鳥の鳴き声に単語や文法?

シジュウカラの音声研究・最前線

9月21日(金)

鈴木俊貴

(東京大学総合文化研究科広域システム科学系 助教)

鳥たちは鳴き声によってどのような会話をしているのでしょうか?みなさんが一度は抱いたことのある疑問ではないかと思います。鳥類の鳴き声の機能や意味に関する研究は1960年以降,動物行動学分野において盛んに進められ,求愛のための複雑なさえずりや周囲の仲間に危険を知らせる警戒声など,様々な情報信号の存在が明らかにされてきました。

しかし,鳥類の音声コミュニケーションには,ヒトの言語にみられる重要な特徴に欠けると考えられてきました。それは,単語を用いてモノや出来事を指し示す能力と,単語を組み合わせて文をつくる文法能力です。ヒト以外の動物の鳴き声は単なる情緒変化の表れであり(性的興奮や恐怖心など),他個体の行動を機械的に操作するシグナルにすぎないと考えられてきたのです。

それに対して私は,12年以上にわたるフィールドワークを通して,シジュウカラが捕食者の種類を示したり仲間を集めたりするための様々な種類の鳴き声をもち,さらに,これらの鳴き声を一定の語順に組み合わせることで,より複雑なメッセージをつくっていることを発見しました。野外における認知実験から,音声の受信者は,決して機械的に反応しているわけではなく,鳴き声の示す対象をイメージしたり,音列に文法のルールを当てはめることで情報を解読したりしていることも示されました。これらの発見は,私たちが普段会話のなかで使っている認知機能の一部が動物においても進化していることを初めて実証した成果であり,言語の進化に迫る上でも大きな糸口を与えると期待できます。