「ルナさん」
いつものように、朝起こしに行く。ルナも何時も通りに、けだるそうに起きる。
「あ"ぁ・・・きっつい・・・」
「昨日も遅かったですよね」
「最近仕事が洒落にならんほど多くてな、」
「お疲れ様です」
ミントはあんな宣言をしてみたものの、やはり向こうが寝ていたからか、なんの展開も起きないでいた。展開、というのはミントは全く想像もつかなくてよく判っていないのだが、ルナのその悪食い実演、という形にまだ出会っていない。望んではいない、がゼロとは言い難い。だが、確かに自分たちの仲の良さは以前と比べて格段に良い雰囲気でいることは確かだ。互が互を慕っている関係なのは確かだ。だから、こういう平和な日常もありかな、と心の中では呟く。
「無理しないでくださいよ?」
「おう、判ってる」
そんな、今が幸せだからか、密猟者についての話はなぁなぁにしたいと思っている。結局、自分の父の死が確認できたから、密猟者に関しては触れたくない、そういう気持ちが強く働いていた。仲間が生きていたなら、復讐をしようと思っていた。でも、自分以外に復讐を望む人なんて、もうこの世にもういない。だったらする必要もないと思えた。
「お前さ、どうする?」
「はい?」
「お前の父親は確認できたけどよ、家族とか友達はまだなんだろう?」
どきっ。
ミントは触れて欲しくないところをいとも簡単に触れてきたルナにびっくりしつつも、言葉を選ばずに答えた。
「無理ですよ、もう。・・・だって、お父さんと皆は同じ時期に捕まってしまったのですから。・・・きっと、他のところで品にされていますよ・・・」
目を背けるミント。しかし、ルナは答える。
「そう決め付けるもんじゃないぜ?」
「どう希望を持っていろと?」
「知人に聴いた話。羽の最も美しい姿は、39歳を超えて7ヶ月のタイミングが一番羽の質、色とも見事に輝いているらしい」
「それが何か?」
「お前の親父の年はいくつだった?」
「五年前だったら、35歳ですが・・・、・・・えっ?」
「他のお友達は、今は何歳だ?」
「同い年だったら、18、19です。お母さんは・・・37歳です!」
ルナは笑って答えた。
「どうだ?少しは俺の話を聞く気持ちになったか?」
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「よく来てくれた、ようこそ我が会社へ」
驚いた。ミントは今、今まで敵として戦ってきた、S.KILLERという殺し屋の組織を雇っている社内へと案内されている。そして会議室へと入っていった。女性が仕切っている。そして、あの悪名高き三人組が、今目の前で座っている。
「君は知っているね?S.KILLERという組織名」
「ええ・・・三人だけで、300階もあるビルのシステムを、たった三時間で再生不可能までにした、という」
「必殺仕事人~~っっってな!よぅ、」
あの時に戦った、片目の大男ハスキーがミントを見るなり、こう言った。ミントはちょっと眉をひそめつつも、軽く会釈した。そしてちらと周りを見てみた。
「こ、こんにちは、インサイトです」
すこしおどおどしつつも、水色の肌をした華奢な男が挨拶を交わす。
そして、ルナと同じようにやばい雰囲気をしている、紺色の肌に包帯を所々巻いて、紅いハチマキを目隠しにしている男は、何も言わずに腕を組んでただ座っていた。
「揃ったか、」
その男は、そう一言放った。
「おう、待たせたな」
ルナが返事する。ミントはルナの席に座させてもらい、ルナは部屋の壁を背もたれにし、ディスプレイを眺める。
「今回のミッションは、密猟組織の壊滅。依頼してきた団体名は、国際希少種族保護団体だ」
「国際・・・!?」
国が、こんな悪名高い場所に依頼をしてくるとは思ってもいなかった。ハスキーがミントの反応を見て、解説する。
「意外、って顔してるな。まぁでも、お国柄のことで表側の仕事人に頼めれないようなことは、こっちに回して裏あわせをすることだってあるんだぜ」
「・・・表側の、俺たち団体に頼めれない、ですか」
ミントは失望した。密猟組織に復讐をする近道は、自分も同じ穴の中に入っていかなければならないという事実を知った。それが、五年間ずっと待ち続けた条件が、今である。
「今回はゲストとして、噂の新人、ザクロ君にも協力してもらう」
そして、ルナの指名でミントとは呼ばず、コードネームであるザクロと呼んでもらうこととなった。
「それじゃ、ちょこっと自己紹介するかい?」
女性はそう言う。メガネをかけ直して、こう言葉を続ける。
「私は、ジョイ・エネミィ。ここの会社の社長であり、君たちの指示人。ジョイでも、エネミィでも読んでくれ」
ジョイはインサイトに目配せし、インサイトはそれに応じて席を立つ。
「い、インサイトです。戦術はスナイパー、クラッカーなど、地味なところで活動しています。情報戦が得意ですので、何か調べてほしいことがありましたら、僕のところまで依頼してください、」
そそくさと座り始める。次にハスキーが立ち上がる。
「ハスキー。ただの筋肉馬鹿だ。大型の刃物を振り回して人をズバって斬ることを専門にしている。まぁ力仕事は任せろ」
ルナの席に座っているミントが席を立つ。
「ザクロ。飛行戦を得意とします。どっちかというと頭脳派です。よろしくお願いします」
そう言って、座った。ルナが壁についたまま話す。
「ルナだ。まぁオールマイティーな扱いで構わねぇぜ」
そして、ミントの隣にいるその人は、座ったままで自己紹介をした。
「モウニング、だ。戦闘に特化している。近距離、遠距離とも両方慣れている。チームワークは苦手だ」
苦手、にしては三人で一つの仕事をこなしているのだから、苦手には見えない。ジョイが話を進行する。
「ようし、それじゃ、この五人で乗り込むわけなのだが、その前にちょっとした情報を君たちに贈ろう。インサイト、」
そう言うと、インサイトが立ち上がっては前の机に置いてあるパソコンをつつきだした。とある地図が出てくる。そしてその地図には、点と点を線で繋いである絵が重なって表示される。その線は、太さがバラバラに表示されていた。
「これ、何に見える?」
ジョイがミントに聴く。ミントは少し悩んでから、首を横に振った。インサイトがそれを確認してから、説明した。
「これは、ここの街で情報のやり取りをされている組織を、線で結びつけているものです。例えば、メールのやりとり、電話の回数などを、内容は見ていませんが、何かが発信され、受信された通信量を模式化しました。」
なるほど、これは判りやすいグラフィックである。通信量が多いものほど太い。
「発信した情報の種類を色で分けてあります。これは、相手側の組織が運営するホームページの閲覧回数、」
線が黄色に変わった。
「これは電話の回数、」
今度は青色に変わった。
「これは、メールの回数です」
最後に、赤色に変わった。
「これらを総合して、コンタクトの多いものに関してピックアップした図が、こちらになります」
グラフィックが変わり、線の量がかなりすっきりした。緑色に変わった線は、全体から見て回数が多いもののみを表示している。ハスキーが喋った。
「今回の密猟組織に関して美味しいお話でもあるのか?」
「はい、」
インサイトがパソコンをつつくと、地図が拡大され、ある情報交換をしたと思われる一点を映し出す。そこに組織名が書かれている。
「今回、密猟組織が運営している、ここのホテル会社の侵入を試みるのですが、この場所からある組織への情報交換が多く行われていることが判明しました」
地図をマウスでドラッグしてしき、そのもう一つの組織のところを映し出す。
「っ!?」
意外な組織だった。ミントがその組織の団体を見る。
「教会?」
「ここの教会は、人類の格上げ、つまりは死を受け入れることをモットーに唱えている宗教団体です」
「支持率が非常に低い信仰だったっけ?」
ハスキーが聴く。インサイトが頷く。
「僕は、とある裏組織の総合サイトにあるチャットで、よく同じクラッカー達と情報を交換するのですが、妙な噂を聞きました」
「噂?」
「とある宗教団体が、科学者と手を組んでいる。そしてその科学者と宗教団体は、ある生物復興を目指している」
「生物?」
ルナの眉間にしわがよった。
「・・・あぁ、あの狂った宗教団体が考えるのは、人類滅私、」
「うってつけの生物が、五年前にいましたね」
ディスプレイが映し出したのは、ミントが一回新聞紙で見た、あの生き物。
「ゲープの復興、を唱えているらしいです」
部屋が静まり返った。ミントは後ろにいる彼の表情を伺おうとは思わず、一切振り向こうとはしなかった。
「・・・ゲープが復活したならば、ここはかつての惨劇を繰り返すことになる」
今まで口をつむいでいたモウ二ングが、言葉を放つ。
「その宗教団体の思うツボ、人類滅私にはうってつけの兵器だ」
ハスキーが返答する。
「それに、今じゃそのゲープを死なせる道具のレシピなんざこの世に残っていない」
「俺がぶっ殺しちまったからな」
ルナが、いつもより更に低い声で喋った。完全に怒っている。ルナは深くため息をついて、壁から離れた。
「ここにいられねぇ、情が表にでちまう。すまんが、会議が終わったら呼んでくれ・・・」
そう言って、会議室を出て行った。ハスキーがインサイトに言う。
「今のって俺が悪かった?」
「いいえ、確実に、僕が悪いです・・・」
ミントは、きっとこの三人はルナの過去を知っているのだろうと思ったが、聞かないことにした。ジョイがミントに問う。
「時にザクロ、お前はルナのどこまでを知っているんだ?」
「・・・その化物が救世主の血によって死んだところまで、しか知りません。何故ルナさんがあの都を死へと追い込んだかは、まだ・・・」
ハスキーが頭を抱えた。
「うぉぉぉ・・・超惜しいところまできてんじゃん」
「え?」
「誰の血なのか、までは知らないのね」
「はい、そうですけど・・・」
「ルナの家族について知っているのは?」
「子供が二人いる、ことくらいで奥さんのことは全く、」
「「ずるいな、ルナ」」
「へ?」
ハスキーとモウ二ングがハモって言った。モウ二ングが続けて言葉を話す。
「答えを教えずに焦らすとは、奴らしいがこれでは仕事にさしつかえる」
「そこまで教えてんなら最後も教えてやりゃあいいのになぁ~」
「いいえ、俺が勝手に調べていたのがバレて、救世主の血はヒントで貰えれたのです。そこから先は全く教えてもらえていません・・・」
二人はため息をつく。
「ルナも可愛いところあるよなぁ、いい男」
ハスキーがそう言う。ジョイがミントに助言した。
「ルナの部屋に行った?」
「はい、」
「白いケースを持っていただろう?」
「あの、札束が入っていたものですか?」
「その中の下敷きにされているものを見たら判る」
えぇぇえ!?!それって、いわゆる侵入して大事ななんたらを探すみたいなミッション!?
「い、嫌ですよ!これ以上彼に怒られたくないです!怒りに触れたくない!」
「それで良いのか?」
「え?」
モウニングが、ハチマキをしているにも関わらずこっちを向いてきた。
「ルナの過去と関わる仕事は今回が初めてだ。 ・・・我々はルナの過去をこの目で見てきた。あの時、彼に何もできなかった自分たちをどれだけ恨んできただろうか。・・・だが五年も経った今、その悪魔の復興を阻止するためにまた立ち上がる、我々は彼のために戦うチャンスを貰えれた」
ミントはモウニングがこんなに喋るとは思っていなかった。そして触れた。
「今度は、君という未来から来た当事者と共に。・・・ならば、彼の過去を知った上で、我々と一緒に闘ってほしい」
彼の、仲間に対する暖かい想いに。
ルナはそれを、向こうの壁側で聞いていた。
・・・はっ。俺は独りだって、思い込みだったのかよ。
なっさけねぇ、情けねぇな、俺!
会議室に入るルナ。ミントと目を合わせた。それからホッとため息をついて、ミントに話しかけた。
「・・・あぁ、わかったよ、話そう。タネ明かしだ」
夕暮れ。海が淡い橙色に染まってゆく。それを眺めるミントの目からは、涙しか溢れていなかった。砂浜に座り、膝をかかえて顔を埋めて、ただただ後悔した。
「知らない方が良かった、知らない方が―――――」
白いケースを、彼が渡してくれた。その中の札束を丁寧に取り出していくと、手紙が下敷きにされていた。その手紙には、写真ととある誓約書が入っていた。誓約書には、こう綴られていた。
『あなたの良き妻は、我々が天に送り、責任をもって神の元へ届けました。どうぞ、あなたのこれからの人生を素晴らしいものにしてください。あなたの素晴らしき妻は、救世主となり、空から見守っていることでしょう』
文章の意味が判らなかった。そして手紙の中からは、写真が出てきた。その写真を指差して、彼はこう言った。
「俺の妻、美人だろう?」
だが、ミントはその写真を、どこかで見たことがあった。あのフェンテルの都にあった、女性の銅像と瓜二つの顔をもつ、ルナの妻。
全てを悟った。
「!ザクロっ!!?」
彼の声を無視して、三階から飛び出て、ただひたすら消えたくて飛んだ。彼に対する自分の失態と、知りたい好奇心の罪深さを呪った。何よりもまず、触れてはならなかった、やはり触れてはならなかったのだ。
「・・・みぃつけたっ」
頭を後ろからくしゃりと撫でられた。ルナの声だ。だけど、自分は顔を合わせれるほどの余裕はない。自分の愚かさに恥ずかしくて目を合わせれない。ルナが隣に座ってきたと思う。隣から砂の音がした。
「・・・お前さぁ、勝手にいなくなりそうで怖いぜ」
ルナがそう言う。あの優しい声とは違う、むしろ儚い印象を受ける声だった。
嫌だ、もっと泣けてくる。
「・・・ごめん、」
ミントは顔を伏せつつも謝った。ルナは笑う。
「そんなんになっちまうほど衝撃的だったか?」
「俺・・・俺・・・、」
ルナさんのことが好きで、それで知りたくなって。でも、秘密は共有していいものと悪いもがあって。そんなの知ってたのに、知ってたのに、ごめんなさい。
「・・・・・・、」
ルナが深呼吸をして、話した。本当の、彼の口からの種明かしだ。
「・・・どこから話せばいいのか、判らねぇな。
俺は、まだ信じてないんだよ。俺の妻が殺されてしまったのを。
お前が今まで寝ていた布団、あれは俺の妻の寝床だったんだ。それを埋め合わせるかのようにお前が寝ている姿を見ていては、だいぶ居たたまれない気持ちになっていったけどな。
何不自由なく、過ごしていたんだ。けど、俺の妻はある血液を持っていたんだ。その血液が、どうやらこっから北側にある強力な生物を殺す道具として役に立つ、毒性の強い血液だった。俺は必死になって、人類のために熱心な生物学者や郡衛から妻を守った。仕事さえもうまく回らず、妻を見ていないと不安で仕方がないほどにも。
それで、俺の妻は殺されてしまった。もちろん、死に方は臓器諸共かっさらわれて、あったのは骨と皮と筋だけで、とても軽い、軽かったんだ・・・。
そして、その妻の臓器でもって生成された、毒の兵器のお陰で助かった街を、もろとも葬ってやった。それだけだ、それだけの理由で三年前にあんな馬鹿な経歴を身につけてしまったお陰で、仕事には拍車がかって。
血だらけで帰ってしまって、子供らを泣かせるのも勘弁だから、な。妻のあんな姿を見て、下の子は吐いてしまった。血を今後見せるようなことはあってはならなかった。だから、子供達は妻の故郷の方へあずけて、それでも俺はこの家から離れることは出来なかった。
ここには・・・思い出がいっぱい、だからな・・・。両方背負うことにしたんだ。
嫌な思い出も、いい思い出も、両方あるこの家。
・・・たったそれだけの復讐の延長で、こんな仕事をまだ続けている。
もう、三年前にケリをつけたはずなのにな・・・。はは・・・笑えるぜ」
そんな笑い声、聞きたくない!
「・・・まだですよ、」
ミントはやっとの思いで顔をあげて、ルナの瞳を見た。
「まだ、ケリはついていませんよ。ゲープが復興されてしまうのを阻止する、今度は・・・正義として、戦うんですよ」
「・・・ほんとだ、立場が逆転してやがる!はっはっは!こりゃ傑作だ!!」
そう、今回は、彼が街を滅ぼす方ではなく、街を守る方として、あの過去と関わることとなったのだ。
「・・・今度は、守ってみせる」
今度は、絶対に。大切な人を守ってみせる。
「こちら、ハスキー。どうだぁ?外からの様子は、」
ハスキーが、無線機に向かって話した。それから機器が応答する。
「こちら、インサイトです。現在、目的地から訳8kmのところにある建物の屋上から伺っていますが、良好です。警戒を強めている傾向もなく、いつものような警備くらいしかしていない様子です」
その無線機を持っている、別の人が話に入った。
「こちら、モウ二ング。現在ルナと一緒に定位置についた。ルナはもうちょっと近くの定位置に移動するそうだ」
「こっちルナ、現在移動中、空の状況は?」
すこし間が空いて、無線機が鳴り出した。
「こちらザクロです。離れた建物の上に止まってから話しかけています。上空からの侵入は出来そうです。屋上には見張りが一切いませんでした」
「あん?クッソ怪しいな、それ」
ハスキーが無線機で応答する。インサイトが割って応答する。
「大丈夫です。屋上に見張りがいない理由として、飛行機が降りられない建物の構成をしているからです。だから屋上にはいないで、その建物の中に一人か二人で見張っていると思いますよ」
「普通ありえないもんな~、上空からの侵入者なんてな」
ルナも割って話に入る。ミントの気持ちは、ただ目的を果たすのみであった。無線機がまた鳴り出した。今度はジョイからだった。
「よし、目的の最終確認だ。まず密猟組織の壊滅。これが最初の目的。ザクロは仕事しながらでもいいから、自分の家族を捜しなさい、」
暖かくて強い声で、そう言われた。嬉しくて、返事をしてしまう。
「はい!」
「その生きよ。・・・壊滅をする際に、組織を構成した頭がいるはず、そいつは生け捕りにして、教会との繋がりを暴く。これが第二目的。次の仕事に繋げるためよ、」
「生け捕りは、俺に任せてくれ。得意中の得意だ」
ルナの返事がする。
「じゃあ、モウ二ングとハスキーはルナのバックアップをお願い、」
「おう!」「判った」
「インサイトは状況を確認しながら、外からの攻撃を怠わらないように。それからなにか相手の不審な動きがあったら、直ぐに皆の無線機に発信して」
「はいっ」
「ザクロ、上からの侵入は慎重に。もしかしたらあなたの方が、組織の頭と出会うかもしれない。その時は他のメンバーに指示を仰いでもらって」
「判りました」
「それじゃ、秒読み・・・3、2、1、」
無線機を切った。
「お"らよぉっとぅ!!」
派手に裏口の玄関正面から侵入。ハスキーの役割は、派手に動いて注意を引くこと、その裏でモウ二ングとルナが階段を使い、侵入を試みる。
「なんだあいつらは!?!」「撃て!撃ちまくれ!!」
ルナに銃が向けられる。そして発砲された。
「効くと思ってんの?」
ルナの左腕から鋼が伸び、剣となる。とても面が広い剣であるため、銃弾を簡単に防いでしまう。モウ二ングはそのルナの肩を土台に蹴っては宙を浮き、相手の固まっている陣へと侵入しては、手持ちの棒で殴り飛ばして気絶させる。それから息の根をルナが止める。
「よし、最上階へ急ぐぜ」
「あぁ」
敵も人を増やそうとする。そして万全の準備を整えた。
「この部屋に入ってくるはずだ!構えろ!!」
敵は部屋のドア一つにむかって銃をかまえて待ち伏せしている。その時、
「ぐあっ!」
「どうしたっ!?」
突然窓ガラスが割れ、銃を構えている人が倒れた。
「一体・・・!?」
「・・・スナイパーかっ!?」
窓ガラスがまた一枚割れる。そして倒れる。
「くそう!どこから狙ってやがるんだ!!?」
また一人、また一人。どんどん人を狙う時間の間が短くなってゆく。
「どこから狙って―――――」
そいつの頭も飛んだ。部屋の扉が開いた。ルナの剣がブーメランのように部屋に侵入し、首を狩っとっていった。ルナの手元に戻る剣。
「あれぇ?ボスここにはいないの」
ルナが顔にシワを寄せて文句を垂れる。モウニングが次に入ってくる。
「今我々はまだ三分の一しか登っていない。先を急ぐぞ」
「女がおったら狙って良い?」
「・・・好きにしろ、」
ルナとモウニングは、また階段を昇っていった。
「よし―――――」
下が騒がしくなったのを確認して、ミントは敵の屋上に降り立った。それから辺りを見回し、拳銃を出した。音を抑制する道具もつけ、準備を整える。
「・・・すごく、緊張する」
今までしてきた狩りとは全く異質な仕事のスタイルに、初めて自分が狩りに行ったときの緊張感を思い出した。拳銃なんて使ったことなく、今日の日までルナがみっちり教えてくれたのだが、やはりまだ自信がない。
「ふぅっ・・・入るぞ・・・」
扉をそっと開け、暗い室内に目を凝らす。ミントは慎重に入り、常に拳銃を下に構え、指をかけずに進んだ。そして曲がり角に入るときは一回顔を少し出して確認してから、慎重に進んでゆく。
本当に、インサイトさんの言う通り、人がいない。ミントは心の中でぼやきつつも、歩いてゆく。
「!」
人がこっちに向かって歩いてきた。角を曲がられる。
「っ!?」
相手の脳を一発で撃つ。道具のお陰で、銃声が全くしなくてびっくりした。これならいくら撃っても、弾が切れない限りは発泡しても大丈夫だと思った。自信がつく。次へと進む。今度は二人いた。一人の頭を狙って打つと、もう一人が倒れた人に近寄ってくる。そこを射撃。なんなくクリア。
「・・・扉?」
耳をそっと宛てる・・・。
「・・・でさ、・・・んだよ・・・」
「判った。直ぐに援軍を手配しよう。その間、我々は抜け出すぞ、」
!この会話は、おそらくここの会社を運営する表側の社長と、裏側・・・つまりは密猟組織のボスとの会話だろう。ミントは焦る心を落ち着かせながらも、無線機を立ち上げる。
「こちらザクロ。現在最上階にて、ボスと思われる人の部屋の前にいます」
ルナが応答した。
「声を聴いたか?」
「はい、逃げる用意をしているらしいです」
ルナの無線機の声を聞いても、変に心が騒がしくなる。仕事中、仕事中。
「俺が来るまで引き止めてもらいたい・・・出来るか?」
「やってみせます、」
そう言って、無線機を切った。
「よし、逃げよう。とにかく、向こうの方に大事な引渡したものがあるからな」
扉が開いた。
「誰が逃がすかって?」
ミントは扉が開いた瞬間に、扉の中へ入っては銃を構える。ボスとホテル経営人は凍りついた。
「っ!?ここまできているのか・・・!」
「うちを舐めてもらっちゃ困る」
たじろきながらも、部屋にバックする二人。ホテルの経営者が近くにあった連射型の銃に手を伸ばす。ミントはその手に気づき、発泡した。
「っ!?」
そのタイミングとともに、二人のボスは物陰に隠れた。動きがなれているな、とミントは思った。一瞬の影の動きをとらえるため、ミントは暗闇に目を凝らす。するといきなり起き上がった影がこちら側に発泡してきた。
「っ!?くっ」
ミントも物陰に隠れる。向こう側がどこにいるのかこれで判った。発砲する準備を整え、向こうの動きの様子を音で伺った。足を動かす音。その音は駆け出した。
「そこかっ!」
暗闇に発砲、そいつの足を仕留めた。動きが拙い方は、ホテルの経営者の方だ。問題は生け捕りをしなければならない、密猟者の方だ。
「っ!」
密猟者が動いた。発泡する。がなんと、ホテルの経営者をガードにして扉側へ逃げる。ミントの発泡した弾は、無抵抗な経営者の体を攻撃した。
「ぅあぁっ!!」
経営者は死んだ。それにもかかわらず、密猟者のボスは扉から逃げていった。ミントはその卑劣な逃げ方に怒りを覚えた。
「っ!まてぇっ!!」
ひどい、さっきまで一緒に動いていた人を、足が打たれて抵抗できないのを逆手に、自分のガードにさせて自分は逃げようなんて最低だ。心の中で、発泡して殺してしまった罪意識もあるが、それより許せないのは、密猟者のボスの行為だった。
「このやろう・・・!」
ミントは廊下を走る。鉄の転がる音を聴く。下を見ると、小型爆弾が転がっていた。
「っ!!?」
後ろに飛び退く。爆破した。音がこだまし、煙がたちこもる。ミントは多少咳き込みながらも、向こうの方に目を凝らした。ボスがとある部屋に逃げていく。
「っいた・・・!」
ミントも続いて部屋に入る。
罠だった。
「っ!?」
無数の弾がこっちに発砲されていたのを音で聴き、それを聴いてミントは上へ飛行した。天井が少し高くて良かった。それから敵側の陣地に入り込み、銃と小型ナイフを両手に持っては敵を迎え撃つ。それを済で見ていたボスが声を上げた。
「お前・・・ピピカ族かっ!」
「・・・、」
ミントは敵を一掃してからボスのもとに歩み寄り、頭に銃を突きつけた。
「だったら何?」
「・・・さしずめ、お前の目的は家族の復讐だろ?」
「そんな話はどうでもいい、お前から教会に関する情報を聞き出すだけだ、」
「生きてるぜ?」
「っ―――――っ!?」
一瞬の気の緩みだった。
ドカッっ!!
「っ!!?」
ミントは強く、何かに後頭部を殴られてしまい、その場で倒れた。ミントはそれでも意識がまだあり、その後ろ側にいたやつに発泡する。が腹を蹴飛ばされ、あまりの痛さに地で悶える。ボスの笑い声を聴く。
「そんなに死に急ぐなよ、お前の家族の所へ連れてってやるよ―――――」
モニターの地図から伺っているジョイは、無線機の動きに怪しいものを見かけた。ミントの無線機が、建物から離れていく。その方向は、まっすぐと教会に行こうとしていた。
まずい。
「ルナ、聞こえるか?」
「あぁ?今ボスの所に―――――」
「ザクロが拐われた」
「―――――っ!!?」
無線機から皆が、その声を聴いて息を飲んだ。ルナの衝撃は大きかった。
「どこへ?!」
「目的変更、そのまま教会へ乗り込め!ミントの無線機はそこへ向かっている!」
「まじかよ・・・」
下で楽しく敵と戯れていたハスキーが残念そうに言う。それからホテルの会社にある駐車場を伺う。バイクが二台あった。ハスキーの口元が緩む。
「モウ二ング、ルナ、このホテル所有の駐車場にバイクが二台あるぜ!降りてこいや!」
「どっち側だ?」
「西側!」
「お~けぇい、」
ハスキーは窓ガラスから飛び出て、バイクにまたがった。それからエンジンを付ける。すると、上からガラスの派手に割れる音が聞こえた。そして影が二つ下へ落ちてゆく。月に照らされたその二つの影は、一つはハスキーの後ろ側に着地し、もう一つはもう片方のバイクの隣に着地した。地面がひび割れる。
「運転を頼む、」「おう!」
モウニングはハスキーにそう言った。ルナはもう一つのバイクにまたがり、エンジンをかける。
「やっべ、痩せねぇと・・・」
ハスキーが笑って応える。
「いや、お前は太ってるんじゃなくて筋肉の重みだろう?」
「だろうなぁ~・・・」
無線機がまたしゃべりだす。
「今からミントの無線機の位置データをリアルタイムで配信する、」
無線機の画面表示をオン。モニターに無線機の点が写り、その点はかなり速いスピードで教会へと進んでいく。
「・・・車のようだな、」
ハスキーの持っているモニターを、後ろ側から除き見ているモウニングが言う。ルナは自分の無線機をしまい、片腕の剣をしまう。
「よし、行くぜ」
エンジンがうなり、二つのバイクは走り去る。無線機がなりだす。
「インサイトです!現在車の見えやすい場所へ移転しました!そこから援護します!」
モウ二ングが無線機を取り出し、応答した。
「助かる、どんな車だ?」
「大型トラックです、ザクロさんが乗せられているところも目撃しました!」
「おぅおぅ、妙に速い展開だな~」
ハスキーがそうぼやく。ルナは声を張り上げて聴く。
「どうする?」
「僕が車の運転している奴を打ちます、そのタイミングでザクロさんを確保してください!」
インサイトが応答した。そして無線機が切れる。ハスキーがしゃべる。
「こういうときってインサイトいなかったらどうなってたろうって毎回思う!」
「頼もしい仲間だな!」
モウ二ングが返事を返した。モウニングが無線機の画面を見つつ、現在の車と自分たちの距離を伝える。
「次の角を曲がれば、トラックが見えるはずだ!」
「うっし!曲がるぜぇ!!」
ハスキーが最初に曲がった。その次にルナも曲がる。抜け出ると、確かに大型のトラックが走っていた。近づいてゆく。と、トラックの後ろ側の扉が、外れるように開かれた。扉を避けて運転する。
「ひゅぅ~、」
中から銃を持っている人がこちらに銃を向けてきた。
「ルナ!」
「わ~ってる!」
左手が平べったい盾に変わる。向こうが発砲してきたのを防ぐルナ。ハスキーは運転してはトラックの横側へ移動した。モウ二ングがバランスをとりつつ、後ろの席で立つ。
「乗り込めぇ!」
モウ二ングが跳ぶ。トラックの天井に着地した。それから慎重に歩いて、トラックの後ろ側にいく。モウ二ングが飛び降り、ルナの剣の面を足場にしては蹴って、トラックの中へ侵入した。敵を一掃する。そのタイミングで、インサイトが遠くから射撃。運転手の頭を狙い撃った。トラックが大きく揺れる。
「モウ二ング、来い!」
ルナが盾をしまう。モウニングはその場で、縄で縛られているミントをかつぎ、跳び降りてはルナのバイクの後ろ側に着地する。見事なチームワークだ。
「完了か?」
ルナのバイクが減速し、ハスキーのバイクもそれに続いて減速する。無線機がなりだす。
「さっきのタイミングで・・・良かったでしょうか?」
インサイトだ。ルナが応答する。
「完璧、おつかれちゃん」
「おつかれさまでした!」
「そだ、中にボスはいたか?」
ハスキーがモウニングに聴く。首を横に振って応答する。
「密猟者のボスはおそらく、別の車で移動したのだろう。我々がこちらに襲撃しにくると予測して・・・」
「おうふ、いなかったか~」
ふりだしに戻る。しかし、密猟組織のボスが逃げた方向により、教会との繋がりは明白とされた。無線機が鳴り出した。
「救出は?」
「無事、成功~」
ルナが応える。縄を解き、目隠しを隠す。ルナが代わりに担いだ。
「俺が運ぶ、一緒の家だし」
「「えっ!?」」
インサイトとハスキーが反応する。インサイトは顔を赤くし、ハスキーはからかいの笑みを浮かべる。
「ほっへぇ~~、ふぅ~~ん、二人はそういう仲ですかっ!」
「ルナさん・・・十歳も歳下に・・・そんな・・・」
「ちっげぇよ?」
ルナは苦笑いを浮かべてそう言った。