マクロ進化プロセスの解明

概念、数理手法、蝶の模様

2018年6月12日

鈴木 誉保

(農業・食品産業技術総合研究機構)


片側に寄った眼をもつヒラメ、枯葉にそっくりな蝶、精巧な動物の眼など、複雑で精妙な動物の構造はどのように進化してきたのかは、進化生物学の最大の謎のひとつである。従来、化石を利用して明らかにされてきた。しかし、多くの形質では化石は残っておらず入手すら難しい。さて、この困難はどのように乗り越えられるだろうか?最近、演者は、マクロ進化プロセスを解くための包括的な数理解析手法を開発した(文献1)。本手法は、形質の多要素構造をもとに、系統比較法と組み合わせたものである。本セミナーでは、マクロ進化プロセス研究について歴史的経緯、現状の概観をふまえ、この新しい数理手法を解説する。また、本手法を利用して解明した例として、枯葉擬態の蝶(コノハチョウ)の進化を紹介する(文献2)。

系統比較法は、系統樹に沿って走らせた確率過程に基づく統計モデルを実装している。本手法は、使い方を工夫することで様々なマクロ進化の問題の解明に応用できる。例えば、形質の鍵革新(key innovation)、進化的袋小路(evolutionary dead end)などの研究に利用されている。演者は、形質の系統進化揺らぎを検出するための技術開発に取り組んでいる。これにより、マクロ進化での大規模統計性、組み合わせ論的進化、が理解可能になりうる。現在取り組んでいるタテハチョウ科の数百種の蝶を対象にした研究を例に解説する。本セミナーの後半では、系統比較法の広がりと応用可能性について紹介し、今後マクロ進化研究が進むべき方向性についても議論したい。

文献1:Suzuki (2017) J Exp Zool B 328:304-320.

文献2:Suziki, Tomita, Sezutsu (2014) BMC Evol Biol 14:229.