「それでは、行ってくる」
「はーい。モウニングの居場所、GPSでしっかり見ておきまーす」
『俺もバックアップするぜ。何か派手な暴れ役欲しいって思ったら、俺に言えよ!』
「もちろんです、ハスキーさん」
モウニングが、インサイトの家から出ていった。それからインサイトのGPS端末が光りだす。無線ではハスキーと通信をとっている。通信機器が話し出す。
『それにしても、なんも展開なかったのか?』
「・・・はい?」
『モウニングとの』
ものすごい、嫌味ったらしい声が聴こえた。
「はっ!?」
『お前意外とぬかりねぇよな~、そんだけのアプローチがありゃぁ、殺人鬼でもコロっていっちまいそうだよなぁ~・・・』
「ふっざけないでください!それに、何ですかコロッとイクって!!」
『え、そういう関係になるって意味だけど?』
こいつ。
「・・・誰が、誰と、ですか・・・」
『とぼけんなっ、お前前からモウ二ングに対してはやたら優しい振る舞いをしてたじゃねーかよ』
「あれは、彼が人よりハンデが多いからです。それ相応に接触していただけです」
『・・・ほぉ~う・・・?救出したら、何する?』
「何を、ですか」
『告白するの?しねーの?』
「・・・今一番大事な時に、そんなくっだらないことを喋らないでください、切りますよ」
『へ~いへい、何かあったら伝えてくれよなー、お前の将来n』
ぶちっ。
「なっにが将来のお婿さんだ、この包帯野郎」
インサイトが口調を崩して愚痴を漏らした。
「はーい、そんじゃ検問するよー」
モウニングが武器を学者に預かってもらう。検問によってGPSがはじかれることがなくなった。流石に武器を調べる必要がないと向こうは思っているようだ。
「・・・はい、何もないねー」
学者の人がモウニングを解放する。部屋の奥に進んでいった。グローアが待っていた。
「おはようモウニング、よく眠れたかい?」
「通常通りです。インサイトがこちらの情報を盗むような言動はいたしませんでした」
モウ二ングは、あくまでインサイトを疑っているような言葉を漏らす。グローアがそれを聴いて安心した。
「そうかそうか・・・!それは良かったよ、ホッとした」
グローアはモウ二ングを、治療用のベッドに寝るよう指示する。するとベッドは、自動でモウニングの上半身を起こすような形になった。睡眠薬が投与され、しばらく意識を失った。
「それでは、早速目の視力を解除してくれたまえ」
「はっ・・・!」
モウニングの目に、とある機械が当てられる。
「視力は人間より上にしておこう。殺人兵器は既に能力値を高めにしないと売れないからね」
「モウニングの視力を回復中・・・」
「順調です。数値に乱れはありません」
「よしよし・・・」
モウニング・・・。記憶を消そうかどうか、悩むなぁ・・・。じゃないと視力がある理由を喋ってしまって、記憶がないのに感謝しなくてはならないなんて気持ち悪いからね・・・。
なんて言うと思ったかな?バカだね、消すよ。
それからインサイトという男を抹消する。
ここで視力を取り戻して、リハビリを行っている最中にね・・・。
グローアがメアーセル医療会社に電話をかける。
『社長、おはようございます!』
「うむ、ご苦労さま。ちょっと頼みたいことがあるんだけどね~」
『はい、なんでしょうか!』
「インサイトという雇用者がいるんだけどね、消しといてくれないかな?」
『消す、、抹消ですか?』
「そうそう、殺して適当に臓器を売れるようにしといてね~」
『判りました!』
「それじゃ、よろしく頼んだよ」
「・・・よし」
インサイトは会社に行かずに、そのままGPSの光っている方向へと、向かっていった。おそらく自分が追われている立場になっていると思い、自分の家にはベッドに人形を寝かせて、カモフラージュをさせておいた。通信機が荒々しく鳴く。
『おいおい、命令でお前を消せって言われたぜ?盗み聞きしちまったけどよ』
「あらあら、それはご丁寧に」
『俺はどうしたら良い?』
「彼方のお得意の方向で、頑張ってください」
『お~けぇい、任せろ・・・!』
「またかけ直す。これから潜入する」
『インサイトがアクティブ!やべぇ~今日雨が降るわぁww』
インサイトは通信機を切った。思った矢先、後ろから車が猛スピードで自分めがけてきた。
「もうバレたの?」
インサイトは、自分が履いているブーツについている、スイッチをオンに切り替えた。するとブーツの下からローラーが出てきた。後ろにはエンジンのブーストがついている。そして手元に、三秒で爆発する物を仕込んだ。
「よし!」
インサイトは車に向かって、ローラーで走り出した。ジャンプするとき、ブーストでジャンプ力を上げ、車の上に飛び乗った。その車の頭に、爆弾をセットして飛び降りる。ローラーで遠ざかりつつも、セットした爆弾めがけて銃弾を当てた。派手に爆発した車は、一気に火のモズクとなった。
インサイトは、負けず嫌いだ。
だから、戦うと誰よりも強い立場でいるために、隠してきた技があった。
「今日の僕は、誰にも負ける気がしないので・・・!」
インサイトがローラーで走った。すると今度は、ガトリングを背負ってバイクで走行している人、三名がお相手だ。
「ちっ」
舌打ち程度。インサイトは壁に向かって走る。ブーストによって壁渡りを可能としている。敵がバイクを運転しつつも、インサイトを狙う。が、全く当たっていない。インサイトが壁を蹴って空中に飛んだと思いきや、バイクに乗っている人の肩に、着地する。
「ばいば~い」
そう言って蹴ってはジャンプして離れる。その反動でバランスを崩したバイクが、隣のバイクにぶつかり、また隣のバイクにぶつかって三台とも転んで壊れてしまった。
「・・・ふぅ」
インサイトが壁の上に行き。屋上に足を踏み入れる。そこでGPS探知機を取り出し、位置を確認する。
「・・・ここの建物の地下だね」
「おはよう、モウニング」
モウニングは目を開ける。眩しい。手術用の明かりは普通の電灯よりも眩しい。ベッドがモウ二ングを寝かしつける。モウ二ングはそこから起き上がり、自分の腕を見た。
色がつくと生々しい。これが今まで自分が訓練を受けてきて、それ故に傷ついた体か。
「知識の方ももう辞典の単語と、それから数学の論理的な知識、物理も一応搭載しといたからね」
「はい」
インサイト・・・インサイト・・・。
まだ覚えている。
「よし、早速テストにとりかかろう」
モウニングが、とある部屋に連れ込まれる。そこはシュミレーションルームと呼ばれており、立体視できる映像を触れるように出来る部屋だ。例えば、医者の手術のシュミレーション、軍隊の戦闘のシュミレーションに使われている。
「立体視メガネをつけて」
「はい」
モウ二ングは地面が動くようになっている部屋の中心で、そのメガネを渡される。メガネの中はまだ暗い。しばらくすると、部屋が見えた。
「それでは、これから立体視による敵の認識テストを測る。準備はよろしいかな?モウニング」
「イエス」
そうモウニングが返事をすると、メガネの中から、人の形をとった映像が出てくる。
「これから、映像に出てくる人を斬っていってくれ、君の手持ちの武器でね」
モウニングが、あのGPS探知機を付けている武器を持ち出して、映像に映る人に斬りつけていった。感触が伝わる。そのメガネは、脳に直接感覚器官に刺激を与えている。だから、触ったときの感触を再現できるのだ。
「いいぞ、その調子だ」
グローアはそこで、その刺激を与えるメガネに、とあるコマンドを打っている。今のうちに、記憶を除去しようと思ったがためだ。
Mourning>Reset : Memory -allClear
「っ!?」
メガネの与える刺激に、痛みを感じたモウニング。とっさに危機を感じてメガネを外した。
「どうした?モウ二ング」
グローアは、あとは実行キーを押せば記憶を消去出来る状態で、止まってしまった。
「・・・何か、痛みを感じた」
「それは気のせいだよ、脳に痛覚は存在しない」
「・・・いや、何か」
「さぁ、テストの途中だよ?ちゃんと練習しなきゃ――――」
モウニングが、ガラス越しにいるグローアに向かって、武器を投げた。
「ひぃっ!?!」
ガラスはぎりぎり、モウニングの投げた武器を食い止めた。だがモウニングがそこに更に蹴りを入れると、いとも簡単にガラスは粉砕した。
「なっ、なななな何をするんだい!?」
この例外な行動に、グローアはただ腰を抜かして座り込む。モウ二ングは刀を拾い、それからグローアにこう告げた。
「私は、ただの人形ではない。・・・もうテストは十分だろう、戻らせてもらおう・・・!」
「こら、待ちなさいっ!誰かっ!閉めちゃって!!」
グローアが焦って女口調になっているのが気になる。モウ二ングは滑り込みで、その研究室から出ていった。それから立ち上がり、明るい廊下を駆け抜けていった。
「逃げ出した!実験体がだ!!モウニングを抹消対象として、必ず捉えろ!!」
グローアは、別にモウニングが死んでくれても構わない。
モウ二ングを何度でも生成できる立場としての、冷酷な判断だった。
『大変です!応答してください!』
「今度はなんだっ!?」
グローアがおぼつかない足取りで、通信機の方へ向かっていった。
『上から情報コンセントをハックされ、私達の機密情報を流されました!』
「なぁにぃ~~っ!?!」
『ほぼ、マスコミでは一切伝えていない・・・機密情報の・・・』
殺人兵器作成に関しての、細胞育成マニュアルか・・・っ!政府の軍隊長から守ってきた、兵器生成術がっ・・・!?
『申し訳ございません、重ねて・・・っ何だ貴様っ!』
「今度はなんだっ!!さっさと話を―――――」
『ぐあっ!!・・・ふぅ~ん、』
ドクン。
聴いたことのある声が、その通信機から漏れた。グローアは危機感をこれまで以上に感じた。
『こんな旧型の通信機でやってるんだ~、通りでセキュリティが甘いなって思う訳だ・・・ねぇ、』
「貴様っ・・・!」
『グローア社長さん、モウニングは今、どうなっていますか?』
何故生きているのだ!?始末できていないじゃないか!いや、あいつらも仕事はきちんとできる、プロの殺し屋ではあるのだ!それなのに、こんなもやしみたいな男を逃すとは・・・!
「インサイト・・・!?」
『あははっ、意外って声をしていますね!残念でした、僕はそう簡単に殺されやしませんから・・・!』
「貴様ぁあ!!」
『モウ二ング、返してもらいますね・・・!』
ガシャン!という耳に痛い音とともに、通信機が途絶えた。インサイトのいる部屋は、通信を主に管理する部屋だ。それを屋上から数えて近いところに、部署を置いていた。計算外の侵入だった。
「どうやって、この建物の屋上から・・・!・・・ふっ、まぁいい」
グローアが不敵に笑う。それから、とある携帯を取り出し、ボタンを押した。
「ここにいる生き物は、全てが完成されているものではない・・・ふふふ」
「社長、まさか・・・!」
近くにいた助手が、声をあげた。グローアは不敵に笑う。
「逃げなよ、ここは未曾有のバイオハザードになるからね・・・。君たちはここまで非人道的な研究に関わってくれた、勇者だよ。感謝する・・・」
グローアが、自分の流れる涙を理解していないのか、そのまま話し続けた。
「もうここの秘密は漏れたんだ。このあからさまに悪いことをしている実験を検挙しに、警察がやってくるだろう。そして、君たちはきっと訊問される。・・・」
グローアが、自分のいつも使っていた大きなモニタの前で、両手をつきながら、こう続ける。
「逃げなさい。私は君達のことは口にしない。約束しよう・・・。私が、社長だ」
「・・・でも、兄さん―――――」
一人の助手がそう言うと、グローアが声をあげた。
「逃げろと言ってるだろ!!!・・・お前たちを、ここまで巻き込むのは・・・俺としても、いやなんだ・・・」
助手は静かに、その部屋を出ていき、それから消えていった。助手たちが消え去ったのを確認してから、モニタを見、そしてキーボードをタイプする。
「・・・まだやられていないようだな・・・よぉし・・・!」
まだ、戦える・・・!
グローアが初めての状況に、好戦的になる。モニターから、この建物の乗っ取られていない監視カメラを検索し、そこから地下室を選択する。
「・・・ふははっ、ふはははっ!!」
そこに映されていたのは。
モウニングと瓜二つの、姿をした生き物が地下から何人も写っている。
「モウニングはただの殺人兵器だ・・・そこにオリジナルは存在しない!」
マイクロフォンをとり、地下に呼びかけた。
『さぁ、お前たち・・・名前をさずかった、お前たちの同類、モウニングを殺せ』
不気味な、イエス、という声が響き渡った。それからグローアは付け加えた。
「そうだそうだ・・・君たちを見て、"モウニング"と呼びかけた男は・・・嬲るなり食うなり好きにしなさい」
地下室から、軍隊が出動した。コードネームは皆、Mourning。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」
インサイトは廊下を走っていた。両手を使ってかかえる銃を手にしつつ、ただ廊下を走っていった。
「っ!?誰っ・・・!」
廊下の角から、異様な気配を感じ取り、立ち止まるインサイト。それからゆっくりそこに近づいてゆく。
「私だ―――――」
角から現れたのは、モウ二ングだった。が、包帯はつけておらず、目も開いている。ガラスのように透き通った目をしている。色はワインレッド、どこまでも紅い。
「・・・目は、見えているの?」
「何を言っているんだ、早くここから出よう」
「・・・?」
違和感を感じた。何故なら、このモウ二ングはあのGPSを付けている武器を持っていない。そしてGPSの探知機の画面には、GPSの点が動いている。忙しくも。
では、この目の前にいる彼は、本当に彼なのか?
「・・・僕の名前、覚えている?」
「・・・」
おかしい。
「モウニングじゃないね!?」
そう言ったとたん、向こうが牙を向けてきた。その背後にも、無数の同じ姿をした兵器が出てきた。
「ひっ――――――!?!」
インサイトはあまりの不気味な光景に、声を出しそうになったが、冷静に手榴弾を下に落とし、逃げた。
「・・・!?!」
無数の兵器がそれに巻き込まれた。ものすごい衝撃と風圧によって、インサイトは背中を押されて飛んだ。地面に引きずるように倒れる。
「・・・ったぁ・・・っ!・・・はぁ・・・はぁ」
インサイトは起き上がる。しかし、後ろは振り向かない。自分の前の方にも、血しぶきがきているのだ。後ろを見れば、きっと悲惨な状況になっているに違いない。
「・・・いや・・・だっ」
インサイトは、血もホラーも苦手だ。グロテスクなものは、生涯嫌いなままである。
「はぁ・・・はぁ・・・モウニングっ・・・っ!」
兵器が前に降りてきた。これにはインサイトも心臓が飛び出そうなほどびっくりし、手に持っていた銃で頭を打ち抜いた。
「いやぁぁああ!!」
モウニング、本物に逢いたいよ。
もうそっくりさんを殺すのは嫌だよ、辛いよ!
「もう、嫌だっ・・・っ」
GPS探知機を見つつも、廊下を走ってゆく。インサイトはそのGPSの導く方向に、進んでいった。すると、大きなホールに出ていた。暗い。電気はところどころに浮いている照明くらいが頼りだった。
「・・・っ」
鼻につく悪臭に、思わず鼻を覆った。
「ここ・・・どこ?モウニング・・・?」
小耳に挟んだ風を切る音。インサイトは思わず飛び退いた。
「・・・ぃ?!?」
壁に、槍が突き刺さっている。そうとう威力のある発泡道具で、どこからか飛ばしているようだ。
「・・・くっ・・・!」
インサイトがその槍の刺さっている向きを見て、おおまかな物理計算を行ってから、暗闇に威力の出る弾で発泡した。暗闇に響く音のなか、何かに弾が当たったのか、びりっと電気が漏洩する音が聴こえた。
「よしっ・・・」
インサイトはその方向に向かって銃を打ち続けた、が。
「っ・・・あぁっ・・・っ!!」
別の方向から、風を切る音。それに一歩気づくのが遅かった。左の二の腕を深くかすった。幸い、そこには防具を巻きつけているため、腕を切り落とされることはなかった。
「・・・っっこのっ・・・!」
もう一度、その角度をざっくり予測して発泡する。また向こうから電気のビリっとした音。しかし。
「・・・くそっ・・・!」
弾が尽きた。替えももう持っていない。GPSを見る。だいぶ近くにモウニングがいるみたいだ。だが。
「はぁ・・・っはぁっモウニング・・・!」
焦る気持ち。ここで串刺しにされるのは容易に予測できる。インサイトはただひたすら、耳に集中しながらも、息をきらして走り続けた。
「っ!?!うあぁぁあぁあっ・・・――――――!!!」
足を、地面にがっちりと標本付けにされてしまった。インサイトはそこで動けなくなる。あの鉄の槍は、コンクリートの地に深く刺さっている。抜くのはまず不可能だ。強靭的な腕力を兼ね備えていない。かと言って自分の足をちぎって移動できる程、自身の痛みに耐える勇気もない。
「・・・――――――っ」
ここで、死ぬのか。僕。
「くそぉおおおお!!!」
インサイトは叫んだ。
「っ!?!」
どこからか爆音が聴こえた。その方向から光が漏れ出す。GPSを見ると、モウ二ングがこの部屋に来ていることが判った。
「インサイト――――――!」
だが、インサイトは聴いていた。槍が引き絞られる音を。きっとモウ二ングがここに来れば、もろとも一緒に刺される。
「来ちゃだめ・・・!!」
モウニングは聴いていない。威嚇のための銃も持っていない。
「いやだ、嫌だ来ないでっ――――――!!」
「・・・私が信用出来ないのか?」
モウニングが、GPSを組み込んでいる剣を持ちながらも、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「とんだ無礼者だな」
ヒュン!
風を切る音。それは一つではなかった。
「・・・っ!?モウ・・・ニ・・・っ」
インサイトに覆いかぶさるように、モウニングは全ての槍を背中で受け止めた。なんともない顔をしている。
「・・・っ!!」
「大丈夫だ、痛覚をシャットアウトしている」
「えっ?」
「どうやら自身の感覚を開いたり、閉じたり出来るようになっている。私の意志で」
モウ二ングはなんともないように、槍を一本ずつ抜いていった。そしてインサイトは、槍でぽっかり空いた穴が、彼の自己再生能力で、直ぐに閉じていく様子を見た。
「・・・まるで、怪物っ・・・」
「褒め言葉として、とっておこう」
モウ二ングはインサイトの足を釘付けにしている槍を見る。それからそれを手に取った。
「・・・っぐあぁっ・・・!!」
インサイトが苦痛に顔を歪める。口を抑えて、痛みに漏れる声を抑えている。モウニングは慎重に力を入れて、深く地面に刺さった槍を抜こうとする。
「・・・・・・いっ、いぃっぁっ!!」
「ひどい声だな。インサイト・・・――――――」
モウニングは、非常に複雑な気持ちであった。槍を抜き取った。インサイトが甲高い声で喘ぐ。
「・・・はあっ・・・あぁっ・・・――――」
インサイトの足に、モウ二ングは止血を施した。手際が早い。
「非常に大きな穴を開けている。足を切り落とす覚悟が必要かもな」
「・・・酷い、言いよう・・・だね、・・・ふふっ」
モウ二ングが起き上がる。また風を切る音。だが。
「・・・!?!」
なんとモウニングは、どこから飛んでくるのか予測できない槍を、避けて素手で取った。そして投げ返す。すると見事に当たったのか、派手な鉄のぶつかり合う音がした。
「銃口を狙った。これで一つずつ潰す。インサイトはそこで一端休養しなさい」
「・・・嘘――――」
さっきの背中でうけた攻撃は、わざと?それで槍がどこからくるのか、一発で読み当てて、それで銃口に対してまっすぐ投げたってこと・・・?
モウニング、凄すぎる・・・!
「見つけたぞ!」
外からの声。頑丈な服に身を包めた軍隊が、入ってきた。
「動くな!」
「「!!」」
インサイトとモウニングは、囲まれた。それから一人の軍隊が近づいてくる。顔をまじまじと、ヘルメットの中から見てきた。
「・・・こいつですね、オリジナルの兵器は!」
「そこに足を負傷している男、は抹消の命令だったな。今すぐこの二人を地下につれていけ」
「はっ・・・!」
「と、言いたいところだが・・・」
ヘルメットを脱ぐ、命令をしていた人。モウニングとインサイトは目を疑った。
「っ!?ハスキー・・・!」
「侵入者である俺に、命令もクソもねぇーよ!」
「どうしてここに・・・!」
「いやさ、俺の教育実習生徒も駆り出されてよ。んで、俺のやりたいことを喋ったらこいつら一緒に動いてくれるって言ってくれてよ!」
「ハスキー隊長についてゆきます!」「俺たちは、S.KILLER加入を希望する者です!」
「生きの良い野郎どもだろう?」
ハスキーが笑った。モウニングも微笑してこう応答する。
「人脈の通った決断だ。よろしく頼んだ」
「S.KILLER存続も考えて、これは良い収穫だろう?我らがサーバー長インサイトっ!」
「・・・ふふっ。彼方は本当に、予想の斜め上に行きますね。行動が」
「さて、と・・・。ここで真面目な話、地下についてだ」
「・・・私そっくりの殺人兵器が、たくさんいた」
モウニングがそう呟く。インサイトは苦い顔をする。ハスキーも乗り気しない雰囲気で話した。
「どうやらあのグローア社長は、地下まで行って何かやらかしているみたいだぜ?」
「・・・我々は!どういたしましょう!」
一人の、ハスキーの実習生が喋りだす。ハスキーは聴いてみる。
「お前ら、多分末端の末端だよな」
「そうです!」「詳しいことはあまり・・・」
「だよな~、なんか地下に関して知っているやついねぇか?」
「・・・地下のこととは話が違いますが、」
「ん?」
「ここの、メアーセル医療会社は、実は家族が代々継いできたというお話を、聞いたことがあります」
「へっ・・・!?マジで!?」
ハスキーはリアクションをとる。実習生は重々しい口で話した。
「はい。中でも、グローア社長に近しい人たち・・・主に助手や学者は、全員血筋で構成されているとのことです。グローア社長に拾われて教育を受けられた人も、ここで培ってきた知識を駆使し、一人前として旅立っています。・・・」
「・・・・・・」
そんなに、大事な大事な場所だったんだ・・・。
ハスキーも、インサイトも口を紡いでしまった。
「代々卑劣な兵器育成をしてきた、という訳か」
モウニングが声をあげる。その言葉にはっとする実習生。ハスキーとインサイト。
「つまり、誰かに終止符をうってもらうしかなかったのではないのか?そして、それは今なのだろう――――」
モウニングの発言に、皆が心を決めた。
悪を断ち切るために、鬼になることを。