Evo-Devo/神経生理

スペシャルセミナー

2019年 1月23日(水) 16:00~

東大・理学・生物

進化発生・神経生理の回


16:00-16:40 小口 晃平

(東大・院理 生物科学専攻 附属臨海 生態発生学研究室 D2)

「シロアリのネオテニック分化に着目した繁殖分業メカニズムの解明」

社会性昆虫は、繁殖個体と非繁殖個体で行われる繁殖分業を最大の特徴とする。これらの個体は同一の遺伝的情報を共有するが、どのようなメカニズムで繁殖/非繁殖の分化が起こるのだろうか。

シロアリの巣には雌雄の生殖虫や労働を担う老齢幼虫(ワーカー)、兵隊などさまざまなカーストが存在する。それらのカースト分化は、個体間相互作用によって制御され、その数を適切に維持している。多くのシロアリでは、ワーカーが様々なカーストへ分化し、特に生殖虫不在時には補充生殖虫(ネオテニック)へと分化する。ネオテニック分化は、既存の同性生殖虫により抑制され、異性の生殖虫により促進されることが知られるが、具体的な相互作用は明らかではい。またシロアリでは、体内の幼若ホルモンの濃度変動がカースト分化運命を決定することが知られているが、ネオテニック分化における生理変化は不明である。

そこで本発表ではオオシロアリHodotermopsis sjostedtiにおいて、1)生殖虫とワーカーの個体間相互作用の観察、2)ワーカーの生理変化について紹介し、シロアリのネオテニック分化さらには繁殖分業のメカニズムについて議論したい。

16:40-17:20 内田 唯

(東大・院理 生物科学専攻 動物発生学研究室 D2)

「胚発生中期はなぜ進化的に保存されるのか?」

動物は陸海空あらゆるニッチに進出し、一見制限なく多様な形態を進化させてきたかのようだが、実際はあくまで各高次分類群内で共通の形態要素(ボディプラン)を保持する範囲の進化でしかない。形態進化をこのように保守的にする原因の1つとして胚発生中期の高い保存性が注目されている。従来、比較解剖学の視点からは、特に発生中期では系統内で胚の形態が類似するとされてきた。加えて近年の解析から、遺伝子発現でも脊椎動物を始め線虫・昆虫など複数の分類群で共通して、発生中期は強く保存されるようだ。

ではなぜ発生中期(特に脊椎動物では咽頭胚期)は保存されるのか?

有力な仮説では、咽頭胚期では変異や外乱に弱く胚致死を起こしやすいとされていた。だが演者の研究では発生時期ごとの阻害剤処理などの外乱や変異誘導を行い、胚致死性とそれに伴う負の選択では咽頭胚期の保存性を説明しきれないことを示す結果を得たので、紹介する。当日は新たな仮説と、現在進行中の研究についても紹介したい。

17:20-18:00 河野 大輝

(東大・院理 生物科学専攻 細胞生理化学研究室 D2)

「ミツバチの行動制御を担う分子神経基盤の探索:

ハチ目昆虫の比較解析とミツバチにおける遺伝子機能解析の試み」

社会性昆虫であるセイヨウミツバチ(Apis mellifera L.)は、日齢やコロニー状況に応じた分業や、ダンスコミュニケーションによる餌場情報伝達など、高度な社会性行動を示す。養蜂知識の蓄積があること、またゲノムが早期に解読されたことから、ミツバチの行動を制御する分子神経基盤が研究されており、中でも記憶学習や感覚統合を司る昆虫脳の高次中枢キノコ体に着目した研究が進んでいる。しかし、実際に社会性と関連する脳の分子神経基盤はこれまでに見つかっておらず、社会性行動を制御する脳の仕組みには未だ不明な点が多い。本セミナーでは、いくつかのハチ目昆虫種を用いた比較解析により、行動進化に伴ってキノコ体を構成するケニヨン細胞の種類が増加していることを示唆した研究を紹介する。さらに、ミツバチにゲノム編集法を適用して遺伝子の機能解析を行う試みについて紹介し、社会性昆虫における遺伝子操作の先に見える眺望について議論したい。