「・・・っふあぁ~~~~」
ルナは目覚めた。それから、眩しい光を目に入れてしまって少しまゆをひそめる。
「・・・あ?」
どこだ?ここは。
がばっと勢いよく起きると、あたりは一面に花が咲いていた。コスモスの花だ。淡いピンク色、明るい黄色、眩しい白。それは色とりどりに咲き、とても美しい光景であった。自分のちかくの花にそっと触れ、それを見つめるルナ。
「・・・みーちゃんの好きな、花だったな・・・」
とても空気が美味しい、風が心地よい。また寝転ぼうとしたその時だった。
「―――――っ!?」
ルナの目の視界に入ってきた、とある人物と目があった。その人物はこっちを見て、同じように目をまん丸くしてこっちを見ていた。両手に花をたくさん持っているその人は、ルナを見るなりこう言った。
「・・・ルナ、ちゃん?」
三年ぶりの、再開。
「・・・みーちゃん・・・?みーちゃん!!」
ルナは勢いよく起き上がって、その人にまっしぐらに走っていった。そしてその人の胸に、みーちゃんと呼ばれる人の胸の中に飛び込んでいった。両手からコスモスの花が散り、まるで一つの絵になるようにひらひらと舞い降りる。
「どぅしたのルナちゃん!まっさか、あたしを追って死んだんじゃないでしょうね!?」
「良かった・・・良かった・・・みーちゃん・・・あぁ――――――っ!」
ルナが、泣き出した。彼女は怒る気力もなくしたのか、ルナの頭をそっと撫でた。
「よし、よし。ほんっと、あたしがいないとダメなんだからっ!・・・」
そして、そっと胸の中で抱きしめた。うっすらと涙を浮かべて。
「久しぶりねぇ・・・こうやってルナを抱きしめてるなんって」
そこは、天の国と、人は言う。
---------------------------------------
「状況は?」
「未だ回復されません。なにしろ、出血多量、呼吸困難、意識不明の状態で運ばれてきたのですから、もう・・・」
ガラスの向こうで、医者と医者が話している。モウニング、ハスキー、インサイト、ジョルジュ、そしてミントは話をしていた。
「鋼族は、もともと地下に住む生き物だった」
モウニングが話す。インサイトはガラスの壁に手をついて、向こう側に寝ている人を愛おしそうに見つめている。
「波を感知して物体を認知する力は、地上界ではむしろ毒なのだった。なぜなら地上で言われる波は、空気の振動、紫外線、電波など、さまざまな波があちこち飛び回っている。そんな地上界で暮らせれない体質から身を守るために、身体を鋼にするのだ」
ハスキーは壁に背をつけ、ミントはガラスの壁の見える位置で、長椅子に座っている。
「ルナは独自で、波を受け付けない方法を編み出して地上に生きてきた。が、さっきの地下へと入ってゆくにつれて、感覚を甦えらせて、その放きを閉じる方法を思い出せないまま、地上へと来てしまった」
「そんなの関係ないでしょ」
インサイトがそう言った。それから、彼は心を露わにして続けた。
「それだけだったら、あんなに血だらけにならなくて済んだでしょ!?どうして、誰も彼の鋼の乱用を注意しなかったの!?誰ひとりとして!?」
「そんなに言うんなら、お前が地下に降りれば良かったじゃんか」
ハスキーがぼそっと呟いた。インサイトが火を付ける。
「あなたが降りなかった理由はなんですか?自分が怖いから降りれなかった人に言われたくないですね―――――」
「っ―――――!人が嫌だと言ったことにケチをつけやがって・・・!!」
インサイトにつかみかかった。それから言葉を続ける。
「人が嫌だっつったことにイヤミたらすなよ!えぇ!??」
「貴方だって、人の文句を素直に受け入れないじゃないですか!一緒です!!結果として、貴方だって僕だって役立たずなんですよ!!」
「いや、」
普通のトーンで、素直にモウニングが言った。
「インサイトのあの装置、あれがなかったら、結果的にもっと悪い方向にいっていた。周りの方向が分からずに、迷子になってしまわなかったのは、お前の援護があってのことだ」
さらに言葉を続ける。
「ハスキーだって、下見の時に命懸けだった。ハスキーは下見の時に、自分のメンバーを命懸けで助けながらも帰ろうとしていた。ただ、虚しいことに内戦を起こしてしまって、皆おしゃかになってしまったのだ。そんな経験をしたくなくて降りないだけである。臆病ではない」
それは、一緒に降りたモウニングとルナしか知らない事情であった。インサイトは初めて聞かされ、我に帰った。それから皆に背中をむけて、その場を去ろうとする。
「・・・ごめんなさい、気が動転してしまって・・・。この場、離れますね。データを収集して、解析しますので・・・失礼します」
ジョルジュも、座っていた席から離れる。
「俺も、向こうの後輩のクリニングだ。先に行く」
ミントを一回見て、それから歩き去った。ハスキーも、黙ってその場を離れる。モウニングと、ミントしかいなくなってしまった。
「・・・モウニングさん」
ミントが、やっと重たい口を開けた。モウニングが隣に座る。
「俺、ルナさんに、自分の羽で作ったお守り、渡したんですよ」
「おぉ、ピピカ族のお守りか。神風を吹くように祈り、その人の災厄を追い払うように捧げるものだな」
「・・・たくさん、知っているんですね」
ミントは自分の手元にある、ルナに渡した血だらけのお守りを見つめた。視界がぼやけてくる。
「・・・ははっ、はははっ。やっぱ、出来が悪いと、効果発揮しないんでしょうかね・・・。けっこう、作るの大変だったのになぁ、針で、指差したりとか、失敗して羽がぼろぼろになって、違う羽根をまた自分から抜き取ったり、して・・・それ、から・・・!」
ぼろぼろ、涙がこぼれ落ちた。
「ルナさんの、バカっ―――――!!」
声をあげて、ただ泣いた。ただ、ひたすら悲しかった。
ガラスの向こうにいる彼、ルナは口にマスクを通してチューブから酸素をもらっている。機械が元気に心音を鳴らしている。彼の左腕にはいくつかの針が通されており、これ以上石化しないようにそこから液体をながしている状態である。悲惨だ。
「・・・俺、待ちます」
モウニングは、ミントの顔を見た。伏せているからよく見えなかったが、涙だけが溢れているのが判る。
「ルナさんが、起きてくるまで・・・待ちますとも」
「・・・会議には欠席すると、伝えておこう。・・・」
モウニングは立ち上がって、ミントの頭を撫でた。
「ありがとうございます」
「・・・祈りが届くと、信じよう」
「・・・―――――はい」
ガラスの向こうに眠っている彼を、ただ見つめていた。
---------------------------------------
「それにしても、ルナに会うの本当に久しぶりねぇ~」
「みーちゃんこそ、変わってねぇな相変わらず。まだ花屋やってるんだ」
「えぇ。そしたらココは快適よぉ~、私が思えば色とりどりの花を咲かせてくれるの!」
「ほぉ~、そりゃ良かったなぁ」
ルナは、彼女の膝を枕に、ただ風にたなびく花を見つめていた。とても暖かい気候。幸せな一時。
「・・・ねぇ、ルナ」
「ん?」
「戻らないの?」
「戻るって、どこに?」
「あそこに・・・」
彼女の指さした場所は、鏡のようになにかを移している。そこを見ると、自分がたくさんの機械に囲まれて、死んでいるように眠っている。ガラスの向こうに、誰かがずっと自分のことを見ている。
「あ?なんだこれ、俺が寝ているじゃん」
「もう、おとぼけさんね。あんた、ココがどこかってまだ認識しきれてないでしょ?」
「あ?」
「ココは、死後の世界なのよ」
記憶が蘇った。
自分の妻が殺されたこと。
自分で国一つを死に追いやったこと。
***と出会ったこと。
***に過去を探られてしまったこと。話したこと。
最後は、その子とそれから、モウ二ングと、ハスキーと、インサイトのメンバーで闘って・・・。
誰?
お前、誰なんだ?
「・・・やべぇ、ど忘れした」
「はぁ~!?あの子のことをど忘れしたの!サイッテーやりマンめぇ!」
彼女はルナの頭をぺしっと叩いた。
「はっ!?今なんつった!」
「や り ま ん!あの子にあんなことをしておいて忘れるなんって最低よ!ルナのすけべ!」
「うっせぇーな!お前がいなくて仕方なく」
「なっにが仕方ないのよ!あの子のほうがずっと可愛いじゃん・・・」
「嫉妬?」
「ううん、まっさかぁ異性に嫉妬なんてしないわよ、むしろムフフよ!」
「どうせ俺とそいつのイチャついてるのを見て満足したんだろ」
「えぇとっても、うっふっふ~」
「この、腐女子」
「何か悪い?もし嫌だったらまず結婚してないし!」
「う”っ」
鏡を撫でる彼女。そして鏡の向こうの人物に言った。
「でも、私この子にお礼がしたいのよね」
「・・・何で?」
「あなた、朝ご飯食べないでしょ?・・・あの子がお世話してくれて、それからあなたの傍にいてくれたもの」
その人物は、ずっと座っている。看護婦さんにもう帰って欲しいと促されてしまう。深夜を回っている。向こうの会話が聞こえない。
「こっちからは、あなたたちの世界の会話が聞こえないの。だから、名前を言えない。・・・ルナ、覚えてないの?」
「覚えてねぇよ」
じとー、とした目でルナを見る彼女。
「・・・んだよ、」
「・・・また来るって」
「は?」
「また来るって言ってる」
「判るのか?」
「口の動きで、ちょっとね」
ルナも半身起こして、鏡をのぞき見た。すると、顔が痛みに歪んでいたが、それでも歩いてガラスの壁に近づき、それからなにかルナの身体に話しかけた。
また、来ます。次はちゃんと、起きてくださいね。
「―――――っ!?」
ルナは聴いた。その人の声が、そこに横たわっている自分自信の身体から伝わったのか、声を聴いた。
なんだろう、大事な人だ。
なんでだろう、どうして思い出せないんだろう。
ここまで出かかっているのに、どうして、どうして。
鏡を見入るルナ。その姿を横から見て、彼女はこう言った。
「やっぱり、あなたは戻るべきよ」
「お前は、それで良いのか?」
「長生きしてもらいたいし・・・。それに、あたしはこっから、あなたの姿をずっと見ているから」
「・・・みーちゃん―――――」
ルナはひしと抱きついた。肩を優しく叩く彼女。
「・・・俺、戻るな。ありがとう」
「ちゃんと・・・彼の名前、呼んであげてね」
「おう」
三年ぶりのキスを交わし、微笑む彼女。ルナは花畑を駆け抜けていく。残された彼女はその背中に、小さく手を振った。
「いってらっしゃい、ルナ」
ただ、ひたすら走るルナ。その時に思い出す名前、その人の特徴、紅い羽、お守り、記憶がだんだん戻ってきた。
それと同時に、
「っ・・・!?」
ルナの足取りは、急に重くなった。あの花畑から離れてしまった時、そこから走って数分も経たないうちに、身体に異変が起きた。
「・・・ぐはっ」
心臓が、胸がやけるように痛い。・・・きっとこれは、今あの場所で横たわっている自分の身体の状態だろう。
「・・・だったな、ぁ・・・鋼族の、鋼は・・・時として、身体を蝕むんだっけ・・・?」
それでも、歩いた。
歩いた。
足が止まる。
その場で横たわる。
「・・・ってぇ・・・こりゃ、きつい・・・」
ルナは半身起こして、前を見る。まだまだ先が遠い。
息がしづらくなってくる。胸がはりさせそうに痛くなってくる。足が思い通りに動かなくなってくる。視界もうつろになってくる。
「・・・っっのやろぉ―――――!」
こんな痛みごときでへばるのかよ!?
なっさけねぇな俺!根性見せやがれ!!
---------------------------------------
「・・・相変わらず、眠っていますね。朝も」
ミントは一人ごとで、そう呟いた。
「・・・でも、何時もなら起こしにいきますけどね。今回は難しそうだな・・・」
看護婦がミントを呼ぶ、ルナのいる部屋に、入らせてもらえれるそうだ。椅子に腰掛けて、なにも返答しないルナに話しかける。
「・・・起きてくださいよ」
「」
「・・・ルナさん、もう朝ですよ?」
「」
「・・・ルナさん―――――!」
ミントは、悟った。
彼は、もう戻ってこない。
そんな彼の手を掴んで、彼のかすかなぬくもりを感じ取った。ミントの涙の粒が彼の手に落ちる。
「・・・―――――っ!?」
彼の指が、わずかに反応した。
「・・・ルナ、さん―――――?」
「・・・っ・・・」
生きている、生きている・・・!
「あ、喋らないでください!まだお医者さんが、肺と食道の鋼部を取り除いていないんですから、・・・?」
ルナが、人差し指を宙に動かす。それを見てはっとするミント。早速手のひらをルナに差し出した。
お・は・よ・う。
「―――――っ!!」
ミントは涙で溢れながら、見えない目でルナの手の平に文字を書いた。
「おはようございます」
ルナが、やる気なしに笑う。本当に、生きている。ミントは、ただ謝罪の言葉しか浮かばず、それを伝えた。
「・・・すみません、俺が、ルナさんに甘えてばっかりで。ルナさんの身体のこともよく知らないままに・・・」
ルナが、また指を手の平にすべらせる。
気・に・す・ん・な。
「・・・気にしますよ。だって、そのお陰でルナさん―――――」
ルナの人差し指が、自分の口元に触れる。
「・・・、っ」
心が弾む。また静かに、と促されてしまった。そんな彼の癖のある仕草に、今後付き合わなければならないと考えると、少しだけ頬が赤くなる。
「しばらくは、ご飯食べられないみたいですよ。お医者さんの言うところ、身体の約三割が石化しているらしいのです」
まじか・それはつらいな。
「しばらくは栄養薬の投与で、我慢して欲しいとのこと」
・・・。俺さ・妻に・逢ってきた。
「っ!?」
ルナは、さっきまでどうやら、死後の世界に行っていたらしい。ミントはそんなのを全く信じないタチである。ルナが今まで意識不明の状態であった時に、そんなことが起きていたのだろうか。
「・・・ですか、なんて言っていました?」
お前に・お礼が・言いたい・だってさ。
「えっ?」
俺が・朝ご飯・食べないの・心配・していた・っぽいぜ。
「・・・それなら、大丈夫ですよ。俺は朝ご飯絶対食べる派なので」
サンキュな。
「・・・いきなり、何ですか。気持ち悪いですよ」
お前がいてくれて・良かった。
ありがとう。
「・・・―――――っ止めてくださいよ!涙が、止まらなくなるじゃないですか・・・っ!」
ルナが笑ってくる。ミントは涙を拭いながらも、その手を放しはしなかった。
ルナも少しだけ、握り返してきた。
---------------------------------------
「はい!皆!準備は良い!?」
ジョイが張り切って一言上げる。ルナの自宅にて、いつものメンバーが待ち構えている。
「あれ、ジョルジュさん!」
「ミントはなんでここいいるんだ?」
「それはこっちのセリフですよ!何であなたがここに・・・」
「はい、はい、そういうのは後で話そうぜ!」
ハスキーが注意を促す。シャンパンを構えて噴出準備おっけーと親指を立てるモウニング。モウニングが今まで以上に張り切って答える。
「ALFAシャンパン、装備完了。お迎えの準備は整った!」
「それ、非売品じゃないのか?」
「ジョイが高値で裏ルート使って狩ってきた」
モウニングが説明して、納得するハスキー、いや微妙な顔をしている。ミントが聴く。
「あの・・・ALFAシャンパンって・・・何ですか?」
「名前の通り、あの有名なRHG組織の人気者、ALFAさんをイメージしたとされる代物のシャンパンよ!」
「一体・・・?」
モウニングが説明する。さも楽しそうに。
「シャンパンの中は、酸素を増大させる特殊な液体を内包している。それは空気の増大に耐え切れる異種のグラスと蓋で、今も張り裂けそうな気持ちを抑えているような状態だ」
「えっ!?それって・・・!!」
「足音が聞こえたぞ!配置につけ!」
モウ二ングとハスキーが、面の部分を立てたテーブルの裏に隠れる。ALFAシャンパンは、表にある。そしてヘルメットをかぶる二人。ミントも渡された。
「えっえっえっ?」
「良いからかぶっとけ!」
居間室の扉が開いた。
「今だ!」「てぃ!」
ジョイが今まで以上にノリノリの声で合図をし、ハスキーがそれを聴いてALFAシャンパンの蓋を外す紐を解いた。
直撃した。
無抵抗なルナに直撃した。
驚いたのは、炭酸水を振ってしまって出てくるようなあの量を優に超えて、まるでジェット噴射したような威力を誇る吹き出し具合だった。
ああ、それでALFAシャンパンか。
「直撃っ!」
ハスキーが嬉しそうに答えた。
「大成功!」「いえぇ~い!」
ジョイとハスキーがものすごく楽しそう。モウニングは表情に出てはいないものの、だが中身ではきっと楽しんでいる様子だ。
「・・・お前らなぁ―――――」
ルナが、あの水圧に耐えて直立している。すごい、さすがルナさん。
「俺さ、鋼出せねぇんだけど?」
「えっ嘘ぉ!?」
「医者から二ヶ月は鋼を出すのを慎んでくれってよ」
「なんだよぉぉ!それじゃガード出来ないルナに当てちまったのかよ!・・・」
どうやらこれは何かのしきたりのようだ。前にやって、その時は簡単に防がれたのだろうか。それよりもルナが非常に怒っている。
「二ヶ月後、覚悟しとけよ?お前ら―――――」
「まぁまぁ、そう怒らない!皆あんたの帰りを待ってたんだから!」
ジョイがそう言った。そう、今日はルナさんの退院の日だ。それで皆で退院のお祝いをしようとサプライズを組んだのは、S.KILLERの三人組。インサイトは今、台所で調理をしているところ。
「・・・おかえり」
ジョイが、そう言った。ハスキーとモウニングはさっきの後片付けをして、テーブルを元の位置に置き、食事が来ても大丈夫な形にした。
「ほい!ルナ、さぁさぁ座った座った!」
「お前さぁ、病み上がりな俺に対してよくもあんなことをやってくれたなあ?」
「ま!まぁまぁそう怒るなy」
「二ヶ月後が楽しみだなぁ、クックック・・・」
ルナが怖い笑で笑った。それから机に向かって座る。ミントは台所に行って、インサイトの手伝いをした。
「戻ってきました」
「ど、どうでしたか?」
「ルナさん、めっちゃ怒っていました」
「あぁ、やっぱり・・・」
しばらくの無言、インサイトが言葉を放った。
「ミントくん、どれくらい彼のこと好き?」
「え”っ」
「聴いてるじゃない、答えてよ」
インサイトの口調が変わっている、それも気になったが彼の言葉に驚いた。
「あの、そういうのって嫌いじゃないんですか・・・?」
「え?あぁ、嫌いな時期もあったけど、ね。・・・彼かっこいいもんね」
「・・・えぇ、そうですね」
インサイトの口ぶりは、まるで昔の恋人か、友人のような言い方に聞こえたが、それは一緒にいる時期が単に長いからだろうと、気にはしない。
「・・・ミントくんは、ルナのこと、大事にしてね」
「―――――え?」
「よし、皆のところに持っていこう」
インサイトはそう言って、その場を離れた。ミントはその場で立ち尽くし、しばらく考えたが止めにして、料理を運んだ。
「すみませんが、僕は資料の整理があるので、これで失礼します」
インサイトはそう言って、その場を離れようとした。が、ジョイに止められる。
「あ、仕事は今日は後回しで良いよ」
「楽しもうぜ?」
ハスキーも加わってそう言う。少々苦笑いをしながら、インサイトはこう続ける。
「いいえ、お気持ちだけで、十分です。後回しにしたくないので、量も量だし・・・。ごめんなさい、失礼します」
インサイトはそう言って、その場を離れてしまった。お皿洗いは、ジョイとミントがすることになる。
「仕方ないか、それじゃ、始めよう!」
「えー、ルナくん、退院おめでとう!」
拍手が舞い起こる。ミントも釣られて拍手する。
「俺、一言言って良い?」
「なんだ?」
ルナがだいぶ、改まった表情で言葉を放つ。
「俺、S.KILLER抜けるわ」
「!「・・・」」
「・・・そうか、そんなことがあったな、そう言えば」
モウニングが呟く。ミントは衝撃を受けたあと、はてな、と首をかしげる。
「俺、多分独りで活動する時期に戻らにゃならん気がしてな。もともと非常勤務的な立場だったし、期間もとうに過ぎている」
「・・・仕方がない、お前がそういうなら、こっちも無理に止めることもない、な」
ジョイが酒を飲みつつ、そう言う。モウニングが次に喋る。
「・・・行ってしまうのか」
「ああ」
「・・・いろいろ、あったが。・・・ありすぎてなんとも言えない、時期もあったが・・・」
「もう良いぜ、あのことは」
「・・・お前が隣で闘ってくれて、良かった。感謝する」
「俺も、楽しかったぜ」
モウニングとルナが、互いに拳をぶつけ合う。それからまた司会が話す。
「・・・それじゃ、ルナ退院、およびS.KILLER脱退の追い出し会込み、ということで・・・!」
「乾杯―――――!」
ルナの居間にあった、音楽プレイヤーが音楽を鳴らす。カウント・ベイシー楽団のジャズ曲だ。心地が良い。
「お前行っちまうのかー!」
「約束だからな、あいつとの」
「・・・あんなの、忘れちまえばいいのによ」
ミントは会話がものすごく気になってしまう。それで、少しだけ探ってみた。
「あの・・・約束って?」
「・・・」
ルナがそっぽを向く。それから話す。
「まぁ、単純に時期がきただけさ。俺がS.KILLERのメンバーじゃなく、ただの臨時で呼ばれただけの立ち位置だったしな」
「そうそう、こいつは雇われ型の暗殺仕事人だからな!」
ハスキーがそう言った。
「ちょっとS.KILLERに長居しすぎて、情が湧いちまったのかもな」
ルナがこっちを向いてそう言った。
「また孤独の暗殺仕事人になるのかぁ~」
「これからは一人でいるわけじゃなかろう?」
「ま、そうだな」
ルナがミントを見る。ミントは恥ずかしくなって目をそらした。そのあとも、楽しい会話が交じり、からかいもあり、最後の時間を皆で共有したのだった。
---------------------------------------
「ミント、」
「はい?」
「俺、今日寄りたいところがあるんだけどよ・・・付き合ってくれないか?」
「?・・・はい」
その後、彼の餌食になってしまったのは言うまでもない。
彼らの物語は、これで終わり。
だが、伏線を君は見つけれたかい?