「これにて忘年会をはじめる!かーんぱーい!」
「かぁぁんぱぁぁい!!」「乾杯」
インサイトが仲間になってから、4ヶ月が経ち、このメンバーで初めてのお正月を迎える。
「お餅にかけるのは?」
「きなこっ!」 「砂糖醤油をお願いします」
相変わらず、二人の意見は真逆であった。ハスキーはビールをグイグイ飲んでは酔っている。
「いやぁ~~っ、仕事の後のビールはうまいねぇ!」
「相変わらずですね、下品な潜入の仕方は変わらず、」
「この方がずっと早いだろう!」
「どこぞの潜入ゲームみたいな対応ですよね、毎回思います」
「ふっへへぇ」
「褒めてません」
ハスキーとインサイトは、確実に友好関係に至っている。インサイトも少しは喧嘩出来るくらいになっている。ジョイは、二人を見ては微笑んだ。
「・・・もう一人、欲しいな」
「は?」
「何がですか?」
ジョイがお餅を口にほうばりながら答える。
「仲間だ。もう一人くらい、仲間が欲しい」
「ほぉーう、これでも満足しねえか」
「女って貪欲ですからね、次が欲しいんでしょうね、刺激的な」
「なーるほどなっ」
「二人共!何時からそうやって私をからかうようになったんだ!」
「男性同士としての見解ですよー」
「何もいじろうって思って言ってるわけじゃねぇぜ?ふははっ」
「・・・真面目な話、私はまだ足りていない役割があると考えている」
ジョイがそう言うと、真剣に耳を傾ける二人。
「・・・こういうことでしょうか?」
インサイトは少し微笑みながらも話した。
「僕の役割は、後ろから支える。影で援助をする役目。ハスキーさんは、とにかくグイグイ進んで、敵を粉砕する。アクセルの元凶。ジョイさんは、僕たちを雇う側としての助言と方針を正す人・・・」
「十分足りてると思うぜ?役割的には」
「いや、まだだ」
ジョイがそう言う。インサイトが口走った。
「ですが、これ以上の人材はいませんよ、世の中にいる訳が無い」
「・・・どんな人材だ?」
ハスキーが質問する。インサイトが答える。
「オールマイティ」
「は?」
「全てのコマに同じ力の発言力を持つ人。影を把握する役割、アクセルの役割、雇い主に対して発言する役割。・・・要は、僕たち二人を束ねる、雇い主に発言する人材が必要なんですよ」
「そうか?それってリーダーを決めるってことだろ?」
「そうだな。君らは仕事を見事にこなしているが、なにせハプニングが多いのが現状だ」
ジョイが一言。それからつらつらと話す。
「潜入の時に、入っちゃいけない部屋に大胆に侵入して手痛いしっぺ返しを喰らう」
「悪かったな」
ハスキーがふてながら言う。
「政府と絡んでいた組織と知らずに、慎重にすべきシステムの解体作業を面倒だからとウイルスを投げて政府のシステムにウイルスを垂れ流す」
「あれは面白いでしょう!そのためにウイルスは存在するようなものですから!」
「・・・インサイトに訂正は聴かないようだな」
ジョイはビールに手を出すが、ハスキーに先に取られてしまった。それでついハスキーを睨みつける。目を逸らされた。
「とにかく、二人の仲介役にもなり、私と情報を交換できる役」
「そんなめぼしい奴がいるもんかねぇー」
ハスキーは半ば信じずにそうぼやく。
「・・・とりあえず、候補を連れてこようと思う」
「ほぅ、」「いるんですね、めぼしい人が」
「だが、これだけは注意してほしい」
「?」「?」
「・・・その人は、所謂記憶喪失みたいなものに陥っている」
「・・・ほぅ」
真剣な空気になっていった。
「彼は、もの凄い汎用型なスタイルの持ち主だ。だが、目が見えないためモノを見るのではなく、感覚器官全てでモノを察知する。・・・論理的思考な人だ」
「わざわざ注意が必要なやつを、仕事仲間にするってか?」
「悪いか?インサイトだって最初は情報専門だったが、今ではスナイパーで援護射撃してくれるようになっている」
「・・・えぇ、そうですね」
「きっと彼も、ここで成長を遂げてくれると信じている。だから、君たちに是非協力して欲しい」
インサイトとハスキーは目配せした。
「彼に、どんな不満があっても、従ってくれ」
朝。インサイトが豆から煎れてコーヒーを出す。
「・・・ハスキーさん」
「おう、」
インサイトがコーヒーを飲む。ハスキーは砂糖を二杯、ミルクを注いでから頂いた。
「今日、来ますね」
「そうだな、来るな」
「・・・どう思います?」
「あ?」
「論理的思考回路の、記憶喪失めいたって人・・・。多分ハスキーさんが一番嫌いな人種だと思いますよ」
インサイトは、心無い発言の多い、功利主義者だと予想している。ハスキーもその定義にほとんどのっとっている。
「さぁな、俺がハートのない奴は食えねぇとは言ってるけどよ、向こうの対応次第でどうにかなるかもなぁー」
「自分から働きかけはしないんですね」
「面倒なことは一切っ変わりたくないからなぁー」
電話がかかってくる。
「あーい、もしもし?」
ハスキーがとって出た。
『・・・ちゃんと、最初は組織名に自分のコードネームを言うよう心がけなさい』
「あ?まだ名の知れてねぇ組織の方に、客から電話がかかってくるかってんだよ」
『まぁいい。仕事の話だ。今車で走行中なのだが、依頼主が隣にいる。変わって話をよく聞くんだ』
「・・・ほう、急ぎの用事か?」
「珍しいですね、客人と一緒にいるなんて、ジョイさんが」
『はい、好きになにか喋っていいぞ、モウニング』
ジョイがその客人の名前を初めてだした。会話にはいつも注意していた筈だったのが。
「・・・?」
ハスキーは相手が黙っているのを少し気にかける。だが、辛抱強く黙って相手の返事を聴こうとする。
『・・・これからテストしたい』
「は?」
つい客人には?と言ってしまったハスキー。インサイトはハスキーの電話の電波を介して、会話を盗み聞きする。
「今、なんって・・・」
『私と闘って欲しい』
「あ?」
『私と肩を並べて闘うことができるのか、テストさせてもらう。・・・と言うことだ』
「・・・これって、つまり―――」
インサイトが先に口走った。
仲間だ。
しかも、かなりいや~な性格をしていそうだ。
「・・・ほぅ、そんなにご自身が強いと?」
ハスキーは喧嘩腰でその電話相手、モウ二ングとやらに話しかける。
『いや、私がどれだけ君たちに通用するのかも、知りたいのだ』
「・・・ほぅ、良いっすよ?やってやろうじゃんか」
『では、そっちのもう一人の人にも、了解を得て』
「了解しました、闘いましょう」
インサイトが電話をすぐに代わって、モウ二ングとやらに話しかける。
『用意がいいな、話には聴いていたが流石だな』
「そんじゃ、どこで待ち合わせだ?」
ハスキーがまた代わって話す。
『君たちの近くのところに、高速ビルが囲ってあるかのような場所に、噴水公園がある。誰も来ないらしいから、そこで君たちと是非手合わせ願いたい』
「・・・りょ~かぁ~い、首洗って待っとけよ」
『怖いな、それではまた』
ぶつり、と切られる。そしてハスキーもぶつりと切れた。
「ああ!?!なんだよあんのやろぉぉぉ!ぶっ殺す!!」
「貴方に喧嘩腰だなんて、向こうさんは死ぬるき満々ですよ」
「だろうな・・・!よっしゃやったるでぇ~~!!」
ハスキーは早速お気に入りの大きな斧を持ち、インサイトもスナイパー用のライフルをさっさと準備する。
「行くぜ、」
「はい」
二人がやる気ガンガンに、外を出ていった。
「・・・来たな、」
ジョイが言う。向こうからハスキーが歩いてきた。
「待たせたなぁ・・・!この功利主義者・・・!」
「功利・・・?私が大多数の幸福を願うとでも思っているのか?」
「じゃあこう言おうか?多数決主義者!」
「それもないな、私は自分自身の意見を揺るがす気はない」
そう言っているモウ二ングとやらは、両腕、両足の大部分を包帯でグルグル巻きにしている。そしてハチマキで目隠しをしていた。なんとも奇妙な姿である。
「・・・どっかのマゾかよ、」
「何?」
「へーいへい、なんでもねぇよ!」
「ところで、もう一人は?」
「あー、インサイトなら、どっかでいつでも、手前を狙ってるぜ?くははっ」
斧を掲げる。モウニングは見たところ、手ぶらの様子であった。
「お前、素手か?」
「素手?まさか・・・」
とても細い剣を出した。しかも歯がたの鉄が、葉っぱのように一列に重なっている剣であった。それはモウ二ングが勢いよく振るうとともに、しならせてビュッ、と音を立てる。
「・・・それ、あれだろ?柔剣っつーやつ。・・・一種の拷問道具で、いや~なドSが愛好してたのな」
「マニアックなことを知っているな、拷問は好きか?」
「趣味じゃねーよ」
モウ二ングが、じわりじわりと近づいていった。それを遠くのビルの屋上から見ているインサイト。会話はハスキーが身につけている腕輪の機器から、全てを聴いていた。
「モウニング・・・さん、すごい格好してるなぁ」
ちょっとえっちぃかも・・・。
なんてぼやきながらも、小さな望遠鏡を使って見ていたのだった。
「・・・ちょっと、BGM大きくしようかな、」
インサイトは屋上でのんびりと、ラジオをかけながら仕事をするのがスタンスである。ラジオがぼやき始める。
『さぁー、今回も紹介しちゃいましょう!私のいちおしアーティスト、crankyさんからの変拍子かつロックでクールな曲、T&J!!』
(BGM:cranky - "T&J")
「どりゃぁぁああ!」
ハスキーはつっかかってくる。モウ二ングはその巨体に動じずに、その場で立ち尽くす。ハスキーが斧をひと振り、モウ二ングはその場を動かずに斧の隙間をくぐるように避けていく。それから自身の剣をハスキーに対して突く。
「!」
ハスキーは斧の面で受け止める。そのままモウ二ングを投げ払う。モウ二ングは空中で体制を立て直そうとした。
「っ!?!」
モウ二ングの手に、銃の弾が飛んできた。幸い手に直接には当てておらず、衝撃で剣を手放してしまった。
「今度は狙うよ、手」
インサイトが援護射撃で、モウニングの武器の取っ手を狙い撃ちしたのだ。モウニングは上手く着地した。
「――――――っ!?!」
インサイトが、スナイパーライフル越しから、モウニングと目を合わせた気がした。
こっちを向いている。
「・・・まさか、気づいた!?」
どんだけ離れてると思ってるのさ!!嘘嘘っ!
「ほう・・・」
モウニングが話し始める。
「上手いな、射撃の腕」
「本人に伝えといてやるぜぇ、お前が死ぬ前提だからな」
「本人とはコンタクトを取らずに、チームワークをとっているのか?」
「俺が合図をせずとも、美味しいタイミングで援護射撃してくれるんだぜ?良いだろう?」
「・・・ほぅ、」
モウニングの手から、両手に拳銃が現れた。
「それは頼もしいな」
発泡された。ハスキーはそれを斧で受け止める。
「っ!?」
今まで受けてきた弾と違うのか、初めて斧にヒビが入った。これはびっくりしてハスキーも避ける。インサイトもそれをライフル越しから見て、危機感を感じた。
「ちょっ―――!?」
インサイトが、モウ二ングの腕に対してまた発泡した。しかし、モウニングは後ろに宙返りをしながら避けた。
「嘘っ!?!」
インサイトは初めて避けられた。またモウニングの手に向けて発泡しようとする。また避けられる。
「何で――!?」
僕がどこで狙っているのか、さっきの発泡だけで角度と高さを把握したっていうの!?
「・・・ふふっ」
インサイトはモウニングの頭を狙う。
「オールマイティじゃん、ぞくぞくしてきたっ」
ハスキーがモウニングに向かって走ってくる。斧はヒビがはしっている。モウニングはかがんでハスキーを迎え撃つ。
「首飛びなっ!」
ハスキーが斧を振り下ろした。するとモウニングは空中に飛んだ。飛び退いて避けたのだった。それをインサイトがチャンスと意気込んだ。
「今度こそ―――!」
インサイトがあたり構わず、空中で逆さに浮いている状態のモウニングに向かって発泡した。モウニングはなんと、そっちに向かってくる弾を予期していたのか、インサイトの弾に向かって自身の持っている拳銃を発泡して、防いだ。
「・・・ありえない―――!」
インサイトは笑顔でそう言った。モウ二ングは重力に従って落下し、ハスキーの斧に、ひび割れたところめがけてかかとを落として蹴りをいれた。
「っ!!??」
粉砕。ハスキーはその場で倒れて、モウニングに銃をつきつけられた。
「・・・っ!」
やばい、彼を間近にして見てみたい。僕も彼と闘ってみたい。
インサイトは腰につけているベルトから、ワイヤーをだして先端に爪をつける。なんと、屋上のビルからワイヤー一本で降りるのだ。
「・・・っ!」
こんなにアクティブに動いたの、何年ぶりだろう。
姐さんが、僕になりすます前の話だったかな・・・。
「・・・はぁ・・・っ」
走ってモウニングのところに向かった。モウ二ングが引き金に指をかけている。
「・・・っ」
ハスキーが目をつむった。
発泡する音が響いた。
「・・・!?」
なんと、インサイトが来て、モウニングの手首に発泡したのだった。モウニングはそれを間一髪で避けた。
「ハスキーさんが、リタイアみたいですね・・・!」
インサイトの両手には、拳銃。モウニングが自身の拳銃を捨て、あの柔剣をもう一度手にとった。
「僕が、お相手しますよ!モウ二ングさん・・・!」
「・・・なら、」
モウニングが、剣を構える。
「お相手願おう―――――」
そう言っているそばから、インサイトが発泡した。
「っ!!?」
だが、狙ったのはモウニングの背後にあった噴水であった。噴水は勢いよく水を飛ばし、モウニングの周りを水浸しにした。
「聴きましたよ・・・彼方、目が見えないんですって?」
「・・・」
「気配や音、匂いや熱・・・そういうので僕を感知しているのなら、噴水の水の音、匂い、冷たさで多少鈍りますよね?」
「噴水から離れればの話・・・!」
モウニングが噴水から離れてインサイトに掴みかかろうとした。が、インサイトは発泡してモウ二ングの足元を狙う。そして自分自身が噴水の近くに行った。
「・・・弱ったな―――――」
インサイトが水を精一杯浴びつつも、噴水から離れようとはしない。
「これで、遠距離で彼方を狙える。そして近くに来ても、彼方の感覚は鈍る・・・。最高のステージですよ!」
「この隠れドSが」
ハスキーがぼやいた。インサイトは、噴水の吹き出る水の音できっと聴こえていない。
「・・・確かに、目が見えない中で、音がうるさいのは耐え難い・・・、が」
モウニグは近づいてきた。躊躇もない。
「それで自分からの果たし状を無効にはしない」
「・・・そう、どうぞ?」
インサイトは発泡する。それをことごとく柔剣で弾くモウニング。インサイトはそれでも発泡を止めなかった。
「・・・ちっ、通用しないね、彼方には・・・」
「通用すると思っているのか?」
「ええ、負けないよ!」
インサイトが、今度は噴水の勢いよく水がでているところに、発泡した。栓をするかのごとく、水は弱まってきている。モウニングは意図が読めず、そのままインサイトに近づいた。
「これで、終わり――――――」
噴水の中央部分が、爆発した。
「っ!?!」
これにはモウニングもびっくりして、水の水圧で押し倒されそうになった。なんとか直立であることをキープしたものの、インサイトの姿を見失った。
「くっ・・・!?」
「隙あり―――っ!」
とインサイトがモウニングの背中にぴったり、銃口をくっつけた。
「っ!?」
と思ったら、銃の先端が落ちている。きっと柔剣で切り落とされてしまったのだろう。いつの間にか。
「っ・・・!?!」
「私の勝ち、かな?」
モウニングは平然と、インサイトの方を向いてそう言った。
「・・・はぁ、彼方には敵いそうにないですね」
「・・・よし、ここまでとしよう!」
ジョイが声をあげた。それから説明した。
「モウニング・・・これから、彼らとともに仕事をして欲しい。出来るか?」
「悪くはないな、判った。私も彼らとともに仕事をしよう」
「ちょっとまったーぁ!」
ハスキーが立ち上がってジョイに攻め寄る。
「負けたからって、ひがんで仲間にしないはだめだぞ?」
「ちっげー!」
「?」
「新入生歓迎会をせにゃならんだろうが!」
「はぁ???」
ジョイは呆れた声で返事をした。インサイトがはっとする。
「そ、そうですね!これからリーダーになって僕ら二人を統率するんですものね!だったら迎えてあげなければ・・・!」
「だーろー?!つーことで俺らでなんかやろうぜ!焼肉するか!」
「いいですね!やりましょうよジョイさん!」
「・・・こんな調子なんだが、ついて行けるか?」
モウニングは首を傾げつつも、ジョイに質問した。
「なぜ、こんなに甘受的なんだ?」
「仲間意識が強くてな・・・きっと、」
ジョイがモウニングを見る。モウニングは視線を感じ取って、ジョイを見た。
「さっきまで戦った中で、君に対する仲間意識が出来たのじゃないか?」
「・・・そうか、仲間か・・・」
モウニングは自分の手を見つめる。
「私は、殺人鬼以外の何者でもない。いづれか、彼らも悟るだろう。私は仲良く出来ない生き物だということが・・・」
「・・・そう、か・・・」
ジョイは、なにも言い返さなかった。
「おーいー!それ俺のだったろうがぁ!」
ハスキーのうるさい声がする。モウニングは廊下の扉越しから、その喧嘩声を聴いていた。
「いつまでもほったらかしだったからな、捨てた」
「俺のせっかく愛用していたミニ扇風機ー!」
「クーラーがあるがろう!バカタレ!!」
ジョイと喧嘩をしていたらしい。モウニングは早速部屋に入った。
「失礼する。今日の仕事内容の確認に参った」
「相変わらずかたっ苦しいですなぁ~旦那っ」
ハスキーがからかって言うが、それを無視するモウニング。無視しているつもりはない。返答に困って返さないだけだ。
「・・・ちっ」
その舌打ちを聴いてびくっとなるインサイト。ジョイが地図を広げた。
「今回の、仕事なんだが・・・」
「おっ、懐かしー。これ、あれじゃね?」
「麻薬取引の舞台となっていた、収容所ですね・・・。ここがどうかしましたか?」
「ここで、また麻薬の取引が行われているらしいのだ。そこで、君たちに是非とも麻薬を探してもらいたい。できれば、取引をしていた人物を捕まえて欲しいとのこと」
「どこの依頼?」
「暴走族、根っからのヤクザつながりのドンからの依頼だ。最近そこで自分たちの名前を名乗る人が、麻薬を取引しているらしいから捕まえて欲しい、だとさ」
「けっ。俺らに頼むより、自分らの裏の顔的な力で、そいつあぶり出してやれぁいいのによー」
「そういう訳にもいかんから、我々に仕事を頼んでいるのだろう?」
「あー、へーいへい」
ハスキーはやる気がなさそうだ。ジョイがこう言う。
「じゃあ、ハスキーにはもう一つの仕事、とある組織を壊滅するように皆殺しを要求しているところn」
「っしゃ行ったらー!!」
ハスキーはさっそうとその詳細書を受け取り、廊下へと出ていった。慌ただしい足音だ。
「・・・さて、じゃあその仕事は私とインサイトだけで請け負うことにしよう」
「えっ、二人だけですか!?」
インサイトが戸惑った。今まで三人で仕事をしてきたインサイトにとって、一人が欠ける事自体不安なのだ。
「?なら、私だけで行こうか」
「いやっそういうことじゃなくて・・・!」
インサイトがモウニングを引き止める。
「二人だけじゃ、不安なんです・・・」
「・・・何、お前は援護射撃だけで十分だ」
モウニングはさらりと言う。インサイトが顔色を伺いながら訪ねる。
「・・・本当に、独りで入るのですか?」
「何、安心しろ。ハスキーだってインサイトが来る前に、軍隊の基地に侵入して無事に帰ってきている。本来は仕事を一人の単位でするのが、本当の暗殺業者だからな。モウニングなら、一人でも大丈夫だろうし・・・」
ジョイがそう訂正をする。インサイトはうつむきながらも、こう答えた。
「・・・ぼ、僕も行きます」
『さて、準備は良いかな?』
無線機の電波の音。夕日がだんだん沈んでいく。あたりはもう暗くなり始めている。
「こちらモウニング、準備完了。いつでも出撃できる」
「こちらインサイト。援護の方、準備が整いました」
『よし、こちらで合図を出すまで、しばらく待機してくれ、また連絡を送る』
無線が途絶えた。また静かになりはじめる。インサイトは自分の携帯電話を取り出して、それをじっと見つめている。
約4年。仕事を一緒にしてきたはずだけど、モウニングのこと、これっぽっちも知らない。ハスキーはおしゃべりだから、自分のことを話してくる。片目に関しての話も聴いた。モウ二ングは全く話さないどころか、たまに会社内から消える時がある。その時はジョイさんも一緒に消える時がある。ジョイさんに彼がいなかった時を聞いてみると、「特別事業」って言って、詳しい内容を話してくれない。どうしてなんだろう。何故なんだろう。
今、聴くことが出来るのかな・・・。
ちょっと、電話してみよう。
「・・・・・・」
ppppppp....ppppppp....
『どうした?無線で話せないことか?』
モウニングはそう言った。インサイトは言葉を選びながら、話した。
「その・・・モウ二ングさぁ、たまに会社内から消える時、あるじゃない?」
『ああ、』
「余計な詮索して悪いんだけど・・・何、しているの?その時、」
『メンテナンスだ』
「へ?」
『感覚器官のメンテナンスだ。聴覚、嗅覚、味覚、触覚、その他いろいろメンテナンスを行っている』
「・・・え?それって、どういう――――――」
『時間だ、』
「えっ」
『侵入する、話はまた後でしよう、すまない』
切られた。それからはっとしてインサイトは屋上の淵に向かい、スナイパーのライフルを使ってモウニングの動きを観察した。モウニングはすばやく建物の中に入っていった。建物の中にはいられると、こっちからの援護が出来ない。
『一時間、彼からの連絡がなにもなかったら、突撃してくれても構わない』
「僕に、そんな勇気があると思いますか?」
インサイトが、無線から連絡してきたジョイに向かって、そう言った。
『・・・なら、モウニングの持っている無線の音を聴いて、どうなっているのか状況把握を頼む』
「・・・はい」
『危険を感じたら、モウニングを置いてでも逃げてくれ』
「!?――――――何故、」
『それでは、間違った判断をくださないようにな』
「ちょっと、ジョイさん!?」
インサイトが聴こうとしたら、ジョイが先に切った。インサイトは訳が判らなくなった。
「まってよ・・・、待って・・・っ」
彼は、メンテナンスと言った。そしてそれは、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、その他色々と言っていた。
「・・・視覚――――――」
彼は、感覚器官の中でもっともあげやすい例を言わなかった。視覚を言わなかった。
「・・・そう言えば、知人の噂じゃあ・・・」
インサイトの知人とは、一緒にハッカーとして活躍している人たちのことだ。その噂では、このようなチャットの会話であった。
SunFull++>>知ってたか?向こうのフェンテル都の学者、すんごく頭のいいところは軍事と繋がっててよ
SunFull++>>そこじゃあ殺人兵器を作るとか聴いたぜ?
Insightr=>>特徴は?
SunFull++>>なんたって、彼らには目を与えないらしいんだ。目にとらわれずに感覚のみで動いた方が、
SunFull++>>自由に対応出来るらしいぜ
Wolfer!=!>>知ってる~、特に耳が敏感に反応して、イルカみたいにエコーロケーションできたりして、
Wolfer!=!>>最終的に、空間把握できるんだってさ!暗闇なのに!
「――――――っ!?」
ぞわっ。
「嘘・・・そんな、まさか・・・」
インサイトは寒気を抑えようと、二の腕をさすった。
そんな、じゃあ今まで自分は、殺人兵器と一緒に共に過ごしていたというの?そんなの考えたくもない!!
「っ!!?」
建物から、大きな音が聴こえた。それに、地響きもした。
「・・・っ」
インサイトは決めた。
「行くしかない・・・!」
一体向こうで何が起こっているのか、純粋に気になる。だけど、もし本当に彼が殺人兵器としてこっちの組織に入ってきたとするならば、彼がいつ発狂してこっちに牙を向けるのかわからない・・・。
「・・・よしっ」
インサイトは、腰に拳銃、背中にアサルトライフルを背負い、手には愛用している真っ赤なリボルバーを構えて建物に侵入した。
そして見た。
「ひっ――――――っ」
悲鳴をあげそうになったところで、声を止めた。心臓はばくばく。
「・・・はぁ・・・はぁ」
頭が潰れている敵を見つけた。まるで握られてぺしゃんこにされたかのようだ。しかも、それがまるで誰かが通った後のように、向こうの暗闇に溶ける廊下の奥へと続いていった。
「・・・モウ・・・ニング?」
声をしぼりつつも、その道を通っていった。ホラーも血もだめなインサイトにとって、これほど精神にくるステージはない。
「どこにいるの?いるなら返事して・・・?」
進んでいくと、生きている人を見かけない。敵も全員殺されてしまったのか。
モウニングに。
「・・・っ!」
とある部屋から光が漏れている。その部屋の方へと、壁に背をつけつつも近づいていった。それからそっと自分の手元にある手鏡を出して、うまい具合に自分が扉の中を見れるように角度を変えた。
そして見た。
「――――――っ!!」
インサイトは、もうその場から動けなくなった。
「・・・っ・・・っっ」
モウ二ングの姿を確認した。
口にはおそらく、ここの麻薬取引をしていた野郎の首を咥えて、それから天井に煌びやかに光るシャンデリアをぼーっと眺めている。手にはあの柔剣を血だらけにして握っている。返り血を浴びまくっているのか、包帯のほとんどは赤く滲んで、包帯の白い色を忘れさせている。そして地面には、無数にころがる頭のない人、人、人―――。
もう彼に気づかれたら、何が起こるのか判らない。
「・・・っ!」
どうしよう!この状況をどうやってジョイさんに伝えよう・・・!これって彼に声をかけても大丈夫なの!?それで僕が免れる保証って?!ないでしょう!!
鏡を慎重にしまう。それから、その場に離れようとゆっくり移動をする。
廊下にあった飾りの花瓶に、背中のアサルトライフルがあたって落ちた。
ガシャン!!
「っ!!??」
派手な音を立て割れた。
「・・・ダレダ?」
や ば い 。
気づかれた!!
インサイトは全力失踪をした。背中にあった重たいアサルトは降ろし、自分の動ける状態で精一杯走った。
やばい、やばいやばいやばい!
死にたくない!死にたくない!!
玄関から勢いよく飛び出して。出ていった。それから後ろを向いて、銃を構える。
いない。
「!?・・・っ」
ついてきていないのか?いやしかし、彼は誰だ?と聴いてきた。自分のことを忘れてしまったとするならば、敵と見なされて殺されるに違いない。しかも声のトーンがおかしかった。明らかに彼の声とは違う、別の声であった。
「・・・何でだよっ」
ちょっとかっこいいかなって思ってたのに。とても理論的で、感情を一切はさまない人だなって思ってたのに。憧れてたのに。
「モウニング!!」
インサイトがそう叫んだと共に、モウニングが建物から出てきた。月に照らされ、赤い色が余計に目立った。インサイトが少し躊躇したが、続けて叫んだ。
「僕の名前は・・・!」
「・・・ダレダ?テキカ?」
「僕の質問に答えて!僕は誰!!?」
怖くて、逃げ出したい。
けど、彼のことを知りたい。
ここで逃げてしまったら、きっと彼のことを聴くタイミングは今後訪れないと思う。
だから、ここで僕の気持ちをぶつける・・・!
「僕のこと、知ってるよね!いつも携帯電話か、パソコンばっかりつついている!キーボードをよく叩いている・・・!」
「・・・・・・?」
「モウニングがデータ処理しようとしたとき、目が見えないものね!だからいつも僕に頼ってくれていた!覚えてる!?」
「・・・・・・、イン、サイト・・・」
モウニングが、ゆっくり近づいてくる。あの血だらけの剣が生々しく光っている。
怖い、怖い怖い怖い。
でも、逃げちゃダメ。
彼の隠している姿にだって、対抗してやる!
「そう!思い出した?!・・・っ!!」
モウ二ングがいきなりインサイトの前に来ては、インサイトを地面に押し倒した。押さえつけて顔を手の平で覆った。
「っ!?」
痛い、潰す気か。
「モウニング・・・!止めてっ!!」
「インサイト・・・インサイト・・・トメテ・・・」
「っ!?」
彼の声だ。きっと、彼がいる。
彼が止めたがっている。
「ウテ・・・ウテ・・・」
「っ!?!」
「ウデヲ・・・ウテ・・・」
モウ二ングは、どうやら手が止まらなくて困っているらしい。インサイトは自分の頭が握りつぶされる前に、モウニングのその手首を撃った。
「っっ!!?」
血が、血が、血が・・・。
モウ二ングの手は飛んでいった。そしてモウニングも一端離れた。インサイトは立ち上がって体制と気持ちを整える。
「インサイトっ!!」
「・・・えっ?」
後ろを向くと、なんとジョイがいた。ジョイがとある弾を投げてきた。
「これを使えっ!!」
「へっ!?」
それは、丁度インサイトが使う銃の弾に入る大きさのものだった。が、中は何かの液体が入っており、カプセルのような形をしていた。先端は針がついている。
「・・・なんだよ、これ・・・」
インサイトはその弾を使って、モウニングに向ける。彼はきっと簡単によけられる。だから、この最後の一発をどのタイミングで発泡するかで、決まる・・・!
「・・・ニゲ・・・ロ・・・」
「逃げませんよ!彼方の為に!」
モウニングが、また目の前に来た。そして頭を掴んできた。
今のタイミングだっ!!
インサイトはモウニングの頭に向かって、その銃を発泡した。当てれた。
「・・・っ!!??アァァァァアッッ」
モウニングは頭を抑えつつも、よろめいて、その場で倒れ込んだ。そして動かなくなった。
「はぁ・・・はぁ・・・頭潰されるかと思った・・・」
ジョイが駆け寄ってくる。そしてインサイトを見る。
「何故だ、」
「・・・?」
「何故モウニングを置いてでも逃げろと言った命を、背いた!!」
「・・・ずるいですよ、」
「・・・!?」
「殺人兵器だからって、実験として薬投与するなんて・・・」
「違う、私はあくまで科学者として彼と関わっているのだ!そんな殺人兵器として扱っているのではない・・・!」
「メンテナンスって何です?」
「!?・・・どこまで、彼と会話した?」
「聴いちゃだめなら、ちゃんと口封じしてくださいよ」
インサイトは立ち上がって、さっさと帰ろうとした。ジョイがしばらく立ち尽くしては、モウ二ングを見る。インサイトが戻ってきて、モウニングの様子を伺った。
「・・・何をぼうっとつっ立っているのですか?手伝ってくださいよ」
「!・・・あぁ、」
ジョイも一緒にモウニングの腕を担いだ。モウニングは完全に意識を失っている。ジョイは血の臭いに顔を歪める。それはインサイトも一緒だった。
「・・・彼は一体?」
インサイトが質問した。
「・・・インサイト、」
「はい?」
「私からは、なにも言えない。何故なら、それでお前が仕事を止められても困るし、仕事に支障をきたすかもしれないからだ」
「十分、きたしていますよ、今の時点で」
「・・・すまない」
ジョイはただうつむいた。しばらく無言が続く。
「・・・気にしないでくださいよ」
「?」
「僕は、彼から逃げる気はないので。・・・貴女から聴くことが出来ないのなら、本人から・・・モウ二ングから聴くまでです」
「・・・」
ジョイは少し微笑んだ。
「・・・頼んだぞ」
「・・・はい」