にし、天井には天窓を2つとり、干場としての機能も果たすようにしています。
建物東側にはデッキを設けており、台所、食堂、家事室からデッキへと無意識に視線が動くように平面配置をしています。デッキ東側には植栽を設け外部から覗けないような垣根を植え、庭として住宅内へ緑を取り込めるように考ています。家事室は奥さんの書斎を兼ねて作っており、食堂・家事室にご家族が集まり過ごす時間が多くなる場所になると思います。
□ 居間
居間の天井にはよしずボードを張っています。一部、障子を天井に固定し、蛍光灯を中に設置し柔らかい光がつくようにしています。居間のコーナー部分、造作棚はテレビなどのAV機器を置くスペースを作っています。
□ タイコ梁
2階小屋組には末口270径、3.5間のタイコ梁を3本使用しています。上棟時現場で確認したタイコ梁は見事な色つや、表情をしておりました。タイコの長物は事前に耳川森林組合の方へ連絡をし、大きさを伝え準備をお願いして、形状にあった材を組合加工場で製材してもらいます。
□ 感想
市街地近郊に住むという事は近隣住民との距離が近くなるという事もあり、今回の計画ではこのことを常に意識しながら計画プラン作りを進めて行きました。隣地との距離確保の一つの解として上手く出来たのではないでしょうか。
(葛迫 和人)
▼ 門川町 加草の家 (改築ー子世帯) ▼
MA邸の工事内容は、ご両親の新築住宅、車庫・物置、既存住宅(築40年の母屋)の改装、そして舗装・塀等の外構の4種類です。新築部分が完成したのが今年(2009年)の3月、その後、車庫・物置を増築し、最後に母屋の改装工事、外構工事が7月に終了しました。
MAさん家族全員とはじめてお会いしたのが2007年8月10日です、その後、綾町のMI 邸、国富町のTOM邸、日向市のK邸を見ていただきました。そしてその年の12月に設計監理委託契約を結び、打合せを重ねました、基本計画が大方固まった2008年4月に、宮崎市内の完成住宅を3件、ご両親と一緒に見学していただきました。作り付け家具、各種仕上げ、そしてそれぞれの寸法等を確認していただくことが、この時期の見学の目的となります。最後のHI邸で「この家が欲しい」お父様より言われました。敷地の大きさ、家族構成ともに同じ条件であり、既存住宅の解体を前提とすれば可能なことでした。その後しばらく全面建替を真剣に考慮されました。最終的には当初計画通りになりましたが、この時の見学によりその後の打合せはよりスムーズに進めることができました。同年7月に、確認申請手続、施工者への見積発注を行いました。その年の10月に地元の藤田建設と工事請負契約を結ぶ、ようやく工事着工となりました。
新築住居については、通信MA邸-01ですでに紹介していますので、今回は母屋改装について紹介します。改装にあたって考慮した点は、4世代に渡って住み続けることになりますので、以前の雰囲気を大切にしながらも、使い勝手よく、気持ちの良い空間をどのように計画するのか。当初より新築住宅との関わりを前提に計画を進めましたので、それぞれの行き来、そして視覚的なつながりも考慮の対象となりました。
外部取合い部分では、玄関、勝手口のそれぞれのポーチ計画があります。母屋の外観を、新築住宅、物置・車庫と一体的な雰囲気にしたいと考えました。以前玄関ポーチであった場所を勝手口ポーチとし、トップライトのある1.5坪程度のスペースとし、台所との関係により多目的な使い方ができる場所としました。玄関建具は南向きであったものを西向きに変更し、深い軒の下屋と道路側に横使いの格子を設置し、意匠、視線、西陽等の対応としました。
内部で大きく変わったところは改装後の台所です、以前はおじいさまの寝室として使われていた部屋です。日常的に使用する場所をより快適な部屋にすることを常々提案しております。食堂、居間、玄関、そして外部の勝手口、新築住宅との間に設置するウッドデッキとの関係等を考慮すると、どうしても寝室だった部屋が台所にふさわしく思えました。明るく、東西の風が抜け、食堂・居間に対してオープンとなりえる場所です。また対面となる部分にはカウンターを設置していますが、ここには既存の柱、筋違いがあります。この構造体を化粧として造作部材に絡めました。時代を感じさせる柱と新しい木材が気持ちよく絡み合いとても良い雰囲気に仕上がりました。新築工事とは違い、いかに以前の雰囲気とのバランスを考慮すれば良いのか、改装にはそんな楽しみがあります。(柴睦巳)
□ 既存現場状況
敷地奥の母屋を改装し、右側の倉庫を解体撤去し親世帯の住宅を新築しました。手前の車が止まっている所は車庫物置ができました。敷地は夜間も交通量の多い主要道路沿いにあり、通行車の敷地内への事故の可能性もあります。建物の雰囲気も考え、敷地境界塀を作り直す事を提案させていただきました。
□ 改装前と改装後
既存住宅(図面左側)と改装後(図面右側)です。床の間(和室)を既存のままにして、その他の諸室を改装しました。既存の寝室となっていた部屋に台所を配置し、家族が集まる食堂や居間を台所の近くに配置しました。既存の台所・食堂の部分は畳を敷き寝室として改装しました。
□ 車庫物置
道路境界のコンクリート塀を同じ高さで車庫物置の基礎とし、木の柱、梁にガルバリウム鋼板の屋根を架けただけのシンプルな造りの車庫物置です。木部塗装を母屋、新築住宅と同色にすることにより、とても雰囲気のよい外部空間ができました。
□ 台所・勝手口ポーチ(写真 左2枚)
台所の西側(改装前は玄関アプローチ)の勝手口ポーチです。広さは畳3.5枚程度のスペースで、屋根にはトップライトを設置し、そして道路側は板塀とし目隠しと通風とを考慮した作りとしました。流しを設置し、干場としても使える空間としています。
□ 食堂・居間(写真 左)
既存の和室2部屋の続き間を食堂・居間に改装しました。食堂と台所は対面式になるようにしています。台所は建物で一番日当たりの良い所にあり、既存住宅ではタンス置場になっていました。居間の掃出し窓からはデッキに出入りでき、親世帯のデッキへとつながっています。
□ 食堂・居間・和室(写真 上)
床付きの和室は既存のままとしています。和室と居間の建具は、壁の戸袋に建具がすべて納まるようにしています。写真の左側小部屋は階段下に机を設置しお子さんが使用出来るようにしています。照明は天井にスライドバーを設け、照明の角度や位置を調整できるようなっています。
□ 洗面脱衣
浴室は数年前にユニットバスに改装されていましたので、そのままとし、洗面・脱衣・洗濯・便所の改装を行いました。洗面脱衣の開口部前には洗濯置場を設けています。
□ 玄関
玄関右側にあるルーバー窓は勝手口ポーチからの通風を確保しており、採光も兼ねています。
既存住宅では玄関との床レベルの差が350程度ありました。改装後は玄関とのレベル差を200にし各部屋の段差をなくし和室の高さに合わしました。
□ 感 想
自分が柴設計に勤め、初めての改装工事となりました。現場調査を行い、現場寸法に合わせて既存住宅の図面を書きました。長年の雨風にさらされた住宅は柱などの基準となる軸線が少しずつずれており、工事が始まってから大工さん達の現場サイドに再度、細かく取合いをみてもらい、部材を合わせていくという大工さん達の腕による所が多かったと思います。改装という既存の部分を残したままの住宅設計の面白さを少し知りました。
(葛迫 和人)
▼ 門川町 加草の家 (新築ー親世帯) ▼
敷地は宮崎県北部の国道10号線沿い、昼夜車の通行のたえない場所です。施工期間中に近所の塀に車が突っ込む事故があり、MAさんのお話だと以前同じことがご自宅でもあったとのこと、車の騒音と合わせて事故等への対応も配慮が必要となりました。また昨年、敷地内で営まれた商売をやめられ、今後、お子さん家族との同一敷地内での2世帯の住まいとなります。 計画内容は既存住宅を一部リフォームしてお子さん家族の住まいとし、MAさん夫妻の住まいを新築し、車庫・物置棟の合せて3棟となります。
今回、MAさんご夫妻の住居が完成しましたので紹介します。建物を少しでも国道から離れた場所に建てることを前提に、既存住宅との関わりを配慮した計画となりました。通常の計画では南側に居室を設けますが、MA邸では既存住宅側である北側に居間、寝室を配置しました。既存住宅との動線的、視覚的つながりを優先させたいとのご家族の要望、そしてなによりも南側隣地に、2階建の住居が近接して建ったおり、良い環境にはなりにくいという状況もありました。
玄関を北側中央に、東側に寝室、西側に居間、そして南側に水廻りの諸室を直線的に配置しました。居間側には食堂とつながる台所、寝室側には部屋から直接行ける洗面・脱衣・便所の機能を兼ねたスペース、そして中央に玄関ホールからもアプローチできる洗濯室を設置しました。洗濯室には南側にルーバー窓そしてトップライトを設置し、梅雨時の室内での洗濯物干しの場所としています。
日常生活をより豊かにする方法の一つとして外部空間の内部化という方法があります。MA邸では居間・食堂の西側に1間巾のウッドデッキを板塀との組合せで設置しました。居間の広がり感、車の騒音対策、道路からの視線遮断、そして西日対策と各々の役割を持ちながら、MAさんの趣味である盆栽の置場も兼ねた空間としました。盆栽の並んだ光景は、室内空間をより豊かなものにしてくれるでしょう。
また寝室の東側にはフラットサッシを使い、内部床と段差のないウッドデッキを設置しています。こちらには東側に残された植栽スペースへのアプローチ、お布団を干すための手摺を設置しています。またこれから整備する既存住宅居間に面するデッキと一体的になり、お互いを車椅子で行き来できるようになります。豊かな内部・外部の空間、これから車庫物置棟、そして既存住宅のリフォーム、外構工事と進んでいきます。全体の完成がたいへん待ち遠しいものです。(柴睦巳)
□ 居間・食堂(写真 上)
居間には6mのタイコ梁が2本かけられており存在感があります。天井を張らずに屋根野地板を化粧仕上げとしているので、大きなタイコ梁も違和感なく溶け込んでいます。窓の日除けにはロールスクリーンを設置しています。住宅を作る際に忘れがちな物ですが、工事見積に毎回含むようにしています。夫婦二人の住宅ということもあり、こじんまりとした住宅ですが必要最小限の諸室を上手く配置しています。
□ 食堂・台所(写真 下)
システムキッチンと収納棚の高さを合わせる事により、台所の使い勝手の効率をあげています。また、食堂テーブルとシステムキッチンの間には配膳スペースを兼ねたカウンターを設けています。そのカウンターとの高低差を利用して、コンセントを壁に設置しています。食堂テーブルでホットプレート等の電化製品を利用する際に差し込み位置に困らず、便利です。
□ 洗濯室・台所(写真 左上)
水周りをできるだけまとめる事により、家事の効率化が上がります。台所から洗濯室へ洗濯室から洗面脱衣、洗濯機や便所へというふうに動きやすく、最短距離で移動できます。収納天板は雨の日の洗濯物たたみの台も兼ねる事ができます。木製建具のガラスは和紙調ガラスを使用しています。トップライトから差し込む光を柔らかい光へと変えて玄関ホールを明るくしてくれます。
□ 玄関・玄関ホール(写真 右上 右)
玄関下足入れ棚は可動棚とし、下部は長靴を置けるようにしています。又、傘の収納場所を確保しないといけないので下足入れにSUS製のハンガーパイプを造り付けて、傘掛けとしています。姿見用の鏡を玄関に置くと大変便利なものです。玄関床仕上は豆砂利(長崎石)の洗い出し仕上げに化粧目地切りをしています。
□ 寝室(写真 下)
寝室天井は一部、よしずボードを張っており、ダウンライトを設置しています。少しでも部屋と部屋の行き来がしやすいように玄関から玄関ホール、寝室、居間の間は手摺を設置しています。
□ 洗面脱衣・便所(写真 上)
高齢になってきますと、就寝中に尿意を催す事が多くなります。そのため、寝室の近くに便所があるのは、大変助かります。収納内部にはスライドバスケットを設置しています。下着やタオル等を収納するにはちょうどよい大きさをしているので、ほとんどの住宅で脱衣室にスライドバスケットの設置を提案させて頂いてます。その他にSUS製ハンガーパイプや可動棚板の収納スペースも確保しているので、衣類や生活用品の整理がしやすいです。また、洗濯室のトップライトからの光を取り入れる為に建具上の垂れ壁をFIX窓にしています。FIX窓にすることにより、室内の電気消し忘れも一目で分かるといった利点もあります。
□ 感 想
今回、息子さんのご両親が住まわれていた住宅をリフォームして息子さん家族が住み、ご両親が敷地内に新築住宅を建てるといった、2世帯住宅の計画です。申請の関係で同じ敷地内には住宅を2つ作れないので敷地を2つに分けて進めていきました。現在新築住宅が完成し、ご両親が引越をしているところです。現場では車庫物置を建設中です。それが終わり次第、既存住宅のリフォームへと移っていく工程です。新築住宅の完成検査で現場をうかがった時には車庫物置の建方中でした。国道沿いから見る雰囲気がとてもよく、道路境界の擁壁と石積み、植物等を植えられると更によい雰囲気になるのではないでしょうか。完成が楽しみです。
( 葛迫 和人)
▼ 鹿児島県 国分の家 ▼
□ 出合いから完成まで
Iさんとはずいぶん長いおつきあいとなりました。2001年3月5日に電話をいただきました。同年1月に出版された「木の家に住むことを勉強する本」を見られての問合せだったと記憶しています。同月18日に事務所に来られ、その足で宮崎市内で初めての諸塚村産直住宅T邸(2000年2月完成)を見学していただきました。
Iさんは当時まだ敷地もなく、家づくりの資金も準備中の状況でしたが、家づくに関する想いには熱いものを感じました。その後も宮崎家づくり塾のセミナー、住宅見学会、諸塚村やましぎの杜での体験、機会あるごとに色々な取組みに参加していただき家のイメージを創り上げられたようです。
当初より自然をテーマにされていました。里山の近くに雑木の庭を持つ、自然素材で作る自然な家、壁は塗壁にしたいというお話でした。また私の作る住宅に興味を持たれ、産直による住宅はほとんど見学されたのではと思います。柴設計のホームページ更新が遅れると、「最近、更新が無く体調でも悪いのではと心配しています」というありがたいメールをいただくこともありました。
2007年8月18日に設計監理委託契約を結ぶことになりましたが、それまでに敷地の相談が4回ありました。最初に見せていただいた場所は里山をイメージさせるものでしたが「道路との関係に問題があります」とアドバイスをしました。その後、今回の敷地にたどり着くまで、何かしらの事が気になり積極的にお薦めすることはありませんでした。
敷地を検討する時に自身の敷地内で解決できる事と、そうでない事があると思います。周辺環境、特に前面道路、隣地との取合い等はいくらがんばってもどうしようもない事があります。今回決まった所は、敷地内の環境整備によりクリアーしなければいけない問題が若干ありましたが、周辺環境としては申し分のない所です。貸家からも近く、工事期間中は毎日のように歩いて通われました。
2007年夏に設計の打合せがはじまり、2008年3月はじめに実施設計が終了し、3月中旬に8社に見積りをお願いしました。依頼にあたっては各社に事前連絡を行い、二人でそれぞれの事務所を訪ねて見積りをお願いしました。通常見積作業はたいへんな労力を必要とします。Iさんに「設計図面をとりにきていただくのではなく、こちらからお願いに行く事にしましょう」と提案しました。合わせて各社の雰囲気を感じていただければ、施工者最終選定の時、何かと参考になるのではとアドバイスしました。今回県外の工事ということもあり、はじめてお願いする所が5社あり、私としても各社の情報を少しでも得たいという気持ちがありました。
結果は、一番事務所にお金をかけていないと思われるA建設に決まりました。まさに「紺屋の白袴」のことわざがぴったりと当てはまるところです。ただし最終選定の前には絞り込んだ3社にそれぞれの竣工現場を見せていただきました。私はA建設とは長い付き合いがありましたので、さほど心配はしていなかったのですが、Iさんにとっては、はじめてお付き合いする工務店であり、完成後もメンテナンス等でお世話になるわけですから、色々な情報を前提に決めていただく事にしました。
2008年5月30日にA建設と工事請負契約を結び、6月18日に起工式を行いました。工事内容としては敷地内の既存ブロックの解体撤去、造成、住宅、外部物置、そして敷地境界部分のフェンス工事、駐車場の舗装工事等となります。また敷地内にIさんの趣味である木工のための工作小屋をセルフビルドするため、その基礎工事を含めてお願いすることになりました。
工事着工にあたり、Iさんより現場の手伝いをさせて欲しいとの依頼がありました。工事期間中、時間の許す限りIさんは現場に入り、掃除をされたり、材料を運んだりされました。毎回の現場打合せ時には、大工さんの職人技について楽しそうに話しをされ、趣味が木工であるだけに、大工さんの技術がいかにすばらしいものであるのかを実感されたようです。
工事が終盤になるに従い、「工事が終わる事が寂しい」と言われていました。「職人大好き」のIさんらしい言葉でした。2009年3月31日に建築主事の検査を受け、またIさんと最終の完了検査を行いました。毎度の事ですが最終段階での工事となる木製建具等に手直し指示を行い、後日手直し確認後、引き渡しを受け、4月の第一週末に新居への引越となりました。4月中旬には植栽工事も終了し、新たな地に風景となるI邸のたたずまいが完成しました。今後も家庭菜園そして工作小屋のセルフビルトへとIさんの取組みが続いていきます。何事にも熱心に取組まれる方ですのでより一層すばらしい風景が出来上がっていく事でしょう。
(柴睦巳)
□縁側(写真 上 右 左)
南側庭に面して縁側を作りました。巾が1間、長さが6.5間あり、居間取合い部分が3.5間、そして寝室、納戸取合い部分が3間あります。前者は居間と庭とをつなぐ場所として後者は洗濯物、お布団の干場としての利用を前提としています。縁側中ほどには横使いの面格子を設置し区切りとしています。後者にはトップライト、布団干し用の手摺、多目的流し等を設置し、縁側全面には透明雨戸を設置しています。これからの季節ほぼオープンで使われることになります。桜島による降灰、梅雨時、冬場には、透明雨戸がフルに活用されることになるでしょう。
□駐車場
西側道路に面して玄関アプローチ、駐車場を整備しました緑豊かな近隣への配慮として北側隣地境界には常緑樹を植え道路・建物周辺には落葉樹を植えました、またグランドカバーとして小熊笹を足元に植込みました。
□居間(写真 下)
居間・食堂・台所・階段・2階廊下を1つの空間としています。各々の建具を開けると子供室・書斎・脱衣室・納戸・玄関ホール、そして縁側とつながります。特に南庭との間に設置した縁側とは、壁内に引込む建具(障子・ガラス戸)によりオープンな使い方が可能です。
□ 2009年3月に完成した住宅I邸のご主人より家づくりについての 感想が届きましたので写真と合わせて紹介します。
計画の段階で建築主と色々なお話をします。その中で「家づくり」において大切な事の一つとして、それぞれの立場の人が自分が作っているのだという意識を持つことの大切さ、そしてそれが匿名ではなく記名にて行われれば良いのにと思っています。
都城市の宮崎県木材利用センターの敷地入り口の横に、建設に携わったすべての人の名前が「あいうえお順」で刻まれたプレートが設置してあります。もちろん大工、左官、板金、塗装、電気、等のあらゆる職人さん達の名前です。この事はたいへん意味のある事だと思っています。誰が関わったか分からないような匿名性の施設づくりが一般化している中で、名前を残すという事は、作ったものに誇りを感じるという点もありますが、何よりも自分の関わり方に責任を持つという事につながっていく事になると思います。
今回工事途中で、Iさんより大工さん達の名前の入った陶板を作ろうと思っているとの話しを聞きました。建築主であるIさんの方から関わった大工さん達を現場での思い出だけではなく、その名前も残したいとの想い、とてもうれしく思いました。時間の許す限り現場で大工さんのお手伝いをされ、それぞれの大工さんの特徴を肌で感じられ、毎回の現場打合せでは、私も把握していない人柄、技術を聞かせていただきました。木工作を趣味とされていますので、職人さんの技術がいかに優れたものなのかを実感されたようです。
陶板の写真を見ると、Iさんは私以上に職人さん達への想いを強く持っていらっしゃると感じます。出来上がった陶板を見ながら、大工さんの名前だけでなく、他の職人さん達の名前の入った物も準備したいとおっしゃっていました。この陶板は玄関を入ると正面上の梁にかけてあります。今回紹介する「我が家の家づくり」の中でも職人さんに対する想いが随所に書かれています。
(柴 睦 巳)
我が家の家づくり・1
(小学校PTA文集 2008年3月掲載)
我が家は今、家づくりをしています。もともと古民家(昔の家)が好きで、釘を使わずに木組みで造る伝統的な家(鉄腕ダッシュの民家)にあこがれていましたので、これを目指しての家づくりです。子供のころ田舎のお婆ちゃんの家で寝転がると夏でも涼しく、天井に頼もしく存在する太い梁(はり)が理想のイメージとなったのかもしれません。
建てる家は太い柱で土壁を塗りたいと構想を練ったのが8年前ですので相当長い時間が経過しました。理想ばかり語る施主に付き合ってくれる設計士さんは簡単に見つからず結局、宮崎の設計士さんにお願いしました。
この方とは7年前に知り合い、正式に設計の契約を交わしたのが半年前ですので共に気の長い者同士です。7年間何をしていたかと言いますと北小校区で木の家を建てれる土地を探していました。もっと田舎であれば広い敷地が比較的簡単に手に入ると思いますが、仕事の関係や家族のことを考えると今の生活圏から離れることもできず、かといって狭い場所では防火の関係で板壁にはできず土地探しは難航しました。それでもやっと見つかりいよいよ設計士さんの出番です。
しかし、ここでも再び問題発生です。いくら予算があったとしても昔の家のつくりは現在の建築基準法をクリアできず、無視してつくれば違法建築になります。結論として鉄腕ダッシュの民家は北小校区に建てることはできない(正確には日本国中どこも)のです。がっかりですが、それでも伝統的な造りに近いように設計士さんが頑張ってくれています。
概略、設計は出来上がり着工は今年の暮れになります。この間何をしているかと言いますと、家の構造材を選定し伐採し、自然乾燥させます。木は宮崎県のはずれ、諸塚村の自然乾燥材を使用します。私個人も庭に敷く切り石を探したり、家の内部に使う無垢板を探し、さらには子供のベッドと机を作りたいと考えています。家づくりにかけられる予算は非常に少ないので、やれることは何でも自分でします。
最後になりましたが、私の道楽とも言える家づくりに不平も言わす応援してくれている家族に非常に感謝しています。家づくりを通して、また家族の絆が深まった気がします。・・・私の予想では・・・
追加ですが、石塀に使う切り石(小浜石とも言うそうです)を探しています。安く譲ってもらえる方はご連絡下さい(電話・・-・・・・)。
我が家の家づくり・2
(小学校PTA文集 2009年3月掲載)
昨年は自宅の建築計画を書かせていただきましたが、20年7月にいよいよ自宅の建設が始まりましたので今回はその状況を書きます。
設計士さんと現場監督さんへの要望は 1.昔の民家をイメージしたものとし、大工さんが刻んだ木組みが見える家とすること 2. 集成材、ベニアやクロスなど使わず節があっても構わないので無垢(むく)の木を使うこと 3. 施主である私も建築工事に参加させてもらいたいの3点でした。
問題なのは3番目の要望です。私も一般のサラリーマンですし、もちろん住宅建築などに関わったことなどないのですが動物でも自分の住みかを作るのだから自宅のできあがる過程に少しでも参加したいとの思いから基礎コンクリート打ちに2日間、構造材の木組みから上棟式まで7日間、それ以降は週1回のペースで何とか職場から休みをもらい工事に参加しています。
大工さんからは始めはよそ者扱いで、「家主(やぬし)さん」と呼ばれていましたが、現場に通ううちに名前を呼ばれるようになり、ついに重宝がられ今度はいつ現場に来るのか棟梁に聞かれるまでになりました。工事に参加とえらそうに言っても作業場を掃除したり、材木を大工さんの足元に運んだりの小間使いですが私は十分満足です。
一番印象に残っているのはやはり住宅建築の一番の山場である建方(たてかた:家の骨組みづくり)でコンクリート基礎しかない状態から、大きな柱や梁が次々にクレーンで設置場所に移動され大工さんが「かけや」と呼ばれる大きな木づちで木材を打ち込み家の骨組みを作っていきます。大工さんはサルのように身軽で次々と足場を移動し木が組まれます。
私の仕事はクレーンで運ばれた木材を大工さんが木材に打ち込めるように指定した位置に設置する役目で、1階部分はまだ余裕があったのですが2階部分になると大部分の時間は柱にしがみついていました。でも格好だけは一人前でマイヘルメットとマイ地下足袋を付け、腰には使いもしない釘袋を下げています。
家の最も高い部分に越屋根(こしやね)と呼ばれる小さな屋根の付いた換気口があるのですが、足場の無い状態で大工さんが越屋根を組み上げる姿はとても格好よく感動的な光景でした。
建築現場では花形の大工さんですが、皆さんお孫さんはおられてもお弟子さんはいません。後継者がいないため、あと10年もすると我が家のような昔ながらの方法で作り上げる家づくりはできなくなるかもしれません。非常に寂しいことです。
工事は来年の2月まで続きます。次の工程は左官さんの壁塗りです。職人さんの技を見るのを私は楽しみにしています。最後に一言「私のやりたい様にさせてくれる家族にはとても感謝しています。子供たちが成長し私たち夫婦が老齢になっても、皆で集う家になってほしいと思います」。
我が家の家づくり・3
(2009年6月 記)
平成20年の夏から始まった我が家の家作りが21年春についに完結しました。8年前の柴さんに連絡したのを皮切りに、新聞や雑誌等で情報が入れば土壁を塗る左官さん、和紙をつくる職人さん、腕が良いと評判の大工さん、無垢の木材を扱う銘木屋さんと可能な限り情報を集め一生懸命に取り組んだ家作りでした。結局、柴さんを除くとお会いした方は全て家作りには直接参加してもらわなかったのですが、今となっては良い思い出です。
家作りを終えて思うのが設計士さん、現場監督さん、職人さん、そして施主が力を合わせて物を作り上げるすばらしさです。皆さん、自分の持てる技術の全てを使って家作りをしていただいと思います。
現場にいつも通ったおかげで、家の各部位がどの職人さんが仕上げたか、私は克明に覚えています。それもあって家の持ち主は私と家族ですが自分たちだけの家でない、皆さんが頑張ってくれたのだから大切にしたいという気持ちを強く感じます。
我が家の玄関には柴さんをはじめとして職人さんの名前を刻んだプレートを貼りました。皆で取り組んだ家作りであることを形にして残しておきたかったのです。
このように多くの方の協力をいただいた家作りでしたが一番お世話になったのが、もちろん柴さんです。私の様々な要望を真摯に受け止めすばらしい家を設計していただきました。長い間、相談したこともあり私の好みを熟知しておられ初めの設計から殆ど文句のつけようのない出来でした。
また設計が終了し大工さんによる建築が始まると、柴さんは家の設計ではなく風景をつくる方ではないかと思い始めました。それほど周囲の風景にとけ込んだ家でした。今、家の植栽も緑が深くなり昔からそこにあったようなたたずまいを見せています。
一番高い部分は、柴設計お決まりの越屋根です。建築中に職人さんがハト小屋と呼んでいた部分です。私の今の希望は柴さんが設計し大工さんが組み上げた越屋根の住宅が増えることです。
柴さんの設計する住宅は決して高性能の住宅ではありません、床暖房も無ければ高気密でもありません。しかし職人さんが魂を込めて打ち込んだ多くの木材とコミ栓が家を支えています。使用する木材の生まれ故郷を見て、施工していただく職人さんと会話し、建築現場に立ち会うことができる、すばらしい経験をさせていただきました。柴さんをはじめ我が家の家作りに関わった全ての人に感謝したいと思います。
住宅へのアプローチは駐車場を通り緑を感じながら玄関へと向かいます。前面道路から住宅への距離がある程度確保されているので、すごく雰囲気の良い空間になっています。駐車スペースは3台分確保しており、床はコンクリートの洗出し仕上に化粧目地切りを入れています。玄関ポーチ部分は駐車場との区別をする為に豆砂利の洗出し仕上にしています。
□ 最終打合せ(写真 上)
住宅完成後、手直し確認と引渡の最終打合せを食堂カウンターで行いました。2001年の出会いから約8年の付き合いで念願の住宅が形となって完成しました。これまでにない、長いお付き合いの方だった為、柴設計としての思いも一層強かったです。多くの意見を交わした分だけ住宅を作る上での周辺環境がより良い状態の中で、建主さんに合った満足出来る家作りが出来たのではないでしょうか。これから木工好きのご主人とそのご家族によって住宅が変化して行くのが楽しみです。最後に建主さんからお手紙を頂き、「しばらくお会いできないのがさみしいです。」という有り難い言葉も頂きました。
□ 物置小屋(写真 左)
ご主人のバイクや趣味の木工に必要な工具を収納出来るスペースとして物置小屋を設置しました。完成後、多くの工具が収納されていました。
□ 駐輪場
住宅と物置小屋の間に駐輪場を設けました。また、物置小屋と住宅母屋の一体感を出す為に梁を4本掛けています。この梁は取り外しが可能で庭への車出入りがある場合を考慮して取り外せるようにしています。また、完成後この梁にツル系の植物をはわせたいと建主さんが言われていたので今後の展開に期待です。
□ 庭より縁側
庭は芝生を植えました。庭での他目的な使用ができるように多くの植物は植えていません。縁側の雨戸はポリカーボネート板で製作しています。
□ 縁 側
縁側は雨戸の開け閉めにより機能が変化する場所となっています。また、寝室前には洗濯物干しの為の竿掛けが大工さんにより造作されています。
□ 居間・食堂・台所
一体的な空間とし吹抜けを通して2階廊下、子供室、書斎と繋がった空間になっています。また、小屋裏の小壁に壁を設けていない為、更に開放感があり、人の気配や風の流れがよく分かります。居間のテーブルは簡単に組立て、解体可能なテーブルとなっており、収納場所も計画の段階から確保しています。
□ 感想
柴設計に勤め、初の県外での家作りになりました。8年という長期にわたる家作りの中で建主さんと設計士、大工さん、家作りに関わった方達の多くの想いが詰まった家が無事に完成したことを嬉しく思います。
(葛迫 和人)
設計の段階において、葉枯らし時期までに木材の大きさを確定し、山側に木材の確保をお願いできれば望ましいことだと考えています。葉枯らし材は、通常11月末頃に山で倒され、3月頃に山から下ろされ製材されます、その後製品倉庫にて棧積にて自然乾燥を行います。大きな木材(120×300以上)はできるだけ長い期間、倉庫に寝かせておくと良いのですが、なかなかそうもいかないのが現状です。私の現場では山で倒されてから1年後を目処に大工さんの作業場へ運びこまれ加工されます。
I邸の場合は2007年11月には基本計画がまとまり、使用する木材の大きさが確定しましたので、化粧のタイコ梁で長物となる、末口270長さ7000を2本 、末口240長さ7000を1本を、その曲がり具合も合わせて提示し、山から切り出す手配を、諸塚村の森林組合加工場にお願いしました。4月中旬にタイコ状に製材したとの連絡をいただき、木材の確認のため諸塚村に行きました。倉庫には図面とおりの曲がりを持った木材がひときわ目立っていました。
秋に工務店の作業場に運ばれ、11月下旬に上棟をむかえることになりました。化粧のタイコ梁は居間の吹抜け部分で、2階の床梁、そして小屋組を支える小屋梁として使っています。構造上もですが、意匠的にも大事な役割を持ち、その存在を控えめでありながらもしっかりと表現しています。
このようなことは、ゆとりある設計工程が組めればこそできることだと思います。I邸はその出会いから完成まで、じっくりと時間をかけての家づくりとなりました。家に対するイメージを時間をかけ作り上げてこられたIさんご家族です。化粧タイコ梁以外にも建物のいたるところにその想いを感じられることでしょう。
(柴睦巳)
□ タイコ梁
2007年の年末から注文していた、タイコ梁が準備できたとの連絡が加工場からはいり、柴所長が確認に行ってきました。立派なタイコの梁材が採れており一安心です。3間半の末口240、270の材寸です。
□ したしぎの杜にて
2008年8月5日〜6日にかけてIさん、Sさんの2家族で諸塚に木材を見に行ってきました。葉枯らし材と加工場を見学し夜はしたしぎに宿泊されました。テレビも冷房もない生活は子供達にとっても良い体験になったのではないでしょうか。
□ 上棟
2008年11月15日に上棟式が行われました。あいにくの天気でしたが多くの方に祝ってもらう事ができ、餅撒きは手渡しで行いました。
写真は居間の螺旋階段です。室内での螺旋階段の採用は初めてでしたが、打合せを行い理解をえて、設置に至りました。
▼ 美郷町 神門の家 ▼
基本計画の早い段階に、計画案として平面、断面、立面を提示することはあまりありません。まずは望まれる生活像、また現在の生活状況、過去の生活経験等について、会話の中から読み取っていく作業を行います。合わせて完成した住宅等を体験していただきながら、少しづつ住まいのイメージを共有し、さらに打合せを重ね、建主家族の生活をオリジナリティーある計画案としてまとめ提案しています。
今回はHAさんから最初に平面案及び建物の表情についての提示がありました。望まれる住まいに近い平面プランを切り貼りしたもの、外部、内部の写真等です。その中で部屋と部屋とのつながり、その大きさ、そして仕上げ等のイメージについて要望がありました。
提示された資料を参考にしながら、家に対するイメージ、必要な部屋、その大きさ、また人の動き、物の動き等を一つ一つ確認しながら、敷地状況を考慮し、プランをまとめていきました。様々な要望の中で、家族の日常生活を優先しながらも、近隣とのおつきあいが多く、大勢の人が座れるスペースの確保を前提に計画を進めていきました。
南東角の玄関を入ると、玄関ホールから、居間へ、そして台所にとつながる通路(冷蔵庫・収納)へとアプローチが分かれます。居間での来客の機会が多いHA邸、客用の動線と重ならない家族用の動線は、家の中での動きをスムーズにしてくれます。
多くの友人との語らいのつきないHA夫妻のため、建具を壁内に引込むと18畳の広さとなる続きの間、造り付けの食堂カウンター、対面式の台所等、視覚的につながった開放的な空間となっています。
食堂奥の建具を開けると個々のブライバシーを考慮した諸室構成となっています。廊下北側には寝室、洗面脱衣、浴室、便所、南側には階段と仏間を配置しています。2階には居間の吹抜けに面して個室と小屋裏収納、そして西側にはオープンクローゼットを設置した個室を配置しています。
各地に、その気候、地形、産業、建築材料、職人技術等を背景とした民家が今でも息づいています。地域性の喪失した住まいづくりが主流の時代となっていますが、地域の特性、建主家族の生活のあり様を考慮した住まいづくりは大切にしていきたいものです。
(柴睦巳)
□ 外部
前面道路に対して下屋の軒先が平行になるように屋根を葺き、その下屋スペースを利用して駐車場と外部倉庫を設けています。駐車場の屋根にはトップライトを2箇所とっており、駐車場と食堂への光の差し込みを考慮しています。駐車場は常時3台は止めれるようにとの要望があり、敷地内には玄関アプローチを含めると5台分の駐車が可能です。出格子部分は外部に植栽の出来るように土を入れてもらい、これから建主さんの方で楽しみながら育てていくみたいです。将来の車椅子での生活や足腰の筋力の衰え等を考慮して玄関にはスロープでのアプローチができるようにしており、手摺の設置配慮もしています。2階板の間1、板の間2の南面窓からは小丸川と山々の風景が広がっています。また、窓の外部に手摺を木の造作で設置し、布団干場を兼ねております。
□ 居 間
美郷町は宮崎県の中でも冬場は特に冷え込む地域であり、薪ストーブは重宝されるのではないでしょうか。薪ストーブは暖まるまでは多少の時間がかかりますが、一度暖まると継続的に長い時間、部屋全体が暖まるので、とても良い暖房機器です。また、電気代もかからず薪だけで済むという利点があります。
□ 洗面脱衣(上 写真2枚)
洗面脱衣には洗面器、スライドバスケット収納、SUS製ハンガーパイプ、洗濯機置場を設置しており、衣類が集中する脱衣所にはスライドバスケットやSUS製ハンガーパイプといった収納スペースがあるとすごく使いやすく、衣類整理がしやすくなります。また、洗面脱衣は住宅北側にあるため、明るさ確保の為に天窓(トップライト)を1つ設置しています。写真からもわかるように天窓からの光の差し込みが室内を明るくしています。
□ 和室(右 写真1枚)
和室は居間からの続き間になっており、建具の開け閉めにより間仕切ができるようにしています。建具はすべて壁の中に収納出来るように戸袋を設けています。和室天井にはよしずボードを張っています。
□ 階段・廊下・寝室(下 写真2枚)
廊下の階段吹抜けには格子を張っています。吹抜けには高窓を付けている為、光が廊下へと差し込みます。寝室には大工さんの造作材による机(天板)と本棚が造り付けてあります。机の照明は蛍光灯を設置し、蛍光灯の光が直接目に入らないように木材でカバーを作っています。
□ 台 所(下 写真1枚)
台所カウンター収納の建具をポリ合板張りの建具にしました。ほとんどの住宅で板張りの建具でしたが、ポリ合板張りの建具も全体のバランスを考えた色にすると雰囲気の良い収納建具になります。室内木部にはステイン(メープル色)を1度塗り、拭き取りを行い、2度目にウォルナットを塗っています。
□ 居間の天井はムクリ屋根により、緩やかなカーブを描いております。2階の手摺部分は小屋裏収納への出入り通路を兼ねています。壁、天井と柱、梁の色が違うので材料の境界が明確に分かるので全体的に引き締まった印象を与えます。
□ 感 想
建主のHAさんと柴所長は南郷村物語(百済の里づくり)のときから親交があった間柄で、今回の家作りにおいてもお互いの好みを十分熟知した上での家作りとあってとても良い家が完成したと思います。今までの住宅と違い壁、天井に杉板を張らずにクロスを張り、柱、梁にも濃い色の塗装材を塗るといった造りの住宅になりました。工事の内部木部塗装中に現場を一度伺う機会があり、その時は完成のイメージが良くつかめずにいましたが、完成検査で訪れたときはいままで作ってきた住宅とは違った色や材料の使い方にこんな表現の仕方、組合せがあるんだなと建築の面白さを再発見させられたような気持ちになりました。柴設計に勤め、5年が経とうとしてますが、まだまだ勉強しないといけない事があると痛感させられました。 (葛迫 和人)
美郷町南郷区(旧南郷村)は、私の関わった建物がたくさんある所です。百済の館、村営レストラン、神門庵、南郷茶屋、西の正倉院の付属施設及び外構、鐘楼、コテージ山霧、温泉水加工施設、樫葉オートキャンプ場、水清谷オートキャンプ場、鬼神野渓谷キャンプ場、展望台、M邸、T邸、K邸等、棟数で数えると30棟を越えます。
1986年、南郷村は「子々孫々に誇りうる南郷村の創出」をコンセプトに「百済の里づくり」を始めました、ソフト、ハード両面で色々な取組みを行いました。当時の田原村長の熱い想いを実質的に支えていたのが、今回の建築主であるH氏です。私も建築の専門家として色々な提案をし、そしてソフト面では家族ぐるみで様々な取組みに参加しました。
「家づくりのコンセプトは何ですか」と聞かれた時に、「つくる過程を大切にできればと考えています、山に通っているのもプロセスのひとつひとつ大切にという想いからです」と答えています。この事を感じさせてくれたのが、H氏なのです。家づくりは基本的には何もない所からのスタートとなります。まさに南郷村の地域おこしも、その素材探しから始まったのです。そして見出した素材を丁寧に磨きをかけ続けることで多くの人の心に残るものとなりました。H氏は村内の諸々厳しい状況の中、このプロセスをイメージされ、そして実践されました。
今回、H氏は家に対する想いを明確にイメージされていました。その中には私が今までに作ってきた建築も入っていましたので、私の作業はご希望のイメージを整理し、それを組立直し、建築としてまとめることになりました。家族構成・地域性を考慮したプラン、木材、そして仕上げ等にその想いが込められています。
(柴睦巳)
□ 作業場
柱には目の詰まった桧材を使いたいとのご要望がありました。そして建主ご自身で手配をされ、現場へ支給されました。120×120×3000を玄関居間、食堂等目に付く所に使用しています。他の木材はお隣の諸塚村の自然乾燥材を使用しています。
□ 室内3D
(左)階段と廊下を見た所です。平面図よりわかるように廊下からは家族が主に使用する部屋であり、来客者などが出入りする事が比較的少ないように部屋の配置をしています。廊下の天井は吹抜けになっており、吹抜けの高窓から格子通して廊下へ採光がえられるようにしています。廊下突き当たりにはルーバー窓を設けており、食堂と廊下を区切る建具を開け閉めすることにより、住宅内の通風ができ、気持ちの良いものです。
(上)台所と勝手口です。勝手口には目隠し用の板塀を設け、流しを設置しています。勝手口等の外部に面した所で洗い物ができるのは、便利なものです。
□ 室内3D
食堂から居間と台所を見た所です。食堂と台所には天井を張り、居間は吹抜け部分に天井にエコクロスを張っています。登り梁が室内からも確認できムクリ天井を更に引き立てています。居間のレンガが敷いてあるところには薪ストーブがはいります。
□ 模型
今回のHA邸では計画段階で模型を5個作りました。最近は1物件につき、2〜3個の模型提示をする事が多くなりました。模型で建物を検討、確認する事は建主さんや設計者、施工者にとっても建物の形状を把握する上でとても役にたっています。HA邸では模型1〜5と平面には、それほど大きな変化はなかったのですが、屋根形状の検討が必要だった為に5つ作りました。
□ 室内3D
開口部のタイコ梁上には蛍光灯を設置しており照明機器を隠す為に幕板を込み線で固定しています。幕板で隠す事により、光が直接目に入らず間接照明になります。吹抜け2階部分にはキャットウォークが設置されており、小屋裏収納への通路をかねています。吹抜けは風が抜け、光が抜け、視線が抜けるのでとても気持ちのいい空間を演出してくれます。そのため、多くの住宅で抜けのある空間を作るようにしています。
□ 室内3D
玄関ホールには居間と台所への2つの建具があり、来客者との動線が重ならないように区別しています。洗面脱衣は建物北側にあるため、採光用の天窓を設けています。
□ 感想
今回の通信製作にあたり、使用している3D画像は半年程、柴設計に研修に来ていたFさんが作ったものを使用させて頂きました。柴設計で使用しているCADソフトが初めてということでしたが、それを感じさせないぐらい部材のひとつひとつを細かい所まで表現していました。
(葛迫 和人)
▼ 宮崎市 海の見える家 ▼
M邸の敷地は宮崎市内学園木花台の海の見える場所です。
私も海(白浜海水浴場)そして山(双石山)の近くに住みたいとこの学園木花台に自宅を作りました。MY邸の近くには子供の同級生の家があり以前何度か来たことのある場所です。
敷地からは、北側にシーガイヤの高層ホテル、そして日向灘に面する赤江浜の松林が宮崎空港から清武川まで続き、そして河口を挟んで、サーフィンで有名となった木崎浜の松林、そして木花運動公園内のサンマリンスタジアム等の施設が、南東には「コノハナサクヤヒメ」伝説で知られる木花神社のある木花の森が臨めます。特に清武川が日向灘に流れ込む河口は、手前に国道220号線と旧国道との2本の橋があり、間には木花集落の家並そして畑を目にすることができます。
まさに大自然と人間の営みを一望できるとてもすてきな場所です。特に清武川河口の向こうに見える海の色、空の色、雲の形、刻々と変化する様は何時間でも眺めていたいものです。またその手前の橋を音もなく通りすぎる車を見ていると、とても不思議な感覚をおぼえてしまいます。
定年退職後、故郷である宮崎でゆっくりとした生活を望まれていたMさんにとって、家づくりの基本はこの土地を選んだ時点でほぼ決まっていたのでしょう。
この眺望を日常生活の中に取入れた生活をしたい、食事の準備をしながら、食卓に座ったとき、読書をしながら、庭の手入れの手を休めたとき、何気にこの風景が目に入ってくる、そのようなプランを望まれました。台所、食堂、書斎、そして広いデッキが主役の計画となりました。
唯一、私の方から提案したのは、道路と敷地の高低差が1mから2mとなっている取合い部分でした。造成の段階で車庫(1)部分には駐車場と階段が作られており、その高低差は2mありました。日常的に2mの階段の上り下りはたいへんきついものです。段差の少ない南東に敷地へのアプローチを変更してはと提案しました。将来、もしも車椅子での生活となった時にでも、この場所であればスロープの確保ができ、また何より、日常生活が眺望豊かな東側、そして陽光豊かな南側に向けられることになり、生活の中での内部と外部のつながりが豊かなものになります。
2008年7月に完成しました。2009年の春には新居での生活が始まります。たくさんの趣味をお持ちのMYさんです。日々の生活の中で増々魅力的な住まいとなっていく事でしょう。
(柴睦巳)
□ 北東面(写真 上)
玄関までは駐車場〜玄関アプローチを通らなけらばならず、この少しの距離間が住宅と外部を繋げる程よい間隔を保っています。駐車場と玄関アプローチには多彩な植栽が行われ、すごく雰囲気の良い場所となっています。
□ 東立面
道路より一段高くなった敷地、開放的な東側に日常生活での目線が何げにむけられます。
□ デッキ
冬場は透明雨戸によりサンルーム。夏場は屋根付きデッキとして使います。
□ 食堂・台所
居間と和室の建具を開けると一体的に繋がり視線が抜け部屋に開放感が生まれます。また、和室の西側窓からの通風が多く入り、居心地の良い風がすり抜けて行きます。
□ 郵便受け 下足入れ(写真 右)
洗面台収納の一部を利用して郵便受けを設置しました。寝室より朝起きて新聞を取り食堂に向かうという、生活が浮かびます。普段は収納扉は閉めているので覗かれる心配もありません。靴の収納スペースにSUS製のパイプを取付け傘専用の置場を設けています。意外と傘の置場がなく玄関に立て掛けたままという光景を良く見かけます。少しの工夫ですがあるだけでとても便利です。
□ 台 所
システムキッチンはIランド型のフラットタイプを使用しています。建主さんの希望もあって初めての使用でした。IHコンロファンの換気口の位置検討を模型を使用し詰めていきました。台所収納は1箇所しか設けていないのですごくスッキリとした雰囲気でシステムキッチンが映えているのではないでしょうか。
□ 脱 衣
脱衣室には便器があります。浴室や寝室の近くの便器は意外と頻繁に利用するものです。また、奥の建具を開けると干場につながっています。写真建具は雨戸で通風可能なタイプの雨戸となっており、外からの視線防止や外出時の防犯を考えると、とても便利な雨戸です。
□ 洗 面
洗面台は既製品でなく大工さんの造作で造っています。洗面カウンターの曲線や鏡枠の造作に大工さんの熟練の技が目に付きとても良い仕上りになっています。
□ 書 斎
建主さんの所有する書籍が多いという事もあり、壁に造付けの本棚を造りました。小屋裏への出入りはこの本棚を利用して上がります。
□ 感 想
最初にメールを頂いてから約3年後に住宅が完成しました。柴設計に住宅を依頼される方々は出会いから2〜3年後に住宅を完成したいという方が多く完成までの付き合いが長期になる場合がほとんどです。建主さんは計画当初から住まいに対する思いや、諸要室の使い方を細かく要望として提示され、自分達の将来の生活像を既にイメージされておりました。設計する側にとっても建主さんの抱いているイメージを共有しやすくお互いが納得する住まいを作り上げていきやすかったです。今回のMY邸もですが、お互いが満足する物ができたと感じています。
(葛迫和人)
2005年
8月22日 事務所にメールを頂く
「宮崎自然派住宅通信」郵送希望
8月24日 宮崎自然派住宅通信を郵送する
10月10日 事務所を訪れるU邸、O邸を見学
2006年
4月10日 メールを頂く家づくりの準備に入る
10月23日 ◎事務所を訪れる
H邸を見学
11月14日 メールにて要望及び希望平面添付
2007年
1月19日◎事務所を訪れる
設計監理委託の契約を行う
計画案C提案 敷地の配置計画
TOM邸を見学
3月03日 MYさんご自宅にて打ち合わせ
計画案D,E提案 工事概算金額提示
4月07日 MYさんご自宅にて打ち合わせ
計画案F提案 基本計画案決定
5月12日 ◎庭師の久富さん宅(庭)を見学
事務所にて電気、設備について打合せ
平面詳細図、断面詳細図提示
6月09日 ◎事務所にて打合せ
立面図、展開図提示
6月29日 ◎工事発注について説明
見積依頼業者選定
7月27日 ◎実施図面一式提示
実施図面による概算工事費提示
8月03日 7社に業者見積依頼 現場説明会
8月08日 ◎事務所にて概算工事費、設計監理費説明
8月16日 見積質疑回答
8月23日 業者見積書提出
8月24日 ◎業者見積書開封 2社を前提に見積検討
9月07日 施工業者と金額調整
9月15日 ◎小園工務店と工事請負契約を行う
今後の日程打合せ
10月08日◎現場打合せ 起工式
縄張り、敷地境界、設計GLの確認
10月10日 事務所にて構造体の段取り打合せ
10月13日 現場打合せ 擁壁の根切土状況確認
10月17日 現場打合せ 敷地内電柱移設検討
10月18日 FAXにて 部分納まりによる質疑解答
10月19日 現場打合せ 駐車場ベタ基礎配筋確認
11月10日◎現場打合せ 照明器具の変更
屋根、各部板金、アルミサッシの色決定
11月13日 FAXにて キッチンの水栓変更
11月22日 現場打合せ ベタ基礎配筋検査
未施工部分あり
11月26日 現場打合せ 再度ベタ基礎配筋検査確認
11月27日 敷地内電柱移設
11月28日 ベタ基礎コンクリート打設
12月06日 現場打合せ 立上り型枠確認
木工事の進捗状況確認
12月27日 電話にて 木材搬入日の連絡あり
2008年
1月09日 棟梁作業場にて 搬入された木材確認
1月26日◎諸塚村木材産地ツアーにご夫妻で参加
〜27日 棟梁作業場にて 建主さん主要構造体確認
2月20日 事務所にて 施工者より上棟日延期の申し出
2月26日 事務所にて 修正した工程表提出
3月01日 棟梁作業場にて 切込み木材の確認打合せ
3月03日 事務所にて 再度、工程について打合せ
3月07日 棟梁作業場にて 切込み木材の確認打合せ
3月14日 棟梁作業場にて 木材の現場搬入日程確認
3月18日 FAXにて 建主さんより外壁、塗装の色決定
3月21日 主要構造体を作業場から現場へ搬入
3月24日 FAXにて キッチンの水栓再変更
3月29日◎上棟式
3月30日◎現場打合せ 陶器などサンプルを提示し決定
4月04日 現場打合せ 付鴨居をサンプルにて検討
4月11日 現場打合せ 電気、空調関係配線打合せ
4月18日 現場打合せ 点検口の再検討
建具屋よりフラッターレール、金物の変更提案
4月22日 現場打合せ 内部木部の塗装サンプル準備指示
5月02日 現場打合せ 棟梁より建具納まり施工図提出
5月09日 現場打合せ 建具、棚板、納まり打合せ
5月11日◎現場打合せ 内部木部塗装色など
電気設備器具取付け位置、各種仕上げ決定
5月13日 メール 建主さんより照明位置の変更指示
5月16日 現場打合せ 玄関建具廻り納まり打合せ
5月31日◎現場打合せ 内部漆喰サンプル提示
スイッチ、コンセントプレートサンプル提示
6月06日 現場打合せ 外構レンガ打合せ
6月14日◎現場打合せ 可動棚板金物確認 プレート確認
6月17日 メール 建主さんよりケーブル回線位置指示
6月20日 現場打合せ 畳の種類決定 完了検査日延期申し出
6月25日 メール 建主さんより未施工部分の提示指示
6月27日◎現場打合せ 外構手摺の設置位置確認
外部レンガ敷き方向を指示 建具開閉調整を指示
7月05日◎現場打合せ 完了検査を行う 手直し部分指示
7月07日 メール 建主さんより手直し部分指示
7月09日 現場打合せ 建築主事完了検査を行う
7月17日 現場打合せ 手直し確認 再度手直し部分指示
7月19日◎現場打合せ 建築主完成検査 手直し確認
7月00日 引渡し
◎:建主さんが宮崎に訪れた日
□ 諸塚村木材産地ツアー
2008年1月26日〜27日にMYさんご夫妻、UTさんご家族と一緒に諸塚村木材産地ツアーに行って来ました。日中は木材加工場見学、夜は南川神楽を見て頂き宿泊は六峰館に泊りました。2日目は美郷町南郷区に足を延ばし「師走祭り」を見学し柴設計の担当した施設をいくつか見て頂きました。
□ 作業場
柴設計の住宅はほとんどの現場で主要構造体はプレカットを使用せず、棟梁、大工さんによる墨付け、切込みをして頂いています。真壁納まりの構造体が化粧仕上げに成る為、できるだけ大工さんの手痕が残るようにしています。ですので、切込み段階での打合せを多く行い、現場でのズレを出来るだけなくすようにしています。
感想 遠隔地からの家づくりという事もあり、建主さんが頻繁に現場に訪れることができず、連絡のやり取りはメールや電話、FAX、ブログでした。それでも、建主さんの指示や要望等はしっかりと現場に反映され、納得のいく家づくりができたのではないかと思います。2009年には宮崎に帰って来られ、本格的に住まわれる予定です。これから住宅が建主さんにより変化し、馴染んでいくのがとても楽しみな家となりました。今回の家づくりの様子はホームページのブログにて掲載されていますので是非ご覧下さい。
(葛迫 和人)
□ 北東面
東一面には縁側を設けています。一部をデッキとして広く取り、デッキは雨戸を閉める事により室内として利用出来るようにしています。縁側、デッキから眺める外の風景はとても良いです。東面と北面の敷地境界部分には、高低差を利用して低い垣根を設ける予定なので外からの視線もまったく気にならないと思います。
□ 敷地計画
駐車スペースは北側に1台、東側に2台と合計3台分のスペースを確保しています。計画当初は東側駐車スペースにカーポートを設置予定(模型写真 右)でしたが、庭を作る際にカーポートがないほうがすっきりとして見映えが良いということで、最終計画案では無くなりました。図面上ではなく模型を使い打合せを行った方が建主さんにとっても理解しやすいようです。
(葛迫 和人)
□ 南面
一体的な切妻屋根が住宅のボリュームを押さえ、近隣住宅の自然環境を出来るだけ変化させないように配慮しています。南面妻壁にはFIX窓を設置し割防止の為にタテ格子を付けています。模型写真右側に見える越屋根はキッチンフードファン用の換気口です。
□ 感 想
MY邸の模型は100分の1サイズ、50分の1サイズの2種類作りました。最近は100分の1サイズで模型を作る事が多く、HI邸の以来の50分の1サイズ模型となりました。MY邸は敷地と前面道路の高低差があり、敷地が広く外構部分も計画しているので作りあげるのに時間がかかりました。最近は格子などの細かい造作材が上手く表現出来るようになってきました。柴設計に勤めてから現在までに大小含め50個程度の模型を作り上げています。その為、事務所に置き場所が無くなり毎回工夫してどうにか保管場所を確保している状況です。事務所に訪れる機会があれば是非、見て頂きたいものです。また、HPでも完成した模型写真をブログにて少しずつですが、更新しています。
http://www1.odn.ne.jp/~aad13210/
建主のMYさんも我が家の家作りブログを書くと言われていたので、どのようなブログが綴られていくのか非常に楽しみです。
(葛迫 和人)
□ 住まい対するイメージ・要望書(メールより)
・夫婦でゆったりと趣味を楽しめる家。終の棲家。
・たまに友人や親族を迎えて楽しく過ごす家。
・外装下部は板張り、上部は木骨造り風。
・古民家風なダークな無垢材と白い漆喰壁を基調にしたい。
・内装は柿渋塗りの梁や柱、床と白壁で、アンティーク家具や、民芸家具が似合う家。
・道路と敷地に高低差があるが、できだけゆったりとオープンなアプローチにしたい。
・駐車スペースを3台分くらい確保したい。
・東及び北の展望を生かした場所へダイニングやリビングを配置。
・展望と食事も出来るウッドデッキを広く取りたい。
・少々雨が降ってもウッドデッキで遊べるよう屋根をかけたい。
・ウッドデッキ南部には夏場の緑陰のため、落葉高木を植栽する。
・照明用ライトは、原則白熱灯とし、調光器は不要です。
・和室をゲストルームとして使用します。・ 流しはワイド2,400ミリ程度のアイランドキッチン
・台所・食堂・居間は一体感のあるワンルーム感覚で使用したい。
・居間は複数家族帰省時は臨時寝室としても使用する。 ・玄関は間口1間くらいが希望です。
・廊下通路幅は1,200を確保したい。・寝室横にはクローゼットをつける。
・書斎は「道具や本」がたっぷり収容できる天井までの棚を出来るだけ多く付けたい。
・夫婦ともお風呂大好き。 ・トイレは2つ設置。一つは洗面室に。
・釣のクーラーなど道具洗いや魚の「荒さばき」のため、外で使える「流し」が欲しい。
・敷地周辺は、杉無垢材などで低い柵で巻き、プランターや植木鉢などをかけて飾りたい。
▼ 延岡市 浜町の家 ▼
現代はまさにインターネットの時代、私の事務所でも受注の半分がなんらかの形でインターネットによるものです。柴設計のホームページを見られ、興味を持たれて、実際に話しを聞きたい、完成した住まいを自分の目で見たいとの希望によりお会いすることが多くなりました。
また遠方でありながら、インターネットを使い、諸々の相談事をお受けすることもあります。宮崎県の温暖な土地柄を求めて移住を考えている方からの相談をお受けし、そして実際宮崎の地に「住まいづくり」を実行された方のお手伝いをさせていただくこともあります。
今回紹介するUTさんご家族は、県外の方ではなく県北在住です。家づくりを考えられた早い段階からホームページをチェックされ私達との家づくりを考えられていました。
2004年には延岡市のY邸、日向市のK邸を見学され、住まいに対する考え方、木を使った家づくりに理解をいただきました。当初よりお子さんの進学に合わせての住まい完成を目標に、県北での土地を探されていました。
気になる土地があるとメールで、敷地状況そして周辺写真を送ってこられました。周辺の環境、道路状況、公共下水道などを確認しアドバイスをさせていただきました。日豊本線の線路近くの土地についてご相談があったとき、列車の通過時の騒音、振動もそうですが、それ以上にこれから「やんちゃ盛り」となる子供達の外部環境として相応しいのかどうか、考慮されてはとお話しました。
生活の場所を求めはじめると、色々な意味で完全な土地というものはないのかもしれません。町中であれ、郊外であれ、自然豊かなところであれ、何らかの危険性はあります。ただし自分達の敷地内環境は再整備ができますが、周辺環境は一度ここだと決めてしまえば変えることはたいへん難しいものです。
家族のためにどのような環境が望ましいのか、大いに悩まれたのではないかと思います。そして現在の土地を決められたのです。家づくりもそうだと思うのですが、その場所でどのように生活したいのか、朝、昼、夕方、そして夜の各々の時間帯に、また平日、休日、可能ならば四季を通して現場に足を運ばれてみてはと思います、それができない時には近隣の方達にお話を聞くこともできます。敷地の選定、家の計画、いずれもじっくりと時間をかけられてはと思います。特に家は買う物ではなく、作りあげる物なのですからなおさらです。
実際に敷地とされたのは、ご両親が自分達の自宅建設用地として準備された土地で、そのほぼ半分を使うことになりました。国道に面する大型店舗の隣地で、東側にはミニ開発された住宅地があり、国道近辺とは思えない静かな環境です。ただし前面道路となる北側に接する道路は、周辺より一段低くなっており、大雨時には渇水の可能性があるとのこと、今までの渇水状況より敷地の高さを決め建物の建つ地盤面としました。ただし駐車場の高さは、道路取合いを前提としました。
ご両親の家が敷地の南側に、Uさんご家族の家が北側に、中庭をはさんだ形で建ちました。中庭には、みなさんで選ばれた「ハナミズキ」の木が植えられました。ちなみに「ハナミズキ」の花言葉は「私の想いを受けてください 」「返礼」です。1912年東京からワシントンに送られた桜の返礼として贈られたのがハナミズキで、花言葉の由来となっているそうです。
(柴睦巳)
□ 外部
駐車スペースは4台常時止めれる広さがあります。来客時には東側のアプローチに2台縦列できる広さを確保してあります。また、ご主人がバイクに乗る事もあるのでバイク置場までは段差もなく進入出来るようにスロープとしています。アプローチ床のふちにはアクセントとして緑が植えられるように立上がり擁壁との間に淵をとっています。駐車場側には物置を設置しており、どのご家庭でも家の中では使用しない物が意外と多くあり収納する場所がなく、外に放置したままという事が見られます。その為の物置部屋をしっかりと確保し、更に車の近くに設置することができれば、より家が片付き、使いやすいようになります。
□ 計画
U邸は居間、台所、食堂、浴室、子供部屋が2階にあります。ご両親の家が南側に隣接しているため日常的に使う諸室の開放感を考慮し、生活の中心を2階にあげることになりました。子供部屋は2部屋それぞれ4.5畳の広さがあり、収納を挟んで配置しています。将来、子供達が子供部屋を使用しなくなった場合に収納建具を外し、1部屋として使用できるように今回はロフトなどの造作はしていません。ご主人の仕事柄、日中に睡眠をとるということ事があり昼間でもゆっくりと休める部屋が良い。ということで生活の中心とは離れた1階に寝室を設けています。また、早く帰宅する子供達の事も考え子供室からも離しています。寝室前にはデッキを設けお布団が干せるように手摺を廻しています。また休みの日にはご主人がバイク置場の前で、バイクのメンテナンスをしながら子供達がデッキ、庭を駆け回っているという、光景が浮かんできます。
□ 廊下(写真 上)
廊下の壁には収納を設けています。できるだけ、物を目に付く所に置かないように収納を設け隠してしまうのも、整頓されたように見せる工夫です。
□ 飾り棚(写真 左)
居間の一角に飾り棚を設けています。計画段階に五月人形や羽子板人形などの季節物を置けるスペースが欲しいという事で作りました。収納にはアルバムを入れる予定で現在所持しているアルバム寸法によりその大きさを決めています。
□ 食堂・台所(写真 右下)
台所の奥は洗面脱衣と浴室につながっています。また台所と一体となった食堂の南側には洗濯物干場を設置しており、水回りを台所中心にまとめることにより、少しでも家事、炊事をしやすくしています。また、キッチンと食堂カウンターの間に、食事の出し入れがしやすいようにカウンターを設けています。
□ 天窓
日中、照明を使用しなくて良い空間としたいということで、天窓を居間に2ケ所設置しています。直接、太陽の光を入れると眩しく、熱も入り込んでしまうので、やわらかい明かりが室内に差し込むように天窓には障子を設けています。天窓障子は簡単に開閉が可能のようにしております。
□ 和室(写真 上)
将来、家族が増えた時の為に和室を設けています。現在は親戚や友人が泊まりに来た際のゲストルームとなっています。和室から縁側、濡縁と続いており、縁側には簡易の流しを設置しています。(写真 右)
□ 玄関・玄関ホール(写真 左)
玄関には姿見用の鏡を設置しております。ほとんどの住宅に姿見用の鏡を設置しており、あると意外に便利なものです。バイク置場には玄関から出入りできるようになっており、一度外に出てからバイク置場に入るという必要はありません。下足箱の棚板は高さを調整出来るように、可動棚板としています。玄関と玄関ホールの段差は20㎝と程よい高さにおさえています。玄関床仕上げは豆砂利の洗い出し仕上げです。
□ 筋交棚(写真 下)
和室と居間の化粧筋交には棚を付け、小物置き用に設けています。
□ 2階ベランダ
流しが設置してある所が干場になります。梁にSUS製パイプを付け洗濯物を干せるようにしてます。また、天窓を採り軒先を深くしているので多少の雨でも吹込むことがないので、安心です。ベランダからは庭の緑が見え、天気の良い日には手摺を利用して布団を干すこともできます。
□ 感 想
U邸の家づくりは敷地南側に親世帯の住宅が建つということが前提でした。以前、設計した延岡のYA邸と似た2世帯住宅の条件でした。YA邸と違うのは前面道路に親世帯の敷地が接しておらず、子世帯の敷地に前面道路用の土地を確保して、残された土地で住宅を設計するということでした。U邸の工事が着工するころには、親世帯の住宅はほぼ完成しており、2世帯住宅の関係を考えながら、計画も進めて行きました。結果としては親世帯と子世帯の住宅の間に可能な限り庭をとり、子世帯の住居レベルをあげて親世帯との生活レベルのズレを利用するということで、お互いのつかず、離れずという関係を保てるようにしました。親世帯の車は子世帯の駐車場を使用するといことで共有出来る所は、共有して行きました。住宅が完成し、感じたのですが上手くお互いの距離を保ち、気兼ねなく生活できる住宅を提案する事ができたのではないかと思います。
(葛迫 和人)
出会いから完成までの流れでも表記していますが、Uさんご夫婦は2度木材産地ツアーに参加されています。1度目はご夫婦で、2度目はお子さん2人を連れてのご家族で。1度行かれた時に諸塚村の魅力にひきつけられ、子供達にも体験させてあげたいという想いが強かったようです。家族全員で楽しみながら家をつくりあげるという良い思い出になったのではないでしょうか。
□ 庭見学(久富邸)
Uさんご夫妻とTAさんご夫婦と一緒に久富作邸事務所の久富さんの自宅を見学に行きました。住宅と庭とのつながりが良く、大変気に入った様子でした。2家族とも住宅にシンボルツリーとなる木を植えました。
□ 現場にて(写真 下)
化粧として使う丸柱を鉋で丁寧に仕上げる20代の大工さんです。柴設計の住宅は真壁納まりがほとんどなので、大工さんの腕によって住宅の善し悪しが決まるといっても過言ではありません。少しでも大工さんの持っている技術を生かせる住宅を設計し、より良い住宅を作っていくことが、建主・施工者そして木材供給者にとって良いことではないでしょうか。
□ 木材確認
施工業者さんの作業場に加工場より構造体となる木材が入ったとの連絡がありましたので、建主さんと共に確認に行きました。どの材を住宅のどこの部分に使われるかをこの時に確認します。また、柱と梁など各部材の取合いについても、打合せを行います。
□ 直会(写真 左)
なおらい(直会)と呼ばれ、棟上げの神事後に建主さんより大工さん達への感謝の気持ちとこれからの工事の安全を願い行われる習慣的な行事です。この時に大工さんから上棟までの苦労話や納まりのアレコレといった話を聞く事ができ、大変有意義な時間を過ごせる、楽しい一時です。
□ 山主(写真 下)
上棟式の日には諸塚より木を切り出して頂いた山の山主さんも足を運んでお祝に来てくれました。木を育てた人々との出会いがあるのも産直住宅ならではの楽しみでもあります。
□ 現場打合せ(写真 上 右)
右の写真は建主さん、設計者、電気工事施工者との打合せの様子です。真壁納まりの構造体が見出しで納まる住宅なので早い段階から、電気、給排水の配線、配管打合せが行われます。現場打合せは住宅が上棟を迎えてからは建主さん、設計者、現場監督の3者そろって、定期的に週一回のペースで行っています。それ以外にも、現場からの質疑が出た時などはなるべく現場に行き、解決するようにしています。
□ 幕板(写真 左)
蛍光灯の見た目はあまり良いものではありません。なので、幕板で目隠しをしました。その幕板にランダムに穴をあけ、そこにビー玉を埋込み、蛍光灯の光を利用してカラフルな灯りを提案させて頂きました。写真は建主さんご夫婦で穴の位置を指定して頂いてるところです。
□ 薪ストーブ
写真は薪ストーブのレンガ壁を施工しているところです。薪ストーブは建主さんが、是非設置したいという事で設置しました。薪を2階まで持ち運ぶのは大変ですが、薪ストーブの魅力を考えるとその行為も住まいの楽しみの一つになると思います。
□ 模型
初期計画案の模型(模型1)です。手前が親世帯、奥が子世帯です。北側前面道路に対して屋根のある駐車スペースが5台欲しいということで計画がスタートし、ピロティ形式の駐車場を提案しました。
模型1でのピロティ形式の屋根を作ってしまうと柱がどうしても必要な為、5台分の駐車スペースが確保できないという事で屋根なしの計画案(模型2)を提案し、駐車スペース5台分を確保しました。
住宅を作る際、どうしても優先順所が出てきてしまい全ての要望を満たすのは難しく、何を最優先するかでプランを決める部分があります。
□ 感 想
今回はU邸の家づくりの流れをまとめました。Uさんとの出会いは計画がスタートする約2年前のメールからでした。その間に家に対する想いを家族で考えていたのだと思います。家づくりというものは簡単にできるものではなく、長い歳月をかけて完成します。それだけ想いがつまっているものなのだと感じた次第でした。山へ松材探しに建主さんと設計者だけではなく、現場監督、棟梁まで参加した家づくり。この取組みも印象的でした。
家を建設する側(施工者)も立木の時から参加する家づくりが当たり前になれば、更に良いものを作っていけるのではないかと思いました。
(葛迫 和人)
▼ 宮崎市 大塚の家 - 02 ▼
TAご夫妻との出会いは、2005年の春に完成したOB邸の建築主さんのお友達として紹介していただいた時です。同じ年の7月にもOB邸にて、2007年春に完成したTODご夫妻を紹介していただきました。TAさん、OBさん、TODさんは宮崎市内の同じアパートで友達同士という間柄でした。最初に完成したOB邸をご覧になり、またOB家族との家づくりのプロセスにも興味を持たれたようです。
TA邸ご夫妻との家づくりは、土地探しへのアドバイスから始まりました。私は不動産業は兼務していませんので、気になる土地があった時に電話があり一緒に見て欲しい、そして感想を聞かせて欲しいというものです。最初の頃はご主人の仕事の関係から、宮崎市郊外の広めの土地を探されていましたが、だんだんと住んでいらっしゃるアパートの近くを希望されるようになりました。現状は、日常の買い物、子供達の学校(小学校・中学校・高校)、病院、バス等の公共交通機関どれをとってもたいへん便利を良い所です。
お会いしてからほぼ1年後の秋に、「アパートの近くに土地がありました」ぜひ見て欲しいとの連絡がありました。お住まいのアパートから3分ほどの場所です。南側道路に面した長方形の土地で、東隣はゆったりとした敷地を持つ個人住宅、西側は境界から5Mほど離れて4階建の鉄筋コンクリートのアパートが建っており、南側の前面道路はアパートへの進入のための通路となっています。子供の道路での事故の心配も少なそうで、おもわず「待っていた甲斐がありましたね」との言葉が出てきました。進入路を指定道路としての手続きも順調に終わり、9月には設計監理委託の契約の運びとなりました。
敷地形状は南面道路に接して南北に20m、東西に12mとなっています。この敷地内に家族4人のための生活の場を作ることになります、ただし将来、両親のための増築も計画のテーマの一つとなりました。また敷地の有効利用の話しの中で、近隣住宅状況より、一部を有料駐車場としても借り手があるのではとの話しになりました。住宅資金返済のために少しでも収入があれば、家計としては多いに助かることになるでしょう。この事は最初に土地を見せていただいた時に考えたことです。私も現在住宅ローンの返済を行っていますが、住まいがお金になる可能性があるのであれば多いに検討してみてはと思います
TA家族とは、2005年の夏の出会いから、今日まで2年9ヶ月あまり、住まいづくりを通して、多くの時間を共有してきました。土地探しから、完成住宅の見学、諸塚村の山へ木をそして神楽を見に行き、アパート、事務所での計画設計の打合せ、そして現場での施工者を含めての打合せ、どれをとってもたいへん意義深いものでした。すでに始められた新居での生活、TA家族にとって共有してきた時間が住まいの中で機会あるごとによみがえってくるのではと思います。
(柴睦巳)
□ 外観(写真 上)
母屋は計画当初、片流れの予定でしたが、表情に変化をつける為にムクリを付けました。玄関ポーチ前には芝ブロックを敷き詰めて、完成後に建主さん自ら芝生を植えて行く予定です。また、デッキ前にも芝生を植え、室内の目隠しの為に背の高い垣根を植えて行きます。
□ 模型(写真 3枚)
模型は触れてみる事ができるので建主さんに住宅のイメージを伝える為には一番効果的です。今回は計画の段階から合わせて3つの模型を提示しました。模型1が最初の案です。屋根が切り妻になっており、越屋根がのっています。建物全体が縦に間延びしているように感じ、模型2では屋根を片流れ変え、建物の重心を下にさげる為に下屋を設けています。そして、その下屋スペースにはデッキ、干場、ポーチを置き、模型3にまとまって行きました。
[平面計画]
□ 趣味を活かす
ご主人の趣味である、バイクの置場を作りたい。との要望があり住居部分に接するようにバイク置場を設けました。その事により玄関ポーチ、物置ポーチに広いスペースを確保する事ができました。休みの日にはご主人が物置ポーチでバイクの点検や洗車をしながら、子供達がデッキや庭で遊んでいるという光景が浮かびます。
□ 廊下を書斎に
物置は廊下からも出入りできるようになっています。廊下には大工さんの手により、造付けの机と棚を造っており、書斎も兼ねています。廊下の押入には掃除機を置きたい。という希望があった為、計画段階から掃除機が納まるように棚の幅寸法を決めました。
□ 家事をしやすく
水周りを北側にまとめることにより台所、ユーティリティー、洗面脱衣と動きやすく、家事がしやすいように配置しています。また、干場を食堂の南側に設置し、更に使いやすい配置になっています。干場には目隠し用の格子や流しを設け、洗濯機を干場にも設置できるようにコンセントと給排水用の配管も準備しています。
□ 子供室(写真 上)
お子さんが男の子2人ということもあり、子供室の間には間仕切を設けず、同じ1つの部屋にしました。また、広さも1人当たり2.5畳と就寝と机に向かい作業をするだけの必要最小限の広さにしています。風通しの為にそれぞれの机の前にルーバー窓を設置しています。
□ 洗面脱衣(写真 上中)
大工さんによる造付けの洗面台と棚が設置してあります。洗面台の隣には洗濯機を置き、浴室からのお風呂の残り湯を利用しやすいようにしています。
□ 足跡(写真 左)
玄関ポーチ床の一部にお子さんの足跡をモルタル付けしました。
□ 寝室(写真 上左 上)
寝室は5枚タタミが敷かれています。床に直接布団を敷き就寝するという以前の生活を引継ぎました。障子を開けると居間の吹抜に面しており、障子建具の下には無双格子の窓を設け夏場の暑い夜は、ここを開くことにより、風が通り抜けるように無双窓を設置しています。写真奥のへこみスペースは鏡台用のスペースとなっており、既存の鏡台を使用したいという要望があり、鏡台寸法に合った広さを確保しています。
□ 階段(写真 左)
階段は杉板4.5㎝の踏面24.2㎝蹴上18.6㎝の緩やかな勾配になっています。居間に面した部分は階段に合わせた格子を設置して、開放的な作りになっています。写真でも分かるように、お子さんも苦なく上がり降りをしていました。
□ デッキ・干場・玄関ポーチ(写真 上)
計画当初はデッキ・干場はありませんでした。しかし、打合せを進める内にデッキ・干場が生活の中であった方がよいということを提案させていただき設置しました。軒先も深く取り、目線を遮らない適度の高さに押さえることにより、居間からデッキを通して外を眺めた時に視線に奥行きができ、開放感を与えてくれます。デッキで子供達が走り回ったりご主人の希望でもあったハンモックを吊るしゆっくりと時間を過ごたりと生活に幅を与えてくれます。また、近所の方の来客時はデッキに座り、ゆっくりとお話ができる場所になります。
□ 居間・食堂(写真 左)
居間と食堂は一体的につながっており、台所に面するように配置されています。台所は対面式になっているので、洗い物や食事の準備をしながら居間、食堂にいる家族と会話ができ、視線を延ばせばデッキ越しに外の植栽が目に入ります。居間は住宅の中心にあり、居間からはどの部屋に居ても人の存在、気配が感じられ、直接顔を合わせなくても安心してくつろぐことができます。
□ 感 想
T邸は比較的こじんまりとした住宅です。限られた生活面積の中にいかにして豊かな生活を与えられるか。それが大きなテーマになったと思います。住宅が完成して感じた事は決して小ささを感じさせない住宅になったと思います。むしろ小さい中に生活が詰まっているので、その中に工夫や豊かさが見え、密度の濃い良い住宅ができたと思います。大きければどんな生活も受け入れられるということはなく、そこに住む人にあった住宅の形があると強く感じる事ができました。着工から完成までほとんどの打合せに参加させて頂き、勉強不足の所が多々ありましたが、有難うございました。
(葛迫和人)
□ 写真
2007年の1月27日〜28日に現在計画中の建主さん2家族とご一緒に諸塚村に木材を見学に行ってきました。写真上は加工場にて山から運ばれた木材を等級分けされている所です。加工場では役場職員や加工場職員の方々に説明を受けながら案内して頂きました。
葉枯らし材を山から下ろしている時期でしたので、その過程が見ることができました。葉枯らし材は山の斜面に寝かされている為、重工機を使用してワイヤーで引き揚げられ、その場で玉切りされていました。
□ 写真 上 右 右下
加工場で柱や梁の実物を目で見て、手で触れる事ができます。製材されるまでの過程も分かり、材に対しての安心感や愛着がわきます。住宅を作りあげる上で非常に良い体験になるのでは、ないでしょうか。
□ 写真 下
夕食後は戸下神楽を見に行きました。毎年1月の最終週の土曜日から日曜日にかけて神楽が行われています。その行事に合わせて毎回諸塚に足を運んでいます。建主さんも山主や住民の方々と交流出来る良い機会なので毎回、どのご家族にも満足していただいています。
□ 写真 左
造成工事で盛土転圧を行い、床掘りをし、砕石を敷込み、型枠をつくり防湿シートを張り、ベタ基礎鉄筋を配筋していきます。地盤から立上がっている管は給排水用の配管です。
□ 写真 右
加工場から施工業者の作業場に搬入された製材を建主さんと確認に行きました。諸塚から作業場に搬入された材は住宅の構造体(柱や梁、桁)になる材です。その後、大工さんの手作業により墨付け、切込みが行われ現場へと運ばれます。構造体が化粧材となるので搬入段階から打合せを行います。
□ 写真 右
工事途中、外構に芝ブロックを敷きたいという要望があり一部、芝ブロックを敷きました。芝生は引越後、建主さんが自ら植えて行く予定です。また、室内への目隠しの為に垣根(イヌマキ)を設けます。庭にはシンボルツリーとしてモミジを一本植える予定です。
□ 写真 右
居間の蛍光灯を隠す為の幕板です。建主さんがビー玉の穴の位置を指定しているところです。ランダムに穴をあけ、そこにビー玉を埋込む事によりカラフルな光が差し込みます。室内のアクセントとして提案しました。
□ 写真 右
川内棟梁が外廻り格子部分の切込みをしておりました。ここは将来デッキになる場所です。軒先が深く日中、夏は日陰になり涼しめ、冬は日が差し込み日光浴ができるデッキになります。
□ 感 想
今回の通信ではTA邸の出会いから完成までをまとめました。資料整理をしているうちに諸塚での体験や現場打合せ、上棟式、といった共有した時間を思い出し、すごく楽しい家づくりに参加できたのだなと改めて感じました。
(葛迫 和人)
▼ 高鍋町 持田の家 ▼
■ 土間をつくろう
専業農家としての生活をどのように計画するのか、今までお住まいの住宅には土間があり、台所、食堂、そして日常の玄関としての機能がそこにはありました。そして土間に面して茶の間があり、この二つのスペースが生活の中心となっていました。新居の計画でも土間の空間をどのように考えるのか、当初、土間を南北をつらぬく空間とし、対面した台所、直接あがる茶の間として、広い土間を計画しましたが、打合せを重ねるなかで、土間としての使い方は限られており、板間としてのスペースが広い方が良いのではと変わっていきました。
■ 下屋空間をつくろう
土もの野菜の流し場として、また泥の付いた衣類を洗う二層式洗濯機置場、そして洗濯物干場としての下屋を台所の西側に作りました。新しく出来上がった住宅に簡易に取り付けられた下屋を良く見かけます。設計の段階で日常生活についての検討がなされていない結果だと思います。
■ お布団干しをつくろう
アパート生活を経験して、良かったなと思うことがあります。部屋の南側にベランダがあり、天気の良い日にお布団が干しやすいことです。冬場のほかほか布団はとても気持ちのよいものです。和室前の濡れ縁に手すりを設けお布団が干せるようにしました。
■ 脱衣室に前室を
土間と洗面脱衣の間に前室をつくりました。農作業時に使用される作業着が掛けられるハンガースペースを設置しました。作業が終わりお風呂に入り、そして食事をとられるご主人、日常の家事が一段落し、お風呂に入りそして茶の間でのひと時を過ごされる奥さんにも、自然な動線計画となったのではと思います。またこの部屋には大型の下足収納をつくりました、土間部分にたくさんの靴が並ぶのはあまり気持ちのよいものではありません。
■ 廊下を多目的なスペースに
南面した部屋が前提で始まった計画の中で、中廊下形式のプランとなりました。暗くなりがちな中廊下にトップライトからの自然光を取入れ、タンス置場、収納を設置しました、そして奥さんより人前では恥ずかしいと言われたピアノのスペースを確保しました。
■ 子供のスペースとして
作り付けのカウンター(長さ1.7・奥行き0.7)に専用照明、そしてロフトとスペースとしては決して広いとは言えません。快適な子供部屋というよりは、寝る・物を置く・静かに勉強をするためのスペースです。快適さはあくまでも食堂であり、居間であり、そして茶の間なのだという考え方です。子供のスペースをどのように考えるのか、計画の段階で時間をかけて打合せを行いました。
■ 対面の台所をつくろう
流しの前に立つ時に、茶の間や居間でくつろぐ家族が何気なく目に入り、自然に家族間の会話に入っていける事を大切にしています。ダイニングキッチンで流しが壁側に設置してあると、キッチン前に立つ時、どうしてもダイニングテーブルに背中をむける事になります。テーブルでくつろぐ家族の会話に、背中越しには入っていきにくいものです。一日の中で流し前に立つ時間は結構長いものです、この時間も大切にできればと常々考えています。
(柴睦巳)
宮崎県産材による木造住宅の普及について、4つの視点が必要だと考えています。まず1つ目に「建主の木に対する理解」、2つ目に「良質な木材」、3つ目は「良い設計」、そして4つ目が「良い施工」です。この4つのすてきな出合いが良い木造住宅を生み出し、結果として多くの人に、木造住宅を作りたいという気持をいだかせることになると考えています。
最初の「建主の木に対する理解」とは、木材の特性を知っていただくことです。県産材として一般的に使われているのは杉の芯持ち材です。なるべく割れないようにと背割りを入れたりと工夫はするのですが、やはり割れます。ただしこの割れが原因で建物自体の構造が弱くなったりということはありません。
民家をはじめ、多くの木造の建築物を見ていただく機会があれば、木材の割れを自然なものとして理解していただけるようになります。
2つ目に「良質な木材」との出合いがあります。現在、諸塚村の自然乾燥木材(葉枯らし材)を主要構造部(柱・梁・桁等)に使っています。
人工乾燥機により強制的に木材を乾燥させる方法ではなく、自然の中で季節を考慮し、そして時間をかけて乾燥させた木材です。
自然な乾燥なので、上棟時に見る柱、梁、桁等の木肌はとてもすてきなピンク色をしています。現在の人工乾燥では得られない木肌です。
3つ目が「良い設計」です。良い住まいとなるように、建主家族の現在の生活を基本に、過去の生活体験、そして将来に望まれる生活のありようについて、十分な打合せを重ねることを大切にしています。計画にあたっては1日24時間の生活、四季折々の生活、家族の成長とともに変わる生活など、時間を軸とした視点も大切にしなければと考えています。
4つ目が「良い施工」です、施工の中でも大工さんの役割はとても大切なものです。主要な構造材である柱、梁、桁等を見出しとしており、造作材も直接構造材と取合うため、接合部の納まりが建物の評価となってきます。室内の木組み、そのものがインテリアとなります。大工さんの木に対する想いがそのまま出てしまうことになります。
良質な木材、良い設計、腕の良い大工さん、この三つと出会った建築主はすてきな住まいを手に入れる事ができるでしょう。(柴睦巳)
□ 屋根工事(写真 上) 工事中(写真 下)
写真上は4.5寸勾配の瓦屋根の下地部分です。ゴム化アスファルトルーフィングの下に野地板(厚=12.0)、断熱材(フォームポリスチレンボード厚=30)を敷き、断熱材を挟むように化粧野地板(本実加工厚=30)を天井の仕上げ材を兼ねて張っています。下屋部分はガルバニューム鋼板葺きとなります、野地板が張っていない所には網入り磨ガラス 厚=6.8のトップライトがつきます。
敷地は前面道路より地盤が低いということもあり、40㎝盛土を行い計画の地盤面高さとしています。南に面して長さ7.5間、幅半間の濡縁を設置しています。また濡縁には節のほとんど無い桧の柱(150×150)が使用されています。この濡縁からは畑、古墳がのぞめ四季の変化を楽しむことができるでしょう。
□ 小屋組(写真 上)
食堂と居間の小屋組です。天井は化粧野地板とし、柱桁等の構造体も見出しとし開放的な造りになっています。棟の一部分に越屋根がのっており、夏場の室内にこもる熱気を外に出してくれます。今まででの住宅でも同じように越屋根を付けていますが、効果が大きく大変気持ち良く住まわれています。
□ 見積り(表 右)
見積りをお願いする施工者は、今までの実績、また建主の推薦などから選定させていただいています。毎回6社程度にお願いしています。ほとんどの住宅では特命での工事発注はすすめていません。その主な理由は工事金額が高くなってしまうからです。KU-M邸の見積りでは最も大きな差が790万円となっています。同じ設計図面で見積をお願いしていますが、見積内容に大きな差が出てくることが良くあります。資材の取引きの関係であったり、職人さんの手間の考え方等が、その要因となっているようです。
□ 配置・平面計画(平面図)
敷地は母屋(既存住宅)の南側にあり、また持田古墳郡の中でも最大級の計塚古墳(前方後円墳)に隣接しています。西側の古墳と、兼業農家として生活スタイルが、配置・平面計画のキーポイントとなりました。また東側道路から、古墳への景観を考慮し、住宅も風景の一部として見えるように住宅の高さを押さえ、平面もシンプルな長方形の形にまとめています。
□ 中廊下(写真 下左)
東西に長いプランのため、中廊下形式の住宅となっています。北側の諸室及び廊下への採光を考え、トップライトを2ケ所設けています。廊下にはピアノ、タンス、収納の各々のスペースを考慮し、単なる廊下としての使い方だけでなく、より日常的な使い方がなされるように配慮しました。
□ 干場(写真 下中)
干場は屋根をかけ半屋外の作りとし、外部からも勝手口からも出入り出来るようにしています。また、目隠しの為に横格子を設置し、トップライトを設け雨の日でも気にせず洗濯物を干せる場所となっています。又、収穫した野菜の泥を流せるように流しを設けています。建主さんご家族の生活を考えた場合、このような干場の空間はすごく使用する頻度が多く、生活のしやすさの手助けになるのではないでしょうか。
□ 食堂カウンター(写真 下右)
居間からは床に座って食堂カウンターを使えるようになっています。居間と食堂・土間の段差は37㎝あり、腰掛けるのに程良い高さになっています。
□ 感 想
現地調査で計画敷地を初めて訪れた時、持田古墳郡の中でも一番の大きさを誇る計塚古墳が敷地の西面に隣接しているのには、驚きました。このような立地条件で設計をするのはなぜかワクワクしてしまいます。打合せの度に古墳に登り、住宅とその周りの風景を眺めるのが心地よかったです。今回のKU-M邸は建主さんご家族の生活と住宅との結び付きを強く考える住宅となりました。農家ならではの生活、四季によっての生活変化、一年の生活サイクルがほぼ決まっている為、計画段階からプランの明確な方向性が決まっていた気がします。その中でも土間の使い方がこれから先、住宅が完成して暮らしていく中でどのように変化していくのかが、楽しみな所でもあります。
(葛迫 和人)
▼ 宮崎市 まなびの家 - 02 ▼
□ 計画にあたって
家をつくる過程にはいろいろな出会いがあります、建築主・施工者・近隣住民など、木材を通して山主・山師・森林組合、そして木を育ててきた山の文化との出会い、施工段階では、職人さん・使用する建築材料との出会いなど様々です、当初に出会うものとして、敷地があります。以前は敷地が決まっている状況で、設計の依頼に来られる方がほとんどでしたが、ここ10年ほどは、まだ決まっていない段階で、建築主と出会う事が多くなっています。一緒に敷地を見て欲しい、そして専門的なアドバイスを受けて敷地の購入を決めたいということです。今回のAR邸もそのケースです。宮崎市の南側に位置する住宅地内でいくつかの敷地を一緒に見て廻り、比較的周辺に緑の多い敷地を建設地とする事になりました。
敷地状況は、北側道路、そして道路と敷地との高低差が1.4m程度あり、南西方向から北東方向に傾斜のついた土地を造成しています。西、南側隣地が1.0m程高くなっており、各々に2階建住宅が建っています。計画にあたっては、一般的に南側に空地を残し、光を住宅内に入れる事を考えるのですが、ここでは既存の駐車スペースまた、敷地へのアプローチ路の変更ができないなどの制約がありました。上記により、南側の開放的な庭の確保はできないと判断せざる得ませんでした。ではどちらに対して建物をむけるのか、敷地に立ち考え、北側道路、その沿線の緑の多い状況より、北東側に対して開放的なプランにしようと考えました。東側に庭としてのスペースをできるだけ残し、将来東側隣地に住宅が建ったとしても境界部分に植栽を行い北東側の開放感ある空間と一体化させることで、将来の外部の開放感も確保できると考えました。
平面計画としては、アプローチの関係よりほぼ中央に玄関スペース、西側に寝室・納戸などのプライベートスペース、南側に台所・洗面脱衣・浴室・干場等の家事スペース、そして東側に居間・食堂・和室等のパブリックなスペースを配置しました。南側の台所は干場のトップライト越しに入る光により、明るい空間となっており、また建物のほぼ中央に位置し、どちらの方向にもつながっているため、たいへん動きの良い場所となっています。
断面計画の一部として、光を1階にどのように導くのかという点に工夫を行いました。1階の居間・食堂を東側にむけ、軒を深くしている分だけどうしても内部が暗くなりがちです。吹抜けを通しての高窓からの明かりを積極的に取入れる事により、軒は深いけれど明るさは確保できるという状況になりました。特に2階の板の間と東側の腰窓との間には「すのこ状」の床を設け、窓開閉の管理と採光の両方に対応できるようしたことで、食堂テーブルに午前中の充分な明るさが確保されています。
住まいを計画する時に、周辺環境をどのように読み取るのか、大切な事です。道路・隣地との関係をどうするのか、日常の生活の中に、採光・通風・視覚的なつながりをどのように取入れるのか、また外部空間(アプローチ・眺める庭・遊べる庭・洗濯物干場等のサービスの庭)と各々の内部空間をどのように考えていくのかとても大事なことです。敷地の環境、建築主の生活スタイルが、どれをとっても同じものはありません。どのように計画をしていくのか、毎回の楽しみのひとつです。
(柴 睦巳)
□ 食堂・台所
台所周りには動線を考え、水廻りをまとめています。台所の南側に干場を配置し、干場へは、台所側と洗面脱衣側からの出入りができるようにしています。(表の平面図参照)干場には流しを設置しており、汚れ物を気兼ねなく洗えるようにしています。冬場の食堂は東側の掃出し窓から朝日が差し込み朝食の時間帯は、少しでも暖かくなるのではないでしょうか。(写真 下)
□ 東 面
この周辺の住宅地は電線が全て地下に埋められているため、視線を遮るものがほとんどなく、緑も多く周辺環境が上手く整備されています。敷地東側、庭用のスペースできるだけ確保して、建物東面は開口部を多く取りある程度の距離を確保して室内から庭を眺めれるようにしています。外観は瓦と塗壁、木部塗装の色と素材感のバランスが上手くとれ、良い表情に仕上がっています。(写真 左)
□ 納 戸
普段使わない季節物をしっかりと収納する場所を確保して棚やハンガーパイプを造り付けておくと、家がすっきりとして住みやすくなります。また、納戸は寝室や洗面脱衣との動線を考え配置しています。(写真 右)
□ 和 室
床の間の部屋そして来客時は客間として使われます。西側の収納下部に小さなルーバー窓をとっています。夏の暑い夜は、このルーバー窓が効果的に西側から東側へと風を流してくれます。東側、掃出し窓の障子は壁内に全て引き込めるようにしています。天井には一部よしずボードを張っています。(写真 上)
□ 濡 縁
濡縁にはベンチを設置しており、お風呂上がりの夜涼みや日光浴を楽しめる場所となっています。また、庭に植栽が入る予定なので、将来は更に心地良い空間になるのではないでしょうか。濡縁の手摺は布団干しとしての機能を考え、高さの設定をしています。意外に布団を干せる場所がない住宅が多く、このように手摺を兼用することで簡単に解消できます。(写真 右)
□ 居 間
居間の吹抜には杉梁と松梁が交差しています。建物を支える柱や梁、桁、火打梁といった構造材とそこに住む人の生活を支えるカウンターや収納棚、手摺、窓枠、長押、格子といった造作材の両者を上手く関係付けて一体的に作る事によってインテリア性を持たせる事ができ、それだけでデザインされた空間を作り上げる事ができます。(写真 下)
□ 感 想
今年は6件の住宅が完成しました。どの住宅もそこで住むご家族の生活にあった良い住宅ができているのではないでしょうか。現場に行く度に図面と現場の納まりを見比べます、現場での納まりとしてどのようにするが一番良いのかいつでも勉強です。大工さんの話を多く聞き、自分の知識としてもっと学んでいかなければいけないと感じております。A邸のご夫婦は北九州に住まわれており、ご主人の退職を機会に互いの出身地であった宮崎に帰郷し、住宅を建てたいという事で計画がスタートしました。当初は敷地探しから始まり、いくつかの敷地の中から現在の敷地に決定しました。事務所とのやり取りは主にメールや電話で、月に1〜2回の顔を合わせての打合せでした。以前、都城市に建てたNA邸の時もでしたがインターネットの普及や交通の便が良くなったおかげで、建主さんが県外の場合でも難無く連絡や打合せのやり取りができることを改めて感じました。家を作る時に近くにいるという理由だけで頼むのでは無く、この人と家作りをしたいから遠くてもお願いしたい。と思って頂けるような設計士になれるようにこれからも頑張ります。
(葛迫 和人)
▼ 宮崎市 かおる坂の家 ▼
TOD邸は2007年3月末に建物が完成し、4月末に植栽工事が終わりました。先日(6月23日)通信に掲載するための写真撮影に行ってきました。玄関の建具を開け中に入ると、いつものように清々しい空気に包まれました。
通信で紹介している「宮崎自然派住宅」の、どのお宅でも感じる空気感です。私の家が大壁のクロス貼だけに特に感じるのか、私の日常生活には無い空気を感じます。室内で使用している材料、そして空気の自然な流れを考えた開口部計画の影響なのか実に清々しいものです。
ご主人のお話だと、時間帯により窓の開閉を考えているとのこと、朝の時間はなるべく窓を開けずに昨夜の涼しい空気をそのままにし、午後は東側より風を取入れ、夕方には西側の地窓等を開け、西風を楽しまれるとのこと。宮崎の海岸線沿いの春から秋にかけての風の特性を考えての開閉を実行しており、計画段階での打合せが、日常生活に十分に反映されており、たいへんうれしく思いました。
またTOD邸では日常の生活の中に、積極的に植栽を取り入れることにしました。まずは玄関に入りホールを通して見える坪庭、この坪庭を低いレベルで眺める浴室、玄関ホールより食堂に入りますが、ここでは対面式カウンターの台所の後ろに見える東庭の植栽、そして居間から掃出し窓と接したウッドテラス際に植えられた植栽等です。ふと目線をあげたときに自然に目に入る木々、風のそよぎ、蝶、鳥達の訪問、そして四季の変化、意識せずに自然に味わえることのすばらしさをこれから実感されることでしょう。
(柴睦巳)
□ 食堂・台所(写真 左 上)
台所に面して食堂カウンターを設けています。台所の床高は食堂より35㎝低くなっており、カウンターに腰掛ける家族と台所で作業をする奥さんとの目線の高さが同じになるようにして、会話がしやすいように工夫しています。
又、四季の変化が感じれるように台所のカウンター収納には吊戸は作らずにFIX窓とし庭が眺められます。朝食の時間は太陽光がFIX窓を通して食堂に入ってくるので、たいへん明るい空間となっています。居間と台所の間にはカウンターを設け、居間で食事をする時はカウンターの上を配膳スペースとして使えるようにしています。
□駐車・駐輪・玄関ポーチ
駐車スペースは3台を確保したいとの要望でした。3台分の駐車場を専用として確保するのは敷地の広さから無理があり、常時停める2台分は専用とし、来客時の駐車はアプローチ部分に停めていただくことを提案しました。又、玄関ポーチには自転車置場を隣接させ、屋根を一体的にかけています。雨天時の車の乗降りはあまり濡れる事がないように軒先を深くとっています。このスペースにはベンチも設置してあります、買い物袋を一時的に置いたり、玄関先でのちょっとしたおしゃべりの場所として、使っていただいてます。
□ 玄関アプローチ
アプローチ部分の床仕上げはコンクリート洗い出し(化粧目地切り)としアクセントに100角タイルを貼っています。
□ 玄関・浴室(坪庭)
この作り方は東郷のS邸や平和ガ丘のHI邸で提案しており、帰宅時や来客時など玄関に入った瞬間、正面のガラスを通して坪庭が目に入ります。それにより空間に広がりを与え、生活にゆとりを与える効果があります。せっかくの坪庭を有効利用するために、浴室からも眺められるようにしています。又、玄関横には物置を設け、意外に多い玄関廻りの物を専用に収納する場所としています。玄関に入り左側の壁には、姿見用の鏡を設置してます。ホールには風通しのためルーバー地窓を2カ所設置してます。
□ 洗面脱衣・干場
洗面脱衣は台所からの動線を考え隣接させています。奥さんの要望で洗面脱衣に下着や普段着を収納したいということで、十分な収納スペースを確保しています。又、洗面脱衣の東側に半屋外的な干場を配置しております。干場には屋根をかけ天窓を設け、風通しを考え壁は作らず視線を遮る程度の横格子を付けています。脱衣室で脱いだ衣類を洗面脱衣で洗濯し、そのまますぐに干せる。そして、乾いたら取込み、洗面脱衣室でアイロン、たたみ、収納できるといった具合に家事をしやすくする為に水廻りの空間をまとめています。
□ 子供室
6畳の広さを2部屋に区切っています。子供と生活する時間は以外と短く、将来子供部屋が空く可能性が十分に考えられます。その場合に他の使い方ができるように仕切りで区切っただけの部屋にして、1室として使えるようにしています。又、子供に取っ手の居心地の良い場所は居間であり食堂となるように、必要最低限の広さとしています。作り付けのカウンター、ロフトがあり、現在子供達のお気に入りの場所となっています。
□ 居間・デッキ(写真 左・下)
居間の東側にはウッドデッキを設けています。また北側の出窓部分は外からの視線を考慮してサッシの外側に面格子を設置して、室内が覗きにくいようにしています。前面道路北東側の住宅群には道路に面し植栽・緑が多く、居間からデッキを通して眺めることができるように考慮しています。又、西側には地窓のルーバーをつけることで、東西の風の通りを確保しています、ただし冬場のことも考慮し、寒さ対策として木製建具を前面に設置しています。訪れた際、昨年産まれた娘さんが、気持ち良さそうにタタミの上でお昼寝をしていました。
□ 感 想
柴設計の勤務も早くも4年目に入りました。現在も来年完成予定の住宅の図面が着々と進んでいます。3年間が経ち、何とか図面も形にできるぐらいになってきたのではないかと思います。今回の建主さんご家族との出会いは以前の住宅通信にて述べてますが、計画当初はお子さんが男の子2人でした。工事途中に長女が誕生し新居には家族5人での引越となりました。住宅を作る際、考慮すべきことのひとつとして、時間によるの家族構成の変化というものがありますが、今回は特にそれを感じた住宅でした。また、建築工事が終った後に植栽工事が施され、建築だけの時と植栽が加わった時とでは大きく印象が変わり、住宅と庭との関係の重要性を改めて感じました。
今年3月、建築士会青年部主催の建築セミナーに参加して来ました。住宅見学会とパネリストとして発表があり柴設計に勤めてから関わった住宅4件について紹介をさせて頂きました。今までの柴設計の取組みや住宅の形を練り上げて行く上でのプロセス、木造住宅の魅力、それらを自分なりにまとめ、発表しました。今までやってきた取組みを再確認する意味でも、とても良い機会でした。また、その反面自分に足りないものがはっきりと結果としてわかり、勉強不足を痛感させられました。まだまだこれから。と自分に言い聞かせながらなんとか無事に終える事ができました。
最後になりましたが、セミナーの住宅見学の為に快く見学をさせて頂いたHIさんご夫婦、この場をかりて有り難うございました。
(葛迫 和人)
4月中旬に、家づくりを考えているという方より電話をいただきました。土地を探している途中で、昨年完成したOB邸が目に止まり、たいへん気に入り、OBさんに私の連絡先を聞き、電話をされたとのこと、翌週の土曜日にお会いすることとなり、ご家族で事務所におみえになりました。
OB邸は宮崎市大塚町にあり、2005年3月に完成した住宅です。所蔵されている絵本を、地域の子供達に親しんで欲しいという建主の希望により、ご自宅の居間部分をメインに「てんとうむし文庫」として開放された住宅です。
今回のようにOB邸を気に入っていただきお会いした方が、すでに6家族となりました。以前の5家族は内部までご覧になっているのですが、今回は外観だけをご覧になり連絡をいただきました。OB邸ご家族の住まい方に対する想いを建物そして外構にうまく表現できた結果だと素直に喜んでいます。
今回紹介する「TOD邸」は、OB邸をご覧になられた方の中で最初に家づくりのパートナーとして私を指名していただいたご家族の住宅です。このTOD邸も、そこに建つことで周辺の環境がより良くなる住宅だと確信しています。(柴睦巳)
2006年3月25日、佐土原総合文化センターにて「ふるさとの木を利用することで森を守ろう」というテーマで『木づかいセミナー』が開催されました。林業関係者など約430人が参加しました。
その中で、「家づくりに、山村の風景を込めて」と題して所長による講演が行われました。これまでの取り組みや住宅などをプロジェクターにより写真で紹介しながら、県産材の利用促進について考えて行こうというものでした。
(左写真は3月31日の宮崎日日新聞に掲載されたものです。)
▪️外部
敷地は新興住宅地の一画にあり、北側に前面道路、東・西・南側は隣地と接しています。道路からの視線を考慮して、北側には垣根の植樹を計画しています。加えて居間の出窓にも格子を設ける予定です。
駐車スペースは通常で2台、来客時には3台が駐車可能です。1台分は乗り降りの時に雨に濡れずに玄関と行き来できるようにとの要望により、軒を深くしての対応としています。
▪️居間
床に座っての生活となるため、中央には畳を敷き詰めました。西側には夏場の夜の通風のため、地窓(ルーバー窓)を設置しています、冬場の対策と、収納スペース確保を考慮し、次窓の前面に引き込みの建具をせっちしました。吹き抜け部分にはタイコ梁が架かり、キャットウォークを挟んで2階の寝室まで空間が緩やかにつながります。
▪️和室
和室を玄関横に設けました。来客時の寝室として、また将来の親との同居を考慮しての配置となりました。北側には納戸スペースそして南側にはベランダを設けお布団干し用の手摺を設置し、さらにベランダの屋根にはトップライトを設けています。この部屋も夏場の夜の対策として西側壁に、通風用の地窓(ルーバー窓)を設置しています。
▪️台所・食堂
対面式のオープンカウンターとしました、台所側と食堂側の各々の家族の目線がそろうように床に段差をもうけました。カウンターに座った時に、台所を通して東側の樹木が自然に目に入るようにカウンター収納の上部をオープンとし、真中にFIXガラスを、そして両側に通風用にルーバー窓を設けています。床の段差は35cmとなっており、台所の床高さのまま洗面脱衣、浴室、勝手口ポーチへとつながります。
▪️勝手口ボーチ
洗濯物干場としての利用も考えられ、屋根にはトップライトを2ケ所、また目隠しのため格子を取り付けています。また他目的流しを設置し、子供の靴等の汚れ物洗いの場所としての利用、そして将来2層式の洗濯機が置けるように設備を準備しています。
▪️子供室
それぞれに机・ベットを作り付けています。中央の間仕切壁は半間とし、将来建具が設置できるよう溝が彫られています。ロフトの高さに合わせ通風用のルーバー窓を設置していますので、暑い夜でも風がぬけ快適です。また西側上部にはFIXガラスがはめ込まれており、自然光を取り入れた明るい空間として計画しました。
▪️ 寝室
南側には2階建の住宅がせまっており、冬場に南側でのお布団干しができないため、東側の掃出し窓の外に布団干し用の手摺を設置しました。
感 想
通信作成も今回で5枚目となります。今月をもちまして柴設計での研修を終了する事となりました。1年間という短い期間でしたが、柴設計の家づくりから学んだことはたくさんありました。単に自然素材を用いて自然だとうたっているのではなく、木材の自然乾燥の期間や工事の時期を考慮した、無理のない本当の意味での「自然な住宅」がつくられています。
木材のことを深く知ってもらうため建主さんと山に登り、山村文化に触れ、山に暮らす人達との交流が生まれます。家づくりという一連の流れの中に、山の風景が組み込まれ物語となるのです。
今回も同様にTODさんご家族と共に山へでかけました。伐採現場、木材加工の見学に加え、和紙づくりや南川神楽など思い出に残る2日間だったのではないでしょうか。
(研修生の谷口慎哉)
▼ 宮崎市 平和が丘の家 ▼
今回は2005年12月の宮崎自然派住宅通信で紹介した、HI邸が完成(2006年8月)しましたので建主さんご家族にインタビューをさせて頂きました。(葛迫 和人)
■ 設計事務所を通して家を作ろうと思った理由をお聞かせください。又、なぜ柴設計を選択したのですか?
個人住宅の場合は、建築業者に設計から施工までの一切をすべて任せるのが効率のよいやり方と漠然と思っておりました。住宅新築を模索していた矢先、宮崎県森林組合連合会等が主催する「森林まつり」会場の一角に展示されたパネルで県産材を使用した本物の住宅作りを知りました。そのとき、家づくりの相談に当たっておられたのが柴設計士でした。
私のぶしつけな質問に懇切、丁寧に対応してもらいました。また、数年前の新聞に自分の家づくりに使用する杉をまず諸塚村の山中に見に行くことから始まると紹介された建築士であることがわかりました。私はその記事を当時見てから今日までずっと気になっておりましたので、柴さんとの出会いに運命的なものを感じ、柴さんの設計に賭けようと決心したのが大きな理由です。また、柴さんの設計された数軒の住宅を実際に見学したり、柴さんの本物の家づくりに取り組む熱意にすっかり魅せられて柴設計を選びました。
■ 実際に木材を山まで見に行かれてどうでしたか?
諸塚には度々出かけておりましたが、山間の集落を前にして特に気をとめることもありませんでした。しかし今回は大きな杉の木立や赤松の一本一本に愛着を覚え、すぐに迎えに来るよと声に出して語りかけました。
■ 生活をしてみて、以前の生活と変わった点や感想をお聞かせください。
住む人の身になって、心配りが隅々まで行き届いている設計だとつくづく感じます。換気、採光に優れており、ゆったりしたリビングルームでの家族の団欒は一日中が快適で何とも言いようのない幸せを感じます。
■ 最後にコメントがありましたら、ご自由にお願いします。
親から子へ、子から孫へ、孫からまた次の世代へ。
人は大切なものを語り継ぎ守ってきた。
伝統、文化、慣習、田畑、里山、親への思い、子への思い。
今回の諸塚村産直材による「宮崎自然派住宅」は、そんな大切なものを大事にしたといえるだろう!!
□ 南立面 食堂・居間(写真 上2枚)
既存の住宅があった所は現在きれいに整地され、多種の花や木が植栽され色付いています。家で生活しながら四季の変化を感じられるのは、生活の幅が広がるのではないでしょうか。
食堂のカウンターはご主人が友人から頂いた、テーブルを使用し、カウンターの幅に合わせて加工したものです。幅を広くするために中央に豆砂利を敷き、縁には桧を使用しています。カウンター寸法は2250×920あり、6人が腰掛けても十分な広さが確保されています。
□ 車庫(写真 下)
車庫は玄関アプローチも兼ねており、普段は車2台の駐車ですが、来客時はアプローチ部分にも駐車でき車3台分の広さが確保されています。
▪️感想
今回のHI邸ご家族とは、昨年10月に諸塚村、南郷村(現 美郷町)に行きました。山村生活を体験し、住宅の構造体となる木材の育った環境や工事現場に搬入されるまでの流れに直接触れてきました。
HI邸ご家族は以前から現在の土地に住んでおり、前の住宅でも十分、生活できる状況でした。しかし、生活するなかで幾つかの不自由があり、住宅を立替えることになりました。今回の立替えでは2世帯住宅を望んでおりました。2世帯住宅は付かず離れずの関係が理想的な形であり、どこまでを共有し分離するかが、テーマの一つだと思います。打合せを重ねていく中でHI邸では、同じ屋根の下で生活し、玄関のみ共有という2世帯住宅のあり方を希望されました。
工事は住宅部分が完成し、引越を行い、既存の住宅を解体撤去し、カーポートを作るという工程で進められていきました。雨などの影響により、工期が延びましたが無事竣工を迎えることができ、良い住宅ができました。
先日、新築祝いの席で建主さんが身の丈に合わせた住まいに興味が出てきた。という事を話しておりました。
自分の暮らし、ライフスタイルにあった家について考えた時に抵抗なく体に馴染み、違和感のないモノに囲まれて暮らすことが自然な家であると思います。
柴設計に勤め、早くも2年と半年が経ちます。今回のHI邸で計画から完成まで関わった住宅が7件目になりました。毎回、形の違った家づくりで、どの住宅も同じことは一つもなく、それぞれの家づくり物語が始まり、家がご家族と一緒に成長していく姿を見る度にすごく嬉しい気持ちになります。
最後になりましたが、お忙しい中インタビューにお答えいただきありがとうございました。
(葛迫 和人)
まだまだ経済効率を優先させる時代の中で、今回もすばらしい建主との出合いがありました。住まいを時間をかけてじっくりと作り上げていこうという姿勢を共有できたことは、とても大切なことです。「家」は買うものではなく、建主ご家族、そして地域のことも考え「作り上げるもの」という取組は今後ますます大切にしなければならないことだと思います。今回のHI邸の構造材は諸塚村の戸下神社所有の山の杉で材齢70年近いものが使われます。
打合せの時、「作られる家の耐用年数は何年なのでしょうか」と聞かれることがあります。現在の家の寿命が何によって決められているのかを考えると、生活スタイルの変化に対応できずに建て替えられるケースが多いのでは、木造建築は、木の特性、加工技術、平面・断面計画を考慮すれば、長期間にわたって生き続けることは歴史が証明しています。
ただし、望まれる生活スタイル、住宅環境、そして実際に使用できる木材を考えると、数百年も生きる家を作る機会はほとんどありません。そこで何を基準に耐用年数を考えれば良いのか、私は山のサイクルを前提にしてはと考えています。
諸塚村では、拡大造林の時に50年先にしか金にならない杉・桧を山に植えてしまってたら、自分そして子供達は食べていけない。そのために杉・桧と共に椎茸のほだ木となるクヌギを植えたそうです。10年もすれば立派なほだ木として現金収入になったそうです。山を生活の場所とした先人のすばらしい知恵だと思います。
100年以上持つ住宅を作ってしまったのでは、将来住宅産業、そして生産者である山側も生き残ることがむずかしくなります。そこで主要構造材の柱・梁の断面形状を考え、60年以上の材であれば芯持柱だけでなく割柱をとることができ、梁であれば一尺五寸(450)以上のものを確保できます。私は住宅の耐用年数として60年間を提案しています。そして60年後にはその家を取り壊してお孫さんに、同じ場所で育った木を使ってまた家を作ってもらうのです。
そして木工事の中で使われる様々な木材を、間伐材として出てくる20年物の材を下地材として、40年物の材を造作材として使うのです。「植付け」からはじまり「下草刈り」「つる切り」「枝打ち」「間伐」「伐採」という育林のサイクルに合せた使い方を考えてはと思います。
(柴睦巳)
や ま し ぎ の 杜 (改修設計・柴設計)
もともと3軒の集落からなる「やましぎの杜」は、1998年に空家となった2軒(したしぎ・なかしぎ)を村が買い取り、体験交流施設としての利用を目的に改修が行われました。担当したのは所長です。
土間では、既存の間仕切りを取り払い、かわりに収納・流しを備えたカウンターを対面式に設置しました。かまど、キッチンが一体となり、広々とした土間空間での調理が体験できます。北側にはテラスを新しく設置しました。お風呂上がりに涼むにはなかなかいい場所です。すべてが昔そのままというわけではなく、便所や浴室はに関しては、都市住民の使用を前提とした配置や設備となっています。
感 想
台風14号から1ヶ月。移動中の車窓から見る諸塚の風景、そのいたるところに土砂災害・地滑り・水害などの痛々しい爪痕が残っていました。宮崎市内でも河川の氾濫により多くの世帯が浸水被害を受けました。しかし諸塚での災害現場を目の当たりにし、その状況の違いを痛烈に感じました。自然にかこまれた豊かな暮らしの裏には、自然の持つ脅威とも向き合っていかなければならないのだと思います。
やましぎの杜では「昔」を体験しました。御飯を炊くにも、お風呂に入るにも、まずは薪割りからのスタートでした。加熱調理に必要なのは、ガスでも電気でもなく囲炉裏の炭火でした。ボタンひとつでは何も始まらない「昔の人の生活」が、ここには残されていました。現在の生活からすると相当に不便ではありますが、それでも何か大切なことを肌で感じることができたように思います。「かまどで炊いた飯はうまい」と知識として知っていたつもりでも、実体験することで「本当に美味しい!」ことを知りました。囲炉裏を囲み食事や談笑をしながら、いつもとは違うゆったりとした時間が流れ、少しずつ夜が更けてゆきました。
翌朝早くにご主人が散歩に出かけられました。山道の木をさすりながら「お前達の仲間を何本かもらってゆくよ…。」と語りかけられたそうです。この言葉からは、自然の恩恵を敬い感謝するという、人としての健全な心を感じました。
(谷口慎哉 研修生)
▼ 都城市 安久の家 ▼
昨年秋に完成したTOM邸の親父様よりいただいた石臼を、庭師の久富さんにお願いし庭に置いていただきました。庭のほぼ真中の、コナラ、アカシデ、エゴノキに囲まれた場所で、地面を被っている玉竜を一部はがして置かれました。すぐ横に竹筒を利用して臼の中に水が落ちるようになっています。
いつも、竹筒の先より水滴が間をおいて一滴一滴と落ちています。朝2階のベランダより木漏れ日を受けた石臼の水面を見ていると、水滴によりできる波紋が小さな石臼の中にでき、波紋が石臼の縁にあたり、それが廻りの玉竜に広がりそして芝生へ、そして生垣のヒイラギモクセイへと広がっていくように感じることがあります。庭に無限の広がりを表現する手法は古来よりいろいろな所で試みられています。石臼と一滴の水で、今までに感じることのなかった広がりを感じることのできる空間とはなんとすばらしいものなのでしょうか。
双石山の見える土地を探し、8年前に家を建て、庭には木漏れ日の空間が欲しくてドングリの木をメインに里山の木々を植えました。山への眺め、そして隣地でのアパート建設の可能性等を考慮し居間、食堂、台所等の場所を2階に設けました。
台所・食堂は対面式カウンターを挟んでの配置となっています。朝、台所に立つ妻には、食事の準備をしながらふと目線をあげるとそこには子供達の顔があり、そしてその後ろには四季の変化を見せてくれるコナラの枝が自然に目に入ってきます。日常生活の中で、自然がなにげなく語りかけてくれることはとても気持良いものです。特に3月から4月は芽吹きから新緑の時期であり木々の命を強く感じる季節です。
今までに関わった家づくりは、どれ1つとして同じものはなく、ご家族の望まれるものの中で何を大切にしていくのかを確認し、それを空間化していますが、できるだけ各々の日常に自然(緑・光・風・風景等)を取組むように心掛けています。NA邸は3月に完成し、現在道路側及びアプローチ部分の植栽も終り、たずねてくる人をやさしくむかえてくれる雰囲気となりました。これから、南側に木漏れ日の庭を作る予定です。植えられた木々の成長と共に、これからの人生をこの地に求められたNAさんご家族も地域に馴染んでいかれることでしょう。
(柴睦巳)
□ 計画
敷地は都城中心部から南に車で10分の場所です。周辺は畑が多く、この地も以前は畑があり農地を転用した土地でした。都城盆地特有の自然環境を少しでも住宅に上手くとりいれ、できるだけ電気設備に頼らない生活ができるように配置計画から考えていきました。敷地はゆとりがあり、自給自足の家庭菜園を計画しているということもあり、自然に住宅部分は北側に配置されました。また、菜園へ車での搬入も考えられる為、アプローチ部分は段差を無くしスロープとし、車が通れるだけの幅を確保してあります。
敷地東側には倉庫を設け、菜園で使用する農業機材を保管する場所を作りました。ここは採れた野菜の一時的な保存場所も兼ねています。
住宅はとてもシンプルな長方形にまとめられ、玄関から土間を通り台所に直接、食材を搬入できるプランになっています。廊下の上部には南西に長い小屋裏収納を確保し、そこに天窓を3箇所設けました。そこから、便所、洗面脱衣、廊下、台所、玄関ホールに光が差し込むように計画されています。
南面一面に濡縁を設けています。西側の一部には格子を回し、洗濯物を干すスペースも確保しています。また、和室の前は手摺を設置し布団を干せるように工夫をしてあります。前面道路に接する北面は道路からの視線を考慮して、道路と建物の間に高木や低木を植えています。前面道路と住宅が程良い距離を保ち、間に植栽を植えることにより道路に対して圧迫感もなく、良い距離感が保たれています。
□(写真 右)小屋裏からの光を利用する為に廊下は天井を格子張りにしています。
□(写真 左)濡縁の一部にある干場です。天窓を3箇所設け、柱間にSUS製のパイプを設置し、洗濯物を干せるようにしています。
□(写真 上)シンプルな立面になっています。
□(写真 下)居間と食堂を南北に配置しているので風が流れやすく、北側の窓、南側の窓から異なった風景が望めます。冬場は建具により間仕切りできるので、薪ストーブに火を入れるとすぐにあったまることでしょう。
□(写真 上)和室の建具は無双窓にし、通風を考慮しています。棚板はTV棚、飾り棚として利用できます。
□ 感想
今回の建主さんは兵庫県在住の方でした。お仕事を退職され宮崎県に移住し、できるかぎり自給自足の生活がしたいとの事でした。県外と言う事もあり、簡単には会って打合せができないという状況でした。そのため、やりとりはすべてメールにてでした。建主さんの現在の生活リズム、サイクルをつかむ為には、密なメールでの打合せにより、イメージを共有してくしかありませんでした。住宅が完成するころには1冊の住宅本ができるほどのメールや議事録、資料がたまりました。まさに、家作りに一つの物語ができたのではないかと感じています。
住宅を作る時は建主さんの家に対するイメージがあると思います。だからこそ、自分が持っているイメージに合った住宅を作っている設計士に依頼するのだと思います。設計士は建主さんの持っているイメージを線として表し、形を作ってのが仕事です。そして、言われたイメージ通りに線を引くのではなく、家作りのプロとしての提案やアドバイスをする責任もあると思います。
柴設計に勤め、3年目に突入しました。時間をかけないとわかってこない部分がほんの少しずつですが、見えてきたような気がします。設計事務所の仕事は図面を書くということ以外に大切なことが多く、人と人との繋がり、それぞれの家に対する想いの上に作られていくという事を日々感じています。これからも良いモノを作っていけるように今できる事をしっかりと責任を持ち、取り組みたいと思います。
(葛迫 和人)
NAさんとの最初のメール内容を紹介します。
はじめまして、NAと申します。
私は現在兵庫県に住んでいますが、来年の3月末に宮崎県都城市に移住する予定です。・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・そこで、柴様に「諸塚村産直住宅」の設計監理をお願いするとした場合の、依頼から工事完了までの流れ、施工業者の選定、アフターサービス、設計監理料、建築施工費用の参考価格、今までの建築実績、主たる採用工法と特徴、家づくりに対するコンセプト、今からお願いした場合の工期見通し等について教えていただけませんでしょうか。
NAさんへ ご質問にお答えします。
ただし一部はお送りする「宮崎自然派住宅」通信を参照してください。
・1 依頼から工事完了までの流れ
「宮崎自然派住宅」通信に標準的な流れ、そして個別に取上げている住宅の具体的な流れを表示していますので参照してください。また、ホームページ上で、Y邸について「出会いから完成まで」詳しく紹介しています。
・2 施工業者の選定
数社(6社前後)から見積書(見積明細書を含む)を提出していただき、その中から選定しています。私の方から4社ほど推薦し、建主の方から推薦があれば2社ほど見積りに参加していただきます。ただし建主の推薦がない場合は、地域の中で評判の良い施工者をこちらで探して見積をお願いします。
基本的には特命は行っていません。ただし「入札」方式ではなく、私の方で概算工事金額を算定しますので、その金額をもとに見積明細書の内容で判断しています。私の方から推薦する業者さんは、私の住宅を実際施工した業者さんより選んで推薦しています。
・3 アフターサービス
完成後に何か不具合が発生した場合、それが何に起因するのか現場で判断し、瑕疵保証範囲内であれば、施工者に補修の指示を出します。また瑕疵保証範囲外のトラブルであれば補修のための施工方法及びその費用についてアドバイスします。その施工は請負っていただいた業者さんにお願いしています。
・4 設計監理料
面積によって多少変わってきますが、40坪から50坪の間であれば、1坪あたり55,000円(40坪×55,000円=2,200,000円+消費税)を目安とし、実施設計終了時の概算工事費との比較で決めさせていただきます。工事費の( )%と決めますと、工事金額を安くする努力が報われなくなります。工事金額は適正な金額の範囲内でなるべく安くする努力をしています。
・5 建築施工費用の参考価格
通常、標準的な工事内容(建築工事+電気工事+給排水設備工事+換気設備工事)標準的なキッチン流し(定価700,000円程度)、各種照明器具、等で500,000円/坪を準備してくださいとお話します。ただし外構工事・空調工事等は別途計上しています。
標準的な工事内容がお分かりにくいのではと思います。やはり実物を見ていただくのが一番なのでしょうね。
・6 今までの建築実績
ホームページにて紹介していますので、ごらんください。
・7 主たる採用工法と特徴
木造の場合であれば、一般的に言われる「在来工法」による作り方を前提にしています。基本的にはプレカットは使わず、大工さんによる墨付け、手ばつりを前提とした作り方を施工者に求めています。内部は自然素材を、外部はメンテナンスを前提に考えています。
・8 家づくりに対するコンセプト
つくる過程を大切にできればと考えています。山に通っているのもプロセスのひとつひとつ大切にという想いからです。プラン作製にあたっては住まいの中心となる場所を見極める事を大切にし、その土地の風の流れ等の自然的な要因を平面そして断面計画に活かす事を心掛けています。
・9 工期見通し
山で自然乾燥した木材を使う事を前提にしています。葉付き乾燥材は毎年11月の中ごろから12月にかけて倒されます。そして3月の始め頃から山から下ろされ、加工場に運ばれます。早いものは4月から製材され、倉庫にて保管されます。梁等の大きな物は、原木のまま保管され、発注時に必要な大きさに製材していただきます。
私の場合は木が倒されてから現場に搬入されるまでの期間を1年間としています。山での乾燥、原木での乾燥、製品としての桟木による段積み乾燥のトータルで1年間という設定です。よって工事着工は9月から10月に行う事が多いです。
そうなると、計画をいつスタートするのかということですが、今年着工を前提にするのであれば、遅くとも1月から2月の間にはスタートするのが良いかと思います、逆算していきますと、8月には業者さんへの見積発注、そして確認申請の手続き、そのためには実施設計を7月中には終了させます。実施設計が1ヶ月半ほどかかります。であれば6月の半ばまでには基本計画を終了させねばなりません。この工程で基本計画の期間が2月半ばスタートで4ヶ月となります。
以上、お答えします。
上記の「質問・お答え」は2005年1月25日にやりとりした内容です。
(柴睦巳)
諸塚村での写真です。伐採現場や木材加工場の様子を直接見ていただきました。林業に携わる人達との交流や山村文化に触れることを通して、流通システムへの理解が深まり、木材に対する愛情もより一段と強くなることでしょう。やがて住まいが完成し、新しい生活がスタートします。家づくりに費やした日々や諸塚での思い出が寄り添うような暖かい家となれば素晴らしいと思います。
■ ボリューム模型(写真 左)
スケールは1/150です。計画段階初期に作成しました。敷地は300坪近くある為、前面道路や周辺環境に対して、住宅・物置・車庫の位置関係をあらゆるパターンに配置し、どの配置が良いのか幾度も検討しました。最終的には建物間の動線を優先的に考慮した配置となりました。
■ 感 想
通信を作成するにあたり、このような遠隔地にお住まいの建主さんの場合でも心の通いあった家づくりは十分に可能だと知りました。はじまりはホームページをご覧になっていたNAさんからの1通のメールです。限られた打合せ回数の中で、いかにNさんとの二人三脚が図れるか…。計画段階から施工中、完了までのあいだ終始、お互いのコミュニケーション不足の助けとしてメールや文書のやりとりが行われていました。ネットワーク技術の加速的な進歩は、今後もたくさんの人達に役立つ事と思います。
(研修生・谷口慎哉)
▼ 宮崎市 田尻の家 ▼
今回は2005年7月の宮崎自然派住宅通信で紹介した、TOM邸が完成(2005年9月)しましたので建主さんご夫婦にインタビューをさせて頂きました。
(葛迫 和人)
■ 設計事務所を通して家を作ろうと思った理由をお聞かせください。又、なぜ柴設計を選択したのですか?
家を建てようと思い始めてから地元の大工さんの作った家や、メーカーハウス等をいくつも見学しました。見ていると、それぞれに良いところもあるのですが、十分満足できるほどではありませんでした。
そんな中で、インターネットで家にまつわるいろんなサイトを見ているうちに、柴設計にたどりつきました。それまでは自分がどういう家に住みたいのか、自分でも良くわからなかったのですが、ホームページ上で紹介されている家を見て、迷いが吹っ切れたような気持ちになり、柴設計にお願いしようと思いました。
■ 当初より民家のイメージをお持ちでしたが、なぜそのようにお考えになられたのですか(現代風のデザイン性の高い住宅も選択肢としてはあったのでは?)
私が育ったのは、昔ながらの古い民家でした。五右衛門風呂や土間・濡れ縁・井戸のある家です。その頃の思い出から、木造の土壁や濡れ縁のある民家風の家は、とても身近なものでした。
柴設計に辿り着くまで、設計事務所が建てる家は、むき出しのコンクリートの冷たい感じの家や、木造であっても意匠に凝った住みにくそうな家、という固定概念がありました。柴設計の手がけた家を見ているうちに、住み心地や家族の生活スタイルを一番に考え、無駄な装飾はせずに家の構造や材そのものを意匠としている事にとても共感しました。
■ 実際に木材を山まで見に行かれてどうでしたか?
先祖代々の山があり、子供の頃からよく父と間伐や下払いに出かけました。私とって山は家を建てたこれからも大切な宝です。父や祖父の育ててくれた木を、我が家で使うことが出来てとても幸せです。
先のことですが、息子にもその喜びを伝え受け継いでいってほしいと思います。諸塚での見学では、現地の山での取り組みや、乾燥技術などとても勉強になりました。自分の目で確認した材を我が家で使うことが出来たので、材料に対する不安はまったくありませんでした。
■ 生活をしてみて、以前の生活と変わった点や感想をお聞かせください。
以前と最も変わったのは、子供とのふれあいです。元気に家の中や庭を走り回る息子は、本当に楽しそうです。また、引っ越してからは来客が急に増えました。どのお客さんも我が家のようにくつろいでいます。大勢でタバコを吸ったり、お酒を飲んでも、すぐに臭いが消えます。中霧島壁・木造住宅の良さが実感できます。
■ 最後にコメントがありましたら、ご自由にお願いします。
「柴設計の家に住み始めてからは、それまで気になっていた他の住宅がまったく気にならないほど満足しています。反面、柴設計の家に暮す方々が、家のメンテナンスなど、どの様に家と接し暮しているのか気になります。今後柴ホームユーザー同士で情報交換出来ればと思います。」
奥さんより
「お掃除が大変!来客が多くて大変!家が快適で主人が出不精になりました。」
9月の上旬に引越しをされ、4ヶ月が経ち少しずつ家が建主さんに馴染んで来ていました。来年の春から夏にかけ緑が多くなってきた時は、また違った表情になるのが非常に楽しみです。
■ 食堂から居間をみる(左上)
2本の240角の杉柱と交差する松のタイコ梁が力強く安心感を与えています。居間の棚は既存のオーディオ機器に寸法を合わせ造り付けてあります。
■ 居間から和室をみる(左)
和室は夕食の場として使用されています。居間の床から35cmの段差があり、腰掛けれるようになっています。「来客された方は必ずここに座りますよ。」と奥さんが言っておりました。居間との仕切りには壁に引込まれている障子によって仕切ることが可能です。
■ 越屋根・天窓(下)
自然の光や風を上手に利用し、少しでも電気設備に頼らない生活が送れるように設置しています。
■ 郵便受け
玄関ポーチ横には郵便受けが外壁に埋め込まれており受取口は暖室の本棚と一体化しています。郵便物は自動的に室内の受け取り専用の棚に置かれ、室内から取りだせます。
■ 無双窓付の建具
洗面脱衣と干場をつなぐ建具に無双窓を設け、開口時は湿気のこもりやすい水廻りの通風効率をあげ、通風の必要がない場合は無双窓を閉めて熱を逃がさないようにする役割があります。昔の民家などではこのような温度・湿度調整の工夫が至る所で見られます。
■ ベランダ・庭(上2枚)
ベランダの雨戸が閉まっている写真と解放している写真です。夏場は雨戸をしまい込み(下)縁側的な空間に、冬場は雨戸を閉めて(上)サンルーム的な空間になり、季節に応じて変わります。このスペースに布団を干し雨戸を閉め、外出する。というような使い方もしているみたいです。夏場の朝方やお風呂上がりに涼む場所としても良い空間です。
■ 食堂・台所をみる(左)
台所のバック収納棚は壁一面に造り付け、十分な収納スペースが確保されています。台所の周りに水廻りをまとめ、使いやすいように配置されています。
■ 感想
柴設計に勤め、自分にとってTOM邸の家づくりは4件目にあたり、計画段階から参加させてもらい、図面も数枚書かせていただきました。打合せの初期の段階から建主さんは昔の民家風の造りと将来を見据えた、時間軸による家族構成の変化に対する意識をしっかりと持っておられました。植栽工事まで終わり、確認にお伺いした時にご主人が薪ストーブを自主製作していました。住宅は本来そこに住む人のモノであり決して設計士のモノでもなく、買うものではなく、作っていくものなんだなと改めて思いました。
最後になりましたが年末でお忙しい中、インタビューに答えていただきありがとうございました。
(葛迫 和人)
TOM邸は国富町田尻地区に建っています。私の事務所から車で35分の道のりで、大淀川の支流、本庄川の流域に位置しています。
沿道を車で走ると「田尻米」の看板に目が止まりました。たいへんローカルな話ですが、地元にも米の産地があります。宮崎市内でいうと「池内米」というブランドがあり、高鍋町には持田地区で取れる米、野菜等、知っている人にはたいへん人気のあるものとなっています。「田尻米」も宮崎市内の寿司屋さんが、直接買付けにくる人気米だそうです。周囲を見渡すと、田圃の先には小高い里山があり、竹林となっている所も目につきます。米の美味しさは地域の土と水が大切な要因となっています。
地域での特性は、建物の作り方に大きな影響を与えてきました。そしてそのことで地域の景観を作り上げてきました。一般的には、地形、産業、風・雨・雪等の気候風土、そして建築に使われる素材がその大きな要因となっていました。しかし現在、住宅産業の効率化を前提とした取組みにより、日本全国その景観は同じものとなってきました。
「宮崎自然派住宅」づくりは、その地域の気候風土、素材に対しての取組みを前提として、建主家族のありようを見極めて、住まいづくりを進めています。今回、TOM邸を計画するにあたって、地域ならではという要望がありました。それは地域での人と人とのつながりによるものでした。
ここ田尻地区では、現在でも地域住民のつながりが深く、各々の自宅での交流の機会が多いということ、また親しい間柄だと深夜でも時間に関係なく、友人宅におじゃまするということです。そのために広いスペースが必要であり、また夜遅い時間に家族に気兼ねなく過ごせるようにしたいというものでした。家族を主とした日常の生活を楽しみながら、そして来客をどのようにむかえるのか、テーマの1つになりました。(柴睦巳)
■ 居間から食堂(3D-1)
居間は主人の要望があり、親戚や友人がよく集まるため、20畳と広くしている。また、食堂は台所と直接的につなげ、居間・食堂・台所がオープンな空間になっている。食堂の机や居間のオーディオ用の棚は造り付けで大工さんによって造られる。
■ 居間から和室(3D-2)
和室の床高さは居間より35㎝高くしている。この段差を利用して、腰をかけて新聞を読んだり、寝転んだりしやすい段差となっている。
手前の2本の柱は240角あり、家の大黒柱的な存在である。昔の家ではみられたが、最近はほとんどなくなってきている。木造だからこそ存在感があり、住人に安心感を与える。
■ 1階寝室から干場(3D-3)
1階寝室は夫婦の寝室として計画しているが、将来的に親との2世帯となった場合に対応出来るように、夫婦は2階の寝室を利用し、1階寝室は親の寝室となるように計画されている。
また、南側に干場を設け、天気の良い日はここで布団が干せる。
■ 西面
玄関ポーチに接して北側に自転車・薪などがおけるスペースをもうけている。屋根がかかっているため少々の雨ではぬれる心配がない。
西側の寝室部分には通風を目的としたルーバー窓を数カ所とっている。宮崎の夏場は西からぬける風が気持ちよく、すごく効果的である。自然と地域環境を活かした生活が居心地が良い。
■ 玄関からベランダ(3D-4)
玄関ホールから右側が寝室で左側が生活の中心となる空間になっている。玄関ホールから直接ベランダにも行ける配置となっており、外から帰ってくるとベランダからの光が差込み、すごく開放的な感覚で家がむかえてくれるのではないだろうか。
また、玄関と同じ床の高さで玄関収納があり、多くの靴や傘を収納出来る。雨の強い日などは外にだしている日用品をここに一時的に保管でき、効果的な収納となっている。
■ 感想
山に登り、自分の家の材料となる木を自らの手で触り確認し住宅現場で久しぶりの再開を果たし、自分を外部から守ってくれる存在となり、生涯を通し見守ってくれる。家に愛着が生まれ住む事が楽しくなるのは当然だろう。まさに一つの物語が生まれる。これこそが家作りというものではないのだろうか。
TOM邸で改めて家作りの面白さ感じた。設計士の役割はただ図面をかいて申請をだして住宅監理をするだけかもしれない。しかし、これだけでは何も楽しく無く自分でなくてもできる。自分じゃないとできない家づくり。今は柴設計の家づくりの中にいるが、いつかは自分しかできない家づくりをしたいと家が完成するたびに感じています。しかし、今の自分にできるものは限られており、まだまだ学ぶことが多くあります。
(葛迫和人)
▼ 宮崎市 大工の家 ▼
今年は、住宅が5件、車庫・物置等が2件、そして西米良村の百菜屋と、木造が8件完成しました。どの建物もとてもすてきなものとなりました。UE邸は10月中旬に完成しました、厳しい敷地条件での計画となりましたが、周辺環境を取り入れることで、開放感のあるすまいとして完成することができました。
計画の段階で、工事時期について建主さんにお話することが2つあります。1つ目は木造住宅のほとんどに自然乾燥材を使用していることに関係します。自然乾燥材の木は11月中旬から12月初めにかけて山で倒します。葉っぱを付けたまま、尾根側に倒され、一冬、山で乾燥させ、3月に山からおろされ、原木のまま加工場で保管され、必要に応じて製材されます。製材後も段積み乾燥(上下にすき間を開けて積み上げていく方法)を数カ月おこない、そして大工さんの墨付け・切込みの作業場へと運ばれ、上棟の日を迎えることになります。木の乾燥サイクルを考慮した工程です。
2つ目は、梅雨や台風時期に現場を進めたくないということです。6月、7月の梅雨、そして8月から11月の初旬くらいまででしょうか、台風の時期があります。できることならこの時期を避けての工事が望ましいのではとお話します。
そうなると、工事契約を10月までとし、11月に基礎工事そして上棟を12月初旬におこなうことになります。寒い季節になり現場の職人さんは大変ですが、12月から2月の乾燥の時期に木材が組み上がりますので、完成後の割れ等も多少は少なくなります。
以上が望ましい工程と考えていますが、ご家族各々の事情があります。今回のUE邸は秋に完成をさせることが前提となりました。計画当初に自然乾燥材の在庫確認を行い、梅雨時の対応は施工者にお願いすることとし、4月中旬の着工となりました。今年は運良く「から梅雨」となり、また現場養生をきちんとしていただき、木材が雨に打たれることなく無事に完成を迎えることができました。
住まいを考える時に平面的なもの、かたち的なものだけでなく、時間(作るまで、住まいはじめてから、家の寿命等)について考えてみると、また別な視点ができ、計画に広がりが出てきます。
(柴睦巳)
今回は住宅の完成にあたり、建主であるUEさん御本人からお話を伺いました。計画段階から現在に至るまでを振り返り、いろいろなエピソードや最近の暮らしぶりなどを教えてくださいました。その一部をご紹介します。
(谷口慎哉)
まずは現在の心境をお聞かせください。
「とにかくホッとしています。緊張の糸が弛んだと言うか…。家づくりに関しては素人ですので、分からないこともたくさんありました。柴さんにお任せすることが大部分でしたが、完成してから実際に生活を始めてみて、住み心地や使い勝手の良さに驚いています。生活に対する配慮の細やかさにつくづく感心しています。」
不便に感じていることなどありましたらぜひ忌憚なくお聞かせください。
「感じたことはありませんね。住み始めて日も浅いということもあるのでしょうか、引っ越しからまだ半月ほどですので。…不便と言うか、こうしたらもっと良かったと思うのは、1階寝室東側の障子です。居間にある障子の様に、壁の中に納める造りにできればもっと開放感が増すのかなと思っています。」
気に入っている場所などありましたら教えてください。
「たくさんあります。面白いのは2階の寝室と和室です。吹抜けを挟むように配置されているんですけど、それぞれの部屋のもつ雰囲気がガラリと変わるんです。こっちでは読書、あっちでは編み物、という様に行ったり来たりでその違いを楽しんでます。
最近は台所に立つのが楽しみです。以前に住んでいた家の想い出を目にしながら、まだ慣れないIHヒーターで料理しています。
あとはこの家の外観も気に入っています。近所の方に『お店みたいだね』と言われたこともありますね。夜によく歩くんですけど、部屋の中の照明をつけたまま出かけるんです。暖かい光の漏れている感じがとても素敵です。」
今回の体験を通して、次世代の設計士に対して思うことなどございますか?
「なかなか一般の人にとって、設計士を介しての家づくりというものは『お金が相当かかるのでは?』なんてイメージがとても強いように思うのです。実際に近所の方々の声からもそう感じます。でも本当は必ずしも高いとは言えない。毎日を過ごす場所ですし、住み心地などを考えるとなおさらです。そんなことがもっと一般の人たちに伝われば、と思います。どんどん発信してみてはどうでしょうか?
▪️ 台所・食堂・玄関
台所の流し上部に設えた板材は、UEさんご家族が以前すまれていた住宅の欄間として使われていたものです。インテリアの一部として再生させました。(写真 上)
食堂から台所を見通しています。右側手前に見えるのは、造りつけのテーブルです。流しと一体にすることで、配膳がよりスムーズに行えます。(写真 左)
玄関へのアプローチです。ゆるやかな階段、桧の手摺を設置しました。両脇には植栽のスペースが確保されています。 (写真 下)
感想
今回は建主さんへのインタビューという貴重な体験をさせていただきました。話を聞かせていただいた中で、もっとも印象的だったのが、お風呂の話でした。「最近は母と一緒なんですよ。」と嬉しそうに話されたUEさん。これまでは別々に入浴することが多かったらしいのですが、洗面脱衣所も以前より広く、浴槽自体も二人で入れる大きさですので、越してきてからは毎日のように一緒に入られているそうです。
インタビューを終え、改めて考え直すことがいくつかありました。当たり前のことですが、設計という仕事は、何かを建てることが目的なのではなくて、建てるという行為を通して個人や家族、そして社会の営みを豊かにする。UEさんの嬉しそうにお話する姿を見ながら、設計するとはそういうことなのかなと思いました。最後になりましたが、お忙しい中時間を割いていただきましたUEさん、ありがとうございました。
(谷口慎哉)
建主のなくなられたお父様は大工さんをされていたとのこと、今回現場が始まり木製建具工事を担当していただいた嵐建具製作所の方より、若い時に一緒に仕事をしたことがあり、たいへん腕の良い棟梁でしたとのお話しを聞きました。宮崎自然派住宅では、常に大工さんに「手の後」をたくさん残して欲しいという気持ちで設計しており、今回も腕の良い棟梁(中村氏)にお願いすることができました。
工事の途中で娘さんより、これを使って欲しいと一枚の板材を渡されました。以前建っていた住宅の欄間に使われていたもので、住宅を解体した時に大切にとっていたとのことでした。長年住み慣れた住宅を取り壊すのは、とても悲しいことです。新しい家ができる喜びもありますが、どこかに以前の、それも父親の手にかけた物を残したいという気持ちは大切にしなければと思います。いろいろと考え、生活の中で一番目にする機会の多い場所に取り付けました。自然にそして違和感なくインテリアの一部となりました。
敷地面積が46坪、延べ床面積が40坪の2階建という、敷地いっぱいの住宅となりました。ただし東側に道路をはさんで川があり、南側には道路をはさんで児童公園があり、東・南側がとても開放感のある敷地となっています。計画にあたっては、南側の公園の開放感を建物内部に取り入れることを前提に考えました。南向きの居間に敷地いっぱいのウッドデッキを設け、雨の日の利用も考慮し深い軒としました、敷地境界には槙の生け垣を植える予定にしており、腰壁の緑そしてその上には、公園の桜の木や、ブランコで遊び、そして走り回る子供達の姿が目にはいります。一日中、家にいらっしゃる高齢のお母さんが、椅子に座り子供達に目をやる姿が今から目に浮かびます。
(柴睦巳)
ガーデニングを趣味とされているお施主さんより「プランターを中心として外構の植栽を考えたい」との要望がありました。そのためプランターを置くであろうベランダを広く取り、居間からの段差をできるだけなくすことで、気軽に植物と触れ合えるよう計画されています。また駐車場から玄関に至るまでのアプローチにも、プランターのためのスペースが確保されています。日々の何気ない生活の中で、四季のうつろいを花や植物によって感じることができます。
全体的な構成としては、プライベート部分とパブリック部分とを明確に分離させ、廊下は将来の多様な生活スタイルを考慮して広めに確保されています。
食堂は台所流しの延長上に配置されていて、机を造り付けることで配膳がスムーズに行えます。収納スペースも西面いっぱいに取り、多くの調理道具が十分に収納可能です。
ベランダにはトップライトを多く設置することで、室内に豊富な自然光を採り入れ、冬場は居間の畳に寝転び日光浴が楽しめます。洗濯干場にもトップライトを設置し、日射しが良く当たるように配慮されています。また外部からの視線を遮る「目隠し」のため、干場をぐるりと囲うように格子が設けてあります。
敷地の南側には、前面道路を挟んだ向かい側に児童公園があります。そのため将来、南面に建物が建つ可能性は低く、ベランダ・2階寝室・和室 からの眺望や日照を害される心配は少ないと思われます。
玄関ポーチからベランダへの動線上には門扉を設置し、部外者の通行を制限しています。南面には垣根を一面に植えることで、美観が増すと同時に、前面道路からの視線や侵入を妨げる防犯対策としての効果も期待されます。
今年の5月から研修生として柴設計にお世話になり始めて早くも5ヶ月が過ぎようとしております。
感想
CADによる3Dへの立ち上げ作業や工事・竣工現場での見学などを通して、実際の『すまいづくり』というものに、ごく一部ではありますが、触れることができたように思います。とにかく知らないことだらけで、設計士へのほど遠い道程を痛感していますが、一歩一歩着実にその道を前進して行こうと日々強く感じています。
木材という自然素材のもつ美しさは、歳月を重ねることでその風合いを増し、味わいが深まると聞きます。手で触れると温もりが伝わってきます。部材の各々に表情があり、呼吸をし、反りもするし縮みもします。人工の建材とはまた違った魅力を感じます。そうした「生きている素材」を材料とし、周辺を取り巻く環境・気候風土に根ざした、そしてなにより住む人のための『すまいづくり』というものに今よりも深く関わりながら学んで行こうと思います。
様々な情報が溢れていて大切なことが見えにくい現在、もちろん新しく知ることも大切だと考えています。が、忘れてはならないこと、残念ながらもうすでに失われてしまったものについても、見つめ直して行きたいと思います。
(研修生・谷口慎哉)
▼ 宮崎市 大塚の家 - 01 ▼
OB邸の住まい作りは、OBさんからのメールで始まりました。「宮崎自然派住宅」通信を目にされていたこと、私が設計した幼稚園との出会い、諸塚村の「やましぎの杜」での宿泊体験、「諸塚村産直住宅モデルハウス」の見学と、すでに私の取組に関して多くの情報を実体験としてお持ちでした。そして住まい作りのパートナーとして私を既に心に決めているというとてもありがたいものでした。
キーワードは「絵本」でした。メールの中で「わが家」を、バージニア・リー・バートン作の絵本「ちいさなおうち」に例えて、ご家族と一緒に年を重ねる姿としてイメージされていました。そして、お持ちの絵本を多くの子供たちに知って欲しいとのこと、ご自宅を地域の家庭文庫として開放したいとのお考えでした。
日常のご家族の生活なかに、どのようにすれば、文庫として魅力的な空間ができるのか、ご夫妻との打合せの多くの時間をこのことに使いました。
建物の内部、外部の使い方をどのように考えるのか、できれば天気の良い日にはウッドデッキで木漏れ陽の下での生活も楽しめればどんなに素敵なことなのか、また近くに里山が残るこの敷地に、鳥をそして虫たちを招くことも、生活に楽しみを与えてくれるものとなり、一日の生活の中に自然の変化を感じることができたら、どんなにすばらしいことなのでしょう。自然の受け止め方がいつのまにか大きなテーマとなっていきました。
植えられた「こならの木」に付くアブラムシ対策のために、近くの原っぱで子供たちは天敵の「てんとう虫」を探し、コナラの木に放してあげています。また植栽工事の後半に、どこか近くで育ったきじ鳩の子供が飛んできました。おそらく始めての飛行だったのでは・・・・。
(柴睦巳)
建築主の住まいに対するイメージ
・図書館のような住まいが良い。
・昔の木造校舎のような住まいもイメージしている。
・家庭文庫を設けて地域の人達に開放し、近隣との交流の場として縁側・土間・庭等を考え たい。
・絵本の開放と合わせてデッキ空間(木漏陽)で子供達への読聞せ、読書浴(森林浴のイメージに近い)を行いたい。
・家族みんなの空間として内部を一つの大きなものとしてとらえたい。
・大きな空間(吹抜け等)に伴う、寒いという現実は受け入れる。
・内部に火がほしい、できればはだか火が良い。
・室内のあかりは、人工的なものでなく自然なあかりを楽しみたい。
・木が見出しの住宅としたい(乾燥収縮に伴う割れ等は受け入れる)
・庭には、季節々の木を植えたい(雑木の庭とする)
・家族の空間と来客空間は別な物としたい(時間での区別ではなく場所としての区別)
・台所を中心としたパブリックスペースにしたい。
・ビールを美味しく飲める場所が欲しい。
・年齢の変化に対応できる住まいとする、作り込んだものとはしない。
・梁材にアカマツを使いたい。
・1階は、オープンな生活の場所、2階は家族のための場所と考える。
・夏場の内部の換気対策として越屋根を設置する。
・ご主人が釣ってきた魚を一次処理できる場所が欲しい。
・庭には家庭菜園を作りたい、土ものを一次洗いできる場所が欲しい。
▼ 延岡市 野田の家 ▼
Yさんは、建てようとする家に対して、明確なイメージをお持ちでした。外観は洋風の木造民家風を、内観は薪ストーブが本来の暖房器具としての役割だけでなく、インテリアの一部として溶け込んだ空間をご希望でした。家づくりを思い立った時に、ログハウスをセルフビルドでと、お考えだったとお聞きしました。カントリー調の雑誌や本をたくさん読まれており、そして何より、趣味が木製家具作りということで、木に関する知識はたいへん豊富で、教えていただくこともありました。
道路に面して細長い形状、そして道路に面しての数台の駐車スペースの確保等の条件により、敷地一杯に建物を建てることになりました。また将来、隣地での建築の可能性を考慮し、室内の採光はトップライトをメインに確保することにしました。そのために、居間を家の中心とし、居間だけでなく他の空間、そして2階の部屋にまでその明るさが届くように開放的な内部空間としました。
居間の南側に面してわずかな外部空間があります。狭いがゆえに内部との関係をより開放的にすることを考えました。掃出し窓を引込みの木製建具とし、居間の高さから20cm下がりの外部テラスとし、少しでもつながりやすい日常空間としました。中央に5寸角の柱を建て両サイドは1間づつの開口部、そしてワンステップで昇り降りのできる高さは、とても快適なものです。
トップライト採用にあたっては、夏場の熱気対策のため必ず下部にフラッシュのスライド式の建具を仕込むようにしています。今回は天井が高いこと、そして越屋根を採用し、そこまでの熱の道を確保したこともあり、夏場一度も建具で遮光する必要がなかったようです。今後は、ある程度の天井の高さが確保でき、また熱気の流れの処理ができるのであればフラッシュ建具でなく、柔らかなひかりに変えてくれる障子の採用を考えねばと思っています。
樹齢77年生の杉との出会いにより工事着工を春先から秋へと変更したり、尾根筋でやっと見つけたアカマツが、通称「あお」と呼ばれるカビにやられ一喜一憂したこと、そして家が完成した後も、風、光りそして自然素材を生かした家のおもしろさそして難しさを建主のYさんとある意味楽しんでいます。そして自然な家づくりにはまだまだ学び、経験しなければいけないことがたくさんあります。
(柴睦巳)
□ 床下の炭
右の写真は床下に置いた炭の写真です。炭の効果については、多くのことがいわれています。Y邸では、将来の床下でのメンテナンスそして炭自体の入替え等を考慮され、箱に入れて置いていく方法にされました。費用的にもたいへんお安くなっています。炭の購入、運搬そして敷き込みなどをご家族でされました。ちなみに要した費用は、坪当たり2,700円となっています。その内訳は、炭代3万円、箱代3万円、レンタカー1万円の計7万円です。
(右)2階の廊下から子供室を見ています。
天窓より多くの光が入るため明るい空間となっています(必要に応じて開閉できるようになっています)また、天井が区切られていないため空間がつながっているように感じられます。2階には小屋裏の収納スペースもあり、建具はほとんどが引き戸とし室内の段差もなく将来を考えた作りになっています。
(下)1階の居間を見ています。
2階が吹抜けになっているため空間が広く感じ、居間より2階にいる子供の気配が感じられます。台所は居間が見えるように対面式のキッチンとなっています。
床下には家族全員で炭を敷いています。(右中写真)また、ワックスも自ら塗り、現在では自家製の机も居間にあり、家族の想いが多くつまった家です。
□ 暑さ・寒さ対策
宮崎は一年中日射しが強く暑さや寒さに対しての対策が必要です。夏場は、熱気が室内に溜まり熱がこもってしまう。その為トップライトと建具の間に空間を設け、閉めると直接熱は室内に進入せず、熱気は建具に沿って室内の上へと移動します。最上部には南北方向にルーバーを設置しており、自然の風を利用して熱を外部へと逃がしています。そのため室内は常に換気が自動的にされ、新鮮な空気の環境を保っています。冬場は強い日射しを利用して、トップライトより室内に暖気と光りを取込んでおり、その為、暖房や照明が最小限の使用量で済み、省エネルギーにつながるという、工夫をしています。
□感じたこと
柴設計に通い始め、Y邸の完了検査について行き最初の住宅完成の現場をみました。Y邸の家作り物語にはまったく関わっておらず、完成までの現場写真や宮崎自然派住宅通信などで見たという事しかなく、どのようにして完成したという経過はほとんど知らない状態でした。Y邸の外観は洋風を感じさせるものとなっていました。これは、正面にレンガのアプローチや窓の雨戸を両開きとして色を緑色にしたり、外部照明にはランプを用いているという工夫を施しており、建主さんのイメージ通りのものとなっていると話してました。
このY邸完成までには2年9ヶ月にも及ぶ時が経っています。(着工してからは半年ですが)なぜこれほどまで時間がかかったか、というと所長はY氏との付き合いから始まり、家作りのパートナーとして木材にこだわった為、これほどの時間が経ってしまったのです。確かに長い時間をかけて家作りを行うということは、それだけの時間の余裕もあり建主さんと設計者がお互いに考える時間が多くあり、時間の経過と共に変わっていく考え方に対応でき、その分だけより良いものができたと思います。
Y邸を見に行き、そこの空間には家族が存在し、家族みんなの笑顔があり、家が家族を優しく包み込んでいました。現代では、パターン化された同じ空間・間取りに機械的に住む暮らしが主流となりがちですが、家とは本来、そこに住む人の為の空間であり、ご家族のライフスタイル、ライフサイクルに合った空間が本来、家が持つ役割であると思います。昔の人達がそうだったようにY邸にはそのような印象を受け、本来の家作りとはこうあるべきなんだなと勉強になりました。また、これらを実現するためにはご家族と設計者、施工者が一丸となって良いものを作りたいという同じ共通意識があったからこそうまれてくる、結果なんだなと思いました。
奥さんがおっしゃていましたが、「家が可愛くてたまりません」という言葉がすごく印象的でした。私もいつの日かこのような家作りの物語が描けるように日々頑張ろうと思います。
(葛迫和人)
今回は、スタッフのYが担当します。住宅完成を目前にして、建主のYさんご夫婦にインタビューをさせていただきました。改めてYさんご夫婦の家に対する熱い想いを感じ取ることができました。お二人ともしっかりと家づくりに対する思い、考えがあり、まさに想いのいっぱい詰まった家が出来上がろうとしています。
■ 出来上がりを目前にしての感想をお話していただきました。
(ご主人)
外周りの軒の色が思ったとおりの色でよかったです。材の使い方、見た目の楽しみがとても考えてつくられていると思います。階段上の松の材が思ったよりもよくて気に入っています。
図面ができてから、いつでもイメージーをふくらませ感覚をつかんでいたと思っていましたが、実物ができてきて想像とちがった部分もいくつかありました。
(奥さん)
思いのつまった家でかわいくてたまりません。毎週写真をとっています。リビングが吹き抜けで高さがあり、広く感じます。早くストーブでパンをやいてみたいです。リビングにはファンを取り付けるので、どれだけ空間が暖かくなるのか楽しみです。
■ 家づくりに対する想いについてお話していただきました。
(ご主人)
今の事だけを考えず、将来、何十年先の事も考え、自分が車椅子の生活になったら。そういうことも考え、1階だけで生活できることを考えたプランになったと思います。お金をかける部分は徹底的にかけ、削る部分とはっきりわけました。
基本的には風土をいかした和風のつくりで、見た目は洋風というのが理想です。本当にそのようなイメージ通りのものができつつあると思います。
(奥さん)
趣味がパンをつくることなので、子供の手が離れたらいつかはお店を開きたいです。友達が気軽に家に集まってくる、木の香りとパンの匂いがする家がいいです。若い人からお年寄りまで、みんなが「いい家」だと思うような家にしたいです。
普通の建売住宅ならいくらの世界かもしれませんが、この家には、家族の思いそのものがつまっています。家族みんなで床下の炭をしいたり、床をはったり、出来上がっても、ワックスをぬったり、色々なことがあり、家のことなら語りきれません。何でも挑戦です!そんな親の姿をみて育つ子供達もきっとこの家を大切に思ってくれるのではないかと思います。こだわるところはこだわりました。後悔はしたくないので満足のいく家にしたいです。
■ 設計者との家づくりについてお話していただきました
(ご主人)
始めは自分で家を作ろうと思っていましたが、甘かったです。やはり、自分の知らないことばかりで、専門家の方だなと思いました。分からないことや、質問に対して「わからない」という答は一度もなく、的確に質問に答えてくださって本当に頼りがいがあると思いました。
自分のイメージ、希望等を全て出し切りました。その中で出来ること、できないこと、よりよい提案をだしてくださって本当によかったです。普通は工務店なら機嫌をそこねてはならないということもあるようですが、柴さんはほとんど希望に近いものを通してくださって、一緒によりよい空間を考えてくださいました。
そしてなにより、考える時間をたくさんあたえてくださることが柴さんのやりかたのすばらしいところだと思います。普通は、いかに早く立ち上げるかというところが多いようですが、時間を置くと、やはり気が変わったり、いろいろ考えることもでてくるものです。そこをきちんと考えてくださるところがいいですね。
そして、自分達が言えないことも柴さんは建主側にたって現場でいってくださるので、そこがほんとによかったです。レベルの高いところで満足させてもらって本当に感謝しています。
(奥さん)
主人は人生の中で柴さんのような、満足させてくれるかたとの出会いはもうないといっています。
感想
インタビューを終えて感じてことですが、建主側と設計者側との信頼関係のとれた住宅づくりのありかたということでいうと、まさに理想の家づくりと言えるのではないでしょうか。私は1つの家が出来上がるまでに、そのご家族のオリジナルの物語が出来上がるように、これからも目指していきます。
最後に、突然ですが、研修期間からすると3年間通った柴設計を今月いっぱいで退社します。家づくりのパートナーとしてのレベルアップのため、次のステップを目指していきます。通信、ホームページへの温かい感想をいただきましたみなさまありがとうございました。 (山田 瞳)
■ 葉枯らし材(杉)との出会い
諸塚村で産直住宅のために使われている杉の葉枯らし材は、通常材齢が45年前後です。昨年の工事では七ツ山の黒木トラヨさんの65年生の杉を、4件の住宅で使うことができました。目の詰った良い材で、各々の建主もたいへん喜ばれました。
昨年末に加工場より77年生の杉が葉枯らしされるとの情報をいただいており、今年の2月14日に、延岡市の建主Yさんを誘い葉枯らし現場へ行きました。役場の矢房さん、組合の佐藤さん、そして加工場の山本さんに案内していただきました。
現場は、諸塚村七ツ山北枌(ほくそぎ)の、藤崎さん所有の山であり、北斜面のたいへん急峻な場所です。材の根元は、その地形のため大きく曲がったものであり、材齢の割にはさほど大きくなく、その分しっかりと目の詰ったとても良い材でした。
Y邸は、春に工事の着工を予定していたのですが、葉枯らし現場で「これを使えるのであれば、着工を延して欲しい」との要望がありました。
葉枯らし材は、山から切り出されるのが4月頃であり、自然な乾燥を考えると、どうしても、9月ないしは10月に現場へ搬入する工程となります。自然の物を自然に近い状態で使うのであれば、その特性にあった方法を考慮しなければなりません。
(柴睦巳)
■ アカマツの梁を求めて
森林組合の山本さんより、アカマツの切り出し現場があり、そこに要望していた大きさの物がある旨の連絡をいただき、5月10日に現場へ案内していただきました。建主のYさんと、事務所のスタッフ、そして私の長女も一緒に行きました。現場は森林組合の加工場より40分ほど登った場所で、ここからは六峰街道の走る尾根筋、そして諸塚山が一望できます。
行く途中で、尾根筋に立ち枯れたアカマツを数カ所みました。アカマツが使えなくなる日が、来るのもそう遅くはないのではと危惧しています。
Y邸には全部で7本の松梁を使う計画で、そのうち2階の床を支える末口36cm、そして長さが7mの松梁がメインです。
現場には50~60年生の使えそうな物が数本ありました。ただし化粧材として使うため、その曲がり具合も選定のポイントとなります。すでに倒されたもの、そして森の中に立っているものを含め、候補となるものを3本見つけることができました。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 下北方の家 ▼
敷地は、宮崎神宮の北側に位置する閑静な住宅地にあります。南、西側を道路に接しており、二つの道路は1、2軒先では行き止まりとなっており、通過交通の全くない静かな場所です。
当時の住まい(貸家)も敷地から5分もかからない所にあり、ご実家も歩いて行き来できる場所にあります。ご家族は、高校教師のご夫妻、そして小学生のお子さんが二人という四人家族、ご夫妻の仕事柄、しばらくは子供たちが実家で過ごす時間が長いようです。
計画にあたっての要望は、お忙しい日常の生活をより快適にできるかということでした。特に家事については、食事の準備、後片付け、洗濯、洗濯物干し、取り入れ、整理、掃除、風呂の準備等たくさんあります。OT邸では、ご夫妻での役割分担が決まっており、夫々が気持ちよく、そして利便性よく動けるためにはどのようにすれば良いのかということもテーマの一つになりました。
以前、作りましたHI邸をたいへん気に入っていただきました。すべての生活が1階で完結しており、台所を中心としたたいへん動きやすいプランをもっており、また外観は屋根にゆるやかなムクリを付けて、たいへん落ち着きのある住まいとなった住宅です、ただし敷地は以前みかん畑だった所を整地しており、敷地面積にもゆとりのあるお宅でした。
今回、与えられた敷地は64坪の広さ、その中に平屋建を前提としたプランづくりから始まりました。度重なる打合せの中で、外部空間に対してのお考えが少しづつ明確になっていきました。休日に家でゆっくりとする時間がとりにくいこと等から、庭としての空間は最小限のスペースで良い。
車好きのご主人からは、露天での駐車ではなく、しっかりとした駐車スペースが、そして雨の日でも気兼ねなく干すことのできる干場が欲しいという要望がでてきました、また平屋建の中にすべての要件を納めることには無理があり、夫々のスペースを確保するためには2階建とならざるを得ないこととなりました。
完成した住まいは、外部は道路に対してオープンなアプローチ、駐車スペース、雨の日には近所の子供たちの格好の雨宿りの場所となりそうです。そして周辺環境への配慮をも兼ねた植裁スペース、屋根は、道路に対して低い軒先を向けることで圧迫感をさけ、2階部分もムクリを持ったたいへんやわらかいラインを表現しました。内部は台所を中心に、回遊性のあるプランとなっており、台所から家族の気配が感じることのできる内部空間となっています。(柴睦巳)
▼ 綾町 おばあちゃんち ▼
2004年の3月にMI邸が完成しました。2003年の1月にMさんよりメールをいただきました。「土地が決まりましたので、家を建てたく、工務店・建築家の方とお会いし、話しを聞きたい」との内容でした。Mさんは数年前の「家づくりセミナー」に参加された方で、2000年に完成したTO邸のご主人と同じ職場の方でした。
Mさんは公務員、お母さんは趣味の域をこえた野菜づくりに励み、そしてかわいい男の子が一人のご家族です。敷地は、北側に綾の高台、南側に綾南川をと、のどかな田園風景のなかに、家庭菜園と子供が走り回るに十分な広さを持っています。建物はどの部屋からも庭に出られるようにとの要望がありました。ただし水平方向にも垂直方向にもゆったりとした居間が欲しいとのこと。設計にあたっては、日常生活の様々な場面に快適に対応できる家づくりを心掛けました。
地元の原風景ともなっている民家の二重屋根、そして葉たばこの乾燥小屋の煙り出し(越屋根)などを、その機能性そして建物の表情の一部として取り入れました。心地よい光りと風をいかに取り入れることができるのか、いつも考えるところです。
天井の高い居間に、二重屋根のすき間部分に設置された高窓は、固定の障子を通して柔らかな光を取り入れ、また夏場の熱気の自然換気のための越屋根を設置した越屋根は、その効果を発揮し快適なすまいとなっています。先人の培われた知恵に学ぶことは、まだまだたくさんありそうです。(柴睦巳)
ここ数年、取組んできた諸塚村との交流による「すまいづくり」も14棟が完成しました。そして現在4棟が工事中です。
今年も2月末に諸塚村戸下地区の山で材令60年以上の材(葉付自然乾燥材)との出合いがありました。西斜面に育った良材です。来年3月完成をめどに進めている計画中の建主さんもたいへん喜ばれました。
「宮崎自然派住宅」通信も12号となりました。各々に取りあげているすまいは、建主ご家族のオリジナルなものとなっています。バックナンバーご希望の方はご連絡ください。
■ 上の写真は、食堂のカウンターから台所を見ています。カウンターの高さは70cmそしてカウンター収納の高さは流しと同じ80cmとし、吊り戸はカウンター上部に電子レンジ・トースターの高さを考慮し45cmのすき間をとり設置しています。カウンター天板は桧の無節板を使っています。
■ 上の写真は、居間から台所を見ています。真中には大きめの柱をたてています。構造材の柱、梁そして家具の飾り棚、食堂カウンター、収納カウンター、すべて大工さんの手によるものです。技術を持った大工にお願いすれば、インテリアとしての雰囲気のある空間作りは十分に可能だと思っています。
コンクール審査評
建物全体を覆う大きな切妻屋根、その屋根が南面する居間や玄関部分に葺き降ろされ、軒が低く抑えられて、安定した水平線が印象づけられ、二重屋根や越屋根が、全体として地元の伝統的な民家を想起させる外観を創り出すと共に、室内環境に寄与する装置となっている。居間では、断面の太い柱や梁、小屋組の構造がそのまま表され、高い天井の空間が創り出される。床は40mmの杉板張りとされ、天井、壁も板張りであるが、沖縄紙を貼付けた壁との組み合わせるなど、程良い使用となっていて、木組の美しさや、程良く使用された木の内装材と相俟って、おおらかな空間として形成されている。
全体的な配置計画や動線計画も確かで、収納もよく検討されており、施主の望む住み心地が、素直に実現された住宅となっており、木材の使用方法や見せ方、納め方も、丁寧で美しい作品となっている。
宮崎の県産材を使った家を建てたい!Mさんの強い思いのもと、ご家族の住宅作りが始まりました。お母さんが自給自足として畑を作っておられることもあり、387坪という広い敷地に計画することになりました。建物は出来るだけ梁や柱などの木組が見える作りが良いということで、水廻りや必要部分以外は、天井を張らないつくりになっています。
お母さんが、畑仕事から帰ってきて、野菜の泥を落したり、また服の汚れを落したりするために、勝手口近くの外部に洗い場スペースを作り、倉庫を介して台所にアプローチできるようにしてあります。
今回建主のMさんとの打合せを通して、その過程過程の材の行方を真近にして確認出来ることの大切さを改めて実感しました。
また、建物だけではなく、その周りの環境、背景となるものの重要性も改めて気付かされました。「家」と「庭」を一緒に考えて計画していくことが大事だと思いました。 (スタッフ Y.H)
■ 玄関ポーチそして渡り廊下を見る
8畳和室の広縁と、玄関ホールを結ぶ渡り廊下スペースは、洗濯物干場としても使用でき、北側の流しスペースへのアプローチにもなっています。南側の開口部には、格子状の木製建具(防虫アミ付)があり、風が南北方向に通るようになっています。冬場の寒さ、また強風時の対策としては、断熱雨戸が格子戸の外側に引き出せます。北側の流しスペースとの間には、引込の木製建具(引込網戸共)を設置しています。
■ 玄関ホールより居間を見る
居間の北側は台所となり、その延長に作り付けテーブルを設置した食堂があり、その奥に、書斎スペースの一部が見えています。正面にはテレビ台と化粧棚が見えています。家具類は大工工事にて製作し、建具は建具屋さんが取付けます、ローコストを考えた方法です。居間は平面的にも、断面的にも開放的な空間になっています、南側には軒の深く出たデッキがあり庭とつながります。居間の天井は、梁や垂木、野地板などが化粧で仕上げられ伝統的な木組みが見えます。台所は、居間側に流しが設置してあり、家事をしながら子供の遊ぶ様子が目にはいるオープンなつくりになっています。
■ 書斎から納戸を見る
建主さんの念願だった書斎は、長い作り付けカウンターのうえで、親子一緒に勉強、読書等出来るようになっています。机の上にはパソコン等を置き、親子のよきコミュニケーションの場となるでしょう。奥に見える納戸は、可動棚で細かく仕切られ、衣類等を市販のケースに入れ分類できるように、またジャケット、コート類をかけられるスペースにと多様な収納が計画されています。
▼ 日向市 亀崎の家 ▼
■ 敷地の中心に、ご主人の場所を計画しました
(自然に家族が集う場所となりました)
実家の隣接道路拡幅のため、現在の敷地に親世帯、子世帯各々の住まいを建てることになりました。敷地は、細島港・工業団地を一望できる場所で、時間帯によっては日向、大阪間のカーフェリーをのぞめる高台に位置しています。
200坪程の敷地内に各々の住宅と、外部物置そして3台分の車庫を作ることを前提に計画を進めました。ご主人はオートキャンプ、バイクによるツーリングそして水上バイクとアウトドア派の多彩な趣味をお持ちの方で、時間があれば、一日中でもバイクを手入れをされるそうです。
配置計画にあたっては、ご主人が長い時間を過ごすことになる外部空間を敷地の中心とし、その場所を、2つの住宅そして外部物置(バイク置場なのです)で囲む計画としました。この場所は、敷地の中心ということだけではなく、日常生活の、特に休日は二世帯の生活の中心となります。
親世帯からは、居間のテラス、また勝手口からアプローチでき、子世帯からは、食堂前の濡縁、そして玄関からのアプローチとなっています。また趣味をとおしての仲間達は、外部物置と車庫との間に設けられたパーゴラ(近い将来、アケビ棚となる)の下を通ってのアプローチとしました。
この場所と親世帯との間は、現在コナラ、やぶツバキ等によって雑木の林をイメージした庭がつくられています。夏から秋にかけて、コナラによるこもれびが、バイクの手入れをするご主人にすがすがしい時をもたらすことになるでしょう。
(柴睦巳)
食堂から、台所までの三間長さ(5.7m)のカウンター収納、そして台所(オープンキッチン)には、背面に吊戸棚をつくりました。台所奥の引戸を開けると洗面脱衣になっており、洗濯器が置いてあります。引戸の手前右側には勝手口があり、外部はトップライトのついた下屋があり、雨の日でも洗濯物が干せるようになっています。水廻りの空間をまとめることで、家事の動線を短くしています。
親の住まい、長男家族の住まい、物置、バイク小屋、作業小屋、3台の車庫、そして庭としての外部空間を200坪の敷地内に、各々の特性と関係性を持ちながら、いかに配置するのかが今回のテーマとなり、まさに小さな集落をイメージしての計画となりました。
検討の結果、敷地の中心に、ご主人の場所を計画しました、結果自然に家族が集う場所ができあがり、その場所各々の建物が囲う形となりました。
▼ 諸塚村 諸塚村産直住宅 モデルハウス ▼
■ 設計にあたって
住み手が直接見えないモデルハウスという、多様な家族を対象とした計画を進めるにあたって、これまでの住宅設計の考え方を再度整理するというスタンスで設計を始めました。
□1 生活の中心としての台所
経験から、建主の要望として「住宅の中で家族が自然に集まり寄り添いながら生活ができるプランにして欲しい」というものがあります。
以前、建主の奥さんより「壁を見ながら食事の準備をしたり、後かたづけはしたくありません。台所に立つ時間は、子供が宿題をする時間と同じで、食事の準備をしながら子供と話をしたい。また夕方、子供が見ているテレビ番組がそれとなく目に入るようにして欲しい、そして食事が終わり、主人と子供がちゃぶ台で一緒にテレビを見たり、話しをしている中に自然に入っていけるようにして欲しい」と言われたことがあります。
確かに母親が台所に立つ時間は、一日の生活の中で多くの割合をしめています。そして子供は何よりも母親のそばが好きです。台所に立つ母親のそばで、食卓の椅子に座り、宿題をしたり、お絵書きをしたり、学校でのその日の出来ごとを、とりとめもなく話すことは、子供にとって大切なことです。
このように考えていくと、団欒の中心はまさに母親なのかもしれません。モデルハウス計画にあたっては、母親の立つ場所が生活の中心となるように計画を進めました。その場所からは家の内部(2階をも含めた)そして庭をも含めて何となく、遊んでいる子供の気配が感じ取れるようにしました。なおかつ家事労働がスムーズに行なえるように、洗濯・洗濯物干し・お風呂への動きを効率的にできる計画にしました。
□2 開放的な内部
高気密・高断熱が宣伝文句として使われるこの時代にあっても、開放的な内部空間は多くの人に魅力あるものとして受けいられています。自然素材をテーマとした今回の計画では、内部を風がそして光りがあふれるものにしたいと思い、主要な構造部材である柱・梁や壁・化粧野地板などでそれぞれの部屋をつなぐことで、内部の一体感が一層感じられるように、居間・台所・食堂を中心に2階をも含めて開放的な内部空間としました。
□3 地域性を考慮
数年前の台風は多くの人に恐怖を与えました、台風対策は宮崎での家づくりを考える上で重要なことの一つです。戸建住宅で外部に日常的に置かれ、台風時に避難させなければならない物(植木鉢・子供の玩具・ガーデンファニチャー等)は以外に多いものです。このような地域特性の配慮の一つとして、バルコニーに面する外部建具に取り付ける雨戸を半間(できれば一間)ずらすことを提案します。この空間は台風時に上記の物の避難場所となります。また雨戸を透明な素材とすることで、冬場には、この空間はサンルームとして外気の進入を防ぐ場所となり、また深い軒先にトップライトを設けることで、居間の奥まで冬場の直射日光を引き入れることもできます。
地域性を考える時に、考慮しているもう一つの事として「洗濯物干場」があります。長い梅雨・秋そして春先の長雨、また春先から夏にかけての桜島の火山灰といった自然現象、そして共稼ぎが多いという地域特性を考慮するとき、諸々の状況を気にせずに洗濯物が干せる場所というのは大切です。今回は洗面脱衣から直接でれる所に洗濯物干場を計画しました。
(柴睦巳)
■ 諸塚村産直住宅ツアー
モデルハウスを使った、諸塚村産直住宅セミナーが、毎年数回行われています。毎回九州各県より参加者があり、自然素材を使った家づくりセミナー、葉付き乾燥木材の生産現場の見学、山を守った生活文化の体験、そして山の人々の交流などを通して、多くのことを学ばれています。ぜひ参加してみませんか。
■ 2階板の間
2階は6畳スペースを2間続きとしてます。天井は杉厚板(厚=3㎝)による化粧野地板仕上げとなっています。
小屋組みをの梁は、「ヨキ」による仕上げとしました。「ヨキ」仕上は山師が材の切り出し現場にておこなうものです。現在でも、村内の古い民家の小屋裏に上がるといたるところにみられ、「ちょうな」仕上とは違ったその荒々しさが山師の仕事を想像させます。
■ 台 所
家具及び建具は杉材を使用し、キッチンについても、杉材支給により製作しました。
■ そぎ葺き
宮崎の県南地方で現在も行われている瓦屋根の下地工法です。おび杉の板を使っています。
■ 杉厚板パネルによる落込み工法
杉板(厚さ=3㎝)を柱間に落し込むことで壁を作りました。パネルは前もって加工場で製作し、建方の時に柱・梁と一緒に組み立てていきました。
▼ 高鍋町 北高鍋の家 ▼
光、風のあふれる
日常スペースを2階へ — U邸 —
■ 2階での生活を豊かなものにするために
広い庭、数台の駐車スペース、眺望の確保等、及び隣家の接近を考慮して、日常の生活スペースを2階としました。居間からはご主人の職場である、大学キャンパスを望むことができます。2階での生活をより快適にするために、3つの機能を持つベランダを提案しました。
まず、東側に洗濯物干場専用、居間の南側に「半戸外居間」、子供室・和室(寝室)の前には布団干場として、各々の使用目的を明確にした外部スペースとなっています。そして南側ベランダは、台風時等には雨戸により一時的に内部空間となります。
◇ 自然素材を使った住まいづくり
◇ 家族の生活の有り様について考えた住まいづくり
◇ 買うものでなく、作り上げていく住まいづくり
等に、興味をお持ちの方へ、
「宮崎自然派住宅」に関する資料を作っております。ご希望の方には送付致しますので下記問合せ先までご連絡ください。
▼ 新富町 新田原の家 ▼
設計者はパートナー
(専門知識と経験を備えた)
Hさんとの出会いは、テレビ局主催による「住まいづくり相談会」でした。会場には、建築、税金、土地、そして資金と各々の専門家がいました。Hさんは、土地の分筆の件で相談に来られたのですが、担当の方が別の相談を受けていたため、その間私がお話をする機会をいただいたのです。すでに行っていた諸塚村との交流による家づくり、生活を主体とした家づくりにたいへん興味を持たれ、このことが縁となり住まいづくりのパートナーとなりました。
敷地は、実家の道路をはさんで隣接する場所でした。近くにゴルフ場があり以前に数回、通ったことがあり、周辺は畑、里山が広がるのどかな景観を持った場所です。ご主人の両親を交えた話合いのなかで、私は敷地の変更を提案しました。Hさん家族の子供がまだ小さく、そしてこれから子供が増える可能性があるというお話から、敷地と実家との間の道路がたいへん危険なものに思えたのです。Hさん夫婦が共働きであり、何よりも子供がおじいちゃん、おばあちゃんを大好きであり、もしこの場所に家ができたら、子供達はこの道路をひんぱんに横断することになります。
私はゴルフ場近くの道路を、状況により危険なものになると考えています。私自身の経験から、ルールとマナーを大切にするゴルファーは、スタート時間にもたいへん気を使います。時間を守るためについつい急いでしまうゴルファーの運転を考えると、ここの道路は事故の可能性が高いと考えてしまったのです。実家の敷地内には、新居を建てるのに十分な広さがあり、母屋の南西方向にあるみかん畑を敷地とすることを提案し、ご家族での検討の結果受け入れられました。
今年3月に出版された、「目を養い、手を練れ」の本の第3章冒頭に・・・住宅の設計は「設計者」と「住み手」、「敷地」の三者が出会った時に始まり、良い住宅は、その出会いがうまくいったときに生み出される・・・とあります。
ここ数年、敷地が決まる前に敷地の相談を受けることが増えています。一緒に選定して欲しいと敷地決定前に設計の契約を申し込まれたこともあります。住まいを考える時に、どのような場所を選定するのかということはとても大事なことです。自然環境、隣接する道路・土地・建物の状況、建築基準法・都市計画法等による制限、生活基盤の整備(水道の引込み、生活排水・雨水の処理、電気・ガス等の引込み等)、敷地の地盤状況、そして敷地からの眺望がどれだけあるのか、検討しなければいけないことがたくさんあります。
三者のすてきな出会いを期待するだけでなく、良い住宅をつくるために「住み手」と「設計者」がはやい段階からパートナーとなり、「住み手」家族の将来像をイメージしながら、敷地を選定することはとても有効です。
(柴睦巳)
▼ 宮崎市 阿波岐原の家 ▼
始めてTさんにお会いした時、自然素材を使い、そして家族で家を作る喜びを感じたいといわれました。参加型の家づくりというものはありますが、建主がどの時点でどのように関わるのかという決まったマニュアルはありません。セルフビルドも、言葉としては新しさを感じますが、その内容は太古より行われてきた営みの一つです。
家族が、そして地域の住民が協力して家づくりが行われた歳月は非常に長いものです。住宅が商品として扱われてからそんなに時間はたっていません。祖父が・父親がそして近所のおじさん達が手をかけて作り上げた家に対する「想い」と買った家に対する「想い」が違うのは当然の事だと、早く多くの人に気がついて欲しい。一つの家ができあがるとは、まさに一つの「ものがたり」がそこに生まれることです。
Tさんご家族は、この「ものがたり」大切にしたいという強い気持ちを持っていました。すでに諸塚村産直住宅の情報はお持ちで、諸塚村との交流の中で家づくりを進めていこうと考えられていました。計画当初より自然素材について、そして有害な建材について打合せを行い、建築基準法及び住宅金融公庫融資の枠の中で可能な自然な住宅について模索を始めました。
身近な自然素材を使うにあたって、よく問題となる生きているからこそ起る状況(木材の収縮等)については自然に受けとめておられ、後は住まい方をどのように考えるのかという点での打合せを進めました。
ご両親との同居のなかで、帰宅時間の遅いご主人そして家でも仕事をされることがあり、夜の早い両親に迷惑をかけたくないとのこと。限られた敷地内での二世帯住宅のあり方の模索の結果、玄関と外部のユーティリティースペースを共有し、他は完全に独立させるものとして計画し、中央をウッドデッキにて視覚的にも機能的にもつなげたプランとしました。
基本計画が進む中、1999年4月諸塚村主催のやましぎの杜体験ツアーにTさんご 家族と参加しました。やましぎの杜では民家再生にかかわり、機会あるごとに私も家族で参加し、色々な山村生活体験をしていました。夜、囲炉裏を囲みご夫妻と色々なことを語り合いました。
土間、囲炉裏の間、畳の間の3部屋からなる民家の中で、家族の生活そして子どもの成長を始めとする家族構成の変化などを、1世紀にわたって家族の変化に対応してきた「したしぎ」民家の中での話は様々な場面を想定して考えるのには非常にわかりやすい場所でした。隣の畳の部屋では、ツアーで知り合った家族がすでに寝息をたてており、こちらの話声が夜が深けるとともに小さくなっていったのは言うまでもありません。
私はご夫妻との囲炉裏を囲んでの時間に、ゆったりとした時の流れを感じました。おそらくご夫妻も同じ気持ちであったと思います。家族が家の中でどのように寄り添い生活をしていくのか、そして同居の両親とどのように向き合うのか、今考えると、様々な日常生活を大きな屋根の下に包込む計画となったのは、この時の経験によるものかも知れません。
(柴睦巳)