第27回 共生と生物進化

古藤日子

アリから学ぶ社会性の制御と進化

アリは複雑な社会性構造を持った集団で生活し、また興味深いことに我々ヒトを含む他の社会性生物にも共通する高度な社会性行動を示すことが知られている。その生物学的特性から、アリの生来もつ社会性行動や環境適応の生存戦略は他の生物にも共通する行動や環境適応応答の進化・起源を探る上でも非常に興味深く、私は分子生物学的アプローチによりその制御基盤の解明に取り組んでいる。本セミナーでは社会環境に依存した行動や生理状態、また寿命を制御するメカニズムについて紹介する。

森山 実

都市に増えたセミの謎に迫る

身近な昆虫であるセミは、その個体数や種構成の変化を人々が容易に認知できるため環境指標として有望な生物である。日本各地における近年のセミ相の変化は毎年の様にメディアに取りざたされるものの、気候変動や都市化との因果関係は明確には示されていなかった。当セミナーでは講演者が生理生態学的アプローチによって大阪市内におけるクマゼミ優先化の原因究明に取り組んだ研究内容について紹介する。

沓掛磨也子

社会性アブラムシによるゴール修復行動の分子基盤と進化

アブラムシの一部は、ハチ、アリ、シロアリのような社会性生活を営む昆虫で、集団内の一部の個体が兵隊階級に分化し、コロニー防衛やゴール(巣)内で生じる様々な労働に従事する。社会性アブラムシであるモンゼンイスアブラムシの兵隊幼虫は、天敵がゴールに穴を開けると集団で自らの体液を大量に分泌し、凝固体液で穴を塞ぐという特異な社会行動を示す。本講演では、最近明らかになった兵隊分泌体液の凝固に関わる分子・細胞基盤の全貌とその進化についてお話しする。