「はーい!じゃあ点呼をとりまーす!」
ハツラツと声をあげる一人の男性。朝早起きが苦手な一人は、その黄色い声で耳を塞ぐ。
「おい、おい、おい。もーちっと声のトーンさげろ」
「だーって!生き抜きだよ?!今までギャングに毒に、ほら楽しいことなんてないでしょーが!」
「おめえは楽しんでそうじゃねーかよ!自分の作った機械だの、システムだの、使えててよ!」
「あんたこそ武器を振り回して楽しんでるじゃないの!」
朝から元気なのは、その二人だ。
「兄さん、うるさい」
「サヴィーもなんか言ってやってよ」
「(無言)」
憂鬱な表情をする、サヴィーと呼ばれた女性。だが温泉をとても楽しみにしていたのはかわりなかった。
(兄さんたちに邪魔されないように、絶対露天風呂は一番乗りするもん・・・)
計画的に兄さんたちを・・・つまるところハスキーとインサイトだけはなんとか速やかに隔離しようとたくらんでいた。そのやり取りは二人きりになりたい彼とのLINE会話で、謙虚に現れている。
『お酒の強いもので潰れられるのは、司令官だ。だが隊長はタフ害だぞ。どうする?』
この彼のシビアな漢字の使い方に、思わずクスッと笑うサヴィー。
『旅館の女性さんとか?』
『今回は、前・統括者のジョイ-エネミィさんが来られるようだ。恐らく隊長は統括の元から離れたりはしないだろう』
『だといいですけど・・・(困った顔文字)』
『(同じ顔文字)』
かなりのラブラブ模様だ。
『早朝の一番風呂を狙うか』
『はい!朝日も絶景って聞きましたし、貸し切りなんですよね、宿ごと!』
『今晩隊長と司令官を酔い潰すことを目的に、がんがん飲ますぞ。サヴィーも連れられて飲まないように』
『了解です(ピース)』
着々と予定が決まった。と、インサイトがサヴィーの恋人に声をかける。
「あ、IllLowがグマ鳥の件でとってくれたデータは貰ったから、今晩にでもちょっとだけ見せてもらうよ」
「それは急ぎの用件でしょうか?」
早くも計画倒れが予期された。
「IllLowの話じゃあ、あの施設のお頭が自滅したんじゃないって話だったでしょう?気になるからさ」
「仕事から離れてゆったりするのも大切だと口酸っぱく仰られていたではありませんか」
「兄さんのばか」
「なんでよ?」
思わずサヴィーから本音がポロリと出てきた。
「ふぇーん僕温泉苦手なのにー!」
キャビットは嘆いている。と、別の車が到着。そこから出てきたのは、黒ずくめの男と、ダークシアンの子。
「お誘いどーもーっ」「おお!来たかあルナ!」「チケットのおすそわけ、ありがとうございます」「うむ。二人にも世話になった。せめてもの手向けだ」
ハスキーとモウニングがくいついた。ルナとミントのお二人到着。
『この面子を全員背くのは無理ですよ、IllLowさんっ・・・!』
『露天風呂が不可ならしょうがない。二人部屋で分けられている寝床のみが安全区域になるか・・・』
場所は山奥の温泉旅館。かつてインサイトもお世話になったことがある、山で疫病をもっている小鬼たちが住まう地域だ。
「小鬼の臭いがする」
すぐさまキャビットが耳をパタパタした。
「流石野獣だね」
「グマ鳥の補食対象だ。愛喪場ちゃん、いるのかな」
「探しに山奥にいくのは夜中だけにしてね?」
インサイトが念入りに注意する。暫く山道をあるくと、ひっそりと佇む屋根を見つけた。旅館から出てきた着物の女性は、額に角を生やしている。ハスキーとルナがぎょっと見ていた。
「すげえ!?」「おにじゃん!!」
「知らなかったのか?ここの山は鬼が山の産物、植物や動物を守り、天候を天狗が操って敵の侵入を防ぐ山だ」
「天狗いんの?!」
「カラス天狗です。一番古い天狗らしいですよ」
モウニングとIllLowは、赴く場所は事前に調べるか調査をする癖がある。
「私たちが来ることは、どうやら拒んではいないようだな」
屋根の下に、金髪の女性が立っていた。ハスキーが嬉しそうによっと手をあげる。
(はぁ、髪の毛ほんっとにいいなぁ・・・!姉さんは髪の毛なくても美人だけど、私には必要なの!)
心のなかで愚直がこぼれるサヴィー。IllLowがキャビットの首根っこをつまんで前にゆく。サヴィーもついていった。
「お会いできて恐縮です。前統括部長」
「名前が長いな、エネミィで構わないぞ。もしくはジョイ」
「は、はじめまして!サヴィーですっ」
「お!君がインサイトの妹か・・・いつもお世話になっています~」
冗談混じりにそう言うと、インサイトが頬を膨らませた。キャビットも解放され、ご挨拶をする。
「ぷえっ、キャビットでーす」
「は、はじめまして」
戸惑っていた。モウニングに耳打ちした。
「よく仕事仲間に選ぼうと思ったな・・・モウニング」
「IllLowが彼のコントローラを担っている。動物トレーナーの資格を所持し、それでキャビットも逆らえない」
「なるほど・・・」
今回のチケットの件は、エネミィがおすそわけしてくださったとのこと。
「ジョイさんひさしぶり~」
ルナがちょっかいを出そうとすると、顔を再び真っ赤にして拒否をされる。
「んな構えんなってww何もしねえから、ミントいるし」
「はー?いなかったら手出ししてたのかよ?」
「そーじゃねえって」「帰る、じゃあな」「まてまてまてって!」
旅館の窓口。部屋を割り振られ、鍵がそれぞれの組手の片方に渡された。
『IllLowさん?』
『どうした、』
『今度は二人っきりで行きましょう』
『そうだな』
[温泉旅館、KARA天]
「て、生体調査に行きたがってた奴はやっぱ呼ばなかったんだな?」
「ぜっっっっっったいやだ!!」
本当はほかのメンツのために余分の二枚があった。
「なにももう毛嫌いすることはないだろう?」
「そうじゃない!ジョイさん知らないの?!あの、hi0hit0howの!さいっていな!性格をっ!!!」
「性格の悪さならこっちにも噂が届いてるよ」
インサイトとエネミィ。今回のチケットの手配に加え、二泊三日のスケジュールを組んだ二人が窓口手続きをしていた。と、ミントが二人のもとに歩み寄ってきた。
「今、エネミィさんはどんな仕事をされていますか?」
一気に苦い顔をした。
「・・・電子解剖学、という新しい仕事をしている。ただ、」
「ただ?」
「今回の、インサイトたちが請け負った仕事があったろ?・・・私たちが開発した、脳の電子治療を行うためのニードルが、悪用されたことを聞いた」
「えっ?」
「グマ鳥の集団のリーダーがそれを、頭に刺されててね。情報をhi0に送ったら、末端で開発をしていたのはエネミィの研究部だったらしいよ」
「そう、だったのですか・・・」
「父と同じ道にならないように気をつけてはいるのだが、買ってしまわれたものに限っての使い道までも決定権が、こちらにはない」
「そのニードルの制御機能における、品質の問題だね・・・」
と、仕事の話をしている最中。
「おーい見ろよ!?庭にいるー!鬼だすげぇ!!」「か、かわいくない!」「形相やべぇwwwwwひーっwwww」「黙って待たんか」
モウニングがキレる手前。
「これだから筋肉バカは一人で良いと」
「ゲス医者か、筋肉バカか。心中察します、師匠」
「早めに酒で溺れてもらうぞ」
モウニングも同じ考えだった。
「しかし、剣士はどうします?酒には強そうですが」
「問題ない。ミントが酒に弱い。手を焼くだろう」
「それなら統括部長も、いけなくはないですね」
スマートに酔い潰そうと二人は考えた。
「朝風呂と、夜の露天風呂はお互いが邪魔にならないようにな」
「最初の夜明けはいただきます」
ばれていた。
『制限時間は二時間、はじめ!』
遊びに来たと言えど、仕事頭な彼らには良い材料場だと思うに限るのだった。山一角の全領土を利用した、サバイバルゲームが開催。小鬼を見つけたら速やかに回避、攻撃されたらやむを得ず、発砲することを条件に、カラースライム搭載の拳銃で撃ち合うことになった。
「・・・誰もいない、よね」
『サヴィー、GPSは切った方がいいよ。IllLowとかハスキーとかは、きっと位置を探ってくるから』
「まだ30分経っていませんよね」
『そうだけど?』
「それだけあれば充分です」
指示を出していたのはインサイト。サヴィーが端末のGPS をオンにしていたのを注意した。場所は山の天辺に成りうるところから、よくある足がついているテントをはり、なが机と器機をセットしての観戦をしている。観戦と言っても、本拠点のような役割をしているのみ。インサイトも遠隔操作で他人の位置を探られないように、非常用通信のみを使ってゲームの当事者と連絡をしている。後ろの草むらから、誰かが上ってきた。
「ひさしぶりの機材だな。これモバイル型のサーバーじゃないか」
「ジョイさんが初めて買ってくれたサーバー。旧式でだいぶ性能もおちてるけど、こういうときはコストパフォーマンスがいいからね!」
「最適なおもちゃになっているようだな」
ジョイはそう言いつつ、インサイトの隣にあるパイプ椅子に座った。そしてモニターを見ている。モニターには、それぞれの非常用の端末が位置を光らせている。この情報は互いには見えず、インサイトたちの本拠地に備わっている旧式モニターからでないと確認できない。が、サヴィーが先ほど注意された端末の光もあった。ジョイは眉間にシワを寄せる。
「・・・サヴィーはまだGPSを切っていないみたいだぞ?」
「まあ見てなって、あいつは勝負事になったらとことん考えるからね」
「賢いのか?」
「S.KILLER の面接最終試験、IllLowだったんだけどね、」
「ああ、彼か」
「負けたんだよ、IllLow」
「ほう!」
「今回のこのサバイバルゲームも、うまく物と条件を見定めてやってくれよ~?」
「ルナとミントは?」
「かなりやりたがっていたけど、外した」
「ああ、彼らは背中ががら空きだからな」
二人はコーヒーを一杯いただいた。
[モウニング・ハスキーチーム]
だが仲間を組んで戦ってはいけないとは、言わなかったな?
「30分たったぜ、モウニング」
「流石にGPSはきって・・・?」
サヴィーのGPS が点滅していた。
「サヴィーちゃん切り忘れてるぞ?!wwwこれ誘ってんじゃねぇのか?」
「いやちがう、あの端末は」
ものすごいスピードで、こちらに向かっていたのだった。
「下がれ!」
ハスキーが方角を的確に判断し、発砲した。モウニングはその前側から撤退し、拳銃を持っては木の上に隠れた。ハスキーが打ち倒そうとしたものは頭上を飛び、背中へ回ってきた。が、
「!」
その敵の着地点に対する真上から、上で待機していたモウニングが捕獲しようと飛び降りてきた。が、向こうのスピードもかなりのものだ。すぐに避けられた。
「あっ、モーニングさんとハスキーさん組んだの?!ずーるーいー!」
「キャビット、おめえGPSきってろよ」
「へ?」
あの尋常でもないスピードの正体は、キャビットだった。ハスキーとモウニングは警戒した。
「ベテランさんを前にして戸惑ってんだろ!」
「うーん、そーでもない」
にっこり笑ったキャビット。と、モウニングが別の気配に気がついた。
「伏せろ!!」
モウニングの声と共に、ハスキーも伏せた。カラースライムが発砲された。しかも別の方角からだ。
「流石です、師匠」
茂みから現れたのは、IllLowだった。どうやらキャビットとIllLowが手を組んでいるらしい。
「そーだよおめえの目は尋常じゃなかったな!!」
ハスキーが素早く起き上がり、発砲した。木の裏にさっと隠れられた。そしてキャビットがつっかかってくる。モウニングがキャビットを相手せざるを得なかった。
「IllLowを任せたぞ!」
「そのちょこまかしてるやつは狙えねえからな!」
それぞれ、標的を追いかけるのだった。ハスキーはよくよく考えると、こっちの相手の方が不利だったのではないかと考えた。
(やっべぇ!あいつの右目の性能を考えたらよ!俺カモフラージュしてないとばればれじゃんかよ!?)
ハスキーはがっくり肩をおとすが、 ふと考えたのだった。
[IllLow、キャビットチーム]
「・・・やけに大人しいですね、隊長」
ゆっくりと、木の裏から顔を少し除かせると。
「・・・?」
ハスキーの気配が消えた。のではなかった。
「!?隊長!」
のびのびと生えている草木に隠れるように、倒れていたのだった。
「隊長、しっかりしてください・・・!」
小鬼に噛まれたのか、それとも何かの別の生き物かと考えを巡らせてはいたのだが。
「わるいな、IllLow」
IllLowが起こしてきたと同時に、ハスキーは銃を構えていた。
「この距離ならよけられねえだろ!」
発砲した。カラースライムでまっ黄色に染まるIllLow。
「ぎゃーっはははは!!俺のかっ・・・?」
と、背中になにかべたつくものを感じるハスキー。自分の手を背中に添えると・・・?
「はっ?!てめっ!!きったねーぞ?!」
「倒れていたとしても留目はさします」
ハスキーが攻撃をする前段階の芝居の時に、既に背中へ向かってIllLowは発砲していたのだった。
「これで隊長の攻撃は無効、です。お芝居お上手でした」
「くっそ!」
と、怒っているように見えるが顔は笑っている。後輩の能力が自分より優れている部分があり、それを容赦なく使ってくれるのがなによりも嬉しい。
「で、よ。まだサヴィーみかけてねえよな」
敗けが決まったハスキーは、上着を一枚脱いではスライムをペタペタつついている。IllLowはGPS 探知機をつついては、画面を表示させた。ハスキーに子機を手渡す。
「は?!」
GPSのピコピコ光る点が、増えていた。しかも、それはキャビットと思われる点を会わせると5つだった。
「なん・・・んだよこれ?」
「恐らく、複数の子機をあらかじめ抑えていたのだと思います。我々の読みを逆手にとっています」
「このうちの4つのどこかってのすらも怪しいわけだ・・・お前の彼女もやるな~」
「・・・」
ハスキーはここぞとばかりに詰め寄った。
「お前らできてるよな?ヤッた??」
IllLowは思わず視線をそらした。その素直なリアクションに腹を抱えて笑うハスキー。
「そりゃねえぜIllLowさんよーwwwwwひいーっwwww」
「何が悪いのでしょうか」
「で、彼女かわいい?乳でけえ?」
発言に対して眉間にシワをよせた。それからはっきり言った。
「彼女の身体に関する質問は答えられません」
「自慢したいとかねーの?つか、俺はお前に愛があるってのがすげえ意外すぎた」
「インサイトさんに盗聴されていないからと・・・」
カラースライム用の鉄砲を腰にしまい、ばつが悪そうに呟いた。
「彼女は・・・俺の初めての、女性来客者でした。一目惚れをした」
「ほう!」
「狭いところに恐怖心を抱く、人形をずっと抱いている子。彼女はとても怖がりで、優しくて・・・守りたくなったのです」
おかあさんかよ!
「で、済ますような感情でしたら。・・・ここまでがっちり攻略対象に、なっておりません!」
顔をすこしむっとさせて声を張り上げるIllLow。おもわずぎょっとするハスキー。
「好きだったんだな?」
「ええ。大好きです」
羨ましいぜほんと。
「頻度どんくらい?抱く頻度」
「二人っきりになれれば、月に2度ほど。デートは俺の仕事が休み次第ですが」
これインサイトが知ったら仕事が増えるだろーなー。
「俺は応援してるぜ」
「司令官には絶対、極秘です」
「おう、男と男のルールだな!」
「司令官も男性ですが」
あっ。
ところ変わって、モウニングとキャビットでは。
「・・・厄介だな」
キャビットは拳銃を持たない。その代わり、本当のおもちゃの水鉄砲を持っていた。かなり真面目に作られているもので、空気圧をかけて発射すれば、飛距離が延びる優れものだ。
「拳銃は苦手だけど、おもちゃだったら使えるもんねーっ!モーニングさんだいぴーんち!」
噴射された。華麗に避けるが、キャビットのスピードは尋常ではない。かつてのモウニングは、殺人兵器としてリミッターを外し、全ての身体能力において三倍超越する方法を知ってはいたが、ここで使うのは大人げないと感じている。
「モーニングさん、本気じゃないんでしょ?」
「!」
あっさりと見破られた。キャビットは四足歩行へと構え、いつでも飛びつけられるように足の蹄を鳴らした。
「僕はそれを見ないと納得しないかな~?」
「・・・よかろう」
モウニングは銃をしまい、彼と同じく手を地につけた。
「逃げるなよ」
突然、モウニングが目の前から消えた。キャビットは微かな音でその場を素早く離れた。目を疑った。モウニングの爪は伸び、所々血管が浮き上がっている。そしてスピードははかり知れず、目で追えるものではなかった。キャビットは耳に集中し、モウニングの次の動きを予測する。
「ひぃこわい!そんな強い能力があって、どーして使わなかったのですか?」
「うむ、キャビットに例えるなら、既に空腹で攻撃欲がピークをさ迷っている状態だ」
「げえっ」
嫌な顔をする。モウニングは彼の素直な反応にすこし笑う。気が緩んだと気づいたキャビットは、勢いよく飛びかかるが。
「うっ」
簡単に避けられる。やはり簡単に負けててくれそうにない、S.KILLER 現役の統括者。誰よりも強く、誰よりも頭がきれていなければならない。
「きれっきれなモーニングさんのしまった!が見たいなー!」
それは心のなかで呟きましょう。
「しまった、か」
モウニングはキャビットと格闘技でお互いの隙を狙う取っ組み合いが始まった。
(厄介なのはあの水鉄砲。飛距離もあり、水圧をあげている・・・あのタンクを壊してしまえば、あの鉄砲は使えまい!)
早速、行動に出た。先のとがった石を手早く拾い、キャビットの腰に添えてある水鉄砲の水タンクめがけて、突き刺した。
「あわわっ!」
想定外の展開だった。
「!??」
キャビットは加減を知らない。そのタンクは空気圧をむちゃくちゃかけられ、今にも破裂寸前であった。それがモウニングによって穴をあけられ、中身のスライムが飛び散った。つまり、モウニングは被弾したのだった。キャビットの持っているドピンクのスライムがとびちり、キャビットもモウニングもスライムだらけになる。が、自滅は不可とされている。よってキャビットは被弾していないこととなる。しばらく顔をお互いが見ていたが、この無音に耐えきれず。
「あっははははは!!???モーニングさんごめんなさい!!ふふふっ、ふふふふ」
腹を抱えて盛大に笑うキャビットは、地面に転がって、尻尾をぱたぱたさせてじたばたした。
「・・・しまった、な」
武器の研究に、水鉄砲も加えることを決意するモウニングであった。茂みの向こうから 、肩をいからせて誰かがよってくる。
「くははははっ!!!見せてもらったぜぇーモウニングさんよぉ~!」
ハスキーも、先程の一連を遠くから見ていたらしい。IllLowもきていたが全く笑っていなかった。
「よくやった、キャビット」
「想定外だったから!いやぁー勝っちゃったよ~」
「残ればサヴィーだ。彼女はGPS 探知機の裏をかいて、複数の・・・っ!?」
説明しようとGPS 探知機を覗いてみると。
「なんだよこれ?!!」
さきほどの2組のバトル中にであろうか、増えていた。かなり密集している。
「むちゃくちゃ遊ばれてるぞぉIllLow?」
ハスキーはニヤニヤしつつも、顔色を伺っている。IllLowの右目が作動し、遠くを観察してもなにも見えてこない。
「・・・俺のスコープ・アイの対策もばっちりだ。彼女は武器を身に付けていない」
「匂いでたどればぜーんぜん!僕は先にいくよっ!」
キャビットの鼻が頼りだ。キャビットの後ろについていくIllLow。モウニングとハスキーは本拠点に戻ることにした。
「1等賞と2等賞しか商品ないもんな」
「あえてIllLowとサヴィーは、別のチームになることでどちらかに入るように考えたのやもしれんな」
「嫁とのガチンコ対決かぁ、また負かされるか?」
「いいや、戦術においてサヴィーはまだ未熟だ。ここは指導者が、」
「俺ら負けたじゃん」
「・・・未來が頼もしいな」
指導者が顔負けの後輩たちの、ガチンコ対決が始まる。
「サヴィーちゃんの匂いはこっち!」
IllLowとキャビットは、GPS 探知機と照らし合わせつつも、着実に点の密集しているエリアに踏み込んでいる。キャビットが足をとめた。
「近い・・・!」
「俺が囮になろう。キャビットは彼女の背後から狙ってくれ」
「はーいっ」
忍び足で、歩いていった。誰よりも早く、気配を消せて標的に赴ける。蹄の足なのに不思議なものだ。IllLowは囮を演じるため、それぞれの手にGPS と鉄砲を持ち、立ち上がって歩いていった。それも回りを警戒するフリをしつつもだ。
「・・・?」
違和感を覚えた。もともとIllLowは狙われているのか、それとも誰も自身に目をつけていないのかを感じとることができる。嫌な予感、というやつだ。それは仕事を積むことによって得られる感覚である。その感覚が働かない。つまりは、
(本当にサヴィーがいるのか?)
「たーいへーん!」
キャビットの声がした。IllLowはGPS をしまい、銃を構えてキャビットの方へ向かった。キャビットが指差したその先にあったものは。
「う、写し身の術・・・?!」
「なにそれ?」
「忍者の古い技だ。所謂身代わりを作るために、丸太やなんかに己の服をかぶせ、それを待機させる。・・・キャビットの鼻を欺くためだな」
「しまったー!してやられたぁっ!」
悔しがってもいないが、顔に手を当てて上を見た。
「サヴィーの身を想定すると・・・おそらく本体の匂いをカモフラージュするために、木々や草をまとっていると思われる。衣服も限定しているだろう」
「お腹壊さないかなぁ」
「小鬼に狙われると威嚇武器も恐らく所持していない。駆けに出たな」
「むちゃくちゃ負けたくないみたいだね!」
「そうは言ってられん。探すぞ」
「あいあいさー」
2人は行動をともにしつつ、現在行方も不明に陥っているサヴィーを探した。時間はあと30分。刻々と迫る終わりの時間。しばらく歩いていると、開けた場所にたどり着いた。と、IllLowが足をとめた。
「ん?」
のんきなキャビットは気配に気がついていない。が、IllLowは容赦なく、本物の方の拳銃を上に発砲した。音が響く。キャビットは油断していたために、耳をぶわっと拡張させて驚いた。
「ひぃっ」
「サヴィー!近くにいるのはわかっている。残り15分だ。このまま賞金を水に流すのも、もしくは潔く負けを認めるのも。・・・好きにするが良い!」
IllLowから、サヴィーへの挑発だった。しばらく辺りがしんと静まり返っていたが。
「だれが、負けるんですか!」
奥から、草むらを掻き分ける音が聞こえてきた。
「!!?」「きゃー!サヴィーちゃん下着装備?エッチ~!」
キャビットは欲がないのか、それともただのバカか。サヴィーは衣服を完全に脱衣しており、IllLowの予想通り、長い葉を伸ばす草を腰に巻き、完全にカモフラージュをしていた。
「たしかにその状態ならぼくも鼻がきかないやぁ、すごいなサヴィーちゃん!」
にこにこしながら誉めるキャビットと反応はかなり違い、IllLowは肩をかるく怒らせていた。
「・・・サヴィー」
「あ、怒っちゃ嫌ですよ」
「もし俺とキャビットじゃなかったら、どうするつもりだった」
「怖い顔しないでくださいっ!」
IllLowは歩いていった。仕留めるより説教が先走った。ひらけた場所へと髄髄進み、サヴィーの元へ急ぐと、
「!?」
足元が抜けた。抜けたのではなく、これは所謂。
「ごめんなさい、IllLowさんっ!」
「わーイルロウくぅーん!!!?」
キャビットが落ちる彼をつかもうとして、つかみ損ねた。そう、落とし穴が仕掛けられていたのだった。それに見事に吸い込まれるように落ちていった。あたりはしんとし、サヴィーとキャビットのみとなる。サヴィーはキャビットに話しかけた。
「キャビットさん」
「うん」
「取引しませんか?」
「うん?」
「この戦い、2位までが賞品を手に入れられるんですよね」
「サヴィーちゃんは2位の優勝商品、えびちゃんの抱き枕がほしいんだよね」
「なので、私は降りようと思います」
「そうはいかないよ!僕だってあのお人形さんがいいんだから!」
手早く二人は拳銃を抜き、お互いが自分自身の頭に向けて拳銃をつきつけた。つまり、自滅を図ろうとしたのだった。
「僕のかちー!」
キャビットの方が早いに決まっている。サヴィーより先に拳銃を抜き、自分の頭に向かってスライムを発砲していた。秒の遅れでサヴィーは発砲している。
「2位のえびちゃんは僕のものだ!」
「・・・キャビットさん」
が、サヴィーはにこにこしていた。あれ?と思って後ろを向くと。
「あれ?いるろう君?」
彼があの落とし穴から自力で上がってきている。彼の体には発砲された跡もなく、ただ穴に落ちただけといったところだ。llLowはまだ脱落していなかったのだ。サヴィーの策士にまんまと嵌められ、自滅をしたキャビットの本当の順位は3位。
「あ、え、あー!ずるいぞー!夫婦揃って商品二つとも持ってくなんてー!」
「ちゃんと穴に落ちたIllLowさんをチェックしなかったキャビットさんの油断ですよー」
サヴィーはふわっとした表情で笑った。
「・・・後味が悪い」
知らない間に一位になっているIllLowは、納得がいかない表情であった。優勝商品はお金だが、自身が稼いでいる給料の倍もない。が、
「サヴィー、後で俺のもとに来なさい」
「う、怒っていますか・・・?」
「そのはしたない姿をすることは見逃せん、後で指導するからな」
と、いいつつも自身が着ている丈が長いコートを被せる。サヴィーはちっとも反省していないようだった。むしろお人形さんのことで頭がいっぱいらしい。
「・・・サヴィーは、俺より人形を抱いている方がいいのか?」
わざと、そう質問してみる。キャビットが意外という顔をしてその二人をみていた。
「できてたんだ・・・」
遅すぎる。サヴィーは顔を真っ赤にしてあたふたしながら答えた。
「だ、!って、IllLowさんとそんなに一緒に寝られないじゃないですか。さ、寂しくて・・・特に二人っきりの後の夜とか・・・とか・・・」
これにはIllLowが驚いた。スコープ・アイが焦点を合わせて動いている音が聞こえる。
「判った。寂しいのならしょうがない。・・・俺のいない日にはそいつに慰めてもらえば良い」
少し冷たく言い放っている。キャビットがくすくす笑っている。サヴィーが慌てて訂正した。
「や!違います!だって、えびちゃん可愛いじゃないですか!」
「可愛いとクールどちらが本質的に好きなのだ、サヴィー!」
「んもーIllLowさんってばー!」
しばらく彼らの話し合いはキャビットをくすくす笑わせていた。
「はーい、優勝おめでとうIllLow!」
手渡されたそのお金は、後に先輩の酒代へと還元されるのだった。
「はわぁ~えびちゃーん!」
サヴィーは颯爽と袋を取り外し、ふわっふわのそいつをめいいっぱい抱き締めた。インサイトがIllLowに耳打ちした。
「まさかモウニング達を負かせるなんて、すごいね。なにやったの?」
「・・・いいえ、特に」
さらに上手だった彼女に、聴いてください。心のなかで呟いていた。ルナとミントは、S.KILLER メンバーの帰りを待ちくたびれていた。
「おーい腹減ったぞ~!飯だ飯~!」
「ルナってめぇwwwwwwピンクエプロンねえわwwwwwwひっでぇ!」
ハスキーが大爆笑。なんとミントとルナ、加えてジョイが夕御飯の段取りの手伝いを料理人たちの指示をもらってやっていた。
「盛り付けだけお手伝いさせてもらったぜ。明日は俺たちもなんか参加させろよ?」
それぞれの場所に座布団がしかれており、長机にはミニ鍋つきの豪華な夕食が並んでいる。
「明日は組手を行う。誰と戦いたいのかきちんと予定を組むんだな」
と、ジョイが返事した。
「じゃああーんまりお酒は飲めねえなぁ」
ルナがそう呟いた。IllLowとサヴィー、加えてモウニングもぎくっと心のなかで動揺した。
「酒を目の前にしてそういってられっかー!!」
ハスキーが酒に手を伸ばす。ルナと交わしあいがはじまった。そこにミントもジョイも混じり始める。ミントは後で悲しいことになるだろう。サヴィーはほっとする。隣には彼がいる。意識しなくとも肩がふれあっていることに時々きゅんとする。
(肩って、すごく固いなぁっ)
IllLowは気を聞かせて他の人たちのミニ鍋に着火マンで火をつけている。
「あ、ありがとうございます」
「あ、サヴィーあんた部屋一緒だからね、俺と」
と、インサイトが言った。一瞬サヴィーが一時停止したが。
「いやです」「なんでよ?」「兄さんモウニングさんと寝ればいいじゃない!」「あんた誰と寝るのよ?」「あーんもー!うるさいなぁ!!」
勢いよく立ち上がっては、顔を膨らませてサヴィーは言った。
「この際だから言うけど!あたしはIllLowさんと付き合っているの!兄さんは引っ込んで!」
今度はインサイトが立ち上がった。
「はあああああ????!き、きーいーてーなーいーぞぉーそんなことぉ!!」
「だーれが言うもんですかべーだ!!」
「本当なのIllLow?!」
「すみません、」
「兄さんは恋人と寝られるでしょ??いーじゃないお泊まりくらいちょっとはちやほやしたって文句ないじゃない!」
地団駄。さすがのIllLowも止めた。手をもって座れと促す。仕方なく座る。
「・・・IllLowあとでちょーっと、時間ないかな~?」
「ええ、「行っちゃダメ、きっと捕まっちゃう」
「すーるーかってんだ、甘ったれジョーズのクソ後輩が」
「クソ言うな、さっさとちぎれ下半身のそれ。女になっちゃえ」
「あんたねぇ!!?」
「いつ男やめるの?交配できないでしょ?兄さん子供ほしくなーいのー?」
「こんの、」
インサイトの手元にあったお水がサヴィー目掛けようとしたが、それはモウニングが止めた。それからこういった。
「さっきからなんだ、その会話は。仮にも妹だ、優しくせんか」
「こいついっっっっっつも甘えちゃんで人の言うこと聴かないんだって!」
「私の言うこと聞いてくれなかった兄さんなんでしょ、おあいこです~」
「・・・サヴィー、」
IllLowがため息をつきながら名前を呼んだ。
「司令官に不満を直接ぶつけてもらちが明かない。俺が交渉しよう」
「え?ぅ、そんないいです!」
「いや、俺もサヴィーと寝たい」
インサイトの手元からお玉が滑り落ちる。あっちのお酒と酔いまわしでのおバカトークが平和的だ。
「司令官!条件は守ります。隣で布団をくっつけて寝させてください」
「・・・それを一番やめてほしいんだけど」
「夜這いはしません、俺からは」
「サヴィーが仕掛けたら応じるんだ?!」
「ええ、状況によりますが」
「ぜーったいさせない!!つかあんたらどこまでいってんのさ?!!」
「初夜は交わしました」
今度はお水が入っているカップを手から滑り落としたインサイト。膝元がびしょびしょになる。
「い、つ、な、の、さ・・・?」
「サヴィーが、初めて潜入した時期に。彼女の病気をもらい、治療人がふえればそれだけ博士たちの仕事も捗るだろうと」
「そんないーいーわーけーはきかない!!!」
「ほら、兄さんが逆に私に甘いんだからダメなのよ」
「サヴィーの言い分も聞いてやったらどうだ」
「まってよあんたら高校生でしょ・・・?」
「IllLowさんの何がだめなの?!そこらへんのガキんちょ男子よりずぅ~っと、大人でしょ?!」
サヴィーがIllLowの腕にしがみついた。その感触はもう充分慣れてはいるが、意識しないわけではない。膨満なバストがぴっとり腕にくっつく。少々照れながらもそっぽを向いて酒に手が伸びるIllLow。インサイトはそのリアクションを見逃さなかった。
「体目当てじゃないよね」
IllLowがそれはないといった表情をした。
「それはありません。彼女と出会ったときはまだ幼年期でした。ここまで発育の優れた女性になっていたことがむしろ驚きです」
「IllLowさんがここまでイケメンになってのが誤算です」
「悪いか?」
「悪くないですけど・・・ほら、高校って、かっこいい人がやたらモテるというか・・・ライバルが多くなるし」
「?増えるのか」
「事実私は部活で女子からすっごい睨まれてましたもん!」
「それは不憫だったな」
実の兄の前だろうと、IllLowのサヴィーに対する所作は変わらない。サヴィーがしがみついている腕を起こして、そのまま右ほほに触れる。顔を少し火照らせるサヴィー。
「お!お?!ちょーうラブラブじゃねえかよ!」
あっちのヤジが反応した。ハスキーだ。ルナもまだ酔っぱらっていない。まだシラフのままだ。
「IllLowあんた、まさか・・・!」
「狙った得物は多少強引だろうと頂きます。つまりそういうことです」
「い、IllLow!サヴィーに変な薬とかあげてないでしょうね?!!」
「恋の魔法ならかけました」
自信満々に答えられた。モウニングがくすっと笑った。
「私にも教えてほしい」
「師匠なら心得ているとおりますが」
「俺も魔法ならいくらでも持ってるぜ?」
とルナが言うときつい視線をかえすインサイト。
「あんたは恋の麻薬だろーが!」
言ったのはミントだった。
夕食は終わり、インサイトは仕方なくモウニングと寝ることにした。
「大人だねぇ、サヴィーも・・・」
「・・・止めた方が良かったのだろうか」
「・・・あとで泣くのはあいつでしょ。IllLowも、それを承知で彼女と付き合っているなら・・・」
「・・・サヴィーはあの件のことを知らない」
「?!・・・まぁ、話せるようなことじゃないもんね。・・・はぁー可愛そう」
インサイトとモウニングは、少し広いふすまの部屋にいる。畳みに布団をすでにセッティングしており、バルコニー近くにおいてある花柄のきれいな背もたれつきのイスに腰掛けている。二人とも早めにあがって、手元の準備をしていた。その花柄のイスをあと2つくらい増やし、来客を待った。
「失礼する」
入ってきたのは、髪を上に束ねているジョイだった。それと続いて、IllLowも入ってくる。ジョイの手には大きな分厚い本が手に取ってあり、IllLowはスマホを片手に、何かの準備をしている。
「手短にお願いします。サヴィーが奇襲をかけるみたいですから」
「ったく、俺にももっと早く知らせろっての・・・!えっと、ジョイさん」
「言われたものは持ってきた。これが全てだ」
ジョイが持ってきたのは、彼女が携わっていた、電子治療の針に関する設計書とマニュアルだ。どうやら統合された書類らしい。短辺とじされており、2ヶ所の穴に糸を通してある簡素なものだ。片面印刷で、めくれば次のページがみれる。
「かなり厚いね。・・・あ、設計書までとじてくれたんだ?いいの?」
「S.KILLER の情報セキュリティがどれ程のものかを、私は知っている。だからすべてを公開しよう。頼んだぞ?」
「ありがとう!くれぐれも、社外持ち出しはしないから、安心して」
ジョイとインサイトは、かつてはS.KILLER のIT構築に長い間、携わって共にぶつかり合い、良いものを作ろうと切磋琢磨した仲だった。仕事の場所や成りが違おうとも、彼らの関係の基盤ほど、突破できるものはないのだ。
「IllLow、」「こちらです」
今度はIllLowのスマホが、小さな茶の間によくある、低い机に置かれた。刺繍が細かいシルクの上に、白いスマホが映像を流している。
「これは、俺のスコープが録画をしたものです。映像は、バイオロジテックスの所有する専用危機によって抽出されます」
「加工は?」
「生の情報のままです。俺の見たものそのままを保持しています」
『な、なんなんだてめえらは?!!』
映像の音が流れ出した。
『グマ鳥を利用した、レッドグランテス共和国、有毒攻撃の疑いで貴様を連行する。裏はとれている、言い訳は効かない』
『ひいっ!!』
「まるで映画のワンシーンみてぇだな」
ハスキーが楽しそうに見ている。
『や、やめてくれっ・・・!お、お願いだっ・・・!』
その男は白衣の服をしている。頭をよく見ると、ジョイが反応した。
「刺されているな」「あの針って、どんな使用方法があるの?」
インサイトがすかさず質問した。ジョイはその映像を見ながらも答えた。
「2つ、使用方法はあげている。1つは電気治療。最近流行りの鬱病や痴呆など、彼らの頭は健康的な脳と、シナプスの動きが違うことを発見している。その癖となってしまった回路を、時間をかけて変えてゆく。研究では、頭がスッキリしたという患者さんが多数、丸印を押してくれている」
「なるほど、だがこの動きはその使用法とは違うようだな」
『や、やめてくれっ!ああっ!!!?』
映像は、IllLowの視点そのものだ。その白衣の男は、自分自身の腕をつかんではいるが、次第にもう片方の手がその行為を止めた。白衣の下には、ベルトに無数の爆弾がつけられていた。左の手には、握って押すボタン。
『自爆か、』
映像の中のIllLowが、とても冷静にコメントをしている。
「そうらしいな。もうひとつの使い道は、身体制御。明確な目的は、例をあげるとするなら脊髄をやられた患者さんだ。足が動かない、からだの半分が動かないといった、何らかの損傷で神経から途切れてしまった体への制御信号を、あの針の天辺についている丸い玉。・・・あれがコントロールの中枢部となって、媒介となる」
「俺にも必要になってたかもな」
ハスキーはそういった。彼の右目半分は、発砲されてやられたもの。脳の一部分を吹っ飛ばされても平然なのは、ある意味奇跡と言える。
「脳や脊髄が損傷しても、体を動かせるのはすばらしいが・・・」
「悪用されると、こうなるな」
モウニングのコメントとともに、ジョイが最後にしめくくる。映像の男は、スイッチを押して、腹から爆発し、残ったのは足だけとなっていた。IllLowの視点の映像はそこで止まっている。
「くそー自爆されたのかよ~!」
「せめて針がのこっていれば、そこの製造番号から買収者を割り出せたのにな・・・」
ハスキーが深くイスに座り、ジョイは自分の頬を支えるように手を添える。
「グマ鳥に刺されていたものだったら、保持してるよ?」
インサイトがそう言うと、ジョイはしめたと顔を緩ませた。
「よし、それをもって帰らせてもらおう!道中狙われる心配はない。ルナたちと帰る予定だ」
「いや、ルナは信用できん」
モウニングがすかさず突っ込んだ。
「なに?」
「前回のギャングの大ボス、あのときあいつ寝返ったからね!?」
「ほう?!」
今まで話をしていなかったブランクによって、話はそのまま盛り上がった。インサイトのLINEが鳴る。
『かえせ』
サヴィーのスタンプが、呪いの看板でこう書かれていたのだった。
「い、IllLowは先にあがって良いよ!後で映像のデータは送ってね!」
「失礼しました」
「はーい!みなさんお早うございます!」
朝礼が始まった。食卓には、ご飯に味噌汁、今が旬のサンマがおいてある。紅葉で山全体が真っ赤な葉に染まっている景色は、なかなかのものだった。鬼たちがカモフラージュして遊んでいる。
「ガラスの向こう側だと、けっこう可愛く見えるくね?」
「あー、目の前に来たらちょっとこええかもな」
ルナとハスキーがぼやく。インサイトはというと、昨日ジョイから貰った資料を早速連写、PDF におとしては画像文字認識のソフトにかけている。
「兄さん、ご飯中にパソコン持ってこないで」
サヴィーが目じ倉をたてる。サヴィーは昨日はとても疲れていたので、特になにもなくそのまま寝たらしい。
「昨日は楽しかった?」
「兄さんってほんっっと嫌なやつ」
「何度でもいえ」
朝から喧嘩だ。ジョイは食卓でご飯を頂戴している彼らに向かって、こう述べた。
「二日目、昨日は早速サバイバル体験をしてもらったが、頼もしい結果になったな。それでは、今日は組手を行ってもらう」
「よっしゃ、俺らも参加できるぜミント~」
「俺パス、なんかしんどい」
「酒か」
「てめえが飲ますからだろヴォケ」
あっちでも火花がちる。
「組手の相手は一対一を原則に。双方の力があまり格差なく出来るように、強いものは進んでハンデをしてやってくれ」
「いいねえハンデ。さじ加減はどのくらいよ?」
「向こうが多少きつい程度に抑えてくれ。ルナは大得意の手加減ってやつだ」
「いいぜ。試合ルールはなんでもいいんだろ?」
「もちろんだ。盗みでもハントでも、ルールをきちんと定めて戦ってくれれはな」
「おっけー」
ルナの顔がにやついた。あいつとは戦いたくない。
「サヴィーちゃん、俺と組み手しよーよ」
新人にちょっかいを出すのが彼のイヤーなところである。サヴィーは肩を怒らせて一度反応した。
「・・・断って」
インサイトが耳打ちするものの。
「良いでしょう、やりますよ」
凛とした表情で、そう答えた。
「あんたさぁー!あいつほんっとに太刀が悪いから!」
「知っていますー!」
IllLow の心配度も高くなる相手だった。何せ相手は女を手玉にとることのプロ?だ。一途な女性でもかまをかけられると揺らぐ程度の魅力と、強引さを兼ね備えている。それに似合った容姿もある。笑えば死神、睨めば蛇。
「思っていましたけど、貴方ってIllLowさんと少し、容姿が似ていますよね」
「俺があいつに似てるんだよ♪」
「ばっかじゃねーの?」
ミントが横から入ってくる。
「私、貴方よりIllLowさんの顔が好きですから」
喧嘩腰にはいるサヴィー。ルナの火に油を注ぐ。口元が危ない笑みを作る。
「そそるぜ、サヴィーちゃん」
「っ!」
サヴィーはちょっと顔を赤らめた。更に心配になる。インサイトが肘を机について頭をもたげる。ハスキーはのんきにサンドイッチをはむはむしている。
「確かにあんな奴よりずっとIllLow のほうが安全というか・・・」
「何であいつと組手をしようと思ったんだよ?」
「サヴィーの弱点は、口説きや誘惑もあると思っているのではないでしょうか」
IllLowが見解を述べる。
「なるほど、それで口説きのプロレスラールナを相手しようと・・・」
「略語ちっげぇwwwwwプロフェッショナル!!」
「ちゃんと満足させてんのかよ?」
ルナがIllLowの元に来た。
「俺は女心に隙があったら、簡単に掬い上げちゃうぜ?」
「お手並み拝見と致しましょう」
動じることもなく、そうてきぱきと返事した。ルナにとって相性の悪い相手になりそうだ。
「言うねぇ~?」
朝から火花が飛び散る。ジョイは肩をおろす。
「こんな集団をまとめるのには、胃に穴が開きそうだな・・・」
「苦ではない」
モウニングがさらりと言った。
「はい、組手を発表しようか!ハスキーとミントペア」
「はい!」「うっす!」
「IllLowとモウニングペア」
「はい」「うむ」
「サヴィーとルナペア」
「はいっ!」「おう」
「キャビットとインサイトペア」
「はーいっ」「よろしくね」
「それぞれのルールに乗っ取って、試合をしてくれ。大原則は、一対一であること!他のメンバーとチームを組んで戦わない、以上だ」
それぞれが、持ち場へと離れていった。
「そーだよな!あんとき以来の戦いじゃね?ミントさんよー!」
「あのときはまだ俺も初々しかったですね。青かったです」
ハスキーとミントは、一度仕事の都合上で敵対同士になったことがある。それはミントが探し求めていたモノを取り返すために必要なことだった。
「お互いが初めましてでしたから、仕方なかったんですよ!それもこれもルナが先に伝達してくれなかったのが悪い!!」
「矛先はアイツかwww」
2人は持ち前の頼もしい武器で、ガチンコ勝負を企てるようだ。ミントははなから本気モード、灼熱の翼へと変貌した。
「おー!火力上がってね?」
「ガスコンロみたいな言い方しないでくださいよ!」
いきますよ!と意気込んでの飛行。ハスキーは身構えた。熱気がある程度の距離でも伝わってくる。至近距離になれば、火傷も考えられるだろう。
「こんがりチキンじゃねーかよ・・・」
ぼそりと呟いた。ミントが空で旋回をして、こちらに急降下してきた。ハスキーは最も愛用しているオオガマを構えて、相手がかかってくるまで振り上げなかった。ミントはそのことも解っていた。
「食らえ!!!」
ミントが急降下しながらも回転しつつ、飛び込んでくる。ミントの羽が火の粉となって降り注いだ。
「げぇっ!?」
ハスキーは驚いて飛び退いた。地面に火の粉の跡がつく。いくら錆や熱に強い鉄を組み合わせて加工したオオガマでも、へこみはさけられなかった。
「こんがりレッドチキンじゃねーかよ・・・」
名前が変わる。ミントは聞こえていない。
「どぉーだ!」
自信満々にそう遂げる。ハスキーはがっはっはと笑ってはオオガマを地面に落とした。
「?」
「俺のもーひとつの武器、教えてやるよ」
ハスキーは拳を握りしめるときに、太い針が剥き出しになるナックルを装着した。
「俺の唯一の武器は、俺自身だ!」
ミントはそのハスキーの自信たっぷりの笑顔をみて、当時に戦った彼の顔つきを重ね合わせた。
かわってねぇな、やっぱすげえや。S.KILLER 。
「火傷しますよ!」
ミントはもう一度、飛び立った。
「まさか俺の誘いに応じてくれるなんてよぉ、ちょっと意外だぜ」
サヴィーとルナは、森の茂みに入っていった。草木が太腿らへんまで延びている。ルナがあちこちに目を配らせながらも、先先いくサヴィーの後ろ姿を伺った。
「どこまでいくんだよ?」
と、呼び掛けた瞬間、ルナは立ち止まった。彼女が振り向いて拳銃を構えているのだ。
「・・・ルナさんは、兄さんとも、姉さんとも寝たことがあるんですか?」
「あ?」
「ちゃんと真面目に答えてください!」
サヴィーの目は、表情が変わらずとも怒りを顕にしていた。ルナが一度ため息をつくと、頭をかきながらも言葉を選んだ。
「そうだぜ。俺はインサイトとも、クレセントともヤったけど?なんでそんなこと聴くんだよ」
「貴方って、それでも兄さんたちと仲良くする資格があるんですか?」
「セーフーレ~!な?クレセントとはそういう関係だったし、インサイトは一時期愛し合ってたし?」
「きもっ」
実の兄がこんな奴と愛し合っていたと考えると、虫酸が走る。サヴィーは強めにそう言った。ルナは鼻で笑った。
「サヴィーちゃんとも寝れば3人制覇だな」
なにそれ、キモい。
なんかのステータスとでも思ってんのかよ。
こんな奴、この場で殺してしまったほうがずっとマシじゃないの??
「目が殺すって顔、してるぜ?」
ルナの余裕の表情も変わった。
「そんな顔されちゃあ、俺も本気モードじゃねえとな?」
彼の片腕から、鋼がメキメキと伸びる。
「後悔すんなよ?泣き脅しは効かねえからな??」
誰がてめえなんかに泣いて媚びるか、下半身ナルシスト。
「お手合わせ願います」
サヴィーは満面の笑みを見せつけた。ルナの気が一瞬緩んだ。
「っ!?!」
とっさにルナはその場を離れた。全く関係のない方向からの攻撃をくらったのだ。それは銃弾だったらしく、地面に当たっては砂煙をたてている。
「あん、だよ?」
「兄さんに借りました、」
彼女の手には拳銃ではなく、手首になにかスイッチがいくつもある時計?を身につけている。
「遠隔操作用の、設置型銃です。兄さんが試験的に、今回使わせてくれるって」
「あんのやろ!妹に肩貸しやがって・・・!」
「いいえ、違います」
サヴィーはにっこり笑った。
「ルナさんと勝負に当たった人は、是非使って欲しいって。次から裏切られたら、どうやって穴だらけにするか方法を考えてるって!」
「・・・」
クソッタレ。舐めやがって。
「じゃあ至近距離で戦えばいいんだな?!」
ルナが一気に距離を詰め寄った。サヴィーが次に出したものはというと。
「っ・・・!?」
直感的に避けた。それでよかった。
「あ、惜しいですねぇ」
彼女の顔色が変わらなかった。何故なら至近距離用の武器も、ルナ対策用のものだったからだ。マシンガンと小型ナイフが一体化している武器だ。かなり重そうには見えるのだが、彼女はそれを意とも簡単に振り上げたのだ。ルナは右の肘をかすった。試しに鋼をかすった所からだすと。
「・・・なーるほどな」
鋼化から、戻らなかった。
「どのみち傷を負って、止血用に鋼化したら戻らせねえと。・・・くははははっ!こりゃいいぜ?!鋼が解けねえと俺は死ぬんだしな!?・・・で?」
ルナが左の大きな鋼をしまった。サヴィーは構える。
「俺がその弱点を何時までも抱えてると思うなよ??」
ルナが全身鋼化をしている。サヴィーは驚いた。鋼が解けなかった場合、鋼族では死を意味するからだ。自ら死ぬのか??
「・・・えっ?」
違った。ルナは、鋼を皮膚の部分だけ、巧妙に被うように生成したのだ。チクチクしたトカゲさん?とサヴィーは心のなかで思った。
「ちくちくっ・・・」
呟いてるよ。体の間接部分が、唯一覆われていないところ。そこを鋼で覆ってしまうと動けなくなるのだろう。
「どーだ?!これでてめえら姉妹の企みは打破できるだろ?!まだ開発中の技だけど、サヴィーちゃんには内緒で公開してやるよ?」
でた。貴方だけ特別ってやつ。
「・・・兄さんに黙ってるとでも?」
「いーや?むしろ悔しがって貰いたいから教えてやってよ」
「なにそれ、自分でやってください」
「あ?めんどくせえ」
「・・・」
この人、しぶといわね。
でも、ミントさんが彼を信じられる理由がここにあるのかも。
何がなんでも、生きてやるって生きざま。
「・・・私に降参させたいみたいですね」
何がなんでも、私だってあんたに一泡ふかせてやるんだからね。
「まだまだですね」
サヴィーは怯まず、体勢を低くして走り出した。ルナの渾身のパンチが振りかざされる。サヴィーから見れば、それは体の重さについてゆけない拳の動きでしかなかった。下へ掻い潜り、左足の間接部分を狙った。
「っ!??」
容赦がなかった。サヴィーが与えた攻撃は、鎧から僅かに露出している間接部分の隙間をめがけて、針を刺したのだった。
「ぐぅっ・・・!てめぇ!?」
膝から折れて、地面についた。サヴィーは身軽に地面を転がっては立ち上がる。
「くははっ、やっべぇもう終わりそう・・・www」
「私の特訓にならないじゃないですか、もーう」
サヴィーがその遠隔用の武器を外す。
「効果はまちまちって兄さんに報告しますから、もーその重そうな鎧といて、普通に戦ってください」
「・・・あのよ、」
「なんですか」
「この鎧な、一回使う暫くはとれねえのよ」
「はああああっ!?」
サヴィーが至近距離用で使っていた武器のナイフの部分で、ルナを好きなだけ叩いた。鋼は硬くて全く歯が立たないのは知っているが、腹いせだ。
「貴方って!!見通しのない作戦で!!時間も潰すし!目的も忘れるし!ほんと!!だらしない!!最低!!下半身ナルシスト!!!」
そんなこと思われてたのかよ?
「わーったわーったから!ジョイさん呼んでくれよ!あの人なら鋼を解く薬持ってるからよ!」
「だーれがあなたのパシりになりますか!自分で!自ら巻いた種ですよね!?もーっ!!もぉーーっ!!!!」
地団駄を踏む彼女。
「サヴィーちゃん大人しい子かと思ってたぜ・・・」
「帰ります、頑張って下さい」
「おーいおいおい、まてまて、俺をおいてくな?おーい!!」
サヴィーはお片付けをしてから、さっさと帰ったのだった。
「・・・」
と、歩きながらふと気がついてしまった。
「私って、あんなふうにIllLowさんに言ったことないかも・・・。そもそもだらしのないところなんてIllLowさんにはないし・・・」
でも不満がないことが不満になるなんてこと、あるの?今は私が勝手に彼を好きだから、そんなことないかな。
「・・・今晩、ちょっとIllLowさんに我が儘いってみようかな」
口説きのプロレスラー・ルナ。侮れない、かも。
ところ変わってのIllLow とモウニングは。
「・・・はぁ、」
割とガチめな鬼ごっこをしていた。時間ないに、IllLow が逃げ切れればIllLow が勝つ。捕まればモウニングが勝つ、というルールらしい。捕まる、というのは生け捕りだ。抵抗して逃げ切れればそれはカウントされないのだが。
「・・・どこからくるんだ、師匠・・・」
緊張が半端ない。視界だらけの森のなかで、ただひたすら身を潜める。
「ぅっ!??」
木の上から、奇襲をかけられる。見事にIllLow の背中へと着地し、彼を背中から封じ込めた。が、IllLow も負けじとモウニングの拘束から逃れようとする。
「くっ!!」
手を捕まれるに、拳銃に手を伸ばす。自分の背中後ろへ、当ても予想で発砲したのだが、狙い目は良かった。モウニングはその銃弾を間一髪で避けるのだった。
「ちっ」
モウニングは飛び退くしかなかった。IllLow は背中が軽くなったと感じとり、素早く立ち上がる。
「・・・どうした、逃げないのか」
「・・・逃げていたって、どこから奇襲をかけられるのかが解ったものじゃありません」
お互いに向き直った。
「それなら、目のなかに収まっていた方が、攻撃も予測しやすいです」
「・・・後悔するぞ」
結論から言わせていただくと。
「休みに来たのか戦争しに来たのか、わからなくなっちゃったね」
インサイトとキャビットは純粋にババ抜きをして、楽しんでいるのだった。
「あーっまけたーっ!!んもー!!もいっかい!!」
「ったくー、ちゃんと手札読んでやるんだよ。二人しかいないババ抜きなんて、手札なんか見え見えでしょ」
「予測は苦手だからさぁー」
「だめ、キャビットはそこが弱い!」
「ぶーっ!」
「ただいまー」
「あれ?早いねサヴィー。どうだった?」
「拍子抜けです。ルナさん、自分の弱点を知ってて、今は開発中の鎧の鋼を披露してくれましたよ」
「はあっ!?ダメじゃん銃の歯が立たないじゃん!」
「ま、あれが実現出来たとしても、兄さんの敵じゃないですよ、ポテトヘッドなんか」
「ぶっ!言うようになったねー」
インサイトは悟った。こちらが手を打つだけ、馬鹿馬鹿しいということに。
「・・・兄さん、」
「なに?」
「セフレだったの?」
あたりがしんとした。ジョイの手元が止まり、いやキャビットはババを所持しているインサイトの手札から、どれを選ぼうか悩んでいるようだ。唸りながら。
「な、なんでいきなりそういう話になったの?」
「聞きましたよ、兄さん寝るとすごいんですって??」
嘘だけど。どーせすんごいことしてるんでしょ?私も人のこと言えないけど。
「あのさー、聴いてどうするの」
「彼うまいの?」
「はっ??いや、基準を知らないんだけど?うまいか下手かなんて基準は」
「じゃあモウニングさんと比べて!どうですか?!」
「やけに食い下がらないねー!」
「で?」
「とったよー、次インサイトさんの番!」
インサイトがキャビットから一枚選ぶ。ペアなし。一枚手札が増える。
「・・・誰にも言わないでね?」
「IllLow さんには喋っちゃうかも」
「・・・さいっこうに、やばいよ?」
「何が?」
「全て」
「答えになってません」
「ゲイだからって、どんな男にも抱かれたいとかはあんまり思わないし、むしろそういう人はほんとに稀なんだけど、」
「はいはい、ルナさんは誰とでも抱いてくれるのですね?」
「どうだろう?あいつにもダメな範囲はあるんじゃない?」
「顔で選んでるのかなぁ・・・」
サヴィーは頬杖をした。
「何気に俺ら兄弟は美人だしね。自負はしている」
「やっぱり?はー」
「わからないよ?俺なんかゲイにはあってほしいだろう体力とかボディービルとかないもんだからさー」
「誰でもいいんだ、やっぱり」
「そうかなー」
「私と寝れば3人制覇とか言われたんだけど」
「・・・あん?」
インサイトがキレた。
「はぁっ!?!?俺の妹をそうゆう??!はぁぁぁマジで殺す!!」
「ルナさん僕とは寝られないのかな?」
キャビットのその台詞に、飲んでいたジュースをつまらせるジョイ。サヴィーはくすっと笑った。
「キャビットさんはそうゆうのとは無縁そう」
「えっ?」
「あー確かに。あのグマ鳥の子とはそーんな風には見えなかったし」
「え?」
「愛喪場ちゃん。あれからちゃんと連絡とってるのー?」
「うん!たまに僕のおうちにくるよ!」
キャビットはふわふわと笑う。
「抱いてると暖かくてすごく気持ちいいんだよーもふもふぅってしてて!喪場ちゃんは僕の尻尾から離れないよ」
「あーかわいい」「グマ鳥飼いたい」「動物トレーナーに相談したら?」
ゲームをしつつも、それな話をするのは今回が初めてであるが、キャビットは確実に意味を解っていないだろう。
「喪場ちゃんたまに攻撃的になるよ」
「ふーん?」
「羽を逆立てて、すごくぷりぷりしてるよ」
「へー」
「すごく体をこすりつけてくるんだよねー」
「それ絶対求愛行動だよ」
「?」
愛喪場ちゃん、がんばれ!
2日目の晩。一番怪我をしていたのはルナ。その次にガチンコをしていたのは。
「もーモウニングったら!大真面目に喧嘩しなくてよかったのにー!」
「ひさびさにジョイに指導していただいて、気合いが入った。すまない」
インサイトが深い切り傷に、丁寧に消毒液を塗っては包帯で優しくまいた。少し顔をしかめるモウニング。IllLowもそれは同じだった。
「お風呂は入れませんね、IllLow さん」
皮肉っぽく、サヴィーは言葉を漏らした。
「・・・すまない」
「いいですっ!痛くないですか?」
「ああ、ありがとう」
ルナは羨ましいと唇をかんだ。
「ミントぉー」
「サヴィーさんから聴いた、じ・ご・う・じ・と・く、ってな!!!」
「ミントォ~~~!!」
「自然治癒でがぁーんばぁー!!?」
冷たい。少し気の毒に見えるサヴィー。インサイトはざまあ、と言いたげな顔つきだった。
「助けてくれぇ・・・」
「かわいそう、恋人からも見放されて!」
「インサイトてめえ後で夜這いしてやるからな」
「ほう?」
モウニングの手から短剣が出てきた。
「まて、ジョーダンだっつの!」
「貴様は人を騙すことが解っている。キャビット、IllLow」
2人は名前を呼ばれて、ルナの前に座った。
「もう一度問う、インサイトに夜這いだと?」
「あーれーはー!嘘だっつの!!俺が他人の恋人寝とるってか?」
「ひとつ証言しまーす!サヴィーと寝れば3人制覇だなんて言ってましたー!」
インサイトのヤジが飛ぶと、今度はサヴィーが悪ふざけでわんわん泣き脅しに出た。IllLow のスコープが焦点をあわせる音をたてる。もちろんキャビットもIllLowも、ルナがただ単に冗談を飛ばしていることは2人の目で判ってはいる。が、
「寝とる、か」
キャビットとIllLowが、お互いに目を会わせた。それからお互いに唱えた。
「こいつ、嘘ついてる~!」
「黒です。呼吸の動機、脈拍ともに上昇しました、そのあと緩やかに静まっている。これは典型的嘘つきの症状です」
「てめえらが嘘つきのはじまりだぁぁぁぁあ!!!」
「よかろう、有罪!」
モウニングが物騒に短剣と探検の歯を噛み合わせて、嫌な音をたてる。
愉快な休日であった。大丈夫、死人は出ていない。