『続いての特ダネ!なんと!グリーンクラッシュ都市、軍事担当ニックローマ大臣が、ギャングとのコネクトがあった?!』『なんですとう?』『ここ3日前、軍事経営を行っていたらしい建物がなんらかの原因で紛争、その場所に警察が行きます!そしたらギャングの遺体やらなんやら、しかも彼らは、軍人に肩入れしていた!』『紛争を起こしたのは、ギャングではなく?』『ですです!同じバッチをつけて、同じ武器を持ち歩いていたとの目撃情報が・・・』
どこのチャンネルをまわしてもそれで持ちきり。S.KILLER本社の業務室では、ソファの上でイビキをかいて寝る人、パソコンでデータを入力する人、そして別のデスクにて新聞を読む人。
「ハスキー、そろそろ起きなよ」
パソコンに向かって作業をしている男が、ソファで大の字に寝ている男に呼び掛けた。
「うむ、新聞も情報が似かよっている」
「マスコミなんて、情報操作か加工が得意だよ。ネット記事が一番生々しいし」
「規制という概念が、かなり緩和されている世界だからな」
新聞をたたみ、立ち上がってパソコンの方にいる男に近づいた。
「やっ、ちょっと・・・っ」
パソコンの男が座っている椅子をくるりと回し、手をかける部分を両手でがっちり掴んだ。
「も、モウニングっ・・・ハスキーがいるってば」
「ハスキーは自分のイビキで聞こえまい。構わん、」
モウニングと呼ばれた男は、そのまま椅子に座りっぱなしのインサイトにキスをかわした。
「させるかよ」
不機嫌そうにむくりと起きた。それから上着をばたばたする。
「あつくね?」
「あんたがね」
インサイトはそう言った。モウニングはインサイトから離れ、ハスキーのとなりにずしりと座った。
「IllLowとサヴィーは、今週から復帰予定だ」
「さてと、次の案件いきましょうか。今度の大規模な長期戦見込の依頼案件は・・・」
インサイトがテレビのチャンネルをリモコンで操作する。画面の入力切り替えが行われ、インサイトのパソコン画面が写された。それをハスキーとモウニングが見届ける。
「ギャングとは離れるけど、前回ルナが車をおじゃんにしたあの件でね、」
「あっれはくそ面白かった」
「請求書をまだ送付していなかった」
「仕事の報酬から差額すりゃあいいだろ」
モウニングとハスキーの会話がちらと始まり、おわる。インサイトが続ける。
「それのところに居合わせていた白衣の人たち、いたでしょ?その彼らの後輩さんが、先日連絡をくれました」
「あの顔面をくそ腹のたつ軍人に殴られていたやつか?」
「そう。彼らは始末されるわけでもなく、またヤバい施設で働かされているらしい」
「依頼の内容は?」
「グマ鳥の殺害」
写真がぱっとでてくる。それは紫や鴇色の、艶やかな羽を背負っている少女の写真だった。
「ぐ、ま?」
ハスキーが聞き返す。すると違う写真に移った。論文と、図鑑のようなレイアウトの書類だ。
「グマ鳥は、絶滅に意図的に追い込まれた亜種。その理由は、彼らのもつ毒が原因」
「死因値数は?」
「彼らの羽ばたくときの空気を、成人男性がふた呼吸すると、心拍停止」
「うわっ」
「彼らの体に流れる血は有毒性が異常に高く、皮膚にかかれば瞬く間に腐敗を始める。一滴でも2リットルのペットボトルに入っていれば、コップ半くらいで大人は3分で殺せる」
「とんでもない有毒だな」
「hi0さんが古い亜種の書物をあさって、持ってきてくれたよ」
「そのぐま鳥が、今彼らの仕事場で生きていると?」
「そう。そして、このグマ鳥が生きているとまずいことが一点」
インサイトはまた別の写真をあげた。
「グリーンクラッシュ都市が冷戦を続けているこの国、レッドグランテス共和国に、このグマ鳥の毒を空気中から散布するとの計画を企てられているらしい」
「やべえなそれ!つかどんだけグリーンクラッシュ都市は軍人が頭おかしいんだよwwww」
「おそらく、我々があのとき生け捕りし損ねた小僧の影響だろう」
「あー、あの性根がとことん腐ってそうなガキンチョか」
「その子は都市をここまで発展させた元大統領の息子さんだったらしいよ。上下関係のしがらみでできているのは仕方ないね」
インサイトが椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。入れ替わりにキャビットがはいってきた。
「インサイトさんおはようございまーす」
「おはよう、キャビット。あ!自分のお菓子しか持ってきてなかったの?」
「はい!」
元気よく返事された。インサイトは苦笑いした。
「じゃあ僕はお茶を汲んでくるから、資料漁っておいてね。次の案件の話だから」
「おおっ!」
キャビットはインサイトの机にある紙をパラパラしはじめた。
「多分黄色の付箋がはってあるページだぜ」
ハスキーが顔だけをキャビットに向けて、助言した。キャビットのにこにこしている目が突然かっと見開かれた。
「あ、」
「どした?」
「・・・この子、生きてたんだ」
モウニングとハスキーは、耳を疑った。キャビットは続けて聞き返す。
「この子、まだ生きてるの?」
「今回の仕事はそのそいつの抹殺だぜ」
「・・・食べなくちゃ、」
キャビットの耳が膨れ上がり、目は血走って辺りを見回す。
「食べなくちゃ、」
「おい、キャビット?」
「僕が彼女を食べるんだ!!」
キャビットが突然、ハスキーとモウニングの座っているソファに飛びかかった。二人は余裕で避けるが、ソファが真っ二つだった。尻尾の毛を逆立て、飛びかかる体勢になっている。
「彼女は、僕のものだっ!!!」
「なに訳のわからねえこと言ってんだよ?」
ハスキーが落ち着きつつも、手持ちの武器がないことを苦笑いした。モウニングは腰に常に常備している短剣を抜き出し、裏手に握って構えた。
「反逆者と見なすぞ、キャビット」
「逆らうなら容赦しねーぜ?」
キャビットの耳には、二人の声が届いていないようだ。また飛びかかった。ハスキーは自身の腕に、上着を巻き付け、盾の代わりに差し出した。予想通り、キャビットが噛みついてきた。見た目とは裏腹のあごの力だった。
「ぐっ・・・!」
ハスキーの差し出した腕から血がにじみ出る。モウニングが縄でわっかを作り、それを投げつけた。
「ぎっ・・・!!」
言葉もどこかに消えている。どうしたものか。そのままハスキーから離させようとするが、食いついて離れない。蹄が地面を削っている。ハスキーは舌打ちした。
「ああん?!!こっちはてめえのご事情なんざしらねえんだよ!!」
ハスキーの渾身の蹴りがキャビットの腹に食い込んだ。あごの力が緩み、モウニングが縄を引っ張ればキャビットは縄の首輪で誘導された。今度はモウニングに飛びかかろうとする。
「させるかよボケ!!」
ハスキーもわっかつきの縄をぶん投げる。頭にすっぽり入っていった。二人が間反対にいるため、デッドロック状態となるキャビット。それでも口からは牙を生やして、爪もたてている。縄を切ろうともがいているが、残念ながらただの縄ではなかった。
「正気に戻らないのなら」
「戻らねえなら用はねえな」
二人が同じ力で、・・・ハスキーは遠慮しているのだが、確実に縄が絞められてゆく。
「ぐあっ・・・あ、い、も、ば、ちゃんっ」
かすかに、キャビットの声が聞こえた。そのタイミングで、部屋のドアが開く。病み上がりの二人だ。サヴィーは口を抑えて悲鳴をあげ、IllLowはぎょっとした顔で二人を見ている。
「きゃ、キャビットさんっ・・・!!」
「隊長、師匠。なぜキャビットを締め上げているのです!」
「飛びかかってきたんだぜ!?」
「なら、」
IllLowが何かのスプレーを持っては、キャビットの鼻めがけて、至近距離で放った。
「ぷぇっ!??」
いつもの間抜けな声でとてつもなく嫌がった。縄の力を二人が緩めれば、鼻をせわしく擦って顔を覆う。追い討ちをかけるように、さらにスプレーをかけた。
「あびゃあ!!!」
「なんだあのスプレー?」
「キャビットさん用、対獣しつけようスプレーですって・・・」
「ほう、」
「IllLowさん、訓練の一貫で動物トレーナーの資格とってらしたみたいで。大型の化け物とか、」
「今度はIllLowトレーナー呼ぶとするか」
キャビットがしばらくうずくまっては、スプレーを避けるため大きな尻尾で顔を覆っている。
「ふええっ・・・涙止まんないよう。染みる、玉ねぎっ」
ハスキーとモウニングはぎょっとする。
「なんと、そんなスプレーがあるとは」
「そいつは大の大人でも嫌がるわー」
と、キャビットに何時もの落ち着きが戻ってきた。
「あれ、なんで僕・・・?」
「なんでじゃねーよこれ!みろよ!!」
ハスキーは自分のことを噛まれた腕を差し出す。キャビットが青ざめ、わなわな震えだした。
「ごめんなさーい!怒るのやだ!怒っちゃやだー!」
IllLowがスプレーを構えるポーズをすると、更に縮こまった。面白いと逆にハスキーはくすっと笑った。インサイトがそのタイミングで、紅茶とクッキーを装ったお盆を持っては現れた。
「な、何があったの?!ソファまっぷたつじゃない!!」
「インサイトー!!」
キャビットがするりと四人の足をかいくぐってはインサイトにすり寄った。これではハスキーとモウニングが苛めていた、とでも言わんばかりの構造だ。現に二人は縄をまだもっている。IllLowは早かった、一番効果のあったスプレーを隠している。
「ちょっと!?二人ともなにかしたんじゃないでしょうね!」
「誤解だインサイト」「ソファまっぷたつもそいつがやったことだ!!」
「で、確認できた?」
全員集合。壊れたソファのため、隣の部屋にある一人がけのソファを三つくらい持ってきた。モウニングとハスキーは、既存のデスクワークに付属している椅子に腰かけ、ソファにはIllLowとサヴィー。インサイトはディスプレイが写している壁の近くにいき、指示棒で壁に写しているものを説明しようとしている。
「さっきはごめんなさい。ぼくがてんやわんやしちゃって、あの子を」
IllLowは見せびらかすようにスプレーをふった。びくっと尻尾の毛を逆立てるキャビット。なんだか飼い主に怯える犬のようだ。
「グマ鳥の子の、知り合いなの?」
「知り合い。というか、お友だち」
「!」
「でも、殺すことは別にだめって訳じゃない。出来れば、僕に殺させてほしい」
「恨んでんのか?」
ハスキーがナチュラルに聴いた。しばらく間をとって、キャビットは返事した。
「約束ごと、なんだ」
「・・・」
「ここの侵入経路が決まったら、誰があの部屋に当たるのかも自ずと決まるけどね。自分がその始末役じゃなくても、ぐずらない。いいね?」
こくりと頷くキャビット。インサイトにはなぜか素直だ。モウニングとハスキーは呟く。
「野生の本能だな」「母親を見抜く力はあるようだな」「はいそこの二人聞こえてるよー」
侵入経路の割り出しのための地図がでてくる。苦い顔をするハスキー。
「なんだこりゃ、グマ鳥は一頭じゃねえってのかよ?」
地図の所々に、青い点がぽつぽつついている。
「彼らの情報網から洗い出した、グマ鳥が生存している部屋の割り当て」
「つまり外れもあるってんだな?」
「外れには大型の野獣もいるらしい」
「んじゃあ大活躍だなIllLow!!」
「手なずけたら持ち帰らなければならないので、遠慮しておきます」
サヴィーはくすっと笑った。インサイトが話を元に戻す。
「じゃ、彼らのそばにいても、血を浴びても耐えるだけのスーツとマスクの生成をロジテックスに依頼しなくちゃね。どうせもう着手して、高額で買わせてくるだろうから」
「お得意様だってのに逆に金が跳ね上がってんのなー」
「脅しますか?」
「ちょwww そういう話じゃねえって!」
話はとんとん拍子で続いていった。キャビットはいつもの目を閉じたにこにこ笑顔が失せ、目を開いたまま資料を手元で広げては、食い入るように見つめていた。その姿を、サヴィーはずっとみていた。
「はーい、話は終了。今回の仕事にルナとミントくんは巻き込まないことにします。あの二人にはちょっときついかもしれないからね」
「自分等の仕事よりもかなり歯ごたえのある、下手すりゃ即死ルートの案件だもんな」
「毒素の分析はあの医者らで問題ないか?」
「毒素に改良が加えられていないか、hi0がどうにか内部の彼らと連絡を取り合おうとしているところだってさ。その情報の接合性がとれて、かつ武器の開発に着手できたら連絡を貰うことにしているよ」
「バックに科学者がいるのはありがてえな、ちょっと頭がイカれてるけどな」
「これからhi0の元に行くんだけど、IllLow、」
「はい」
「あんたもついてきてほしい」
「行きます」
IllLowがスプレーをサヴィーに手渡した。
「またキャビットがおかしくなったら、これを使うんだ。遠慮はするな」
「あ、はいっ!」
「ひっどーい!サヴィーちゃんには手出ししないし!」
キャビットがふてくされた。手足をジタバタしてる。かわいいなと感じ、くすりと笑うサヴィー。
「では、その兵器が出来次第、我々は鋭気を養うということで変わりないな?」
「そういうこと!別の簡易的な仕事の片付けをしてください。では解散!朝の時間帯だけは、何時でも会議に参加できるように、あけておいてください」
サヴィーは時計をちらとみた。時刻は朝の10時を回っている。ふぅとため息をついた。それを見過ごさなかったIllLow。
「すまないが、別の誰かに送ってもらえないか?」
「私がいこう」
モウニングが立ち上がる。サヴィーも立ち上がって挨拶をする。
「よろしくお願いします」
それぞれが方向の違うほうへ向かった。
(IllLowとインサイト)
施設前。受け付けにS.KILLERと証明する発行券をセンサーに通せば、前の扉が開く。車に乗り、案内図に従って、一般客用の駐車場に止まる。それから裏口の方へ向かえば。
「はぁーい、いらっしゃい」
陽気だが顔は不機嫌のhi0が、自動ドアから顔を出す。
「さっそくだけど、狩るよ」
グマ鳥の写真と、その他資料を手渡す。hi0はしばらく黙ってはその資料をみる。専門的な用語、数学とはいえない化学式や生物学における数値。さまざまな情報が入っているその紙切れを全て理解できるのは、このバイオロジテックス会社では唯一の人財であろう。hi0はひととおり目を通して、ほうっとため息をついた。
「また不眠不休の手作業になるね?」
インサイトがそう笑った。図星なのか、舌打ちをするhi0。だが余裕の態度だ。
「ん~♪まあ、間違ってないけどね!ただこの生き物の身体中にある毒素を無効化する薬の開発は、やってるけどね」
インサイトとIllLowは顔を見合わせた。IllLowが話を切り出す。
「いつから?」
「立ち話もなんだから、おいでよ。その研究部門のラボに案内してやるよ」
hi0はふらふらと歩いては奥へ誘導した。が、その間IllLowにちょいちょいと指で誘った。はてなと思いつつ、hi0の隣へ行く。
「サヴィーちゃんは?」
「今日は俺が指名されて、付き添いになりました」
「・・・ふぅん、そっか」
hi0はそれだけしか言わなかった。
「・・・」
IllLowはおおよそ予想がついていた。インサイトの探りだろうと、hi0は言いたかったのだろう。
「んで、もしその薬が開発できたら。何も種族を根絶やしにしなくても良いだろうと、こういう発想さ」
hi0はボリューム大きめに、後ろを向きつつ二人に話した。廊下のあたりにある監視カメラがS.KILLERの二人を映しては、青い光でちかちかする。
「メンテナンス以外で来るのはあんまりないかな~?IllLowは」
「ええ、」
「まあ、ここの番犬を勤めてた時期もあったから、説明はいいか」
「カードを認証された来客なのか、照合しているのですよね」
「ご名答」
廊下を歩くと、番号が扉に掛かれている部屋についた。そこでhi0が事務員用のカードを通した。ドアがスライドする。
「!」
ガラスで密封されたカプセルに、美しい羽を持つ鳥がいた。そのカプセルに付属しているモニターを見たり、キーボードを叩いたりする白衣の人が三名ほどいる。
「おつかれちゃーん」
hi0の声を聞くと、手をとめてしゃんと立っては振り返ってくる人。
「調子はどーお?」
「芳しくありませんね・・・」
従業員は、全員ガスマスクをしている。ガラスの部屋に入るためにも、二重に扉が施されている。従業員の一人が食べ物をよそった小皿を持っては最初の扉に入る。IllLowが呟いた。
「コンサートホールと同じみたいですね」
「出るときはそこで空気の清浄と衣服のブラッシングをしてから出てきてもらうよ」
「飲食製造のクリーンルームみたいだね」
hi0とインサイトも話しかけてくる。
「空気だけでも強い毒素をもっている。念にはねんを、だね」
ガラスケースの中は至って空っぽだが、おくの方にドアがある。その扉の窓から部屋があることが伺える。
「別に監禁って訳じゃないんだね」
インサイトがそう言いつつ、ガラスケースに近づいた。
「当然だよー、ここだって動物の保護団体に加入、さ・せ・ら・れ・た、んだからね?偵察が来るんだよ。唐突にね」
「グマ鳥自体、ストレスで毒素が強まると文献にもありましたからね」
「さっすがIllLowくん!よく調べてるね~♪」
hi0は従業員にまた訪ねる。
「薬は?」
「歯が立ちませんね。服用すればするほど、彼女は副作用で弱まるばかりです。今週はもう、薬の投与は無理でしょう」
hi0へ、資料が手渡される。それを狐のような目で眺めている。
「体重おちてるね、特に羽」
「飛んでいませんからね」
インサイトはそれを聞いて、唐突にミントを思い浮かべる。それを重ね合わせて、悲しくなった。
「外には出せないんだよね」
「始末対象だと言い張っているのはどこの団体もだよ。飛ばせば仕留められる。彼女にはそう言って、飛べなくなることも了承している」
「・・・そう、」
「でも今日は元気そうだ。珍しい客人で、ちょっと舞い上がってる」
確かに、ガラスの壁に手をぴったりあわせて、IllLowとインサイトをじっとり見つめている。特にIllLow。
「一目惚れだね、」「ご冗談を」
羽を開いてゆらゆら羽ばたかせている。笑顔だ。
「メスが求愛行動するなんて、ない事例だね★」「・・・」
IllLowは黙って見返した。威嚇に見えたのか、しんなりして奥の部屋に戻った。インサイトがくすくす笑っている。
「で、毒素をガードするガスマスクとスーツは既に出来てるよ。これだけお世話してるんだ、造ってない訳がない」
別の部屋に案内される。5つ、並んでマスクとスーツが飾られていた。インサイトが首をかしげた。
「ん?初代メンバー3人と、新入り3人だよ?」
「キャビットには必要ないよ。あいつの体には、こいつらの持っている毒素の耐性が、若干ついていた」
耳を疑った。IllLowはすかさず聞いた。
「彼は、グマ鳥の中に知り合いがいるかのような素振りがありました。この件について、何か知っていませんか?」
hi0がゆっくり口をあけた。
(モウニングとサヴィー)
「・・・やけにおとなしいな」
運転席で運転をしているモウニングが話す。それは助手席に座っているサヴィーに言ってはいない。
「反省してるのか、ぼやっとしているのか」
「半々です」
後ろで自身の尻尾を大事そうに抱えて丸まっている獣が答えた。
「本当に、キャビットくんが襲うだなんて・・・そんな風にはとても見えませんでした」
サヴィーが話に入る。モウニングに対する恐怖は、仕事や打ち合わせの中で徐々に打ち解けていった。叱られることはあっても、怒鳴ったり皮肉を言うような人ではない。なんでダメなのか、ちゃんと教えてくれる。
「反逆者は容赦しないぞ。それが例えば操られていた、寝返ったとしてもな」
「でも、ルナさんには手をさしのべたじゃないですか?」
丸まっていた背中をしゃんとのばして、前側に話しかけるキャビット。
「貴方は冷血な人種じゃないのでしょ?」
「ないな。私はS.KILLERの意見を優先する。もしハスキーが私を止めなければ、私はルナを裁く」
「・・・あくまで、ルナさんは雇っていた人だから」
「その通り。活かすも棄てるも、我々のルールだ。それを判っていたハスキーだから、止めに入ったのだ」
「・・・キャビットさんは、メンバーですよ?」
「ルナの拘束を手助けしていたことを本人に聞かずともわかっている」
サヴィーは絶句した。キャビットは冷や汗が止まらなかった。車のなかでこの空気に笑いを入れられるメンツがいないため、二人は縮こまった。
「結果、奴を逃がすことは支障がなかった。だが今回のぐま鳥の始末で同じことは許されない。意味はわかるな?」
赤信号で止まる。キャビットは落ち着きながらも答えた。
「彼女たちは、逃がしたら死人が出るから。彼女たちがなにもしなくても、他人がばたばた倒れて往くから」
「そうだ。判っていてそれを破ることは、あの件限りにするように。いいな?」
青信号。進む。
「・・・はい、」
キャビットはいたって冷静に、返事した。
「・・・」
サヴィーはとても気になっていた。いつもふわふわした態度で、モウニングでも物怖じしなかった彼が、かなり大人しい。
「ついたぞ」
車が学校前に着く。サヴィーとキャビットは降り、お辞儀をした。
「ありがとうございます、」
モウニングがサヴィーにこう言った。
「頼んだぞ」
「えっ?あ、はい!」
判らなかったが、元気に返事した。車の窓がしまり、発進された。キャビットが肩をがっくしおとした。
「はぁ~、今回の仕事パスできないかなぁ~」
「訳アリなんですね。グマ鳥の、あの人と・・・」
キャビットが深呼吸をする。
「愛喪場ちゃん」
「あ、い・・・もば?」
「愛喪場ちゃんは、僕がモンスターギャングに拾われる前からの友達。いつも無口でぶっきらぼうで。でも毒素はずば抜けて最強のグマ鳥。誰も彼女を相手しないし、近づきもしなかった」
校内を歩く。それぞれの目的場は別々であるため、廊下で話を聴いていた。
「彼女が鳥の捕獲用網に絡まっていたのを偶然見つけたんだ。助けたのにお礼もなにも言わないで、羽の付け根に傷を負ったまま立ち去ろうとしたんだよ?酷い出逢いだったよー」
キャビットが静かに嬉しそうに話していた。サヴィーは、まるで自分を見ているような気分だった。
「でも僕はね、癖のある化け物だったんだ」
「くせ、ですか」
「月の引力って、あるでしょ?あれがもっとも強くなった夜は、お腹がとってもすくんだ。肉がほしくて、喉も乾いてたまらなくなる」
爪が少し生えた指で、胸部の少し上を指して言われた。
「女の・・・大好きになった人の肉を、求めるんだ」
「・・・っ!」
寒気をおこした。彼の目は黒い眼球に黄色の眼。その目が鋭く、サヴィーを見ていた。
「彼女の肩を一口、それだけで僕は泡を吹いて、身体中が痺れて動けなくなって、その場で硬直した。起き上がれなかった」
「・・・今まで、そうしてきたのですね?」
「今までは、食べちゃったから。未練もどうもこうもなく、慣れちゃったんだよ。自分が原因で、なくなるってこと」
「・・・」
「でも彼女はまだ生きている。僕の元を離れてとんで行ってしまったあの光景は、忘れられなかった。そのお陰かな、もうあのおかしな空腹に教われることもなくなって、今は月に影響されることもなくなったよ」
「彼女を食べたら、再発するのですか?」
「わからないな。食べたら僕は確実に死んでしまうからね。あ、どっちみち、終わるんだ」
キャビットがふっと笑った。
「良かった」
「おはようさん」
ここはバイオロジテックス株式会社。武器、生物兵器、殺しの技術に使われているモノを製造、販売する大手の総合医学研究所、兼総合武器専門店。武器は下請けもあるし、研究の分野では天才とも天災とも言えるお医者さんのお陰で、名が埋もれることはない。
だがその医者にも悩みはつかない。
「・・・なんだよ、僕の顔になにかついてるかい?」
「いやぁ、hi0さんがそばにいるなって思って」
「気持ち悪いからよそ向いてくんない?」
エレベータで移動中、鉢合わせで乗ってきた男にずっと顔色を伺われているお医者さん・・・hi0は、やっと大きな問題が解決されたのだ。いままで行方をくらましては5年間、大事な実験体を手放している状況で、1つないし2つほどのプロジェクトが止まっていたのだ。その実験体が帰ってきてくれたものの、喜んではいなかった。
「君のお陰で僕の仕事が減ってたのにさ?」
「なにそれ、僕がずっと捕まってればよかった?」
「そうかもね?あんなに余裕ぶっかましといて、こっちがどんだけ心配したか」
とまで言い終えて、しまったとばかりに口を閉ざす。
「違うぞチャム、勘違いすんなよ」
訂正をいれるも時すでに遅し。
「hi0さんが、心配?!?!」
「?!!」
せまいエレベータに逃げ場所はない。チャムと言われた男は勢い余ってはhi0を壁へと追いやった。肩をつかんで、壁に押し付けたというか。
「やだなあ、寂しかったって正直に言いなよ?」
「たまにてめえホントに、ルナよりきめえって思うぞこら!!?」
かなり動揺している。チャムの片目がめきめきと音を鳴らして、色を変える。その目はまるで、キャビットと同じような色をしているが、それとはまた違う異色な能力に見えた。
「判ってるよ、僕がいなくなって、せっかくの核心的な医学のプロジェクトが滞り、子供たちに薬だけの治療を強いられてたことも」
それを聴いて、顔がさらにきつくなるhi0。
「死んだよ、その子は」
「・・・お墓参り、またさせて貰いたいな」
「いいんだよ。今回の件で僕も十分理解した。君の能力を買いすぎた。君なしで僕の目的がストップするなんて バ カ なことを今後とも増やさないようにね」
嫌みな言い方にびくともしないチャム。むしろhi0を離すことなくそのまま近づいた。
「離れろ警報ならすぞ」
「そしたらいろんな従業員にこんなバカみたいな騒動で仕事を止められちゃうよ?」
「同僚から離れてくれないかな?実験体くん」
到着。ドアが開いては待っていた別の人が麻酔銃をチャムの頭に突きつけていた。ふぅとため息をついて、チャムは離れた。
「ごめんね、ついhi0さんが好きで」
「そういうことをさらりと言うなよこの*****」
規制が入りました。
「・・・助かったよ、グローア博士」
エレベータを止めてくれた人、グローアにそう挨拶をするhi0。はぁとため息をついて肩をぽんと叩くグローア。
「君がそうモテるとは知らなかったよ、hi0くん」
「やめてくれよ」
「はははっ、冗談だよ。さ、仕事の話だ」
そう言って、携帯をさしだす。会社内のそれぞれの部屋に置いてある携帯にかけることのできる電話だ。渡されると、とある部屋にかけ、話を進めるhi0。
「僕だよ、おはようさん。スーツの試着で来てるって話しは聴いたよ。起きるのが遅いのはデフォルトだろ?その間に、武器の品定めだってしてくれてるんだろ?今そっちに向かってる。財布と相談して、買うもんは買ってくれよ、じゃね」
[ロジテックス株式会社-プラチナ顧客専用控室・ゴールド]
「はー!この部屋広いしくつろぐの最高だな!」「隊長、あくまでも交渉です。態度は慎んでください」「うっわー、こんなぴちぴちタイツみたいなのがスーツ?通気性どうなんだろ・・・?」「こんなの・・・セクハラです!!」「尾っぽが縮む・・・ぼく無くてよかったぁ」「 ・・・」
顧客室、控室はさまざまなレイアウトのものが用意されている。ここの顧客室は、その数ある部屋の中でもっとも大事なお客様にのみ使われる、プラチナ顧客ゴールド。30人が入る教室くらいの広さに、大きな地図や設計図を広げるに適した机、ディスプレイ。ソファはもちろん、くつろぐためのポットやお茶もセルフで用意できる。サヴィーが気を使って、唯一おとなしく座っているモウニングにお茶をだすが。
「やっとか・・・!」
握りこぶしを握って、ソファの上でガッツポーズをしていた。ハスキーとインサイトは全く興味がないか、むしろその狭き門の価値をしらない。目の前にある物品の感想を言い合う。
「これサヴィーの胸囲いつ知ったんだろ?」
「S.KILLER用のスーツ作ったろ?そこから情報を貰ったんだろうぜ」
「口止めするべきでした」
「そ、そんな顔しなくても、IllLowさん・・・?」
「モーニングさん、皆と一緒にみないの?」
「よさんか、開発者が来るまで待たんか」
「だってほら見てこれ!」
インサイトが、恐らくタイツのような素材で出来ているスーツをばっと見せた。とても縮んで見える。
「これ薄くなったりしないよね?」
「相当ハレンチだな」
「やっぱり返品考えなくちゃね」
「それ下着、スーツは別」
自動ドアがあいた。hi0とグローアが入ってくる。
「おいおい!ここはプラチナ顧客用の部屋だぞ?グローア博士こんな良いところに通しちゃったの?」
「だめかね?彼らはもう十分に我々に投資してくれているではないか」
「まあいい。はいはい人のモノをつつかない、もとの場所にもどして~」
しぶしぶ戻しては、ソファに全員が座った。
「納期には間に合ってくれるそうだな」
モウニングがそう呟く。hi0が若干苦い顔をした。
「あー、まあ、スーツの方は間に合うよ。問題はガスマスクが超高い」
「かなりの高価なものになるか」
「あの毒素の粒は相当な粒でね、だからどうしても防げないから、マスクの中で毒素を中和するというシステムにしないとまず実現不可能。その仕組みをマスクに積み込むだけでもかなりの軽量化してみても、三時間で肩凝りは避けられないだろうね」
「腕回りが重くなるのは避けたい」
「だろ?だからさらに軽くしようと改良を加えたのが、こっち」
壁にかかってるカーテンがひとりでに開く。ガラスケースが表れ、そこに内包されているのはスーツと、ガスマスクだった。
「?妙なデザインをしているな。分散しているのか」
モウニングが気にかかったのは、ガスマスクの頬から延びているチューブだった。その管は首から肩へ、そして手の甲の丸い形をした出っ張りと繋がっている。管は完全にスーツと一体化しており、それぞれの体格に会わせている。hi0がガラスケースを開け、そのでっぱりを覆っている蓋を開ける。
「その通り、中和をする仕組みをマスク内部に、還元する仕組みを両腕の甲に伸ばしたのさ。中を見ると、心臓部みたいな弁がついてるだろ?」
丸い形をしたそれは、下りの管に繋がっている部屋と、上りに繋がっている部屋の二つに別れている。ドーナツ型のケースを隔てる弁は特殊なアミがついている。ドーナツの中心部は、妙な色をした液体が入っている。
「こいつが、毒素を中和した液体を還元するための科学液。この網の弁が、還元する液体を吸っていて、仕組みはこう。毒された液体が下ってくる。網をとおる。中和前の液体に還元する」「わからん」
「良くできているな」
ハスキーが先に即答したのを無視して、話を続けるモウニング。取説を出してはモウニングに渡す。それを受けとるがすぐにインサイトに渡した。インサイトがそれをぱらぱらと開いて覗く。
「ただし、リスクはかなり高くなった。腕についているチューブと、ここの腕の甲にあるガラスは特殊な素材で作ってるから、ちょっとやそっとの武器なら切れないけど、壊されればおじゃん。機能停止。近くにグマ鳥がいたら、最低180メートル離れないと致命傷を追う」
「ふむ」
「あとこいつの、科学液もそうとう人体には悪いから、やっぱり壊さないこと。電磁波を発するためのデバイスも手の甲に仕込んであるから、低温火傷には気をつけて。下着のあれは、このスーツの裏っかわみたら分かるけど、電磁波や静電気が流れるように、通電に優れた糸で作ってある。電磁波が還元する液体と化学反応を起こすのに必要なんだ。だから体に感電されないための絶縁体用なのさ」
「それと、かぶれないためだね」
「ご名答」
インサイトが目を通して、それを今度はハスキーに渡す。ハスキーが見ているページは、スーツを着こなしてるお姉さんだ。IllLowがスコープでスーツの仕組みを分析していた。インサイトが話しかける。
「どう?」
「嘘は言っていないも思います」
「売り物は正直に説明するからね★なにせ自信作だからさ?」
「このスーツを作るにあたって、他の企業体との連携は?」
「なし。物の取り入れと知恵を借りた宛はあるけど、それは企業秘密」
「てことはヤバイんだな?」
「製作仮定はぜんぶ、こちらの社内に備わっている工場でしか作られてないから、スーツの弱点を知るのは僕とグローア博士。あと僕の直属の部下のみだよ」
「直属の部下、ね」
インサイトは窓の外を見た。人形のロボットが庭掃除をしているようだ。
「人より嘘をつかないし、命令は絶対だ★」
「なるほど、外部に情報は漏れてないと考えていいんだな?」
「工場の部品製作携わってたやつ、呼んでもいいよー?そこは手作業だから人間なんだよね」
「話したい」
言ったのはインサイト。彼が求めているのは技術者としての意見交換だ。IllLowが、自分のスーツの前で立っていた。
「どう?テストしてみるか?」
「良いのですか?」
「なんなら、前に君へ求愛行動を送ったグマ鳥と一緒になってみなよ」
サヴィーがこちらを伺っている。
「いえ、それは」
「ぜひ、見てみたいです」
言ったのはサヴィーだ。IllLowはおでこに手をついた。hi0はしてやったりとにやついた。
[ロジテックス株式会社-シミュレーションルーム]
シミュレーションルームという部屋がある。S.KILLERにもその部屋は存在するが、ロジテックスのルームの方が性能は強い。動物、特に暴れん坊な動物が暴れてもいいように、水族館に使われている厚みのあるガラスを二重に張りつけている。スーツや特効薬の性能を調べるための気候変更に優れた人工雨、人工雪、地震、黄砂・・・あらゆる変動と災害を再現できる、大きな部屋だ。そこのモニタリングルームに、IllLow以外は移動した。hi0がマイクのボタンをいれる。
「どうー?着替えれた?」
『かなり、きついです。トイレにいくのが大変そうな構造ですね』
「やっぱ股間にチャック導入した方が良かったんじゃないすか?博士」
「バカをいえ」
博士はもう1つのマイクのスイッチをいれる。そして首にかけている不思議な形をしている骨に、息を吹き掛けた。それは、クククッとなり、鳥が喉をならしている音とよく似ていた。すると同じ音が帰ってくる。
「博士変態だよ、グマ鳥の骨を使って言葉を習得するなんてさ?」
「誰も動物のコミュニケーターになりゃせんだろ?私なら、こんな場所で誰一人としてしゃべれないなら脱出を考えるからね」
「動物トレーナーのIllLowならやれそうww」
モニタリング室からみて左手のドアから、グマ鳥が姿を表した。青と緑の美しい羽をもっている。顔にもなにか不思議な模様が入っているようだった。あたりをキョロキョロ見回している。もう1つのドアから、スーツ姿のIllLowが表れた。
「だっせえwwwwwwwwスーツやべえじゃんボディライン全部見えんじゃんwwwww」
ハスキーが腹を抱えて笑いを堪えた。サヴィーはグマ鳥の羽を見ている。余りの綺麗な模様に、はじめて孔雀を見たときの思い出が甦る。
「・・・きれい」
ガラスにつけている手を、きゅっと握りしめた。グローアは、何も言わずにその手を見ていた。hi0がまたマイクにスイッチを入れた。
「スーツの着心地は?」
『さむいです』
「その通り、上からせめてオーバーコートやハーフパンツでも着てもらえるように、かなり薄くしてる。あくまでも毒を防ぐ素材。物理攻撃や刃物は通用しないからね?」
『はい』
「さあ、その姿で限界距離まで近づいてみてくれ」
『はい』
IllLowが普通の歩く速度で、物怖じをせずとも近づいた。グマ鳥が、相手がだれか判った途端に素早く近づいてきた。
「グマ鳥の性格はピピカと違って大人しく、自信がない。ただ、怒った途端とても攻撃的になるから用心ね」
と、hi0が説明をしているに関わらずとも、交流は始まっている。IllLowの手を触り、彼の周辺をぐるりと回り、また手を触る。手の甲にある丸いコアに爪を立ててコツコツしているようだ。
『・・・』
IllLowが突然、刃物を構えた。直ぐに飛んでは後ろに下がった。顔はとても困惑している。
『・・・参ったな』
刃物をそこから投げ落とした。攻撃はしないと態度で伝える。グマ鳥がまたパタパタと近づいた。
「まるでキャビットだね」
インサイトが呟いた。キャビットは後ろの腰掛けに座って、動かずにじっと見ていた。グローアがまた骨の笛を使い、マイクを通して彼女に話しかける。するとグマ鳥がモニタリングルームに気づいて、こっちを向いた。
「きゃ!」
体の数倍はある羽を広げて、ふわりと飛んではモニタリングルームのガラスに飛び付いた。足の爪が鋭い。
「彼女がいるよって教えた」
「嫌なこと言うねー博士ー!!」
「な、なんで教えちゃうんですか!」
「ほら、顔を見てあげて」
博士が促すと。
「あ・・・」
彼女はガラスに手をぺたりとはっつてけていた。腕には同じところに何度も注射を打たれたのか、紫色に腫れ上がっているところがあった。
「体がもう薬を受け付けない。何度も彼女は協力してくれた。・・・彼女は毒のない体が欲しかったのだよ」
「毒があると好きな相手すら顔を見せてくれないからね~」
サヴィーはガラスに手をついた。重ねてくるように手を会わせてくる。彼女のては、サヴィーより大きくてもさもさしているようだった。指も短く、まるであかちゃんのようだ。
「・・・かわいい」
泣くまいと下唇をかんで、そう呟いた。グローアが骨の笛で、また何かを話しかけいる。グマ鳥の顔がたちまちゆるんで、にこにこしはじめた。誉められて照れている子供のようだ。おそらく、グローアが代わりに伝えたのだ。
「まいってるよー、グマ鳥のほとんどは年齢と離れて幼児的なリアクションしかしない。皆そろってメロメロだね」
hi0がそう話す。サヴィーもその一人になっていることを、モウニングとインサイトが見逃さなかった。
「・・・ごめんなさい」
サヴィーがそう言って、ガラスから離れた。グマ鳥の顔色が一気に不安そうになる。グローアが骨の笛を鳴らすと、降りたって元の出てきた扉に帰っていった。IllLowも同じく、撤収した。
「さて、スーツのテストは終わったし、どうかな?」
「格好はダサいけど、これなら問題なさそうだね」「一人辺りの費用は、」
インサイトとモウニングが話を進める。
「1着税抜き180万」
「高っ」「だがそのくらいが妥当だろう。大事に扱ってもらうぞ。特にハスキー」
「流石に防弾用のもんは壊せねえよ、死ぬしな」
そう話し合っている間、サヴィーはうつむいて席に戻っていた。難しそうな表情をしている。
「・・・あげよう」
「えっ?」
なんと、グローアはもう1つの笛を取り出した。それをサヴィーに手渡す。
「実は私が使っているのは模型なんだよ。君のそれも模型。骨は複製されても困るから、大事に保管している」
「も、貰っても・・・良いのですか?」
「鳴き声とトーンの録音データ、文章を書き留めておいてある書類は渡せないけどね。外部に漏られたらそれこそ悪用されかねない」
「サヴィー、それを持っている限り管理はしっかりね」
インサイトが声をかけてくる。サヴィーははっとして顔をあげる。既にスーツから解放され、元の服に戻っているIllLowが帰って来た。
「それ仕事に使えねえかな、」
ハスキーがそう呟くと、苦い顔をしかけるサヴィー。口元をしっかり閉じて、嫌な顔をしないように努力した。
「誘導はよくない。おそらく我々が始末をしにきたと分かれば、鳴き声がそれだろうと攻撃対象になるだろう」
モウニングがそれを否定する。IllLowはサヴィーの顔色を伺っているが、一向に目を会わせてくれなかった。
「さて、スーツの試着はIllLowくんだけでいいかね?」
「十分だ。そろそろ帰らせてもらおう」
「振り込みはそちらが動くことが決まってからでいいよ。大金だからね」
「ああ、費用削減をもう一度考えなければな」
「嘘だろモウニング!?あれ以上削減考えるのかよ、鬼かよ?」
「品質の高いものを手に入れるためなら、鬼でも構わん」
「げぇーっ・・・!」
「お酒の制御でも考えたらー?」
インサイトもさらに突っ込む。S.KILLER組は自分達の乗り合わせ用トラックに乗る。運転はインサイト、助手席はモウニング。背中の箱に乗る他のメンバー。窓には頑丈なひし形を作っている網掛けがついている。
「貸してみせて?」
サヴィーがキャビットに声をかけられる。あの骨の笛のことだ。どうぞと手渡した。キャビットは観察して眺めてみる。
「にしては不思議な鳴き声だったな、あれ」
「特殊な喉の構造なのでしょう。鳥なのにくちばしがなかったのも、鳥たちと区別される要因にもなったでしょう」
「毒の空気を纏っているようなもんだもんなー」
ハスキーとIllLowがそう会話をしている。ハスキーは足を伸ばしては壁際に背中をつけ、両手を頭の後ろにもってゆく。くつろぎモードだ。インサイトが後ろに聞こえるように呼び掛けた。
「さあ、せめて来週の頭くらいに定めているから、それまでゆっくり休養すること!」
「んじゃそれまでは仕事しなくていいんだな?」
「体力作り、地図を頭に叩き込むこと、予行練習、やることはいっぱいあるんだからね?飲んだぐれてないでね?!」
「わーってるって!」
「・・・ねえ、ねえ」
キャビットはサヴィーとIllLowに小声で話し掛ける。彼の目はなにか言いたげだったが、ここでは言えないことなのか続かなかった。ふと思い付いたサヴィーが、スマホを見ては声をあげる。
「あっ!?どうしよう!今日部会あったんだ!!」
「はーっ!?あんた予定今日なかったんでしょ?!」
「ご、ごめんなさいっ・・・!」
なるほどと思うIllLow。とっさに仕事用の携帯をだした。
「ここから歩いて駅に乗った方が早いでしょう。おろしてもらえますか?俺にも時間が欲しいので」
「えっ、二人が降りるなら僕だって降りるもん!!」
便乗に便乗した。インサイトが全くもうっ、といいながら、駅周辺にある駐車場に3人をおろした。それから一言言う。
「いっとくけど、作戦は変えられないからね」
サヴィーの顔が強張った。
「曲げられるだけの話し合いをするから」
キャビットが即答した。しばらく睨みあいこが続いた。が、視線を切るインサイト。
「可愛そうなのは分かるけど、仕事は甘くないからね。じゃあ、頑張って」
車を動かすインサイト。そして車の列に呑まれていった。
「・・・ありがとサヴィーちゃん」
キャビットがサヴィーに挨拶をした。
「いいえ。私だって、言いたいこといっぱいありましたから」
ふわりとにこにこする。IllLowが近場に便利なたむろできる場所がないか検索する。
「近くに公園、カフェ、公共施設があるが、どうする?」
「施設にいこう。あそこならけっこう広いし、人も少ないから」
3人は歩いて、すこしばかり話すことを模索した。
[FutureMiddle-フロア]
窓ガラスだらけの建物がある。リンゴを6等分し、さらに横からまっぷたつになるように切られた形をしている。鉄骨がそのまま露出しており、あとはガラス窓に覆われている建物だ。そこは図書館やコンサートホール、さまざまな施設が総合されて貸し出し可能になっている。
「話を聞こうか」
施設の外にある自転車駐車場所。ここなら誰も来ないし、人目につかれたとしてもごく普通の学生と同じ姿にしか見えないだろう。
「・・・グマ鳥は、ストレスを与えるとよけい毒が強くなる」
「?!」
「イルロウくんが一緒の部屋にいた時の彼女は、上機嫌だったし、危害を加える様子でもなかった。彼女たちは、狂暴になるととても手がつかないんだよ」
キャビットが上の服を持ち上げる。IllLowとサヴィーは目を見張った。キャビットの左横腹から、右胸までに、大きな切り傷の跡が残っていたのだった。
「彼らはきっと、自分の死をもたらす生き物があったのなら、鳴き声で外の仲間に知らせる。怒ると毒素も強まるし、狂暴になってスーツなんか簡単に傷つけられる」
「そんな・・・」
「毒素が強まるのなら、それだけ還元速度もあがる。デバイスが熱にどこまで強く耐性を考慮して作られているのかも問題だ」
「鳴き声だって、あれは人の耳じゃそれ程度の音にしか聞こえないけどね。あれは空を飛んでいるグマ鳥が鳴いたとしたら、半径20kmは超音波を飛ばせる」
「・・・もし、捕まっていないグマ鳥の集団がいたとしたら」
「一斉攻撃」
「それですよ!」
サヴィーが声をあげる。
「それを狙って、仲間を連れてきましょうよ!私たちが彼女たちに危害を加えない状況で、それができれば・・・!」
「檻からだす、それから仲間を連れてきて、元いた場所に帰ってもらう。敵が我々と同じようなガスマスクを所持しているとは限らないからな」
「でも、問題はそのグマ鳥の仕組みをあっちが知っていたとしたら?」
「・・・極限に怒らせて、毒素を最大値にあげた状態で閉じ込めている可能性がある。ということだな」
「・・・そんな状態だったら、私はきっと返り討ちにあいます」
「だから、殺すなんてよくない方法なんだよ。彼らは自分達の毒素を口からでも出せるし、体力もある」
「・・・なんとか説得するだけの材料がたりない。特に師匠と司令官は一度決めた作戦は変更しない」
「・・・今日帰ってみてから、兄さんに話しかけてみます」
「問答無用で断られるぞ。司令官は事実に基づいた話をしないと人のことを聴かない」
「インサイトさんとモーニングさんは、そういうタイプなんだろーなって感じてた」
ちょっと笑顔が戻るキャビット。しばらく沈黙が続く。
「ハスキーさんは?」
サヴィーが声をあげる。キャビットは苦笑いした。
「うーん、」「話を解ってくれるかが心配だ。あのお方は頭のなかは凡人だ」
IllLowがばっさり言い切った。サヴィーははっと気づいて、肩を落とす。そのリアクションにおもわずくすくす笑うキャビット。
「それだけの資料をロジテックスに提供して頂く、だけでもまだ話がしやすい」
「そのためには、今あっちで保護してもらっているグマ鳥を検体にしてやらないとね」
サヴィーの頭に、あのガラスの向こう側で手を一緒に添えてくれたあの子が浮かんでくる。
「きついな。俺は彼女を実際に目の当たりにしたのだが・・・」
「かわいかったですものねっ」
「サヴィーちゃん解りやすい」
「な、何がですか!」
キャビットに突っ込まれて、顔を真っ赤にするサヴィー。
「でも、それで怒っている状態で確保されていたらどうしようかな」
「キャビット」
「ん?」
「知り合いがいたんだろう?彼女に呼び掛けてもらえないか?彼女が先に殺されないためにもこちらが、先輩たちの足を引っ張るしかないがな」
「内部で争いますか?」
「うーん、こわいなあ」
キャビットが苦笑いしている。
「インサイトさんとハスキーさんはともかく、モーニングさんが怖いなあ。あの人は一番死んだ人の匂いがする」
「?」
サヴィーははじめて聞く表現に、首をかしげた。IllLowが訂正に入った。
「師匠は、死を三度経験している」
「?!」
「つまり、肉体が朽ち果て、脳が機能停止したことを三度体感した。ロジテックスではなかったころの時代は、話をしてくれないのだが。博士から間接的に聞いたことはある」
「あの人には、一番人としての終わりの匂いを感じるんだよ。匂いって、具体的じゃなくてさ。僕の能力が、人の心を探ることだって出来る」
かつて、生徒に化けたモンスターギャングの騒動を思い出す。匂いもばれていたのだろうが、嗅覚と言われない領域にまで鼻がきくのか。サヴィーはどきっとするのだった。
「嘘発見機なら、イルロウくんもできるよね」
「感性的に人の雰囲気を捉えるのがキャビット。人の顔つきと目の筋肉を捉えて、実態で捉えるのが俺の役目」
「半々で計算して、僕とIllLowくんが一致したらそれはひゃくぱーせんとになるんだ」
サヴィーは、二人の前では嘘をつかないことを誓った。
「今晩、さりげなく司令官にはなしかけてみてくれないか?」
「結果は個人用のほうのLINEからね。多分仕事用の携帯は私用されてないか情報を吸い上げられてるだろうし」
キャビットも、だんだん会話が様になってきている。それだけ、今回の仕事を本気にとらえているようだ。
「・・・ん?」
「いや、キャビットにも本気が存在しているとはな、と」
「ひっどいなーほんとう!イルロウくんには敵わないけどね~」
会話は終息に向かい、サヴィーたちは帰ることにした。
[インサイトの家 - 二階の屋根裏部屋]
月の光が淡く、窓の中へと入ってゆく。お風呂上がりに入ってくる女性が一人。
「はぁーっ・・・」
サヴィーは、帰り道にIllLowとキャビットともに、話術と論理的な話の仕組みと、ディベイトの訓練を仕込まれた。作戦の日時まであと6日。足掻いても作戦変更までは3日前から提案しなければならず、それを検討するにも遅くて3日くらい要するらしい。逆算して、一週間前には、作戦を変更する提案をしなければならない。
「ここで兄さんをうんと頷かせないとっ・・・。でも、でもっ・・・」
手元で資料をいっぱいにひろげ、マインドマップも会わせて話の内容を考えるサヴィー。頭がすでにパンクぎみだった。
「あっ」
手元の資料を漁ると、彼女の写真もでてきた。バイオロジテックスで保護されている、あの子の写真だ。
「・・・よしっ」
心を決めて、実の兄を待った。
「・・・どうぞ!」
ノックが聞こえ、それに答えるサヴィー。ドアが空いた。
「入るよー。・・・部屋綺麗になったねー、当時はほんとにゴミ屋敷だったのに」
「・・・はい」
「あ、気を悪くさせちゃったね。ごめんよ。・・・で、話ってなに?」
低いテーブルの前に座る、サヴィーのお兄さん。お風呂上がりの半袖服の下から、体のあちこちに切り傷や撃たれた跡が残っているのを見つける。
「・・・兄さん、」
「ん?」
「グマ鳥の、抹殺のことですけど」
「うん、」
「もう一度、考え直してみませんか?」
「情が移っちゃったのかな?」
「それもあります、それと・・・」
机のしたに隠していた資料をばっと広げた。分厚い本の資料、全てhi0hit0howからコピーさせてもらった、グマ鳥の実験データと傾向の書物。そこの後ろには、新しく追加された実験データが入れてあった。それと同じく、IllLowからもらった敵陣地の地図、A1サイズのスケールだ。目をまん丸くしては、その用意の良さにビックリした。
「兄さんは全部見たと思います。なので、接触したことのあるキャビットくんの新しい情報を元に実験を繰り返した、ここからのページを見てください」
手元でパラパラとめくり、直ぐにピタッと手を止めるお兄さん。頁がどのくらいなのかさえも、サラで覚えている。かなり読み込んでいるようだ。
「・・・」
顔色を伺っていると、だんだん険しくなってきた。それからこうも言った。
「こんな大事なこと、なんで黙ってたの」
「だっ、て・・・兄さんたちの世界は、依頼に受けた言葉を曲げちゃいけないって」
サヴィーはちゃんと教えを覚えている。それを守ってもいる。だからこそ、ちゃんとした資料がなければ提案すらも難しいのだった。
「そうだよ、殺すことも依頼のひとつ。でもグマ鳥の殺傷能力が激怒と比例しているデータがでていて、借りに向こう側でグマ鳥に可哀想なことをしていたら・・・こんどは俺たちの命に関わる」
「!」
S.KILLERが依頼を受けとるものにもルールが存在する。危険度はS.KILLERの三本柱であるモウニング、ハスキー、インサイト3人の評価で決まる。この3人のうち一人でもダメと判定されれば、それは危険視とされる。場合により、依頼を受けないこともある。
「で、サヴィーはどうしたいの?依頼は断ることだって出来るし、失敗と片付けることも可能。名前に傷がつくけど」
そう言われると、断るのも失敗と片付けるのもかなり勇気がいる選択だ。
「・・・た、助けたい」
サヴィーの手元には、グマ鳥の喉元の模型があった。
「だって、かわいかったんだもん」
可愛いけもけもは、好物だ。そして兄上は、妹がかわいいのだ。
「・・・わかった。明日にこれを持っていって、またモウニングとハスキー呼んで、話し合ってみるよ」
受理された。かなりあっさりとした展開に、肩の力をすぅっと抜くサヴィー。インサイトが笑った。
「そんなに緊張するの?」
「だって、兄さん資料がないと話すら聴いてくれないって・・・」
「当然でしょ。これからサヴィーが一人で仕事をとってくるときがあったら、こうやって裏をきちんととること。ね?ロジテックスならデータと要件・仮説、実験体さえあれば金を払って協力させればいいからね。金の請求は僕にだしてね」
「はい、」
サヴィーの手元から、バイオロジテックス印の請求書がでてきた。インサイトは頭を抱えた。
「情報提供、今回の資料請求、加えて実験の費用です」
「あんたねー!そういうことは建て替えしないでちゃんと事前に言ってよー!?」
「させてくれるのかわからなかったから、ごめんなさい」
「まあストップはかけてたかもね?もうここまで段取りが出来ている状態だから」
サヴィーはほっとした。インサイトはその請求書を手に取り、こんなのぶんどってるだろ、と小言をついた。
「でもよく頑張ったねー。彼氏に協力してもらったの?」
「へっ?」
すぐに顔に出るサヴィーであった。
[00:00 グリーンクラッシュ都市 ー ボーストン学院・附属研究施設所]
「はい、敵陣地まであと15分。最終確認します。皆、お互いの顔をチェックして、ペアとってー」
夜中の12時。研究所へ大型ヘリコプターで向かっているひとつの集団。灯りは乗り物のモニターと、非常用ボタン、その他こまかいつまみだけの場所。一人の声に、何人かが固まって、寄り添った。
「4つの口から、侵入します。まず前側、モウニングとハスキー隊」
「おう」「うむ」
「思いっきり、警報網にひっかかって。とにかく注目をあつめて、中の戦力を根絶やしにしてください」
「おうよ!」「ラジャー」
「その一環、怪我は避けること。スーツに傷ひとつないようにね」
「わーってる」「注意しよう」
「次、サヴィーとIllLow隊」
「「はい」」
「息ぴったりだね、その調子。今回の二人行動は重要です。全てのグマ鳥の檻を解放します。二人で手分けするのか、一緒に行動するのかは決めてあるよね?」
「はい」「決めました」
「その手はずで、時間は最長二時間。短いけど、死に物狂いでね」
「はい!」「全力を尽くします」
「次、キャビット」
「ういーっ」
「あなたのお友だち、愛喪場ちゃんは、グマ鳥の中でも一番大きく、そして強いんだよね?」
「長してましたー、とっても怖い」
「彼女を匂いで嗅ぎ付ける。説得して、彼女を空にとばして、仲間を呼んでもらう。そのあとは成るようになれ!で、各々判断をしてください。質問は?」
「もばちゃんは彼女だけど、グマ鳥は皆女の子です」
「へぇ?」
「皆の好みはだいたい似かよっています。IllLowくんが危険かも?」
「フッてやります。問題ありません」
「動物トレーナーひゅーひゅー!」
「はいはい集中して!降りるよ!」
ヘリコプターから一本の手綱が降りる。それを使わずとも飛び降りるモウニングとハスキー。サヴィーはそれを使ってするりと降り立った。IllLowはあとに続く。キャビットはよっこいしょ、とジャンプして落ちた。
「サヴィー、初めの合図だ」
「はい!」
サヴィーはマスクをその場で一度外し、グマ鳥の模型の笛を手に取った。おおきく息を吸い込んで、くわえる。
ビィィー!
夜空にこだまする、鳴き声。それとほぼ同時に、ハスキーとモウニングによって侵入を感知され、警報の音に包まれた。
「裏側から、だったね。僕は先にいくね」
四足歩行で、しなやかに走り去るキャビット。インサイトはヘリコプターから援護射撃をするための準備にとりかかっている。
「いくぞ!」
IllLowが先頭に、サヴィーは後方からついていった。前側は派手に暴れているため、なんともしぶとそうな重装備アームスーツのロボットがでてくる。左腕からかなり大きめのガトリングが発砲された。それらの視界に入らないようにすり抜け、裏側の勝手口から侵入した。既にキャビットがあらかじめつけてくれた手形の扉のみ、侵入する。
「グマ鳥確認、解放します!」
檻の中のグマ鳥は、いたって平穏な顔をしているが、それは寝起きのためだ。徐々に腕の羽がカチカチと固まって行くのを見やった。
「激怒している、早急に檻のロックをはずすぞ!」
手早くクラックし、檻を半分開けたあとにさっさと立ち去るIllLow。廊下を進んで、二手に別れて移動をし始めた。キャビットはその二人より倍のスピードで部屋のドアに手形をつけていき、全ての部屋を終えたあとに、嗅覚に集中した。
(・・・いる、)
一目散に走り出すキャビット。向かう先は、彼女の確保されている部屋だった。仕事中は身に付けているペストマスクを抑え、辺りの生き物との匂いをかぎ分ける。耳に引っ掻けている無線から、通信が入る。
『いい?彼女をなんとしても説得させること!大役だよキャビット!』
『できなきゃ噛み砕いてでも従わせろよ!?』
『そんな危険な真似は止せ、毒をまともに食らう行為は慎むことだ』
インサイト、ハスキー、モウニングと順に話しかけてきた。キャビットは通信の使い方をまだちゃんと理解していない。
『・・・返事がないのはミュートにしてんのか?』
ハスキーが思わず突っ込みをいれる。
「そぉい!」
キャビットが勢いをつけて、頑丈なドアで守られている部屋にアタック。びくともしない。
『はーい、アンロックしたよ』
無線でインサイトの声が入る。キャビットはじんじんする足を抑えてピョンピョン跳ねながらも、威嚇行動をとっている。
「インサイトさんのいじわる!」
『ちゃんと無線使えるじゃない!』
「ばかっ!!」
言葉が相変わらず子供っぽい。するりと部屋に入るキャビット。部屋のなかはとても暗かった。
「・・・もばもば?」
キャビットが声をだす。声は部屋全体に響いた。何故かここの部屋だけ、天井がとても高く、ドーム状に縦長い。まるで鋭い銃弾の頭の形をした空間だ。
「もばも・・・」
かすかな風を切る音を聴いた。
「!!」
瞬間、キャビットはそこから飛び退いた。目がとらえたのは、鋭いかぎ爪の足。おおきく開いてキャビットに近づいてきたのだった。捕らえ損ねたその足が地面に跡をつけつつ、着地した。耳に響くひっかき音。
「わわわっ」
キャビットの尾っぽが逆立った。
「・・・愛喪場ちゃん?愛喪場ちゃんだよね??」
おそるおそる声をかける。その姿が露になった。立派なかぎ爪を持ち、大きな羽を背負い、目はきらきらと輝いていた。
「愛喪場ちゃん!」
飛び付こうとした。
「ふぎぃっ!」
蹴られた。
「ククククッ!!!」
喉を鳴らして、威嚇行動をとった。腕の羽がメキメキと音をたて、硬化している。いつでも殴りかかってこれるようだ。
「ちがう、ちがう!僕は食べに来たんじゃないんだよっ!聴いて?わわっ!?」
羽を使って少し浮遊し、地面すれすれで飛んできては腕をおおきく振りかざした。キャビットはひょいと彼女の頭上を飛び越えて避けるが、壁がぼこぼこになった。ひやりと汗をかく。
「まって、ほら!僕の手をみて!爪をしまってる!ペストマスクも外さない!」
「ククククッ・・・」
「愛喪場ちゃん、怒ってる?」
「ギギギッ・・・!!」
ふとキャビットは、彼女の頭になにか刺さっているのを見つけた。
「まって?これ、なに?」
『どうしたの?』
「彼女の頭に、なにか刺さっている!へんなの、ぴこぴこ光ってる」
『他のグマ鳥には見かけなかったぞ』
インサイト、続いてIllLowと無線越しに話す。彼女は頭を抑えて、かなり痛がっている。
『・・・hi0が言っていたけど、現代の裏医学の進行は、脳に直接、シナプスの電気信号を制御できるレベルまでいってる。多分、それが彼女を支配しているのかもしれない』
『裏をあたってみよう。サヴィー、グマ鳥の解放を暫く任せるぞ』
『了解!』
「こわす?それとも、抜き取る?」
『どんな形状のものなの?場合によっては、突然の切断は彼女の脳にダメージを負わせるのかもしれない』
「針治療でみかける針。それの先端になんか、ごちゃごちゃしてる玉がついてる」
『おっけー、ハッキングできるか試してみる。それまで彼女に殺されないように時間を稼いで!』
「んなむちゃな!もー!!」
キャビットは地団駄した。そんなこともお構いなしに、次の手にはいる愛喪場。
「ちょっ!?」
のし掛かろうと上から突撃される。避ける。ひさびさの彼女の薫りをかいだ。
「んぐっ」
彼女の薫りに、とてつもない空腹を覚えたキャビットは、その場でうずくまった。よだれが止まらない。
「ぐ、ぐぅっ・・・!い、インサイトさんっ・・・!!」
『なに?どうしたの!』
「お腹すいた、すごいつらいよ、どうしようっ・・・」
牙をたて、爪をたて、耳の毛が膨張する。彼女の攻撃を今度は避けなかった。
「きぃっ!!!」
彼女の鳴き声が響いた。それもそのはず、キャビットは避けることもなく、彼女に飛びかかったのだった。二人はお互いに爪をたてながらも、地面をごろごろと転がり、止まる。威嚇行動を止めず、今度はお互いに切りかかる二匹の獣。インサイトが注意した。
『キャビットだめ!彼女たちの血を浴びたら毒が回るって!!』
二人は一度離れた。辺りに愛喪場の羽と、キャビットの毛がふわりと漂った。キャビットは口元のペストマスクに手をかける。愛喪場が更に羽をおおきく広げた。
『キャビットさん!!!』
サヴィーが無線で呼び掛ける。
『しっかりしろ!!玉ねぎのスプレーを足るほど浴びたいか?!そうだな!!?』
IllLowの発言。
「ぐ、やだ」
空腹を耐えることを選択した。どうやら正気に戻ったようだ。体を低く構え、彼女の動きをよく見てとった。
『はい!クラッキング成功!キャビット、今なら外せる。瞬間的に抜き取れば、ダメージがなくいける・・・!!』
「ようし!」
華麗にステップをふみ、彼女の頭上を跳んだ。後ろへまわり、素早く近づいて押さえつける。
「いたくないよっ」
思いっきり、引き抜いた。なにか千切れる音もなく、するりと抜けたみたいだが、彼女は金切り声を上げた。かなり細い針だったようだ、傷口から血が流れる気配はなかった。
「いたぞ!!」
このタイミングで、白衣の人たちが入ってきた。体格がゴツゴツしていて、軍人の成を隠しきれていない人だ。キャビットは彼女の上に被さるように、二足歩行をしてはその人らに威嚇した。
「なんだあいつは!」
敵が銃を構える前に、キャビットは跳躍して敵の頬に蹴りをいれていた。相手の顎と歯の折れる音がする。そのまま攻撃を空中で繰り返した。
「くそ!ちょこまかと」
言い終える前に、敵の肩にのっかかっては目に長い爪を突き刺した。驚いて辺りに発砲し始める。その銃弾はキャビットにあたることもなく、同士討ちの引き金にしかならなかった。愛喪場の元へ素早く移動し、じめんに手をついて彼女の様子を伺った。
「もばもば!」
反応はない。
「もばもば・・・?」
彼女の手がピクリと動いた。
「もばもぶ?!」
彼女はキャビットに蹴りをいれたのだった。地面に転がり、頭を押さえるキャビットを余所に、愛喪場はゆっくり起き上がった。
「・・・!キャビット!」
彼女は威嚇行動を止めなかった。
「ま、まってまって!僕だよ僕!正気に戻ってて、ほらピンピンしてる!君を食べたりなんかしない!」
ふわりと飛んで、爪を伸ばす。キャビットを押さえつけては、のっかかった。羽をおおきく広げてる。
「・・・愛喪場、待ってた」
「!」
「ずっと、待ってた。食べに来るの、終わってほしいって」
「まっ、て・・・?」
「でも、キャビット死んじゃう」
「・・・」
「だから、食べさせない。食べるなら、私が食べる」
「ん!?!?だ、だからもう食べないから!!まってもばちゃん!!しっかりして?!!」
「??」
きょとーんとした顔で、何事もなく噛もうとしている愛喪場。キャビットの必死な抵抗で、なんとか所作を止められた。
「食べたくないの?私を」
「食べないから、ほんと食べない!」
「・・・男前じゃない、見損なった」
『くははははっ!キャビット!男前じゃないってよー?!はははははは!!!』
「ハスキーさん、嫌い」
「?」
「味方だよ。それより、もばちゃん!」
肩をがっちりつかみ、彼女に話した。
「仲間を呼んで、皆で脱出して!仲間なら檻から脱出出来ているはず!」
敵軍の応援がまた駆け寄ってくる。
「いいね?」
キャビットは彼女に背中を見せ、敵に突っ込んでいった。愛喪場はその場で立ち尽くしていた。それもそのはず、飛んで外いこうとしても、ここは厚い壁に覆われた壁で、出口は一つしかない。その出口から敵がぞろぞろと入ってきている。キャビットだけでは間に合うはずがなかった。
「こんの!!」
敵軍の鍛え上げられている蹴りが、キャビットの腹部に食い込んだ。キャビットの喉が鈍く鳴らした。もう一発の蹴りでキャビットは地面を転がり、愛喪場の足元に留まった。愛喪場の怒りが頭を昇った。
「お前ら!許さん!!」
羽をおおきく広げ、手の羽がかちかちに固まり、彼らと対抗しようとした瞬間。
「!!」
天井の一番高い壁が、突然爆発した。大きな破片が、壁際に追い詰められた愛喪場とキャビットには落ちてこないまま、敵を下敷きにしていった。
『間に合った!?キャビット、返事して!』
外からのインサイトの爆撃によるものだった。これで、天井から彼女が抜け出せる。
「遅いですよ、インサイトさん・・・」
『えーと、愛喪場ちゃん!聞こえるかな?!天井から抜け出して、仲間に呼び掛けて!』
「・・・?」
「もばもば、はや、く」
「仲間に、知らせる?」
「そう、だよ」
「・・・わかった」
キャビットを両手で担いでは空を跳んだ。発砲はされたのだが、彼女の羽には銃弾がちっとも効いていない様子だった。天井の穴から抜け出してみると、インサイトが拳銃を構えて待ち構えていた。
「キャビット!」
愛喪場はその場でキャビットを寝かしつける。
「もば、もば・・・」
「みんな、助ける。私の、役目」
「もば、もば・・・」
「もば言うな、ウサギ猫!」
彼女は、インサイトとキャビットを置いては真上へ一気に飛び立った。警報もなり、照明もあちこち照らしあっている。雲を越えて、大きな月がまんまると見えるはるか空の上で、胸をはり、顔を見上げ、大きく叫んだ。
ビィィィイーーーーーーー!!!
[1:18 グリーンクラッシュ都市 ー ボーストン学院・附属研究施設所]
「!撤収だ!!」
空のはるか頭上から、こだまして響く鳴き声を効いたハスキー。大暴れを一緒にしていたモウニングに、そう呼び掛けたのだか。
「おい、おいおいおい・・・?!」
ハスキーは、ものすごいスピードで飛んでくる鳥の群れを見た。それは鳥ではなく、鮮やかな羽をもってお互いに威嚇しあっているグマ鳥の姿だと確認できたのは、彼女たちとの距離がそう遠く離れていないタイミングだった。モウニングと急いでその場を撤退すると。
「うわぁっ!!!」
敵陣の、おそらく一番戦闘用として重宝していアームロボットが、鮮やかな鳥たちに集られ、囲まれた。発砲しようが視界が塞がっていて全く焦点を合わせられない状態だ。
「やだ、やだ、やだ、やめろぉ!!」
操縦者は簡単に引きずり出され、空中でグマ鳥のご馳走になっている。思わず目をそらすハスキー。
「サヴィーちゃんが知ったらげんなりするだろーな」
「それより見ろ、あれを」
壁に向かって、グマ鳥の群れがめがけて飛んでくる。壁は直接、廊下に繋がっているピンポイントの場所だった。うでの羽をガチガチに硬め、両手をグーに握りしめては前に突き出している。パンチを食らわしたら速やかに上空に逃げ、また勢いをつけて打撃を食らわす。これを流れ作業の如く、かなりの数のグマ鳥が繰り返していると。
「なんだ?うわぁっ!!」
壁が崩壊した。と共にかなりの数のグマ鳥が廊下を飛び回り、壁にはりついたり、敵に爪で致命傷を負わせたり。施設内はS.KILLERの対処と更に混乱を招いているようだった。
「インサイトと合流しようぜ!」
ハスキーがそう言っていると。
「ハスキー!!」
モウニングが声をあげるが。
「うおおっ!???」
グマ鳥の三羽くらい、モウニングとハスキーの存在に気づいた。ハスキーが肩をつままれ、上空に上がる。
「おい、俺ら敵じゃねえから!!」
と、別の方向から鳴き声が聞こえた。するとハスキーはパッと離され、地面に落ちた。
「ぐえっ!?」
「サヴィー!?」
「ご無事でなによりです!」
サヴィーはなんと、檻から解放されたグマ鳥の足に両手で掴まりつつ、空を飛んでハスキーたちの元に降り立った。モウニングとハスキーは顔を見合わせた。
「て、手なづけたのか?」
「え?ええ、こう・・・」
サヴィーがグマ鳥の首もとをわしゃわしゃすると、とても嬉しそうにクルルッと鳴いた。サヴィーにぎゅぅっと抱きつく、青い鳥の子。重たそうだ。
「かわいいっ」
「俺たちには出来そうにないな」
「女性の特質だろう」
「後で動物トレーナーに伝授してもらわにゃあな」
施設から鳥たちは溢れ、それぞれがお互いの知り合いに抱きついて喜んでいる最中、敵は武器を取られ、幾人もの人が食事対象になっている。愛喪場が様子を見てからまた鳴き出した。すると、四方八方に飛んでいたグマ鳥たちが、一斉にひとつの方向に向かって飛び始めた。愛喪場は降りたって、キャビットの看病に付き添っているインサイトの元に近づいた。
「逃げる。貴方たちは、どうする?」
「IllLowと連絡がつかないと・・・」
『こちらIllLow、重要参考人が自殺を・・・いや爆撃を受けて死んだ』
「!」
『ここの施設の実験データは、俺のヘッドサイドにダウンロードしました。今すぐ施設から抜け出します』
「おーけー!・・・抜け出します」
「わかった」
愛喪場がまた鳴くと、二匹くらいのグマ鳥がやってくる。キャビットの手をそれぞれ持ち、飛び立った。
「いんさい、と?さん?」
「名前覚えてくれたんだ、ありがとう」
「私がもつ、武器を仕舞って」
「!・・・助かるよ」
インサイトは言われた通り、拳銃をロックしては太もものベルトに差し込む。愛喪場は空を少し飛びたっては、両手を天にあげているインサイトをかっさらっていった。キャビットは二匹のグマ鳥によって、先に救出されている。片手をはずし、無線に呼び掛けた。
『皆!脱出するよ!グマ鳥が手伝ってくれるみたい!両手をばんざいして、その場で待機!』
サヴィーは一緒に飛んでくれた彼女に運んでもらう。IllLowとモウニングはすぐに見つかったが、ハスキーは二羽がそれぞれ片方の手を持って飛行することになった。
「・・・皆救出してもらえた?!」
夜空が見える。
「はっはー!やべえ飛んでるぜー!?」「隊長はじっとしていないと、落とされますよ?」「サヴィー、キャビット、IllLow、ハスキー、モウニング。揃っている」
モウニングが点呼をとる。インサイトが地面をよく見渡しては、愛喪場に呼び掛けた。
「あそこに降ろして!」
施設とは大分離れたところに、草木でカモフラージュした大型トラックがあった。S.KILLERのマークもばっちり入っている。愛喪場は合図をして、彼らを連れているグマ鳥は下降していった。ほかの数多くの鳥たちは迂回してから降り立った。
「・・・んん?」
キャビットは目を覚ました。既にトラックの看護用ベッドに寝かしつけられている。はっと起き上がり、外に勢いよく出た。外では、ほかのメンバーと数多くのグマ鳥たちが向かい合っている。そのグマ鳥の先頭に、愛喪場がいた。
「愛喪場ちゃん」
駆けつけた。既に話にけりがつき、グマ鳥たちがふるさとへ帰ろうとしている。
「すげえ数だなあこれ、何体いるんだよ?」
「456ですね」
「やるなぁ」
ハスキーとIllLowがぼやいていると、キャビットが背中から現れてくる。
「愛喪場ちゃん!」
愛喪場は、逃げずに彼が抱きついてくるのを止めなかった。が、不機嫌な顔だった。
「ぐぅぅっ・・・」
不機嫌に喉を鳴らした。
「鳴かない、鳴かない」
頭をポンポンされる愛喪場。ちょっと照れている。
「ウサギ猫、生きてた。私、毒にやられて、死んだかと思ってた」
「そりゃあ、生死をさ迷ったよ。愛喪場ちゃんが事前に解毒剤を混ぜてくれていた晩餐がなかったら・・・死んでたよ」
キャビットの頬に涙が伝った。
「逢いたかった。ずっと」
「・・・」
「謝らなくちゃって。君に牙を向いてしまったこと、友達で一生いつづける約束を、破ってしまったこと、グスンっ」
「あっそう」
「もばもば~ぁあ~」
「泣くな、うるさい」
「だいっすきだよぉおお~」
おいおい泣き出すキャビット。IllLowが玉ねぎスプレーを取り出してカシャカシャふると、ビックリして愛喪場から離れる。そしてIllLowの方を向いて目を真んまるくした。耳も拡張している。
「安心しろ、脅しだ」
どう安心しろと。
「・・・わ、わたしも」
愛喪場が少し頬を赤らめては、もじもじしながらも答えた。
「キャビットに遇えて、よかった」
サヴィーが心のなかで悶えている。目がとてもきらきらしているのだ。キャビットが何かアツいものを感じたのか、尻尾を振り回している。
「食べて良い?」
「嘘、遇えて嬉しくなかったよ!」
愛喪場は羽を振りかざし、空へと身を投じた。大群衆のグマ鳥は、空の遠いはるか北の方へ、消え去っていったのだった。
「・・・はい!見送り終わったし、撤収だよ!」
インサイトが手をパンと叩き、しんみりしているサヴィーとキャビットに呼び掛けた。
「・・・気に入られていたな、」
IllLowがサヴィーに呼び掛ける。遠くに消えてしまった後の空を眺めながらも、彼女は呟いた。
「毒があったから・・・彼女たちが生きていられるのかなって。思いました」
「?」
「ミントさんは、ピピカ族で。もしグマ鳥のように、ミントさんの種族も毒を持っていたらって」
「・・・」
「私たちと友達になることはなくても、生きていられたのだと思います。グマ鳥は、もっと派手な羽を持っていて・・・とても大きな翼で。きっと・・・」
手をわなわな震わせているのを感じ取った。サヴィーはガスマスクをはずし、腕についているファスナーを降ろして手をだした。
「hi0さんは、本当に毒を消す薬を作るつもりでしょうか?」
自分の涙を拭うためだった。IllLowはしばらく黙ってから、答えた。
「博士は成功させない実験のプロジェクトには、一切参加をしないそうだ。たしか、その薬の開発は他部門が運営している。しかも、ルーキーを固めたチーム編成らしい」
「・・・それなら、安心ですけど」
サヴィーは少し、笑ってみせた。
「あったら、欲しかったなぁ・・・」
カモフラージュ用の、模型の木や草を取っ払ったトラック。S.KILLERのメンバーを乗せ、走行したのだった。