「さむっ・・・」
インサイトが呟いた。屋上の夜ほど、寒いところはない。今は寒さもピークに達している時期が過ぎているところ。夜はまだ凍える。
「まだ様子を見ているのか?インサイト」
屋上の扉から入ってきた人物が呼びかけてくる。
「んー。相変わらずハスキーがクリスマスツリーに隠れてはカップルを観察してまーす」
「あいつは仕事をしているのか?」
「それなりに・・・」
インサイトはハスキーを遠くから見ているのだが、これは野外活動。血もなにも流れない平和な仕事である。ハスキーはクリスマスツリーを片付けるお手伝いをさせられているらしい。それを屋上から毛布を羽織りながらも観察するインサイト。モウ二ングがコーヒーを持ってきてくれた。
「あ、ありがとう・・・」
インサイトの手がうまく動いていないように見えたモウ二ング。
「・・・?」
「ふぅっ、美味しい」
インサイトは毛布の中で温もりながらもコーヒーを飲む。モウニングはインサイトの手を観察していた。そして妙な音を聴いた。
「?インサイト、手を貸してくれないか・・・?」
「えっ、あ、ちょっと――――――」
モウ二ングは確信した。
これは生身のものではないと。
「・・・これは?」
「・・・だいぶ、人肌に近づけている人工物なのにね。流石だよ、モウニング」
インサイトは、手袋を外した。すると手袋の隠れていた部分が、鉄のような物体で作られていることが判った。指先まで、素材は一緒だろう。
「あらゆる銃の反作用に対応するため・・・。一回あんまりに使いすぎて、骨に支障をきたした時があってね・・・。それで医者に、それでも銃を握りたいから治すんじゃなくて改良してってせがんだんだ。・・・こう言われたよ、いつか自滅するって」
インサイトがくしゃみをした。モウニングはなにか寒気を感じる。
「・・・モウニング、寒いんじゃないかな?コートだけじゃ・・・」
「どうやらそのようだ・・・」
「・・・入る?」
「良いのか?・・・あの時、私はお前を無意識に」
「その話はいいから、ささっ、入った入った!」
インサイトが誘導する。モウ二ングと一緒に毛布を羽織った。
「・・・恐ろしくないのか?」
「ん?」
「私は、お前を殺そうとした。しかも自分の意識が届いていないところでだ。・・・そんな危険物を、隣に置いて気持ち悪くはないのか?」
「ははっ、少し前の君だったら・・・そんなこと考えないのにね」
インサイトが距離を縮めた。モウニングがびっくりする。
「あったかい――――――」
インサイトがそれだけ呟いて、カップを持っては夜空を眺める。
「・・・インサイト、」
「ん?」
「・・・少し前の私と、どう変わったのか?」
「・・・んー、そうだなぁ・・・人のことを気にしだした、かな?」
「気にしだした?」
「前のモウ二ングは、本当に論理的な思考回路だったから、今のような思いやりの発言はなかった気がする・・・」
「思いやり?」
「そうだよ?気持ち悪いって僕が思うかもしれない、そう思ってくれたんだよね?」
「そうだ」
「それって、僕に聞かない限り、不確かなことじゃない?」
「不確かではない。インサイトは血が苦手で、争いは嫌いだと知っている。そこから想像すれば、容易いことだ」
「でも、僕が普遍的な生き物だと思う?」
「・・・それはないな、人は生きていれば変わる」
「でしょ?・・・だったら、モウニングの僕に対する固定概念も、いつかは壊れるんだよっ」
「・・・固定概念が、壊れる・・・?」
「そう、モウニングの固定概念も、時間が経てば、変わっていくんだよ・・・」
モウニングはインサイトの心拍数に耳を澄ましていた。
・・・若干早い。だが心地よい音。
これは一体――?
「インサイト?お前、」
「え?・・・っ」
目を合わせられなかった。彼が近い。目なんか見えなかったか、モウ二ングはハチマキの目隠し状態だし・・・。でも、でも・・・。
心拍数が上がっている。一体何があったのか、インサイト。だがこの呼吸音、聞いているだけで心地よい・・・。
「・・・いや、なんでもない・・・」
「・・・うん」
沈黙が続いた。ただ、毛布の中でお互いの手を握っては離さない。
どき、どき、どき、どき・・・。
「・・・」
なんだろう、この感情。
「・・・っ」
どうしようもない、この感情。
「モウ二ング・・・っ」
モウニングの手が、インサイトの手元を離れた。それから心臓の近く・・・恐らく胸らへんに手をすべらせた。
「・・・ぁっ」
ばかっ、こんな時に変な声。
あげちゃ、モウニングに・・・。
「っ!?」
わ、私の心拍数も上がっている・・・?
これは一体、どういうことだ?!
「・・・ん、何?」
「・・・心拍数、かなりあがっているぞ、通常より・・・」
「あの、これは・・・っ」
「・・・何だ?」
「あの、聴いて欲しく・・・ない・・・」
顔が赤くなっているのを、自分で判っている。モウニングは見えていない・・・。
「・・・インサイト?」
「もう、止めてよ――――――」
インサイトが熱に酔ったように、モウニングの胸に頭を当てた。
ドキっ!
モウニングの心臓が跳ねた。
「インサイトっ・・・!」
そう言って何かを付け足そうと思った矢先、インサイトが離れた。モウニングの腕からすり抜けてしまった。
「・・・ごめん、モウニング、言えない――――――」
「・・・インサイト?」
「・・・あはっ」
インサイトが振り向いて、すこし切なく笑った。
「先に下に降りていますね・・・?」
「・・・あぁ、すまなかった」
「どうして謝るんですか?」
「・・・お前に、不快な想いをさせてしまったのかと」
「・・・いいえ?」
インサイトが緊張している。モウ二ングは気配でそれを感じ取った。
「僕が、単に臆病なだけですから・・・。それじゃ」
「待ってくれ、」
モウ二ングが何かを話しかけようとすると、インサイトが人差し指を、モウニングの唇に当ててきた。
「話の続きは、また後でね?・・・約束だよ」
「約そ・・・く?」
「約束はね、契約とは違って、破っても守っても良いような。・・・たわいのないことによく使われるお互いのお守りのこと・・・。でも、」
インサイトが笑ってみせる。
「ワクワクするでしょ?こっちの契約の方が、なんだか知りたくって仕方がないでしょ?」
「・・・クスッ、そうだな」
モウニングが笑って答えた。インサイトが手を振るい、さっさと屋上から出ていった。モウ二ングは毛布を羽織っては顔をうずめた。
「・・・インサイト、」
の匂いがした。
「・・・」
目覚めは悪い。気がつくと暗い世界にいた。
「・・・私は・・・一体・・・」
「聴こえるか?モウニング、」
「これは一体、」
手を動かそうとすれば、激しい痛みが身体に走る。
「・・・っ!?」
「気がついたか」
「これは一体、どういうつもりだ・・・!」
「・・・今回の件だが、内密に扱っておこう」
前にいるのは、人相の非常に悪い、白衣を着た人だった。顔の右半分は変形しており、熱によって溶かされてしまったかのように爛れている。
「これで五回目だ、君が自分自身でリミッターを外して、他の仕事仲間に迷惑をかけるのは・・・。私の素晴らしい作品であるお前が、それを否定されることがどれだけ辛いのかは十分承知だ」
「私はどうして、制御機能が備わっていない!」
身体を動かすことの出来ない最中、その白衣の男に聴いた。
「他の殺人兵器達は、きちんと制御機能が充実している。理性の届く範囲でしか行動できないように組み換えられている・・・。それなのに、何故私にはそれが存在しない!」
「お前は、限界を超えた生き物だからだ」
その白衣の男は近づいて、モウ二ングを見つめた。モウニングにはもちろん目に見えていないが、気配でかなり近づいていることを認知した。
「君に制御機能をつけることが、君に対する冒涜と私は考えている。私は唯一の狂気を求めて、これまで遺伝子の研究と生物兵器の創造を繰り返してきた。そこで君に出会えた・・・!君こそが私の中で最も狂気に匹敵する生成物なのだよ!!」
「・・・私は、」
モウニングは多少俯いて、言葉を漏らした。
「私は、普通になりたい」
「は?」
「私が足りないものを、彼方は知っているはずだ。私に足りないそれを、どうか私に与えて欲しい。切実に、そう願っている・・・」
「不可能だ」
白衣の男はそう言って離れる。モウニングの瞳は怒りを現わにした。
「君なんかに“心”は必要ない。情けなんてかけちゃダメだ。君はただたんに、目の前に認知する敵が殺せるか否か、それだけの判断のみで動いていれば良い」
「こころ・・・、それはどうやって手に入るのだ?」
「はっ、無理だね!」
白衣の男は失笑した。
「君のことを大切にしてくれる人がいるのかい?いないだろう!」
「・・・インサイト、」
「っ??」
白衣の男が、眉をひそめた。
「・・・私が一回目に発狂したとき、彼はけっして恐れずに立ち向かってくれたと、ジョイから聴いた。・・・私の無意識の中でも、彼の声を聴くことが出来た。本当だ!」
「・・・ほぅ、なら」
白衣の男は微笑しながらこう続けた。
「それは君にとって有害な存在だ。消してしまおう・・・か」
「!?!」
「それ以上動くと、痛みが―――っ!?」
モウニングは腕にびっしりついている針を通り越してでも、腕を開放させた。腕は穴だらけになり、血が溢れ落ちている。
「手を出すのなら、例え創造主の彼方でも許さない・・・」
「・・・ほぅほぅほぅ・・・」
そこまでお前の中で大事な存在になっていたのか。
そのインサイトとやら。
「・・・仕方ないね、なら様子をみよう、しかし」
男は納得しない顔をしている。
「もし君の殺しに支障がきたされるようなことがあれば、私はその子を殺すよ?よろしいか?」
「殺させはしない、手出しをしたならば、それ相応に覚悟してもらおう」
モウニングはそう言って、その場を離れた。血の跡を残して。モウニングの腕にあった穴は、既に口を閉ざされていた。
「おかえり、モウニング」
ここは、あの会社からかなり遠い、都会の中にひっそり建てられている病院だ。その病院の地下では、非合法な実験を行っており、それによって生成された生物兵器、および人間をどエライ軍事の方に受け渡している。
「どうだった?」
「・・・どうもこうも、私は何がなんだかさっぱりだ」
「・・・そうか、」
車のドアを開けるジョイ。モウニングはそれに乗る。
「さて、帰ろうか」
ジョイが車にエンジンをかける。それから運転し、走行し始めた。
「・・・モウニング、」
「・・・」
「一体、何を言われたんだ?」
「・・・いや、何も」
「話せないのか?」
「・・・話すに値しない情報だ」
「そうか?でも最近、モウニング・・・」
車が赤信号により、止められる。
「表情が豊かになった気がするが、これは良い経験だろうな」
「・・・ひょうじょう?」
「顔つき、と言ってな・・・。何か納得していないような感じに見えるぞ?」
「・・・そうかもな、納得していないことがあったのだ」
「・・・何だ?」
「・・・」
モウニングは話した。
「私は、普通になりたい」
「・・・普通か・・・それはあの発狂の症状をゼロにしたいってことか?」
「・・・そうだ」
青信号になった。車が動く。
「気長に、彼らと一緒に闘っていけばいいさ」
「気長に、か・・・」
「そうしたら、お前の心がどうありたいのか、おのずと見えてくるよ」
「心・・・私にあるのか?」
ジョイは笑った。
「なかったら、そんなに悩みはしないだろう?」
「・・・私が、悩んでいると?」
「そうだな、」
ジョイは運転しながら、続ける。
「普通になりたい・・・それこそが、お前の願いだろう?願望とも言い換えるのだが、お前が望んでいるんだ。そうありたい・・・思いなんだよ」
「・・・思い?」
「そう、思い」
モウニングは、まだ納得のいかない顔をしている。ジョイはすこしため息をついたが、けして嫌な顔はしていない。むしろモウニングに心情の色がみえてきて、嬉しいのだ。
「いつでも、相談にのる。ハスキーとかインサイトに話せなかったら、私を頼りなさい。仕事にどうしても支障がでるのが嫌なら、考えるさ」
「・・・私が辞めたいと言ったら?」
「!」
ジョイは不意打ちにそう聴かれる。回答がすこし遅れる。
「そうだな、辞める前に、きっと私は止めるな。それは後の二人も同じだろう」
「・・・そうか、」
車が止まる。どうやら会社に着いたようだ。
「さて、着いたぞ」
「・・・?」
ジョイの持っている携帯が鳴った。
「もしもし?・・・ハスキーがっ!?」
モウニングが緊迫感を察知した。緊張が走る。
「・・・そうか、判った」
「どうした?」
ジョイが少し、躊躇した。
「・・・いや、お前は病み上がりだ。今からハスキーを助けに行くなんて」
「助けに・・・!?何かあったのか!!」
モウニングが食いついた。
「・・・ハスキーが、潜入が敵にバレたそうだ」
「・・・!」
「この電話はインサイトからの電話だ・・・。ハスキーの持っている通信機器から、拷問のシーンを聴いたらしい」
「助けにいこう、私が行く」
「待ってくれ!」
ジョイがモウニングの腕を持つ。その時、モウ二ングは痛みを感じた。きっと穴がまだ完全に塞がっていないのだろう。
ドクン。
「・・・?私に行かせてくれ」
「・・・頼んだ、私も後で行く!」
ジョイがモウ二ングの手を離した。モウニングはそこから尋常ではないスピードで、ハスキーの元へ駆けつけた。それもそのはず、モウニングの時間感覚を通常より遅く感じるようにしたからだ。今のモウニングに見える世界はまるでスローモーションに見え、車や新幹線の間を容易に駆け抜けた。
「・・・ここか!」
時間が戻る。世界がまた普通の速さに戻る。ジョイから借りた通信機器を使って、インサイトに連絡した。
「こちら、モウ二ング。ハスキーは今、どんな状態か?」
『・・・何も、何も聴こえません!!ハスキーの声が全く・・・!!』
「!?」
インサイトは泣き出している様子だった。とても聴くに耐えない声を聴かされたのだろう。阿鼻叫喚というやつか。
「・・・判った、お前は休んでろ」
モウニングが、意を決した。
「私が、なんとかしよう」
通信機器を切った。それからモウニングは、自分が愛用している剣を抜いた。
「・・・?」
目が覚めた。天井がある。
「気がついたか?」
顔を横に向けると、椅子に座っているジョイを見た。
「・・・っって」
そうだ、俺ぁ確か潜入がバレたんだった。そっから地下の拷問所に連れ込まれて、ムチだの焼入れだの暴力だの、思い出すだけでも腹が立つことをやらされたんだった。
「・・・俺は、どうして助かってる?」
「気絶していたか・・・。それはそうか」
ジョイはそこから立ち上がり、切っていたリンゴをハスキーに渡した。
「おい、何で答えてくれないんだよ」
「・・・モウ二ングが、助けてくれた」
「まじで!アイツ来てくれたのか!」
ハスキーは嬉しそうに喋った。ジョイは下を向いている。
「なんだよー!こっちに見舞いしてくれてもいいじゃんかあいつぅ~っ」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
「?なんだよさっきから、下ばっか向いてるぜ?」
「・・・私は、S.KILLERを降りる」
「――――――!?」
ハスキーは黙った。しばらく沈黙してから、聴いた。
「モウ二ングのことか?それとも、俺のことか?」
「・・・いや、」
ジョイが苦い顔をしていた。
「私が、悪いんだ」
そう言って、さっさと出て行ってしまった。
「おい、お前・・・!・・・なんだよ、一体」
何があったって言うんだよ、くそっ。
ハスキーが心の中で悪態をつく。入れ替わって今度はインサイトが入ってきた。手元にはおかゆがお盆に置いてある。
「おっ!サンキュー」
「大丈夫でしたか!?」
インサイトは慌ててハスキーに詰め寄る。ハスキーは少々呆れながらも答えた。
「んだよー、そんなにやばかったのか?俺」
「酷い叫び声でしたよ!もう聴きたくなくて、でも生きてるのか確認できないから聴くしかなくて・・・!・・・それで、」
急に覚めて、落ち着きながら話した。ハスキーもその雰囲気の変わりように少しびっくりした。
「録音機能で、どんな状況になってしまったのか、後で聴きました。・・・ジョイさんが全く話してくれなかったと思いますが」
インサイトはその録音した機器を、ハスキーの布団に向かって、ぶっきらぼうに投げ出した。
「あの女の正体がもろに出ましたよ、・・・イヤホンつけて、聴いてくださいね」
インサイトはおかゆを置いて、その場をそそくさと出ていった。
「・・・んだよ、みんな揃って変なの・・・」
モウニングは来てくれそうにない、そう思っておかゆを食べ始める。廊下がすこし煩い気がした。
「・・・なんか、あったっぽいな・・・俺が気絶していた間」
おかゆを全部食べ終わった後、さっそくその録音してあった機器をつつく。マイクフォルダの中に、一つだけ波形ファイルが置いてあった。それを選択して、イヤホンを片方だけつけてみる。最初はノイズが非常に酷いスタートで、そこから徐々にノイズ音が消えていった。人の声が聴こえる。
『 ・・・ちっ、気絶しやがった。都合のいい奴だ。
(足音が聴こえる)
おい、どうし・・・!?!うわぁぁあ!!
化物だぁあ!!
殺人兵器・・・!?やめ――――
(何かが折れる音、人の鈍い声)
やめろっ!やめろっ!うわぁああ!!!
(銃声、剣のぶつかり合う音)
(グシャ、という音。潰された音。何もかもがグロテスクな音)
・・・。はぁ・・・』
モウニングの声だ。ハスキーは思った。
『・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・っっハ、ハスキーヲ、助けル・・・』
「!?」
『ハスキーヲ・・・ハスキーヲ・・・タス・・・ケ・・・ル』
ハスキーは聴いて思った。
この時、きっとモウニングの頭の中でせめぎ合っていたのだろうと。
助ける人を、懸命に認識しようと。
『・・・チガ・・・ウ・・・ヒトゴロシ・・・ジャナイ・・・ワタシハ・・・!
ハスキーから離れろ!!』
「!」
ジョイの声が聴こえた。なぜだろう、敵意むき出しのジョイの声だった。モウニングの声が消える。沈黙が続く。
『・・・ワタシハ・・・ワタシヲ・・・シンジテクレナイノカ・・・
お前はどうしたいんだ!ハスキーを!殺すなら私がお前を殺す!!』
「っ!?」
ハスキーは聴いていてびっくりした。ハスキーの気持ちでは、正直に言うと自分よりモウニングの方が能力がずっと優れていた。そんなモウニングを殺してでも自分の命を優先する理由とは・・・?
『・・・ハスキーガ・・・スキカ?
っ!?
・・・スキトハ、ナンダ・・・?ワタシガキエテモイイコトカ?
・・・違う・・・そんな、自己中な判断で言っているのではない!
(何かの銃声の音)
(誰かが倒れる音)
・・・インサイト!?』
「・・・侵入したのか、インサイトも・・・」
おそらく、睡眠剤を投与している銃の弾を、モウ二ングに発射したと思われる。
『・・・全部、聴かせてもらいました。
・・・。
そうでしょうね~、貴女はハスキーが好き。だからあんなに必死になってモウニングを止め、行かせないようにした・・・!そんなに自分のお気に入りが死ぬのが嫌ですか!じゃあなんですか?僕が人質になったとき、貴女はこうやって血の匂いがたちこもる汚い場所に身を投じてくれましたか!?
うるさい!!!』
「・・・俺はよく起きなかったな・・・いや、」
起きなくて正解だったろうな。
『・・・私は、怖いのだ・・・!お前らがモウニングに、敵もろとも殺されるかもしれないって・・・!
(しゃがむ音。歩いて縄を解く音。おそらくインサイトがハスキーを開放した)
はっ、馬鹿ですねぇ。男と女の考え方の違いでしょうね。
そう全部女の考えとひっくるめるな!
多分、ハスキーさんも、僕と同じように答えますよ?“殺されてたまるか、殺されるまで信じきってやる”ってね』
「――――・・・ははっ、」
だな、俺はモウニングがめっちゃ好きだからな。
あんなキャラ滅多にいねぇからよ、一生懸命に自分を改革しようとする奴。
俺にはない力なんだよ、自分を変えるってーのは。
「・・・うっし、」
ハスキーはベッドから出ようとした。少々足が痛むが、今じゃないといつ言えるのか判らないから、いてもたってもいられない。インサイトが部屋に入ってきた。そのハスキーの行動を見て驚く。
「!?まだ起き上がっちゃダメですよ!ハスキーさん―――」
「おい、インサイト!手を貸せっ!」
「・・・どこに行くのですか?」
「モウニングのところだ、案内してくれ!」
「・・・ふっ、彼方はつくづく、行動派ですよね・・・良いでしょう」
ハスキーの肩を、自分の肩に担ぐ。それから二人で歩く。
「・・・知ってましたか?」
「あ?」
「ジョイさん、賞金首のマニアだっていうの」
「ほぅ」
「ハスキーさんが一番のお気に入りなんです」
「ほぅ・・・そっか・・・」
なんだよ、そう言ってくれれば、こっちもそれ相応に・・・。
「ここの部屋です」
ハスキーとインサイトは、一つの扉の前で立ち止まる。インサイトがノブを回し、中を覗く。
「・・・?」
「どうした?」
「・・・!?モウニング!」
「だからなんだって――――」
ハスキーも部屋の中を覗いた。
誰もいなかった。
(数時間前・・・)
「・・・私は、モウニングを信じられない。・・・お前の送った殺人鬼は、私を殺そうとしたのだぞ!どういう」
『説明したはずだよ?自分以外の生き物は全て、生かすか殺すかの判断でしか見ることが出来ないと・・・』
「約束が違う!現に頻繁にリミッター解除が行われている!今日だって結局、痛覚の増加に対してモウニングの強さも比例して大きくなった!なんなんだあれは!」
『兵器ですよ』
「なん・・・だと・・・!?」
『要は操作する持ち主がしっかりしてないと痛い目に遭う。・・・ハサミだってそうでしょ?どんな武器も使い道を誤れば、痛い目に会うのは自分だと』
「モウニングは武器ではない、一員だ!」
『はぁ・・・そんな感情移入したって、無駄ですよ?言ったでしょう?彼に感情を寄せて使用すると不具合が生じるから一切止めていただきたい、と・・・』
「・・・どうして、そういう・・・!」
『モウニングは兵器。細胞の構築に過ぎないのです・・・。ですから、家族がいない。友達もいない。教育もされていない。あるのは人を殺すことに特化した訓練の糧と、判断基準ですよ』
「・・・こんなの、耐えられない・・・!」
『こっちだって、耐えられませんよ?彼に悩みを作ってしまったのは、あなたたちが感情を作ろうと働きかけたのですからね?悩みなんかなかったら、彼は見事に仕事をこなす生き物なんですよ!あんたが不良品にしたんだ!この*****!!』
「・・・判った、返そう」
『・・・ほう?飽きちゃったの?』
「お前がそこまで言うのなら、モウニングを返す。・・・これでお前の望みは叶った」
『ふははっ、流石にあの有名な学者さんのムスメでも、この問題解決には成功しなかったようですね!あっははははは!!』
「・・・っ!!」
ガチャッ!
p- p- p- ・・・