種の境界と生物多様性の新たなパターンを探る:

種分化理論と実証の相互展開

2月5日(木) 17:00~

山口 諒 (首都大学東京理学研究科・学振PD)


種多様性のグローバルなパターンは、緯度勾配や種数面積関係など幅広い生物群に共通している。2000年頃からの種分化理論研究は同所的種分化に集中してなされ、遺伝子流動を乗り越えて種分化に至る多くのメカニズムが提唱されたが、このプロセスは対象生物の生活史や配偶行動などの詳細に強く依存し、幅広い生物群で成り立つ一般則の基盤とはなりにくい。加えて、種分化のほとんどが、地理的な隔離に伴って生じる異所的・側所的なものとの考えもある。本セミナーではまず、地理的隔離が地殻変動や気候変動による非生物学的(Abiotic)な分断プロセスによって起きる島嶼について、変異の蓄積と個体の移出入の繰り返しというシンプルなプロセスが、ユニークな多様性パターンの創出に貢献していることを紹介する。特に、従来の生態学では、種数が蓄積するほど新たな相互作用の機会が生まれるため種分化率は上昇すると予想してきた点に反し、本研究では種分化率が低下するメカニズムについて解説したい。

続いて、島モデルのような集団間の地理的隔離を暗黙のうちに仮定せず、連続空間上で地理的隔離を引き起こすメカニズムを考え、近縁種が生物学的(Biotic)相互作用によって地理的に分断し合うプロセスを提案する。これは一方の種が他種の集団を地理的に分断するプロセスであり、種間で互いに移住個体の侵入を許さず、分布境界を明確に保ちながら進行する。そのためには、近縁種同士が同所的に分布しないメカニズムが必要であり、密度依存的な効果による他種の分布拡大の抑制や、生殖隔離の進化に伴う交雑個体の生存率低下などが挙げられる。連続的な地形空間で隔離集団の創出と種分化の反復が可能であるかを検証し、地理的隔離による種分化に残された課題を議論したい。