宿主操作の群集進化生態学的意義

5月24日 17:00 15号館104

入谷亮介(理化学研究所・京都大学)


寄生者のなかには、第一の宿主(中間宿主)から第二の宿主(終宿主)へと感染するという複雑な生活史を遂げるうえで、中間宿主の表現型を操作して、終宿主への感染確率を高める種がある(“寄生者による宿主操作”)。この現象は、まさに奇抜なまでの表現型の変化を伴うことから、寄生者におけるExtended Phenotype(Dawkins 1981 -- 寄生者の表現型が、宿主の表現型という、体外にまで延長されているということ)の典型例として、多くの実証研究が行なわれてきた。そうした実証研究の前提を成す作業仮説は、「寄生者は、中間宿主が終宿主に捕食される割合を高める」(enhancement)というものであった。しかし最近の研究によると、寄生者はむしろ、中間宿主が終宿主に捕食される割合を低下させる(suppression)ようなフェーズを持つことも知られている。もしそのようなフェーズがあると、宿主操作によって中間宿主の生存率は向上し、中間宿主の個体数が(減少するよりむしろ)維持される可能性があるであろう。

本講演では、従来のenhancementに加え、suppressionが起こることで、群集構造がいかに改変されるかを理論的に研究した結果を紹介する。また、宿主操作研究の重要課題を提示し、それに対するアプローチとその進展を議論する。最後に、宿主操作によって生ずる資源流動や、宿主操作そのものの進化が、群集の安定性に対してどのように寄与するのか、そのプレリミナリーな数理モデルを紹介する。