「いいいいいいいっででででででででで!!!!」
「もっと張り合いをしろっ!つまんねぇだろうがよ!」
「てめぇとの指相撲もう飽き飽きだボケェっ!!」
とあるカフェテリアのテラス側。今日は天候が非常に暑い。暑すぎて多分溶ける。溶けてもいいけどそうするとここのおすすめ商品「ビックパフェ」が全力で溶けて消えちまう。それだけは避けたい。俺が溶ける前に、食す!ミントがそれをだるそうに見てくる。
「で、俺はなんでここにいんだよ?」
「お前言ったろ?俺の仕事についてくるってよ、」
「何が仕事だよっ!どうみてもここただの喫茶店じゃねぇかよっ!!」
勢い良く立ち上がって俺に詰め寄るミント。そのミントの口にクッキーを放り投げた。戸惑いつつもそれを食べる。席に大人しくつく。かわいいわ本当。うずく。
「あー?俺の仕事内容に間違いはねぇぜ?こいつぁ・・・、」
茶封筒の中に潜んでいるそのレポートを慎重にとりだし、ラミネートまでされたモノを机に放り出す。夏の反射に輝いて眼に悪い。
「ここ付近に現れる黒い大男の殺人鬼を抹殺したい。その約束のために会ってお話したい。この喫茶店にて待ち合わせをする、とのこと」
「そのメール内容ってさ、・・・」
ミントがキョロキョロする。俺はそのミントの読みに俺も同感だった。
「落ち着けって、何処でどういう方法で俺を仕留めようとも、俺は死なねぇよ?」
「・・・なんで、そんなに自信たっぷりなのさ?」
ミントが俺の買ったオレンジジュースをストローから頂きつつも、俺を見ている。いやぁ、こんな相棒欲しかった。ちょっと感謝かも。
「お前がどういう種族なのか、俺勝手に調べさせてもらったけどさ」
「おう、勉強熱心なこった」
「ありえねえ能力じゃん、それ。ダイヤの強度を900倍?誰も敵いっこないじゃん、あんたの能力に」
「分かってるじゃねぇの」
「でも、例えばスナイパーとか毒とか、銃弾を使ってくる奴が来たらどうするのさ?」
「今回の敵はそうだろうなぁ~・・・」
「!」
ミントが息を飲んだ。いちいち反応が可愛いなコイツ、俺のことそんなに心配なのかよ。
「俺の目の前で、ぶっ倒れるってか?」
「だーれがぶっ倒れ
パシュッ!
」「・・・・・・!?!?」
ルナが、右耳から血をだして、ぶっ倒れる。一瞬の出来事だった。俺はその状況をあんまり理解できずに、身を乗り出してルナに近づいた。
「ルナっ?・・・ルナっ!!!」
地面についている方から、血がどくどく流れている。頭を撃たれたのかもしれない。いや撃たれたんだ。ここの席に刺さってあったパラソルにも、穴が空いている。
「・・・・・・っ!」
その穴から、敵の居場所が判った。ここから日差しがそんなにささらないビルの影に隠れている、あのアパートの屋上から、ルナの頭を狙ったんだ。スナイパーめ!
「くっ!」
俺は頭がかっとなって、ルナをおいてそのままアパートへ走っていった。店員のお代金、より悲鳴の声を背後に聞きつつ、俺はルナからもらった拳銃を手に持ち、人混みの中へと混じった。流石にこんな人だかりの場所では飛べない。それに、まだ治療の身だから、羽化にすることも控えている。人混みをかきわけ、大きな道路のクロスする横断歩道をわたって、そして路地裏からアパートの登れる階段を見つける。そこから登ってみる。緊張が体中に走った。左手が震えている。
「・・・まさかっ」
俺は登っている途中で、ドアに飛び込んだ。簡単に扉は開いたが、俺はそのところへ飛び込んでは外の方を見た。羽を生やしている、頭がガトリングの一部とかした化け物がいた。丁寧に説明すると、白い首の長い鳥の頭が、ごっそりやばいガトリングにすり替えられているって感じ。しかも人がまたげるくらいにでかい。そしてそいつは俺に、ぶっ放してきた。
「っ!?!」
俺は全力で走って、廊下をひたすら走った。後ろから銃弾が飛び交う。跳ねる音がけっこうきつい。よく見るとここのアパートは誰もいないみたいだ。ボロボロ。誰もいない部屋に飛び込んで、壁に背をつける。ここはまだ20階。50階まであるらしい。おそらくここのエレベーターは動かない。階段で登るしか無い。室内に設けてある階段を使用して、走ってゆく。足の方はだいぶ平気みたいだ。皆は羽ばかりを狙う。
『あぁただし、他出身の企業では、非合法に密売を』
「・・・・・・」
ルナが消したあの、小さな箱?たしか名前はテレビジョンだったかな。あそこから流れていたナレーターのセリフをふと思い出してしまった。気持ちにどっと疲れを感じた。いけない、ルナがあそこでぶっ倒れてしまったからには、俺がこいつを仕留めて・・・。
あれ、まてよ?もしルナが死んでしまったら、俺はどうやって生きればいいんだ?
「っ!?うあっ!!」
後ろからのものすごい音。気が付くと廊下の壁をぐちゃぐちゃにしてでも、この室内にあの化け物は乗り込んできやがった!俺は焦って階段を必死に登る。俺の背中に向かって銃弾を浴びせようと必死になる化け物。俺の方が動ける。そのまま走って、50階まで一気に駆け上がった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
そして屋上にたどり着く!
「・・・ふふっ、素早いですね」
その男は躊躇もなく、俺の拳銃を持っていた手に発砲した。
「ぐあっ!?」
手の甲に。突然の攻防に反応する余裕もなく、そのまま俺は銃弾の衝撃によって、拳銃を手放してしまった。その拳銃が転がって、その・・・ルナを狙った男の元に転がっていった。体を黒いフード付きコートを着ていて、なおかつフードをかぶっている。薄い生地ではあるのだろうが、見ていてとても暑苦しそう。ルナなんか体色が黒なのだから、相当暑そうに思えた。
「お前っ・・・ルナにどういう恨みがあって!それとも仕事かっ!?」
「えっ、はい?」
その男はとぼけた声で反応した。俺はまたカッとなる。
「ふっざけるな!貴様、あのパラソルの俺たちを狙っていたんだろう!?」
「狙ってはいましたが・・・、あれ?でも・・・」
もごもご言いながら茶色の封筒を取り出し、それからそこの中にあるラミネート加工されているモノを取り出して、それを眺める男。俺を目の前にして、余裕ぶっているところがまた腹が立つ。
「っ!」
50階の屋上であるにもかかわらず、屋上の外から、そいつの背後に飛び乗っていく影を見た。
「ひゃん!!」
その男はまたとぼけた声でそのまま、そいつに倒されてしまった。
「・・・ルナ!?」
どうやって屋上に登ってきたのか?そんなことよりも、頭を撃ち抜かれたはずなのに・・・どうやって?
「俺が簡単に死ぬわけねぇだろ?」
ルナの舌に、おそらく頭を撃ちぬいた弾丸が乗っかっていた。それをぺっと吐く。すげぇ!純粋に俺は頼もしくなって、つい感動した。
「いったたたたぁ・・・」
ルナの足元にいる男の、衝動で投げ出した茶封筒をルナは見て、鼻で笑った。
「あん?お前もその黒い男を狙えって・・・言われたのか?」
「ルナさんのことだって、一切記述されていませんよ!」
そのルナに倒された男はまだ反撃できるのか、勢いよく仰向けになり、両手の拳銃をルナにぶっ放した。ルナは反射的にそれを交わすため、俺のほうへと宙返りして着地した。男が起き上がるときに、フードが取れる。
「・・・!」
び、美人。いや、この人本当に男の人?うっすいメロンカラーの体色をしている男。華奢だ。俺よりずっと。
「インサイト、お前罠にかけられちまったのかもよ?」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
ルナはどうやら知り合いみたいだ。俺は黙って二人の会話に耳を傾ける。
「俺もそぉんな内容を当てられて、しかもお前が狙いやすいあのパラソルのところに来るように仕向けられていたのさ」
「はっ!?・・・つまり、貴方を殺そうとしている人も、貴方宛に依頼をしてきたってことですか?」
「ご名答っ」
「送り主の名前は?」
「コバート・ウィルネス」
「一緒ですね、こちらもです」
「くははっこいつは面白え!」
「あのっ」
俺がつい疑問になって聴いてみる。
「じゃあ。・・・あのよくわからないガトリングの頭をしている鳥は貴方の?」
「えっ?知りませんよそんなもの」
そのインサイト、と呼ばれた男はそう答えた。それからとても大きな銃・・・おそらく連射用の、よく名前も判らない武器を取り出してきた。
「我々S.KILLERは、基本護衛なんてつけませんから、」
背後に現れたその、さっき訪ねたバケモノが現れた。
「ねっ!!」
インサイトはくるりと後ろを向いて、その化け物より一手速く、連射した。派手な音とあの化け物の頭の鉄が弾ける音。かなり容赦がない。ちょっと華奢とは思えない豪快な一手だった。
「・・・ちっ、」
その化け物はインサイトの発砲に気圧されて、そのまま逃げていった。ルナがやるじゃない、と言わんばかりの口笛を吹く。
「・・・さてと、そちらに受け渡された情報と、こちらに受け渡された情報を調べてみましょう?」
インサイトの所持品から、なにか小型マイクのようなものが取り出される。それに話しかけている。
「実は僕達が追っている敵が、貴方を罠にはめている存在の可能性が高いのです」
「?・・・あっ」
遠くから、ヘリコプターの音が聞こえる。ルナは動じていない様子。俺がルナを見ていると、こっちの視線に気がついて、説明してくれた。
「あ?あいつらはいわば同業者、って身分だな。たまたま俺を狙う依頼が回されたってなだけだろ。・・・S.KILLERはどんな仕事も請け負う殺し屋なのさ。例えば盗みも人殺しも、組織の破壊も・・・奴らに狙われりゃあそれが可能ってわけだ」
ぞっとした。もしルナが知り合いじゃなかったら?この華奢な男に殺されていたのかもしれない。俺も。
「る、ルナは狙われて・・・?」
「いや、あいつらの本来追っかけている敵に、俺が居合わせちまっただけみたいだぜ」
「そっか・・・」
ホッとした。正直ルナに死なれては困る。まだ飛行できるのか不安でもあるし、左手がどうもおぼつかない。
「あなた達には失礼なことをしましたね、」
インサイトがヘリコプターから落ちてくる、ひょろりとしたハシゴに足をかけて、俺達に話しかけた。
「どうですか?お茶でもしながら、あなた達に依頼をしてきた主についてお話でも・・・」
「聴きたいってか?情報も手柄だろ?いくら出せる?」
金の話にもってくのかよ!?内申そう思ったけど、それもビジネスの一つなのか、向こうはその言葉を普通にとらえて考えている。
「慰謝料込、30万ってとこで・・・どうです?」
「悪くねぇな、行くぜミント」
「えっ、ちょっとおい!?」
ルナがヘリコプターに近づく。俺は躊躇した。
「心配いらねぇよ!S.KILLERの奴らの仕事の見切りと早さだけは早いからよ。何よりも俺と同じ仕事してんだ。不利益な依頼を回されてあっちも気が立ってるんだぜ?こういう時は情報をシェアして・・・」
ルナが不気味に笑う。
「早めにおじゃんにさせたいじゃん?邪魔なお客さんをよ・・・―――――」
「またお前か・・・」
「んな言うなよぉリーダーさんよぉw」
呆る口調で、ルナに話しかける人。その人は眼を赤い鉢巻で隠している人だ。腕と足にも、包帯が巻かれている。不思議な、でもとてつもないオーラを感じる。やばい、という方向で。
「狙われちまったみたいだぜ?お前らの追っているらしい敵さんによっ」
ルナが丸い机の上に、俺達宛のほうの茶封筒を投げ出した。インサイトはパソコンをスクリーンに映せるように準備をしているみたいだ。まだスクリーンにはなにも写っていない。包帯をした男がその茶封筒に手をかけた。そして中身の依頼内容を、向こうが持っているものと照合してみる。
「・・・ほぼ一緒だなぁ、それ」
その席に座って情報を眺めている包帯の人に、後ろから話しかけるもう一人の大男。近づいて内容を一緒に見ている。ルナはそんな気もないのか、椅子に深々と座っている。
「・・・間違いない、送り主は我々に依頼をしてきた人と同一人物だ」
「そいつなにもんなん?」
ルナは席に深々座って、スマホをいじりつつも上の空で呟いた。それに対して答える包帯の人。
「一週間前、我々もルナと同じような仕向け方をされた。つまり、我々もこの主にはめられた」
「・・・ほう?同じような内容で?」
「当てられたのはこの俺っ」
後ろに立っていた大男が自身を親指でさしつつも、ルナに話しかけた。
「俺宛に来た依頼だったけどよ、どうみてもそのターゲットが俺にしか見えねぇような内容だったな」
「同乗者に狙われたのか?」
「相手が最悪だったぜ?hi0hit0howのグループだった」
「くははははっ!死なずに済んでよかったなぁ・・・!!」
「・・・?」
話がいまいち見えない。インサイトが俺に話しかけた。
「えっと、確か・・・ミント君、だったっけ?」
「え、はい!」
「紹介しましょう。僕達が基本中心になって、依頼を片付ける三本柱となっています。あちらがわから、モウニング、ハスキー、この僕インサイトです。よろしくおねがいしますね」
「は、はいっ!」
包帯の人がモウニング、片目の大男がハスキー・・・よし、覚えたぞ。暗記は得意だ。ルナは大あくびをして俺のことを説明しようとする。
「こいつはミント。俺の庭に運悪く落ちてきちまった、ピピカ族の生き残りだ」
「!?」
S.KILLERも息を飲む。俺の存在を目の当たりにするのもきっと初めてなんだろうな。
「それは災難だったな、よりにもよってルナの庭に落ちるとはな」
「気をつけろよ?」
モウニングに続いてハスキーも気の毒そうに呟く。ルナが苦笑した。
「手出ししねぇってバッキャロwww」
「さてさて、仕事の話に戻しましょう?・・・」
ディスプレイがスクリーンと繋がったのか、スクリーンに写真がでてくる。
「この写真は?」
「今回我々を手球に遊びをしようとしている依頼主・・・コバート・ウィルネスさんですね」
「コイツがどうも、同じような身分の業者に同じことを繰り返しているという噂が流れてよ、」
「hi0も同じ目に遭ったらしいな、」
モウニングは腕を組んでそう呟く。ルナがくはっとまた笑う。
「命知らずだなwwwwhi0を敵にするとかよwwww」
「俺を狙う羽目になった時も、復讐する気満々だったぞあいつ」
ハスキーがそう言いつつも、モウニングの隣に座る。インサイトがまた違うモノをディスプレイに写しだした。今度は文字も入っている。その人の経歴を表しているようだ。
「このコバート・ウィルネス・・・という男は、いろいろな価値あるモノを買い取っては飾る、コレクターを趣味としている投資家です。この一家につながっている業者は、実は僕達の親企業にも手を伸ばしているかもしれないのです」
「なるほど、上のモン同士での遊び駒なのか、俺らは」
「の、可能性が高いみたいですね。それで、今回hi0さんは狙われ、ルナさんも狙われたことを考えると・・・おそらくコレクションとして狙っている」
ルナをコレクション?・・・そっか、鋼族の鋼は、とても頑丈でしかも綺麗。機能的にもインテリアにも持って来いの能力を持っているのか。
「俺を飼い慣らしたいとか、とんでもねぇ下品なお客さんだぜw」
ルナがそう余裕をかます。俺は正直背筋が凍りそう。俺に例えれば多分、羽を取られることになるから。
「hi0を狙っている理由としては?」
「おそらく、知識を欲しがっているのでしょうか・・・推測ですが、きっと彼の手助けに対して真っ当に頼んでも、すごくお高い報酬をねだられることを知っているのでしょう」
「hi0の報酬レベルは悲惨だからな。まぁ保証できるくらいの才能ではあるけどな」
ハスキーが苦い顔をしてそう言った。ルナが口を開く。
「で?どうするよ。そいつを仕留めるか否か」
「たしかその人の今度狙う相手は・・・」
新しい茶封筒をだして、広げる。
「モウニングさん、ですね」
「!」
たしかに、その茶封筒の中にはモウニングとそっくりな顔写真がはられてある。あのラミネート加工されたプロファイルがあった。
「そして今回の敵がどちらなのか、ということなのだが・・・」
「俺の家にその茶封筒が着てたら、グルになって敵さん追い詰めれるな」
「だなっ」
話はあと数十分続いて、終了した。俺はルナについて行って帰り道を歩く。ルナの表情はひとつも変わっていない。あのインサイトを目の前にしていた時も、ずっとそうだった。
死ぬことを怖がっていないのか?
「今回の仕事は、俺一人で十分だな」
「はっ!?んでだよ・・・!」
「お前来ちまったら、多分巻き込まれるのがオチだ。正直オレも巻き込まれているんだしな、ったく面倒だぜ・・・」
頭をかりかりをかくルナ。
「・・・殺人鬼、なんだよな。あの人たちも」
「あ?まぁな」
「仕事内容を請け負うのが仕事なんだったら、敵対するのが普通じゃないか?」
「あー、普通の依頼内容だったらな。でもこれはあきらかに俺たち殺し屋のシステムをおちょくってるようにしか見えねぇ。そんなやつを客にはしたくねぇよ、どこの殺し屋も」
「・・・ふぅん」
「ふっつーの狩りとか盗みの内容がかぶっちゃってるんだったら、奪い合いになるくらいさ。依頼人が違えばそれは対抗、同じだったら協定、つー形になるだけだ」
「・・・あくまで、仕事なんだな」
人を殺すのも、盗むのも。
「そうだ、」
ぺしっと言い切られた。すこし俺は唇をかんでいる。夕日が暑い最中、俺達は自分たちの影を見つつも、帰っていった。