「・・・ふぅ、たりぃ」
真夏の暑い中、とある社内の男は一言呟いた。その男がまだ両目を持っていた頃の話である。
「ビールしか胃に入らねぇな・・・」
日が入らないようにシャッターはおろしているものの、それが通用しないような暑さである。クーラーもついていないこの部屋で、干からびないように喉を潤すしかない。
「・・・入れよ」
ドアの向こうでの息継ぎを聴き、その男はドアの向こう側の人物に語りかけた。ドアが開き、人が入ってくる。
高級そうな靴の音を聴く。金髪の女性が入ってきた。ロングヘアーである。
「流石は、賞金首であることは確からしいな・・・」
「ったりめーだ、で、なんの用だ?」
その男はソファにどっぷりと腰掛けているが、目の前にあるソファに上品に座る女性は動じもしない。
「・・・では、ハスキー」
その男の名前は、知らない。賞金首のコードネームで呼び合うのが常識。
「組織を作ってみないか?」
「・・・てめぇは誰だ?」
「おっと、自己紹介がまだだったな」
名刺を差し出す女性。それを受け取ろうともしないハスキー。
「・・・コホン、」
女性が咳き込む。ハスキーはやっと名刺を受け取った。そこには、"ヘッドハンティング:賞金首公式採用社"と書かれていた。
「私の名前はジョイ・エネミィ。君に仕事を持ってきた」
「・・・・・・、で?」
「・・・興味がないようだな、一匹狼な君には、一緒に仕事をするのは不向きか」
「俺の隣で仕事するなんざ、首がとんでも知らねぇからな」
ジョイは笑いながらもハスキーを見る。
「・・・なら、それ相応の相手が私の元に来るまで、単体で働いてみないか?」
「仕事内容は?」
ジョイが応答した。
「内容はいたって簡単。任務を遂行さえしてくれれば、手段は問わない・・・どうだ?」
「今日はどんな任務を負かされるんだ?」
「・・・そうだな、今回の任務は君に向いているか、わからないな」
封筒を渡された。送り主は、まさかの国連に加盟している軍隊からであった。ハスキーは聴いた。
「・・・はっはぁ~ん、なるほど。・・・後始末が出来ないような上の連中が、俺たちのような下種に依頼する、と・・・」
「そのための組織に仕上げたい。いづれは、彼らの金を芋ずる方式で稼げるからな」
「美味しい話だな。そのためにはまず実績、金を与えるに相応しい犬にならなきゃならねぇな」
「・・・理解が早くて助かる」
失敗は許されない。今までの意味のない戦いより、よっぽど価値を見出せるとハスキーは確信した。封筒を開封すると、そこには地図、写真が二枚、そして手書きの文章が添付されていた。
「どんな内容だ・・・?」
「あー?そうだなぁ、写真に写っているのは、小さなガラスケースによくわからねぇモンが入ってやがるぜ。・・・理科とかの実験によく出てくる、チューブ型の短いガラスを内包している、頑丈に」
「・・・その中の液体は軍事機密らしいのだよ。まぁ、ざっくり予測するものならば、生物兵器、だろうな」
「生物兵器?」
「あぁ、これは私の専門分野の中では、かなり突起しているものでな」
ジョイは一緒に仕事をしだしてからは、白衣をよく着るようになっていた。そして長い髪は後ろでひとつに結っている。
「これは事実の話だ。昔の流行っていたニュース、"リテイラの呪い"。開拓によって今までに出会ったことのない病原体にかかって人が死んだと言うが、あれは嘘だ」
「!?」
ハスキーは、そのニュースを見たことがあった。そのニュースでは、どこかの国が町を発展させるがために、"リテイラ"という森の開拓を図ったが、開拓者がばたばたと倒れてしまった事件だった。学者が乗り込んでその開拓しようとした森を調べてみたところ、猛毒性のある物質を空気中に発見したのだ。
「・・・その森は、誰かさんの支配地だったってことか」
「その森の開拓に、多いに反対した組織がいたのは事実。証拠はつかめないまま、あのように報道されるほかなかったのだ」
「・・・お前の言っていることも、あくまで予想ってことか。信用ならねぇな」
「では、そのように厳重に保管しているガラス管の中の液体は、なんなのだ?」
「しらねぇよ、仕事を上手にしてりゃあいいだろう?お前は考えすぎだぜ」
ジョイは納得のいかない顔をしていた。ハスキーは仕事をしていて、ジョイは面倒なことに首を突っ込みそうなタイプだなと考えた。・・・探究心の旺盛な女が、けっこうタイプなのは認める。
「ま、俺はお前のそういうところは好きだけどな」
「軽々しく、女に好きと言うのは止めたほうがいいぞ?女は怖いからな」
「あぁ、怖い怖いw」
地図を見ながらの車で走行。ナビを使うと、その地図の場所は真っ白に表示されてしまう。きっと衛星でさえも情報をシャットアウトしているのだろう。
「この地図の建物って、なんだ?」
「見た目的に、軍事内」
「俺に死ねと?」
「やはり気になるな、この液体の中身。・・・そしてもうひとつの写真は、固形されている、石のような物質。・・・見たことのない色をしている」
「考えるな、溝にはまるぞ」
「気になるなぁ・・・」
ジョイは探究心の固まりだ。気になったらとことん調べるのがスタンス。きっと面白い話が持ち上がってくるに違いない。
退屈しねぇな、一緒にいると。
「それでは、健闘を祈る。くれぐれも、派手に暴れて死なないようにな」
「は?今まで通り、俺のスタンスでいくぜ」
「・・・・・・」
ジョイはため息をついた。ハスキーは軍の裏側に潜入している。それからテントの裏側に忍び込んでは、外を眺めてみる。軍隊が四方八方、好きな方向に歩いている。一部では訓練を受けさせているようだ。指導者はボードを持っていないと人の名前が出てこないためか、逐一ボードにはさまれていると思われる名簿を確認している。人目を盗んでは、テントの中にさっと進入する。
「おまっ―――――」
おっと、一人入っていたようだ。
「・・・っ!!」
ハスキーはとっさに口に対して手を突っ込んでは黙らせる。それから首を絞めてのしかかっては身を封じた。・・・窒息死した軍隊をまずはよそに置き、ざっとテントの中を物色する。地図を発見。それから同じ服を探す。どうにかサイズの合うものを探した。ハスキーはガタイもがっちりとしていて、背も高い。なかなか服を探し辛い体系なのだ。
「うしっ、こんなもんか」
鏡を見てはこまかいファッションチェック。うむ、お似合いだ。そしてぐったりと横たわっている敵の兵を肩に担いで、テントに出て行った。地図を片手に持っては、そこにうろついて歩いている軍隊の人に声をかける。
「うおーい、ちょっと待ってくれぇ、」
「?どうした、」
軍隊はハスキーを見ても、動じはしなかった。服が軍隊に化けているからだ。
「こいつテントの中で熱射病になってやがったぜ?どっかに治療できる部屋ってあったっけな?」
そのために、さっき殺した敵の軍隊を担いで出たのだ。確かに、こんなに日照りがいいのにテントの中にこもっていれば、熱射病が起きても不思議ではない。向こうの軍隊が平然と答えてくれた。
「おう、地図持っているじゃないか」
「教えてくれねぇか?俺迷子になる前に誰かに確認するんだ」
「そうか、大変だな、方向音痴は」
「すんません」
ハスキーは笑ってみせる。向こうもつられて笑っては地図を指差して教えてくれた。
「ここから見える、大きな扉があるだろう?あれが、地図で言うここの場所だ」
地図は、五目版を連想させるように、四角の部屋がいくつもある。扉の中に入ると、入り組んだ四角だらけの部屋を抜けていかなければならないようだ。
「ここの扉って、普通に入れるっけ?」
「ははっ、本当に忘れているな。ここの扉をくぐるには、カードが必要だ。身分証明書、持ってるだろう?」
「人に貸しちまった」
「おいおい、貸すもんじゃないぞ!あれがなかったら、あの軍基地にあるロックのかかっている部屋はもちろん、自販の食べ物も飲み物も購入できないぞ!」
「ふへっ、俺テントで間に合ってるからよw」
ハスキーは肩にかついでいるやつのカードを取る。
「こいつのカードを借りるとするぜっ、ありがとなっ」
ハスキーはかついでは、扉の前にいく。銃を持っている監視役が、こっちを見てきた。
「どけどけ!熱射病しちまったやつがいるんだよ!」
これは監視役も慌てて道をあけた。そしてハスキーはカードを通してみる。すんなりとドアがあいた。それから入ってゆく。とりあえず、本当に保険室らしき場所に行ってみる。
「すんませーん、」
「・・・君か、なんだ」
保険室の部屋にいる、白衣を着た人物は、ハスキーを見てはふぅっとため息をついた。
「ジョイがお世話になっているよ、ハスキー君」
「ちょいと手荒な真似をして進入してきたぜ」
「そいつは死んでるんだろう?なぜ連れてきたんだ」
ハスキーが無造作に殺した軍兵を地面に落とす。それからタブレットを出しては白衣を着た男に差し出した。
「演技ってやつがあるんだぜ、どうだ?似合ってるか?」
タブレットのカメラを起動させ、白衣を着た男を写真に収める。少し気持ちが乗らないような顔をしていた。
「お似合いだね、軍の服が似合っている。無駄にな」
「褒め言葉として受け取っとくぜ、あんがとよ」
それから自分の軍ファッションを写真に撮っては、ジョイにメールを送った。
「・・・で、今回はどんな用事だい?」
「これ、知ってるか?」
ハスキーが、あのケースに入っている謎の液体を内包している写真を見せた。顔が険しくなった。
「・・・知ってるんだな?」
「・・・知っているもなにも、私がそれの開発者だからな」
「!?」
「生物兵器・・・聞いたことがあるか?」
どうやら、ジョイの読みは当たりみたいだ。
「ジョイがばっちり、予想していたぜ。で、これはどんな兵器になりますかな?」
ハスキーが、患者用のベッドに腰掛ける。その白衣を着ている男は、とあるファイルを取り出しては広げてみせる。ハスキーの顔も険しくなった。
「・・・なんだよ、これは」
「・・・ここ最近、とある毒性の強い病気が流行っているそうだな」
「俺たちの国の話か?あぁ、"クルータ"っつーウイルスの病気が流行っているぜ」
「そのクルータの病気に対するワクチンを、私は開発していたのだが・・・思わぬ方向に実験は進んでいってな・・・」
ハスキーが見た写真は、赤ん坊だ。しかも、足がお腹から出ているのだ。奇形児、という赤ん坊の写真だった。
「・・・そもそもワクチンは、害のないように毒を抜いたり、すでに死んでしまった病原菌を、体にわざと注入する。それで、体の対抗する物質を活性化して、病原菌が進入するのを防ぐ。こういうお話だ」
白衣を着た男は窓を見る。
「・・・しかし、ワクチンを生成する時に、例えば―――――」
「・・・?」
「毒素を抜くことが失敗し、それが患者に摂取されてしまったら・・・?」
「―――――!?」
白衣を着た男は、ハスキーを向く。
「・・・それは強力な生物兵器となるのだ。・・・その写真に写っているのは、生物兵器に毒されてしまった、軍隊の夫と、普通の生活をしていた妻の間に生まれた子供だ。・・・遺伝的に感染する病気、なんてものは科学者なら優に作れたろう」
「お前!!」
ハスキーは銃を男に向ける。男は動じずに、まっすぐにハスキーを見据えた。
「・・・私を撃つか?好きにしなさい。最も、私を殺したって良心的な科学者が居なくなるだけであって、闇の組織に属する科学者が喜ぶだろうが、な」
「・・・―――――」
ハスキーは、銃をおろした。男はゆっくりと歩いては、部屋を出て行こうとした。
「さて、と・・・。それが欲しいのか?」
「・・・良いのか?それをなくせば、お前が軍の上のもんに縛られるんじゃねぇのか?」
「なに、そのときは・・・」
白衣を着た男が、ハスキーを見る。
「君が私をさらってくれれば良い・・・違うか?」
「・・・俺は誘拐犯に向かないぜ」
「期待しているよ」
保健室から、二人は出て行った。
「・・・ここが、私の研究室だ」
がっちりとしたセキュリティの門をくぐるハスキー。白衣を着た男が、どうやらこっちに協力してくれるらしいのだ。指紋認証、眼球も認証の値となるようだ。それからパスワード、声帯、顔を通してやっと研究室に入れる。ハスキーが呆れる。
「これ、お前がいなかったら絶対任務が遂行できなかったぜ・・・」
「ふふっ、これも君が演技をきちんとしてくれたから、私の元に来てくれたんだろう?君は運が良い」
「どぉーも」
ハスキーは研究室の中に入っては、目を見張る。黒板にはびっしりと式が書かれているのだ。最初はかなり複雑で、見たこともない記号が入っているのに、最後には割り切ってきれいな記号が揃った答えが出ている。ハスキーは安堵した。
「変わってねぇな・・・バイバイしてから3ヶ月たってるってーのにな」
「どうだ、私の探究心は相変わらずだ、はっはっは!」
笑ってそう言った。最後の扉を開けると、今度は倉庫のような場所に入っていった。中には"危険"と大きく書かれている赤い箱がある。核だ。科学者はその中で、緑色の"危険"という箱を出す。その中に、あの写真と同じ色をしたものがあるのだろうと思う。その箱を渡してきた。
「中身、確認していいか?」
「だめだ、こいつは一度常温にさらすと発病してしまうのだ。発病するとものすごい熱を発して、ガラスが破裂する。その時に目でも口でも入ってしまえば命はない」
「・・・っ!?おい、隠れろ!」
「っ!?!」
銃の発砲する音が聴こえた。軍隊がいつの間にか侵入していたのだ。ハスキーは間一髪で科学者を守ったものの、頭の右半分を持っていかれた。体がうまく動かない。そして前が半分しか見えなくなった。
「っ!?ハスキー君!」
「・・・ちぃ、これで、・・・」
「・・・!?待ちたまえ、」
「逃げ・・・ろ・・・」
軍隊が潜入してくる。どうやらハスキーが来ているのが気づかれていたようだ。このままでは科学者も、一緒こたに殺されてしまう。科学者は、発砲されて散乱してしまった試験管を内包した箱の中から、ひとつだけ箱を持ってはハスキーの元に歩み寄る。それから注射器を出しては、それを注射器に移して、ハスキーに摂取させた。
「・・・なに・・・を・・・」
「これでも私は、良心的な医者なのだよ、」
ハスキーが、体に一生懸命脳から指令を出している。やはり、脳が半分失われてしまった荷は重すぎた。だが、科学者が注射した後からは、体が若干動き出した。・・・動く!動ける!!
「この銃はどうやって使えるのだ!」
「・・・良心的な・・・医者が、」
軍隊が、科学者に向かって銃を向けた。ハスキーが動き出した。
「銃なんか握ってんじゃねぇ!」
ハスキーが科学者をかばい、大きな斧を出しては軍隊の人らに向かって投げた。軍隊が体を真っ二つにして、ぐちゃっと嫌な音を立てて落ちていった。
「・・・さぁ、逃げるぜおやっさん!」
「おぉ!効いてきたか!はっははぁっ!」
「おやっさんの生物兵器は強ぇな!」
とても嬉しそうな科学者。ハスキーは科学者と緑色の箱を担いで走っていった。
「最上階にヘリがある!それに乗ってい逃げよう!」
「へっ!そんなうまい話があるかよ!」
「あるのだよ!」
最上階に上ってみた。誰もいない。あるのはヘリコプターだけだったが、中に人がいる。こっちを見ては銃を構えてきた。ハスキーが派手に銃を発砲して、ガラスを割るとともに、中にいる人を撃ち殺した。早速急いで乗り込む。だが、追っ手が来た。かまわずに発砲してきた。ハスキーが乗ってはエンジンをつける。
「おやっさん、乗れ!」
「・・・」
「早くしやがれ!」
「ハスキー君!」
「!?!」
科学者が緑色の箱を投げる。ハスキーは受け取った。それから科学者の手に持っているものを見て、愕然とした。あの、"危険"と赤い箱で書かれていたものの中に入っていた、カプセルだった。
「何、なに考えてんだよ!早く乗りやがれ!!!」
「・・・」
ヘリコプターをつないでいた紐を、科学者は切った。ヘリコプターは浮かびはじめた。ハスキーはエンジンを握り、それから残された科学者のほうを見る。地面に残された科学者に向かって、叫んだ。
「ばかやろぉぉぉおお!!!!」
科学者の最後の言葉を聞き逃してしまった。
「娘を、頼んだぞ――――――」
ヘリコプターが離れた後、軍隊の基地は爆発して消えてしまった。
=突然の爆発!軍隊育成の基地?=
三年前に設立された、軍隊育成基地が突然爆発し、跡形もなく消えてしまった。原因を調べに派遣された科学者は、爆発跡に核でしか見ることのない物質を検出した。育成という約束で立てられた基地の裏に、核を作っていたのかもしれないという秘密がもちあがり、これを設立した国際軍営責任者のエルフ・ロード政府は言葉を濁すばかりだった。
=「良心的な科学者」の死=
保険、衛星面の管理として派遣されたフィルバ・エネミィは、生物、科学にも特化している学者であった。彼は脳の一部が破壊されても体が動けるようにしてくれる、"サイビルド"というウイルスの開発者であった。彼が軍基地に派遣された理由は、もちろん教育生の健康管理、化学兵器の支援が主であった。しかし、今回の件で裏では人を殺すウイルス(生物兵器と記す)を作らされていた事実が発見される。
右の写真(図:02-1)は、そのウイルスが内包されている緑色の箱である。"危険"と書かれている。
=「人類滅私」を支持するウイルスの開発?=
生物兵器とは、人に害を及ぼすように、人為的に生成されたウイルス、病原菌のことを言う。かつて人類滅私を唱えていた宗教派に対して、大いに支援されていた技術であった。人類滅私を唱える宗派は、生物兵器を持って人を殺そうとしていることが疑われる。現在では、その物質はとある組織によって、厳重に管理されている。フィルバ・エネミィと同期のディリーは、「蔓延病と偽って、人を死に追い詰める生物兵器は、我々一般自民にもいつかは関わってくるのかもしれない」と述べている。
(Enter.新聞記事より)
「・・・そうか、」
「すまねぇ、お前の親父さん吹っ飛んじまった」
ハスキーは、ジョイに包帯を頭に巻かれつつも、申し訳なさそうに呟いた。ジョイは手についた血とも言えぬし肉とも言えぬものを洗い流した。それからハスキーに向き直る。
「これが、その箱か?」
ハスキーが注意する。
「開けるな、そいつは常温で発病しちまうらしい。・・・冷凍室あったろ?」
「そこでしかお目にかかれないのか・・・。判った」
ジョイはその箱を持ち上げる。華奢な彼女には少し重そうに見えた。ハスキーがそれを片目でぼーっと眺めていると、彼女がこっちを見ていた。
「・・・どうした?」
「何か、言わなかったか?」
「あ?」
「お父さん・・・余計なことを言わなかったか!」
ジョイが少々ふてながらも尋ねている。面倒になりそうだから、正直に答える。
「何にも、聞いちゃいねぇぜ?」
「そうか、・・・」
「なんだよ、俺に聞かれちゃまずいことでもあんのかよ?」
「あるから聞いたのだ!!それじゃ、冷凍室にこいつを持っていって開けてくる!」
「おい!なんで怒ってんだよ!」
ハスキーが呼びかけるが、ジョイはさっさと部屋を出て行ってしまった。それから呟いた。
「・・・聞かれたくないんだよ、私があんたのことを前から知っていたなんて、」
ジョイは一種の、ブラックリストマニアであった。その中で一番好きだったのがハスキーだとか。彼が片目を失って、がっかりなのは秘密である。
「・・・お父さんの、作った生物兵器―――――」
冷凍室に入る。いつもより厚着をして。
「・・・っ!?!」
箱の中も冷凍室並みの冷たさであるのに、手紙がカプセルの中に入っているのを見つけた。それを見つけて即、冷凍室から出て行っては厚い服を脱いだ。
「お父さん・・・!」
ジョイは自分のオフィスに入ってから、そのカプセルを開けては手紙の封を切る。それから中身を見た。
=フィルバ・エネミィより=
この手紙を開封されているとき、私はおそらくこの世から命を絶っているだろう。この物質は、人を人為的に殺そうとするウイルスなのだ。もしこれを常温にさらしているのなら、今すぐにでも離れなさい。幸いにも、人の中でしか生きられないウイルスであるのだから、君が第一感染者でなければ、拡大はしないだろう。
「・・・・・・」
きちんと離れたか?これで君は人類を救うことが出来た。感謝する。始末はしなくても良い。人の中に入らなければ、数秒で死んでしまうウイルスなのだから。
私はとんでもない生き物を作ってしまった。それは私としてもとても苦しい思いであった。権威によって押さえつけられていた私は、それしか生きる道がなかったのだから。しかし、自分の作ったウイルスが人を抹消できるか、犬で実験をしたとき、犬の中でウイルスは何故か発病しなかった。と思った三日後、犬は死んだように眠っていた。実験は成功したのだ。成功したときはやはり学者として嬉しいのを許してほしい。しかし、殺す生物は生かしてはならない。結局、彼らを作ってはまた殺すだなんという、罰当たりなことをしなければならなかった。
彼らの為に泣く者が一人もいないのは、悲しいだろう。泣かせてくれ。
「・・・・・・っ」
最後に、これを読んでいる人物に、この手紙を、私の娘、ジョイ・エネミィに手渡してくれ。
愛していると、伝えたい。
「!?!」
娘へ、
こんな世界に、私のわがままで来てもらってすまなかった。それに、ありがとう。
こんな私の理想論を一生懸命に聴いてくれた、「良心的な学者になれ」と私がしつこく言っていたのを黙って聴いてくれた。
結局、自分の理想論なんかに私は従えず、政府の犬となってしまった。
許してくれ。
「・・・っ―――――ばか、」
いつでも、ジョイのことを思っている。愛しているよ。
こんなお父さんをそれでも憧れと言ってくれて、ありがとう。
ジョイはその場で崩れて、声を押し殺して泣いた。
「お父さん・・・お父さん―――――!」
ジョイは部屋の中をあさりだす。それから写真たてを見つけては、その写真の写っている人物を眺めた。フィルバ・エネミィは、この生物兵器を誰にも使われずに、死滅させてほしい、そう思っている。しかし、今ジョイがしようとしているのは、国連に加盟している軍隊。その組織たちはきっと、その化け物を悪用するであろう。ジョイの心は決まっている。
「・・・判ったわ、お父さん―――――」
「生物兵器、」
「!?」
ドアを見る。すると扉の淵にもたれかかっているハスキーを見た。それから笑ってジョイに話しかける。
「・・・依頼主にあげちまうのか?親父さんの願い、なんだって?」
「・・・はっ」
笑うジョイ。それから手紙を机に置く。
「・・・作戦は失敗としよう。生物兵器をここで、死滅させる」
「!?」
「・・・今回の仕事、給料はなし」
「はぁっ!?!ふっざけんなよ!俺がどんだけ必死で頑張ってこいつを救出したと思ってんだよ!!」
「仕方ない―――――」
手紙をハスキーに渡した。
「要望が書かれていた」
「・・・へっ、学者さんからの命令かよ。こいつは逆らえねぇな」
「・・・ありがとう」
ジョイがハスキーを見て、そう言った。
「あ?良いってことよ、お前さんの親父さんのおかげで、俺が動けるようになったしな!」
ハスキーが部屋を出る。廊下でなにかほざいている。
「ビールくれぇー!今日の仕事は打ち上げ無しかー!?」
「・・・ふっ、ビールなら数本、冷蔵庫に用意しているぞ!」
ジョイが走ってハスキーの後を追う。今日の飲み会は楽しくなりそうだ。
きっと、天にいる良心的な科学者も、共にいるであろう。
「エルフ・ロード氏がお見えになったぞ」
「ほい~」
ジョイがハスキーに言うが、ハスキーは態度を改めやしない。ジョイは内心焦るが、ハスキーの気持ちを汲めない訳ではなかった。その男は、ひげを蓄えている。そして明度の低い赤色の服を着ている。軍隊のような服だ。ハスキーはそれを知っている。
「いやはや、君に招いてもらえれて光栄だよ。ジョイ・エネミィ君」
「父がお世話になっておりました。あの事件の後、どのような始末をされましたか?」
エルフ・ロード。あのジョイの父を雇っていた、国際軍営責任者の方である。
「実は、あの爆発事件の件なのだが・・・」
ジョイに頭を下げていた。
「すまなかった。だいぶほとぼりが冷めてきたのだから、正直に言おう。あれは、私が許可をとって創らせていた核兵器の爆発だったのだ」
「・・・許可をとった?」
「ニュアンスがおかしいぜ、おっさん」
ジョイが先に疑問を感じて突っ込もうとした矢先に、ハスキーが聴いた。相変わらず口が悪いのだった。
「おっさんが創れって命令したんじゃねぇのか?その言い方じゃあ、まるでフィルバの学者さんが自分から創りたいと言っているようじゃねぇか」
「・・・ここだけの話だ、」
真剣な趣をしている。ジョイとハスキーは、目を合わせる。
「・・・話の機密度は?」
「最高ランク。口にしてはならないことをこれから話そうと思う」
「・・・ちょっと待ってください」
ジョイが部屋を出るように指示、それから廊下を歩いた。
「どこにつれて行くつもりかね」
「人に聴かれたくない話でしたら、」
「!?」
廊下の壁際に、隠し扉が出てきた。階段が下へとのびている。
「こっちのほうがより安全です」
「大丈夫だぜ、別におやっさんをとって食おうとしちゃあいねぇよ」
ハスキーが後ろからそう話す。どう見たって脅しだ。
「・・・ハスキー、」
「おうおう、悪かったな」
幸いにも、なぜ爆発してしまったのか、その証拠は一切消えていたため、犯人がハスキーであることをエルフは知らないでいる。
「地下室も、結構快適にしています。コーヒーでも飲んで、ゆっくり話しましょう」
ジョイがそう促した。
「・・・本題に入る、」
エルフが、コーヒーを口につけてから、そう言った。ソファが二つ、真ん中に透明な机。真っ暗な部屋に明かりが一つ。テレビとラジオもある。ジョイはエルフと向かい合わせになるようにソファに座る。そのソファの背中部分に体重をかけて背中をむけるハスキー。座る気はないようだ。
「人類滅私、を唱えている宗教があるのを知っているか?」
「・・・!」
エルフは顔を伏せて、語りだした。
「私が、国際軍営責任者に、任命される前の話だ」
ハスキーは、缶ビールにそそくさと手を出した。
「今、君たとは対立関係になっている国を実質上、握っているのはロード家の貴族達なのだ。そしてもう一つの貴族」
「ゲルラの血筋達」
「その通り、私たちのこの二つの血筋は、代々国の役柄として担ってきたのだ」
「けっ、国を動かす人材の募集は、結局は見せ掛けかよ」
ハスキーが横から口を出す。
「その通りだ。我々以外の血筋の者が上に来てしまったら、我々が困る」
「・・・そうか」
「なぜ困るのか、」
「?」
「疑問に思わないか?我らが志を共にするような新人を、なぜ邪魔者扱いするのか」
「・・・」
「よそ者が来ちまったら、ハイコンテクストな会話ができねぇで、困ってるんだろ?」
「君はするどいね、ハスキー君」
「まぁな」
「どういうことだ?」
ジョイはハスキーに尋ねた。ハスキーは答える。
「とある二人だけの会話をしていた。その二人のやつらはその会話が人様の悪口だっつーことを十分理解している。でも止められない。そこに新たな友達が入ってくる。とたんに二人の会話が出来なくなる」
「・・・?」
「前提として、牛耳っていた上の連中が悪いやつらであった場合に、正義のよそ者は邪魔になっちまう」
「・・・だから?」
「暗殺にもちこまれちまった政治家、とかな」
「っ!?」
「そういう類の話だったら、俺の仕事仲間で一度は炎上したぜ」
ハスキーは顔だけエルフに向けた。
「そうか、流石は暗殺業界」
「・・・それは、一体どういう意味をあらわすのだ?」
エルフはコーヒーを一口飲んだ。
「・・・ふぅ、私はロード家の一員だ。だがロード家はかなり枝分かれしている。私はその枝の中ではかなり末端にあたるのだ」
「ほぅ、んで?」
「・・・嫌な噂を、中枢部に近いいとこから聴いた」
下を向いた。それから、ゆっくりと話し出した。
「ここから離れている、技術革新の都・・・フェンテル都を滅ぼそうとしている連中がいる」
「「!?!?」」
ハスキーとジョイは固まった。
「・・・我々の上の連中の中には、どうやら人類滅私の宗教につながっている奴らがいるらしい。・・・それが、ゲルラの血筋達を中心に、広まっている」
「滅ぼそうとしている理由は?」
「きっと彼らの技術に嫉妬したんだろう。あそこの国だけ、最近儲けているからな。赤字に耐え切れんのだろう・・・」
「・・・それを俺らに話して、どうするつもりなんだよ」
「・・・はは、何故話す気になったんだろうな・・・」
ソファにもたれかかる。
「もう、偽りの政治家なんかになるのに、疲れたのかもしれないな―――――」
頭を伏せる。それからコーヒーのカップをふと見て、なくなっているのを確認した。
「・・・そうか、そんなことを言われちまっても、俺たちにはどうすることもできねぇな」
ハスキーは、ソファから離れた。
「・・・つまり、ゲルラの血筋から来た依頼は、気をつけてとりかかること、か?」
「命を棒にふるような依頼だって、平気でよこすような奴らさ。・・・君たちの今後の未来に、かけるのだよ」
「は?」
つい、ジョイの本音がぽろりと出た。ハスキーはその間抜けな返事の仕方に、つい噴き出しそうになった。エルフは、静かに言った。
「君たちなら、きっと未来の先でも活躍してくれるだろう、と」
=エルフ・ロード氏、辞退=
軍隊育成基地の爆破から7ヶ月、エルフ・ロード氏は、政治の世界から降ろされることとなった。これまでロード家の中で辞退することになってしまったのは、今回で初めてのケースである。そのため、彼の兄であるディベイア・ロード氏が継ぐこととなった。市民の意見交換は行われずに、臨時として次の選挙まで、彼が政治の対策を今後から施行することとなる。
「今回、新しく仕事をする仲間となった。インサイトだ」
「よろしくお願いします」
「・・・・・・は?」
しばらくたってから、間抜けな返事をするハスキー。そこには、水色のキャラクタがいる。手には網目模様が印象的な、特殊な手袋をしている。いかにも貧弱そうで、一体何に役立つのかよく判らない姿をしていた。
「・・・何部門?」
「主に、情報や武器のメンテナンス、そしてスナイパーをさせていただきます」
その水色は、少々怖がりながらもそう言った。
「な、なので、あんまり仕事上で顔を合わせることはありませんが、よろしくお願いします」
「早速だけど、彼の力を借りて仕事をしようと思う」
「は??」
これまた唐突である。ジョイはなにか大きな模造紙を手にしている。それをハスキーがゆっくりと食事をしていたところの机に広げる。一気に飯がまずくなった。
「俺さ、今朝食中ですけど・・・」
「仕事場で朝食を摂るやつがいるか、戯け!」
「ランチパックですか、手軽でいいですよねっ」
インサイトが、遠慮がちにハスキーを支援。ハスキーがにらんできたため、彼はまたちっちゃくなった。模造紙には、建物の図が描かれていた。しかも、建物の内部にはなにか赤い点がいくつもついている。
「・・・んだよ、これ」
「監視カメラ。そこから放射状に伸びている二本の線が、監視カメラの写す場所だ」
インサイトが割って話した。
「この監視カメラは、RWW-205、という機種のものです。これの厄介なところは、音さえも感知して、音の方向にカメラが向いて動いているものを映し出します」
「やけに詳しいじゃねーか、お前なんなんだ?」
インサイトは少々遠慮気味に、話した。
「ぼ、僕が最初に向こうのコンピュータをクラッキングして、地図を全て盗みました。全て、というのはデータ化されている範囲だけなので、もしかしたら隠しステージみたいな部屋があると思われますが・・・」
ハスキーは驚いた。今回の進入する組織自体、ネットワーク構築に関して有名である。それが売りとしてシステムの構築、セキュリティの強化等の仕事を請け負う会社なのだ。その組織のデータを優に盗んでは、跡も残さないベテランクラッカーだったとは。
「ほぅ・・・やるじゃねーの」
「はいっ!お役にたつために、これからも新しい技術を吸収していきますよ!」
やけに、趣味にどっぷりなオタクだということが判った。ハスキーはジョイに尋ねた。
「今回のミッションは?」
「うむ。今回のミッションは、ここのセキュリティの一番強い中層部に進入し、一部のサーバーを壊すこと」
「壊す?盗むんじゃなくてか?」
「はぁ・・・サーバーを盗むだなんて、あの大きなスパコンを盗むような体力とすばやさなんてないだろう?」
「あ、それなら不可能ではありませんよ?」
「へ?」「あ?」
二人に意外という反応を返され、とまどいながらもインサイトはとある機器を出す。
「要は、データさえあれば良いんですよね?もしスパコンのデータを全部かっさらってしまおうと思ったときは、この機器を目標のスパコンに繋げてください。それだけでデータは盗めます」
「繋げるだけ?」
「はい。この機器の中身には、とあるウイルスを仕込んでいます。このウイルスは、感染した機器のプログラムやデータを盗んではネットワークに逃げ込みます。それから僕が持っているこの機器に、かっさらってきた情報を持ち帰ってきます」
「なるほど、足跡とかは残らないのか?」
「この機器の中にはウイルスを数兆個用意しており、それぞれ暗号が複雑で、似通っています。その中のたった13このウイルスだけが、情報を持ち帰ってきます。データを持ち帰ってきたあとは、この機会を廃棄してしまえば、探索は不可能でしょう!」
「よーやるぜ、そんな回りくどい方法・・・」
ハスキーがそう言うと、インサイトがすこし反撃した。
「でも、確実ですよ。やてみないと判らない方法より、実証できるほうが有利ですよ」
「あん?俺の方針に文句をつけるってぇーのか?あぁ??」
「・・・・・・、下準備のしない料理なんて、美味しく出来るわけないですよ」
「・・・・・・」
一気に空気がまずくなった。ジョイが話を切り出す。
「さて、作戦を説明しよう。まずは進入に関してなのだが、さっき言ったとおり、監視カメラは音を察知してカメラの視点をアクティブに変えてくる。ここでインサイトの力が必要なのだ」
インサイトとハスキーは、お互いを目配せした。
「インサイトが監視カメラの聴覚、つまり音の波を探知するのを邪魔するための超音波を流す。それで音を感知することが麻痺している間、ハスキーはカメラの向いていない方向をすり抜けて、中層部に向かってくれ」
「いっそのこと、目と音を防げれねぇのか?」
ハスキーが聴く。インサイトが答える。
「もちろん、そうすることも可能ですが、カメラの目はどこかの部屋に、モニタリングされている可能性があります。なにかノイズの入った画像をモニターを見ていた監視役にばれてしまっては恐ろしいのです。その代わり、音は機械のみが判断して動きます」
「モニター側には音までは把握できてないってことか」
「そこをつきましょう。ハスキーさんにはすみませんが、頑張って監視カメラに移らないように移動をしてください。その際に、派手な音を立てていても大丈夫ですから」
「ならもんだいねぇ!隠れ鬼はもとから得意なんだからな!」
ハスキーはやる気があがった。早速朝食を口に放り込んで、動きだす。
『さて、聴こえるか、ハスキー?』
無線機の音。イヤホンから通してジョイの声が聞こえる。マイクロフォンに向かってしゃべるハスキー。
「おう、相変わらずのあっかるい声だこと~」
『喧嘩を売っているのか?まぁいい。それでは本題に移ろう。私は指示をしない。するのは全てインサイトに任せている』
「はぁ?初任務でできるのか?そんな臆病な野郎が・・・」
『声、聴こえていますよ?ハスキーさん』
「ちっ」
『では早速、インサイト』
『任せてください。しばらくハスキーさんは動かないでくださいね』
インサイトと繋がっているイヤホンの方から、キーボードのたたく音、コンピュータ特有のファンの音が聴こえてくる。
『・・・たった今、機械の認知する音を狂わせるノイズ音派を送っています。ハスキーさんの今いる部屋は、F1-02室。そこから下の階にある、F5-07室までの番号部屋に対して、ノイズ音を流しています』
「ようし、試させてもらうぜ」
ハスキーの手元には、缶がある。その缶を転がしてみた。カメラがまったく向こうとせず、同じ首の運動をしていた。カメラの前を平然と横切る缶。
『どうやら、実験は成功のようですね!ですが、くれぐれも派手すぎる動きは謹んでくだs』
と言っているそばから、イヤホンを外され、普通に行動をし始めるハスキー。インサイトは舌打ちをした。
「・・・ジョイさん、」
「何だ?」
「あんなやつの、どこが気に入られたんです?」
「は?」
「知っていますよ。あなたはブラックリストマニアで」
「!?」
「ハスキーさんがお気に入りだとk」
「やめぇぇい!!いいい一体どこから流れていって!」
「いいえ、僕がここの会社内のサーバーのメンテナンスしていますから。リモート操作で人のパソコンのデータの流れなんか、一発で見れちゃいますよ、はい」
「・・・今度からは自分のパソコンはネットをつなげるのは自宅だけにする」
「えー、せっかく中央処理装置を配備して、そこからバス型に加工していったのに・・・」
「お前にデータが覗かれるよりかはましだ」
「そうですか、連れないですね」
少々いたずらっぽく笑うインサイト。ノリノリである。そうこうしているうちに、ハスキーはそれもまぁ人目がないのを逆手に普通にカメラの死角を平然と歩きだす。大胆である。
「にしては便利だなぁ、声をだして喋っても平気なんだからなぁ」
『でも、人がいないとは限りません。気をつけてくださ―――――』
と言っているそばから、曲がり角でばったりと敵に遭うハスキー。
「っ!!」
ハスキーは反射に近いほどの勢いで、相手にたいして肘を喉に突き立て、声帯を潰した。それから掴みかかっては首の骨を折って殺す。インサイトはその生々しい骨の軋んだ音にぞわっとしてしまい、ヘッドフォンを外す。ジョイがその仕草を見ては、質問する。
「そういえば、インサイト」
「・・・」
「お前は血が苦手、らしいな。人の悲鳴も・・・」
「・・・ええ、そうですよ」
「だが、お前が本気で戦うと、ハスキー超えるだろう?」
「・・・・・・」
「いつまでも、こうやって補助的な仕事が出来ると思うなよ?」
「・・・ええ、スナイパーくらいなら、出来ます。・・・ハンディガンは全く持ちませんが」
「・・・・・・」
インサイトは、一切目を合わせなかった。ハスキーはその倒した男の武装服を早速剥ぎ取り始める。インサイトが眉をひそめる。
「・・・下品な、」
「彼はそうやって侵入するのさ」
「敵の毛皮をきてカモフラージュですか・・・。やっぱり食えない寸法ですね・・・」
「そう毛嫌いするな。彼が汚れ役でいられるのに感謝できるようになりなさい」
そうやって、好きな人には甘いんだろう。女ってやっぱり嫌いだな。
インサイトはそう頭の中で呟いた。
『おーい、インサイトー』
ヘッドフォンから彼の声が漏れている。インサイトは付け直してはマイクのスイッチを入れる。
「・・・はい、どうされました?」
『似合ってる?』
「・・・ふふっ、」
何この人、仕事でそんなことを?面白いなぁ。
「十分、人相悪いですよ、ハスキーさん」
『褒め言葉になってねぇよ、ヴォケ。それより、こっからどう進めば最短でいけれるんだ?中央処理装置に』
「ちょっと待ってくださいね」
インサイトが自前のノートパソコンをタップしては、最短ルートを探索した。彼の画面には黒い端末が六つか八つくらいある。それらがなにかしらの文字を出力しているが、ジョイは何がなんだかさっぱりだ。
「そこから左奥にある扉を開けてください。地下に続く階段があります」
『おう』
「カメラがありませんが、敵がよく利用する階段です。・・・まぁ今の貴方なら、侵入しても大丈夫でしょう」
『ようし、行くぜぇ』
渦上の階段を下ってゆくハスキー。確かに敵が登ってきたりするが、普通に挨拶をしてハスキーは難なく下へと降りてゆく。インサイトが感心した。
「・・・尋常じゃない精神ですね」
ジョイが口走った。
「ハスキーの過去を調べたことがあったのだが」
「へぇ、めぼしい情報がありましたか?」
「何、純粋に調査みたいなものだ。本当だ」
「はい、はい。・・・それで、何か?」
「ハスキーは幼い頃から、戦争に巻き込まれて父と母のもとをはぐれてしまったらしい。行き先は、敵の陣地内だった」
「!・・・」
「まぁ、そこで敵と家族の様に親しんでいた経験が、彼の今の行動を創っているのだろうな・・・」
「・・・あぁ、そういうことですか」
穴に入るならそれらしく降振舞え、と。
「うおっ!広っ!」
ハスキーは一番下の階に行った。ドアが開けられないと思ったら、インサイトが暗号をいとも簡単に解き、自動に開いていた。恐ろしい能力だ。
「お前、そんなにハッキングしてバレねぇのか?」
『ええ、バレませんよ?だってバレたときのスリルなんてまっぴらですから』
「・・・へぇそうかい」
ハスキーは早速部屋の中へと入ってゆく。大きなコンピュータが三台、ファンをうるさく鳴らしつつも稼働していた。
「・・・これに、お前のもらったあの機会をぶっさせば良いんだな?」
『端子があると思います、探してください』
「・・・これか?」
ハスキーはコンピュータの蓋を取り、それからインサイトに渡された機器の端子を見てはどれにハマるのか検討している。
「・・・これか?」
『・・・向き、逆ですよ』
「おk、」
ハスキーが、さっそく端子をさした。
ウゥゥウウウウウウウウウウウウ!
「!?!」
警告が鳴った。モニターには"CODE RED!"と表示されていた。
『ウイルスが入ったら警告がなるようにしていたんですか、それは予想外でしたね』
「お前なぁぁああ!!!」
ハスキーが早速走って逃げる。エレベータに乗る。と、エレベータが止まった。外から足音が乱雑に聴こえる。
「・・・俺の寿命は、ここまでか・・・」
『そう諦めることはありませんよ』
エレベーターがまた動き出した。これは外側にいた奴らもびっくりしている。
「!?何してんだ?」
『もうこの際僕がいろいろシステムをめちゃくちゃにしましょう。ハスキーさんは普通に逃げてくださいね』
「あ?!なんだよそれ!」
エレベータが止まって、扉が開く。どうやら屋上まで飛ばされたようだ。
「飛び降りて死ねってか!」
『ちゃんと屋上に上がってから文句を言ってください!』
ハスキーはエレベータから抜け出し、屋上へと急いだ。
「ふっへぇ!ヘリあるじゃん!」
ハスキーはヘリに乗ってはエンジンをかける。
「・・・あの頃とおんなじじゃん、」
『?どうされました』
「なんでもねぇよ!」
飛ぶ。屋上に誰も来ない。
「誰も来ねえな、なんか怖いんだけど、罠?」
『エレベータ全部止めて、ハスキーさんの乗っているのだけ稼働させたんですから、当然でしょう』
「!?っ・・・ははっ、」
ハスキーは大笑いした。
「ふはははっ!お前、最高じゃねーか!」
『お褒め頂いて光栄です、ハスキーさん』
最高の仕事仲間だ、そう確信するハスキーと、
「これからもよろしくなぁ!テラクラッカーさんよ!」
『・・・ええ、こちらこそ』
大変そうだな、そう予感するインサイトだった。