標本のDNA情報がもたらした草原性蝶類の集団史

繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構

2017年10月28日(火)

「標本のDNA情報がもたらした草原性蝶類の集団史」

中浜直之

(東京大学大学院総合文化研究科 学振PD)

半自然草原はもともと人間活動と密接に関連し、広大な面積が採草地や放牧地として維持されてきた。しかし一方で、20世紀以降の経済成長に伴う生活様式の変化により近年急激に減少している。こうした中、草原性生物はどのような歴史をたどってきたのだろうか。現在多くの草原性生物が絶滅の危機に瀕しているものの、草原性生物の個体数について長期的かつ定量的データが限られていることから、個体数の推移と近年の環境変化による影響を直接的に解明した例はほとんどない。

演者らは、過去に採集された蝶類標本の遺伝情報を用いて、遺伝的多様性と個体数の時空間的な変遷について研究を実施してきた。本発表では、草原性蝶類の集団史と草原性蝶類の減少要因について紹介する。さらに、保全生態学における標本DNAの有用性についても議論したい。


「繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構:

ツユクサ-ケツユクサ系を用いて」

勝原光希

(神戸大学人間発達環境学研究科博士課程)

植物の多種共存機構の解明は生態学における中心的な議題であり、伝統的に、それらはガウゼの競争排除則によって説明されてきた(競争種の共存にはニッチのずれが必要)。顕花植物 においては、2種が送粉ニッチを共有する場合、送粉者を介した異種花粉の柱頭への付着という強い繁殖干渉が存在する可能性があり、競争排除を引き起こすことが知られている。そのため に、野外で同所的に共存している在来種間では繁殖干渉の悪影響を回避するために送粉ニッチの分割を行っていると考えられてきた(例、形質置換、時空間的な棲み分け)。

しかし近年ごくわずかではあるが、同所的に分布する在来種間で繁殖干渉の存在が示唆される報告がある。発表者が発見した、在来近縁2品種ツユクサCommelina communisとケツユクサ C. communis f. cliataはしばしば同所的に分布し、生育環境や開花期間といったニッチが大きく重複する。本研究では、野外集団における2品種の競争関係について、 ①送粉者による異品 種間送粉(繁殖干渉の発生機会)は2品種で対称的に発生しているにも関わらず、実際の結実率の低下度合い(繁殖干渉の悪影響)には非対称性があること ②その非対称性は、ツユクサの高い 先行自家受粉率に起因することが強く示唆された。さらにこれらの結果をうけ、繁殖干渉下で引き起こされる自殖の進化が2種の共存を促進する、という仮説について、個体ベースモデル を構築し検証を行っている。本セミナーでは、現在進行中であるモデルの解析を含めて、繁殖干渉下での近縁種の共存機構について議論したい。