今回は東京農工大学 酒井理さんに動物の個性(Animal personality)に関するご研究についてお話いただきます。酒井さんは主に両生類や爬虫類の発生過程において生じる動物の個性をご研究されてきました。我々人間が一人一人異なるように、動物もまた個々の個体は形態や行動傾向に差があり、その要因は遺伝的なものから環境条件に依存したものまで様々です。個性をもたらす要因、そして個性がもたらす集団の動態まで、様々な階層のシステムに着目した「動物の個性」研究の世界をぜひお楽しみください。
生物の進化や生態学における諸現象の理解において種内変異は欠かせない概念である。2000年代以降の行動生態学では行動形質の一貫した個体差への注目が高まってきているが、日本国内では動物の個性(Animal personality)を扱う研究分野が普及しているとは言い難い状況である。
メカニズムの観点から見ると、個性が生じる背景には遺伝的要因がありつつも、非遺伝的要因もそれと同程度(もしくはそれ以上)に寄与するため無視できない。しかし、幼少期の生育環境や生活史段階を跨ぐ生物的変化が個性の発達形成にもたらす影響の理解はあまり進んでいない。
また、人為活動により劇的な環境変動が起こる現代において、「動物の個性」という概念を考慮することで得られる生態学的帰結は何か?具体的には、集団を構成する個体の特徴が偏ることは動物の群れの動態、社会的側面、種間相互作用にどのように波及するのか?この挑戦的な問いかけに対する思考の枠組みは未だ整えられていない。そこで本発表では、私の研究成果の中から以下のプロジェクトを紹介する。
① クローン繁殖するヤモリにおける個性の発達形成
② 環境ストレスが駆動する個性の創出と消失:カエルの一例
③ 激的な環境変動と個性バイアス(仮称)
これらの知見をもとに、進化学・生態学において「動物の個性」を考慮する重要性と当該分野のこれからを議論していきたい。
講演者HP:https://sites.google.com/view/osamu-sakai-web-site/home
有性生物にとって、繁殖相手を見つけることは不可欠であり、その機会が得られないことは繁殖にとって大きな制約となる。この制約を乗り越えるために、植物では自家受粉や単為生殖、動物では寄生雄や貯精といった多様な繁殖形質が進化してきたと考えられている。本研究では、繁殖相手を安定的に確保すること、あるいは交配を行わずに繁殖できることを「繁殖保証」と呼び、この繁殖保証に関わる形質がどのような条件で進化するのか、またそれが生物の分布にどのような影響を与えるのかを、理論モデルを用いて解析する。
まず、深海性魚類であるチョウチンアンコウ類に見られる寄生雄の進化を取り上げる。交配相手と出会う機会が極めて限られた環境において、寄生雄という形質が、繁殖保証を通じて進化しうることを示す。次に、多くの動物の雌に見られる貯精機能に注目し、繁殖を確実にするという効果と、遺伝的多様性を高めるという効果のうち、どちらがより強く進化を促すのかを、環境条件との関係から解析する。さらに、単為生殖を行う種が広い分布域を持つという「地理的単為生殖」のパターンに着目し、繁殖保証がこの分布パターンの形成に寄与しうるかを、個体ベースモデルによって調べる。
これらの結果をもとに、交配相手が限られる環境において、繁殖形質の進化や分布域の変化に繁殖保証が果たす役割について考察する。特に、気候変動に伴う分布域の移動や、外来生物の侵入といった状況の下で、繁殖保証が生物の存続や拡散にどのような影響を与えるのかを議論する。
参加申し込み締切:2026年2月19日(木)23:59 (対面参加者はお早めにご登録お願いします)