『カメ・カフェ・空港 ~大学・在野・民間企業での研究活動紹介~』

『生態学・進化生物学の数理モデル研究を始めて15年目に思うこと』


日時:2020年2月10日(月曜日) 16:00~

場所:東京大学 駒場キャンパス 15号館1階104室



1. 『カメ・カフェ・空港 ~大学・在野・民間企業での研究活動紹介~』

林亮太

(日本工営株式会社 技術本部 先端研究開発センター)


クジラやウミガメ類を代表とする大型海棲動物には、特異的に付着するフジツボ類、オニフジツボ超科が知られており、演者はこれらのフジツボ類を対象とした生態学から系統学、分類学的研究まで、様々な研究を進めてきた。これらの研究を進める過程で最新の文献から各種の原記載まで既存文献をとにかく集め続けた結果、勢い余って原記載を通り越し江戸時代の博物画にまで遡ることとなった。本講演では、江戸時代の博物画に残されたカメフジツボの情報と演者のこれまでの野外調査の結果を整理することで明らかになった成果を紹介する。

また、適切な研究職ポストを得ることができず、首都圏の大手カフェチェーンで流浪のポスドクとして論文や公募書類を執筆していた時期に、カフェで見かけるノートパソコンユーザーの生態が気になり分布と個体数を調査したことがあった。この在野のヒマ潰し調査の結果についても紹介したい。

ヒマ潰し調査の後にもアカデミック機関での研究職ポストを得ることができなかったが、現在は幸運にも民間企業に在籍し研究活動を続けることができている。本講演では大学と在野と民間企業における研究活動の違いについても紹介したい。おそらくは研究者としてのキャリアを希望しているであろう進化生態こまば教室の生徒諸氏の参考になるような内容を提供できるよう心掛けたい。




2. 『生態学・進化生物学の数理モデル研究を始めて15年目に思うこと』

山道 真人(東京大学 大学院総合文化研究科)


生態学と進化生物学は、隣接する研究分野でありながら、注目する時間スケールや研究者コミュニティの違いなどによって、その統合が妨げられてきた。本講演では、「迅速な進化と生態-進化フィードバック」および「変動環境における多様性の維持」という2つの観点から、生態学と進化生物学を統合する試みについて紹介したい。

近年になって、短い時間スケールで起こる迅速な進化(対立遺伝子頻度の変化)が、個体群・群集・生態系の生態学的プロセスに影響することが明らかになってきた。進化が生態学的プロセスに影響することで、適応度地形が変化してさらなる進化を駆動するため、進化と生態の間に相互作用が生じうる。この「生態-進化フィードバック」に関する研究は、捕食者と被食者の個体数振動の文脈で語られることが多かった。しかし時間スケールの違いという壁を取り除くことで、生態学と進化生物学の多様なテーマに対して、さまざまな統合が可能になるはずである。ここでは、種内相互作用・多種共存・種分化に注目して、最近の研究を紹介したい。

一方、時間的な環境変動がどのように多様性の維持を促進するか、という問題に対して、生態学と進化生物学は平行して研究を発展させてきた。生態学では、低密度の種の侵入増殖率を調べることで、ストレージ効果と相対的非線形性という2つのメカニズムの役割を調べる理論が発展してきた一方で、進化生物学では拡散近似などを用いて遺伝学的なプロセスと多型の維持との関連が調べられてきた。これらを同じ枠組みの中で議論し、生物学の異なる階層における多様性の維持メカニズムの共通性とその相互作用(生態-進化フィードバック)について議論したい。