「・・・はぁ、退屈・・・」
一つの大きな部屋に、たくさんの店が集まるおおきなお店・・・というくくりにあるこのでっかいデパートに、俺はぐだぐだ下の階が見れる場所で相棒を待っていた。正直かれこれ、4時間はこの店をずっとぐるぐる回っている。
「んなこと言うなよ、辛抱強さもたまには必要なんだぜ。ここの仕事はよ」
後ろから声がする。ルナだ。
「うっせぇよ!お前はなんで仕事中に買い物楽しんでるんだよ!!」
ルナの手には、いくつもの買い物袋が下げられていた。しかも全部服。
「いいからお前もなんか選んでこいよ?俺の渡した金じゃあ満足に買い物も出来ねぇってか?」
「5万も渡すバカがいるかよ・・・服でも買えってのか?俺も!」
「選べねぇんなら俺もチョイスに手伝うぜ?」
「っせーよ!大金を服に費やすなんてもったいない!」
「おしゃれは基本♪好印象を持たれるためにぁまず見た目から!」
「へーへーそうですか・・・」
「見た目の印象が悪くて中身をどう知ってもらうんだってーの?」
「・・・悪かったな、」
さっきの言葉は、意味が深かった。殺人鬼とか兵器とか、そういう看板を抱えて生きている人たちは、見た目で判断されているんだろうな。俺もその一人。ピピカ族だから金物にしか見られなかったりとか、な。
「さっきの言葉気にすんなよ?別に意味深で言ったわけじゃねぇぜ?」
「心配なんかしてねぇよ、ボケ」
安心。ちょっとこいつといることに、抵抗がなくなってきている。まだ羽化と飛行の練習をいれられる日がないらしい。今週いっぱいは仕事の大詰めだから、それが片付け終わったあとに、誰にも見られることのない草原に行くらしい。そこでのんびり、羽化して飛行練習させてもらえるみたいだ。
「あと、俺も仕事のことをちゃ~んと覚えてるからな?」
ルナが服の買い物袋を手渡す。俺はその買い物袋の中身を見て、ぎょっとした。
「おい、これ服がもったいないんじゃ・・・!?」
「カモフラージュも必要だぜ?ばっちりだろ!」
「・・・楽しんでるな、このステージってこと。一歩間違えば一般民巻き込むってーのによ」
「巻き込まれるだろうが、普通に。しかも今日はバーゲンセールで、いつも以上に人が寄り付く。こいつはけっこうな死人がでるかもしれねえなぁ・・・」
「・・・助ける気は、ない?」
「ねぇよ、邪魔なだけだ」
その時のルナの眼は、とても冷たかった。俺は下を向いて、そうかよ、と呟いた。
「おまたーっ」
後ろからもう一人の声が聞こえた。
「おっ、お前も買い物かよwwwで何を買ったんだ?」
「模型だよぉ、鳥族の腕の模型と、あと蛇のクッション!高性能だろぉこれ柄もかわいいしねっ!」
「あの時の鬼畜な雰囲気とはまるで別人ですね、hi0さん」
「えー?買い物は男の息抜きさっ♪」「わっかっるー!!www」
この二人、妙なところで馬が合う。ルナは服に金を費やして、hi0は・・・そうだな、模型やら宝石やら、あとよくわからない不気味な爬虫類のぬいぐるみやら、趣味が極端に違う。
「んじゃ、今回の業務内容完遂、よろしくっ♪何かあったら僕に連絡してねー!」
hi0はまたどこか違うお店へと消えていった。俺はため息をついた。
「今回の依頼主があんなにアバウトで、拍子抜けです」
「あいつもネジが緩い時はとことん緩いからなぁ、そこがいいんだけどよw」
と、ルナの雰囲気が一気に変わった。俺も周りに警戒をしてみた。
「いるな、ここに」
「!?」
言い切った。俺は眼をこらすけど、何も見えない。普通に皆が買い物して、楽しそうな家族連れも、カップルも、普通に買い物をしている。気配も感じられない。
「・・・どこに、ですか?その」
「ちょっとこれは届きそうにもないか・・・貸せミント」
ここは大型デパートの3階。もともとは8階まであって、それぞれ違うコーナーを設けている。ただその大きな店の中心部は空洞になっていて、そこの天井はステンドグラスで出来ている。とてもきれいなデザインだ。
「おい、ルナちょっと!?」
ルナはその空洞付近の手すりに乗り、細工してある服を買い取った袋を左手に持った。それから、左手が鋼化し始める。周りの見ていた人が、少しひやっと悲鳴をあげている。派手な行動にでているぞルナ!
「おい、どこにs」
ルナが飛び降りた。じゃない、飛ぶ際に天井のステンドグラスに向かって、その細工あり福袋を飛ばした。左手の鋼化した部分に、福袋をひっかけたのだろう。ルナはそのまま1階に着地した。そして上を見てこう叫んだ。
「ビンゴぉー!ふう楽しいっ!!」
その声を聴いて、俺は身を乗り出して天井を伺った。
「なんだあれ!?」
ルナの細工ありの袋には、大量のカラースライムが含まれていた。それはhi0お手製の商品。これはひっつくとなかなか剥がれないし、水でも落ちない。使う用途としては、例えばカモフラージュする生き物の生け捕りとかに・・・。
「カメレオンだあああああ!!!」
一人の客が叫びだす。一気に辺りは緊張と恐怖に包まれた。確かに、そのスライムを全身に浴びたでかいカメレオンの形状をした化け物が、8階の天井、ステンドグラスに張り付いていたのだった。ナイスルナ。
「hi0!お前の犬見つけたぜ!」
そのカメレオンは逃げるために、天井から降りようと空洞を落ちていく。ルナが全力で逃げて下敷きにならないようにかわした。地面が地響きを起こす。俺もよろめいた。速く1階に降りなければならない。こんな時に、自分が飛べたら・・・!
「ミント、来い!!」
「っ!?」
ルナがまたでてきて、3階にいる俺に向かって声を荒らげた。俺は躊躇もなく、そのままルナに向かって、飛び降りる。ルナが両手を広げて、俺を見事に抱きしめてキャッチした。すごい決断力。俺もよく信じて3階から飛び降りた。
「っ!!っしゃ」
「俺はどうすれば?」
「こいつを使え!」
ルナが服が入っていたはずの袋から、縄を取り出してきた。針付きの縄だ。これもhi0お手製臭がする。抵抗すればするほど針が食い込んでゆく仕様になっているのだろう。ルナがそれを躊躇なしに、そのカメレオンにぶん投げた。左足をひっかけたみたいだ。俺はそれを見て同じように、仕留めるように投げては左足を捉える。
「引っ張れえ!!!」
掛け声とともに、交差させるように引っ張った。するとスライムでカラーリングされた大きな化け物は、転んで仰向けになった。そのまま引っ張り続けて動かさないようにする。
「うわっ!?!」
「ミント!」
俺の体重がかるいせいか、そいつの左足が持ち上がる瞬間、俺も持ち上がってしまった。その縄を持ったままの俺は化け物のお陰で、宙に浮いて、壁におもいっきり体を打った。
「がはっ!!?」
「おいおい、まてよ・・・!?!」
ミントが壁に叩かれた。8階の壁まで持ち上げられてしまったみたいだ。そこでなんとなしに、かろうじて壁にひっかかってる。いつ落ちてくるのか判らない!
「ミントお!!?」
壁から剥がれるように、ミントが自由落下した。俺は走って走って走って、ミントの堕ちるところに、・・・行けなかった。
「食わせるかってんだ!!」
俺は飛びのいて、ミントが落ちる・・・あの化け物の口元の上を飛んで、ミントをキャッチした。おもいっきり地面にずっこける。ミントの肩を持って、顔色を伺った。
「・・・ミント、おい、しっかりしろ!!」
「・・・」
息は、ある。失神したか。死んではいないみたいだ、助かった。
「あ~ありがとう!あとは僕に任せてよ?」
hi0が奥の方から、今度はださいサングラスをかけつつもこっちに来た。
「オッセぇよお前。こりゃ人目につかずになんて理想は鼻からなかったんだな?あのデカさ」
「そうだねぇ、僕の実験体が抜け出す時点で、ひと目のつかない方法なんかなかったよw今やっている分野がビッグバイオだったこと、すっかり忘れてたわけじゃないだろ?」
「・・・・・・てめぇ、わざと逃して・・・」
hi0はうっすらと笑みを浮かべて、俺に言った。
「この実験分野に飽きたから、早く壊滅してほしいんだよねぇ。そのためには騒動が起きないと、ねっ♪」
hi0の手元に、きれいなダイヤモンドのペンダントがぶら下がる。
「僕の研究費を無駄にしたくないからねっ★」
そのペンダントが、化け物に伸びた。化け物が体制を整えた瞬間だった。化け物のおそらく、左の眼に突き刺さったのだろう。カラーリングスライムの色とは違う、赤い色をした液体がこぼれてきた。hi0はそのペンダントを引っこ抜く。するとそこから血の雨が降り注ぐ。化け物は悲鳴を上げて、前の手で傷を覆った。
「さぁて、どう料理しようかなぁ」
「愛着なんて湧かねぇもんなんだな」
「僕のために生きるなんて可愛そうだからね、さっさと殺しちゃうよ・・・★」
ペンダントが生きているように、動き回る。まるでhi0の意志に精通しているように、化け物の体に巻き付いてゆく。そして完全に拘束した。
「・・・!?!」
「捕獲、完了~♪っと、」
hi0が勢い良く、紐をさらに引っ張った。ルナは思わず釘付けで見てしまった。 そのバケモノが、綺麗に分割されてしまった様子を。おそらくあのペンダントの繋がれている紐は、普通の紐ではないのだろう。簡単にハムのように、スライスしていった。骨をも砕くその武器に、むしろ興味をもった。
「それ、まさかだとは思うけどよ?」
「秘密っ♪バレたらこの力をくれたところから追放令がでちゃうんだもんっ」
「・・・マジカルペンダント、ってか?」
「そそー、隠す気はないからいいんだけどねw」
外から警官の総動員する足音が聞こえてくる。そろそろ逃げないとまずい。
「よし、これで君たちの仕事はおしまいっ。報酬は後で振り込んでおくよぉ、サンキュね!」
「おう、楽なもんだんぜ。ちょっと相棒の体調が無事なんならいいけどな」
「・・・その相棒、」
hi0が立ち去る前に、ふと言葉を漏らした。
「今度、飛ぶ日はないかもね」
痛い、苦しい、体全身が軋むように痛い。砕かれたのか?バラバラにされたのか?でも俺の意識は、あれ?
「気がついたか?」
「・・・はっ、ルナ!っててて・・・」
「起き上がるなよ、まだ安静にしてろ」
ルナの布団の上。そうか、俺はたしかに医者に尋ねられると困るって前に言ったのだっけ。でも俺の体を、綺麗に治療してくれている跡がある。包帯とか、ギブス用のやつも・・・。
「・・・あれ、俺」
「調子はど~?」
ルナの部屋に入ってくる人影。俺はそれを見てぎょっとした。
「はっ、hi0さん?」
「コイツはいちおう医者なんだ。免許は剥奪されてるけどな」
「これでも経歴8年は医者だったんだからな?ばかにするなよっ」
「・・・変なことしてませんよね?」
「しなーいしなーい、ルナに嬲られることなんてされたくはないしぃ?」
「なっ・・・!?!?」
赤面した。今こいつなんて言った!?
「あっれぇー?その反応じゃあ、なにも知らないみたいだねぇ~♪」
「とって食う予定なんかねぇよ、バカヤロウw」
「ミントくんとっても真っ直ぐなキャラなのに、ルナが萌えないわけがないwwwww」
「センターだな、理想の」
「ふ、二人してなんの話なんですかっ!?!?」
「くっくくくくはははは!純粋じゃないかぁ!こりゃ手が出せないねぇルナっち♪」
「はい、治療費だ。報酬の半分は返品するぜ。だからさっさと帰った帰った!」
「いらないよぉ、男の子の体ひさびさに触れちゃったんだし、けっこう楽しかったからねぇ~・・・」
hi0が舌なめずりしている。ゾワゾワした。俺はまともじゃない人に治療されたみたいだ。寒気がリアルに起きた。
「んなら、問題ないな?手出しすんなよ?」
「あぁ、ちょっと気になる左腕の関節部分にある亀裂も治療したからね」
「!」
俺の左腕の挙動のおかしいのは、それのおかげだったのか・・・!
「しばらくの飛行は控えたほうがいいよ?少なく見積もって3日は飛ぶな。多く見積もって一週間はお預け。そんじゃね~♪」
バレてしまった。あの人に隠し事なんて通用しないんだろうな。ルナは少し大きなため息をついた。
「・・・hi0さんとは、仲がいいんだ?」
「ああ、まあな。種族のことをよく知っているし、あいつも自身を犠牲にして、研究を全うする奴だからな・・・」
「・・・俺のこと、実験対象になりかけた?」
「あ?ならねぇよ。アイツにとってピピカ族も鋼族も、もうとっくの昔にあった文献で90%把握しちまっているからよ。いらねえんだってさ、実験体は」
「・・・そっか、」
謎があの人に生まれたら、俺はどうなってたんだろうな。良いモルモットとしか見られないのか?
「調子はどうだ?さっきも言われた通り、飛行はもうちっと先延ばしになるみたいだぜ?関節を繋ぐために、安静はしておいてほしい、とのことだぜ」
「また面倒を見に来るのか?あの人」
「そんな余裕はないだろうな。俺が看病をするだけで大丈夫なところまでには持ってきてくれたみたいだ」
ルナが俺の頭を、ガキを扱うかのように撫でてくる。
「しばらく、お前の仕事はお留守番だ。誰かがピンポーンって鳴らしても絶対開けるなよ?居留守な」
「ったりめーだ」
前ルナがいないのに出ようとして、墓穴をほったことがある。ルナのお尋ね者は皆敵だった。本当にルナの知り合いなんて人が来るときは、ルナの方に一度メールをしてくるらしい。・・・ルナは危険な毎日と隣り合わせみたいだ。俺よりやばいかもしれない。
「んで、伸びに伸びての羽化と飛行練習だけどよ・・・」
「?」
「お前、もし飛んでここから出られるようになったとして、その次はなにをする予定だ?」
「決まってる!家族を探しに、ハスラーになるんだ!」
「ハスラー?」
「ああそうさ!密猟者をとっ捕まえて、家族のこと、皆のことを聞き出して、密猟業者を解体するんだ!」
「くははっ、そいつはお前一人じゃ重たい仕事だな、」
「うっせーよ、俺だけ生き残るなんて、フェアじゃねぇ・・・」
「・・・」
ルナは同じ種族のことを、そんなに気にかけていないみたいだ。むしろ会いたくないのかもしれない気がする。そんなルナにとって俺は、やっぱ変なのか?
「全うだな、」
頭をまた、撫でられた。
「なにもお前一人が、一族の思いを背負うこたぁねえぜ?・・・若いんだし、自分のために人生使いな」
「・・・」
ただ、なんだかホッとする言葉をかけられた気がする。体の節々の痛みはまだくるけど、気持ち的な重い部分は、軽くなった。
「さってと、今日はなにつくろっかな~」
「かぼちゃの煮物がほしい!」
「かぼちゃ?ああ、あるな。うっしゃ待ってろよ」
ルナが立ち上がって、そのままキッチンの方へ行った。
「・・・早く、元気にならなくちゃな」
ルナにお世話になりっぱなしだからな。