ランダム生活史行列の弾性度解析

12月12日(水) 15:00~16:30

高田 壮則(北大・地球環境)

この数十年個体群行列モデルを用いた個体群統計量の研究は、個体群存続可能性分析(PVA)にも用いられたため、論文数が3000を超えるほどまでに数多く行われてきた。特に、その中でも弾性度解析は、個体群行列モデルの解析手法の中でも最もよく行われる解析であり、その中にSilvertown et al. (1996) の有名な論文がある。彼らは、繁殖、滞留、成長の弾性度ベクトルをあらわす三角座標グラフを用いて、84種の植物たちの弾性度が草本・木本、一回繁殖型、多回繁殖型のそれぞれについて、グラフ上のある特定の領域を占有することを明らかにした。それらの分布にはいくつかの謎がある。一つは、弾性度の三角座標図の右下半分に空白地帯がある、と言うことである。もう一つは一回繁殖型植物は三角座標図上で特殊な領域に限られていることである。しかし、その理由については明らかになっていない。そこで本研究では、現在公表されている推移行列データベースCOMPADREを用いて弾性度分布を再検討するとともに、乱数を用いた仮想的なランダム推移行列モデルを構成し、特殊な弾性度分布を示す要因について解析を行った。その結果、繁殖と生存の間にトレードオフがあるランダム行列では、自然選択が現存する一回繁殖型弾性度ベクトルの特殊な分布を説明する要因になりうることがわかった。