動物飛行の空気力学:

ハチドリのホバリングを中心に

2017年9月20日 17:00-18:00

前田将輝

(東京工業大学 工学院機械系 田中博人研究室 研究員)

研究者でない人に「鳥や虫はどうして空を飛べるの?」ときかれたら、あなたは何と答えますか。色々な答え方があると思います。たとえば、「飛翔のための筋肉を収縮して翼(翅)を羽ばたかせるからです」と答えま しょう。「じゃあ、なぜ羽ばたいたら飛べるの?」と続けられたら……答えられますか?飛行は、採餌や渡りといった行動の基盤となる、いわば飛翔性動物にとっての運動の最小単位です。しかし、その力学的なメカニ ズムをよくわかっていない生物学者は、意外と多いのではないでしょうか。これにはいくつかの理由があると思いますが、2つ挙げてみます。

1つは、忘れがちですが、羽ばたきというのはとても速く、肉眼では追いかけられない、ということです。とくに小さな動物ほど羽ばたきは速く、撮影は難しくなります。そのため、高速度ビデオカメラが強力なツールと して活用されています。

もう1つは、空気という透明で不定形のものを扱う「流体力学」や「空気力学」という学問の見慣れなさがあるでしょう。これについては特効薬はないのですが、基本的な考え方については本セミナで簡単に解説しようと 思います。研究の現場では、模型に風を当てて力を計測する伝統的な風洞実験に加えて、最近はレーザーによる動物まわりの気流の計測や、流れの数値シミュレーションが盛んになっています。

本セミナーでは、こうした手法を用いて私がこれまでに行ってきた動物飛行の空気力学の研究を、主にハチドリのホバリング飛行を中心に紹介します。また、メカニズムの解明を目指すこのような生物の力学(バイオ メカニクス)が、行動学・生態学・進化といった究極要因の解明を主題とする隣接分野とどのように連携できるかについても議論できればと思います。