マクロスケールの種個体数分布

種多様性の起源と保全への示唆

2月28日(木) 17:00~18:30

駒場キャンパス 教養学部 16号館 829

深谷肇一(国立環境学研究所)


生態群集を構成する種それぞれの個体数をひとまとめにしたものは、種個体数分布と呼ばれている。それぞれの種がどのくらい豊富に存在するのかを表す種個体数分布は生物多様性の基本的な特性の1つであり、普遍的なパターンが示唆されるなどそれ自体が興味深いだけでなく、保全など応用上の観点からも重要である。

しかしながら、種個体数分布の実測のほとんどは局所的なスケールに限られており、大きな空間スケールで見られる種個体数のパターンはほとんど明らかにされていない。群集レベルでの個体の数え上げには大きな労力を要することがその要因の1つかもしれない。

本研究では、複数の大規模生態データを統合して、生物地理学的なスケールで種個体数の絶対的な定量を実現する新しい階層モデルを構築した。このモデルでは、離散的な空間単位ごとの各種の個体密度が一定の確率的規則に従う潜在変数として表され、これが明示的な観測モデルを介して推定される。推定に用いられる情報は、局所的に反復された群集レベルでの種検出データと、種の地理的分布範囲に関するデータである。

日本国内で収集された4万件を超える植生調査記録と様々な分布データにこのモデルを適用することにより、自然林における木本1248種の個体数を10km平方の解像度で推定した。これにより、任意の地理範囲における種個体数分布と、種ごとの個体数(およびこれに基づく種多様性)地図が得られるようになった。これらの情報に基づき、地域種多様性を生み出すマクロ進化過程の推測と、国内レッドリストの網羅的評価を行った結果を紹介する。