渡瀬荘次郎の本

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最近、渡瀬荘次郎の本を2冊出版した。『將棊𣖯縄(しんじょう) 付・必至二十題』 『將棋竒巧録攻法(つめかた)』で、アマゾンで販売中。

元は、サイト「ネコ印二百科事典」で2019年に公開したもので、サイトでは動く将棋盤で鑑賞することができる。また、KIFファイルのダウンロードも可能。

渡瀬荘次郎六段は江戸時代の棋士で、天野宗歩の弟子。詰将棋の作品集は『待宵』と『待宵後集』、必至と詰将棋の作品集は『將棋必勝法』が有名。

今回出版したのは、愛知県にある半田市立図書館が所蔵する写本で、これまで活字化されていなかったもの。この図書館に古い将棋書があることは、磯田征一氏から2010年に教えていただき、同じ年に調査した。なのに、出版まで13年もかかったのは、掲載されていた必至問題が解けなかったから。

図は『將棊𣖯縄』第43番で、『必至二十題(仮題)』第15番も同じ図。『將棊𣖯縄』『必至二十題』は、図面だけで解答がなく、この第43番は『將棋必勝法』にも未掲載の作品。推定作意は次の通り。

24香、13銀、25歩、22歩、51角、42桂、23香成、同玉、42角成、同香、同角成、33金、同金、同桂、26香、32桂、24金、同桂、同歩、同銀、16桂、25桂打、同香、同銀、15桂、同歩、24金、12玉、25金、23銀、24桂打、13玉、14銀、同銀、12桂成、同玉、14金、13銀、32馬、14銀、同馬、23銀、24桂、同銀、21銀、同玉、32銀、12玉、24馬迄49手必至。

この作品は、『將棊𣖯縄』の必至問題の最後にある(第44番からは必至逃れの問題になる)ことから、渡瀬荘次郎の自信作だったのだろう(変化・紛れは『將棊𣖯縄』36~37ページか、「ネコ印二百科事典」を参照)。

自分の棋力ではぜんぜん解けないので、香龍会の例会で出席者に検討してもらったのだが、それらしい作意がみつからない。

それではと、コンピュータに助けてもらおうと思ったが、必至を解図できる長井歩氏のプログラムは公開されていない。柿木将棋もお手上げ。やねうら王などの将棋ソフトは、単玉の図面では検討してくれないので、99王を置き、周りをと金で囲って検討させたが、玉が中段に出てくると、29飛とか逆王手狙いの攻防手を放ってくる。

とはいえ、2017年に脊尾詰が公開されて検討がスピードアップしたこともあり、なんとか推定作意をつけてネットで公開。ところが、ツイッターで指摘があり、また修正。今でも、読み抜けがないかヒヤヒヤしている。

なお、渡瀬荘次郎の作品は、実は天野宗歩の作という説がある。これは、『將棋必勝法』に掲載された「小野名人の直話」で、小野五平がそう語っているのだが、この直話は、『將棋必勝法』の初版国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能)には掲載されていない。また、直話の最後に「之を附記して此書の如何に價値あるかを證明す 書肆しるす」とあり、書肆(=出版社)が宣伝のため後から追加したもののようである。さらに、今回出版した『將棊𣖯縄』や『必至二十題』には、天野宗歩のことは全然書かれていない。そのため、天野宗歩が作者という説はあまり信用できないと思う。

一方、『將棋竒巧録攻法』は、渡瀬荘次郎の編集による、あぶりだし曲詰を中心とした、江戸時代としては異色の作品集。掲載作家は、添田宗太夫、桑原君仲、久留島喜内、九代大橋宗桂、伊藤看寿など。

この本は、題に『攻法(つめかた)』とあるように、解答のみで図面がない。そこで詰手順から図面を復元したのだが、改作と思われる作品が4作あり、その図面を復元するのに手間取った。

本の最後には、和歌「将棋乃言乃葉」が掲載されていて、こちらはくずし字が読めず苦戦した。内容は将棋の格言などで、その中から一句。

  長道に王手王手とせめ過ぎな
     猫をかみたる鼠ありけり

これまで、渡瀬荘次郎というと、古典的な初心者向け詰将棋や必至問題が有名で、実戦的な作品の作者というイメージが強かったように思う。

そこへ、今回出版された本により、難解な長手数必至の作者、そして実戦とはかけ離れた曲詰にも関心を示すといった、新たな面が追加されたと思っているのだが、いかがだろうか。


初出:岡本正貴. ちえのわ雑文集, 第90わ : 「渡瀬荘次郎の本」. 詰将棋パラダイス.  2023.9, 810号, p.32-33(原文PDF)

2023年11月15日作成/2023年11月15日修正

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