俺はミント。賞金首を狩るハスラーだ。ハンターよりだいぶ荒れた方法で、殺人鬼だの暗殺者だの魔術師だの首にお金のある奴らを狩ってきた。
「おい、ミント」
そんな俺は、同僚にからかわれる。
「今回の首はかなりのものだぜ?まぁ、お前の失敗する経験を今まで見たことがないから楽しみだな!」
「ん・・・?これ、"魔術師・a級"のクレン?」
「おう、炎の使い手さんだぜ。お前に倒せるかな?」
「やってみようか、面白そうだし」
俺は顔色ひとつ変えず、そいつの出現率の高い場所へと移転する。俺は普段は閉まっているが、腕を鳥の羽に変形させることが出来る。そういう族柄だからだ。・・・もうほとんど見られない、"ピピカ族"の名残。そしてこの仕事を全うさせる理由は、これに関係する。
「優雅に散歩しながらでも探すか・・・」
空を自由に飛んでは下を見下ろす。人、人、人だかり。街は高い建物が目立ち、死角なんざいくらでも出来るような世界になってきている。
「・・・」
息苦しい。見ているだけで。
「きゃぁー!!」
「人の叫び声・・・?あっちかっ!」
さっそうと飛んでゆく。ちょうど建物をくぐった所に、そいつはいた。
「ひゃーっははは!金を出せ!さもなくばこの女を焼きころすぞ!?」
銀行で派手に炎を放ったのが、所々焦げ跡が残っている。これは恐ろしい光景だ。直撃して半身溶けてしまった人もいた。骨、肉、腐臭。・・・なんだか懐かしい匂いだ。あの時以来・・・。
だから、俺は炎を使うやつは大っ嫌いだ。
「金を・・・っ!!?」
俺が飛行した状態で、そいつに向かって羽を飛ばした。最高に肉の切れる鋼タイプの羽だ。相当切れるだろう。やはりその魔術師も気づいてこっちを向いた。
「てめぇ・・・何モンだ?あぁ??」
頭のイカレタ人は会話が通じない。何も返答することはない。
「邪魔すんじゃねぇっ!!」
そいつの女を掴んでいない方の手から炎が球となって飛んでくる。当たった壁は崩壊した。破片が俺の頭上を落ちてくる。
「ひゃはははそのままぺちゃんこになっちまいなっ!!」
「誰がぺちゃんこになるって??」
「っ!?」
そいつは確かに驚くだろう。ぺちゃんこになったと思われた俺が、そいつの後ろにいるんだから。俺は高速のシアンという肩書きを持っている。頭上を落ちてくるコンクリートの塊だって避けきれない訳が無い。
「おまっ・・・!!」
「っ!!」
瞬時にそいつの兄元に行き、顎を思いっきり蹴り上げた。女はその隙に魔術師の手から離れた。
「チクショウ・・・てぇめっぇええ!!」
無言で炎を避ける。避ける。少し浮遊した状態で、回し蹴りを後頭部に食らわした。撃沈。
「・・・魔術師は魔術に頼りすぎだから、接近戦が苦手。特に、飛び道具を好んで使う奴は俊敏に動くのがダメなんだろう?君の敗因はそこだね」
遠くからパトカーの音がする。俺は慌てて羽を閉まった。数秒後、最初のパトカーが来て、中から警察が降りてきた。
「君は・・・ハンターかね!」
「えぇ、まぁそんなところです」
「いやぁ、助かったよ!これで賞金首の輩が一人減った!」
「そうですね」
鼻につく香水の匂い。嫌な顔をしないように精一杯だった。
「君の口座に、賞金を振り込んでおこう、賞状は――――」
「あ、お金だけで良いです。表彰とかはいりませんので・・・、これが俺の口座番号です。よろしくお願いします。では、」
そう言って、曲がり角を曲がってから、さっそうと飛び立っていった。
「おや?お偉いハンターさんは?」
「うむ、名前も言わずに消えてしまった・・・」
「噂の新人、高速のシアンじゃないのか?」
「きっとそうだろう・・・」
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「はぁ・・・どうも、ああいうのは苦手だなぁ・・・」
飛びつつもくたびれた表情をあらわにする。俺がああいうのが苦手な理由は、ありすぎてとてもじゃないけど言えない。
「・・・綺麗な感情で、動いちゃいないから・・・」
俺が望むものは、お金でも名誉でもなく、この世の悪に対する復讐、くらいだ。家の窓から帰宅。一人暮らしを始めて、いや強いられて五年は経った。机には、写真立てが三、四こ。その中で、もっとも古いと思われる写真を手に取る。
「・・・母さん・・・」
俺、さ。ハスラーになれたよ。もうすぐで、もうすぐで逢えるんだ。お母さんたちを拐っていった。憎き密猟者の族に・・・。もうすぐで・・・。
「・・・はぁ―――――」
写真立てを戻し、ベッドに腰掛けては頭をもたれる。
「・・・皆・・・」
生きているのかさえも、判らない。俺たちはひっそりと田舎の森で暮らしていた族だった。そんな俺たちの羽を狙って、五年前に密猟者たちが村を襲ってきた。俺はかくまってもらえれて生きているけど、あいつら、母さん達が生きているのかどうかの保証なんてどこにもない。それでも、それでも可能性として、ひとつの希望を信じて五年間、ずっとハスラーになる修行を重ねてきた。
「・・・俺、ここまでやっとこれたよ・・・」
独りで。
「ふあぁ~~~~っっっ」
小さな会社の控え室の部屋、一人の黒ずくめの男が大きくあくびをした。するともう一人の包帯を片目に巻いた男が話しかけた。
「おい、ルナ、聞いてんのかっ!!?」
「あぁ?聞かねーって言ったら、キれる??」
「ん”もぉぉぉぉぉぉぉぉお聞いてくれよ”ぉぉぉぉぉぉお!!」
「そういうハスキーちゃんが面白いのよ、ついからかいたくなるわ」
「俺はお断りだ・・・」
クスクス、と笑うルナ。それから机に向き直ってハスキーの入れてくれた紅茶を味わった。それから話に入る気が湧いたのか、聞いてみた。
「んで?なんの話だ?」
「あの、噂の新人ハンター、高速のシアンって知ってるか?」
「あ?シラネ」
「"魔術師・a級"のクレンがさ・・・s」
「昨日、飲みで一回俺を怒らせて 餌 食 になっちまったやつ?」
「その話はやめてくれ!!恐ろしいからっ!!・・・」
ルナは冗談交じりに会話を楽しむが、どうもその新人に妙な引っ掛かりを覚えた。
「・・・で、クレンがどうしたって?」
「お前、会話を途中で遮っては聞きーの遮っては・・・」
「あーはいはい、すまんかったな・・・。・・・じゃあ、話を聞こうか?」
少し、ぴりっとした空気が流れた。ハスキーは話し始めた。
「今日の早朝、あいつ銀行を狙って悪さしちまったんだけどよ、その新人に殺られて首捕られたって話・・・」
ルナの嫌な予感が当たっていた。身を乗り出して聞き返した。
「ん?a級って、結構上の賞金首だよな?俺の知識おかしいか?」
「いや、そうだぜ?俺の級がB級だから、俺の方が弱い、ってことだけどよ」
「いや、待てよ。・・・ここ最近、頭の悪い筋肉バカか頭デっカチが狩られていったよな??」
「あぁ、まさしくその通り。無駄な悪さをしている奴らを狩る、正義のご登場・・・ってことだな」
「・・・ほぅ・・・」
そいつは面白そうだ。触発されちまいそう。
「よし、俺、そいつに会いに行く」
「え”っ!?何でそうなるの!!?」
「頭の良い若い子ってやつほど、早めに息の根を止めとかねぇと、のちのち厄介になっちまうからな」
ルナはそう言ってから、紅茶を飲み干して控え室をあとにした。別の仕事仲間がちょうど目の前を横切った。
「あ、ルナさん、どちらへ?」
「ちょいっと油を売りに~」
「あ・・・はい・・・いってらっしゃい」
ルナの油を売りに、という言葉にはどうもいい印象を受けられないのだった。
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「今日は・・・久しぶりの・・・休日!」
ミントは朝日を浴びて、最高のご機嫌気分で外を出た。休日の最初は、散歩から入る。早朝はまだ誰もいない公園だから、そこでちょっとばかし運動をしていたりする。スポーツも読書も好き。今日は何をして遊ぼうかな、と考えつつもジョギングをして公園に入った時だった。
「!?!っっ」
なんとも言えない寒気が背中を走った。誰かが見ている!?当たりを見回した。
「―――――っ!」
公園のベンチに、たった一人だけ座っていた。そいつはこっちを舐めるように見つめていた。ばちっと目を合わせてしまい、どうやって視線を外せばいいのか判らなかった。普段だったら、挨拶をしてさっさと自分のすることに戻れるのだが・・・。
外したら最後、首をかっきられそうなほどの印象を与える視線だった。
「・・・なぁ、」
向こうが話しかけてきた。それは見事な低音ボイスで、ミントはよく判らない感情に駆られてしまいそうだった。
「・・・・・・」
「高速のシアンって、お前のこと?」
「っ!?!」
ミントは不意にも、仕事の肩書きを名指しされられて、戸惑った。ルナはその姿を見て笑った。
「くははっ!素直でよろしい、よろしいっ!」
この人、会話すると疲れそう・・・。
だけど、この人、どこかで見たことある気がする。
賞金首のリストの中で、とびっきりヤバそうな雰囲気が写真からでも伝わってきた、あの・・・。
「片腕の剣士―――――!」
「古っ、俺そんな名前持ってたっけなぁ~」
「本物にお目にかかれるなんて、けっこうついてるや、今日・・・」
「そんな有名人でもないがな」
「三年前、オーストラリア並の土地の広さを誇る町もろとも、血の湖に染め上げた・・・フェンテル都の死、と言われている史上最悪の事件の犯人」
「割に合わなかった仕事だったぜ、全く・・・」
「さぁ、そんなどエライ暗殺家が、俺になんの用?」
「そうだな・・・」
ルナは顎に手を当て、少し考えてから意地悪な笑みを浮かべて、こう言った。
「俺の彼女になるかい?」
「・・・・・・」
これだから、馬鹿は嫌いだっ!!
「狂ってやがるっ!!」
早速、朝から羽を出しては浮遊し、ルナに真っ逆さまに落ちてかかとで蹴り落とそうとした。それを余裕の表情で避けるルナ。ベンチが破損した。
「あぁ~あ、俺のお気に入りのベンチが・・・」
「つべこべ言わず・・・!」
空中で浮遊しつつも、蹴り技を食らわせようとする。ルナの片腕が鋼を纏い始めた。
「っ!!?」
ルナの剣が顔目掛けて殴ってきた。ミントはそのまま後ろへ飛んで、地面に二、三回くらい跳ねて落ちた。刃の部分ではなかったため、斬られることはなかった。もし刃の部分だったら、完全にミントは死んでいただろう。
「動きが綺麗だなあ、戦術に美学を感じるぜ」
「っ!・・・美学・・・なんざ・・・っ」
口から出る血を拭っては立ち上がる。頭がクラクラする。ルナの一撃がかなり重かった。ハンマーを思いっきり当てられた感覚だ。
「ピピカ族の生き残りか・・・?」
「っ!?」
「図星だな。・・・ピピカ族の羽は、高級のクッションとかでよく使われているな。色も綺麗だから、織物とかでもよく見られるし・・・俺も好きだな、色とか独特で、」
「貴様っ!!」
ミントの怒りがピークに達した。そしてルナは度肝を抜かれた。
「っ!!?速い―――――」
ルナはやっとで追いつく肉眼で捉えた。ミントの全身が、緋色に覆われては朱く光った。
「・・・やば―――――」
こいつは本当に美しい。
こいつこそ、生きるにふさわしいハンターだ。
「そうやって・・・生き物の痛みも知らないっ!!食わされて、生かされて、のうのうと・・・!!お前らみたいな野蛮な種族なんか―――――!!」
ミントのもう一つの肩書きは、音速のフェニックス。
「俺がこの世からくたばらせてやるっ!!!」
ミントの頭突きが、ルナのみぞにくらった。ルナは後ろへ飛んでいった。そして地面に仰向けでばてた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ミントは怒りで真っ赤に染め上げられてゆく。
「・・・良い根性だ」
「っ!?まさか―――――」
手応えはあった。しかし、ルナの尋常ではない肉体がそれを阻めてしまった。ふと目を凝らすと、ルナの鋼の剣に、うっすらと血がついていた。
「っ・・・??」
ミントはその場で脚を崩した。よく見たら腹に斬れ跡がくっきりと残っていた。しかも相当深い。
「・・・っガハッ・・・っ」
ミントはその場でぐったりと倒れ落ちた。そして小耳にルナの声を聞いた。
「俺はお前みたいなやつを探していた。ぐらつかない目的に噛み付いて、食いちぎろうとせんその眼光。なにより、お前のその過去の背負いし怒りはこの世に眠らせるにはもったいない。協力してやる。それから・・・。
今日からお前は、俺の羽になれ」
「ルナさん」
早朝、木がメインで出来ている家に、三階まで昇ってはルナを起こす声。ルナはうたた寝しつつも、返事をした。
「~~~~~っ・・・おう、ザクロか・・・」
「おはようございます・・・」
少々不機嫌なツラをしつつもミントは応答した。ミントの手元には、ブラックのコーヒーと軽い朝食用のサンドイッチがあった。それを丸い透明な机に置く。・・・そう、俺はこのルナっていう、孤独主義の史上最悪の暗殺者の下で働くことになってしまった。給料は実に良い。身の周りのお世話だけで月給300万手に入る。それも、きっとこのルナが稼いだ汚い金なんだろうけど。
「・・・ん?これ、旨いな」
「一人暮らしをしていりゃ、誰だって料理くらい上手くなりますよ」
「そうか、一人暮らしなぁ。向こうの会社に居座ってはそんなこと一切しなかったなぁ」
「あぁ、そうですか」
そして、この人は俺のことをザクロ、と呼ぶことにしたらしい。ミントは可愛すぎる、ザクロがかっこいいだろう、って言って。ザクロとは、赤い食べ物らしい。俺のバーサーカ状態を見て、思いついた名前だ。・・・食べ物っていうのが、少々気になる。
「今日の日程は、どうなんですか?」
「仕事、深夜の三時くらいまで戻れない予感」
「ですか」
「悪いが今日はトレーニングに励んでくれ。一日俺がいないからな」
そして、この人は本当にお節介なのか、俺を弟子にして鍛え上げてくれるらしい。そりゃ食いついた。どんな手を使ってでも、強くなりたいのが俺の本音だからだ。
「丁度良かったです。俺も今日は狩りますので、修行できません」
「ふぅーん、誰を狩りに?」
「これ、です」
賞金首のリストを渡して、丸のしてあるところをルナは見てから鼻笑いした。
「またa級か、精がでますなぁ~」
「それでは、お先に失礼します」
三階の窓から飛び出そうとする俺に向かって、ルナが一言。
「いってらっしゃい」
「・・・いってきます」
人とこんなに会話することが滅多になかったから、少しだけ孤独感から解放されて嬉しいのはあった。それに、ルナの住んでいる家はあの仕事場からかなり遠い、静かで山がよく見える町だった。こんな良い所で、綺麗な家に住んでいるルナが恨めしかった。
「・・・よし」
空高く、雲を見下ろせる高さまで飛んで目的地周辺へと向かう。距離がある場所へと向かう時はこうやって高く飛ぶことができるから、目的地への長い距離には感謝している。朝日が気持ちいい。
「よし、行くかっ―――――!!」
今回狩る相手は、体が全身吸盤で出来ている海の悪魔族の末裔、シー・ポザッツ。海岸で暴れまわってるのを確認した。そして急降下する。そいつの骨のないでっかい頭に蹴りをくらわした。
「キシャァァァァアアア!!!???」
そいつは言葉も通じない声で嘆き始めた。ものすごい弾力で、しょうしょう飛ばされそうになった。俺の体重は平均より軽いから仕方がない。
「朝から楽しそうに海水浴か」
空中で相手を挑発した。そいつの巨大な身体から、タコそのものの足がニョキニョキと出てきた。俺をとっ捕まえようってか。面白い。
「空中戦なら、負ける気がしないな!」
青空に溶けるように、高速で触手を避ける。何本もの腕が俺をとっ捕まえようと必死だから、腕が追っかけているうちに絡み合ってしまってほどけなくなってしまう。
「ははっ、まるでアニメのような展開だ」
本当に、アニメのような・・・。
「っ!!?しまっ―――――」
タコの足が、後ろから俺を掴みやがった。そのまま海のモズクへと引っ張られてしまう。夏とはいえ、冷たい海に身を投じられたからには体力が奪われていってしまう。
息が・・・、もう、ダメ・・・。んなわけねぇだろっ!!
羽が一気に真っ赤に染まる。そして音速で的の脚を羽で切り落とし、海から勢いよく飛び出た。
「・・・」
そして見た。そいつの食べられて体が持っていかれた人達の欠片を。
「あー、良かったよ。・・・お前みたいな吐き気のするやつほど、殺しがいがあるってなっ!!!」
加速して、加速して。そいつの目に飛び込んでいった。
「ッ!?!?!?!」
そいつの体内を血眼で駆け巡りながらも、最後は脳天から飛び出ていった。海に一旦飛び込んでは全身についてしまった肉片や血液を流し、飛び上がって水気を落とすために大げさに羽ばたいた。
「ッ!!!!!―――――」
そいつは目と脳天から体の液体を海に広げながらも、水面へ叩かれるように水没した。またパトカーが見える。今度は口座番号と肩書きが記名してあるカードを一人の警察に投げ与えてから飛び去っていった。女性のきゃあー、という声が聞こえる。
「・・・・・・あんな惨たらしい殺しを俺はしたのに・・・」
正義なんて、言えっこないのに。心の底から、その女性たちの声援を否定した。
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「ただいまー・・・」
俺は、ルナの家の二階のベッドで寝させてもらっている。正直、三階より広いのに、どうしてルナは三階なんだろうと半ば聞きづらい疑問をもってしまった。何故聞きづらいのか、それはこの家にはルナしかいない。なのにベッドは三階に一つ。二階には個室それぞれ合わせて三つ。・・・家族持ちだったのだろうか。多分、これを聞いてしまえば古傷をえぐってしまうだろう。聞かないことにしている。が、いつかのタイミングに聞き出そうとは思っている。
何故だろう、痛みをもしかしたら共有できるのかもしれないという、甘ったれな考えがあった。・・・バカだな、俺。あの人の年と比べたら、10歳もひらきがあるっていうのに。なにが共有なんだろう。
「俺の痛みなんてちっぽけなんだろうな・・・」
シャワーを浴びながら、鏡に映る自分を見る。羽を伸ばせば、あのタコの体内の液体が羽の隙間からじわりと流れ出てきた。
「・・・・・・う”っ」
気持ち悪い。自身の平気でやってのけた、体内観光廻りを今は吐き気がするほど俗物の好む殺し方だと思えた。・・・怒りがピークに達すると、なぜかそういうことを平気でできてしまう自分がいる。それもまた許せれない行為だけれども。
「・・・綺麗な戦いなんかじゃ、ない・・・」
鏡に映る自分を撫でる。
―――――動きが綺麗だなあ、戦術に美学を感じるぜ。
「・・・そんなんじゃ、ない・・・」
その場で脚を崩した。壁に頭をつけて、しばらくぼうっとした。
「こんな俺を知らないから、そう言えるんだ・・・」
なかなか寝付けれない夜になりそうだ。時計は二時を回っている。三時には彼が帰ってくる。なんだか顔を合わせづらくなってしまい、早めに寝てしまおうとさっそうと上がっては寝れる支度をする。布団についた。
「・・・ははっ、やっぱり寝付けれないなぁ・・・」
窓から差し込む月の優しい光が、心を癒すよりかは心を悲しくさせてくる。俺の今の状況が本当に将来に彼らを助けることになるのだろうか、それが悩ましかった。ルナは俺の、何故ハンターになっているのか目的を聞いた。そうしたら密猟者についての話を知っている同僚がいるらしく、そいつに話を聞いてくれるらしい。現在は返答待ち。
「・・・はぁ―――――」
ガチャ・・・と、扉の開く音がした。帰ってきたんだ。それに気がついて慌てて布団を顔まで被ってしまった。足音は普通に三階の方へ向かってゆく。
「そうだよな、入ってくるわけないんだったな・・・ははっ・・・」
「ルナさん」
早朝。いつものように朝、起にあがったのだけれども。
「・・・ルナさん!」
一向に反応しない。それもそのはずだろう、彼は三時に寝て、今は五時だ。二時間だけでは睡眠というより、仮眠レベルだろう。だが、叩き起してでも起こしてくれ、というルナとの約束を果たすのが義務である。
「もぅ、起きてくださいいよ!!」
布団をめくって、それから気づいた。
「っ!!??ルナさん!!」
彼の布団のシーツは、真っ赤に染まっていた。それもそのはず、ルナの腹には大きな傷があり、そこを抱えて寝ていたのか手が固まった血に塗れている。
「ルナさん、ルナさんっ!!」
まずい、二時間も流れっぱなしだったということか!?おいおい、死んではいないよなっ!!?慌てて息の確認をする。・・・寝息でも立てているように健全である。とにかく息は確認した。止血を急ごう。確か、二階のどこかに救急箱を見かけた。救急箱を探す、探す。
「おぅあった!」
変に救急箱を探すのにテンションがあがった。そして慌てて三階へとダッシュした。すると、ルナが上半身を起こして、腹元を抑えながら布団から降りようとしていた。
「る、ルナさんっ!起きちゃだめですよ!!」
「・・・ん、騒がしかったし・・・止血しねぇと・・・」
「俺がしますから寝ててくださいっ!!」
「・・・良いのか?」
「お世話しますからはいっ!!寝たねたっ!」
半ば無理やり寝かしつけ、ルナの手をどかした。・・・そこまで深い傷ではなかったようだ。まるで何かの刃物を避けきれずにくらってしまったような跡だった。
「・・・ってぇ・・・」
ルナが余裕じゃない表情を見るのは始めてだった。ちょっとどきどきしながらも治療を急いだ。
「・・・これ・・・」
「針だろ?・・・救急箱探せよ」
「そんな、俺縫ったことないっ!し・・・」
麻酔なし、ですか。
「やってみろよ」
ルナに針を救急箱から探すよう促されてしまい、針を実際に見つけた。・・・とても細い。
「それが嫌なら・・・こっから三時間かかる医者を呼んで来い」
「そうします!!」
そうだった、こいつには羽があった・・・。便利だなぁ。
「行ってこい」
「とりあえず、手で抑えてくださいよ!血っ!」
「へい、へい・・・」
「それじゃいってきますっ!!」
急いで飛んだ。その大型の病院の方へまっしぐらに飛んでいった。早朝だから、開いていない可能性の方が高かったが、動かないではいられない。速く、速く速く・・・!
「すみません!!」
やっとの思い出たどり着いた、所要時間、30分。交通で妨げられることなく、一直線でいくとこれほどまでにも時間が短縮されるのか。
「だれかいませんかっ!?」
病院は静まりかえっている。ミントは諦めることなく病院の周辺をうろつき回った。
「どうしたのかね?」
「っ!?」
ちょうど、鍵を開けようとした医者を見つけた。事情を説明し、さっそく来てもらうように説得した。
「だが、どうやっていけば・・・」
「俺に乗って!!」
「っ!?君は・・・」
「さぁ、行きますよっ!!」
医者をかついで、と言うより、人を担いで飛ぶのは元来始めての経験だった。医者は高いところが苦手な人ではなかったので、いつもどおりの高いところからの飛行船を楽しんでもらえれた。
「君は・・・ピピカ族かね!」
風をきるなか、医者は声を張り上げて訪ねた。その返答に答える勇気はまだなかったから、ミントはそのまま聞こえなかったフリをした。人が乗っているためか、あんまりスピードは出ず、一時間はかかってしまった。
「ここです!」
三階の窓から帰宅した。するとルナの出血はさっきより酷くなったのか、冷や汗を浮かべ、吐息も苦しそうに上がっていた。
「速ぇな・・・」
「!?これはいかん!速く止血を急がなねば・・・!」
「針なら・・・ここに、あるぜ・・・」
「・・・麻酔がないのが痛いのだが、やむを得ん。君にはかなり我慢してもらうぞ―――――」
ルナの切り口の所に、針が刺さる。顔をしかめるルナ。それを横から見ているミント。
「・・・っ・・・てぇ・・・」
やばい、なんだろう不意にかっこいいと思ってしまう。そういえば、彼の肩書きにはもう一つあり、同僚にはそれで通っているらしい。悪食い、という肩書きなのだが、一体どういう意味なのだろうか・・・。
「・・・ふぅ・・・これでひとまず、安心だろう・・・」
さすがは医者、手が速い。ルナの大きくあいていた傷口が口を閉じたように糸でぴったりはりついた。ルナの冷や汗を濡れたタオルで拭くミント。医者は感嘆した。
「よく耐えたものだ、針を通す痛みは大人でもべそをかくというのに」
「慣れっこですから。本当は独りで治療するように、買っておいたものです」
「医者を頼りなさい」
「時間が惜しいものでして・・・」
「まぁ、とりあえずお金の方は後で請求書を渡そう。緊急治療、という形でね」
「金ならそこにある、とってけ」
ルナの顎が白いケースのバックを指した。医者がそれに慎重に手を伸ばす。そして開けてみると・・・。
「っ!?こんなお金、どこから・・・!」
ミントもその中を見てはびっくりした。映画のようにぎっしり札束が綺麗に入っていた。
「好きなだけ、とってけ。医者さんの見合った金でも」
「・・・いいのかね?」
「その金は、俺には使えねぇから、な」
「・・・」
医者は黙ってケースを閉じた。
「そんな盗人のようなことはできんぞ。医者としての役目を担っただけだからな」
「・・・良いおやっさんだ、これからお世話になろうかな~」
「はははっ!いつでも来なさい」
ミントはその二人の会話を隅から見ていた。ルナに医者を送るように命じられたので、医者をさっきの病院へと運んでいった。・・・ピピカ族については一切聞かれることがなくてホッとした。それから空中で優雅に時間を考えずに帰っていった。
「今日は朝からすまんかったな。お前がいて助かったぜ」
「いいえ、」
ルナは用意されていたコーヒーに手を伸ばした。もう冷めているだろうに、とミントは思いつつも、ルナの様子を伺った。
「・・・お前もバカだな」
「なっ!?」
「ハスラーなら、俺が死ぬのを待つかとどめを刺して賞金かっさらえれたのにな」
「!」
この人は、そうやって冗談を抜かす。ミントはため息をつきながら、こう答えた。
「師匠になってくれた人を受け渡しはしませんよ。賞金より名誉より欲しいのは、強さですから」
「復讐か?」
「・・・それは言いましたよ。それ以外なにも理由はないって」
「復讐は虚しいだけだぞ?」
「っ!?」
ルナがそんなことをぼやきながら、今日の朝食をゆっくりとっている。ミントは逆上しそうになったが、冷静に聞き返した。
「そんな言葉、聞きたくなかった。・・・どうしてそう言い切れるのさ、」
「虚しいだけだ。それがしたくて選択した仕事は、そんなものは原動力にたいして使えれなかった、って復讐が終われば思うだろう・・・」
「―――――ルナ、さん?」
ルナの言葉は、まるで復讐を経験したかのような言葉だった。やっぱり、この人にはなにかある、そう確信するミントだった。
「さて、今日は仕事ないから久しぶりに修行するか?」
「傷があるのに、大丈夫なんですか?」
「こんな傷つけても仕事は全うできる俺だぜ?ちょろいちょろい」
「・・・じゃあ、お願いします!」
きっと、俺たちは復讐の原動力で居合わせてしまった運命なんだ。