膣トリコモナス感染症(膣トリコモナス症)
トリコモナス(Trichomonas)の素性~トリコモナスって何?
トリコモナスは、原虫という小さな虫(微生物)で、男女両方の尿生殖管にみられる有鞭毛原虫です。
原虫とは、単細胞の原生動物に属する寄生生物です。
トリコモナスは、4本の前鞭毛をもち、5本目は波動膜の中に埋まっています。
トリコモナスという微生物は、通常は洋梨型で、大きさは平均7~10μm(マイクロメートル)ですが、たまに25μmに達するものもあります。
鞭毛(べんもう)とは、細胞の移動、もしくは細胞周辺に液流を起こすために、細菌、藻類・菌類などの遊走子や配偶子、動物の精子などの体表面にある運動性の細胞器官のことです。
膣トリコモナス感染症(Trichomonas vaginalis)
膣トリコモナス感染症は、最もポピュラーな性感染症として、古くから知られているもののひとつで、男女の性器に、トリコモナスが感染して起こされる感染症です。
日本では減少傾向にあるのですが、再発を繰り返す難治症例も少なくありません。
アメリカ合衆国では、毎年約500万人の男女が、新しく膣トリコモナス感染症に感染しています。
女性の20%がトリコモナスを持っている?
トリコモナスは、生殖年齢の女性の約20%に潜んでいて、腟炎や尿道炎を引き起こし、時には膀胱炎を起こすこともあります。
治療にはメトロニダゾールという、抗原虫剤がつかわれます。
セックス以外でも感染するの?
膣トリコモナス症は、性交経験のない女性や幼児でも感染者が見られることから、セックス以外の感染経路、すなわち身につける下着やタオルなどからの感染や、検診台、便器や浴槽を通じた感染などが知られています。
何故なら、トリコモナスには水中での長時間感染性があるため、下着、タオル、便器、浴槽なども感染経路になるのです。
そのため、性行為経験のない小さな子供にも感染がみられるのです。
男性は感染するの?
膣トリコモナス症というと、女性だけの病気のように思えますが、男性も感染します。
腟トリコモナスは、女性の腟ばかりでなく、子宮頸管、下部尿路やパートナーの尿路、前立腺などにも侵入し、性行為によって、男性に移ります。
ただし、男性の場合は排尿時に、トリコモナスが体外へ排出される事が多く、発症する例はすくないのですが、無症候性の感染男性がしばしばセックスパートナーを感染させる、いわゆる、”ピンポン感染”が起こります。
発症の場合は、前立腺炎と膀胱炎を引き起こします。
また、淋菌感染症など他のSTDとの併発も多くみられます。
再発症
再発の経過をみると、トリコモナス原虫が生き残っていることが原因だったり、隣接臓器からの自己感染のほか、パートナーからの再感染があります。
膣トリコモナス症は、男性に比べ特に女性で症状が強いこともあり、HIV感染やPID(卵管炎などの骨盤内感染)などとの関係にも留意することが必要です。
膣トリコモナス症の特徴
女性は、主に膣に感染し『膣炎』を起こし、
男性は、主に尿道に感染し『尿道炎』を起こします。
女性は、トリコモナスに感染している男性および女性の両方から感染します。
男性は、トリコモナスに感染している女性からのみ感染します。
~他の性感染症と違い、男性間の性交渉(ゲイ・ホモ・アナルセックス)では通常は感染しません。
- 主にオーラルセックスを含む性交渉で感染しますが、他のSTD=性感染症(性病)とは異なり、 若年層だけでなく中高年にも幅広く感染者がみられます。
- クラミジア感染や淋病と同様にHIV感染リスクを高めます。
- 妊娠時や月経時の女性は特に感染しやすい性病です。~トリコモナス原虫は酸性環境に弱く、通常、女性の膣内はデーデル桿菌(膣の中に常在して乳酸を産生する良い菌)の働きにより酸性ですが、ややアルカリ側に傾く妊娠時や月経時に感染しやすいとされています。
- トリコモナスは、糖・グリコーゲンが多く存在する、性的に成熟した女性の膣を好みます。
- トリコモナスは乾燥には非常に弱いが、水中ではかなり長時間感染性があるといわれています。
- 性交経験のない女性や幼児でも家庭内や温泉施設・プールなどでもトリコモナスに感染することがあります。~下着やタオル、便座、浴槽での感染等家庭内での感染も知られています。
- カンジダ症や細菌性膣症と同じ様にオリモノや臭いが強くなります。
- 感染している妊婦から新生児(赤ちゃん)への垂直感染もあります
また、腟トリコモナスは、感染者の年齢層が他の性感染症と異なり非常に幅広く、中高年者でもしばしばみられるのが特徴です。
男性の症状
男性の場合、トリコモナスは前立腺、精嚢(睾丸の袋)、尿道、陰茎包皮などに棲息しています。
通常は、尿道に感染し『尿道炎』を起こしますが、自覚症状はほとんどありません。
男性のトリコモナスは尿と一緒に排出されることが多く、感染しても重い症状になることが少ないのですが、前立腺炎になることは、珍しくありません。
ただし、症状が出た場合でも、通常2、3週間で症状は消えることが多いです。
トリコモナスは、男性では検出が困難です。
また、長期間の観察では、無症状であっても尿道分泌物や炎症像が、非感染者に比べて多いといわれています。
尿道炎としては、非淋菌性尿道炎(NGU)になります。
非淋菌性尿道炎(NGU)というと、クラミジア(C. tracho matis)がその原因として注目されることから、腟トリコモナスは確かにNGUを起こすにもかかわらず、その原因として重視されてはいない傾向にあります。
感染後の潜伏期間は10日前後と淋菌より長くなります。
- 尿道から膿のような分泌液が出る
- 排尿時(おしっこの時)軽い痛みがある
- 排尿時や射精時に性器(ペニス)が熱くヒリヒリと焼けるような感じがする
- ペニスに痒み(かゆみ)や違和感がある
女性の症状
男性に比べ、女性の膣トリコモナス感染症の症状は非常に多様です。
主に膣に感染し『膣炎』を起こしますが、尿道や子宮頸管にも感染します。
50%は無症候性感染者といわれますが、その内の3分の1は、6か月以内に症候性になるといわれます。
腟トリコモナス症の症状は、泡状の悪臭の強い帯下増加と、外陰、腟の刺激感、強い掻痒感です。
発症の原因については、腟トリコモナスがアレルゲンとなって免疫反応が惹起され、局所や全身的規模での反応から腟炎が起こるという機序も考えられていますが、一般には、トリコモナスが腟の清浄度を維持する乳酸桿菌と拮抗して起こるという説が有力です。
腟炎症状の原因と仕組み
腟内細菌で最も優勢である乳酸桿菌は、腟粘膜細胞内のグリコーゲンを乳酸に代謝し、結果的に腟内pHを5以下に保つことで、他の細菌の発育を抑制し、腟の清浄度を維持していますが、感染したトリコモナスが乳酸桿菌に対抗する形でグリコーゲンを消費し、その結果、乳酸桿菌の減少、乳酸の減少、pHの上昇を招き、他の細菌の発育増加により腟炎症状を起こします。
その為、膣トリコモナス症ではトリコモナスだけがみられるのではなく、臭いの原因となる嫌気性菌や大腸菌、球菌の増殖をきたした混合感染の形態をとることが一般的です。
つまり、トリコモナスが膣内環境を変えてしまうために、自浄作用が損なわれて、結果、様々な細菌が発育増加することで特徴的な症状が現れることが多いようです。
トリコモナス症による腟炎の病態、臨床症状は、この混合感染によって作られているといえます。
潜伏期間は2~4週間です。
症状~下り物(帯下)他
トリコモナスのおりものの症状は特徴的で、悪臭が強く、黄色い膿(うみ)のようだったり、あるいは、白色でさらっとしていたりで、、泡沫(あわのような状態)を伴うのが特徴です。
- 外陰部や膣の痒み(かゆみ)・灼熱感(熱く焼ける感じ)・発赤
- 血の混じったおりもの
- 性交時、挿入時における、ヴァギナ(膣)の痛みや不快感や刺激感
- 排尿時痛(膀胱炎などの尿路感染症を合併している場合)
- 悪臭の強い黄緑色の泡だったおりもの
- 悪臭の強い白くさらっとして泡だったおりもの
- おりものの量が増える
- 外陰部や膣またはおりものに魚臭(アミン臭)が出る
- 当然ですが、治療しないで放っておけば、トリコモナス原虫は体内に存在し続けます。
- 気付かないで、セックスをした相手にトリコモナスを感染させる可能性があります。
トリコモナスと妊娠
妊娠中にトリコモナスに感染すると
- 早期破水や早産を招くことがあります。
- 性交渉の相手からHIV(エイズの原因ウィルス)を受け取る危険性を増します。
- 性交渉の相手にHIVを受け渡す危険性も増します。
- 細菌性膣症を合併しやすくなります。
- ~すると、菌性膣症の原因菌が子宮に入り込み、 赤ちゃんを守り育てている膜の炎症(絨毛羊膜炎)、 胎盤の炎症(絨毛炎)、羊水内感染(羊膜炎)、臍の尾 や胎児へ感染(索条炎)を起こしてしまいます。
- 結果、腹部の張りや痛み、発熱、破水を引き起こして、早産の原因になります。
トリコモナスの検査
トリコモナスの検査は、 ほとんどが顕微鏡で動いているトリコモナス原虫を見つけることで診断しています。
・綿棒で尿・膣分泌物を採取し、顕微鏡や培養検査を行います。
・診断の目安として、泡状の悪臭の強い黄緑色の帯下(おりもの)が重要ですが、この症状は半数程度の女子では現れません。
・膣の発赤は75%認めることができます。
・ピンポン感染を起こすため、片方の感染が判明した場合は70~80%の確率で、パートナーも感染しています。
・女性に比べ男性ではトリコモナス検出が困難で、陰性と判定されることもあるので注意をする必要があります。
何故でしょうか?
それは、トリコモナスが郵送中に死んでしまうからなのです。
それによって、『トリコモナスがいない、つまり、陰性である』と誤った判断をされてしまうことがあるからなのです。
トリコモナスの生死にかかわらず【トリコモナスの存在の有無】を検査できる、
遺伝子検査=DNA検査をしているメーカーが、ひとつだけあります。
【トリコモナス検査を受ける時期~潜伏期間】
感染後の潜伏期間は、大体、10日前後と淋菌より長くなります。
感染していても症状が出ない人が20~50%と言われています。
ですので、特徴的な症状がなくても、感染の心配がある場合は検査しましょう。
トリコモナスの種類
トリコモナスには色々あり、膣トリコモナスの他にも、腸トリコモナス、口腔トリコモナス、ハトなどの鳥に感染するハトトリコモナス、ウシ胎仔トリコモナスなど有ります。
口腔トリコモナス
口腔トリコモナスは、pH 5.0未満の酸性の環境では生存できず、胃酸や胆汁は口腔トリコモナスに対して殺菌的に働くので、飲みこまれたとしても、胃腸の中で口腔トリコモナスは通常は死滅します。
唾液の中の口腔トリコモナスが、咳・くしゃみによる飛沫やキス、唾液が付着した皿・コップ・手などを介して、人から人へと広がっていくものと考えられます。
口腔トリコモナスは、水の中では、数時間から数日、生存します。
通常は4%-53%の人の口の中に存在して何の症状も起こさない口腔トリコモナスですが、慢性的な化膿性あるいは壊死性の肺の病変(肺癌・肺膿瘍・気管支拡張症など)を持った人で、口の中の口腔トリコモナスが吸い込まれて、肺のトリコモナス感染症を起こすことがあります。
口の中の衛生が保たれていない患者が多いです。
また、肺のトリコモナス感染症は、まれに膣トリコモナスや腸トリコモナスの感染で起こることもあります。
抵抗力が弱まっていない健康な人がトリコモナスを吸い込んでも肺のトリコモナス感染症を起こさないと考えられ、肺のトリコモナス感染症は日和見(ひよりみ)感染であると考えられます。