ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…。
「・・・?」
「お目覚めかい?」
俺は目覚めた。記憶は、若干曖昧。いや、たしか俺はミントを包囲して、体が硬くなって、動けなくなって・・・。あれ、でも手が動かせるし、息もできるし、なんだ、俺、生きてる?
「面会はもうちょっと先だね、今ミントは里帰り中しているんだ」
まだ自由が効かない首で、隣を見てみる。hi0が雑誌をペラペラめくっている。若干若々しく見える。そそる。
「・・・はっ!?」
思わず起き上がった。体はただたんに、点滴を打っているだけになっている。ちょっと薄れているけど、ほんの前はたしか体中がなんか覆っていた気がする。その時はちょっと動くだけでもすんごい痛くて・・・あ、もしかして皮膚がなかったのか?腕もこんなにはっきりと感覚がなかったし。
「てめえ、死んだんじゃなかったのかよ!?はあああなんでてめえ生きてんだよ!死ねよ!!!」
「ははははははっ!僕がいなかったら君はミント君を包囲したまんま、死んでたよっ!!」
「ミントは?」
「里帰り!3日前から家族のもとで仲良く暮らしているよ」
「・・・俺、あの事件から何日寝てた?」
「2週間。最初の一週間はそもそも皮膚がはだけてて、とてもじゃないけど面会させたくなかったから、皮膚が全部復活するまではミントに合わせてないよ」
「俺のブサメンを拝ませたくなかったってか?」
「いや、多分ショッキングで言葉が出なくなるからさ」
俺、生きてるんだ?・・・なんだ、よかったー。布団にまた背中を預けて、ぐったりとした。hi0は俺の腕を見ては、多分皮膚の部分がどうなっているのかをチェックしている。
「うん、普通に戻ってる。面会できるんじゃないかな?」
「ミント?」
「そそー、」
「よっしゃ!逢いたい!」
hi0は半笑いしつつも、ルナに言った。
「ただし、鋼化は三ヶ月は我慢だね。まだ鋼化しやすいようになってるから、辞めたほうがいいね。しばらくは殺人鬼の仕事休みなよ」
「誰のせいだと」
「あーはいはい、僕ね★」
俺はどうやら、かなり時間をかけて体を治していたみたいだ。
「ミントに連絡、いれなよ」
hi0が携帯を投げてきた。
「そんじゃ、僕は別の患者を診に行くから~」
「患者?」
「僕が生きてるっても、君は確かに殺したさ?hi0を」
振り向くhi0。気づいたが、自分よりはるかに背が小さくなっている。若い理由がなんとなくわかってきた。
「で、僕は前から極秘で、チャムのクローン生成のメカニズムにのっとった器作成を行っていたんだよ。前の僕が死んでいれば、またお医者さんとして活動できるってこと★」
「むしろ、それを望んでいる上のモンがいたって話だろ?」
「ご名答♪僕はまた医者としての活動を、表面でもできることになったって話★」
「うーっわ、」「なんだよその言い方は~」
だが、hi0はとてもにこやかにしている。医者の夢をまた叶えることが出来て、とても喜ばしいみたいだ。
「そんじゃね~」
hi0はさっさと部屋を抜け出た。ここの部屋は窓が一つ。でっかい機械が隣にあって、そこから伸びている細いチューブが俺の腕に吸盤のようにはりついている。なにかをモニターしているっぽいけど、俺にはさっぱり判らない。
「・・・ミントの電話番号って、なんだっけ?」
と悩んでいたら携帯がなりだした。とっさに通信相手の方をみてると、ミントだ。ひさびさに声をかけることに戸惑いを感じるなんて、俺らしくねえよな。
「・・・よぉ、」
携帯に応じて、声をかけた。向こうからは元気な子供の声がする。
『んだよ、しおらしいじゃん?ルナにしちゃさ』
「さっき起きたばっかなんだよな、おはよう」
『今12時!おそいじゃんか』
向こうから子供の声がする。「ねぇーねぇー誰にでんわかけてるの!?」とか「おにいちゃんはやくおやつほしい!」とか「かけっこしょーよ!」とか色々一斉に声をかけられているようだ。途中で「ミント、電話中なら私らがみとくさ。外に行って、ゆっくり話してきなさいな」と女性の声が聞こえた。それにミントは「ありがとう母さん」と応じた。
「ほう!もうお前の母さん見つけられたのか?」
『・・・とうさんは、手遅れだったけど』
「・・・そっか、挨拶もできねえでちょっと寂しいな」
『はっ!?!ばっかてめえは挨拶しに来なくっていいし!!』
「え?なんでよ」
『母さんが多分許さないから、絶対!子孫残せねえし!』
「今の技術だったら問題ねえってhi0言ってるぜ?お互いの遺伝子を併せ持って、女性の子宮を模した卵にそれを受け渡せば出来なくはないって」
『その話はいいから!まじでったく!!・・・変わってねえな』
ホッとしたようにミントはそう言った。
『3日くらいは、壁のガラス越しでずっとルナを伺って・・・中でhi0さんと、その名医師たちがルナを囲って、いろいろ話をしていたのを伺っているだけで・・・。俺ずっと不安で仕方がなくてよ』
そうか、ここの部屋は一般客の場所か。俺がいろいろなんか体につけていた時は、そんな厳重な場所で手術され続けていたのか。
『ルナのバカ体力でもっても、摘出手術に耐えられるかわからないってhi0さんに言われて・・・最悪、このまま鋼化が止まらなかったら生身鋼化は覚悟しておいたほうが良いって・・・死を宣告されてさ』
「へぇ~、俺そんなに止まらなかった?」
『止まらなかったんだって。夜中の2時とかに、ルナの部屋からの信号音に起こされて、鋼化されかけている場所を何度も摘出したり・・・お陰で、その鋼化を抑制する薬ができたってhi0さんは喜んでいたけど、しんどそうだった』
「俺もいい実験体になったってか・・・くはは、あいつはすげぇな」
『すごいよ本当!まともに医者の仕事をしているところがなんか、感動した』
「あいつはもともと、人助けをすることと実験をすることの楽しさを知っているからな。でも異常なまでのグロ愛好家でよ。そんな自分が正常に人として生きていられる方法は、医者しかないってずっと考えてたらしいからよ」
『正常、か?』
「性格は問題ありすぎるけどよ、まだあいつが社会貢献として機能しているフィールドなんだよな、医者って」
『・・・あぁ、まあそうか。ヒトを解剖しても問題ないし、流石に麻酔有りでの行為だけど』
「痛がる姿は裏の仕事で存分に見られるから、問題ないってよ。あいつはマフィアの拷問役とかで適任されている」
『うっわ・・・敵に回すと怖いな』
「だぜ、ほんとそれ」
『・・・明後日、そっちに帰ることになってるからよ』
「おう、まだ退院の日は聴いてねぇけど、もうすぐで逢えるぜ」
『・・・うん!元気になれよ!』
ミントの元気な声が聴こえる。俺の心は弾んだ。
「んじゃ、切るな」
『おう!またなっ』
電話が切れる。その丁度良いタイミングに、hi0が入ってきた。hi0の手元には薬を入れる袋、そしてカルテ。薬の袋を俺の近くにあるかばんの中に仕舞う前に、それを俺の前でかざして説明してくれた。
「ようやく君のお守りが外れる日が来たよ~!はいこれ、薬ね。鋼化を抑制する薬。これを毎朝1錠飲むこと!けっこうキツいやつだから、朝以外に服用不可、飲み過ぎると鋼化できなくなるからね?副作用は起きない程度には抑えてるけど、まだ完成とは言いがたいのを患者に受け渡す状況だから、くれぐれも安全だとは思わないことだね?」
「動物実験じゃ効果が判らねぇもんな、鋼化の抑制度なんかよ」
「ルナの生身の肉体を、ちょっとばかしもらった」
「は?」
「いやちゃんと摘出しなきゃならない部分ね?鋼化予備軍」
「あぁ、」
「そこにその薬、の液状したやつを注射で刺してやったんだけど、鋼の分解はできないものの、鋼化を止めることができたんだよね」
「ほっほぉ~!すげぇな!短期間で作れちゃうのかよそんなもん!」
「ルナの鋼化をじっくり観察してやったんだよ。そしたら鋼化のメカニズムも若干わかってきてね。つまり鋼化は骨からじゃなくて、なんにもないところの肉の細い神経から、その物質を網のように広げてゆく。膨張化したその鋼は外側へでてゆく。だから、鋼を削ぐ時には骨ごと削ぐことはなかった。生身鋼化になると、おそらく骨の部位も侵食される形になるんだろうね」
「へぇ~、」
「綺麗だったよぉ、」
hi0はうっとりしつつも語った。
「氷の結晶みたいだったよぉ、なんにもない赤い塊から、ちいさな結晶を作ってそこから固まってゆく感じ。あんなの拝めるだなんて、ちょっと楽しかったかな★」
「良かったじゃん、」
「あとはその完全に物質化してしまった鋼を分解できるようになれれば、患者の体力関係なしに鋼化してしまった部位を摘出できる。やりがいがあるね」
hi0はお見舞いに来てくれた人用の椅子にすわりつつも、拳を作ってそれを握っていた。
「今度はもっと早く、退院させてやるよ。医者の名にかけてね」
「・・・・・・惚れる、」
「やめてくれよ、」
一気に目が冷たくなった。
「ふぅ・・・」
俺は携帯をしまう。家から母さんが子供を抱えて、出てきた。
「お友達かい?」
「俺を救ってくれた恩師だよ」
携帯を見つめつつも言った。携帯は真っ黒な色。仲が良くなって、ちょうどラブラブ真っ最中の時だったかな。連絡がつかねえとまずいだろって話になって、俺と一緒に携帯を買いに行った。ルナもそのときに機種を変えるって形で、自分たちのお互いの色を模した携帯をお揃いで買うことになった。すっげぇ恥ずかしくて嫌々ながらに黒い携帯を選んだけど、黒は嫌いじゃなかったし、ちょっと嬉しかったこともあって、しぶしぶ了解した。
「俺があの、密猟者が狙ってきて・・・羽の部分を撃たれて落ちた場所が、あの人の庭だったんだよな。すっごい黒い棒人間!しかもでかい体をしてて、怖いったらありゃしねえの!俺を侵入者だって考えて、ずっと銃を突きつけてきてよ・・・!」
「あらまぁ」
「本当、まじで殺されるかと思ったぜ。・・・今じゃこの人、俺がいないとダメだなって判ってきてな。なにせ家事も仕事も雑だし、でもレクチャーはすごいしてくれるんだよな。羽ばたけるために、移動時間が4時間もかかる高原のところまで、毎週連れてってくれて・・・飛行練習させてもらったし、ピクニックみたいで楽しくさせてもらったし。そうそう、弾を避ける方法も教えてもらったぜ!」
「本当なの?!すごいじゃない!」
「あの人が俺に、おもちゃのけっこう飛ぶライフルで俺を狙ってきてよ。弾は当たったらちょっと痛いけど、でもどうやってよければいいのかって教えてくれて、何度も練習につき合ってくれたんだ!」
「・・・ミント、その人好き?」
「!」
俺は戸惑って、顔を赤くした。
「ふふっ、好きなのね」
「・・・・・・う、うん」
「貴方の、いたいところにいなさい。いつでも帰ってきなさいな」
「・・・母さん」
母さんをひし抱きしめた。
「父さんがいないのに、いいの?」
「私だって、だてに暇してないわよ~。この子たちに笑顔を貰っているんだから、そうメソメソしてられないわ」
「・・・そっか、」
お母さんの腕の中には、少し淡いピンク色をしたピピカ。まだ言葉もおぼつかない年。俺はその子の頭を撫で、じっと見ていた。
「・・・手紙送るよ、いつでも帰れるし。あいつもそれを了解してくれてる」
「そう、わかったわ。・・・向こうで頑張ってきてね」
母さんが、俺の頬にキスをしてくれた。
「こ、この年でそりゃないって!恥ずかしいだろ・・・!?」
「あーおにーちゃんてれてるー!」「てれてるー!」
「うっせ!あ、お兄ちゃんもう明日くらいには離れるからな!」
「「えー!?」」「行っちゃうの?」
「しょうがねえじゃん、あっちにもお守りいるんだしな?」
「おにいちゃん大変だね!」
「また、節目がきたら遊びに来てやるよ」
しゃがんで、頭を撫でる。飛びつく子どもたち。
「おにいちゃんやだー!おにいちゃん優しいのにー!やー!!!」
「わーったって!また来るって!そんときまで、上手に飛べるようになってろよ?」
「・・・約束だもん」
ふてくされる子供。俺は苦笑いをしつつも頭をなでた。
「おう、それまでに、ちゃんといい子にするんだぞ?」
「・・・うん!」
子どもたちと、最後の夜を過ごすことになる。・・・ルナもこっちにこしてくればいいのにな。あんな窮屈な建物が立ち並んでいるところなんか、俺には居心地が最悪としか言い様がないというか・・・。そうは言ってられないけどな。ルナがこっちにきたら、多分大人たちの半分は否定する。きっとルナの名前を出したら、お母さんだってもしかしたら・・・。
「・・・俺、しかいない」
小さく、つぶやいた。
ミントは羽ばたいて半日の間に、森の中を抜けてゆく。森のなかを抜けて、田舎の駅に乗り急ぐ。おみやげには、自分の羽を使ったキーホルダー。その人の安全を祈って作られる、お守りみたいなもの。それを大切な人に渡すという風習に乗取っているのだが、果たしてルナが気に入ってくれるのか、いささか心配である。なにせルナの携帯には、どちらかというかドクロマークとかナイフの形をしているキーホルダーが主流である。携帯のキーホルダー仲間入りにはされそうにない気がする。
「乗ります!」
ミントは慌てて、ぎりぎりについた田舎の電車へ乗った。
「はぁ・・・」
まだ体力がきちんとついていないみたいだ。半日を飛んでいただけでしんどくなってくる。まだばりばり飛んでいた時期だったら、一日飛びっぱなしでも平気だったのに。
「・・・・・・」
駅の景色をぼうっと眺めている。明日に家に帰ったら、まずあの空き巣になってしまった家を掃除して、ルナが帰って来てもいいようにしなくちゃな。そうだな、退院祝いになんかごちそうしよう。なにが良いかな。鶏の唐揚げ確か好きなんだっけ?俺は種族的に遠慮しちゃうけど、せっかく帰って来てくれるんだし、それくらいしなくちゃな。
「・・・ふぅ」
駅の中で、しばらく計画を考えていた。駅に乗っても向こうに着くのは多分、明日の朝になっている。しばらくうたた寝をして、それからまた起きる。駅についたとしても、そこから更にバスに乗って揺らめくこと3時間。退屈な移動時間をやっと終え、家のちかくにまで来た。
「・・・あ、」
その駅の近くに、S.KILLERのインサイトとモウニングを見かけた。二人の手元にはなぜかたくさんの買い物袋があった。
「こんにちわ」
「あ、ミントくん!こんにちわ」
インサイトが笑顔で返答する。モウニングは軽く会釈した。
「どうしたのですか?その買い物袋は・・・」
「ルナがもうすぐ退院するから、それに向けてのお祝いパーティーでもしようかなって思っててね」
「えっ!?そうなんですか!」
「何、ルナも仕事仲間でよく顔を見合わせる。時には心配する」
モウニングがいかにも冷静に返事した。インサイトはにこにこしながら話をする。
「hi0さんの情報によると、あと3日くらいで退院できるんだって!だから今からでも準備できるものをってね」
「何を準備して?」
「打ち上げ込だから、hi0さんも来たりするかも・・・あっ、前みたいに無理やり飲まされるようなことはないようにするから!」
ちょっと余計な記憶も蘇り、顔を赤くするミント。二人はどうしたのかなと思ったが、聴くことはなかった。
「ミントくんも、参加するよね?」
「もちろんです!」
元気よく返事をするミント。ただ、今はもう一度家に帰って掃除をします。と断りをいれて、その場を後にしたのだった。ここはいつでも暑い。ずうっと夏のような世界だ。ミントは荷物が多いのをふんばって持ち、そしてルナの家についた。かばんの中から鍵を探して、ルナの家に入った。玄関の靴を脱ぎ捨てる場に、たくさんの手紙が投げられていた。おそらくルナ宛の、2週間分の仕事の手紙であろう。それらを拾っては、靴箱の上に立てておく。ミントはその部屋に入っていく。荷物を少し乱雑に投げ捨ててから、二階の部屋を見にいった。誰も来ていないようだ。留守の時には、ルナはここの2階が一番狙われやすいと言っていたため、念の為に帰ったら一度チェックしておく必要があるのだ。おかげで彼の部屋にあるエッチな本がどこにどう隠されているのか知らざるを得なくなったのだが。
「さあって・・・3日後、か」
ご飯を一人分作りつつも、そう呟いた。テレビではあの2週間前の事件をまだ延々と話していた。これによって、軍の縮小を訴えるデモが街中多発していて、特にチャムという生き物が明るみになってしまった。里帰りする前に、いちどチャムの本体が住まう家に行ってみたのだが、そこにはもう何もなかった。この騒動によってなのか、住む場所を変えてしまったのだろう。あの時の、ビル崩壊の映像はばっちり飛行船からの中継モニターによって撮影されていたため、今その瞬間のシーンが流れている。その時に、自分が飛び込んでいったところもばっちり写っていた。ご飯が美味しい。けど間違えていつも通りの感覚で作ってしまったものだから、量が多くなってしまった。
「・・・っ、早く帰ってくればいいのに・・・」
と呟いた時、携帯が鳴り始めた。ミントは口の中の物を飲み込んでから、テレビの音量を下げて電話にでた。
『よっす』
「良いのか?もう夜なのに電話かけちゃって」
『俺の部屋と一緒になってる患者はいねえよ。一人だ』
「さみしー」
『お前にも言ってやりたいセリフだぜw今もう俺の家か?』
「うん、そうだな」
『俺の部屋、チェックした?』
「ん、荒らされた後もないし、侵入者もいなかったよ」
『そうじゃなくて、よ』
「?」
『あの変な事件の前、たしか飛行練習の帰りだったろ?』
「だったな」
『俺の机の引き出しの中、あけてみ』
「?」
『びっくりするぜ?本当は渡したかったんだけどな、あの時によ。そんだけ!じゃな』
いきなり切られた。ちょっと焦っているような感じに聞こえた。
「・・・ネタがあるんならもっと早く渡せってーの、たく・・・」
そんな大したもんじゃないだろうなと思ったミントは、食べおきの分をおいて、皿を洗い、風呂にも入り、洗濯物もさっさとすました。自分が持ってきたおみやげもきちんと仕舞い終えたところで、さっそくルナの部屋にある机の引き出しを開けてみた。黒くてちいさな箱が置いてあり、その上に手紙も添えてあった。その箱と手紙を机の上にと出す。そして手紙を最初にあけた。
「・・・―――――」
~幸せを呼ぶ青い鳥へ~
あんまり手紙なんて臭い手段使いたくなかったけど、口に出してもなんか・・・すごく照れるから、綴らしてもらったぜ。
俺が最初に、つうか陸に上がって一番に覚えた色は、「空」だった。青もあれば橙色に、緋色にも染まる空。空ってすげえな、もっといろんな色を見てみたいなって思えるきっかけを与えてくれたんだ。お前も、そんな空のように、俺にたくさんの色を教えてくれた。俺はお前が好きだ。多分これからもお前を大事にしたいし、遠くへ行っても俺が思いつづける。俺の心を呼び覚まして、俺に大事なことを教えてくれたお前。
拾ってよかった。俺のところに来てくれて、ありがとうな。これかも、傍にいてほしいかな。
俺がお前を迷惑だなんて思ってもねえってこと、この贈り物で判ってもらえたら嬉しい。お前が何かに捕まえられたとしても・・・俺は殺人鬼だぜ、ターゲットは取りこぼさねえよ?絶対見つけるからな。
~ルナより~
箱のなかには、指輪が入っていた。しかも、この色はどうみても、ルナの鋼である。とてもひんやりしていて、まるで鉄のようだけど重たくないし、加工している形がとてもシンプルで、綺麗である。さっそくはめてみる。ちょうど良い大きさの指輪だった。きちんと自分の薬指に入った。涙が溢れてきた。声も出して泣いた。その場に崩れて、座り込んで、大事な手紙の上に涙を落としてしまう。
「ルナっ・・・ルナぁあ・・・っ」
想いがこみ上げてきて、とても嬉しくて、言葉が出なくて。
「・・・・・・ぐすん、」
鼻をすすり、指輪をまじまじと見た。視界が滲んでいてよく見えないけど、笑顔でその指輪を見つめている。
「・・・俺も、好き。離れない」
空に向かって、言葉を投げた。
「は~い、退院だね。保護者さまー、に諸注意しなくてもいいとは思うけど、いちおう注意するね~」
本当に、医者として機能している。あの極悪人のhi0が。ミントはきょとんとしつつも、明らかに白衣がでかいhi0の説明を聞き流しに、その異様な風景をただ眺めていた。
「ルナくんの鋼化は今のところ、止まっています。良好です」
「はい、」
「ただし鋼化を彼が意志によって行うことを避けてください。3ヶ月は鋼を使うことを禁止します」
「はぁ」
「いちおう薬を処方しました。鋼化防止の薬を、毎朝食後に1錠のみ服用させてやってください。非常に強い薬ですので、それ以外のタイミングでは絶対に飲まないようにお願いします」
「判りました。これは体に異変がなくとも服用する形ですか?」
「そうだね~★体の中で結晶が勝手に出来ていて、それに気づかなかったらまずいので、それを未然に防ぐためにもご協力をお願いします。薬は2ヶ月分です。そのときにまたココを訪ねてください。そのときに体に異常がなく、ルナの調子も流行であれば、晴れて薬もなし。鋼化もおっけーにします」
「ありがとうございます」
「それじゃ、おつかれちゃん」
hi0がそう入って、カルテに何か書いてはミントとルナを見送った。
「・・・つけてくれたんだ」
ルナが左手を握って、薬指をつまんできた。ミントはすぐに顔を赤くして、手を振りほどいた。
「どうだった?大きかった?」
「・・・ちょうど、良かった」
「そっか、よかった」
「・・・あり、がとう」
「どういたしまして!」
ルナがミントの頭をくしゃくしゃ撫でる。撫でるなと怒って離れるミント。ルナは大笑いした。二人は歩きながらも、お互いのことをただ話していた。2週間の空きに、一体なにをしていたのか。ルナはまず自分がどうなっていたのか、半分の日数くらい記憶が無いので、ミントの知っている範囲を教えてもらっている。
「俺よく生きていたなそれ!」
「そうだよ!?もうビビってたからな俺・・・最初の摘出手術で、ルナの体の三割は消えたらしいからさ。腕とか足とか、胸とか・・・」
「俺今元に戻っているんだけど。すげぇなアイツは・・・」
「本当、hi0さんに感謝だよ、半ば恨んでいるけど」
「もともとの悪だったしなw」
公園にたどり着く。もうすぐで家だ。ルナの手元には銃がなく、完全に警戒をしていない。何せ今のルナは鋼化ができないでいる状況だ。この状況をルナ狙いの奴らに知られてしまうのはまずい。なるべくルナを外に出さないほうがいいのかと思っているのだが、ルナはいつも通りが一番安全だ、と言ってなにも対策を取らないらしい。
「鋼の加工はしんどかったぜ。なにせ普通の宝石じゃねえからな、歯が立たなくてな、専門店じゃ」
「それでルナが加工したって?すげぇ!あそこまで丁寧な形になるのか!」
「削り取りの作業はけっこう、練習したぜ。鋼のナイフを使ってみたけどそれじゃアウトだった。鋼のヤスリみたいなのを作れないかってS.KILLERのハスキーに頼んでみたりとかして、道具を揃えたんだよな」
「いつの間にそんな大掛かりなことを・・・」
「だからお前のその指輪の正体、あいつらは知っていると思ってたほうがいいぜ?」
頬を人差し指でふにっとつつかれた。顔を赤らめるミント。
「・・・あっそ、」
ミントも、帰ってから贈り物をすると決めている。それを早く渡したくてしょうがないけど、悟られたくはないから、ぐっとこらえてはいつも通りを心がけている。ルナは全く気づいていないようだ。
「うっほーただいま俺の家!」
やっと家にたどり着いた。そしてミントは焦る気持ちを抑えて、夕飯の話に切り替えた。とルナがおみやげをさっそく物色しはじめた。
「うおー写真!かっわいいこれ~」
「いいだろ?それ俺のバイト中の仕事」
「あこれがか!子供の面倒を見るってーの!・・・すげぇ好かれてんじゃん?」
ルナのいつもどおりの流し目が、その写真をまじまじと見つめている。ミントは鳥の唐揚げをすると心に決めていたので、パックをさっと取り出して調理にかかる。
「あっちのほうが、楽しそうじゃん?」
ミントの手が止まる。ルナの方を見ずに、作業を進めつつ話した。
「ばっかやろ。そんな軟な仕事じゃねえっての。ガキのお守りなんて・・・。あと、俺ルナと一緒にいるって約束したし、ルナと一緒にいるって言ったし・・・―――――」
ルナが後ろから抱きしめてくれた。流石に手が止まった。ひさびさに味わうドキドキ感に、腕が持ってかれる。
「ミント、ありがとな」
ルナの低い声が、背中に伝わってくる。ミントは慌てて準備中だと言い張って、引き剥がそうとする。ルナは苦笑しつつも離れた。
「はい、はい」
そのときだった。玄関からチャイムが鳴り響く。と同時に声を聴いた。
「おーい!もう帰ってきてるんだろー!?ルナ!」
ルナは警戒して、知っているはずの声主であるにもかかわらず、銃を構えて玄関に言った。
「えっ、ルナ?ハスキーさんの声だよ?」
「録音しての犯行かもしれねえしな・・・」
ルナは慎重に玄関近くまで行き、そして玄関をそっと開け、自分は壁に隠れた。
「おいおい、俺だっての」
ルナは壁から出、そしてハスキーに銃を発砲する!
ブシャー!
「っ!!?」「っっははははっ!やられちまった!」
ハスキーはびしゃびしゃになった。ミントはびっくりしてその一部始終を見た。ルナが持っていたのは単にリアルに作られている水鉄砲であった。ハスキーは見事にこれを食らったのだった。インサイトが後ろからでてくる。
「モウニングは後で来るそうです。とりあえず、僕達だけでも先にお邪魔させてもらいます!」
「おう、よう来たな」
「はろろ~ん」
「げっ」ミントは苦い顔をする。
「僕が来ちゃだめなのかい?なんでだよぉ~、仕事の合間ぬってこっちに来たってのにぃ~ちぇっ」
hi0もご登場。そして両手にはなんとも高そうな日本酒を手に持っている。3人は入るないなや、ルナの居間室にさっさと入っていった。hi0はミントの持ってきた写真を見てはきゃわわ~と言っている。インサイトはミントの料理を手伝うらしく、今晩のメニューと今手につけているメニューを話しては、協力した。味付けには特にこだわりのないミントは、インサイトの手際よい包丁の使い方と、インサイトが買いだして来たあまり食べない食材を目にして話を聴いていた。
「アボカド食べれる?」
「食べたことありませんね・・・」
「外側が柔らかいのをチョイスしてね。良いやつだと手で皮を向けちゃうんだから」
「へぇ!すごいですね」
「醤油だけでもとっても美味しいんだよ!是非今度ためしてみてねっ」
インサイトさんは、かわいいなぁ・・・ミントはそう思いつつも一緒に御飯を作っていた。酒癖の悪い男たちはすゲーム機を取り出して遊ぶご様子だ。
「ルナはうっわでたーwwwwお前はやっぱメタナイトかよ!」
「俺はコイツしか扱えねぇ!ハスキーはデデデ?くっそ適任じゃねえかよwwww」
「hi0は?本気?それとも」
hi0の本気手持ちキャラ、カービィが選ばれる。
「「ぶっはwwwww」勝てる気がしねぇ」
「コピーしちゃうよ★ぺぽぉ」
「マイッタナー」
「やべぇ、変更しよう」
ハスキーは身の危険を感じ、本気手持ちキャラのファルコンを選んだ。ルナはメタナイトで固定。
「よっしゃステージランダム~★」
3人の大人げない戦いが繰り広げられた。その間に着実に美味しいごはんができている。男どもの大人げない乱闘は、夕飯がもうすこしで出来そうなタイミングで、hi0とルナの一騎打ちによるサドンデスが始まっていた。カービィがガードをして背後をとろうとする。スマッシュ攻撃を避けられ、メタナイトの一撃。カービィはステージの構成上、壁に何度もぶつかっては着地する。
「あっぶねぇ~wwww」
hi0の速攻。ルナは飛ばされたのだった。
「いええぇ~い星の戦士をなめんなよぉ★」
「くそうwwww負けたしwwww」
「はぁーい大人たち、夕飯できたよー?」
「すごく、大人げない戦いでしたね・・・」
その時玄関からまたチャイムが鳴り始めた。インサイトが武器も持たずに応答する。
「モウニングいらっしゃい!もう準備できてるよ~」
モウニングの手には芋焼酎。これにハスキーとルナが飛び上がった。hi0はあんまり好きではないみたいだ、ちょっと嫌な顔をしている。
「さてと、皆さん集まったようですし・・・始めましょう!」
「ルナの退院祝いです!皆さんお足元の悪いなか集まりいただきまして、まことに感謝いたします!!」
ハスキーの陽気なナレーションにhi0は失笑。モウニングは腕組をして事が終わるのを待っている。
「では、ルナの退院と今後の夫婦生活の円満を祈って・・・!」
「はあっ!??!」
思わず声をあげるミント。その反応の良さに思わずhi0が大爆笑。そして乾杯がなされた。豪勢な食卓にありつく筋肉バカと頭脳派。ミントはルナにお酒を注いでやってはため息をついた。
「ふたりきりじゃなくて残念ってか?」
「別に?なんか俺いなくても寂しくなさそうだなーって思ってよ」
「なに言ってんだよwお前いなかったら本当にここ寂しいぜ?」
「なにせ命狙われっ子ちゃんだもんねールナは★」
hi0がすかさず茶々を入れた。そしてお酒を一気に飲む。ミントの隣にhi0はいない。前回の被害を想定してのことで、ミントの隣にはルナと、インサイトがついていた。絡まれることのない安全地帯だ。インサイトはモウニングに器を取り寄せたり、本当に夫婦のような振る舞いをしている。
「ところで、バイオストレイジってどういったものなんですか?」
インサイトがすかさずhi0に聴きこみをした。hi0は酔っ払っても情報はきちんと隔てる。
「機密情報だから、あんまり公にできないのよね~ん。ただ殺人兵器を大量生産してる、モウニングのところの会社?の奴らも使っていた技術ではあるね。でも精度はこちらの方が優っている。なにせ完全コピーのチャムをモチーフにした器なんだからね~★」
「へぇ、それで特許とかは?」
「考えてないね~、僕だけの技術だし、これを武力行使されても困るもんだから、上の人たちには僕の開発途中だったクローンが勝手に悪さをしたって感じで説明しておいたよっ♪」
「大変ですねぇ、情報隠蔽も」
「無駄な技術って判ったら、さっさと公開して、金稼ぐけどねぇ~!」
「恐ろしいな、」
モウニングもとっさに返答する。ルナとハスキーはよく判らない酒と女の話で盛り上がっている。ミントはその皆の姿を見て、ちょっと会話に馴染めないと思っている。インサイトがその表情を読み取って、話しかけた。
「里帰りはどうただった?」
「あ、楽しかったです!母さんとも逢えましたし、皆元気そうでなりよりでした」
「それはよかった!実家のほうで暮らすのかな?」
「・・・いいえ、俺はこっちに住みます」
「ルナには気をつけてね!?」
「え、」
「女を上がらせてきたらぜえったい追い出すこと!」
「おいおいしねえからそんなこと、俺本気だしミントのこと!」
ルナが小耳に挟んでいたらしく、こちらの会話に混じってきた。
「さーあどうだか!本当はミントくんより可愛い子がいたら寝返るんじゃないの?!」
「しねえええよ!」
白熱した。しばらく二人の喧嘩は続いたのだった。
「くははっ、あいつら元気だなぁやっぱww」
時間はもう12時を回っている。片付けはインサイトが手伝ってくれたため、手早く終わってミントは助かった。そのあとに始まったUNO対決で何度も負けて苦手なお酒を飲まされるはめにもなったが、ひどい酔にさらされることもなく無事に終わった。今はもうルナと就寝するだけなのだが・・・。
「あ、ルナ!」
「ん?」
ミントは思い出したように自分の手荷物をあさった。それから、ルナに渡そうとずっと黙っていた物を手渡した。
「なんだこれ?」
「えっと・・・ピピカ族の風習でさ。自分の羽を使ったキーホルダーを作る習慣があって・・・そいつには神風とか、災厄を祓うために作られるやつ」
「・・・かわいいな、これ」
やっぱ似合わないか・・・とミントは思っていた。しかし、ルナは自分の気に入っていた携帯のキーホルダー全てを外して、そのミントからもらったお守りに取り替えた。
「えっ!?いいの・・・?」
「せっかく作ってくれたお守りじゃん?身につけたいよ、俺の携帯によっ」
さっそくつけて、それを携帯からぶらさげてまじまじと見てみる。ルナがそのお守りを鼻当たりに近づけて、それからミントの方にも近づいた。鎖骨あたりに顔をうずめてくる。
「な、なんだよ?」
「んっ・・・同じ匂い」
「!」
「良いなこれ、貰っても良かったのか?俺で」
ミントは顔を赤くしつつも、しどろもどろで答えた。
「べ、別に・・・!お前以外にもらう宛なんていねえし、俺が守りたいって決めたんだし・・・!」
「ミント~」
ルナが携帯を置いて、それからミントをふわっと抱きしめた。
「もうお前絶対手放さないぜっ・・・愛している」
撫でられる。彼の手。鋼じゃなく、彼のぬくもりを感じられる。ミントはそのままルナの腕の中で、眠気と戦っている。
「寝てもいいぜ?何もしねえから」
「もうちょっと・・・起きていたい。折角の、退院だから・・・もっと一緒に、いたい」
「・・・嬉しいけど、明日から俺はリハビリあるし、お前も晴れて仕事だろ?ちゃんとねよう?な」
「・・・うん、」
ルナが俺を撫でてくれる。心地いい。ルナの胸の中で、ミントは安心してただ寝息をたてたのだった。
「・・・おやすみ、ミント」
I will never let you go.
俺はあいつの庭に落ちて
あいつと出逢って
それからまた、空に帰ることが出来た
アイツの事を誰が悪役と言おうとも
俺はそんなこと思ってもいねえ
過去のことだろうが、今のことだろうが
そんなこと関係ねえ。
俺は今、目の前にいるアイツを信じて、飛ぶだけだ。
これからも。