「うわぁっ!なんだよこれ!!」
ミントの班のメンバーが叫びだした。懐中電灯をその液体に向けると、どす黒い液体だったことが判る。そしてとてつもなく匂いも強烈だった。
「っ!?どうする!」
「俺に掴まれ!!」
ミントはバーサーカモードに変わっては、飛ぶ準備をした。
「まてよ!俺たちは健全に四人生き残っただろ・・・!」
「ミント一人じゃ、連れて行けれないよ!」
「ひぃぃぃつめたいよぉぉぉぉ!!!!!」
一人が叫び始めた。もうくるぶしのところまできている。足に異物が当たる感触もあって、気持ち悪さはピークに達している。
「でも、皆生き残ったのに、俺だけ逃げても・・・!」
ミントがそう言ったとき、ある一人がいきなり懐中電灯を使ってもう一人を殴った。さっきまで悲鳴を上げている子だった。
「いやだ、いやだいやだいやだ・・・!生き残る、生き残って帰るんだ・・・!!!!!」
「おい、しっかりしろ、おい、おい!」
もう一人が頭を殴られた人を抱えて、さっきまで悲鳴を上げていた人を睨みつけた。
「おまえ・・・おまえぇぇえええええ!!!!!!」
取っ組み合いが始まった。そうこうしているうちに、水が膝を超えそうになってきた。まずい、そろそろ抜け出さないと羽ばたけれない。ミントが羽ばたこうとしたその時だった。
「ミントっ!?!」「おいてくなぁぁああ!!!」
二人がいきなり、ミントの羽に飛びついた。体制をくずして、飛べれない状態になってしまった。
「今から飛ばないと、間に合わない!」
そう正直に答えたつもりだった。
「嘘!!!!!!本当は自分一人だけ助かろうとしたんでしょ!!」
「ちがう、ほんとうだ!!!今から飛ばないと、羽が水没したら飛べれない!」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁあああ!!!!」
「なんで信じてくれないだよ!?!」
「一人だけ助かろうなんてずるい!ずるいずるいずるい、」
「違うって、違う!!!」
「もういやだあ!冷たいよぉぉ!助けて、助けてよ!!!」
「だったら一回離れてくれよぉ!飛べなかったらおしまいだろう!?!」
「たすけてよ!!」「お願い置いてかないでぇえ!!」
「いい加減にしろぉぉおお!!!」
ミントは、二人をふりきった。しかも、彼の今一番攻撃力が上がっている状態だった。
「あ―――――」
「あぁぁあああ!!!」「ミントぉぉぉお!!!」
二人の腕がもげてしまった。しかも両腕だった。ミントは、今自分がバーサーカ状態になっているのを忘れていた。その状態で羽根を持っている人を振りほどこうとしたら、そりゃ切れてしまうのだった。ミントは怖くなって飛び立とうとした。今度は飛び立つことができたのだが。
「っあぁっ!!!」
彼らは手がない代わりに、口でミントの足にかぶりついた。遠慮なく噛みちぎろうとするかのように、離さないように。
「っっ痛い!やめてくれ!!」
「一人だけいきのころぉとしてんじぃあねぇぇよぉぉぉ!」
口をもごもごと動かして反撃する。一人は必死に噛んでいるから全く離さない。それどころか、もっと強く噛んできてはミントを更に苦痛に歪ませようとした。
「痛いっ痛い、痛いっ!!」
「ひはははは、死にたくねぇよぉぉぉぉぉ!!!」
一人が狂って笑い出しながら涙を流した。ミントは痛いのを必死に我慢しながら上空へと飛んだ。
「もう、いやだ」
もういやだ!!
心の中で絶叫を繰り返すミントに、最後のとどめを食らわしたのは、天井にある数々の死体達だった。
「わあぁあああ!!!」
ミントははるか上空のところで、死体に見つめられ、二本の足を噛まれて痛みを味わいながらも、自分が生き残るにはどうしようもできないのだと感じ取った。
ここで、死ぬんだ・・・。
---------------------------------------
「今、どうなっていやがる?」
ルナは階段を昇りつつも、ミウニングに携帯で連絡をとる。息切れでくるしいが、時間が惜しいのだ。
『・・・まずい状況に陥っている』
「あ?」
『ミントの班は、健全に四人生き残っていた。そのせいか、上空に逃げれるミントに助けてもらいたいがために、内戦を起こした』
「なんだって!?」
『今、腕をなくした内戦者二人が、ミントの足に噛み付いて助かっている。だが、普通の人間が自分の体重を支えれる顎を持っているはずがない。時間の問題だ』
「何で腕がないんだよ、」
『・・・』
切り出しにくいモウ二ング。黙りこくった。
「あ?なんだよ、黙りこくっちまって」
『・・・すまん、私は一部始終を見てしまったから話せれる。・・・ミントの、バーサーカ状態の羽にしがみついた内戦者は、ミントを責めた。彼が振りほどこうとしたとき、バーサーカ状態の羽が彼らの腕をもぎ取ってしまった』
「・・・っ!ひでぇ結末―――――」
部屋にでた。ルナは部屋の方を駆け巡ってはあたりを見回す。もう彼の目は、本来の自分の姿の状態になっているため、懐中電灯を必要としなかった。
「どこら辺を掘れば良い!?」
『独りでやるのか!?無茶だ、お前の鋼はもう限界だろう!我々がそっちに向かって―――――、』
「あ?どうした?早く教えてくれ!」
モウニングは、今一生懸命にプログラムをいじっている子の言葉を聴いて、凍りついたのだった。
「満水だ・・・」
「ミント―――――!」
・・・仕方がない!ルナにすがるしかない!
「今、こちらから天井が一番高いポイントを探らせる!」
『任せたぜ!』
ルナがそう返答する。モウ二ングたちの監視カメラは、ルナの場所と、ミントの場所を映している。潜入班のメンバー三人が、必死にモウニングの指示を仰いでもらって、計算を機械にさせた。
「ここです!一番中央のところが、ドーム状で一番天井が高いところです!」
「ルナのいる階の、どこのポイントに近い?」
「今、ルナさんの立っているところの斜め左向き、3mです!」
「よく頑張った!あとはルナに任せるだけだ、」
携帯に向き直る。ルナが話しかける。
『回答求む!』
「お前から見て、右斜め後ろ、3mくらいのあたりだ!」
『それだけ判れば十分、サンキュ!』
ルナが携帯を切る。そして後は、監視カメラからの応援しか残されていない。
「・・・すごい、―――――!」
潜入班の一人が、モニターを見て、そう呟いた。モウニングも感銘を受けた。
「まずい、これだとルナは―――――!」
ルナの左腕が、左腕まるごと鋼に変わった。その形状は、まるで穴を掘る専用のドリルの形をしている。その自分より倍のある重たい鋼を左手に携えて、高く飛び上がり、地面に垂直落下した。
「あけろぉぉぉぉぉ!!!」
鋼が地面の土を無理やりおこしていった。きっとルナは限界値突破の状態だ。これが成功しなかったら、もう力を出すことはできないだろう。しかし、彼の鋼は痛むことなく、地面を掘り続けた。そして穴を開けた。
が、絶望だった。
「っ!?―――――」
穴から、水が溢れ出た。しかもどす黒い色をルナは暗闇から感知し、それが臓物のミックスジュースで出来ているものだと判った。
つまりは、満水。
ミントの姿を見ることはなかった。
「・・・おい、どういうことだよ―――――!」
ルナはその場で膝を地面につけた。
「ミント・・・っばかやろぉぉぉぉ!!!」
その姿をモニター越しから見て泣き出す潜入班もいた。もう敵の壁を超えて、今はただ一人の大切な人を救えれなかった悲しみに浸るのみだった。モウニングは、ただ悔やむしかなかった。
結局、リベンジも虚しいものか・・・。
また、俺は・・・。
俺たちは、ルナを救えなかった―――――。
「んな簡単に、諦めるかよ・・・―――――!」
ルナが立ち上がった。モウニングははっとして、モニターに食いつくように見入った。ルナの左腕が変形して、今度は丸い球体のものに変わった。彼の腕が元にもどるのだろうか、そこも心配だったが、今おこしている行動自体、危険すぎると認識した。
「ルナさん!?」
潜入班がわぁっと声を上げた。ルナはなんと、その腕を抱えながらも、あのキンキンに冷やしているらしい臓物のミックスジュースに身を投じたのだった。
「あれ、危険すぎます!臓物の液体なんて、周りが見えないんですよ!?しかも、あんな暗闇の中では・・・!」
モウニングが軽く説明した。
「いや、ルナは鋼族の末裔だ。鋼族は、もともとは地下に住む住民で、空気の振動、熱を自分で認知できる生き物だ。その発する波の歪み、跳ね返り具合で、物体を感知していた」
モウニングが、はっと気がついた。
「そうか、あの球体の腕は、壁を叩いて音の波を発生させ、ミントの居場所を感知するのか・・・!」
「えっ!?」「ルナさん、すごい!」
「でも、戻ってこれるのですか・・・!?」
ただ、水がまだあふれる穴を見て、ルナの帰りを待った。
「・・・もう、だめなんじゃ―――――」
水がはねだした。そこからルナと、ルナが抱えているミントがでてきた。ミントはぐったりしているように見えたが、その帰還に潜入班は声を上げた。
「戻ってきた!!」「うおぉお!!!」「すごぉ!」「やったぁ!!」
「ミントが、生きていた・・・!」
「これで、ひとまず安心だっ!」
モウニングが、ほっとした。
結局、彼を救うことは、難しいみたいだな・・・。
「さて、最後の仕事だ。我々潜入班は、この機械の記憶の部分と、プログラムの収集に取り掛かる」
モウニングは一回、三人のプログラマーに立ってもらった。
「っ?」
「隊長?」
「・・・ありがとう、」
モウニングは、頭を下げた。
「君たちがいなかったら、自体は最悪の状況に陥っていた。もしかしたら、ミントだけではなく、ルナも死んでしまうかもしれなかった・・・。感謝する」
あとの、潜入班、三人は拍手を送った。モウニングは、顔をあげてはびっくりする。
拍手をもらっているのは、自分だったからだ。
「隊長・・・、俺たち、隊長のもとでお力になれて、よかったです」
「あんなに敵視してたお前の言うセリフかぁ?ははっ!」
「うっさいなあぁ!肩書きしかみえないじゃん普通は!」
「まぁ、まぁお二人共仲がよろしいことで・・・」
「何がだ!」「違うわ!」
「訂正だ、仲悪いね、噛み合ってない」
笑いがおきる。モウニングはまた一つ、心を開く術を学んだのだった。
「では、監視モニターは一度切っておこう。連絡は彼の投げ出した携帯でとる」
そう言って、それから協力しながらシステムを解体していくのだった。
---------------------------------------
「おい、しっかりしろ、ミント!」
ルナはミントをおこそうと必死に肩を叩いた。それから今の状況を嬉しくも思えなかったのだった。
ミントの身体が、完全に冷え切っている。それもそのはず、ルナも一回身を投じて知ったことだが、液体は非常に冷たかった。もって15分から20分見積もって、ミントを探し当てるのが精一杯だろうと感じるほど、極寒の水だった。その満水の中で、ミントは何分持つのだろうか?もって10分未満、最悪の場合は8分と考えられる。満水になって、ミントが浸ってしまった状態が何分なのかがとても気になるが、ただ今は人工呼吸をしている。
「・・・―――――!がはっ、げほっ!!!」
ミントがいきなり咳き込んだ。ルナは人工呼吸を止めた。そして自分のまだ濡れていない服をミントの体にかぶせた。
だが、ミントはまだ地獄の中にいる。
「っ!!?あぁあ!!もういやだぁあああ!!!」
ミントがいきなり叫びだした。
「っおい、どうした!ミント・・・!?」
「もういやだ、もういやだ!仲間なんて信じるもんか!!」
一体、何があったのだろうか。モウニングの話を聞けば、足に噛み付かれたと言っていた。そのタイミングで彼の足を見てみる。
「っ!?」
噛み跡がくっきりとのこっており、血も出ている。止血を急がなくてはならない、ここは衛生的にも非常にまずい。早く包帯をと思って足に手を伸ばす。
「っ!?!触るな!!!お前、誰だよ、もう俺にかまうな!!」
「おいおい、オレだよ!ルナだっての!」
「もう人間なんて信じない、信じてやるもんか!結局自分が可愛い生き物じゃないか!自分が助かりたい、逆境に立たされて本性を現わにしやがって!信じた俺がばかだったよ!!あぁああもういやだああ!!!」
「お前・・・」
ミントは、まっ暗闇の中なのに、自信の身体が完全に体温を戻していないのに、傷口から血が流れ出ているのに、ルナを受け入れようとしない。ルナは自分の服からあるものを出し、それを口に含んでは溶かした。
「っ!?!もう、いやだ、やめろ!!!」
ミントを押し倒してのっかかるルナ。それからミントの顎を持った。
「お前はまだガキだな―――――」
「っ・・・っ!?!?」
ルナはミントのうるさい口を、自分の口で塞いだ。それから今自分が口に含んでいるものをミントに預ける。舌と舌が触れた。ミントはびっくりして舌を引っ込める。
「っ・・・んぅ・・・」
変な液体音が耳に入る。ミントが感知したその食べ物は、チョコレートだった。
あまい。
「・・・っ!?・・・る、るな?」
ミントが若干、意識を戻そうとし始める。ルナはもういちど、チョコを口移ししてやった。今度はルナの下心も馳せている。ミントの舌を持て余した。
「・・・っん・・・っんんっ」
唇を、やっと開放する。ミントは若干息切れをおこしつつも、ルナに抱きしめられて体温を徐々に取り戻していく。
「・・・るな、さん―――――?」
「おう、落ち着いてきたか?」
頭を撫でるルナ。ミントはさっきまで自分がどこにいたのか思い出せないまま、思い出したくもないから考えるのはやめにした。
むしろ、今起こっている状況に頭がフル回転した。
「今の・・・って―――――!?!」
「おっそくね?気づくの、」
「ひ、人が気が動転している時に・・・!」
「配布されたチョコレートはただのチョコじゃねぇよ。あれは精神安定剤を含んでいる」
「えっ!?」
「気が動転して話も出来なくなったやつに二つくらい投与してくれ、という医者のお話だ。あと甘いものは心を沈めるから、丁度良いだろ?」
「・・・発案したの、ルナさんですか」
「おう、」
ミントは自分の羽根をしまって、ただルナに抱きついた。顔が見えないし、あたりも真っ暗だけど、でもこの声はルナさんだ。俺の知っている、大好きな人の声だ。
「・・・ルナさん、懐中電灯は・・・?」
「ん?俺には必要ねぇぜ?お前の顔も見えるし―――――」
両手に頬を包まれる。ミントはこれまたびっくりして、ルナの手を持つ。
「・・・俺、今どんな表情をしていますか・・・?」
「あ?まるで悪夢からまだ覚めきっていない顔だぜ?・・・」
おでこにキスを交わした。
本当に大人だ、ルナさん。
火傷して灰になりそう。
「顔が見えないと、不安です・・・」
「・・・、」
ルナがミントの耳に、息を吹きかける。
「っ!?ぁ」
「俺じゃないってか?」
「そんなことするのルナさんしかいませんよ!」
怒るミント、その反応を見て笑うルナ。
「・・・っつぅ・・・」
「足、出してみ?」
「見えるんですね、本当に」
「おう、どんな傷の形をしているのか、どこに傷薬を当てればいいのか、ちゃんと見えるぜ?」
「・・・痛っ」
ルナは、ミントの足の傷口に新鮮な水と、消毒液をかける。それから、まだ汚れていないワタで少しだけ水気をとってから、包帯で丁寧にまいていった。
「はい、もう片方―――――」
ああ、今すんごいミント食べちゃいそう。
美味しそう、やばいお腹がすいたな。
「手羽が食べたい・・・」
「手羽ならここ抜け出してからですよ。・・・そういえば、どこまで進みましたか?」
「もう最後の階まで行ってるぜ?あとは潜入班が仕事を片付けるだけだ」
「・・・俺を、助けに来たんですか?仕事投げ出して―――――」
ルナは笑う。ミントの頬を触る。まだ体温が戻っていない。
「・・・ちゃんと教えてないもんな、」
ミントを背中から抱きしめる。右の耳に囁いてくる。
「愛してるぜ、ミント」
そんな言葉、こんな最悪の状況で言ってくるんですか。
残念だけど、そんな恥ずかしい言葉俺からは言えない。
「・・・俺だって、好きですよ?ルナさんのこと・・・」
ただ、今の状況どうにかして。
今、すごく寒いし、もう怖くて離れたくないし、いろいろ喋りたいし、もう、寒い。
「・・・寒い」
「?・・・こうか、」
ルナがミントの身体に触れてくる。ミントはその暖かい手にびっくりしつつも、心地よさを覚える。
「・・・あったかい、ですね、ルナさんの手―――――」
「どこ撫でて欲しい?」
聞いてくるんだ、やめてくれよ。
「どこって答えて欲しいですか?」
おう?そうきたか。
ルナが携帯の音を聞き取る。携帯に出る。
「おう、ミントの救出成功、したぜ」
『一部始終を見せてはもらった。お前、大丈夫か?腕のほうは・・・』
「いや、こいつは一ヶ月、二ヶ月は使い物にならねぇかな、俺の腕」
「っ!?」
ミントは会話を聴いて、ぎょっとした。それはまぎれもなく、自分のせいだ。
「・・・ごめん、俺が」
ルナがミントの唇に触れて、話さなくても良いよう促した。
『そうか、久しぶりの長期休暇を取るわけだな』
「しばらくは隠居させてもらうぜ」
『あぁ・・・結局、俺たちはお前に最後驚かされてばっかりだ』
「おう?また伝説が残ったってか?」
『最高に、かっこよかったぞ』
「・・・おう、サンキュな」
『では、移動したらまたかけ直す』
「おう、じゃあな」
携帯を切った。それから、ミントに耳打ちをした。
「さっきの回答―――――」
「っ!?・・・ばかっ、そんなところ、触る奴がいるかよ」
「あったかいぜ?」
「・・・っっ」
ルナの手は、ミントの太ももをなぞってゆく。下心しか今は従ってない。ただ、触れたい。触れて溶かしてやりたい。
「・・・向こうのチームは、どれくらい時間かかりますか?」
「モウニングはのんびりやってるさ。かれこれ二時間弱かかるだろうよ・・・?」
ルナはただ、ミントに触れる。ミントは身体を反応させつつも、体温を取り戻してゆく。
「・・・ん、ルナさん、優しい―――――」
「・・・お前、可愛いよ?」
「・・・んぅ、やっ、そんなところっ」
ルナはミントの性器を触ってくる。ミントはこれまで一度も、自分でもやったことのない触れ方をしてきたルナの腕に爪をたてる。
「・・・いい反応、してんじゃん」
「ふあぁっ、いや、だめぇ―――――」
ミントが声を上げる。それを聴いてただルナは楽しんでいる。体温が上がってゆく。
「あっ・・・んあ、あっ!」
な、なななんか出てきそうなんですけど、ルナさん・・・!
「あ、ち、ちょっとまってっっ」
「何?イキそう?」
「えっ、あっ、いやっ、その」
「構わねぇよ?俺これでもバイ歴長いから」
「他の、人とも・・・こんな、こと・・・?」
「あぁ、前は普通だったしなぁ」
ルナの年齢を疑った。絶対20代じゃない。こんなこと平気でできるのはおかしい。
「ふあっ、んっ、だめっっ―――――っっ」
ミントは見えないのが幸いだった。暗闇で何が起きているのか判らなかったけど、明らかに自分のこいつが何かを出してきたのは確かだった。熱い、あつい。
「・・・もうっ・・・ばかっ・・・」
「けっこう体温、上がってきたじゃん?」
「むしろ、熱い、ですよ・・・」
「いやらしい、」
「誰のせいですかっ!」
ルナはミントの汁でまみれた手を、またミントの身体に滑らせた。
「ひあっ・・・!?」
「びっくりしすぎ、ほら、お前こんなになってたんだぜ?」
「ルナさん、俺・・・見えて・・・ません、からっ」
「罪だなぁ、見えないって」
後ろでクスクス、と笑っている彼。ルナは流石に自分の息子を入れるような事態は避けようと思っている。そこがすこし虚しいが、ミントにこんなことが許されてしまったことに喜びを感じていた。ミントもルナに触れて欲しいこの、どうしようもない気持ちが満たされてゆくのを感じていた。
しばらく二人の時間を楽しんでいた。
---------------------------------------
「気は済んだか?」
モウニングの声がする。ルナとミントはあれから時間が経ち、ただ二人で互いの体温を感じるために抱きつくことで精一杯だった。極寒の寒さに、あの液体のお陰で拍車がかった。
「ばっか、そんなんじゃねぇよ?まぁちょっと遊んだけど」
ルナがそう返事をする。ミントは服をひしと離さないで被っている。ルナがミントの肩を叩いて迎えが来たのを知らせる。
「おい、ミント。・・・って、足があれだから歩けれねぇか」
ルナがミントをおぶさっていった。
「・・・すみません、迷惑をかけます」
「いや、生きていて幸いだった」
モウニングが答える。ルナが笑っておしゃべりをする。
「そうそう、こいつ最初は息してなかったんだぜ?で人工呼吸をほどこして」
「じっ・・・!?」
ミントは全く、気づかなかった。
「息を吹き返したと思ったら、今度は精神崩壊しちまっててよぉ」
「うっるさいですねぇ・・・!」
「二人が相変わらずの口の達者っぷりで、良かった」
モウニングは言葉を続ける。
「ミントを救出するために、分厚い土を掘り返して、あの液体の中に身を投じたときは冷とした。お前が戻ってこなかったら、私は上に帰れない」
「えっ」
嘘、あんなに鋼を出してなおそのような技量を残しているとは・・・。やっぱりこの人、只者じゃないな。
「・・・ありがとう」
ミントはぼそりと呟いた。すると後ろの方から潜入班の六人が喋りだす。
「ホント、俺ら移動しなくてよかったなぁ」
「最後まで生き残っていなかったら、今頃どうなってたのやら・・・」
「潜入班の中に、プログラムを組んでいる経験者がいてくれた。そのお陰で助かった」
モウ二ングが後ろの会話を聴いて、そう褒める。ルナが聞き返す。
「情報は手に入ったのか?」
「ああ。彼らに任せた」
「ほぅ・・・」
しばらく登ってゆくと。
「お、ついに終わったか」
ジョルジュが中継している階にたどり着いた。80階だ。ジョルジュは自分の持っている懐中電灯をモウ二ングたちにあてて、声を上げた。
「っ!?どうしたんだ!ミント、その傷・・・!」
「あはは・・・」
「長くなる、説明はぼやぼや帰りつつも話そう」
モウニングがそう言う。ジョルジュの中継メンバーが、モウニングの中継メンバーと合流しては話し合った。
「おっかえりぃー!」
「地下120階の感想は!?」
「最悪だった」「プロジェクトエックスレベルの感動だった」「もう二度と地下には行きたくないね」「地下こわーい」
笑いが起きる。ミントはルナがちっとも喋ろうとしないのが気になった。
「ルナさん?」
「・・・あ?」
「・・・大丈夫ですか?」
「あぁ、ちょっとぼ~っとしちまった」
「・・・俺、歩きますよ」
「いやいや、あの噛み跡は酷いもんだ。しばらくはおぶさっとけ」
「・・・はい・・・」
ミントはしぶしぶ応答する。
もっと早くに気づくべきだった。
「下の階で、一体何があったんだ?」
ジョルジュがモウニングに聴く。モウニングは答える。
「下半身が機械と一緒になっている奇妙な主に出会った。それからそいつは地下のどこかにプレゼントトラップを用意していたらしく、それが丁度ミントのいる階に当たってしまった」
「あの怪我を見ると・・・針が仕掛けてあったのか?」
「そんな生易しいものじゃない。臓物のミックスジュースが洪水のように部屋に流れてくるサプライズだった」
「っ!?なんだと」
「しかもキンキンに冷えていた。・・・それで、ミントの班は、誰がミントに助けてもらうか、内戦を起こしては死んでいった」
「足の怪我は?」
「二人の班メンバーが、最初はミントにしがみついていたが、ミントのバーサーカ状態の羽に振りほどかれてしまって、腕をなくした」
「・・・」
「それで口をつかってミントの足にしがみついた。・・・悲惨な光景だった」
モウニングは後ろを見てミントの様子を伺う。ルナの背中の中ですやすやと寝息を立てているみたいだ。
「・・・なぁ、モウニング」
ジョルジュが話す。
「何で、しがみついてたのかは薄々判る。どうせ先に飛ぼうとしていたミントを疑ったのだろう・・・。だが、もしミントの立場だったら、どうしたら良かったのだろう?」
「愚問だな、殺す」
その冷たい答えに、またジョルジュは彼の人格を疑う。
「お前・・・!」
「もしくは自分が彼らとともに死ぬ」
「・・・っ!?答えが極端すぎる。もっと、会話をして理解する方針を、」
「もしミントじゃない立場だったらどうなんだ?」
「・・・っ」
「人の有する才能に嫉妬するのはよくあるものだ。だが我々のチームは、人の有する才能を嫉妬するような輩とは仕事をしないルールだ。人の有する才能を、ただひたすら信用する。それが我々のチームの掟なのだ」
「―――――お前・・・」
「才能を信じれなかったら、仕事をしない。信じて死んでしまうのなら、それしか道がなかったのだ。それが裏切りでも、真実の道だ」
「・・・はっ、とことんイカれた回答だな」
「そうだな」
ジョルジュは、モウニングに対する怒りの矛を閉まった。そうこう歩いてゆくと、だんだん体温が戻ってくる感覚を覚えた。そして明かりが見える。
「出口だぁ!」
一人の子が叫ぶと、皆一気に駆け出しては、光の扉に吸い込まれていった。
「長かったな」
「きっとこれは次の朝だ」
「・・・?」
ミントも眩しさによって目を覚ました。ルナがそれに気づいて喋る。
「お前さ、歩けるか?」
「え?・・・えぇ、歩けますよ」
「悪いけど、こっから先は歩いてくれないか?」
「・・・はい、」
ミントがルナの背中から降りた、その時だった。
ミントの目の前で、時間が凝縮されたように、ルナがゆっくりと倒れていった。
「っ・・・!ルナさん!!」
ミントの叫び声に、モウニングとジョルシュが振り向いた。
「っ!?!ルナ!!」「しまった、彼は―――――!」
ルナの姿を、地上の射す光を借りて見た二人。左の腕はほぼ鋼の状態から治っておらず、所々石化している。そして血が出血している量が半端ではなかった。よく見れば、血の跡が後ろへと伸びている。
そう、彼は地下の住民であった。