Jam11:根本寿幸

根本寿幸

第2回檜枝岐パフォーマンス・フェスティバルのポスターが出来上がった。B全版の紙にシルクスクリーンで刷ったものだ。上部に音楽家達の耳を並べ、その中央にR.スミッソンの渦巻き、R.フィリューのハンド・パフォーマンス、その下にJ.ケージのフォンタナ・ミックスそして歩行の連続写真と振幅移動線などのイメージを取り入れた。まだインクの臭いのするポスターを壁に貼りつけながら、本当は窓ガラスを覆うその姿を思い浮かべずにはいられなかった。

当初ポスターは厚手のトレッシング・ペーパーに刷られる予定だったが、1枚が1000円以上もしてしまうために、予算の都合上断念せざるを得なかった。

トレッシング・ペーパーのポスターを檜枝岐の家々または公民館、パフォーマンスの会場となる建物のガラス窓に貼り付ける。半透明の紙は昼は外光を遮りながら、フィルターの役割を果たし日本家屋の座敷の上にほのかな影を映し出す。それは時を経るごとに姿形を変えてゆく。長さを変え、明るさを変えながら、時には踊る人々の身体の表面に、舞台の床の上に一人舞台のパフォーマンスが投影される。夜になると内の明りに誘われて、多くの昆虫達がポスターの舞台の上で見事なシルエット・パフォーマンスを展開する。蛾の微かな羽音、昆虫が勢いよくぶつかってくる音。パタパタパタパタ、パチンと尽きることのない音楽を伴い、彼等はポスターのヴィジュアルに参加し拡大する。

檜枝岐の大自然の中で人知れず秘かなパフォーマンスを、時を超え静かに繰り広げようとした私の企みは計画倒れに終わってしまった。檜枝岐版M.デュシャンの大ガラスは、また私の頭の中だけのものとなった。

このプランは今後の機会まで取っておくことにしよう。つまり私はヒノエマタのポスターをデザインすることにより、ヒノエマタ村の昼と夜をデザインしたかったのだ。

(1985.08.10)