シロアリの個体間相互作用に着目した行動研究

生態と進化の両面から考える植食性昆虫の種多様性研究

2016年9月1日(木) 15:00-18:00


「シロアリの個体間相互作用に着目した行動研究:構造物形成の自己組織化、及びオスによる同性ペアの適応的意義」

水元惟暁

(京都大学農学研究科昆虫生態学研究室 博士後期課程)

群れ行動や歩行軌跡、活動リズムのように、生物の行動のもつ法則性は時空間上に様々なパターンを生じさせる。それは、確率過程を伴うが、おおまかには予測可能であることを考えると、これ らのパターンの進化もまた、ある程度予測可能ではないかと考えた。シロアリは繁殖虫の分散時における個体単独での行動、繁殖虫のペアでの行動、初期コロニーにおける小集団での行動、大量 の個体が関わる集団行動まで、生活史中で様々なレベルの相互作用を観察する機会を与えてくれる。本発表では、シロアリのワーカー集団による建設行動の結果生じる多様な構造物が、いかに生 じるかと、その社会における役割や進化について、また、繁殖のため分散する個体が単独で行う探索行動とその特性から生じうる同性ペアの適応的意義についての研究を紹介する。これらを踏ま え、動物行動の進化可能性について議論したい。


「生態と進化の両面から考える植食性昆虫の種多様性研究」

中臺亮介

(京都大学生態学研究センター 博士後期課程3年)

植食性昆虫の多様性は記載されている生物種数の三分の一以上を占めており、微生物を除けば地球上で最も多様な生物群である。古典的に被子植物を利用し始めたことが植食性昆虫の多様化をも たらした主要な原因であるとされ、植物と植食性昆虫の共進化・共種分化などの大進化スケールでの関係は古くから注目を集めている。一方で、植食性昆虫が一種類の植物のみを特異的に利用す る例や、植物が植食性昆虫の摂食により枯死させられる例などの非常に強い相互作用が観察されることは多くなく、植物を利用するという形質の獲得が植食性昆虫の多様性へ与えてきた影響は未 知数である。本セミナーでは私自身が取り組んできたカエデ属植物とハマキホソガ属蛾類の近縁種間の関係を中心にこれまでの研究について発表し、現在までの結果をふまえ植食性昆虫の多様性 創出・維持に関する研究の今後の展望についてまで議論する。