「・・・そろそろ、だな」
「これ、いいんでしょうかね。見た目的にとっても清楚な感じが漂いますけど・・・」 「良いんじゃね~の?ぶっ壊してくださいって言ってるように見えるぜ?」
「ま、これで一件落着の道にいければ、壊して正解じゃないんですか?」
「おっ!良い事言うねぇ~!」
『皆、用意は良いわね?今回のミッションは、派手に暴れて、警察を呼び込む。そしてそこの教会に警察が来るまで事実をつかみ、それを警察に届け出てさっそうと消え去る。・・・今までの中で一番スリリングで、爽快なミッションだとは思うけど、くれぐれも、警察が教会側に味方しないように、証拠だけは探しなさい!』
「秒読みをしよう、私の時計で読み上げる、」
モウ二ングが懐中時計を出す。そして読み上げる。インサイトは遠くからその声を無線から聴き、他の三人は近くでそのカウントを静かに聴いた。
「5、4、3、2、1―――――」
教会の扉が開く。そして四人は突っ走った。
「来るぞ!」
モウニングがそう言った。教会の、いわゆる制服と言える服に身をまとった敵が、銃を向けて発泡してきた。四人は散らばって避けた。ハスキーが笑う。
「っははは!清楚な服をまとっているのに銃を構えるとか傑作!!」
「化けの皮を被っているつもりなんですかね!」
ミントがそれに返事して、それでも的に銃を向けて発泡した。腕は上がっている、頭を狙えれるようになっていた。ハスキーは自分の身を隠している長い机を担いでは敵にぶん投げ、潰してやった。ルナは相変わらずの剣士っぷりをみせ、モウニングは敵の空白の領域に侵入しては剣を突き刺す。第一関門終了。
「ひっでぇ有様だ、神様を祈る場所で戦争とかよ・・・罰当たりだぜぇ」
そう言っているハスキーは、非常に楽しそうな顔をしている。ルナが割って入る。
「ま、ここで祈られている人食う神なんざ祈っても仕方ねぇけどな、」
「それもそうか、」
モウ二ングは、辺りを見回す。教会の方に、もしミントたちの家族、ピピカ族が密猟されているのなら、別の部屋にいるということになる。が、部屋は今四人がいるこの広い場所のみ。ミントも歩いて周りを観察した。
「・・・ここが怪しいな」
「そうですね・・・」
モウ二ングとミントは、一つの像の前に止まる。そこに後の二人も集まる。
「白い像、だなぁ・・・」
ルナの足が止まった。ミントはまた顔を合わせたくなくなった。
「ゲープ、ですか・・・」
「みたいだな」
ルナは自身の怒りをコントロールしてから、皆の元に歩み寄った。ここの宗教は絶対におかしいと、心の中で思いながら。
「で、どうする?」
ルナが聴く。するとモウ二ングが像の下の部分を指した。ルナが口笛を拭いて、納得した。
「こいつはただの置物、みたいだな」
「下のこの微妙な隙間が気になる。どかしてみてくれないか?」
「okey」
「まかせろ」
ハスキーとルナが像を押す姿勢をとり、せーのっ、と掛け声を出してはどかした。モウニングの考えは正しかった。
「おぉ~!」
「こいつは、驚いた・・・」
ハスキーとルナが驚く。モウ二ングが無線機を使って、ジョイに連絡した。
「こちら、モウ二ング。教会の崇めている像が、まさにゲープそのものでした。その像の下には、隠し扉があります」
『下に、なにがある?』
ハスキーとミントが協力して、その大きな蓋を開けた。
「・・・地下へと続く、階段です」
『・・・・・・』
ジョイの返答は、やや遅れてから届いた。
『・・・よし、潜っていきなさい。ただ、そこは完全に蟻の巣に入る事になる。気をつけて、相手らに気づかれない方法で、生きて帰ってくること、良いわね?』
「了解、」
「おーい」
ハスキーが声をかける。三人が振り向くと、ハスキーがさっき倒した輩たちの胸ぐらを掴んで、こう言った。
「こいつらの上着、借りてこうぜ?」
---------------------------------------
「あつい・・・」
ミントがそう言う。ルナが後ろから背中を優しく押す。
「しっかりしろ、家族に逢うんだろ?」
「・・・そうですね、」
ルナが希望の言葉を述べてくれるのが、とても嬉しい。前から同じ上着を着た人が来る。こちらの四人組は、フードを被っているのだが、向こうも被っているため、不自然には見られない。
「お、上が騒がしかったけどよ、一体何があった?」
ミントはぎくっとなり、その場で凍りついた。ルナが答えた。
「あぁ、侵入者が新人を盾にしてきやがった。それで手間取ってたんだ」
「!?」
ミントはぎょっとした。新人、というセリフを喋った時に、自分の肩を叩かれたからだ。
「そっか、そいつはお疲れさん。どうだ?判らないことがあるか?」
敵側がミントにそう言った。ルナはつくづく頭の回る奴だと感心する。ミントが新人のフリをするとすれば、どんな質問を投げても答えてくれるのだ。
「はい、こんな地下があるなんて、思ってもいませんでした・・・」
「だよな、」
「あの、・・・ゲープを蘇らせるという話は、本当ですか?」
「!?おう、そんなことまで教えちまったのかよ」
敵側が後の三人を見て言った。ハスキーが答える。
「ま、いずれにしても教えることだろうし、」
「堂々とゲープの像を置いていては、気になるだろう?」
モウニングもしゃべる。
「好奇心ってやつだけ、強いんでな、こいつは」
ルナは皮肉そうにそう言って、ミントの肩を叩く。ミントはムッとしたが、表に出さずにいた。そして聴く。
「・・・ピピカ族、ってここにいるんですか?」
「いるぞ、」
聞いてはならない質問だった。
「なにせゲープを蘇らせるために必要な肉を持っているんだからな」
「「「「!?!?」」」」
ミントは背筋が凍った。それは後の三人も同じだった。
「そうなのか?そいつは初耳だぜ」
ルナが自然に答える。心の中では危険信号を鳴らしているが、動揺を皆がとってはならない。敵がなんとも思わずに、それに答えてくれた。
「まじか、まぁこれは内密だからな~。それで密猟者にわざわざ金をだして、買ってるんだよ」
「ほぅほぅ・・・」
ハスキーも、ルナの言動によって調子を取り戻した。モウ二ングは外側から見ていても衝撃があったのか見た目では判らないため、そこはカバーできる。問題は、ミントが全く戻ってこないことだ。ショックから断ち切れていないようだ。
「ピピカ族・・・一体どんな族なのだ?」
モウ二ングが聴く。敵は知らない人もいるのもおかしくはないと思っているのか、すんなりと喋ってくれた。
「そいつらは見た目は俺らと一緒だけど、羽根を持っているんだよ。腕に隠して」
「へぇ~、見てみたい」
ハスキーはそう言う。モウ二ングも首を縦に振った。ミントはその会話を聴いて、やっと希望をもてた。敵が答える。
「ああ、良いぜ」
敵が素直に歩いて行った。ハスキーとモウニングが先に歩いてゆく。ルナが小声でミントに耳打ちをしてきた。
「合図がある。それまで家族を見つけてもフードはとるな?」
やば、こんな大事な時にも反応するんだ、彼の声に。
「は、はい」
フードがあって良かった。なかったら顔が朱くなっていたのを見られていた。ルナが手を握ってくる。そこでまた心がバカみたいに反応する。
「いいか?どんな光景が広がっていても、絶対に取り乱しはするな?」
強く、言い聞かせてくれる。ああ、ばか、ばかばか馬鹿。
「大丈夫、です・・・」
むしろ、別の意味で大丈夫じゃない。ルナさんの手が暖かくて、本当に強く握られてて、心をくすぐるような言葉で、ああ、ああルナさん。
あなたって人は、本当に罪な人。
「ここだぜ、」
敵が扉を開ける。そして四人は吸い込まれるように部屋に入っていった。ミントは慎重に目を開けてみる。・・・なんてことはなかった。牢屋の中で、皆仲良く首輪をつけている。傷が少し目立つが、それ以外は死ぬほどの傷もない。ミントは母の姿を必死に目で捉えようとした。同級生の顔、親戚のおじさんの顔、妹の顔。
母の顔。
「・・・っ!!」
いた、いた!お母さん―――――っ!
「監視カメラがない、な・・・」
モウ二ングが一言、そう言った。ハスキーがキョロキョロする。
「良いのか?つけなくて」
「はっはっはっ!つけたって意味がねぇよ!こっから抜け出す方法なんてねぇんだからn」
「そうか、」
モウ二ングの腕が敵の後ろから忍び寄り、そしてそいつの首を折った。これを見ていたピピカ族は、冷やと声を上げる。
「なら、お前がいなければ良いわけだな、」
そう言って、モウニングが腕の力を抜く。敵は滑るように腕から落ちていった。ミントがフードをとった。
「母さん、母さんっ・・・!」
声を抑えて、それでも抑えて呼んでは檻に張り付いた。母、と呼ばれた人は声を聴いてはっとした。
「ミント・・・?ミントっ・・・!」
檻の棒をつかみ、互が顔を見合わせる。ピピカ族の住民もざわついては、今起きている奇跡に感激した。
「ミント・・・おかえり・・・!」
「母さん、良かった、良かった―――――っ!」
ルナがそれを見て、ホッとする。それから三人はフードをとって、小声でコンタクトをとった。ハスキーがしゃべる。
「どうする?とりあえず救出する方針だけどよ、まず説明した方がよさそうだな」
「俺らのこと、な」
「私が説明しよう」
モウニングが話した。
「我々は、S.KILLERだ、」
ざわつく。ミントがはっと我に戻る。これからどうやって彼らを救出するのか、悩んだ。
「我々は、あなた方を救出するためにここに来た。そして、この教会の真実を掴み、完全にこの宗派の根絶を図っている」
「ちょっと時間がかかるけどよ、安心してくれ。絶対に仕事はこなす」
ハスキーが付け足す。ルナも発言する。
「そのために、君らはまだここにいてほしい。俺たちの計画を遂行するためだ。むやみに外に出ようとしたらまずいからな」
「どうする?ザクロ、」
モウ二ングが聴く。ミントはぎょっとした。
「はいっ」
「ここにいて、見回りが来たら倒す仕事を誰かが請け負わなければならん。出来るか?」
「・・・いいえ、多分難しいです」
それはそうだった。モウ二ングやルナのように、相手を一瞬で、声を出させずに殺すような技術はミントにない。
「なら、私がここに残ろう、」
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
ミントの妹と思われるピピカ族が言った。ミントは手を伸ばして頭を撫で、言い聞かせた。
「お兄ちゃんは仕事があるんだ、それからだよ。大丈夫、また来るから」
ミントが本当の笑顔で、そう言った。モウ二ングが近づく。
「足音がしてきたら、みなさんはさっきのように絶望的な顔をしてください、」
モウ二ングが、唯一出口である扉の上、天井に張り付いた。なるほど、敵が入って来たらまず真上にいるとは思わないだろう。
「これで仕留めてゆくつもりだ」
「体力もつもんな、お前」
ハスキーが見上げて言う。ルナが先頭を仕切る。
「そんじゃあ、有能な指揮がいなくなるってことは俺が今度はリーダーか・・・」
「頼りにしてまっせ、ルナ隊長っ」
ハスキーが冗談交じりに言う。そしてフードを被った。ミントも慌ててフードを被る。
「そんじゃ、本拠地に行くぜ」
三人はモウニングを残して、地下の更に深いところへ、進んでいった。
「ここが、本拠地っぽいな・・・」
ステンドガラスが貼り付けられている、大きくて広いドーム状の場所に来た。ミント、ルナ、ハスキーはそこで新たに見た。
「こいつは、おったまげた・・・」
ドームのステンドガラスには、筒状に出来ている、ガラス製の大きなカプセルがあり、その中でとある生き物が生成されているのを見た。
「ゲープ・・・だな、」
ドームの中を進んで、いろいろな住民を通り抜けてゆく。ミントは背が低いため、はぐれそうになってしまう。ルナがそれに気づく。
「ザクロ、」
手を引っ張って、引き寄せられた。ミントの心臓はまた跳ねる。
お、落ち着け、落ち着け・・・。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です・・・」
「離すなよ」
そう言って、引っ張られてゆく。心臓が高鳴ってから止まない。やめて、それ以上強く握らないで。
「こっちだ」
住民の中をすり抜けて、一番前に行く。そしてシステムの中枢部と思える機械を目の前にした。その機械の近くでしゃべっている人が三名いた。科学者と思われるような服の人と、教会のボスと思われる人。そして、密猟者の頭。
「へぇ・・・こうやって作られてゆくんだな、ゲープって・・・、で何が目的だ?んなのを作って、どうするつもりなんだ?」
どうやら密猟者側は、これが一体なんの目的なのかは知っていない様子だ。教会のボスが答える。
「こいつはな、人類滅私の最終兵器なのだよ、」
「あん?」
「我々の唱えている信仰は、"自然を破壊し、人を罵り合う我々人間の命はもう、悲しみしか背負うことの出来ない命なのだ。それではこの汚れた命、神に捧げて浄化し、ひとつ上の世界にシフトしなければならない"、という考えでもって行われている」
「・・・まさかっ!?」
「そう、我々はこれを地上に放ち、そして我々も食われ、この世にとどまる負の生命、人類滅私を実行するのだ」
「ふざけるな!」
密猟者の頭は、持っていた銃を構えようとしたが、教会側の方が慣れているのか、ひらひらしている服の中から片手でさっと取り出して撃つ。腹に命中し、そいつは唸りながら倒れていった。
「私が命を摘むことは許されていない。もう少しで蘇るぞ・・・」
「そうはいかねぇなぁ」
ルナが駆け出し、突進する。教会のボスは避け、科学者はよろめいて避けたが、その変わりルナの剣は、システムのメインとなっている機械に食い込んだ。電気が放散され、爆発してしまう。そこのドームの中にいた住民が、前の方を向いた。
「あぁっ!まだ完成していないのに・・・!」
学者はよろめいて機械に触れようとする。ハスキーが首根っこらへんの服を掴んでは引っ張った。
「今操作しようとすると、感電して死ぬぜ?」
「そんなに死にたいんなら俺らがイカせてやるよ?お前らの望む、死の世界にな」
三人がフードをとった。教会のボスは機械を背にして、とあるボタンを押した。大きな機械音が響き、カプセルの色が変化する。
「・・・仕方がない、本来の予定では、あと三時間経ってから開放する予定だったのだが、」
カプセルのガラス部分が、車の窓のように上から下へと下がっていき、水が放出される。
「未完成でもまぁ、強さはタダモノじゃないだろう?」
すべてのカプセルが開放され、中の生き物が動き始める。ミントはゾッとした。
「さぁ、君らもここで食われるか、それとも生き残るかな・・・?はっはっはっは!!」
ゲープが一斉に動き出した。無抵抗な宗教の住民をそれはそれは丁寧に食い殺してゆく。唯一の扉の方から誰かが入ってきた。そいつはゲープの頭を蹴ってはルナ達のところに来た。
「モウ二ング!」
「報告だ、警察が乗り込んできた。ピピカ族は解放され、保護されている」
「!・・・良かった・・・」
ミントが安心する。モウ二ングは、地獄とも言えるこの悲鳴ばかりが飛び交う世界を見回して、一言述べる。
「・・・こいつは、ひどい」
「どうする?」
「・・・ゲープが殺せるのか、気になるんだがっ!」
ハスキーのでかい斧がゲープの首を掻っ切った。その頭をルナが潰す。
「・・・動かなくなったぞ?頭を狙え!」
「流石に失敗作は耐久性が今ひとつみたいだな!」
ハスキーとルナが駆け出す。モウニングがミントに近づく。
「ザクロ、飛べるか?」
「はいっ!」
ミントが飛び始める。モウ二ングは跳び、ミントの足に自分の足を絡めて逆さの状態になる。それから威力の強い両手で操作する銃を構えて、頭を狙い撃った。ミントはその操作を理解して、ゆっくり動きながら天井を迂回した。
「・・・ピピカ族!」
科学者は逃げ遅れ、密猟者も逃げれる元気もないため食べられてしまったが、教会のボスだけは生きている。
「・・・っ!」
教会のボスは、何かの銃を構える。弾の形はカプセル状で、中に何かの液体が入っている。それをミントに向ける。
「はっ!―――――」
気づくのが遅かった。頭を打たれてしまった。
「ザクロっ!」
モウ二ングとともに落ちてゆく。モウニングはうまく着地したが、ミントは頭から落ちていった。ルナがそれを見て驚く。
「どうした!?」
「何かを撃たれた!」
モウニングが答える。ミントは起き上がり、それから頭に刺さった大きな弾を抜く。針が異常に細い、針治療に見られるような細いものだ。
「・・・っ??」
言葉が、でない。羽根をしまうことが出来ない、身体をうまく動かせない・・・っ!!
「っ!!?」
ミントは心の中で焦り、目の前にいるゲープの頭に銃を向けようと必死になる。ルナはその行動を見ておかしいと気づき、ミントに突進してくるゲープの首を掻っ切った。ミントに近づく。
「どうした?何があった―――――」
ミントの手元にある麻酔銃の弾を見た。ルナは蒼白して、ミントの口元に手を当てる。
「・・・息は、しているな」
ルナはミントを担ぎ、ハスキーとモウニングに言う。
「一時撤退を所望!ザクロが戦闘不能!」
「仕方ない、退却だ!」
ハスキーとモウ二ングは、ゲープを半分位残して、出口へと向かう。教会のボスもそれに続く。が、しかし。
「動くな!!」
警察が待ち構えていた。教会のボスは仕方なく手を上げる。
「・・・教会の主神、貴方を大量殺人、自殺実行により、逮捕します!」
「・・・ここまで、か」
ゲープは警察の所有する大きな銃で間に合ったらしく、ゲープ復興の阻止は成功した。
外でトラックが待っている。それに乗る四人。中でインサイトが待っていた。
「良かったです!無事でなによりでした!僕が全く役にたてなくて、本当心配しましたよーー!!」
「いってぇ、もう少し優しくしてくれ」
ハスキーの傷を治療するインサイト。ルナは水をミントに渡し、モウニングはさっきのハプニング続きのことを忘れてしまっているのか、寝ている。
「水、飲めるか?」
「・・・っ」
ミントはコップを持ち、慎重に口に入れてみる。・・・とりあえず飲める。が、体の自由が効かない。何よりまず、声が出ない。ルナはホッとした表情で言葉を続けた。
「・・・良かった。あの麻酔銃は人の五感と体の機能を狂わせるやつだからな。弾をすぐに抜かなかったら、最悪の場合、心臓の筋肉停止、呼吸困難、自律神経の破壊、なんてざらじゃねぇ・・・」
「とりあえず、ザクロは病院行き。こっちの会社内で医者がいるから、そいつを頼れ」
「・・・」
ハスキーの言葉にこくん、と頷く。
「・・・声もでねぇのか、まぁでも、心臓の方に異常がなくて安心した」
ルナがとなりに座ってくる。恥ずかしい。本当に恥ずかしい。羽根をしまうことができないのをあてにして、顔を隠す。運転しているジョイが一言放った。
「・・・よし、打ち上げでもするか?」
「では、皆さん、おつかれさまでしたぁ~!!」
「「かぁんぱぁぁぁい!」」
ルナとハスキーが互いのビールを持っている腕を組み、飲み始める。その異様な光景にミントはただぼ~っとして見た。
「はーい!持ってきましたよ!!」
インサイトは料理が得意らしく、奮発して材料がてんこ盛りのピザを持ってきた。ハスキーがたかり始める。モウ二ングはただ角でほろ酔いを楽しんでいる。異様な光景だ。ジョイなんか酔いすぎて潰れてハスキーに絡んでいる。
「あんたさぁ!もうちょっと仕事うまくこなせないのぉー!?」
「でたぁぁ!!めんどくせぇ、俺だってちゃんとしてるぜ?」
「あたしがどんだけ金をつぎ込んでやってると思ってんのー!ちょっと包帯派手なのにやっちまいなよ!」
キャラ崩壊も良い所だ。ミントは乗る気がしない。声も出ないし、うまく体が動かせないし、何より手が羽の状態だと行動に制限をかけられてしまう。ルナがこっちを向く。
「なんか陰険な顔してるなぁ、どうした?」
「・・・・・・、」
ミントがルナの手を持ち、手の平に指を滑らせた。
ご・め・ん。
「・・・謝ることじゃねぇよ?仕方ないって、ゲープに気を取られてた俺らの方が悪いし、な」
お・か・あ・さ・ん・た・ち・は・?
「あぁ、今は保護団体の方にいるって。将来的には、彼らの元いた場所に帰ってもらって、そこで彼らの威厳を保った商売を始めるんだとよ。あー、つまりは彼らの意を持って提供する羽にきちんと対価を払う方針をとるらしい」
「・・・・・・」
それでも、俺たちの羽根が欲しいのか、呆れた。
「呆れるよな。保護、って言っても人権的な部分を守るのみで、それ以外の彼らの羽の重みなんて考えてないようでな・・・。お前の言う通り、生き物の痛みも知らない・・・」
ルナは言葉を続けようとしなかった、出来なかった。
「?」
ミントはルナに対してまずい気持ちを持たせてしまったのではないのか、とすこし反省した。慌てて文字を描く。
る・な・さん・は・悪く・あり・ま・せん。
「・・・お前の羽、好きだぜ?」
「っ!?」
ばっかこんなところでそんな感情に駆られるんじゃねぇっ!!ミントは焦りながらも羽根をしまいたくて仕方がなかったが、羽根をしまえれない。ルナが片手をもってまじましと見てきた。
「・・・っ!!!」
バッと振りほどいた。それから顔を伏せる。ルナは静かに苦笑しつつも、言葉を続けた。
「ピピカ族は、狩りの対象になる前から知っていた」
「・・・?」
「馬鹿な話、俺も一種の族の生き残りなんだよ。・・・自身の身体の中から鋼を生成して、剣の一部となる"鋼族"の末裔さ」
「っ!!?」
ミントは愕然とした。自分はまだ族の血を残せれるほどの人たちが生きている中で、ルナはすでに知られていない族の血を受け継いでいる。それを知らずに自分が被害者意識をしていることに、恥ずかしさを覚えた。
「羽って良いよな。空を飛べて、人を傷つけない、暖かい武器で。・・・すごい憧れてたんだぜ、俺がお前の年くらいの時に」
知らなかった。自分にとってはむしろ、ルナの持っている武器の方が強力で、揺るがなくて、羨ましいのに。
「・・・っ!」
口パクで、そんなことはない!と言いながらも、彼の手の平に文字を綴った。
俺、ルナ・さんの・武器・かっこいいと・思いますよ。
「・・・そうか?」
本当・です・保証・します!
「・・・サンキュな」
ルナが笑った。ミントは心の中ではバカな言葉しか並べれなくて、指を引っ込めた。
「・・・、」
「声、まだ出ないか?」
「・・・っ」
声をだそうとするが、まだなにも音が出ない。これは戻らないのでは?と不安に駆られるが、それもまた然り、彼の手の平に文字を書いてお話出来るひと時でもある。
出そう・に・ありません。
「そうか・・・」
ああ、もふもふしたい。ルナはぼやぁと心の中で呟いた。
---------------------------------------
「・・・っっ!」
シャワー室でかなり悶えた。まず羽が邪魔、そしてそのために体が洗えれない。かなり悔しい想いを味わった。
「・・・・・・!」
うぜぇぇぇぇ!!と心の中で思い、そして声に出せないのをまた悔やんだ。はぁ、辛い。これは辛い。まだ若干体の自由もきかない。悔しい。悔しいぞ、これ。
「~~~~~っっ!!」
そうこうしていると、隣のシャワー室の戸が開く音がする。誰かがとなりを使っているそうだ。すこし聞き耳を立ててしまう。
「はぁ、だりぃ・・・」
「っ!!??」
どきっとした。ルナの声が聞こえた。
「・・・っゲホッ、がはっ!!」
そのタイミングで声が戻ってきた。いきなり隣が咳き込んだからルナもびっくりである。
「!?ザクロ??」
隣にいるルナが気づいた。ミントはこれはない、と思いつつも返事をする。
「声が・・・戻った・・・っぽいです・・・」
だが、体の自由はまだイマイチである。羽がしまえれない。辛い。
「そりゃ良かった」
「・・・―――――っ」
だめだ、今変な妄想しか頭に浮かんでこない。彼が直ぐ隣にいる。しかも、シャワーを浴びている。それは俺も同じ条件。壁の向こうに、彼がいる・・・。ルナも同じことを思っていた。ルナの方はもっとまずい状況に陥っている。
「・・・・・・、お前、羽はしまえれたのか?」
「まだ、です」
「それで身体洗えるのか?」
「正直、邪魔です・・・」
「・・・―――――」
ルナは、ミントが向こうにいる壁の方に手をつけて、小さくこう言った。
「手伝ってやろうか?」
ミントは固まった。それが一体何を意味するのかわからなかったが、明らかに彼の声のトーンが自分の中でツボだった。まずい。これは何かの魔法だ、悪魔の囁きだ。
「なっ、何を言ってるんですか!」
笑って自分の心をごまかそうとする。自分の気持ちが相手に悟られていないはずだから、断るつもりでいる。つもりだ。
「冗談、冗談―――――」
ルナの声のトーンがエロい。聴いたこともない声だ。本人は判らないだろうが、明らかに誘っている声だ。やめて、耳が幸せすぎる。
「・・・わざと、ですか?その声色―――――」
「ん?お前、耳が敏感なのか?」
「違います、ただ・・・」
これ以上言葉を続けると、恥ずかしくて死にそう。顔を合わせれない。羽が邪魔、熱い。
「いつもより、違う声色だなって―――――」
・・・ばか、頼んじゃだめ。ここで一線を超えるような言動は慎んで。
「へぇ、そうなのか?」
やめて、声を聞くだけでバカみたいに心がはねるんだって。
「お前もエロイんだな」
「っ!?ばっかそんなんじゃありません!!」
つい叫んだ。ルナが笑ってくる。
「はい、はい、悪かったな」
ルナがシャワー室から出ていこうとする。これで、いいのだ。これで・・・。
「・・・くっそう邪魔!」
「大変そうだな、くははっ」
「・・・ルナさん」
「なんだ?」
「背中、洗ってもらえませんか―――――?」
何、頼んでるんだろ、ばか。
「―――――良いぜ、」
ルナもその返事に内心危険信号を感じつつも、ミントの入っている密室空間に入っていった。
熱い。羽がきっと熱を持っているんだろう。これは頭やられちまう。しかも、今回は自分に酒が入っている状態だ。これはまずい、冗談で言うんじゃなかった。後悔。ルナは心の中で愚痴った。
「お願い・・・します、」
照れながら言うな、このドアホ。俺がドアホ。
「相変わらずほっそいよな、お前の身体」
身体を洗うスポンジタオルを持ち、泡立ててからミントの背中に触れた。ミントの肩がいかった。
「・・・何、反応してんだよ」
つい本音が声に出てしまった。ミントは顔を朱く染めつつも、声で反撃した。
「うっさいですねぇ、敏感肌で悪ぅございましたね!」
「・・・あぁ、そう?」
ルナの意地悪な心が疼いた。最初は泡立てながらも洗っていたのだが、指で背中をなぞることもしてくる。ミントは更に感覚がおかしくなりそうで、声で注意する。
「ちょ、やめてくださいよ」
「覚えてるんだろ?」
どきっ。
「お前が遅くにもリビングのテーブルで寝てた時のこと・・・、知ってるんだろ?」
どき、どき、どき・・・。
耳が心臓の音で鳴り響いている。顔があつくて羽で隠し、さらに暑くてどうしようもない。
「さ、さぁ、なんのことやら・・・!」
隠しきれていない。だめだ、バレている。ルナの手のひらが背中から横腹へ、腹へと忍び寄った。
「前の方も洗ってやろうか?」
顔を左の肩にのせてくる。ミントは耐え切れなかった。
「やめっ・・・!」
「ん?どうした、」
ルナが胸の所、腹のクビレのところ、上半身をスポンジを使わずに、泡にまみれた手で撫で回してくる。逃げたくてもだめで、身体をがっちり腕で包囲されている。胸の上で指を回しながら愛撫するルナ。ミントは体が云う事を聴かず、反応してしまうのが恥ずかしくて仕方がなかった。
「っ・・・っはっ・・・あっ」
変な声が出てきた。やばい、どうしよう、どうしよう!
「・・・ミント、可愛い・・・」
ルナが本名で呼んでくる。しかも耳で囁いてくる。まずい、殺される、殺されてしまう。
「ルナ・・・さんっ・・・」
そんな声で呼ぶなよ、止まらなくなるだろ?
「ん?」
「やめ・・・て・・・くださいっ」
「これで良いのか?」
ふと彼の大きな手の平が、自分の体の側面から離れる。気持ちよかった感覚から解放されて寂しさを覚えた。が、息があがりっぱなしで収まらない。背中から、ルナに寄りかかっているミント。・・・体の感覚がもどっていない、抵抗ができない。悔しい。でも嬉しい。なにが嬉しいんだよ俺。
「・・・だ・・・ってぇ・・・」
「ん?なに?」
優しく囁いてくるルナ。ミントは赤面することこの上ない経験をしている。相手がただの悪食いとは思えず、ルナのその意地悪な態度に焦がれる想いでいっぱいだった。
「変な・・・声、出るし・・・っ」
「可愛いじゃん、もっと聴かせて―――――?」
「っ!ぃ、やだっ」
ま ず い 。
これじゃこのまま、彼に可愛がられてしまう。一線を超えてしまう。むしろ超えている、だめ、だめっ!!
「やめてください!!」
ルナの腕から抜け出た。ルナはミントの腕が羽から治ってるのに気がつき、攻めるのを止めた。
「腕、戻ってんじゃん」
「・・・あ、」
「変に刺激を与えて、脳が復活したのか?」
その言葉についカッとなり、ミントはルナに平手打ちをしてしまった。ミントははっとなり、ルナも冷静に自分のやってしまったことに後悔を覚えた。
「・・・悪い、調子に乗りすぎた、」
しまった。
「あの・・・ルナさんっ・・・!」
「あとは自分独りで出来るよな」
ルナがシャワー室から出て行った。ミントは頭の中がスパーク状態で、何がなんだか判らなくなって、そこにしゃがんだ。
「・・・もぅ・・・ばかっ・・・」
ただ、熱くて仕方がなかった。