「うっわーすげぇ・・・」
「?」
「花の楽園だよ、まじで行ってみたいぜ・・・」
夕ごはんを片付けているところだった。ルナをよく伺うと、テレビの方をずっと見て釘付けになっている。俺も台所を綺麗にした後に、ルナが腰掛けているソファの後ろに行き、そのテレビを見てみる。
『そうですねぇ、今年の暑い夏にはこの花の楽園!季節問わず色とりどりの花達を鑑賞することが出来ますよ・・・!』
「・・・お前、華が好きなのか?・・・ブーックククク」
「おま、笑うなよぉ~俺の唯一の癒されるスポットなんだぜ?」
「ああそうかよ!くっくっく・・・!」
「・・・はぁ、休日入らねぇかな・・・」
ルナが本当に行きたがっているのを見るのは初めてだった。華なんて似合う柄じゃないくせに、そのギャップに笑ってしまう。それはないぞルナ。
「お前一人で行ったりするのか?」
「一人より二人で行ったほうがお得らしいからな、あれ」
「いいぜ?ついてってもよ」
「まじっ!?っしゃあ日程決める!!」
「!?」
冗談まじりで言ったのが、本気に捉えられた。まぁ、別に華に興味が無いわけじゃないし・・・テレビを見る限りは綺麗な華ばかりだ。楽しそうなのは間違いない。
「花粉症じゃねえよな?」
「なんだそれ?」
「ならよし!明日の午前中に出発な!」
「早、もう決めちまったのかよ!?」
「ったりめーよ、夏限定の華だってあるんだしよ!拝みに行くのは早め早めの行動をな!まだ客も少ないだろうしよ今なら・・・」
「ああそうかい・・・」
呆れる仕事の早さ。これくらい殺し屋の仕事もシャキシャキしてれば、こんな紙の山できてなかったろうにな。管理が悪いというかなんというか・・・。
「それくらいのスピードで片付けりゃあ、こんな山なんて出来なかったんじゃね?」
「・・・そこに溜めている依頼は、俺が受け取らねえ山だ」
「?」
「さて、明日は早いぞ・・・さっさと寝るぜ」
「・・・おう、」
なんか、俺変なこと言ったか?ルナの寝室は二階。俺は2階にあるルナの隣の部屋。そこも人が住めるような場所で、最近新しいタンスが仕入れられた。ベッドもそこそこ柔らかくて、前の俺よりかは贅沢な暮らしかもしれない。
「・・・やらない、依頼・・・」
積み上がっているルナのお預け依頼を、上のものからとって見てみる。
「・・・か、」
復讐に駆られて人殺しを頼むもの。会社を憎んで、無差別に町の人々を殺せというもの。自分をフッた男の腹いせに、幸せ家族の崩壊を望むもの。総称して、人の不幸を望むものたちの依頼だった。
「な?」
声に反応して、ルナを見る。ルナはシャワーしか浴びない派らしく、お風呂は凄まじく早い。
「やる気が起きるもんじゃねえだろ?クセェ執着に絡まれてやがるし、くだらない復讐劇語ってやがる。俺のことを私利私欲に、つうかこの手の業者にこんな私情を頼み込むバカなんて、いくら相手しても減らねえしな・・・くだらねえよ全く」
そう言いつつ、自分の寝室に向かうルナ。俺はルナのことを誤解していたみたいだ。
「わ、悪かった!」
2階に向かう彼にそう話しかける。足を止めて、こっちを向いては気にすんなと笑った。
「俺も、仕事柄じゃなかったら・・・そういう類の輩に、仕事という形で復讐劇を頼んでいたかもしれないしな・・・――――」
そう言って、寝室に入っていった。ルナは相変わらず、大人だなって思う。俺みたいな子供じゃあ、こんな仕事を私情なのか公益なのかはっきりと区別出来そうにない。
「・・・おやすみ、」
俺は小さく呟いた。
まぶっ。んだよ朝からなんだか騒がしいぜ?ったく、今日は別になんの・・・。
「おーい起きろルナっ!行くんじゃなかったのかよ?」
俺の部屋に勝手に入って、勝手にカーテン開けて、勝手に掃除してるのは誰だコラ。
「・・・あ?」
「朝の不機嫌はおいといて、行くんだろ?」
「・・・はっ!」
「やっと思い出したか・・・。早寝の割には、俺より起きるの遅いんだな・・・」
眼をこすってやっとの思いで眼をあける。ミントが完全に主婦の格好をしている。エプロン装備に掃除機片手にスマホをいじっている。
「今日は天気微妙らしいぜ?昼から雨だってよ」
「あ?関係ねえぜ。あそこはガラス版でできた観賞部屋あるしな」
「すっげ!んじゃ行けるな」
「ただ室外においてある華もあるからな。そこを見るのは午前中にさっさと、ってことな」
「そゆこと!ほらさっさと着替えた!オシャレしていきたいだろ?」
「わーったからさっさと外でてけ」
「あ?なんでだよ、俺男だけど?」
「いいから出てけっ」
「あ、ちょちょ!?」
俺はミントをひょいと持ち上げて、そのまま俺の寝室から退場させた。ドアの向こうでふてくされる声。
「朝飯は?」
と俺が尋ねればもうできてるし!と反発されちまう。大人しく下に降りて、ご飯の準備を頼んでおいた。
「・・・ふぅ、」
俺の体には、無数の傷がある。深いもんにはそれなりの仕事頑張ったで賞の思い出がある。でもどうみても。
「痛そうにしか見えねえよな」
胸元におおきな切り傷の生々しい跡。たしかこいつはなんかのでかい化け物捕獲作業で、奴の爪にやられちまった後だったな。背中の腰らへんにもおおきな切った跡がある。あんまり人に見せられねぇというかなんというか。
「・・・」
あいつには知られてくねぇな。何が何でも。俺の傷跡を語るなんてことはしたくねぇ。
「まだかよー!」
「ういういー」
白いTシャツに身を包んで、上からボタン付きの縞模様入ったカッターシャツを着る。お気に入りのワインレッドのジーンズをはいて、金色のちょっといかついネックレスをつける。これが俺の普段着。オシャレ楽しい。まともな生きがいだと思いたいぜ。
「いっただっきます」
「さっさと食えよ」
「ふーいふーい」
「ったく」
ミントがぷりぷり怒ってる。可愛い。本当可愛い。怒りつつも身の回りのことを引き受けてくれているところ、本当嫁さんみたいだな。
「ん、そこのモンとって」
俺がミントの片付けようとしている箱の、赤い箱に手を伸ばした。ミントがこれ?と指さしてから持ってくる。
「なんだよこれ、」
蓋を開けて、ミントはぎょっとした。この中に入っているのは、護身用の小さなナイフだった。俺はそれを服の中、裏ポケットに偲(しの)び寄せた。
「・・・遊びに行くんじゃ、なかったのかよ」
ミントの問いかけは正しい。喧嘩をしに行くわけじゃねぇ。
「そうは言ってられねえよ。お前を守ることも俺の仕事の内だからな?そこんところはご了承・・・」
「・・・おーけえ」
ちょっとしょげた顔をするミント。悪かったな、俺の身分の問題だ、お前がそんな苦い顔をするこたぁねえよ。
「俺の形見でもあるんだ、このナイフは」
「?」
「俺を孤児として拾ってくれた、恩人のな」
「・・・ふぅん」
喋りすぎたか。まあこれを持つ理由はそれだけじゃねえしな。
「うし、食った食った・・・午後は雨が降るから、あっちの車だな」
黒い、スマートな形をしたリッチな車を指さした。
「・・・ルナ、なんで恋人作らないんだ?」
「あ?俺は結婚だのという縛りはしたくねぇんだよ。恋人ならいっぱいいたぜ?」
「悪いやつ、」
「ど~もっ」
そんな単純に恋人なんて作れやしねぇ、狙われてだしにされちまうのが目に見えているんだからな。それで五回くらい俺の女が悲しい目に出遭って、俺の元を離れた。あの虚しさは二度と味わいたくない。
「・・・なんか俺、よけいなこと聴いちまったか?」
「!・・・いーや?気にすんなよ。それより、これ見て何処を先に回りたいか考えておけよ。室外でも結構ブースがあるからな!」
そう言って、隣の席に座っているミントに花の楽園パンフレットを手渡す。ミントはしぶしぶそれに眼を通してみる。・・・俺の顔をよく観察しているな、俺にとって苦い所を聴いちまったとか考えているんだろうぜ、どうせ。悩んでもしょうがねえのに、俺のことなんて。
「行きたい場所は決まったか?」
んなの考える余裕なんか、作りゃしねえから。
「えっ!?」
「んだよそんなに俺のこと考えてくれてたのか~?可愛いなぁお前w」
「っせえええよっ!!」
元気でよろし。
『ようこそおいでました!ここ、花の楽園では季節の華ももちろん、この国では見られない珍しい華や、鳥のふれあい場所も設けております!お子様やご家族、カップルの方もどうぞ、ご堪能くださいませ!・・・』
続くナレーション。クラシックのゆったりした音楽が流れる最中、チケットを窓口で見せて受付終了。さっそくミントと周ろうとしたのだが。
「「あっちから!!」」
真逆のコースを選んでしまう羽目に。これなら俺が最初っから仕切ればよかった。
「んじゃーじゃんけんな!買った方が勝ち!!」
「おーうおう受けて立とうじゃん?最初はグー!じゃんけん・・・!!」
これで俺が負けるのも想定外。
「っしゃー!んじゃ俺が最初に言ってた水の華ランドからなー!!」
綺麗なものは後でとっておきたい達なのによ、俺は。まあミントが思う綺麗と、その楽しみ方の順番は違うかもしれねえけどな。俺はこのコーナーはガラス板の大きな部屋の次に好きな場所かな。ミントが華を見ている。楽しそうだ。
「にしては、いっがい」
「何がだよ?」
「ルナが華を好きだなんてよ・・・!」
「・・・鋼族は、」
白い、水に浮かぶ花を撫でながら俺は語った。
「地下の住民だったってことを、知っているよな」
「文献で見たぜ、その話は」
「俺、色というモノを認知するのにかなり時間がかかったんだよな。地上階の発生される全ての周波動に対応するのは別にへでもなかったけどよ、色の認識だけはどうも普通とはうまくいかなかった」
「・・・へぇ」
「見ていた世界は、焼けちまったセピア色のフィルムを覗いているかのようで、全くなにもかも、うまく見えなかった。溶けて同化しているんだよな、いろんなもんがよ」
「・・・ふぅん、想像できないな」
「俺が初めて色の認識をしはじめたのは、この花の楽園に来てから。その時一緒に俺と活動してくれた女が、花が大好きで・・・ここに初めて連れてきてくれた。そいつは色にすごい敏感でよ、色の名前をいろいろ知っている。俺の色の名前の認知度っつったら、赤とか青とか黄色とか・・・そんなもんのもっと広いところにまで、名前があるのを初めて知った。緋色、朽葉、藤、鴇・・・色にも命の名前が宿っている。・・・あいつの言葉で、一番好きな言葉だ」
「!」
ミントが黙っている。俺もはちきれねえ思い出喋っちまった。馬鹿野郎。
「・・・その白い花の、色は?」
「あ?・・・これか、・・・白くて、でも淡いレモン色をしているな。初恋色、とかあいつは言ってたか?」
「くっはっ!すっげぇ恥ずかしい!!」
「わ、笑うなよおいおい。これでも俺は真面目に・・・?」
ミントが、うっすら涙を浮かべている。俺の言ったことがあまりにも馬鹿すぎて笑わせすぎたとか?
「・・・初恋色、なぁ・・・覚えとくよ、うん」
ミントの涙が、急に溢れかえった。
「おい!?こ、こんなところでなくなよお前・・・!」
「・・・ごめん。なんか、俺・・・お前をすっげぇ誤解してたみたいで・・・!なんでもねえよ!」
ミントが涙をがしがし拭いて、笑い見せてくれた。俺は若干胸が苦しくなった。
「うっし、次に行くぜ」
「・・・おう」
ミントがおそらく、さっきの話を聴いて・・・俺に対して親近感を絶対に湧かせている。距離が近づいた。俺はとっさに腕でアイツの先を制するように、遠のけた。
「近い。間合いに入るな」
「っ、」
「俺が何時、どこかで狙われてもおかしくはねえくらい判ってるだろ?」
「・・・わあってるし」
「うし、いい子だ」
ミントが少し後ろで、ついてくるようになった。そうそう、そのくらいの距離が丁度良いんだよ。室内のブースには死角が多いし、植物によっては物陰になるものもある。俺たちを狙うにも、一般客が巻き込まれちまうから、あまりこんな人混みの中で狙われること自体考えられないけどな。ミントが明らかにしょげている。
「・・・はぁ~・・・」
なんで呟いちまった冗談を、マジにしちまったんだろうなぁ。
「っ!?」
「来いよ、」
俺は半ばやけくそに、ミントの腕を引っ張って俺の隣に近づけた。
「今日だけ、だからな?距離を置くのも正直危ねえし」
「・・・べ、別にさっきのショックでもなんでもなかったし!」
「うっせぇよ室内に響くだろ?」
コイツは面白えな、ついクスって笑っちまった。ああ、ミント好きだ。
好き?おい、おいおいまじかよ俺。
さっきのナシ、無し無しな~し。俺の思い違い。
「・・・っせぇよ」
小声で怒鳴るミント。俺の腕にしがみついてるのはなんでですか。はぁん身長差も理想。性格も良い、良い子。体力も相当ある、俺のちゃんばらに付き合ってピンピンしてるしな。
はぁ、俺のモンになんねぇかな。
「うっわーすげぇ!!」
ミントが急に声を上げたお陰で、我に返った。どうやらガラス部屋のブースに辿り着いたみたいだ。本当にここの植物の多さ、と室内の規模のデカさには確かにその反応が正しい。BGMも好きだな。ジャズのピアノメインな音楽がずっと流れている。俺の車と、睡眠誘惑ソングにもなっている。こいつは心地いい。ミントが先に歩いて、いろんな花を見ている。あいつの関心は、どうやら自分の顔よりおおきな花の種類。俺は逆で、ちっこい花が並んでたり、散らばってたりしている花のほうがずっと関心が強いけどな。
「でけぇ!これ俺の顔よりでけえぞ!」
「みてえだな」
昔の自分と似ていて、すこし虚しさを噛み締めている。そんなこと関係なしに、BGMは流れて、ミントは楽しんでて、カップルとか家族連れも・・・。
「・・・?」
いない。このガラス部屋はメインディッシュであるはずなのに、誰もいない。ここにいるのはどうやら・・・俺とミントのみ。
「!」
俺はしゃがんで、拳銃を取り出した。もう一つはミントに投げた。ミントは驚きながらも、なんでと俺に問いかけようとした。が、刺客が早くもやってきた。
「なんで、ルナ!?」
「バカ、伏せろ!!!!」
俺がミントに飛びついて、植物の下に隠れた。その次の瞬間、大きな銃声とともに、ガラスの割れる音が聞こえた。かなり派手にやっている。花壇が倒れる音と、人が飛び込んでガラスの割れる音、水しぶき。俺は必死にミントを抱きしめてかくまいつつも、ことが収まるタイミングを計らった。
「・・・っ、わ、わりぃ、俺」
ミントの唇に指をあてる。
「お喋りめ」
俺は小声で怒鳴った。それからゆっくり起き上がる。目の前に、廊下がガラスの破片で散らばっている、そして花壇が倒れていたり、花に穴があいていたり、廊下もでこぼこになっていたり・・・。
許せねえ、俺の思い出の場所を。思い出の場所を。
許せねぇ。
「・・・っ!!!」
俺はその花壇の下に伏せつつも、慎重に動いては拳銃をしっかり持つ。拳銃の頭に音を殺すための機器を取り付ける。一人ずつ、確実に仕留めてやるぜ、どこの誰だかしらねえけどよ。
「・・・クハッ」
小声で笑っちまった。相手を見る限り、黒い軍服にヘルメット、そしてあんまり手に入ることのない警察が所持しているようなでかい連射銃。相手はどうやら正当な軍営みたいだ。でも俺はこんなことしてのけるこいつらの神経を疑うぜ。花にも命があるんだよ、それにここは家族もカップルも楽しむ場所だ。テメエら仕事人がでしゃばるところじゃ・・・!・・・俺も、その一人だったってか、よ。
「・・・っ!」
俺は兵隊の一人に、俺の鋼お手製の銃弾を喉元にぶちこんだ。倒れるときに受け止めて、そっと倒させる。まずは一人目。武器を徹底的に盗む。ミントに小声で指示を出した。
「まずは俺がこの小型爆弾で、こいつらの眼をくらます。お前はその隙に逃げろ」
「はっ?なんでそんなこと、お前が・・・!」
「あいつらの狙いは俺だ、お前には関係ねえよ」
「・・・関係ない、って」
「・・・!?」
げえ、このタイミングでも泣かれちまうのかよっ!?!おいおいおい!!!
「俺が、関係ないって・・・今までそうだけどさ。確かに俺はお前にとってはただのオモリかもしれねえけどさ・・・っ!!」
小声で怒りを露わにしている。俺はミントに向き直って、本音を伝えた。
「悪いな、俺はお前に惚れちまってるんだ」
「・・・・・・はっ!?」
「声がでけえよ?まあ翻訳すれば、お前が好きだから巻き込みたくねえ。だから、俺の話をちゃんと聴いて逃げてくれ。あいつらに負けるとでも思ってるのか?・・・んなこたあねえよ、俺を信じろ」
俺はあいつを真っ直ぐ見つめた。あいつの頬が若干赤くなってる気がするが、まさかマジで惚れてるんじゃねえだろうなお前。ミントは強く頷いたあと、俺に背を向けて合図をくれと構えた。逃げる準備おっけ、ってところだな。俺が敵から盗んだ爆弾を、宙に向かってなげ、それを銃で狙い撃った。
ドオオオオオン!!!
「!?どこだ!」「上かっ!?」「ゲホッゲホ・・・」
ところどころ、声がする。全部俺の耳に入れば、位置なんて簡単に把握できるんだぜ。鋼族の能力でよ。
「ぐあっ!」
まず一人目。こめかみを狙って打った。次に背後にちかい奴の喉元にあのナイフをぶっ刺した。俺の気配に気がついて銃をぶっ放してくる奴に対して、近くにいたそいつの味方を盾にした。そのままこっちが今度は銃を撃つ。撃退も余裕。敵の性能がいい銃を使っては、弾を全部抜き、俺の鋼の弾に入れ替える。撃ちまくる。あいつらの体に身に着けている鎧みたいなやつなんかへでもねえ。ただ使っている銃が振動に耐え切れないで破損する。使い捨てはいくらでもある。あいつらの戦闘不能になっちまったところから抜き取りゃな。
「ぐあっ!!」「あああっ!!!?」「なんだ敵は一人かっ!?」
煙がガラスの抜け穴から逃げ出し、俺の姿が相手からも見えるようになる。ただその時点ではもうあいつらの敵8割くらいおじゃんにしている。敵も流石にビビっては逃げようとするがんなことはさせねえ。
「逃げるんじゃねえよ!!?」
俺は左腕を鋼化させ、相手の無防備な背中に斬りかかった。真っ二つに敵が割れる。正直お前らの想定されている防御用装備は俺にとっちゃなんでもねえよ、俺のことを"想定外"として作っているんだからな。
「ぐえっ・・・かん、ベン・・・っ」
喉元を突き刺して、喋れないようにする。まだ息のある奴の胸元を握って、事情聴衆をした。敵の尻尾はつかむ。
「お前ら、誰の差金だ?商人か?それとも警察か?」
「・・・き、貴様のそばにいた・・・ピピカ族」
「?!?!・・・今、なんていった?」
「俺たちの・・・狙いは・・・てめえの傍にいた・・・男の方だっ!」
「・・・―――――」
一気に、足元から血の気が引いた。相手の首を掻っ切った後に、全力で外の方へ行く。ミントを探す。
「ミント・・・!?ミントーっ!!」
どこにもいない、車の方を見てもいない。空に浮かぶ向こうのヘリコプター。そこのガラス窓から見た。
「・・・っ!?」
ミントが、口と眼に布を巻かれ・・・完全に腕も包囲されている姿を。
「ふっざけ・・・」
このままヘリを撃ち落とすことも可能だ。だがかなり高いところまで飛んでいるし、足元も不安定だ。あいつが包囲されている状態で、しかもあいつが飛べない状態で・・・ヘリを落すのは得策ではない。俺は冷静になりつつ、そのヘリの特徴を見た。スマホでとっさにそのヘリコプターの写真を撮る。それをメールで送る。
>>S.KILLER依頼窓口 俺だ
>ミントが連れ去られた。敵の所持していたヘリだ。ここからどこの軍隊なのか、それと、ここ最近に流れている依頼の中に、「ピピカ族の狩り」を頼んでいたもので、これからコンプリートになるものがあったら、俺にその依頼主の詳細を
ここで手が止まった。依頼主のことを口外することは仕事柄ご法度であることを知っている。もし奴らがその仕事に携わっていたら?俺に情報は回してこないだろう。メール分を一気に消して、もっと気楽な内容にした。
>このヘリみたことねえ!?俺のミントを連れ去った奴!
画像を添付して、それからメールを送った後には車に乗り込んだ。自分の家にじゃなく、向かう先はS.KILLER。早めに敵を見つけて、その依頼主がどんなやつかを知らないとまずい・・・!アイツの腕を、羽を取られちまうかもしれねえし、見世物で痛めものにするかもしれねえし・・・!俺が、逃げていろなんて言わなけりゃ・・・くそっ!!
「!」
メールの返信が早い。インサイトに送ったんだが、あいつは仕事が溜まっていると個人用メールはムカつくほど遅い。今はフリーか、休養中だったか。返信をさっそく見た。
>>Luna Re:知っていますよ
>見たところ、どこかの軍隊用のヘリコプターですね。かなりお金をかけていると思われます。
あと、そのヘリにいる子って、もしかして・・・ミント君?何があったの!?
「話が早い、」
>>Insight ReRe:
>話がしたい。ミントが連れ去られた。
協力してほしい。今車で向かっているところだ。
ミント、無事でいてくれ・・・!