白兎と茶兎:環境適応形質の進化と気候変動

2023年2月20日(月曜日) 15:30~

木下 豪太 博士(国立遺伝学研究所)

「白兎と茶兎:環境適応形質の進化と気候変動」

要旨:

北方に生息する生物、たとえばオコジョやノウサギ、ライチョウの中には積雪環境へ適応するため、冬季になると全身を白化させるものがいる。この「冬季白化」は寒冷地適応の収斂進化の例として有名であり、また近年、気候変動に対する生物の進化的応答を理解するモデルとしても注目を集めている。日本列島では積雪の量や期間が地域によって大きく異なることから、日本固有種のニホンノウサギの場合、積雪の多い日本海側には「冬季白化型」が多く生息する一方で、積雪の少ない太平洋側には年中褐色の「非白化型」が生息している。日本列島という限られた空間の中で、このような環境適応に関わる遺伝的多型がどのように獲得され、現在まで維持されてきたのかを理解することは、急速に進行する今後の気候変動による影響を考える上でも重要である。

本研究では、ニホンノウサギの野生集団や動物園の飼育繁殖集団を対象としたゲノム解析や遺伝子発現解析によって、ニホンノウサギにおける毛色二型の責任遺伝子領域を特定することに成功した。これまで欧米のノウサギで特定された遺伝子とは異なっており、属内で異なる遺伝的基盤による収斂進化が起きていることが判明した。一方で、ニホンノウサギで見つかった毛色二型のアリルの分岐は種間レベルで深いことも明らかとなった。本セミナーではニホンノウサギがどのように冬季の毛色二型を獲得し、過去の気候変動に対応してきたのかについて、これまでの研究成果を紹介する。また、将来の気候変動に対する野生生物の進化的応答を予測する手掛かりとして、本研究の今後の展望についても論じたい。