「・・・来たな、」
「当然だろう?」
俺の目の前に来たのは、包帯と鉢巻の目隠しをしている男。そいつは真っ赤に光る不気味な刀を持ってこちらに歩いてきた。取っ手の部分に目玉が浮いている、きしょい趣味だぜ。
「今回の依頼主のターゲットは、お前だ。ルナ」
「俺のところには、ちょっと違うな・・・依頼がモウニングターゲットで、来ていたぜ」
「ほう、やはり・・・弄ばれているな」
モウニングが刀を構え、低い姿勢に変わった。俺も立ち上がり、左手に鋼を生成した。
「・・・さて、やるか!」
「・・・あっれ~?なんでこんなところに来てるの~?」
「「っ!?!」」
モウニングも俺も、耳を疑った。その黄色い声をして、人を小馬鹿にしたような口調をする男と言えば、あいつしかいない。
「・・・hi0hit0how」
「フルネームで呼ぶなよぉ~(笑)はずかしいから、hi0でいいよっ?」
誤算。ここに来ることを想定しているのはこの俺とモウニング。あとは俺たちがあのふざけた依頼主の元に行って、その脳みそをぶった切るのが予定だったのに、新たに客が来るとは・・・。しかも、追い返すのが少々難しい人材だ。
「僕のところの依頼も来ていたんだよねぇ~」
hi0がラミネート加工された依頼内容を、こちら側に提示してみせた。息を飲んだ。
「僕のターゲットは、モウニングとルナ・・・二人ともがこんなところでちゃんばらごっこをするってことはぁ・・・君らもはめられたのかな?あの依頼主にっ」
話が通用する相手ではないのは十分承知だが、少し話をしてみようと試みる。
「俺たちの目的は、その依頼主をぶっ飛ばしにいくことがミッションだ」
「ふ~ん、」
「hi0よ、協力してもらえるか?hi0の仕事にもこの主のしていることには腹が立っているのだろう?」
「まぁね~ん、」
「主の居場所も特定できている、これから殴りこみに・・・」
「クックックックック」
hi0が笑い出した。こいつの笑う時には、いや~なことしか想定できない。
「や~だねっ★」
hi0の後ろから、あのインサイトが相手にしていた化け物の姿が現れた。しかも今度は頭が3つ。一つは乱射用と、もうひとつは大きな銃弾を一発ぶっかます奴。そしてもういっこの頭は、チェーンソーの歯が回っている。
「僕はこの腐った依頼主さんが、誰にも送る宛がなくなったらどうなるんだろうと思ってねぇ~、そっちが気になるから、ここで君たち二人死んでもらおうかなっ♪」
「っ!?!散れっ!!」
モウニングの声に反応して、その場を飛び退いた。hi0の後ろにいた3つ頭の生物兵器が、この何もない公園を穴だらけにする。茂みに隠れて遠隔通信をする。
『hi0さんにも依頼が渡ってた・・・!?前回に見たあの生き物によく似ていますね・・・!前のルナと僕の喧嘩に、hi0さんも依頼が回されていたってことですか?』
「それはアイツに聴かにゃわからねぇ!けど、その可能性は十分ありえる!」
俺は小さなイヤホンから聞こえるインサイトの声に、返答する。モウニングが通信に割って入る。
『作戦変更、ターゲットをhi0にする』
「正気か!?」
外からまた弾丸の音がする。耳を塞いで、通信音に集中した。
『おそらくhi0にはもっと別の理由があるはずだ。依頼主との繋がりが濃い可能性がある。捕まえて、白状させるしか無い・・・!』
「ははははははっ!ふたりとも鬼ごっこは得意だったもんねぇ!」
「ああそのとおりだぜっ!!」
俺は小型鋼を手の甲から作り、そいつを公園の電灯全てに当てた。当たりは真っ暗に包まれる。
「ちっ!僕がふっつーの棒人間だからって君らねぇ・・・!」
その通り。モウニングは殺人に特化している生物兵器。赤外線でモノを見ることができる。俺はもともと地下の住民だった。暗いところは目じゃなくて音でモノを感知してたんだぜ。まさに鬼に金棒、暗闇での戦いはな。
「まぁ、いいや。僕もふっつーの棒人間じゃないもんね」
相手も赤外線を見ることのできる装置を持っている。それを眼にかけて、化け物に指示をする。流石はキチガイ博士、そんなもんなんか調達済みなんだな。
「さぁ、どっからでもかかってくればいいよ・・・!」
「!」
モウニングが不意打ちに、あの化け物の背中にまたがった。その化け物はびっくりして、羽をばたつかせた。これにはhi0もびっくりして慌てている。
「おいこらっ!誰だ乗っかっているやつh」
hi0がその化け物の羽に飛ばされる。地面におもいっきり背中を打った。声帯が振動でなって、濁った声が聴こえる。
「・・・んの、やろう」
「そこまでだ、hi0」
俺がすかさず、あいつが起き上がる前に鋼を胸につきだした。hi0もそのまま起きたら胸元にさくりといかれるのがわかってか、そのまま寝そべった。
「げぇー、せっかくの新作が・・・」
モウニングは背中にのっては、その化け物の脊髄めがけて刀を突き刺し、どうやら貫いた。そのまま尻尾のところまで、一気に刀をふるい・・・真っ二つに背中を割った。どシャア、と大きな音を立ててその兵器は倒れた。ちょっとあたりが暗くて正解だった。気持ち悪い光景だぜ。
「生物兵器には敵わないかぁー、ちょこっと体の一部いじっただけじゃあ」
「貴様、あの生き物は一体どこから調達したのだ?」
「んー?ビックバイオテクノロジーという分野の勉強をかじっててねぇ。要は体の倍の大きさに生き物を生成する遺伝的プログラムの研究開発を行っているんだよ。それで出来たおっきな鳥を、僕が買収してオリジナルに頭を武器にしてるってなだけのことっ」
「趣味が悪いぜ、たくよ」
「依頼主さんのお金で作ったんだよね、これっ」
「!」
「・・・当たりだな、」
俺がその鋼をhi0の顔真横に突き刺し、おどした。
「てめぇはどうやら、その依頼主と仲がいいみたいだなぁ。俺達が駒に回されて楽しんでいるそいつに用があるんだよ。案内できるよな?」
「・・・・・・僕が一体しか持ってきてないわけないだろう?」
「っ!?!」
後ろを向くと、化け物が二体、外を飛んで降りてきた。そして銃を向けている。
「誤算だったねぇ!!!」
モウニングも俺も、またその場を抜けだそうとした。
「っ!?!?!」
俺とモウニングは、何故か網にかかっていた。それもそのはずだ、次の二体はどうやら戦闘機じゃなくて、捕獲の機能しか備わっていない化け物だったのだ。
「ようし、このまま主さんのところに連れて行こうかな~っ」
「!」
モウニングがこちらを見た。俺も無抵抗を選んだ。
「君たちあいたいんだろう??今回の面倒な主さんのところにねっ♪連れてってあげるよ★」
「ルナの信号途絶えました!」
俺は不安にかられた。ルナが関わるなとは言ったけど、いてもたってもいられずに、インサイトの元へ尋ねた。遠隔通信を仕切っている彼のもとにいれば、多分困ることがないからだ。ハスキーも今回は見物らしく、通信機がいっぱいのこの部屋で、コーヒーを飲みつつもルナとモウニングの通信器が機能しているのか見張っていた。
「hi0はあの主の犬だったってことか?」
「そのようです・・・ああっ、モウニング・・・!」
インサイトが顔を覆って、機械の前で崩れた。味方思いなんだなと思った。とても感受性豊かな人なんだ、インサイトは。
「まだ、諦めることはないかもしれないっすよ?hi0さんはただ誘導しているだけであって、の可能性も・・・」
「あの人がそういう人だとは思えません・・・。ミントくん、彼がどういう人か想像できる?生き物の頭にあんなことをする人が、どういう人間なのかって・・・こと・・・」
「・・・っ、正直、人とは思えません」
「正解、あの人は本当に人を辞めている。人であることを・・・!」
インサイトが機器に対して、拳を当てた。それほどの怒りをhi0という男に持っているみたいだ。
『はぁ~いっ、ここが主さんのコレクションルームっ』
通信音が聞こえた。インサイトは顔を見上げて、ハスキーも俺も、そのモニターの方を見た。
「・・・モウニング?」
どうやら、遠隔通信のボリュームを拾うレベルをマックスにして、hi0の声も聴こえるようにしたのだろう。
「無線がつながるってことは・・・地下室でもないっぽいな。どっかの豪邸っぽいぜ?」
「探知します!ルナの持っている子機をGPSモードに切り替え、彼らの位置を探り出します・・・!」
インサイトの手際良い操作により、ルナの子機から今、あの二人がどこにいるのかを探りだした。豪邸だ・・・本当に金持ちの住処、そこのとある大広間に、二人は連れ去られたみたいだ。
「探知機はやめといたほうがいいよ?あそこには逆探知機用のハッキングもあるみたいだしね・・・」
あたりが凍りついた。声色は機器のほうからじゃない、後ろの方からだった。何故、お前がここにいるのか。インサイトが最初に声を上げた。
「hi0!?!貴方、どうしてここに・・・!」
ハスキーが大きな釜を持って、俺とインサイトの前に来て、護衛しようとする。hi0という男は、確か向こうにもいるはずなのに・・・この男は、一体?
「それ、」
hi0はハスキーの威嚇に物怖じしないで、インサイトの指先にある探知機のモニターを指さした。
「えっ?」
「ほら、逆探知されかけてるよ?」
「えっ、あぁっ!!」
インサイトがルナの子機を通常モードに切り替えた。
「だ~から言ったでしょ?あそこのセキュリティはそこそこ」
「てめぇなんでここにいるんだよ!!あっちのhi0はてめえのクローンかよ、ああ?!」
「だっから~、そんなカッカするなよハスキーっ、後で美味しいお酒でもおごるから、さっ・・・」
胸ぐらを掴んだハスキーの手をぱっと振り払い、インサイトの機器に触れようとした。インサイトが前に出て、拳銃をhi0のおでこに狙いを定める。赤い点が、hi0のおでこについた。
「説明がそんなに必要かい?」
「必要です、貴方は双子だったのですか?それとも、あちらにいるhi0は偽物?」
「後者が正解、だけどそいつもこっちの味方だよ?」
hi0が自分の方を指さして言った。インサイトは更に尋ねる。
「その人は、私達の敵?」
「んー、僕と協定を組んでいるし、僕は君たちを殺す気はないと"彼"には言っているから、問題ないよ?」
「・・・貴方を信用できません!」
「んじゃ、僕の子機から彼らの様子でも伺うとしようか?」
hi0の手元から、スクリーンを空中に映し出す事ができる・・・ちょっと高性能な携帯用モニターがでてくる。そこに写っているのは、おそらくあの豪邸の監視カメラの一部。
「監視用カメラとリンクさせているなんて、あっちの依頼主さんも気が付かないっしょー、」
『流石はhi0、お前の仕事の早さには驚かされることばかりだよ。これで殺人兵器と鋼族のコレクションが増えるわけだ・・・』
『どういうことだよ、それ』
ルナの声だ。俺たち三人と、そのhi0は黙ってその会話を監視カメラ越しから伺った。
『私のコレクションの範囲は、人体にも及ぶ。ずっと欲しかったのだよルナ君!君のような鋼族の頂点に立つ者、殺人兵器と呼ばれた最強の殺し屋・・・君たちをコレクションにすることがとても楽しみでね・・・!!!くくくははははははっ!!』
『はぁ・・・心底吐き気のする趣味をお持ちですね、貴方は』
「??」
hi0の監視カメラから拾った声ではあるが、その声色はhi0じゃなかった。ルナでも、モウニングでも、そのコバート・ウィルネスでもない・・・。でもしゃべっていたのはhi0、カメラに写っている方のhi0である。誰だ?誰がhi0に化けているんだ??
『っうああああっ!!』
その依頼主の腕が、飛んだ。何かに切られたかのように、スパンと。そして腕を抑えて倒れこむ依頼主。hi0に化けている何者かは、こう続けた。
『種明かししましょう?僕は貴方をずっと殺したいと思っていた。気味の悪いコレクターは僕にとっては歪んだ愛、でしかないのですから。そこで僕は貴方の差金として動いているhi0に、貴方よりもっとおもしろい条件つきの報酬を持ちだして、僕はhi0に化け、貴方を殺す。・・・気が付かないでしょうねぇ、いままでバレたことありませんから』
これにはルナとモウニングも驚いているみたいだ。そのhi0の姿をしている容姿がだんだん変化し、白い棒人間の姿が露わになった。その人を知っているのか、ルナとモウニングが叫んだ。
『『チャム!』』
『今度は僕の数少ない友人さえもコレクションにですか?最低ですね。しかも殺し合いなんてさせようとして・・・歪んでいます、ええ、消えてくださいよ』
その男の背中から、無数の黒い棒人間が生まれてきた。そしてその黒い棒人間は一斉に、依頼主に飛びかかる!俺は思わず眼をそらした。
『ウアアア、グチョ、ブチブチブチ、グチャッ・・・』
肉片の切れる音も、骨の砕ける音も全部嫌い。俺は耳も閉ざしたかったけど、流石にそこまで手が回らなかった。
『・・・さて、開放するよ』
ルナとモウニングの網がほどけ、二人は無事に自由になったみたいだった。耳に残るあの気色悪い音を振り払おうとして、俺は必死になっていた。
『食っちまったのか?依頼主』
『違う違う、あんな歪んだ愛を僕の子に食べさせるわけにはいかないよ。肉のかたまりにしてあげただけさ。これからのビーチバレーにもってこいかもね』
『おめぇもとことん趣味悪いぜ?チャムさんよぉ・・・』
「ブっ!くくくっ、やっぱチャムもいいなぁ、そこそこゆがんでるwwww」
モニターを写していたhi0がそうつぶやいていた。モウニングがチャムに向かって話した。
『どうやら、我々はお前に助けられたのか。礼を言おう』
『あぁ、気にしないでいいよ?もしhi0さんと組んでいなくても、ここにい合わせていなかろうと・・・僕はこの男を殺さないと気がすまなかったからね』
チャムという男は、その肉のかたまりを蹴る。本当にボールみたいになっている。気持ち悪い、歪んでいる。吐きそうになった。
『この人のコレクションに、僕の子が何人か犠牲になった』
『っ!・・・なるほど、復讐ってわけな』
『丁度hi0さんがこの人とお近づきだったみたいだから、楽しい条件付きで彼を殺させて欲しいって頼んだ。・・・内容は秘密だけどね、報酬』
『聴きたくねぇよ、んなもん』
『とにかく、厄介な客はミンチボールになったことだ。ここから抜け出すか』
『主さんのコレクションは売れるよ。盗んでいったら?』
『あいにく、ガラクタを集める主義じゃねぇからな』
『このへんで失礼しよう。さらばだ』
hi0がモニターを切った。深呼吸をして話を続けた。
「な?これで僕が君たちの敵じゃないって証明できたろう?さて、助言はしたし、僕は失礼するよ」
「・・・まてよ、おい」
ハスキーが止めた。hi0は足を止める。
「酒の話!!」
「わーったよ!あとで居酒屋調べとこう!そういやぁ新しく建ったお店しってる!?あそこ意外と美味しいんだよねぇ日本酒!」
「渋い!!よしきた紹介しろっ!!」
ハスキーとhi0が部屋を出て行った。しんとする部屋。うるさいのは機械の音だけ。俺とインサイトは顔を見合わせて、苦笑いをした。
「打ち上げ、どうやらあの人も一緒ですね、hi0さん」
それは嫌だ。