『えー、皆さま方。・・・本日は、ブルーウィング、港町行きをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。ブルーウィングは、およそ1800年前、皆様の観光地巡りとして、皆様にご愛用していただきました。世界で3番目に長く、最大5日間の宿泊が可能でございます。本日の列車のコースでは、ここレッドグランテス共和国の近隣にある、西パラリアを介し、湖に囲まれているブルーウィングを目指しまして、約1日間の旅となっております』
ナレーションの声とともに、景色はユーグラテス市のビルが並ぶ景色から、だんだん草木の生い茂る景色へと変わっていった。窓際においてあったスタンド型の携帯は、向かい合わせに四人がけができる上質な席に付属する、白いコンバクトなデスクに立て掛けられた。ひとりでに、その携帯が喋り出した。
『わぁーっ!こんな列車に乗るの、初めてですよー!』
「いや、俺たちも初めてだけどね」
ハーフの手袋を携えている男は返事し、会話を弾ませた。持ち主だろう。その男は向かい側にいる人に呼び掛けた。
「でもこんな旅行ができる依頼って、かなり久しぶりじゃない?」
景色を肘をついて眺めていた、片目を眼帯で覆っている男は、その呼び掛けに反応した。
「あ?かもな、インサイトの姉さん救出ぶり?あれ飛行機だったけど、今回は列車かー・・・」
インサイトと呼ばれた男は、携帯に話しかけられた。
『えっ!インサイトさんのお姉さんって、囚われの身だったのですか?』
「まあね。仕送りを送ってくれるだけでさ。でもそこの街は表沙汰はすごく観光地ってところでさー。今回の行くところも観光地に近い場所だね」
今回の請け負った仕事とは。
「ギャングの、本物のおおボスからの招待状か・・・」
窓を眺めていた隣の、赤いハチマキを目隠しにしている男が手元から手紙の包みを出した。その四人席の後ろにある四人席はというと。
「お待たせしましたー!こちらがここ、ブルーウィング特急列車でしか食べられない、ホワイトエッグでございます。あ、まだ食べてはいけませんよー?」
二つのお皿が出されている。頼んだのは、白いふさふさした髪の毛をしている、灰色の男。そして薄紫がかる黒い女性。胸をおさえている。
「はわぁ~」
ウェイトレスが、あつあつの溶かしてあるチョコが入っている、ピカピカする銀のグレイビーボードがでてくる。
「魔法のランプ!」
白い髪型をしている男が、子供のように無邪気にはしゃいだ。おもわずウェイトレスが笑う。女のほうは、黙ってスマホで録画をしだした。
「ええ!魔法のチョコレートです。見ててくださいね?」
そのホットチョコを、白くてひんやりしているホワイトチョコレートの天辺にかけると。
「お花が咲いた~!」
予め入っていた裂け目がゆるみ、外側のアイスチョコはこてんと倒れた。それは花びらが開いたような形をしている。
「はい、どうぞ!お召し上がりくださいね」
「いっただっきまーす!」
「はわぁ、とても綺麗・・・た、食べられない!」
「サヴィー、キャビット?遊びに来た訳じゃないんだからねー?あと俺にもちょうだい!」
「あーげーまーせーん!」
女のほうが声をあげた。白い髪の毛のほうはばくばく食べている。
「あっ、あたたっ、頭がっ・・・」
「アイスは急激に食べるとそうなる。焦らず食べるのが上手な食べ方だ」
2人の手前にいる男が語る。右目は真っ赤なスコープアイと、左目はペリドットのようなふかい緑色の瞳だ。その男の真ん前にいる女は、スプーンで、外側のアイスと中に隠れていた黄色いフルーツをすくった。
「IllLowさん、はいっ」
「・・・」
IllLow と呼ばれたスコープアイの男は無言で、彼女からいただいた。あーん、とはいわないよ。
「甘いな。マンゴーか」
「パラリアのマンゴーがいっちばん甘いんですよ」
「気候も穏やかでいいよね~」
隣のふさふさはおとなしく食べ始めた。
「のんきなこと!後ろは・・・」
ハーフの手袋をした、インサイトが小言をつく。サヴィーがアイスを方張りながら反撃する。
「だって、別にあのキチガイモンスターギャングのボスじゃなくて、ルナさんの知っている、本当のボスさんでしょう?」
「消息不明の原因が、ボスの双子だったあの野郎の仕業だったとはなー」
眼帯をしている男が呟く。
『ハスキーさんとモウニングさんのもとに、直接こられたのですよね?』
インサイトの向かい側に座っている、眼帯の男、ハスキーと赤い目隠しの男、モウニングに呼び掛けた。
「シグレットは監視してたから判るか。でも容姿とか尻尾のかずとか似てたからな!最初はビビって、甦ったのかよと焦ったぜ~」
「本当のボスであったのは間違いない。グローア博士の提供してくださった、目の位置は彼のことだった」
「それだったら殺せたのに・・・」
サヴィーが気落ちする。IllLowが頭を撫でた。
「いや、サヴィーはよく頑張った」
「そうですか?うーん・・・」
「今回は向こうの謝罪と加えての依頼だからねー!気を抜かないで、たどり着いて帰るまでが仕事だからねー」
「お待たせしましたー、こちらがブルーウィングのこだわり卵を使ったパンケーキになります」
「はーい、ありがとう!」
「兄さんも人のこと言えないじゃん」
サヴィーが小言を返したのだった。
[7:56 ブルーウィングーパーバッフル地下トンネル出口付近]
「・・・こ、ここにくるってんだろ?S.KILLERの連中がよ・・・ぁあ?びびってねーし!!お、俺にはメタルライドがいるし!俺の仕事のスマートさならおめえだってわかってんだろ!・・・いいぜ、やってやるよ!」
くすんだ緑色の男は、ヘッドバンドの上に特殊なゴーグルを身に付けている。それから、複数のミニモニターをブロックのように詰んでいる画面をみた。
「きてんだよな・・・こっちに・・・」
自信の無さそうに、その男はモニターの映像をみた。見たのは列車の乗客情報。本来ならばアクセスすると弾かれるはずだった。が、その男はそのページをみている。
「・・・さ、サヴィー?んなやつS.KILLERメンツにいたっけな・・・?」
モニターのチャットがぴこんと音をたてる。
『なんでも、すげえ良い女って噂だぜ?口説けば?ガンスさんの腕力でwwwww』
『てかマジで?やんの?S.KILLERハント』
「っうっせぇよ!!んなことより、この女は新メンバーで、来るってことだよな?!」
モニターの横にあったマイクが音声認識をする。それから自動で文章をつくり、代わりにテキストをチャットにプッシュした。
『うっせぇよ!!!!!!!!ンなことより、この女はエスキラーで、狂ってことだよな!!』
『おまえちゃんと文字打てやwwwwwww誤字やべえぞwwwwwww!!』
『女、エスキラー・・・なんかえっちだな(??)』
『あとビックリマークの多さやめろや』
「俺の声の音量を数値化して、でかけりゃあつくようになってんだよ」
『ふっつーにしゃべってるときはちゃんと文字になってるのになー』
『新入りメンバーの情報あったぜ、うpすっぞ』
ガンスと呼ばれた男は、画面に食い入るように見つめた。
「・・・こいつ、が?」
『そ、左からIllLow、サヴィー、キャビットって名前らしいぜ』
『すけえナイスバディだって噂だぜ?』
「女に興味ねえし」
ガンスは立ち上がり、湖に浮かぶ列車の線路を眺めた。きらきらと光る湖が綺麗だった。
「・・・女くらい、俺の報酬としてよこしてくれてもな・・・」
『おい、代わりにチャットくん起動したまんまそーゆーこと言うなよ』
『バレバレだお!』
「・・・くしゅん、う、くしゅん!」
「どうしたサヴィー。2度もくしゃみをするとは」
「うーん、アイスかな・・・」
「2度くしゃみは悪い噂っていうよね~」
お菓子タイムも過ぎ、穏やかな熱帯園を伺うS.KILLER一同。インサイトはコンパクトなサイズのノートパソコンを出しては、とあるサイトにアクセスした。
「熱心だなぁインサイトさんや」
「ここだけはチェックしないとね」
ハスキーがモウニングの隣から離れ、インサイトの隣に赴いた。覗く。
「ん?S.KILLER極秘抹殺依頼?」
「そっ」
インサイトが見ているものは、自分たちS.KILLERの駆逐や隠蔽抹殺といった内容の依頼をリスト化したものだった。その多さにビックリするが、中には3年前から受諾待ちのものが混じっている。
「はっはぁーん、」
ハスキーは鼻で笑った。
「俺らを取っ捕まえるなんざ、ここの仕事を請け負ってる輩からみたら、殺し屋業界の大株主の抹殺になるもんなー」
「そんな依頼があったのか、数は?」
「ざっと5000件」
「ぶっはwww」
「中には、俺たちがお世話したはずの国家とか企業とかあるよ」
「そいつらの根絶依頼があっなら俺たちが受けてやろーぜ」
「下金だろう、興味が湧かんな」
モウニングはブラックコーヒーを一口いただいては、窓の外を見る。
「んんっ!?!」
インサイトが顔を険しくした。ハスキーは大笑いした。
「ひとつ受諾してるやつあるぜ?!しかも30分前!はははっ!」
「ほう、」
「たくもーサヴィー?!」
インサイトが背中の方の席に座っている、後輩グループに呼び掛けた。
「はぁい?」
顔をちょこんとだして、サヴィーは応答する。その間にサヴィーのお菓子は隣のキャビットにつままれる。IllLowは見ているが、どうともしなかった。キャビットの一緒につまもうのお誘いも、静かに断る。
「あんたさー!チケットとるときなんで偽名作らなかったの?」
「えっ?」
「多分この依頼を受諾したキラー、あんたのパスポートの履歴をハックしたよ?」
「あーっ!ごめんなさいっ、いつもの旅行のノリでとっちゃいました・・・」
「あーもー良い、わかったわかった」
渋々と席に戻ると、明らかにお菓子の量が違う。キャビットがあいつあいつとIllLowに指を指すが。
「キャビットさん!」
顔をぷくっと膨らませて怒る。
「わーっ!なんでばれるのー!」
「IllLowさんも!どうして黙っていたのですか!」
「いや、・・・」
サヴィーがぷりぷり怒るところを見たかったからだ。可愛い。
「なんですか!」
「悪かった、次からは注意しよう」
「もーぅ・・・」
と、後輩組は平和的過ごすが。
「相手はっと・・・あーこれはしぶといかもね、SteelFox」
「お洒落な名前だな。団体か?」
「ううん。彼は個人」
「ボッチで俺らに挑むの?わぁお」
「戦闘スタイルは?」
「これ、」
後輩たちも静かになり、インサイトがスイッチをいれている小型無線機を介して会話に混じる。
「奴の怖いところ。彼は戦場には赴かない。代わりに現れるのは、彼のオリジナル設計、運営もしてメンテもやっている機械兵器」
「武器の洗い出しも出来ねえってことだな」
「そう」
『俺でしたら、やれなくはないですね。一目機器を見れば、どこが弱点かを調べられます』
『私もです!彼がもしかしたら、その機械の写真をどこかのネットワークにアップしていれば、私がそれを見つけて、詳しい情報を抜き出せます』
IllLow、続けてシグレットが声を出した。
「よし、IllLowは戦闘の前線参加ね。シグレットはIllLowから渡されるデータをもらうこと。徹底的に、洗い出して」
『はーい!』『了解した』
「奴はきっと、ここの列車が通る、パーバッフル地下トンネルの時に、狙ってくる」
『ぱー、ぱっふる?』
サヴィーが無線機で質問した。すると後輩たちの机においてあった携帯が画面を出しては、映像を抽出される。
『パーバッフル地下トンネル。パラリアのなかでは国内1位の長いトンネルです。約560kmもの長い距離をトンネルのなかで過ごします。しかし、途中で鋼属の住んでいた跡地がそのまんまみれます。住民もいて、かつ地下宝石の宝庫です』
「きれい!」
サヴィーが付属の写真を見て、盛り上がった。モウニングとインサイトは続けて話す。
「あとどのくらいの時間でそこを潜るのだ?」
「一時間とちょっと。時間がない。一般を巻き込まないように手を打っておかないと・・・!」
「ジャックしよう。運転手に話をつけてくる」
「一般人を、出来ればこの長い車両の真ん中に集めてほしいって、頼んでみて!」
「判った。キャビット、来い」
「あーいっ」
モウニングが立ち上がる。続いて背中について行くキャビット。二人は無線で会話の続きを聞くことになる。
「フォックスの攻撃する予想。俺は一度あいつの機械の見学にいったことがあるけど、情報は持ち出し禁止だったから、盗聴の分しかデータがないけど・・・」
モウニングの席があいたため、サヴィーとIllLowがハスキーとインサイトの席に移る。パソコンの画面を見せてくる。
「今回のステージに一番適してると思えるのは、こいつ」
写真に上がっているのは、竜の形をした鉄の模型物。
「彼はこいつをメタルライドって言ってる。材質はかなり精度をあげた鉄と、ダイヤの欠片を混ぜた素材で全てをコーディングしている。ハスキーの持ってるグレネードランチャーで穴を開けられるのわからない」
「アンテナがむき出しだ」
IllLowがつっこむ。
「て、俺も思って当時は思いっきり口出ししちゃった。アンテナ壊されるよってね」
「wwあーあ」
インサイトが苦笑いし、ハスキーは失笑。
「攻撃を仕掛けるポイントは、トンネルの中心部に入ってから。トンネルの入り口と出口から、3体ずつ乗り込み。それからあと3体はトンネルの中心部の壁際に引っ付いている可能性がおおきい」
「数も割り当てられるのか?」
「このメタルライド・・・というより、彼の作る機械はAIで動いてはいない。全部ラジコン」
「は?!まじかよ??」
『有望だな』
モウニングが一言。一番前の車両にたどり着いた。誰もお客様がいない。
「これから運転手を脅迫する」
「動くな」
「っわぁっ?!?」
運転手は驚いた。赤い目隠しをしている男に、いきなり拳銃をつきつけられたからだ。
「・・・運転手よ、協力してもらおう」
「なっ、ななななにをですかっ?!」
「乗客に、身の危険が迫っている。早急に席の移動を頼みたい」
「・・・えっ?」
「頼んだ」
「・・・あなたは・・・?・・・あっ!」
運転手は知っていたようだ。マイクを出す。車両全てに放送を流すものだ。
「こ、ここ、これで・・・!」
「先にあなたから、車両の末端から離れて中心に集まるように言ってもらえないか?」
「・・・は、はいっ!」
「助かる」
モウニングがぶっきらぼうに礼を言う。手は震えながらも、だが声色は変えずに運転手が話した。
『特急列車の緊急連絡をいたします。皆さん、車両の末端から、驚異が迫ってくるとの情報が入りました。お客様には大変ご迷惑をかけますが、焦らないで、前から6か、7番目の車両へお集まりくださいますよう、お願いします』
ここまで運転手が言い終わると、モウニングがそれを貸してもらい。
『我々は、S.KILLERだ。名前を聞いてピンときたものはそうはいないだろう。だが、これは訓練ではない。ここは今から奇襲をかけられる。我々がそれを食い止める。皆さんには迷惑をかけないと約束しよう。そのため、車両の末端側には、トンネルにもぐる前には離れておいてほしい。以上だ』
マイクが切られると。
「さ、サインください!」
運転手が笑って、手を震わせながらも色紙とペンを出してきた。
「・・・ファンだったか」
「モウニングさんですよね!本物を拝めるなんて光栄です!」
適当に文字を書いた。と、それなりのミッションもついでに書いた。
「あなたもここから離れなさい」
「運転することが私の仕事です!命を張ります!」
「無だ死にだな」
「店長つめたーい」
後ろからキャビットが茶化した。
「違うだろう。おまえの仕事は運転ではない。お客様を目的地まで、安全に送ることだ」
はっとする運転手。キャビットが加えた。
「あとね、乗客さんはすごく不安になっちゃうと思うんだ。あなたから落ち着いてって呼び掛けた方が、一番安心してもらえるよ」
「・・・わかりました」
「・・・名前は?」
「アルデックです!」
「頼んだぞ、アルデック」
モウニングは先に戻っていった。
「・・・かっこいい・・・」
「アルデックくんも、ミッション達成の仲間だ」
キャビットがそう言うと、へっ?と間抜けな声をあげる。
「は、はい!」
拳をキャビットとかわした。ふわっふわ。
「・・・よっし!」
運転手、アルデックはお客様のもとへと駆け込んだ。
『こちらモウニング。運転手は協力をしてくれるようだ』
インサイトたちは、乗客が席移動をしてゆく様子を眺めながらも、無線に答えた。
「誘導ありがとう。運転手さん素直だね」
『ファンだった』
「話が早い」
「おねーさんたち!はやくいかないとー!」
子供がインサイトにそう呼び掛けた。
「おねっ・・・?!」
これにはハスキーとサヴィーが笑いをこらえていた。
「心配ないよ、お姉さんたちがS.KILLERなんだから!」
「おねーさんたち、えすきらぁ?かっこいい!」
目をキラキラさせながらもそういった。インサイトは頭を撫でる。
「ちゃんとお母さんのもとを離れないようにね」
「はーい!」
すたすたとかけてゆく子供。
「・・・俺今、衝撃的シーンをみた」
「ああやってホモができるのですねえー、インサイトおねーちゃん」
「あああっ!あああ仕事の話するよー!!はい!俺たちも一回乗客が集まるところにいくよ!?」
起立。
「IllLowとキャビットはスパイがいないか探索。サヴィーは忘れ物チェックと加えての爆発物がないか探して。あったらすかさず近くの男どもに連絡」
『あーいっ』『ラジャー』『はい』
「ハスキーとモウニング、武器調達に荷物を預けてる倉庫にいくよ。あと運転手に、使わない車両の電源をこちらに回せないかの交渉もしてほしい」
『俺取りに行くぜ!モウニングは先に運転手に交渉してみろよ』
『許可は得ている、これから倉庫に向かう』
「はやくて助かるよ!」
インサイトが向かったのは、乗客の避難となった6番目と7番目の車両。加えて8番目の方にもお客が座っている。ちょうどそこの車両は、乗客がおしゃれにディナーをするために作られたレストラン車両だった。
「S.KILLERインサイトです!通して、お邪魔するよ!」
目のつく輝かしい宝石や衣装に身を包んでいる貴族、拳銃やナイフを腰からぶら下げているハスラーらしき服装の人もいた。そいつは西武歴に出てきそうなバケツ並みの大きな帽子を被っている。
『裏はとれています。ブルーウィングの常連さんで、問題が起きたらハントするトカゲハスラー、フランジャー=ダガーさんです』
無線からシグレットがインサイトに告げた。彼の手には、既に拳銃が忍ばせてあるのがみえた。
「じゃあ観客がいるここで、ちゃちゃは起こせないはずだね。ハスラーも一般客は巻き込まないのが鉄則だから」
平然と背中を見せて、厨房へ入っていった。
「コックさんたち、いますか!」
オーナーが表に出てきた。全体的に淡い群青色の、先が白い尻尾を2本もつ猫型の亜種が現れた。亜種が仕事場で、指導者として活躍ができるのはパラリアの持ち味であり、そのため仕事やモノのクオリティがどこの国よりもひときわ目立つ。ここで出会っているオーナーは毛を逆立てて怒っているようだ。
『珍しいですね!月光猫じゃないですか!月の光を浴びると透明になっちゃう猫!』
『み、みたいです!』
無線でシグレットとサヴィーがはしゃいだ。インサイトの耳にかけているイヤホンには、シグレットの目となるカメラが搭載されている。それは他のメンバーにも付属されている。
「なんにゃねん。おまいさんたちのせいで、こちとら仕事が固まってんねんにゃ!」
「あなたたちの仕事場に、ほんとに迷惑をかける。けど、」
インサイトの手には、S.KILLER印の手形がある。桁があり得ない数字が書いてある。オーナーにそれを渡すが、コックたちはそのあり得ない桁に目をくらませているみたいだ。
「ここの観客さんたちの気持ちを和らげるための、食事を提供してほしい。これだけあればカバーできるよね?お釣りは入らないから」
黄色い目をまん丸くして、猫はこちらをみた。だが無言でそれを返した。
「飯で金はとれねえよ。食えるのはお客さんの笑顔だけだ」
そういって振り向き、コックたちやウェイトレスに呼び掛けた。かくかくに折り目がついている髭が動く。
「おいおまいら!ものはドンくらい残ってるか?!」
「肉材料が不足ぎみですが、入荷したばかりの果物と野菜ならあります!」
「冷凍庫のアイスと、非常用の麺類もあります!」
「今からお客さんに飯を一杯作るぞ!金はとらねえで、さっさと作ったつくった!!」
「っ!」
オーナーの呼び掛けに、コックたちもだがインサイトも驚いた。手形を受け取らないことは初めてではなかった。
「おまいさんらの稼ぎはとらねえで、こっちは非常時の対応する」
爪が伸びて、インサイトを指差す。
「けどな、約束ははたしてもらわなくちゃあ困るんでぇ?お客さんに、迷惑はかけんなよ!!」
「ありがとう!えっと・・・」
「ギルルだ!」
「ギルルさん!」
「さあ持ち場に戻れえ!」
猫のギルルは手をパンパンとたたく。それから中華料理専用の大きなフライパンを出した。インサイトは厨房から出ていき、引き返す。
『こちらIllLow。後方の乗車両、屋根の取り外しをしました。上からなにかが来る気配はありません』
『キャビットです!運転手さんアルデックさんから、乗り物の運転方法を教えてもらいました。付箋一杯はってます!』
『だ、大丈夫かおまえ・・・?』
『僕だってちょーっと乗り物に乗ったことあるもん!』
『自転車だろ?』
『そーだ!』
『ハスキー、持ち場に集中しろ。こちらモウニング。ハスキーと共に武器を探し当てたぞ。アルデック氏に聞くと、非常用のライフルやスナイパーと、弾もある。後で払うと約束し、借りさせていただいた』
「後方から攻めてくる可能性がおおきいからね。前はトンネルの半分を過ぎてからかかってくると思う。器機は燃料で動いている」
『自爆される恐れはありませんか?』
「その線は拭えないね。そのために、乗客を真ん中に集めたんだからね。なんとしても真ん中には手出しさせないようにしなくちゃね!」
インサイトは列車の一番後ろにたどり着いた。IllLowとサヴィーが手元の準備をしていた。席も全て取っ払い、それらをIllLowが分解。鉄の固い部分を踏み場へと地面にかためて行く。
「ご苦労さん!」
「兄さん、猫ちゃんの写真は!」
「そんな状況じゃないでしょー?」
と言いながらも、スマホを手渡す。
「はわぁ~!かわいいっ・・・!」
「司令官」
IllLowがぎらりと目をつける。インサイトは笑った。
「大丈夫、可愛いとかっこいいは別バラだから」
「別?」
「そ!」
「おーらよっと!」
ハスキーが到着した。肩にバズーカーやグレネードランチャー、手元はハンディガンやライフルといった軽量のもの、そして腰からぶら下げているのは大量の弾。
「モウニングは前側の方を補充しに行ってるぜ。梯つけねえかって提案してんだけど」
「上から昇ってやりとりかー、悪くないけど、足場の悪さと電圧の危険があるがあんまりおすすめできないね。6、7、8番目の車両は昇っちゃだめだからね!死ぬからね?!」
「了解!」
ハスキーたちは武器の調節に取りかかる。ここまで40分はかかった。
『キャビットでーす!前方、トンネルが見えまーす!』
「よし!列車の緊急発信、ゴー!」
インサイトが無線で呼び掛ける。
『らじゃー!』
キャビットが非常用の緊急電波を発信する。トンネルに入った。
[11:02-パーバッフル地下トンネル出口付近・入口付近]
「・・・っし、いくぜえっ!」
ガンスは声をあげた。ミニモニター6個を起動した。
「3体からうごかしてやっかな!」
メタルライドがふわりと浮かび上がる。3体が体の節々をかちかち音をならしながらも急下降。それらはトンネルの入り口付近で、茂みに隠されていたドラゴンだった。S.KILLERを乗せた列車に追いかけて吸い込まれるように、ドラゴンが3体入ってきた。
「きたよー!!」
インサイトが声を張り上げた。ハスキーがバズーカーを構える。
「手前のやつ狙うぜ!!」
派手にぶっぱなした。命中はした。が、
「かってぇな!」
歪みのひとつもなく、煙からギラギラさせて出てきた。
「はっ?!な、なんで一番後ろの車両が・・・!?」
ガンスは焦った。メタルライドの目を借りて、S.KILLERの一同は準備を完璧にしていたようだった。インサイトがメタルライドを見て、声を張り上げた。
「ハスキー!頭を狙ってみて!」
「おうよ!」
ハスキーが2発目を準備している最中、飛びかかってくるメタルライド2体。
「焦るなよ!?」
ハスキーの前に並んで出てくる、モウニングとIllLow。ガトリングとショットガンを所持している。
「IllLow!奴の兵器の情報を抜き出せ!」
「はい!」
IllLowのスコープアイがメタルライドを凝視した。メタルライドの表面だけの情報から、内部の構成、機械としての弱点、アンテナの部位を探り当てた。IllLowは、ドラゴンの重さによって羽だけではなく、後ろ足の付け根の部分にブースターがついていることを発見した。
「情報を伝えます!足の付け根部分、ブースターを両側に発見!アンテナは耳のように加工されている角におおわれ、隠れています!鱗を壊すには、人力で引き剥がす以外なさそうです!」
辺りの列車の車輪の音、木霊する銃声に掻き消されないように無線で声をかけた。
「モウニング!?」
インサイトが声をあげた。モウニングは刀ぐらいの大きなマイナスドライバーを持ち、飛び上がった。メタルライドに乗り上げたのだ。
「やべぇやべぇやべぇ!!?」
ガンスは更に焦った。壊せばうん百万もの修理代が頭をよぎる。振り落とそうとそのメタルライドだけ、高速回転して落とそうと試みたのだが。
「ふんっ・・・!!!」
モウニングは鱗の隙間に思いっきり刺した。それからテコの原理を使って思いっきり取っ手を下げてやった。
「ひゃあっ!!?」
インサイトたちの乗客側には落ちてこなかったが、音が衝撃的だ。
「流石モウニング!!戻ってきて!!?」
「あああああっ俺のメタルライドをこの鉢巻ぃーーーー!!!!」
背中の大きな鱗を剥がされたメタルライドを、今度は頭が尻尾を追いかけるような勢いで回転させた。体制が崩れ、モウニングは吹き飛ばされる。
「うお!?」「モウニング!!」
なんとか列車の上に留まってみせた。
「サヴィー、列車のドアを開けてきて!」
「はい!」
サヴィーはシグレットにIllLowが抽出した情報をUSBで繋げて渡した後、大急ぎで空の乗客を進んで行く。GPSでモウニングの位置を確認し、近いところのドアを開けようと試みる。
「んんぅ・・・!!!」
ドアのスイッチもついていない。電気もない。爆弾で壊そうとは思わない。
「あっ・・・」
マントと大きな帽子を被っている、尻尾を生やした男がやって来た。腰には西部劇に出てきそうなギアがついてあるハンドガンを持っている。木製だ。高級そうなブーツも目立つ。サヴィーはちょっとかっこいいと思った。
「あ、あのっ」
「離れてなさい」
帽子を傾けて、やっと顔を出す。頬が黄色の鱗でひび割れていて、オレンジ色の眼球をぎろりと光らせている。それから両側の腰についている拳銃を素早く抜き出し、ドアに発砲した。
「っ!?」
思わずの銃声に耳を塞いだ。くりぬくようにきれいにドアを狙わず周辺を狙った。
「・・・よっと」
軽く蹴りをいれるカウボーイのトカゲ。ガコンと音をたてて、ドアが外れる。巻き込まれて、へしゃくれる。
「あ、ありがとうござ・・・??!」
サヴィーは驚愕した。その男はサヴィーの手をもって、手にはバラの一輪。顔を赤くしてしまう。
「殺し屋でもあなたは美しい。いつでもおいで」
手の指の感触。トカゲちゃんだ。
「・・・あ、ちょっと!」
トカゲは去っていった。バラと一緒に名刺も入っている。フランジャー=ダガーと書いてあった。
「・・・私が、やめるわけないです!!」
顔を膨らませて、そう怒った。モウニングが飛び乗るように、開けたドア口から入ってくる。
「だ、大丈夫でしたか?」
「どうした、そのバラは」
「な、なんでもないです!こんなのポイです!!」
「貰っておきなさい」
モウニングさん、IllLowさんの反応が見たいんでしょ?私もだけど、怒られるのは嫌!
「はい・・・」
しぶしぶフラワーポケットに差し込んだ。名刺はポケットに封印。
「ハスラーが殺し屋を口説こうなんてな・・・」
「や、やめてください!IllLowさんの前では絶対に言わないでください!!」
「俺の前で、なんだ?」
様子をうかがいに来たIllLowに聞かれる。どきっと飛び上がるサヴィー。
「ひゃっ?!い、IllLowさん!!」
「浮気か」
「ち、違います!!」
目線がバラへ。
『たーいへーん!前の方にもドラゴン来たー!』
「いくぞ、IllLow」
「ラジャー」
「サヴィーはシグレットの様子を伺ってくれ!電源確認だ」
「は、はい!」
シグレットのデータベースアクセスには、電源はもちろん、それ相応の情報伝達を可能にすネット回線が必要だ。後ろから2番目の車両には、大型通信機のアンテナがつけられ、そこからコードがさまざまと流れている。シグレットのデータ処理のためのモバイル型サーバ、キーボード、電源。
「シグレットさん、どうですか?」
『ごめんなさい!検索をどれだけかけても、古いデータしか公開されてないみたいです・・・SteelFoxの、ガンスさん?が使っていると思われるネットワークなら見つかりました。材料で別の組織とのやりとりがないか、調べてみます!』
「お願いします!」
と、窓際に目をやると、メタルライドが1体。
「ひぅ?!」
窓を、天井を壊してサヴィーのいる車両に乗り込んだ。仕事上で、初めて悲鳴をあげる。後ずさりして、テンパってしまう。武器を手放してしまった。
「やっ、・・・!!」
と、この悲鳴をうるさい最中聞き分けるキャビット。
「サヴィーちゃんがピーンチ!1体がそっちにいったのかな!」
無線で聞き取ったIllLowが後戻りし始めた。モウニングは構わずキャビットのいる運転席へと向かう。
「こないで!!」
ガンスは下心でそのドラゴンを操っていた。
「ま、まじじゃんか・・・発育よすぎくね?」
ドラゴンは口をうごかして、サヴィーの足を噛もうとしたが。
「うぇっ?!」
横からの発砲。IllLowが物理計算で、ドラゴンの頭が一番揺さぶられるポイントを狙って撃った。
「ぐっ・・・!!」
渾身の背負い投げ。顔をそらしたドラゴンの首を担いで持ち、そこから思いっきり回転をつけて投げ飛ばした。かなりの重さだったはずが、トンネルの天井に打ち身をする。更に付け根のブースターも狙って打ち緒とした。羽をせわしくうごかして、線路に置き去りにされるドラゴン。1体を撃破した。
「あの、ご、ごめんなさい!」
その一部始終がスマートだった。久々にドキドキするサヴィー。IllLowは駆け寄らなかった。かなり体力を使ったのか、あまり激しく呼吸をしない彼が肩を動かして呼吸をしている。
「立て、足はつままれてないだろ?」
「うっ、は、はい!」
「よくやった」
拳銃を渡す。と、サヴィーの肩を腕で囲い、頭を引き寄せられる。おでこをあてられた。
「いたっ」
「さっきの攻撃はよく見ていたな?あれで、敵の操っているドラゴンのカメラを眩ますことができる。そこを狙え」
「・・・は、はい!」
あーっ、至近距離。かっこいいなぁっ。
「俺は前側をいく。シグレットの見張りを頼んだ」
「はいっ!いってらっしゃい」
IllLowが一度振り替えっては、笑った。たまに笑ってくれることが増えた。嬉しい。
『いいなぁっ、サヴィーさん、愛されててっ・・・』
「シグレさんはいないのですか?」
『残念ながら、愛しているという感情はプログラミングされていないのです・・・口説かれたときに口を割ってはいけないという理由でですねっ』
「ああっ・・・兄さんはここまで人に近づけておいて、それですか・・・」
『そうですよーっ』
と、シグレットのモニターがピコピコと点滅した。
「情報ですか?!」
『はい!ひっかかりました!どうやら彼は、ドラゴンを操作してて、今手持ちのドラゴンは9体います!IllLowさんがひとつ戦闘不能にしたので、残り8体ですよ!』
『まだ残りの3体が顔を出していない』
トンネルが、広い場所に出た。地下トンネルの、鋼族のすみかに差し掛かった。
「きたぞきたぞー!?」
残りの3体が、突撃してきた。
[11:59-パーバッフル地下トンネル出口付近]
「っしゃあ!!やるぞやるぞー!!」
ガンスは静かにランチパックに手を出しつつ、モニターの8つを見分けて操作する。
「っ!!はーなんだよあいつ??!!」
モニターの中で写っている、赤目と緑目の男に、また機器をやられた。それから何かをしゃべっている。音声を届けるシステムは組み込んでいないため、ほぼ無音でそのゲームをしている。
「あん、だとっ?!?」
それと同時に、ほかのメンバーも動きが変わった。あのメロンソーダの細身に至っては、性格にドラゴンの目を狙ってきた。
「え?!うそうそ嘘??!!!」
2体も削られた。残り操作できるドラゴンは、6体となる。
「あっ?!う、嘘だろ?!」
信じられない光景を見た。ドラゴンが写っている。しかもそれは自分が先程、目をとられて撃ち落とされたドラゴンだった。
「あんのメロンソーダのやつ!俺のメタルライドの組み込まれたコマンドをこの短時間でラジコン操作できるように繋げやがったのか?!!はぁっ???!!!」
向こう側の彼らは、真顔でも、楽しそうにしているみたいだった。ガンスは音を聴く。
「やっべえ!!?」
とうとう入り口まで来てしまったようだ。ドラゴンたちを撤退させようとする。これだけ派手に列車を攻撃して、お咎めがないとは言い切れない。トンネルの中に留まり、引き返そうとした。
「んおっ・・・おおっ?!!!?」
ドラゴンたちが、なぜかいっこうに飛び立ってくれなかった。というより、飛んでいたやつも列車に引っ付くようにがちんと体をくっつけ、動けなくなったのだ。
「はあ?!うそうそ嘘?!!?」
どれだけコントローラーををがちゃがちゃしようとも、動かない。ドラゴンの目を借りて、様子をうかがった。
「な、なんだよあれ?!?」
一番後ろの列車は、地面が鉄でできている。その近くに、蓄電器めいた機器が置いてある。スイッチオンにきり変わっている。そこから延びているコードは、列車の鉄の表面に繋いであった。
「あああっ?!なんだよそれ?!」
ガンスは何故、ドラゴンが列車にくっついて離れなくなったのかを理解した。
「列車ごと磁石だなんて、きーいーてーねーえーそーぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!?????」
自爆装置に手をつける。が、止まる。
「・・・俺のメタルライドは、」
ガンスは顔を伏せて、自爆装置から手を離した。
「・・・簡単にやれるかよぉ・・・」
モニターを切った。同時に、チャットがピコンと音を鳴らす。
『あーあ、お前の一番の出来が良かった兵器もこれで最後だなー』
「最後いうな!!それに兵器じゃねえ、俺の夢だ!!」
ガンスはは立ち上がる。同時に、ブルーウィングが、トンネルから出て来た。一番前の車両と、一番後ろの車両には、ドラゴンがそれぞれ6体とも引っ付いていた。
「・・・助けにいくぜ」
『ぶぅwwwwwwwお前、死ににいくか!!』
「アイツらがスクラップになるなら、俺だってなってやるんだし!!!」
『お前ホンとに好きだよなー、メカ』
「もういい、行ってくるからな」
ガンスはその屋上から撤収し、ブルーウィングが到着する、境町町まで走った。
「あははー、派手になっちゃったね・・・」
到着するなり、大勢の軍隊に囲まれた。コックさんや運転手さんが前に出てくる。
「や、やめてください!彼らは客人を守ったのですよ?!」
「だが、仕事柄の関係巻き込んでしまったことは事実だろ? そうだろ??」
前からえらそうな軍服に身を包まれた男があるいてくる。こんがり茶色の肌色をしている、サングラスをかけた男だ。
「悪いがな殺し屋さん、ここにはルールがある」
ずいとモウニングの前に来る男。
「ここでは君たちのような危険人物は」
「これを頂いた」
モウニングは、ここに招いた人物からの招待状を見せた。その封筒の包みを見ただけで、顔を青ざめさせる軍人。だが直ぐに顔は悪巧みのにやついた顔をする。キャビットのペストマスクがかちかちと、フクロウのように音を鳴らす。その音で顔つきがかわるS.KILLER一同。
「そうか!ここのプリンスに招いていただいたのか!なら案内しよう!ははは、済まなかったな」
「断る」
モウニングがそう言い切った後、S.KILLERは一斉にそれぞれの方向へと散った。突然のアクションに兵隊は戸惑い、中には蹴られて倒されるものもいる。
「何っ?!食い止めろ!!食い止めるんだ!!」
「うわぁっ!!」
ハスキーのラグビーみたいな突進には、流石にばたばた倒れる兵隊。
「全員、見失いました!」「くそっ!引っ捕らえろ!!」
客が降りてくる。
「なんであの人たちが捕らえられる必要があるんだ!」「私たちは守っていただいたのよ?たとえあっちで悪いことをしていたとしても、ここは敬意をはらうべきでしょ?!」
「・・・お前!」
隊長が、客人の中でとある人物を見つけた。
「フランジャー!」
「なんだ、貴様か」
「貴様とはなんだ!まあいい、仕事だ。あのS.KILLERを取っ捕まえろ」
「断る」
「何?!」
「あんたが別に依頼していた、メタルライドを所持しているガキがいただろ?そいつの最高武器でこの様だ。わりに会わない仕事はしない」
そういって、さっさと立ち去った。
「いつまでもくつろげる席でのさばってたら、私が貴様の首をとるからな。グラッチェ」
「・・・ぐっ!!」
ばつが悪そうに、地面を蹴る軍人。
「グラッチェ司令官!」
「なんだ!」
「SteelFoxがやって来ました!」
「ガンス!!!きさまぁ!!!」
づかづかと歩いては、ガンスの頭をつかんで持ち上げた。いてててと声をあげるガンス。
「失敗か!!作戦はどうしたんだ全く!」
「失敗してもやつらが拘束できるような口実は作れってたじゃねーかよ?!てめえが後始末できなくてなんで俺が叱られんだよ、離せや!!?」
グラッチェは頭に来た。その場で上に発砲した。
「S.KILLER!まだ近くにいるならよく聞け!!」
そう、S.KILLERは逃げていない。息を潜めて、さきほどの一部始終を全て見ていたのだ。あるものは屋根へ隠れ、あるものは民衆に混じり、あるものは壁に張り付いている。
『顔つき変わったかなー、ガンスくん』
『体格が良いな。戦闘ができるのだろうか』
『いーや、多分あれは機械のメンテナンスや開発で、重いもんをもってやってたからの太刀だろうぜ?俺も機器いじり好きでやってたなー』
『でも、彼は私の足をつまもうとしましたよ!ドラゴン使って!』
『サヴィーちゃんモテモテだねぇ~』
『しかし、同時に6体もの機器を操れる。おそらくあのメタルライドも、設計から開発までやってのけたのなら・・・』
『師匠、俺は反対です』
『まだ何も言ってないだろう?』
「こいつが、俺が依頼をして雇った殺し屋だ!」
グラッチェ司令官は威圧的に叫ぶ。兵隊が気をきかせて、メガホンを持ってきた。片手には銃でガンスの頭を狙い続けている。押し付けるかのように。
『今メタルライドを動かせないみたいだね。コントローラーを持ってない』
『インサイト、ここの放送機器をひとつ乗っ取れるか?』
『キャビットの近くにあるかな?』
『あるよー、どうしたらいいのー?』
『そっちにいくよ、待ってて』
インサイトは路地裏にいた。家と家の間にある狭いところから、屋根に向かってフックがついている細い鎖を飛ばした。そこから軽々と昇ってゆく。屋根にたどり着いたら、キャビットがいた。
「これ?」「それ、ありがとう」
インサイトが腰についている工具セットから、ネジをはずすドライバを一発であて、導線を弄りだす。
「わあー、すごいインサイトさん」
「キャビット、感電してるよ毛が逆立ってる」
「へ?」
「はーい、モウニング。喋っていいよ」
グラッチェ司令官の話は続いていた。
「最後の仕事だ。ガンス!」
銃を頭に突き付けながら、こう叫んだ。
「メタルライドを自爆させろ」
「?!」『!!』
S.KILLER一同も、これには驚いた。今自爆させようものなら、恐らくこの駅周辺にいる市民、家ごと吹っ飛ぶだろう。運転手が声をあげた。
「何を考えてるんだ!そのブルーウィングは、1800年もの歴史がある乗り物だ!!皆に愛され、今まで走ってきたんだぞ!?」
「だからなんだ、こんなおんぼろ!今の技術にすり替えてもっと便利にすればいいのだ」
「ふざけんな!!」
「・・・ふ、」
今まで黙っていたガンスは、突然肩を揺らして笑った。
「くっはははは!ふひひひひっ!!はら、はらいてぇっ・・・!」
「何を笑っているのだ、きさま」
「だーれが、自爆させるかよ」
「なん、だと?!」
「やーなこった、こんなくだらねえ駆け引きのために、俺の夢をぶっ壊すだなんてありえねえって、くそ食らえ」
グラッチェ司令官の拳がガンスに食い入った。
「もう一度言う、自爆しろ」
ガンスはクールに、だがビビりながらも言い切った。
「殺せよ、いらねえんだよ。俺の作った相棒が自爆目的で使われんのよ」
『気に入った』
今度はグラッチェ司令官がびびった。ガンスもだ。辺りに響いたのは、放送の声。
『我々は、S.KILLERだ。ブルーウィングのただの乗車客としてここに赴いたが、この度は皆さんに迷惑をかけてしまった。申し訳ない』
辺りはキョロキョロし始める。
『時にガンス。その機械はこちらの情報部から聞いたが、設計から開発まで、貴方が行っていると聞いた。それは本当か?』
グラッチェ司令官が引き金を絞ろうとしたが。
「っ?!あああっ!!!」
インサイトが阻止した。射撃で、グラッチェ司令官が持っている銃のグリップ、下目を狙った。反動で拳銃が投げ出される。
「ひぃっ!!」
すぐ真横でことが起きている。こんなやつを相手にしていたのかとガンスは、硬直するのだった。
『どうなんだ』
「あ、はい!俺が全部手掛けました!外注せずに、おんなじように加工して、組み立てて、個体にクオリティの差がないように、はい!」
『ほう、それは素晴らしい。死ぬには惜しい存在だ。そのはしたない依頼主から縁をきってもらおう』
「なんだと?!私の何がはしたないだ!!」
『全て見ていたぞ。今回の失敗を雇われ側に叱ろうが貴方の勝手だが、相手はまだ青年だ。背負われていることが恥ずかしくないのか』
「ぐぅ!てめえら・・・っ!!」
グラッチェ司令官はしぶとい。ポケットの拳銃をとりだしてはガンスに突き付けた。
「さっさと自爆させろ!!さもなくば、本気で撃つぞ!!?」
『死にたいか?』
モウニングの威圧的な声が響いた。グラッチェ司令官の冷や汗は止まらなかった。
『5秒待とう。拳銃を下ろさなかったら、我々がきさまを撃つ』
「なんだと?!」
『知らないのか?基本的に殺し屋が狙うのは、殺し屋ではなく、依頼主かターゲットだ。同業者の撃ち合いはあろうが、事が済んだのなら我らの標的はそその子供ではなく、貴様になる』
司令官の冷や汗がぶわっと浮かび上がった。
『今、ガンスへの依頼を放棄するなら見逃してやろう。立ち去れ、カウントする』
「ぐっ・・・!!!」
司令官の目が時計に行き、それから逃げ去った。
「て、撤退だ!治安体に任せる!!」
ガンスはぽかんとした表情で、ただ座っていた。
22 ガンスでやんす!
[ハローフラワー街.ブルーウィング港町]
「・・・はぁ、」
ガンスはため息をずっとこぼしていた。ここはブルーウィング港町のなかでは、港から遠ざかっている住宅街の奥。住宅の屋根はほとんどレンガでできており、外観はグリーンクラッシュ都市とはかなり違っている。ガンスはその港町では、便利やさんと名乗っては様々な機械を修理している。列車の修理も行ったことがある。
「・・・ぁ~~っ!」
ため息が2回目。ガンスはその便利やさんの支店の奥に進んだ。裏側からの抜け道だ。そこを進む。辺りは既に暗がりで、ぽつぽつと街灯がお洒落な道なりのタイルを照らしている。
「はぁ、まじでほんとにどーしよ・・・」
ガンスは顔を押さえた。頭には昨日の仕事の件のことでぐるぐる悩ませていた。
「って、俺ほんとに大丈夫か?あんなやつら相手にしてたんだしな?このままお咎めなしで家に帰れるとは思えねぇぞ?!」
背中が気になる。後ろを振り向いて、屋根をちらちらと見かける。
「多少は警戒できるようになったな」
暗闇の中からじわじわと姿を表したのは、明度の低い青色の男。赤いはちまきがよく目立ち、灯りが更に怪しく光らせているのは頬にある十字のマーク。ガンスがひぃっと声をあげた。丸腰だ。はちまきの後ろから今度はメロンソーダの男が出てきた。編み模様の袖部分がついている手袋をはめている。
「?あっ!!?あ、あんた!!」
ガンスは見覚えがあった。その男はかなり昔、ガンス自身が開いたメカロボ展覧会のお客にいた人だった。
「お、俺のメタルライドに文句つけたやつ!!」
「覚えていただけて光栄だねー、ちゃんと直してあったね!」
ガンスは後ろから足音が聴こえた。あのオッドアイの黒男だ。隣にはあの、ちょっとやらしいなって印象のある女性がいる。美人だ。ガンスは視線を泳がせた。
「でも、改良したところで俺たちの敵でもなかったね~」
「あんだとっ!?!」
ガンスはキレて一歩前進した。はちまきとメロンソーダの後ろから大男もやってきた。むちゃくちゃ笑顔だった。
「おいおいよせよ。俺たち喧嘩にしに来たわけじゃねえだろー?」
「はん?」
「自己紹介が遅れたな。私はS.KILLERの統括をしているモウニングだ。こちらの眼帯男はハスキー。今回訪ねたのは、貴方の作っている機器を見せてもらいに来た」
ガンスは言葉に詰まった。それは相手に弱点を教えてしまうのも同義である。だがここで断ればおそらく強行突破で探ってくるだろう。メロンソーダの人がスマホを取り出して、ガンスの前に来た。
「あっ、別に偵察じゃないから。これ、読んでサインして」
それは電子化された書面だった。内容をさらりと見る。
「・・・ここで見たSteelFox氏の所有する器機、技術、在庫ルーツ、その他貴殿の戦力に関与されるものの情報は使用しないことを約束する。無論、情報はこちらのセキュリティ上によって保護され、外部に漏れたときは賠償金を支払うこととする。い、っ?!?」
声に出せない金額が書いてあった。
「これで一気に大金持ちだぜ?ま!インサイトのセキュリティを突破できる強者は今のところ見かけてねえけどな!」
大男が声をあげた。メロンソーダの・・・インサイトと呼ばれた男は胸を張っている。
「どう?悪い話はないでしょ?」
「・・・わ、わかりました」
「よかろう、案内したまえ」
はちまきの男・・・モウニングがそう言った。
「てか、あんたインサイトって人だったんすか」
「覚えてないんだねほんっと!!そうだよ!」
ガンスの両隣にはハスキーとモウニング。隙なんか存在しない二人の間に挟まれ、緊張しっぱなしである。
「はーいっ、周りに怪しいストーカーはいませんでした~」
いきなり前に現れてくるもふもふの尻尾を所持した生き物。ぎょっとするガンス。
「ごくろう、キャビット」
モウニングがそう言った。この両隣から回避できたとしても、後ろにはあのオッドアイと女の子と、それからインサイトがいる。ガンスは内心このまま誘拐されるのだろうかとビクビクしつつも、彼らを案内した。
「・・・あ、あの」
「どうした」
「ホントなんすか?グレイベアード皇子に、呼ばれたってのは・・・」
ガンスは聴いた。その皇子はここ、ハーバカンス連合国の住民ではない。ブルーウィング特急列車が通ってきた、パラリアの貴族で、かつ政治にも手を出せる権威を持っている皇子だ。
「ああ」
「まー俺たちが呼ばれたのはあれだな、お礼状か」
「?」
「モンスターギャングって、知ってるだろ?」
ガンスははっとした。モンスターギャング。それはベアードが手足として従えていたヤバい連中のことだ。だがその連中が先日まではやりたい放題であったにも関わらず、皇子からのお咎めがなかった時期が長く続いていたことを思い出した。
「ギャングのでしゃばりを取り締まることが出来なかったのがよ、ベアードの瓜二つの兄弟がギャングを牛耳っていたのが原因だったらしいぜ」
「う、瓜二つ?!」
初耳だった。おそらく住民はそんなことを知っているはずがなかった。
「しかもそんときは本人は国に帰れない状況だったらしいぜ」
「弟分が、あの手この手をつかって帰らせないようにしていた」
「・・・囚われの身だったってことっすか?」
「そういうこと!」
ハスキーは笑顔が耐えない。オッドアイと女性は黙ってついてきているだけ。キャビットと呼ばれたもふもふしっぽの男は、常に耳をいろんな方向に向けて外を伺っている。時々屋根に上ったり、降りたり、パタパタ走ったり。
「こーらキャビット!落ち着きがないよー?」
「野ネズミがいるー、ちろちろ地下水道を歩いてるみたい」
「!」
ガンスはビックリする。
「そいつは気を付けた方がいいぜ、病気持ちだ」
「ブルーウィングの地下住民とは違う個体ですが、注意が必要ですね」
オッドアイがしゃべる。インサイトがオッドアイに話しかけた。
「ネズミに変な盗聴器が仕掛けてあるかな、IllLowみれる?」
「了解」
IllLowと呼ばれたオッドアイの、赤い色をしている右目からカメラのレンズを絞る音を聴いた。ガンスはその様子を見ていた。
「・・・スコープアイだろ」
「よく判ったな、その通りだ」
「ちぃ!!!どーりで俺のメタルライドの弱点がすぐにばれたんだなぁ!!てめえよくも」
隣から肩をもたれた。ハスキーだ。IllLowはガンスへと前進する。
「隊長、手出しは無用です」
それからガンスと向き直って睨み付ける。
「てんめえ!」
「俺も言いたいことがあった。サヴィーが世話になったな」
「やっ、そんなこと言わなくていいですから!」
女性が顔を赤らめた。なるほどサヴィーという名前か。ガンスは心に止めた。
「IllLow、頼んだことに集中してくれるー?」
インサイトがなだめた。IllLowは引き下がっては、視点を地面と建物についているパイプに向ける。
「確かに、ネズミがかなりの数ですね」
「IllLowさん、それって家の虫とか見れちゃうんですか?」
「形状を認識できる程度の大きさなら、ゴキブリでもゲジゲジでも見られるが?」
「やっ、絶対家ではやらないでくださいねっ!」
サヴィーは頬をおさえて悲鳴をあげる。ガンズはひょっとしてと思うが、2人は恋人関係なのか?
「安心しろ、俺の家はさむい時期に家のすべての部屋を丸一日換気する。大概の虫はそれで死ぬ」
「もうIllLowさんの家に住んじゃおうかな」
「ゆーるーさーないぞー??」
インサイトが噛みついた。ガンズは頭のなかで若干混乱している。
「あ、ついた」
ガンスは声をあげる。S.KILLER一同は足を止め、目の前に現れた大きな車庫を見上げた。
「うっわー、でかっ!」
インサイトは感心しつつ、その車庫を懐中電灯で照らす。と、ガンスは慌てて止めに入った。
「あんま、照らさんでください!コイツの頭に乗ってる探知機は、光に反応して攻撃するんすから!」
コイツ、とは倉庫のことだ。屋根の縁に、怪しげに光るめんたまのようなカメラが動いている。
「俺が倉庫を開ける。そこで待っててください」
ガンスは、頭のおでこにかけているゴーグルを目にかけて、暗闇の中をスイスイ歩いていった。IllLowは勘を働かせた。
「···驚いたな、おそらく同じようなシステムを導入している」
「IllLowさんとですか?」
サヴィーが反応する。一度目を配った後、直ぐにガンスを凝視した。
「性能は俺より劣るだろうが、奴の身に着けているゴーグルは…それくらいのものだろう」
「hi0が聴いたら、ビビるだろうね」
インサイトが小言で話に交じる。ガンスが駆け寄ってきた。
「終わりっす。入ってきてください」
車庫、に近い印象だった。まだ骨組みの状態で晒されているもの、塗装の最中のもの、既に布で覆われて、隠されているものと不規則に佇んでいる。すべて大型の器械であり、ものを運ぶための台車の足の上で作業をしているようだった。ハスキーが駆け出した。
「うおっはぁあ!でっけぇ!!」
「大型機械が専門で、部品とエンジンのモーターだったり、ガソリンや電気とかのエネルギー源だったり・・・は、全部単品注文ッスね」
「どのくらい利益出てるの?」
インサイトの質問に、苦い顔をした。
「あの、あんたらと闘う仕事がちゃんと遂行してればなぁ〜!!」
「あは、は。ごめんよガンスくん」
「わぁー、おっきなネコ!」
キャビットが駆け出す。見つけたのは、四足歩行の動物型乗り物。
「ほら!俺ロボットアニメ好きだからよ!!こーんな、でっけえヤツに乗りてえなぁって!!」
「中はまだ、原動力がないみたいだな」
IllLowも後から近づいた。ガンスがちょっと睨みつけながらも、渋々言葉をこぼす。
「っせぇよ、四足歩行のバランスを取るだけのバネの部品がねえんだよ。どこを探っても、現時点のロボット実装モンの部品ばかりだ」
ガンスが、見たことない大きめのクランチを持っては、四足歩行のロボットに近づく。後ろ足の付け根らへんを分解してみせようとしたが、
「オレは見えている。司令官も、同様のゴーグルは所持している」
「これが設計図だよねー、見せてもらうよ」
「あ、!?ちょっ!!勝手に漁るんじゃ・・・!!!」
IllLowとインサイトは並んで、ロボットを眺める。
「・・・確かに、この巨体を持ち上げるだけのバネを実現しようとしたら」
「市販の部品やさんでは、手に入らないでしょう」
「んなのオイラが一番!!!調べ尽くして判ったことだっつの!!!!」
ガンスは地団駄した。インサイトが振り向く。面白いくらい目デカに見えるゴーグルをしている。ハスキーがくすっと笑う。
「既存のものがないのなら、作るしかないんじゃない?」
「だから!!!その資金面はあんたらのせいで破滅したんだよ!!!」
キレッキレである。
「どう?リーダー」
インサイトが振り向いて、ずっと黙って周りを見つめているモウニングに呼びかける。
「使えそうじゃない?内職からさせてみる?」
「・・・ふむ、」
モウニングは大人しくガンスに近づき、紙を差し出した。それは、個人情報を書き込む枠で敷き詰められており、裏には注意事項も書いてあった。
「資金源を、本気で取りに行くのなら。我々とチームで働く気はないか?」
「は?!」
「我々はここの街にあと2日程度、滞在する。決心がついたなら、それを輸送するか、我々の元にもう一度来い」
モウニングはそれだけ言い残し、撤収するぞと言う。全員が動き出す。
「ま、てよ!」
ガンスは慌てて引き留めようとした。
「なんでオイラを!?あんたらに負けた存在だぜ!??」
「いやぁー、ちょうど欲しかったんだよね」
インサイトが笑いながら振り向き、言う。
「ハードに詳しくて、クリエイター向きで、エンジニアのオタク」
続いてモウニングも話に混じった。
「?負けとはよく言ったものだ。あの空を飛ぶ兵器は、今までの仕事で見たことのない武器だ。私は、あれをぜひ使いたい」
「」
ガンスは、大物からの大好評に絶句している。
「もし、貴様のその能力が他の勢力にいくのなら・・・そうだな。その時は、」
車庫を出る手前、言いはなつ。
「殺すかもな」
「・・・!?」
周囲すらまだ残暑のようなうだる暑さがあるはずが、その場だけ凍るような寒さに感じたガンス。
「・・・あ、あの!!」
ガンスは声を出して呼び止めた。S.KILLER全員が足を止めて振り向く。その眺めは、今までの憧れていたアニメのヒーローのように、勇ましく凛々しい姿によく似ていた。
「オイラ、まだ自分が未完成な部分を自分が一番理解してて・・・でも、そんな成長段階のオイラでも、良いっすか?!」
「ああ、もちろんだ。配属はハスキーの下直属、実戦の訓練はIllLowに配属させよう」
「は、・・・」「ぶっはははは!いつもの気前の良い返事はどうした!!wwwww」
ハスキーが声を上げて笑った。IllLowが初めて返事をやめた。
「・・・」
「IllLow?」
「・・・ラジャー」
IllLowの頭には、密かにスパルタ教育のカリキュラムがごりごり考えられていったのだった。
「はあ!?俺この人苦手っす!!」
「奇遇だな、俺も貴様が食えんと思っていた」
「おめえのそのスコープアイの通用しねえメカ、ぜってぇー作ってやっからな!!!?」
気前よく、指さしでIllLowを挑発するガンス。
「・・・楽しみだな」
IllLowは余裕の表情で、そう返したのだった。
西パラリア・東パラリア平和国。ここは、様々な亜種たちが共存しうることのできる、土地最大の国。その多文化、多種多様の種族をそれぞれ土地ごとに監視を古い歴史を持つ貴族が行い、状況を各自が管理・情報共有を行って統治が行われている。ここ太陽のマチは、その古い歴史を持つ一族の貴族が、第六監事として君臨している。
「ようこそ。はるばる遠くのお国から、ご足労かけました」
暖かな太陽のように出迎えた、瓜二つの美貌を持つ男。足はモンスターの特色ある、大きな爪が露出している。背中から、3つの植物のような尻尾を優雅にゆらし、生えている棘をしまっている。
「・・・っ」
その美貌を持った別の男から受けた仕打ちを思い出してか、IllLowの背中に隠れる。
「・・・貴方が、あの男と・・・?」
穏やかに語られ、少し戸惑いながらも会釈する。
「・・・本当に、申し訳なかった」
「え、いいえ!貴方本人では、ないのですし・・・」
「立ち話もなんですから、奥へお入りください。長旅を癒やすにもってこいのケーキをご用意しましょう」
「ケーキっ!」
キャビットはふわふわした尻尾をただふりふり振り回した。このリアクションに流石の一国の皇子もほがらに笑った。
「良かった。お口に合うかわかりませんが、シェフ自慢のパッションケーキです」
「あーっ!知ってるよ!あれでしょあれ!パラリアの街でよく取れるパッションフルーツを使ったケーキ!」
「キャビットの無神経がありがたいな・・・」
ハスキーは小声でそう漏らした。モウニングとインサイトはというと、あたりを見回した。装飾もそうだが、目を見張ったのは・・・。
「?ああ、すみません。人から貰い受けた素晴らしいものは、目の届く位置に晒していないと気がすまないものでして・・・」
皇子がそう弁解した。というのも、皇子が招いた部屋の壁際には金の刀、斧、銀色のフェンシング用の細い剣・・・素材が段違いの武器が骨董品のように並べてあったのだ。モウニングとインサイトは互いに弁解した。
「いいえ、この武器たちに実用性があるのか、気になった次第です」
「いいえ!この武器たちは金に換算するとどのくらいかな~って・・・」
「お兄ちゃん、はしたなすぎ」
「だって、金だよ!?金!シグレットに頼んで一番値上がりする金の相場のタイミングを割り出してもらって一発大金持ちだっててきるんだよ!!」
小声で熱く語るインサイト。サヴィーはもう、といった表情でため息をついた。そのやりとりを見てはすがすがしく大笑いをする皇子。
「あっはっは!いいえ、私も同じことを考えてはいたのですよ?・・・モノにお金をかけていただいてはいますが、私は市民にお金を還元したいのです。もし、なんらかの影響で市場が傾いた時は、このさまざまな貰い物をお金に替えて、投資をする気持ちですから」
「あ、そ、そうだったんですか?」
「その時は、是非高値で買い取ってくださいね?」
皇子はにっこり笑って答えると。
「IllLow、シグレット、値段決めといて」
ミニノートパソコンを出したかと思うと、IllLowに呼びかけてシグレットと対話できるモバイルを手渡した。ハスキーが腹を抱えた。
「おいおいインサイト!?www」
「こんないい加工出来る商品ないんだから!!出来るだけいい値段、それこそ潤沢な資金を兼ね備えている、はずのS.KILLERの名に恥じない値段設定で!!」
『過去三年間の経営推移のデータベースを参考にして、算出します』
「俺はどこまでが純正なのか、不純物の混合具合を見定めておこう。その数値をシグレットに報告する」
「あの俺の一言でそこまでわかっちゃう!えらいぞ君たち!!」
「はっははは!本当に、熱が入るところが面白い方々だ!あなた方に知り合えて良かった!」
皇子はそのミニノートパソコンを取り出したインサイト、その隣でただ作業を眺めているモウニングの真ん前に位置するソファに座った。その隣にはのんきにケーキを食べているキャビット。
「・・・今回の依頼は、それだけの話ではないでしょう」
「ええ、もちろん・・・モウニングさん」
皇子の顔色が、少し曇り始めた。
「”パラリラ亜種根絶計画”、というものをご存知でしょうか?」
「ああ」
「あしゅ、ぼくめつ?」
キャビットが首をかしげている。サヴィーは、えっ?という顔をした。IllLowとシグレットは壁際の品定めで席を外しているため、話はインサイトが手元のパソコンを操作しながらすすめた。
「”亜種根絶計画”・・・かつてのパラリア諸島は、3つの国に別れていた。ヴェル・ロー連合国、ルゥルカ国、そしてパラリア。その時代は、亜種達をまがい物だと差別する人たちが普通の感覚で、中でもヴェル・ロー連合国が亜種達を撲滅するという計画を国として定めて、亜種達を殺していった歴史があるんだよ」
「あっ!歴史の授業ででたかも!」
「二年生の範囲ですよ?キャビットさん・・・」
サヴィーが小声で話した。はっとした顔をして、耳を逆立てた。
「それは教科書にのるくらい古い法定だ。およそ300年前の話になる。現代はその国自体消滅している。我々の故郷レッドグランテス共和国、ハーバカンス連合国、そして西パラリア、東パラリア平和国が現在ある国だ」
モウニングがそう返事する。皇子はうなずいた。
「ええ。その時代、その国に真っ向から抵抗し、亜種たちを守ろうとした存在、・・・情形族の末裔の話ですが、」
「あ、一人は知り合いの事務所で見かけています。彼以外には知らないのですが、どうかしました?」
「話が早いですね、インサイトさん。・・・これは、まだ国外に出していない話なのですが、」
皇子はあたりをキョロキョロ見回す。ここにいる召使いにも言えないネタらしい。
「その、根絶計画をやめさせようとした、・・・のが、実は全ての住民を薙ぎ払おうとしたその情形族と、同じ能力を受け持つ人物がいるみたいなのです」
「!?」「えっ、それ」
「なんでー?その人って、たしか根絶計画をキッカケとしたパラリア全面戦争を終わらせた名ヒーローだったじゃん!」
「キャビットさん!」
「あ、ボクの知識間違ってた?」
「いいえ!言葉遣いの方です!」
サヴィーがあたふたと注意をした。
「ひっ!」
キャビットは、背中に感じる気配を察知した。IllLowが全ての品の情報を掴み終えたところらしく、席に戻ってきたみたいだ。手元には、オニオンスプレー。
「あ、気になさらないでください。彼は見たところ、ウサギと猫の混合種・・・亜種ですよね?亜種はもともと、変わり者が多いのですから。そこは私がちゃんと受け入れていますよ」
ほがからな笑顔が毒のように甘い。サヴィーはほっとして頭を下げた。IllLowがキャビットの頭を後ろから手で押してお辞儀をさせる。
「キャビット、だからといって甘えたばかりでは話にならないぞ」
「いーだっ!IllLowちゃん嫌い!」
「ふふっ。キャビットさんのこと、可愛がってあげてくださいね?」
「もちろんです。彼の亜種であるがゆえの能力は、現場で大活躍しています」
「そうでしたか」
皇子がゆるい。キャビットが改まった態度を努力しない原因はそこにありそうだ。そして本題に入らない。
「・・・と、話がそれましたね。教科書上では、その情形族・・・エホーマ・ロウルはヒーローとして紹介されています。国立グリートファン大学、国際科、歴史科専攻のテスト必須暗記人物ナンバーワンです」
「先生もおっしゃっていました。レッドグランテス共和国の超有名国立大学ですね」
「それは表向きの情報です。我々の所持する古い書物は、その300年前の当時がリアルに書かれているものがたんまり残っています。その書籍を抜粋したものが、こちらです」
皇子の手元から出てきたものは、コピーされた書物の7ページ分。所々滲んでいたり、取り消し線があったり、改行が疎らだったりとしている。誰かの日誌か、メモノートのようだ。
「このコピー、教科書で見たことある~」
キャビットが指をさしていった。皇子はうなずいた。
「そうです。このページは、実際の300年前に亜種根絶計画を率先して動かしてた、軍人の日誌です。・・・この文字の解読は数年で出来たのですが、その内容は凄まじいものです」
今度は、現代の見慣れた文字で打ち出された紙を渡された。二枚セットで、人数分用意されている。そこには、こう記されていた。
────8月12日。ロウルの死は、全住民を助けるためのものであった。彼女が生きさえしていれば、私はやり直すことができた。だが、それはこの国の死を意味している。彼女は受け入れたのだ。この戦争の”痛み”を返す場所がないことを。その”痛み”を全て自分自身が受け入れることを。
私はこの国を一度立ち去った。彼女の亡骸から見つけた唯一の「一欠片」を握りしめて、名医のいる国へ赴いた。完全復活には体が必要だと言われ、一時は断念した。その欠片を小瓶に入れ、いつも持ち歩いては、・・・結局、帰る以外に道はないと悟った。
10月7日。帰ってからは、戦争の痛みを癒やすかのように、国の開拓はすさまじい勢いで進んでいった。私にはそれは、彼女の痛みを忘れるかのように見えて、仕方がなかった。その開拓を喜んでいた反面、忘れ去られてしまう怒りを覚えずにはいられなかったのだ。
3月5日。ない。欠片が見当たらない。盗まれてしまったのか。アレがなんなのか判って盗まれていたとするならば、とんでもない自体に陥ってしまう。もし、あの英雄が復活してしまったら・・・。彼女の記憶が蘇ってしまったとして、彼女の気持ちが触れてしまったら・・・。想像するだけで悪寒が走る。でも、この事実を誰に伝えよう?
6月2日。彼女の瓜二つの存在を見つけた。だが、黒のサーカスに私の存在がバレてしまった。彼は私を見て一度は首をかしげたが、もう思い出せないでいるみたいだ。その事実が判っただけで上出来だ。だが私は死ぬ。殺される。ここで記した日誌を、どうかパラリアを統べる人物に届けてほしい。彼が生きていたら、どうか生かしておかないでほしい。────
「・・・これが、300年前の話?」
「正確にいいますと、この日誌自体の推定される更新日時は、およそ260年前です」
「だとするならば、この記述者は若手の軍人のように伺える。黒のサーカス、か」
『検索、かかりました。黒のサーカスは、世界をまたぐ国内最大のサーカス団です。現在の加盟人数は760人。稽古段階の12歳から、ベテランは80代とまで幅広い年齢、国の人たちが集まっています。現在のサーカス団をとりまとめているリーダーは、DimDollという・・・マリオネット?』
「え!?何それこわい!www」
『器を操り人形とする、魂霊種ですね。・・・?あ、待ってください!・・・跡取りの情報はあまり詳しくはないのですけれど・・・情形族みたいです』
「!?」
一同の顔がこわばった。皇子は加えて説明した。
「あなた方の顔見知りから、詳しいことは教わっているとは思いますが・・・。彼らは”コア”が命です。その”コア”が器を体と認識してしまえば、または体を生成する力があれば・・・死ぬことはありません」
「永遠と生き続ける、ということか」
「そうです。例えば、生まれたばかりの子供に、その”コア”を預けてしまえば、」
「まるで生まれ変わりの術だな」
「記憶が戻っていないにしろ、その可能性は十分にありえるでしょう。この文章をまるまる信じることが正しいのかはわかりませんが・・・裏の歴史上では、この情形族はパラリア全土の住民を滅ぼす力を、その時蓄えられていたそうです」
「!?」
「その能力を使わずに死を選んだ・・・”ロウルの死は、全住民を助けるためのものであった。”とするならば、彼女が生きているということは・・・」
「・・・このパラリア全土の、死を意味する。と?」
「・・・皇子さんよぉ、」
ハスキーは少し、拍子抜けをしているようだった。
「本当にこの文をまるまる信じろって言うんすか?」
「ちょっとハスキー!」
「モウニング、俺はこの案件は肯定しかねるぜ。決定的な証言がないし、その文を書いた本人もいねえ。”消された”のかもしれねえけどよ。その黒のサーカスが長い歴史があるからって、そこにいる情形族が本当にその・・・エホマっつー人物だったら、とっくに滅ぼしにかかってきてんじゃねえの?」
「・・・その考えも、私の中であります。だから、誰にも言えずに悩んでいたのです」
皇子は膝の上で手を手を絡め、その拳を額に当てた。
「・・・では、あなた方の知り合いである情形族に、このコピー文を是非見せてみてください。彼らは死なない命です。もし、この文を見て彼が何か知っていたら、そこからこの情報がデマか本当か、確かめてもらえませんか?・・・恥ずかしながら、我が国の住民には一人も情形族がいないのです」
「そうでしたか。ならば、情形族に面識のある我々が、情報の真相を確かめてみます」
「ありがとうございます!嘘であることを祈っています」
皇子はその場で手合わせをし、感謝を述べた。気前よくいいえ!と返事をするインサイト。
「あ、先程話しておられた、買取価格はこちらのようになりますね」
IllLowから手渡された、シグレットと対話できるモバイルの画面を見せてみた。皇子は目を細めてから、大きく見開いて驚いた。
「ええっ!?月額でこんなに・・・!?」
「最小6ヶ月で、一品ごとにこれだけの価格で買えそうです。いいよね?モウニング」
「却下だ」
「ええっ!?」
「その不測の事態においての経済の傾きは、我々の仕事にも完全に影響されないとは言い切れない。特に、レッドグランテス共和国はパラリア諸国との輸出入での関わりが非常に大きいのだ。食物以外でも」
「ちぇ~っ、せっかくの機会なのに・・・」
「その時が来たときには、またご相談させてください」
皇子はそれでも気前よく、笑顔でありがとうございましたと言ってくれた。モウニングに対し、IllLowは耳打ちをした。
(しかし、これほどの純正度が非常に高い、これだけの大きさの金銀はなかなか手に入ることはありません。買って寝かせて、また買い取ってもらっても、加工して売り出しても良いのですよ?)
「博打は好かん。それに、IllLow。グレイベアード皇子は私と同じ、地獄耳だ。彼の前では、耳打ちで重要事項を漏らさないように」
「・・・失礼しました」
皇子はまた驚いた顔で、そのやり取りを見ていた。
「おや?よくご存知ですね」
「キャビット、別の知り合いにも、地獄耳はいますから」
「ふふっ。私に知られたくない、大事なお話はお控えくださいね」
「ご忠告感謝いたします」
「皇子さま!ボクとどっちが地獄耳だと思う!?」
「う~ん、・・・猫の耳だと私は感じますね。キャビットさん」
「やった!」
キャビットは子供のように喜んだ。その姿にあのおちゃらけ担当のハスキーでさえもヒヤヒヤしていた。皇子は立ち上がり、召使いを呼びつけた。
「今日ははるばる、遠方からお越しいただきました。招待状で書かせていただいた通り、今回の旅行の日程による観光地のホテル代、交通料はこちらで支払います。是非、あなた方のお客様になりたい。私だけでギャングたちを束ねるためにも、・・・それと、」
皇子の目がぎらりと光りだした。
「あなた方が、私を選んでいただけるように」
「・・・パラリアの派閥争いに、我々は関与いたしません。依頼が我々にとって有益なのかによって、S.KILLERは敵も味方もすぐにシフトします」
「・・・じゃあ、良い客人として、ご贔屓にさせていただきますよ」
「ええ。お互い、摩擦のない範囲で」
皇子とモウニングは、握手を交わした。皇子は相変わらず、笑顔だった。
[パラリア王国 -太陽のマチ- 港町観光スポット]
たどり着いた観光地は、あの列車から一望できた白い砂浜と、きれいな建物が眺められる場所。名前は現地語を直訳して、「夕日が最高にキレイな場所」という。
「不思議な人・・・」
サヴィーは、観光地の珍しいフルーツを食い入るように見ているハスキーや、写真をとってシグレットに解析してもらっているインサイトをぼうっと眺めながらつぶやいた。ちょうど荷物番をしているIllLowがジュースを持ってきては、手渡した。昼が少し過ぎ、暑い太陽が少しずつ傾き始めている頃。
「司令官たちは、まだ物色をしているのか」
「そうですね、さっきから何が料理に適しているのか、シグレットちゃんに質問攻め。・・・彼女はプログラムですけど、見ていて大変そうです」
「彼女はコンピューターだ。疲れる、ということはないだろう。ハード的に壊れるか、ウイルスに汚染されるかだ」
ズバッと心無い、ただ正しいことを端的に述べる。サヴィーは少し顔を膨らませた。
「そうですけど・・・」
「・・・さっきの、不思議な人というのは、あの皇子の件か?」
「・・・はい。すごく余裕があって、いつもニコニコしていて・・・とても、魂獣族の第三の目を体のあちこちに埋めこまれて、苦しい思いをしてきた人に見えませんでした」
「亜種はなんらかの形で自然に生まれた者もいれば、その時代の卑劣な動物交配実験によって生成された、あるいは遺伝子を人為的に破壊されて生まれた者もいるらしい」
「・・・パラリアの人たちの中で、それも差別対象だったりしたのでしょうか」
「その時代はあったと聞いている。それが消息に向かったのも、たった50年前だ。現代で生きている年配の人たちは、そのせめぎ合いの中で生まれ、育ち、卑劣なアイデンティティを持って今までやってこられたと思う」
サヴィーは悲しそうな顔をしている。IllLowはその顔を横からじっと見ていた。
「・・・ああ、そうなのですね」
「?」
「実は私、教科書以外の歴史書で、過去の人工ピラミッドの比較を探っていたときがあったのです。・・・パラリアの国は、完全なピラミッドのまま、過去も今も変わっていないみたいです。逆に、近年のほうが、年配の方の人工が減っているらしいです」
「・・・おそらく、長くはなかったのだろう。差別と、壊された生態系の体による代償によって」
「・・・IllLowさんは、」
急に、不安になってきちゃった。
「hi0さんに変なことをされて、生まれてきてはいないですよね?」
「!?」
サヴィーは後悔した。
「・・・それは大丈夫だ。博士は無茶をする人だが、その無茶を商品・・・サヴィーは好きな言葉ではないかもしれないが・・・俺や師匠、という商品に対しては、丁寧な扱いをしてくれている。クローン兵隊もそうだ。たとえコピーした命だからといって、粗雑な扱い方をすることはなかった」
「・・・良かった」
サヴィーは笑って、彼に背を向けて、お兄ちゃんたちのところに行ってきます!とだけ言い、離れた。
「・・・IllLowさん、」
彼が、初めて・・・答えるときに戸惑っていた。あの顔は、不意、って感じだった。
「うそつきっ」
いつか、ちゃんと彼のことを教えてください、神様。