同時刻。
「・・・あの建物だ!」
モウニングが声を上げた。海岸沿いのところに、小さな家が建っている。木造建築を見るのはひさびさな気がするが、木造と言ってもまるでお伽話にでてきそうな、小さな建物だった。バイクはやっとその海岸の高いところに佇んでいる、小さな家に辿り着いた。バイクがもうほとんどガソリンがない。帰る途中でおそらく、ガス欠してしまいそうだ。
「・・・行くぞ、」
バイクから降りる。潮風が気持ち良い、海の見える場所。異空間な感じもした。モウニングはなぜか手に拳銃を握っている。交渉をするためではなかったのかなとミントは思いつつも、同じように拳銃を握りしめた。そしてノックもせずに、いきなり扉を開ける。部屋の作りは壁のない2階。入ってすぐに居間がお出迎えだった。土足おっけーの作りのようで、タンスもソファも大人しい色をしている。その家の主は、ソファに座っていつつも、テレビを見ている。こっちを見る様子はない。
「!」
テレビには、あのビルのことを事細かに説明しているナレーターがいる。どうやらもうニュースに取り上げられているようだ。
「・・・派手になってきてるね」
大人しい声。その家の主が、こちらに語りかけてきたらしい。
『御覧ください!なんと見たことのない生き物が、あの謎のバリアの中に入ろうとしているかのように、何度も突進しています!』
「中に、家族が取り残されているらしいな。貴様の子らの」
モウニングは歩いて、その主の方へ近づいた。
「・・・ご用は何かな?」
その主は立ち上がる。高い、ルナもそうとう背が高いのだけど、この人の方がずっと背が高い・・・ミントはそう思いつつも、動きに注意した。オーバーコートを羽織っていて、両腕にはちぎれた鎖つきの重たそうな鉄のリングをつけている。まるで脱穀した囚人のような装飾品だ。その人は実に穏やかな声で、こちらに顔を向けずに話しかけた。
「子らを、チャムの本体からの指令で、止めて欲しい」
「・・・お願いかな?・・・だったら僕は、」
こっちを向いてきた。
「願い下げかな?」
「・・・!」
ミントは息を飲んだ。とても清々しい、美青年ではあるが、それよりもこの人の顔はなにも怖がっても、威嚇も、喜びも感じないのだった。ただ、そっと微笑んでる。そんな印象である。
「このパレードは、hi0くんへのプレゼントなんだよね」
両手を合わせて、説明し始めた。
「前に、彼にとっておきの報酬を与えたってお話をした気がするんだけど、」
「この騒動がその報酬の一環だというのか!?ふざけるな!」
モウニングが怒りを露わにした。ミントも信じられないサプライズを仕掛けたものだと落胆し、またそのhi0の嗜好を疑った。
「だって、彼」
チャムがもっと嬉しそうに、しかし心の底は見えないような笑顔で、更に述べた。
「もうすぐ死ぬんだから」
<<10:13>>
「hi0さんが、・・・死ぬ?!」
ミントは驚きを隠せなかった。モウニングは平然としている。
「奴の体に巣食う虫が、命までも脅かしてきたというのか」
「そうらしい。もう体の6割位は、奴らに食われているんだって」
「あの、虫って・・・?」
ミントはなにも知らないため、モウニングに聞き返した。
「あれ?新人さんか、ういういしいね。よく聴くんだよ?hi0は医者剥奪しちゃった人だけど、自分の体も実験体にしちゃうお馬鹿さんなんだよ?彼の体の中には、聴いた話だと12種類の寄生虫を飼っているんだって」
「きっ・・・!?」
ミントはぞっとした。そんなヒトに自分の体の手術もされたのかと思うと、立ちくらみがしそうだったのだ。
「解毒剤を飲んでいない日が目立っちゃったのか、とうとう解毒剤が効かなくなっているみたいでね。あと3日の生命だってさ。今日も含めて」
「・・・インサイト、」
モウニングが頭の中で真っ先に考えたのは、その余命少ない危険人物と一緒にいる、大切な人のことだった。
「彼はもう一度、あのバリケードの中に戻るんじゃないかな?その君の大事な人の目を盗んででも、きっと還るよ?そこでフィナーレを飾るのが、彼のシナリオなんだからね」
チャムは服のチャックをあけ、背中を開放させる。背中から、あのニュースにも出てきているチャムの個体が、ノロノロと顔をだしてきた。ミントは拳銃をつきつけて、構えた。
「彼が死んだら、チャムを融解させてあげる。だから、僕を殺すんじゃなくて、彼を殺しなよ。僕は彼の願いを聞き入れないといけない立場なんだからさ」
ニコニコしながら、話した。
「・・・どういう、シナリオなんですか・・・!」
ミントは聴いた。チャムは隠す様子もなく、淡々と話した。
「えっと~・・・まず11時のバリケード開放のタイミングで、外側のチャムガ入ってくるでしょ?そうしたらあのビルを全員で壊しにとっかかる。その時にビルは崩壊。hi0はそこの下敷きになって眠りにつきたいんだって。トモダチと戦って」
「っ!?」
ミントも、あのビルの中で頑張っているルナを真っ先に考えた。おそらく、hi0の戦うであろう相手の一人になる。
「・・・俺、ビルの中に行きます!」
「ミント・・・!」
「チャムさんが止めてくれないのなら、hi0さんにこの騒動にもう飽きたって言ってもらうしかありません・・・!」
ミントは素早く羽化し、チャムの家から飛び出た。そのまま海岸から飛んで、一気にビルまで飛んでいった。モウニングはミントを目で追いかけるのだが、相当とばしているのか、すぐに点くらい小さく見えた。
「彼の意見は正しいね、でもチャムがうようよしているバリケードの内側に行くなんて、死にに行くようなものだね」
「・・・失礼する」
「僕にうんと言わせるためにきたんじゃないの?」
「インサイトの安否が知りたい。hi0は死んでも構わんからな」
「冷たいね、」
チャムはまた座り直し、紅茶を楽しんだ。モウニングは家から出ていき、またバイクにまたがる。向かう先は、S.KILLER本部。ミントとは別行動になってしまうのだが、チャムにこちらの指示が通らない限り、チャムの家にいたって時間が潰れるだけである。さっさとチャムの家から離れたのだった。
「・・・ゆっくりしていけば良かったのに・・・」
机には複数のクッキーが置いてあった。背中からでてきているチャムが、クッキーをつまみ食いし始める。
「僕たちは、もうちょっと騒動がおとなしくなってから、出向こうね・・・」
もうすぐで、hi0も死ぬんだし。
<<10:32>>
一方、バリケートの内部ではチャムと機械たちの戦争が繰り広げられていた。チャムはヒトに危害を加える様子はなく、むしろチャムがヒトを機械から守っているようにも見て取れた。この姿にニュースも騒動している。ルナとウォッカはただビルの中を探索するので精一杯であった。どこにシステムをいじる部屋があるのか、そして地図が張り出している場所がどこなのかも検討がつかない。
「地下には潜らないでおこう、そこにあったとしても、機器たちに遭遇するのはゴメンだ」
「俺もそう思ってる・・・ん?」
ウォッカはかすかなヒトの声を感じ取った。その声は、このビルを私利私欲のために使っている本人の声である。
「フェニミが近くにいる!」
ウォッカは突然かけ出した。ルナもそれに後追いしつつ、左腕を鋼化させていつでも脅しが出来るようにした。ウォッカはとある部屋で止まる。その部屋の扉には、堂々と「中央システム管理室」と書かれている。
「こりゃ当たりだな、」「ぶち破るぜ!」
ウォッカはルナに前を譲り、お得意の鋼と馬鹿力によってドアを粉砕、壁まで壊した。そして中に入ると。
「「!?!?」」
ルナとウォッカは、そこの部屋が本当にでかいシステムが設けられているんだということを、一目見て思い知った。中央には、小さな模型がある。ここの街一式を見事に再現し、中心にはこのビルが大きく佇んでいるミニ模型地図が、ガラス箱の中で留まっている。そこを4つの足が囲んでいて、その4つの足は上へと結合するように伸びている。形的には、まるでスペースシャトルのざっくばらんとした骨組みのようだ。そこのさらに上には、もっと大きなシステムがたくさんあるっぽいのだが。
その高い天井に、フェニミはいた。しかも、首を釣って。
「・・・ど、ういうことだ?さっきお前が聴いた声は・・・?!」
「・・・聞き間違えかもしんねぇ、他にもう一人、声の主がいた気がする」
フェニミの首元には、細くて発光の良い糸によって吊るされている。
「ごっくろ~さ~ん♪」
部屋の奥から出てき、その淡い光で照らされている模型の傍に立ち寄る人物が一名いた。
「hi0・・・!?お前、インサイトから逃げたってのか?」
「なんてことはないさっ、彼はちょっと調子に乗せたら、すぐに僕に背中を許しちゃったからね♪ちょっとスタンガン食らってもらって、眠っているだけだよ★」
「まだ規定時間、11時なんか過ぎてねえぞ?どうやってここに侵入したんだよ!」
「地下道潜ってったのさ♪残念だけどこのシステムは頭の弱い人が考えたシステムだよ。閉鎖なんかできていない。ま、機械が地下をほっとんど占領していたから、なっかなかきつかったけどね!楽しかったよ★」
確かに、hi0の服にはところどころ、焦げ跡があった。しかし、肌にはあのビールを食らわしていない様子だ。流石である。
「・・・てめぇ、何が目的だ?」
流石にルナも、hi0の存在が黒と思ったのか、ウォッカの主でもあるhi0を敵とみなして臨戦態勢に入った。hi0は余裕の表情で、その模型に飛び乗る。
「何って、ははっ!だって、これがチャムに頼んだ僕への報酬なんだって~!!あっはは!素敵だろぉ!?楽しいだろ!?!正直こんなでっかい騒動になるとは思ってなかったからさぁ~★」
説明を聴くつもりはさらさらなかったルナ。瞬時に突っ込んで、大きな鋼をhi0に振り下ろした。hi0は飛ぶように避け、模型がこなごなに砕かれる。hi0お得意のペンダントが高い天井にまで届き、そのまま身軽に空中へと引っ張られて、システムの平坦な部分に着地する。
「あっはは、そうだねぇ君とはまだ本気で戦ってなかったよね?最後のプレゼントとしてさ、僕の相手になってよ★」
「上等だこの【自主規制】、その面で二度と笑えねえようにしてやる・・・――――」
「・・・」
僕の筋書き通りに、動いてくれよ★
「まずは降りてこいや!!!」
ルナが鋼を飛ばした。それをまた軽々と避けるhi0。ウォッカは壁にはりついて、hi0に噛み付こうと飛躍する。
「おおっとぉ!君も僕が気に食わないってかい!?」
「違う!なんでこんなことしちまったんだよhi0!お前がここまで質の悪いやつだって、俺はぜってえ認めねえぞ!?なぁ、なんで俺に死んでくるなんて言ってくるんだよ!!?」
「!」
ルナは手を止めた。ウォッカはボロ泣きであった。ルナはウォッカから、hi0とどういう関係なのか一時期話を聴くことがあった。
「俺を、唯一魂獣族であった俺を確保して・・・育ててくれて、実験もしねぇで・・・」
「そりゃ、その時ちょうど実験項目は全て終了してたからさ♪もしいっこでも項目が残っていたら、君だってビーストを酷使してやったりとか、第三の目をえぐっちゃったりとか、それを別の動物に移植させちゃったりとかは平気でしてたよ?君が特別に、例外ってわけじゃないよ★」
「俺は、それでもよ、お前が良い奴ってこと、知ってるんだぞ!?なあ!!!」
「違うね、たまたまだよ?医者は皆そうさ。実験と過程が終了して、それで結果が出てしまっていたら、それを活用して、今度は正義になれる。君が来る前にたくさんの魂獣族は死んじゃったんだよ?僕の手で★それを踏まえて君は僕を良い奴だって言いたいんだ?っへぇ~」
「生きてるアイツに、意味ができたんだっつううの!!!」
ルナは聴くに耐え切れず、今はhi0を殺すことで頭がいっぱいである。ひたすら、攻撃を繰り返した。hi0の両腕が空中をさせば、そこから氷のようにペンダントのクローンが生成される。それを飛ばされる。ルナは鋼で弾いた。
「くははっ!!ガラスのハートじゃあ、俺に不利なんじゃねええの!?異端者さんよお!」
「さぁて、どうかな?★」
hi0が両手を広げると、地面から鏡がでてきた。そこに何人ものhi0が映る。ルナは片っ端からそれを割ってかかるのだが。
「っ!」
その破片が刃となってルナに飛びかかってきた。
「ぐっぁ・・・!」
「ルナ!」
ウォッカはその能力を知っているため、壊すことはできない。ルナはそれでも鏡を割って割って割りまくった。
「みぃっけ★」
hi0に背後をつかれ、そのまま一番大きな破片を打ち込まれた。ルナの背中は間一髪で鋼化をしたものの、肌に深くかすって血を流した。放っておいたらくらりと貧血をおこしそうなくらい勢いが良い。
「・・・ちっ、てめぇ・・・本気かよ」
「殺気、まんまんだよ★」
「俺と一度もヤりあったこと、ねぇくせに!!!」
鋼をとばしてきた。形はブーメランのようだ。hi0は避けたと思ったが、戻ってくることを想定していなかったため、背中をおもいっきりかすった。彼にも大きな傷を背中に刻んだようだ。
「お揃いだぜぇ、やぶ医者さんよぉ」
「それは僕を冒涜するセリフかい?残念だけど、そんな言葉で傷ついてられるほど、軟じゃないんでねぇ!!」
と、ここで大きな地震が起きる。いや、これはビルが揺れているのであって、地面からの揺れではない。
「・・・なんだよ、あれ!」
ウォッカが窓を覗く。下を伺って、愕然とした。どうやら、機械達はほぼ全滅においやっているらしく、残りはこの隔離された世界から開放されるために、チャムたちが一斉にこのビルの根本から侵食しようとしているのだった。hi0は手元に透明な長いナイフを、日本用意した。そしてそれを得意げにくるくる回している。
「どうだい?君たちもここにいつづけちゃったら死んじゃうよ?いいのかなぁ?★」
「・・・てめえを反省させねえと気がすまねえーなっ!!!」
「はははっ!リスク上等だねっ★」
ルナたちの戦闘は、足元がグラつくままに続行されるのであった。
<<10:55>>
ミントは空中で、ただひたすら飛んでいた。とうとうハスキーの乗っている飛空船の近くまで来た。そしてそれを追い越す。飛空船の中でも、11時のバリケード開放の5分を狙って、着実に準備を進めている。のだが、近づけれない。なぜなら、外側にいた大量の、しかも合体して体をおおきくしたチャムが、バリケードをほとんど覆ってうめつくされているのだから。ミントはそれでも怯まなかった。
「あと・・・三分!・・・間に合え・・・!」
ミントはもちろん、こんな長い距離を全力で飛ぶ訓練をまだ重ねていなかった。疲労困憊なのを我慢してでも、ルナの元へと飛ぶことを念頭に起き、羽ばたいた。そしてバリケードの拡大時間まで、一分を切る。
「・・・っううおおおおおおおおおお!!!!」
ミントはチャムの巣窟に突っ込んでいった。ミントを加えようとチャムの複数の顔が追いかけてくるのだが、それをうまく交わした。彼らの動きは非常に遅く、そして動きにはまとまりがまったくない。最速を心がけて練習していたミントにとっては、ちょうどいい難易度で、無理なく回避できた。そして時間がくる。
「バリケード、拡大時間まで3、2、1・・・」
ハスキーは飛行船の中で、ジャッジと共に行動することにした。ジャッジのカウントに耳をすませ、ミントの行く末も伺っている。ちょうどその頃には、モウニングもS.KILLER本部に戻っている。バイクを投げるようにこけたままの状態で降り、ヘルメットを投げ、ただひたすら5階の会議室に向かった。扉をあける。
「インサイト!!」
インサイトは地面に、体を横にして倒れていた。モウニングは一気に心配になり、周りを注意しつつもインサイトに近寄った。そしてまず息の確認をする。大丈夫だ、呼吸はある。モウニングはほっとしつつ、体を揺さぶらないように抱き上げ、肩を叩いてインサイトに呼びかけた。
「インサイト、応答せよ、インサイト・・・!」
インサイトのまゆがひくりと動いた。そしてううん、と唸り声を上げながらも、目をおそるおそる開けた。
「・・・もう、にんぐ?・・・あれ、僕・・・はっ!」
すぐに起き上がる。そしてかなりシャウトした。
「あんのやろおおおお!!!僕に電気ショックを与えて逃走した!!!」
「hi0のことか、離しならチャムから聴いた」
「えっ!?あ、あいつはもともとあっちに戻るつもりだったってこと!?」
「どうやらアイツは、3日の生命らしい」
「は、hi0さんが・・・?」
「ああ、体の寄生虫に歯止めが効かなくなってしまったらしい。そしてあいつは、最後のフィナーレをあの、建物で迎えるということだ」
「・・・・・・」
インサイトはモニターに映る、チャムによってだんだん安定を失っていくビルを眺めた。
「・・・まって、あれ何?」
そのバリケードの解ける瞬間、チャムたちと共に行動する一匹の青い鳥を目撃した。
「あれ、まさか・・・ミントくん!?」
「ルナのところに、行ったらしい」
「なんで引き止めなかったのよ!?もう!こうしちゃいられない!」
インサイトは自分の拳銃をセットし、モウニングにもそれ類の武器を渡した。
「もうモニターより現場優先!行きましょ!!」
「・・・ラジャー!」
S,KILLER、全員出頭。
「ゼロ!バリケート解除!これより進入する!フェニミの存在を確保するのが先である!ビルが崩壊する前に、」
「待てジャッジ!!」
ハスキーが命令の止に入った。
「・・・まて、あれ、もう」
ハスキーとジャッジと、その軍民は見た。目の前で、今まさにチャムたち・・・外側のチャムと内側のチャムたちが出会い、もっと肥大化していった。完全に、ビルを腕一本でなぎ倒せるくらいの大物に変わっていた。その動きののろさに、すり抜けていってはチャムより一歩先に、ビルにたどり着くミント。しかし、崩壊は着実に進んでいる。ミントは羽化状態、羽ばたいた状態でそのビルに突っ込んでいった。もうビルは穴だらけである。飛行するには十分やっていけるレベルであった。途中コンクリートの落下に視界を遮られつつも、ただ瞳はあの黒い人物を探し求めていた。
「ルナっ・・・ルナあああああああ!!!!」
ただ、叫んだ。その声を聴いたのは、ウォッカの聴力でやっとであった。
「おい、ルナ!ミントが近くに来ているぜ!」
「・・・!観念するんだなhi0――――」
ルナは、hi0の方を見てみた。既にビルはグラグラと揺れ、そろそろ天井からコンクリートの塊が崩壊して落ちてきてもおかしくないほど、大きな音を立てて崩壊している。だが、hi0は動かない。
「・・・おい。hi0」
「はは、ははは、あははは、痒い、体が、痒い」
hi0が狂ったように、背中に爪を立てる。ルナがつけた切り口に平気で手を突っ込む。
「ううああああああああっあああああ!!!」
hi0が叫びながら、その手に掴んだものを、背中から引っ張りだす。ルナはぞっとした。そのhi0が体の背中から捕まえて出してきた生き物は、芋虫の形をした寄生虫だったのだ。地面に叩きつける。
「あ・・・あ・・・もう、きた・・・っぽい・・・?」
hi0とルナの目の前に、地面の亀裂が走る。段差が激しくでき、そしてhi0は落ちていった。
「hi0いいいいいいいい!!!!」
ウォッカが飛びついて、いつのまにかビーストの姿で落ちてゆくhi0に飛びついた。
「おい、ウォッカ!!」
下を見るが、もう下はコンクリートが剥げていて、アブナイ鉄パイプの連なりしか見えない。そしてコンクリートの煙に乗じて、二人は消えてしまった。ルナのところの足元もあぶない、崩れてきた。
「・・・っ、これ、までか・・・」
崩れてゆく地面。そしてルナの体は、宙を浮いたのだった。
あーあ、ミントにもっといろんなこと、教えてやりたかったなぁ・・・。
パシッ!
「!」
ルナの手を誰かだ掴んだ。上を向く。
「み、ミント!?」
なんとミントが片腕だけ手に戻し、その手でルナを掴んだのだ。しかし、もはやコンクリートの嵐で不安定な飛行はどっちも犠牲となってしまう。ルナは声を張り上げて言った。
「手を離せミント!」
「い、や、だあああ!!!」
「おい、お前も死ぬぞ!?俺は平気だ!」
「地面、やばいに、きまって・・・!!!」
「おま、え」
ミントが、泣きながらにも、ルナの手を必死に持ち、体格差もあるルナを持ち上げようと、羽ばたいている。必死に、救おうとしている。ルナは心をうたれた。
「ルナが、死ぬなんて、嫌だ、から・・・俺と、生きろ、って約束・・・」
だが、ルナが見たのは、ミントの頭上遥か上からふってくる、パイプの塊であった。これをよけるのは不可能であるといえるくらいの、巨大な塊。
「・・・――――っ!」
ルナは決心した。
「うわ、ちょ!?」
ミントを引っ張っては引き込み、わざと飛行を止めさせた。そしてルナはミントを地面の方へと向きを変えては抱きしめる。そして自分の元からなっていた背中の鋼化を最大に、大きく、大きくさせていった。ミントはルナが上にきたことで、自分を何から守りたかったのかを理解した。そして、恐怖した。
「ルナ、やめて、やめろ!鋼化を、」
「お前は、絶対殺させねぇ・・・!」
ルナの腕も、完全に鋼化してゆく。そして地面へと長く、長く、太いニードルを何本も作り上げた。地面に落ち着時に、ミントをしっかりと抱きしめて、地面へ衝撃を受けてしまうのを避けるためである。そして背中の鋼も、ニードルを突き立てる。完全にミントを守る鋼の構造に入ったまま、地面へと真っ逆さまに落ちていった。ミントは目を閉じて、ただルナの胸の中に祈ったのだった。
ビルが、完全に崩壊した。大きなコンクリートの煙につつまれ、鉄のはげしくぶつかり合う音とともに、ビルはジェンガのごとく、崩れてパイプが積み上がっていった。飛行船が、そしてS.KILLERの夫婦二人もバイクで、そのビルへと近づいてったのだった。
<<11:15>>
それをテレビ越しから見ているチャム。
「・・・・・・さて、後始末に行くかな・・・?」
チャムが立ち上がる。背中からチャム一匹をだし、そいつの腕を羽へと変化させた。
「さあ、迎えに行こうか。子らを」
チャムも、あの壊れたビルに向かう。前に、寄ったのはhi0の研究所だった。
「・・・よし、ここで降りよう」
チャムは子を従え、そしてhi0の研究所の前に降り立った。
「・・・おじゃましま~す、hi0?」
チャムはなぜか、hi0の名前を口にして、誰も居ないはずの研究室を練り歩いた。そしてhi0の研究室に入ってゆく。扉を開けた。
「!」
いきなり、拳銃を突きつけられた。なんといたのは、あの金髪の男である。上半身はまだ裸で、何故か首からタオルをぶらさげて、何か体に付いているねっとりとした液体を拭きとっているとちゅうのようだった。
「ぅ・・・ふふっ、おはよう、hi0」
チャムはとても笑顔で、しかもあのミントとモウニングに見せていない笑顔で語った。hi0は眉間にシワをよせたまんま、拳銃をしまいつつもタオルで髪をわしゃわしゃ拭いていた。目つきが最高に悪い。
「・・・早いよチャム。僕まだ準備ができていないんだって、身支度の。・・・今生まれてきたばかりなんだよ、記憶もまだちょっと接合できてない部分があるんだし、待ってよ」
「え~?早くウォッカに会いに行きなよ。それから、旧式hi0くんの元にもさっ」
「僕にはやるべきことがいっぱぁいあるんだって。旧式の僕なんかに会いたくないね。死に様を拝みに行く?自分の?悪趣味にも程があるって」
「う~ん、設定年齢低くない?もしかして18歳かな?背がちっちゃいよ」
チャムがhi0の背中を撫でる。しかもかなり指先で撫でるように。イヤらしい。hi0が何も動じないように手で払った。
「はーいはーい、物色したいのだったら金払って。タダじゃないんだから、クローンはね。それに、もうすぐ僕になるんだし」
「あーあ、そっけないね。前のhi0くんだったら、喜んで触らせてもらえたのに・・・そっか。設定年齢が低いから、思春期だったり?」
「さてと、いっかな?」
無視して髪をとき、上半身は下に何も着ないままにコートを羽織る。そして手元に、何か携帯用モニターをいじって何かと連絡をとっている。
「・・・うん、あの崩壊したビルのところに行くかな」
「今ルナくんとミントくん、君のトモダチも下敷きになってるよ?」
「ウォッカは自力で抜け出せる。ルナは、旧式の僕が渡した首につけている発信機が役立つさ。さてと、連れて行け」
「はいはい、君の報酬はスケールがおっきいよ?割に合わないんだから全く・・・」
チャムの背中にいるチャムの子が、また羽を出す。そしてもう一人のチャムの子が、hi0の足に自分の手を持ってゆく。それを支えに、hi0はチャムとともに飛んだ。
「皆の驚く顔が楽しみだねぇ」
「説明が面倒だけど、僕はね。しかもすっごく気分が悪いしね、生まれて30分間は吐き気と頭痛の連続だよ。頭に電気ショックを与えてバイオストレイジにアクセスするんだから、しかも手順が狂えばhi0の誕生がナッシング、今までの研究成果がパー・・・」
「それもいいんじゃない?hi0の死を迎え入れられるよ?」
「僕がいないと、だめでしょ。特に困るのはアブナイ政治家さんと医療学会さ」
「はいはい、命を粉にしてでも全うしてくれればいいよ。いつでも僕のチャムの子らを使った、hi0クローン生成は承るからね」
「その分僕が面白いことしてやるんだ、生きてる間に悪さすることが生きがいなのさ」
ビル周辺の煙が、大人しくなってきた。そのときに丁度S.KILLERのインサイトとモウニング、そして飛行船のハスキーも降りてきては合流した。
「ハスキー!」「おうお前ら!お前らも来ちまったか・・・!」
「・・・ルナと、ウォッカは?ミントくんも・・・」
「・・・・・・おそらく、あの下敷きじゃねえ、かな」
「そんな、ミントくん・・・!」
インサイトが口元を抑えて、泣きじゃくる。ジャッジがハスキーの肩を持つ。
「任せろ。私達はこの鉄骨を崩さずに取り除くことが出来る・・・!生きているかもしれん、早めに取り掛かろう!」
「まった、突くな・・・!」
上からの指令。そしてその声が以上に若いことに耳を疑った。よく見ると、上からあのチャムとhi0がここまで来ていたのだ。モウニング達は目を疑った。hi0の姿がある、そして若い。
「何故、貴様は・・・!」「ビルの下敷きになったんじゃ・・・!?」
「今、僕サイッコウに不機嫌だから、無駄口は後にしてくんない?」
携帯用モニターをいじるhi0。そして発信機によってルナたちの一を特定した。
「な、何だ」
そのモニターの地図を、位置と高さが把握できるような形に地図を縮小しては、ジャッジに投げるように渡す。
「そこに、おそらくルナとミントがいる。ウォッカは僕が探す。それじゃ、好きにやっててよ」
hi0とチャムは、彼らを置いて別行動に出た。インサイトは不満がものすごく沸き上がっているのだが、ぐっとこらえ、そのモニターを伺った。
「ここから北西に、およそ35mの位置ですね、そこの鉄骨を慎重に、取り除いていただけませんか・・・!」
「任せ給え、よし!お前たち手伝え・・・!」
そしてモウニングは当たりを見回す。チャムの子らがいつのまにか消失しているのだ。
「・・・チャム本体の登場により、大人しく身を邸したのか・・・」
モウニングは無理矢理にでも連行させればよかったと恨んだ。チャムとhi0は、ウォッカの場所へとただ歩いて言った。パイプとコンクリートの塊をよけて歩くこと15分。
「・・・いたいた、」
ウォッカはグルルと唸って亡骸をずっと抱きしめていた。hi0はそれを見て、目つきが少し柔んだ。それをきちんと目撃するチャム。
「ウォッカ!」
「!?」
ウォッカは耳を疑って顔をあげる。
「・・・っhi0、なん、でお前・・・っ!?」
「たく、大袈裟だっつの!僕が今まで簡単に死んだことってあるかい?」
「でも、よ、俺、今抱きしめてるのは、hi0、あれ、なんで・・・!?」
「前に説明したよね?僕はチャムにクローン生成のために子らを実験体として派遣してもらったって」
「・・・実験が、成功してたってこと、か・・・!?じゃ、あ」
「そう、僕は不死身の存在になっ」
ウォッカはいきなり抱きついた。正直ビーストの体力は馬鹿にならないのに、その腕力で遠慮無く抱きしめられた。
「hi0いいい!お前勝手に死にやがってよぉ!勝手に生き返ってんじゃねええよおお!!俺すげえ、寂しくて、またひとりになっちまったって、寂しくてよお・・・!!!グスン」
「ぐるじい、はなぜはなせはなせ!!!」
そう和気あいあいとしている最中、ルナとミントの救出作戦は始まっている。チャムがそちらの方に向かった。
「僕も手伝いますよ、」
「貴様・・・!」
ジャッジは銃を向けた。
「貴様のお陰で、今回の騒動が起きたと言っても過言ではない・・・!貴様、一体何が目的でチャムを量産していた!?」
「・・・・・・」
冷めた瞳で、そのジャッジの構えを見ている。それから微笑んで、こう答えた。
「チャムは、子です。僕の意志じゃどうにもできません。今は大人しくしているのでしょうけれど、また僕が目を離したら悪さをしだす・・・。でも、子供って皆そうじゃありませんか?」
「!」
ジャッジは口を閉ざした。チャムはただ、深々と頭を下げた。
「このたびは、僕の子らが感情的に走り、大惨事を生み出してしまったことをお詫びいたします。ただ、この一環はあそこの金髪お兄ちゃんの報酬でして、僕にはどうしようもできなかったのです」
「他人に罪をなすりつけるのか!?」
「いいえ、僕達二人は、共犯ですから」
チャムはほくそ笑んだ。そして背中からチャムを無数に伸ばし、パイプとコンクリートの山を丁寧に1つずつ取り除いていった。
「は、速い・・・!」
「無事でいてくれ・・・ふたりとも・・・!」
ハスキーはそう願った。
「・・・・・・っててぇ・・・っ?」
ミントは目を覚ました。自分は、生きている。生きていた。
「っ!?ルナ!」
しかし、自分をかばって体のいたるところを鋼化したルナは、もう体の八割が鋼化しているのだった。今も鎖骨が若干、あのルナの出す鋼特有の白い色に変わりつつある。
「ルナ、ルナっ・・・ルナっ!」
顔を触る。若干ひんやりした肌触りがした。鋼によるものだと思う。ルナがそっと目を開けた。ルナは両腕を完全に鋼化され、ミントを包囲する形で固まっている。完全にパイプからミントを守ってくれたのだった。しかし、ルナの背中には鋭いパイプがささり、それが鋼のところでとどまってくれてはいるものの、ルナは鋼を解くと一気に崩れてしまいそうな状況になってしまった。
「ルナ、もういいよ、鋼、解いていいよ」
「無理、俺ここまで鋼化したの初めてだもん。解き方わかんねぇよ・・・w」
「でも、このままじゃルナ全身鋼化しちゃう!そんなことしたら、ルナが死んじゃう!」
「俺は死んでもいいんだぜ」
「俺が嫌だってんだよ!!それなら、俺と一緒に死んでくれよぉ・・・ルナのいない世界なんか、そんなの」
泣きじゃくって、もう硬くなってしまった胸に頭をぶつける。ルナはもう、鋼化してしまった肌からは、人の体温を感じ取ることができない。ただ、胸はとても熱く感じているものがあった。ミントの自分に対する思いだけが、とても暖かく、心を癒してくれている。
「俺の決めたことなんだよ。お前を空に返すって、」
「えっ」
「そのために俺が死んででも、返してやりたい。あんだけ上手に飛べるんだ、もうお前は立派に里帰り出来るって」
「嫌だ、いやだっ」
「お前はやっぱ、住む世界が違うんだよな。俺なんかより、良い、女みつけてよ」
「ひでえ事言うなよ、ルナ、好きなのに、好きだからさ、やめてくれよ、なあ・・・!」
ミントは羽化が解かれている、もう何度も羽ばたいてくたびれている腕をなんとかして動かし、ルナの肩の上から腕を通して抱きついた。そしてただ、泣いた。何度も名前を呼んで、死なないでくれとお願いされる羽目になった。
「生きろ、お前は生きろ」
「・・・ルナいないのに、なんで」
「家族に会いにいくんだろ?」
「・・・・・・」
「家族に会って、敵をとって、それがお前のこれからするべきことだろ?」
ルナの鋼化が進んでゆく。
「愛してる、ミント」
「な、何いきなり」
「鋼化で唇奪われそう、やべえかも・・・w」
死を恐怖するより、言葉が今かけられなくなってしまう方がずっと恐ろしかった。ミントをこのまま一人、置いてゆくような気がして、それがこわかった。
「・・・!」
ミントは、腕も足も全ては金化しているルナのために、唇が熱を感じなくなってしまう前に、キスを交わした。
「無理に、喋らなくてもいい、から。俺が・・・そばにいる、最後まで。ルナのっ―――――うあぁあああああ」
ミントの泣き声が耳にくる。けど、唇が本当に動かなくなった。だいぶ鋼化が進んでいるようだ。もう視力しか動かせないみたいだ。次に耳が塞がれた。もうミントが何を言っているのか聴こえない。ルナが目でミントをまじまじとみた。ミントも見つめ返した。そしてゆっくりと口パクで、「大好きだよ」と語った。ルナは涙が出た。自分が耳も、口も奪われている状況下で、ミントは不安にさせないために、笑っていてくれる。すごく泣かせてくれるなこのやろう。涙が、涙のせいでミントの顔がみえねえよ、これ、涙か?わかんねぇ、ミント、俺まだ生きている。から、だから。
泣かないでくれよ、ミント。
完全鋼化してしまった。
「白い物体を見つけました!鋼です!!」
「よしきた、引き上げろ!慎重にな!!」
ハスキーがそう命令する。いつのまにかジャッジと一緒に指令をとって、ジェンガの様に積み重なった人工物の取り除き作業を手伝っていた。そして、とうとう鋼化したルナを見つけて引き上げているところまできた。ルナを引き上げると、それに包囲されているミントも一緒に引き上げられた。
「くっはぁ、綺麗な檻みたいなもんか・・・って、」
「全身鋼化!?ちっ、なんだよ僕の出番じゃないか・・・!」
遠くから見ていたhi0が戻ってきては、コートの中に忍ばせていた無線機に話しかける。
「おい、今から救急車3台ほどこっちによこせ、たったいま現場で手術が必要な患者がでた」
一体何処とつながっているのかは教えてくれないようだ。ミントはhi0を威嚇した。
「近づくな!!」
「・・・でも、そいつを救えるのは僕しか居ないよ?」
「もうルナは、鋼化したんですよ!ついさっきに・・・!もう、ルナは・・・―――――!」
「全身鋼化して、何分?」
「は?」
「何分経ったと聴いている」
既にhi0は白衣と手袋、そしてマスクを着用している。髪の毛もあの特長ある帽子を身につけた。
「・・・い、一時間」
「余裕じゃん、」
ペンダントを出して、ルナの鋼を壊そうとしたが刃が立たなかった。
「何するんだよ!!」
「腕だけは外さないと君が開放されない。ハスキー、斧で割ってくれ!慎重にな」
「あいよ!」
ハスキーはhi0のことをまるで敵視していないように、気前よく応じる。ミントはこれによって開放された。しかし、ミントはルナから離れようとしない。
「・・・ミーハー野郎の知識人に教えてあげよう。全身鋼化は、鋼が表面を覆った状態のことを言うだけであって・・・本当の生身鋼化、筋肉の内側や心臓の鋼化は、全身鋼化から15時間かかるんだよ」
「・・・!それ、」
「判ったらさっさとどけ!」
hi0が本当に、変わらずにずっと不機嫌である。ミントはhi0のいうことを信じることにし、ルナから離れた。ちょうどその時に、救急車の3台が通ってきた。そして人が降りてくる。
「この患者を載せろ!今から緊急手術を行う。やることは鋼の摘出、それと皮膚の回復、できるだけだ!」
「はっ!」
「・・・hi0さん!!」
ミントは名前を呼んだ。まだ相変わらず目付きの悪い状態であるが、誠心誠意を相手に届けた。
「・・・さっきはごめんなさい。ルナのこと、よろしくお願いします!!」
「・・・」
お医者さんって感じがして、ちょっと嬉しいかな。
「任せなよ、僕が殺させやしない」
そう笑って、救急車の中に鋼化したルナ、hi0、ウォッカとその救急関係者が飛び乗った。そのまま救急車へ運ばれる。
「・・・はぁーっ!」
ミントは座り込んだ。ハスキーは肩を叩いた。
「耐えしのいだな!よくやった!ルナは安心しろよ、いちおう剥奪されちまったけど、医者なんだぜ?凄腕のな!」
「・・・信じます」
時間は夕方に差し掛かるとき。家族がなくなり、悲しみに深く明け暮れる者、そして相手がチャムだと知っても、それでも家族と認めて出迎える者、さまざまな感情が渦巻く中、そのチャムの親は立ち去ろうとしていた。
「チャムさん・・・!」
「なんだい?」
「・・・俺は、貴方のしていることを絶対許しません」
「・・・ふっ、楽しみだね。僕をハントできるとは思えないけどね?僕をハントできるようになるには、まずモウニグやルナ、hi0と互角に戦えないとねっ」
「うぐっ!?」
「あっははっ!・・・まだ若いんだし、可能性は無限大だよ?」
背中にいるチャムの子が、翼になる。
「自分に限界は作っちゃダメだからね?そして限界と感じたら、一人じゃないことを思い出すんだよ」
「・・・貴方が言うセリフですか」
「僕は一生涯、独りで満足だよ」
チャムは羽ばたいては去っていったのだった。ミントはその後姿を見つめていた。チャム虐殺の事件は、幕を閉じるのだが。
「このビルどうなるの?おっさん」
「ジャッジと呼べ!・・・とりあえず、こんな兵器を隠し持っていた政府に告訴しなくてはな」