暗い、暗い。俺、あれ。たしか警察っぽい人に助けを求めたら何故か後頭部を、殴られて・・・。意識が遠のいて。あれ、ルナはどうなったんだろ?
「目覚めたかい?ピピカ族の青年よ」
「!?」
目隠しと、口を縛っていた布を外された。当たりは暗く、俺はなぜか一つのスポットライトを浴びている。椅子に体を括りつけられて、身動きが取れやしねえ。俺の体力じゃ、間に合わない。
「な、何をすんだよこのやろう!!」
俺はその、暗闇に溶けている男に向かって言った。男はこっちにゆっくり歩いて近づいてきた。手にたくさんの宝石をつけて、なんとも高そうな王族の服を身にまとっている男が現れた。俺はそいつの顔をじっくり見て、答えた。
「お前、まさか・・・」
「そう!君の一族を買収して、それからオークションにかけて売りさばいているやつさ!」
「テメエええええっ!!!」
椅子から動こうとしてもびくともしない。この椅子は地面とくっついている仕様で、おそらく・・・死刑の時に使われる電気椅子、ってやつか。俺はそんなことをお構いなしに、敵に歯向かおうとする。
「まあまあ、そんなに怒らないでくれよ~、他にも捕まえる事ができなかった君の一族はいっぱいいるからね。・・・すぐに一緒の墓場にもってってやるよぉ?」
近づいてきた。
「君たちは僕達にとっては、家畜以下、の存在でしかないんだよぉ??そこのところよく考えて行動してくれよ~、手間かけさせんなよ勝手に逃げ出して・・・」
「ぐはっ!!」
相手の足が、俺の腹に食い込んできた。高い靴だ。その靴で人を蹴るなんて貴族がするとは思えない。
「てめえ・・・ナニモンだよっ!?」
「僕はただの貴族さぁ・・・!人に高価なモノを売りつけて商売をしているんだよ・・・!それも人体を基本としているんだよね・・・!臓器売色もろもろ、人の体の一部を愛す者達のための贈り物さ!僕たちはそういう組織に所属しているんだよ・・・ほぉらっ」
名刺を見せられた。俺は歯ぎしりしながらもそいつの顔を睨んだ。
「つまり、この組織が倒れない限りこの商売も密売も・・・」
スポットライトが増えた。そしてここが、一つのステージの舞台であることに気がつく。
「このオークションも成り立つってわけだ!ひゃーっはははははっ!!君が飼われるところはどんなところかなぁ!?変態の家?解剖の家?それともクッションにされちゃうか料理にされちゃうかな~!?!?くううはははははははははっ!!!!!!!!!!!」
「・・・」
怖い、そんなこと、流石に俺でもびびる。嫌だ、早くここから抜けださなくちゃ・・・!!
「・・・ルナっ」
「?」
「しつれいします!ミスター・マダロウ!」
「あん?今丁度いいところだったのに・・・なんだい?」
そのステージの部屋に入ってきた男は、あのルナを襲ってきた奴らと同じ服装をしていた。そいつは息を切らして話を進める。
「その男に付き添っていた男の話なのですが・・・?」
「なんだい?」
「そいつは、あの左腕の剣士、ルナという史上最悪の・・・殺し屋です!」
「それがなんだってんだ?」
「いいえ、一刻も早くその男も始末しないと・・・ここの組織がやられて」
「あの男は迷信だろお!?」
その部下の方へ顔を向けて、話を進める。
「一つの都を血染めにした?はっ!そんなの伝説でしかなくて、確証はないんだろう??そんな嘘に惑わされることはない、さっさと明日のオークションの準備を進めろ。そろそろお客さんに今回せりにかける生き物達をご披露目しなくちゃな・・・ホームページの更新は?」
仕事の話は真面目、だが趣味が吐き気のするものだ。その男はステージから降りて、その男に命令した。
「こいつを檻の中に閉じ込めろ。今回のせりにかける目玉なんだから、豪華に飾らなくちゃね!」
「はっ」
抵抗しても無駄だ。ここはちゃんと待たなくちゃ・・・。でも、もしこれでルナが助けに来なかったら俺は?
「・・・っ」
絶望だ。
カリカリカリ、ビー、ビー、カリカリカリ…カチッ、……カチカチッ
「・・・ん~っ?」
「どうしたんだよhi0、」
「いんやぁ~?」
hi0はパソコンの画面を見て、不気味に笑ってやがる。ったく、俺はなんでこいつの助手なんて努めてやがるんだ。いや、変な野郎に飼われて実験体にされるよりましなんだけど、でもこいつも実験体を探す野郎なんだよな。俺がその要にならなくてまじで助かるぜ。
「・・・ちょっと今回のせりに、面白い奴が出てきているねぇ」
「なんだよ?」
俺はhi0の近くにより、パソコンを覗いた。パソコンの光は正直つらい。hi0が見ていたページは、オークションのページ。しかも基本的に臓物や人体、生き物を取り扱っている場所だ。hi0はここのお客で、前回のせりで俺を落としてくれた・・・まあ、命の恩人でもあるか。
「あ?なんだこのヒョロイ男。こいつを実験体にでもしたいってのか?」
「違うよ、ほら項目をご覧?」
「・・・ぴ、ピピカ族!?」
「そそー、君みたいな生き残りが、こんなところで捕まっちゃってるねぇ~。しかも、これ・・・」
「?」
コーヒーを手に取り、香りを楽しむhi0。俺はその画面の男をよくよく見てみる。本当に細い体だ。こんなんで飛べるのか?
「飼い主付きだったとおもうなぁ、名前はたしか・・・ミント君?」
「知り合いが・・・っ!?」
「そゆことー、」
hi0は電話を出して、誰かにコールする。
「・・・そんじゃ、今回のせりの目星はこの子」
画面を指さして、俺に言った。
「しっかりガード頼んだよ~?ウォッカ君♪」
「・・・お、おう」
『んだよ、今忙しいから後で』
「君の子犬ちゃんがせりにかけられているよ?」
どうやら飼い主と電話でつながったらしい。hi0の友達なんて、ちょっと想像できないけどな。俺は耳が良いから、会話は筒抜け。hi0もそのまま俺に聴けという指の合図を送った。俺は静かに、作業を止めて耳を傾けた。
『・・・やっぱな、あの変態野郎に捕まえられたか・・・!くそっ!』
「んー、状況が分かんないんだけど、君が売ったようじゃないんだね?」
『売るわけねえだろ!アイツのこと俺は・・・っ、』
しばらくミュート。
「あっつあつぅ~★」
『首掻っ切るぞ?』
「で、今何してるの?」
『S.KILLERのとこで身元を割った。お前の今の情報で完璧にアイツだと的を絞れたぜ』
「そうかい、んじゃ僕の出る幕はないのかな~?今回のせりに多分僕は出るよ」
『!?』
向こうの息遣い・・・三人くらい聴こえる。あっちの方にも味方がいるみたいだ。
「もう君はS.KILLERのところに伺っているのかい?たしかS.KILLERもその組織を潰せってお達しがきてるんだったよね?」
『俺の依頼も、そのついでにしてくれるみたいだぜ』
「んじゃ僕も依頼~、あのオークションでかけられているもの、一個覗いてぜえんぶ頂きたいっ!」
「ねえよ、」
思わずツッコミをいれた。hi0はしーっと唇に人差し指をたてた。
『・・・壊滅が目的だろうから、多分品を盗むどうこうは関係ないぜ。俺もその枠だしよ』
「あそっかー!やったね!今回のせりのもんは僕が頂くよ・・・!!」
『ミントは渡さねえ』
「はーいはいっ、触らぬ熱々カップルに祟りなしっ」
『まじでぶった切るぜ?』
「んじゃ、僕が表向きに君たちに情報を提供する、"お客サイド"で侵入させてもらうよぉ。しばらくこのオークションに金貢いでも退屈でさあ~、」
hi0の手元にあったクッキーが、いい音を立てて食べられている。
「そろそろ潰しにかかろうと、思ってたんだよねぇ~★」
性格はあっちの変態と負けず劣らず、だぜ・・・hi0。
「はい、そんじゃそゆことで★明日のせりに出場するまでに、なにか連絡が欲しかったらちょうだいねー、んじゃ♪」
電話を切る。それからこっちを見た。お気に入りの白いコートに腕を通すhi0。本気だな。
「うっし、おちょくるぞー♪楽しくね、潰してこう★」
「・・・はぁ、趣味悪いぜお前もそこそこ・・・」
「うぅん、褒め言葉っ」
俺達は部屋を後にした。
「・・・ふぅ、」
「話がうまく進んだみたいですね」
俺は携帯をおいた。まさかのhi0からの電話で、あいつもせりの情報を掴んでいたとはな。これで状況が一気に好ましくなった。
「作戦を練り直すと、こうなりますかね」
ディスプレイに映し出される、向こうの貴族の家。豪華な家だけど、この金の大半は汚れているんだろう。インサイトがてきぱきと説明した。
「きっとhi0さんのことでしょう。目星のものは本気で取りに行き、興味のないものはお金をかけない。ミントくんのせりが確か、最後から三番目、19番の時です。この時彼に思う存分、開場を泥沼におちょくっていただきましょう」
「くははっ、容易に想像できるぜ!w」
ハスキーがそう笑う。モウニングは無言のまま、俺もそのまま話を聴いた。
「そしてここからですが・・・僕たちはhi0さんの専属ガードマンとコンタクトを取り、ガードマン専用の服に化ける側。と騒動を起こして舞台を混乱に招く側と分かれます」
「混乱させるぜ俺!それで奴らを片っ端から頭なくしてやらぁw」
ハスキーは楽しそうにそういった。助かります、と一言インサイトが添える。
「それじゃあ僕は遠くのところから、スコープ越しに指示をだしますね。ルナとモウニングはガードに化けて、その騒動から品物を回避させるときにミントくんを救出しましょう」
「その作戦、hi0はくいつくだろうな。特にミントのせりのところでおちょくるところはきっと楽しくやるだろうな」
「hi0さんも危険な橋を渡るの、大好きですものね・・・」
インサイトは呆れつつも言う。
「話は以上か?注意事項とかは、」
「今回のせりに猛獣もいるようなので、そこのところだけですかね。あとあのオークションのガードはかなりのものです。おそらく徹底的にセキュリティーを設けてくるでしょう」
「システムの混乱はインサイトに任せた。私は裏から一人ずつ、消してゆこう」
モウニングがそう言う。
「分かりました!それでは、解散!明日にまた連絡のメールを流しますね」
会議は終了。俺は家に戻って、部屋になにも仕掛けられていないのかを気にしながら、拳銃を持って調べる。留守にすると本当に危険度が増す。侵入されて高価なものを盗む奴は可愛いもんだ。中には俺を殺したくて仕方がないやつがいる。寝ているベッドの下に爆弾が仕掛けられていたことだってあった。くまなくクローゼット、ベッド、タンス等を開けて、探って、何もなかったら元に戻す。それをやっと終わらせた。
「・・・ふぅっ!」
座り込む俺。やっと一人になれた。
「・・・ふぅ、ははっ」
寂しい、だなんて柄じゃない思いがこみ上げてきた。やばい、アイツがマジで好きなんだこれ。辛いなぁ、あいついつかは俺の元を離れるってのに。この虚しさが今後、襲い掛かってくるってのかな。
「・・・早めに、けりをつけにゃなぁ・・・」
俺の気持ちにも、あいつを逃がすことも。
「はい、はーいようこそ!僕の館へ!」
門のところで呑気な声をして、宿主がお客を招いている。皆仮面か洒落たメガネをして、もしくは女性ならではの可愛い扇や布付きの帽子で、顔を一部隠している。S.KILLER一同はとある離れたところで、車に乗りつつ様子を伺っていた。
「派手ですねぇ・・・特に服装と言ったら、やはり貴族ならではの魅力的なデザインです・・・」
「奴らの服を剥ぎ取った方がカネになるんじゃねえのかなと思うぜ?俺は、」「同感だ」
ルナとモウニングは意見が一致する。その車の後ろでタロットカードをつついて遊んでいるhi0が声をあげる。
「僕の役目は、不審な動きのする者がいたら君たちの情報屋に報告、それとミントくんのせりのところで大いに空気を泥沼にする、ってことでいいんだね?くくっ」
「そうですね、大いに泥沼にしてください。突然部屋が暗転しますので、その時はウォッカ君に助けてもらってください」
「はいはーい。裏口に行って、あとはモノ盗んだら良いんだねっ♪」
「そこはお好きに」
苦笑いをしてインサイトはこう答えた。hi0は車から降りる。彼らしく、着飾っていないいつもの白衣衣装である。仮面はいちおうつけている。狐の仮面だ。妙にしっくりくる。
「そんじゃ、いってくるよー」
hi0とガードマンの服を来たウォッカ、モウニング、そしてルナは車から降り、宿主の受け付けのところまで行った。hi0が大きな声で呼んだ。
「お~い、ミスター・マダロウ!!」
相手が苦い顔をした。やはり嫌なトラウマを植え付けられているのかとルナ達は思った。ウォッカが耳打ちをした。
「全部、こいつのほしいものを片っ端から奪っていった時があったんだよ。それがあって、hi0が来た時はお気に入りのモノなのかさとられないように掛け金を宣言するけど、あいつに全部筒抜け」
「ああ、可哀想だな。良い獲物ということな」「あの豆腐メンタル臭がする王子には、きついかもしれんな」
「や、やぁhi0君。君も来たのかい?」
「あったりまえだよぉ~!君のせっかくのせりの競技に出ないわけないだろぉ??友達だからさっ♪」
心底吐き気のしそうな言葉を、清々しい顔をして申すhi0。マグロウは汗をかきつつもhi0に対応した。
「き、今日の君はボディーガードが三人もいるんだね、厳重だなぁ・・・」
「えっ?君知らないのぉ?」
hi0がマダロウに腕組をして、ヒソヒソと話した。
「君が捕まえたらしいピピカ族のことなんだけど、彼にはルナという男がついていたって噂だよ?」
「どっ、どこからそれをっ・・・!?!」
動揺している。hi0はケタケタ笑いながらも話を続けた。
「判らないわけないだろぉ?はははっ、僕の情報網はとっても多いんだからねっ★でも彼の所有物に手を出しちゃった金持ちは、後でいた~い目にあって死んでゆくって話だったんだけどねぇ~?」
「へっ?」
「ほら、前に金持ちの大男が全身に鋼の針だらけになって死んでいたってニュース、聴いてない?」
それは俺が依頼で、そいつを恨んでいる組織の報酬がうまかったからかな・・・。と心の仲で呟くルナ。マダロウの顔が青ざめた。いい脅しをするな、とモウニングは思っている。hi0の嘘は非常に見えにくいのだ。
「えっ・・・?それって、僕・・・」
「まぁ、その金持ちのしたことが気に食わないで殺した、なぁんて話はないけどね~♪僕の中では、彼は仕事人だって分析だから♪」
「そ、そそそそうかぁ」
「高価なピピカ族なぁんてモノ、欲しがる組織にお達しがな・け・れ・ば、の話だね~!」
「!!!」
一気に真っ青だ。これにはガードマンも笑いを堪えるのに必死だった。モウニングを除いて。
「そんじゃ、せりの時にはよろしくね~っ」
「は、はははっ、負けないよ!hi0君!」
棒読みがバレバレである。これには流石にルナが吹いた。モウニングが肘でルナの腹をつついた。
「我慢が足りんぞ、傑作だがな」
そのモウニングの意外な褒め言葉に、今度はウォッカが吹き出した。hi0がため息をつきながら3人のガードマンに言った。
「とにかく、ボディーガードは口多いとうざがられるよぉー?黙ってついてくるっ」
そう言われる前に、彼らはこれから入る部屋の空気に少し異変を察知し、気を引き締めたようだった。hi0は少し笑って、彼ら3人に説明した。
「ウォッカも連れてくるのは初めてだよね?なんてったってここは・・・」
hi0は盗聴用のマイクにも聴こえるように、耳の後ろをかくようなふりをして、スイッチを入れた。
「臓器、絶滅危惧種、遺品、動物の亡骸もせりにかけちゃうようなキチガイ専用オークション。僕も、ここでしか手に入りそうにもないような、ピピカとか鋼族の甲羅とか・・・」
「!」
「どうだい?興味あるだろう?」
「・・・・・・」
ボディガードを務めるルナは、ただ黙ってステージの方を見た。
「座りにはいかないよ、部屋の縁側の壁にでもすかってよーっと」
hi0はそう言って、ステージの一番遠い席のない廊下側に佇んだ。そしてせりが始まった。
『皆さん!今回の第一品目は・・・"魂獣族の第三の目"!』
「!?!?」
ウォッカの心臓が、大きな音をたてて恐怖にしびれた。ルナがそれを感じ取り、肩に手をおいた。
「しっかりしよろ、ガードマンさんよ」
「・・・わ、わりぃな。最初の品がまさ俺の種族に関わるモンだと思わなくってよ・・・」
「!」「・・・ビーストか」
ルナが驚き、モウニングが小声で冷静に聞き返した。
「俺達の、第三の目・・・そうだな、ビーストの目だ。なんであれがあるんだよ・・・」
「さあね、ここの主のするところだからー・・・どこかでルート手繰って買ったか、盗んだか」
「・・・つまんねぇ野郎だ、ったく」
hi0は取る気がないようだ。ウォッカも深呼吸をしている。
「僕に取れって言わないんだね?」
「目だけとってどうするつもりだ?他の生物に目を埋め込んだとして、そいつが能力を操れるとでもおもってんのか?」
「第三の目移植計画はさんざんやったよ。結果は破綻。莫大な権力者が割り込んで体を乗っ取られちゃって、全員ビーストから戻れない状態。あの目は呪いの目だよ。使えないったらありゃしない」
「・・・けっ、よくお分かりでhi0さん」
「だからあれはと~らないっ」
「俺もその方が良い。仲間の目を傍に置かれたって気味が悪いだけだぜ」
せりが始まった。1から8番目の品に関しては、ある程度欲しい人が決まっているのか、とても早く進んでいった。9番目の品から、せりに参加する人数が跳ね上がり、ステージは白熱しはじめた。モウニングが動いて、ルナに合図した。
「そろそろ行ってくる」
「おう、」「慎重にな」
ルナが拳をモウニングの拳にあて、ウォッカは小声で注意した。モウニングはガードマン専用の裏口通路から抜け出ては、手袋にとある布を持ち、そこに睡眠効果が強い化学液を染み込ませた。一人ずつ、確実に仕留めるためだ。
「おう、新人だな。ここの廊下は」
尋ねられたガードマンの背後に瞬時については、肩に飛び乗り、その布を口元に当てる。すると前からガードマンが二人ほど来て、目撃された。
「誰だお前は」
叫ばれる前に、音がちいさいピストルで頭を撃ち抜いた。
「・・・ふぅ、」
図体のでかいその3人を引きずっては、人影のないロッカーに突っ込んだ。慎重に一人ずつ狩る。そして裏の廊下は基本的に薄暗く、明かりも天井に飛び飛びで付いている。これはある程度の血もバレそうにない。なにせ赤いカーペットなのだから。モウニングは愛用している短剣を手にとった。この短剣を首元でそっと触れて、息の根を止めることで、確実に人を減らしてゆくのだ。
「こんなしょうもないせりに、一体何人もの大金持ちが来てるんだ?」
曲がり角で話し声が聴こえる。モウニングは常に自身の身につけている盗聴器を最大にしている。それはインサイトに無線で音を聴いてもらうためにしている。話は続く。
「ざっと、200人かな?」
「おいおい、そんな大人数を相手に、たったの20品をせりにかけてるってーのか?」
「バカ言えよ、せりの20品にはいちおう、同じ商品がある。あの19番目の品はただひとつだけどな」
「えーっと、ピピカ族だったか?」
「そそっ」
モウニングはそのセリフが言い終えたタイミングで、二人の後ろに忍び寄る。一人の喉をかっきり、二人目はピストルで狙い撃った。確実に人は減っている。
「・・・現在、8人目を捕らえた。まだいるかもしれない、表に状況が変わらないように、慎重に任務を遂行する」
モウニングはそう無線機に呼びかけた。ウォッカがそれに返信をした。
「ああ、頼んだぜ」
『お次の商品、13番目の品は~!』
ナレーターがはりきる。だんだん生きている商品へと変わっていった。そして数も少ない。三匹しかいない珍しい獣の赤ちゃん。どういう獣なのか説明をしていたが、ほとんど聴き流されている状態で、誰しもが狂うようにせりに参加し始めた。ナレーターもこれには呆れて、さっさとかけられた金額を把握してゆく。
『おぉーっと!650万!?さらに上乗せで700万!?!これはこれは』
「730万」
hi0が、今まで傍観だったのを参加し始めた。hi0の瞳は、あのステージの檻の中で怯えている三匹を見て興奮しているようだった。
「これは見たこと無い生き物だぁ!なんかの雑種かなぁ!?それともまだ赤ちゃんの姿が確認されていない森の獣族なのかなぁ!?どちらにせよ密猟者の仕業ではありそうだね~♪」
「「っ!?」」
傍にいたルナとウォッカは、びっくりしてつい小声で聞き返した。もちろん、この会話はインサイトにもモウニングにも聴こえている。
「もしかして、あの男は・・・?」
「ピピカ族の飼い主さんが見たヘリコプター、あれはダミーだよ。塗装がよく似ているけど、あのヘリは密猟者達が共有して使っているヘリコプターのマークがついている。敵の服ががっちがちになっているのも当然、そのヘリを支給している出処のおかげなんだよ。僕の推測だとー、あのピピカ族を襲った密猟者は・・・どこかの政府と繋がっているよ」
「・・・なるほどな、それならあの装備品を持っていても不思議じゃねえな」
「きぃー、かったるい!んで、どうするんだよ?」
「情報を抜き取っちゃえばいいんだよっ♪ルナの写真を流してもいいよー?僕の知っているパパラッチさんに★」
「・・・くはっ、頼もしいぜ」
ルナはそう笑った。hi0は見事にその獣三匹を手に入れたのだった。hi0はとても嬉しそうに、いや表情は黒いのだが笑っている。
「さあて、そろそろ時間稼ぎでもしよっかな~★・・・ルナはハスキーの騒動とともに、せりにかける品を避難するふりをしてあのピピカちゃんを救出だよね」
「おう」
「んじゃウォッカはそのピピカに近づくまでの距離、見張っててやってよ。僕は平気、騒動に巻き込まれても問題ないからねっ」
「けっ、お前と戦おうなんて馬鹿はいねえよ流石に」
「おりこうさんっ♪そんじゃ、19番目の持ち主決定まで、カウントダウン・・・」
・・・本当に、ここは暗いし、寒いし。俺は檻に入れられて、身動きも取れないし、体中麻痺しているように感覚もない。変な薬を盛られて、感覚がないんだ。俺は檻の下についているミニタイヤでステージに引っ張られ、スポットライトを浴びた。すごく眩しい。視界がぐらついて、何がなんだか判らない。人の声もぐわんぐわんして、聴き取り辛い。だんだん聴覚が戻り始めている。
『・・・と言っても、この綺麗な体色で作り出される羽が特徴的なのがピピカ族!彼はどうやら青年のようです!これはとても価値のある存在でしょう!さあ、最初は1万円から!!』
「・・・はっ!」
ナレーターの声を聴いて、俺ははっきりした。ここはステージで、今俺は・・・オークションにかけられている!?ここから逃げ出さなくちゃ・・・!なんとか腕を動かそうとするけど、腕についている鎖があまりにも重い。そして足枷も付いている・・・。これは動けれない。飼い主が決まって、なんとなしに逃げられるタイミングを掴まなくちゃ・・・!
「はーい800万!」
「っ!?」
俺はぎょっとした。聞き覚えのある声が、俺のオークションで金をかけている・・・。あの金髪のムカつく顔をしている人は、まさか!?
「ん~っ、やっぱもうちょ~っとさげて、780万っ!どお?これでもっと値段挙げられるかなぁ~っ?」
「・・・」
性格が悪い。俺はちょっと嫌な視線を送って、そのhi0の行動を見届けていた。hi0の金をかける単位が上がれば上がるほど、周りが苦い顔をしている。と、ここでとある男が声を張り上げて、俺の掛け金を倍にして声を上げた。
「7800万!!!」
『おおおおおおっとお!!?これはかなりの大金!全てをかけたこの戦い!hi0は挑むのかあっ!?!』
しかし、その次のかけをする者は、hi0を含めて誰もいなかったのだった。その男は大喜びをして、飛び上がった。他のものが悔しそうにしている。hi0は涼しそうな顔をしてただ様子を伺っていた。
『おめでとうございま~すっ!それでは、このピピカ族はナンバー』
唐突に、光を失った。そのいきなりの暗転に、どうやらナレーターも声が途切れた。そしてざわつく開場。俺も不安になってここから抜け出したくて、暴れようともがいた。少しずつだけど、感覚も戻ってきている。これならいける!
「品を避難させましょう!」
「!?くそ・・・!!」
ステージの下手側から、人の声がする。どうやらガードマンっぽい人たちがステージに来ているようだ。暗くて姿もみえない。
「俺が持ってきます!」「・・・?」
聞き覚えのある声。その人が高そうな靴音を立てながらも走って来た。そして、俺を閉じ込めている檻を動かした。
「くそっ、くそっ、くそっ・・・!!!」
心が焦り始める。胸がざわつく。恐怖を覚え始める。ここから抜け出さないと、俺はあの野郎に引き取られて、そのあとはどうなるのか想像もつかない。早くここから脱出しないと、くそう!!
「遠くから何か音が・・・!」
「ぶっ壊してやるぜええええ!!」
「っ!?」
突然のライトアップ。電源が戻ったみたいだ。そして俺が目撃したものは、あの片目の大男がカマを持って暴れている姿だったのだ。もしかして、S.KILLERがこのオークションに殴りこみを!?
「逃げましょう!この荷物が邪魔だっ!!」
聞き慣れている声の主は、なんとどんな武器を使ったのかわからないが、俺を閉じ込めている頑丈な檻を切った。俺の足枷もついでに切れている。俺はこの能力を知っている。後ろを振り向いた。
「さあ、いきましょうぜ?」
ルナだ。ルナが、俺を迎えに来てくれた。
「・・・・・・っ」
こみ上げてくる謎の思いのせいで、何も言い返せなかった。俺は黙ってルナにおんぶされた。もう一人のガードマンは、見たことないけどまったくルナが侵入者と気づいていないみたいだ。彼らの向かう先は裏の廊下側。そこはたくさんガードマンがうろついていた記憶がある。これじゃあルナも危険なんじゃ・・・!?
「!」
余計な心配だった。薄暗かった廊下は通常の明かりの量に戻されてはっきり見えるようになっているのだが、当たりは首を小型ナイフかで掻っ切られて死んでいるガードマンが、壁に綺麗に座ってもたれていた。
「うっひゃぁ~、すげえなお前さんらの仕事人はよ」
もう一人のガードマンがそう声を上げた。ルナは鼻笑いをしつつもその男に答えた。
「モウニングは仕事の早さと静けさはピカイチだからな、裏の仕事は、あいつにもってこいだぜ・・・!」
そう言って、走り抜ける二人。この人はきっと味方だ。ルナがなんともなしに話をしているから、そう感じた。ルナともう一人のガードマンは、廊下を抜けて裏口に出て行った。外からでもハスキーの乱暴な言葉と爆音が聞こえてくる。
「うっひょう、派手だぜぇ全くよwお前の飼い主さんは大丈夫かよ?」
「あいつはどおせもう裏のところに行って、盗みたい物でも目利きしてるところだろ~よ」
「くはっww余裕だな、」
後ろに荷物を持っていけそうなトラックに向かう。その運転席にはモウニングがいた。俺はその乗り物の後ろに放り込まれてしまう。
「一回S.KILLERの拠点に戻ってくれ!俺らもそっちに行く!!」
「ま、」
やっと俺の声が戻ってきた。でも高鳴る鼓動に俺の思考が奪われてしまう。
「どこに、行くんだよ」
「あ?ハスキーの手伝いに決まってんだろ!俺だって破壊活動してええええよ!」
楽しそうに言うルナ。そう言いつつも上の洒落たシャツを脱ぎ捨てる。俺はその時にルナの胸元にある大きな傷跡に、目を奪われた。ルナはしまった、とでも言わんばかりを顔をして、すぐに笑った。
「安心しなって、」
頭をくすぐられた。
「仕事終わりゃあ帰ろうぜ、お前は一旦避難、な?」
まって、俺何がなんだかさっぱりだよ。助かったのはわかるけど、いつの間にこんな気持をルナに抱いてたってんだよ。
「さっさと終わらせてこい!」
俺は普段通りにふてくされながらも、応答したのだった。トラックの後ろのドアが閉められ、俺はモウニングによって運ばれたのだった。
「・・・胸騒ぎしかしねえ、俺どうしちゃったんだろ・・・」